隠れ家を取り返せ
|
■ショートシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月12日〜03月19日
リプレイ公開日:2005年03月20日
|
●オープニング
冒険者ギルドに男性が一人やってきた。‥‥それだけなら、ごく普通のことである。
受付係がふと見ると、その男の後ろには小さな影が二つ。
「私はマルクといいます。こちらは長男のハルトと妹のタミアです」
男はそう言って自分と子供の紹介をした。子供たちは緊張しているのか何も言わなかった。
「実はうちの村の近くに山賊が居付いてしまったのです。冒険者の方達に、どうか山賊を追い払ってほしいのです」
マルクは詳しく説明した。彼の住む村はパリから2日ほど歩いた場所にある。森に囲まれた小さな村だが、最近山賊が出没するようになり皆困っていると言う。
「人数はそんなに多くはないみたいです。5、6人でしょうか‥‥そのうちの一人が親玉のようです」
村人達では山賊に対抗するのは難しい。そこで、冒険者の力を借りたいのだと言う。
「あなた達は山賊に襲われなかったのですか?」
受付係の青年はふと疑問に思い、たずねた。
「ああ、どうやら村から出て行く者は狙わないようなのです。貧乏な村ですし、金目のものは持ってないと思ったのでしょう」
盗賊たちが狙っているのは村に入ってくる者、特に村に物を売りに来た商人の類なのだと言う。
いつまでも商人が入ってこれない状態では色々と不便だろう。
「お願いです、山賊をやっつけてください」
今まで口を閉じていたハルトがふいに訴えた。
「山賊はわたしたちの砦をのっとっているんです」
タミアが言った。
「とりで?」
受付係が不思議そうな顔をすると、マルクは困ったような顔をした。
「そう、それで問題なのはここからなのです。盗賊たちは村の子供たちの砦‥‥隠れ家のことらしいです‥‥を根城にしているらしいのです。砦は森のどこかにあるそうですが、大人にはその場所を話せないというのです」
そう言って彼はため息をついた。
「僕たち、冒険者の人たちを砦まで案内します。でも村の大人達には教えられません。みんなで約束したんです」
ハルトの目は真剣だった。マルクはまたため息をついた。
タミアは何か兄に小さな声で話していたが、ハルトはただ首を振るだけだった。
「こういうわけで、少し面倒だとは思いますがよろしくお願いします」
彼はそう言って必要な書類を書き終えると、子供たちをつれて冒険者ギルドを去った。
●リプレイ本文
パリから離れた場所にある村への道。以前はときどき行商人がやってきて村で物を売ることがあったが、山賊が出没するようになりすっかり人通りが途絶えてしまった。
そんな寂しい道を歩く三つの影があった。紅 流(ea9103)、相麻 鳴海(ea9646)、マハ・セプト(ea9249)の三人である。紅は華国の商人風、などというように三人とも商人のような格好をしている。じつは山賊をおびき出すための囮なのだ。
「ふふ‥‥野獣どもが美しいこの私を狙うのね」
相麻はそう言って一人悦に入っていた。
「ずいぶん自信が有るようね。油断しないようにお気をつけあそばせ」
紅が相麻に言った。相麻はむっとした表情をし、小さい声で何か言った。どうやら紅に対してかなりの対抗意識があるらしい。
「まぁまぁ、二人とも落ち着きなさいな」
タイミングよくマハが仲裁に入った。三人はしばらく無言で村への道を歩き続けた。
次第に村へ近付いてきた。マハは周囲に人の気配が無いか探りながら道を進んでいた。
囮たちの後方には冒険者達と依頼人のマルク、その子供のハルトとタミアが隠れながら付いてきている。村までの道には人影らしき姿は見えない。山賊が来るとしたら森の中からだ‥‥。
「!!」
マハは何者かの気配を感じ取った。すぐさまホーリーフィールドを自分達の周囲に張ろうとしたが間に合わない。
森の木々の陰から矢が何本か飛んできた。マハは小柄で狙いにくかったらしく、矢は命中しなかった。
紅も気配に感づいていたらしく、相馬の服をつかんで自分も地面に伏せた。三人ともなんとか矢に当たらずに済んだ。
すると森の中から山賊らしき男達が三人ほど姿を現してマハたちを囲んだ。皆武装している。
「お前達、村へ行く商人だな? さっさと売り物を置いてどこかへ失せろ。さもないと次はもっと痛い目にあうぞ」
山賊の中の一人が紅達に言った。山賊はじりじりと三人に近付いてくる。
だがそのとき大勢の者が駆けてくる足音が。
「なんだぁ?」
山賊の一人が音のするほうを向いて驚いた。紅たちはうれしそうに同じ方向を見た。
神楽 鈴(ea8407)、リオス・ライクトール(eb1229)、フィーナ・ロビン(ea0918)、サラザール・ザイン(ea5802)といった後から付いて来ていた冒険者達が駆けつけてくれたのだ。
「これで形勢逆転じゃな」
マハが山賊たちに言った。
「畜生、嵌められた」
山賊たちは自分達が罠にはまったことを悟った。こんな大勢に囲まれてはなす術が無い。
「一旦退却!」
とりあえず逃げることにしたらしい。山賊たちは一目散に森の中へかけていった。冒険者達はあわてて山賊のあとを追った。
森に逃げ込んでしまえば山賊たちのほうに地の利がある。いったん隠れ家に戻って体制を整えなおそう。
そう考えたのか山賊たちは森の中に飛び込んだ。しかし数歩も走らないうちに行く手を人影がさえぎった。
「クク‥‥ここは通しませんよ」
森の中に隠れて待ち構えていたのは霧島 奏(ea9803)であった。
次の瞬間霧島は山賊の一人の懐に飛び込む。これで弓による攻撃はできなくなった。そこを忍者刀で思い切り斬りつける。
「な‥‥」
山賊は言い終わらないうちに地面に倒れた。
霧島が辺りを見回すと、残りの二人の山賊も冒険者達の手によって気絶させられていた。
マルクは倒れている盗賊の姿を見て言った。
「皆さんありがとうございます。しかしまだ残りの山賊たちがいるはずです」
そして一度村へ行こうということになり、冒険者達は再び歩き始めた。
「ありがとう。霧島が待ち伏せしていたお陰で山賊たちを逃がさずにすんだよ」
神楽が霧島に言った。
「いえ、お礼を言われるほどのことはしておりません。これも『仕事』の一環ですよ」
そういう彼の手には、さっき斬りつけた盗賊が腰に下げていた物とよく似た形の短剣が握られていた。しかし、神楽はそのことに気付かなかった。
村に着いた冒険者達とマルクはこれからどうするべきが話し合った。
「やはり、子供達に案内してもらうしかないのでしょうか‥‥」
マルクが心配そうにつぶやいた。実際に今の状態では、それが一番手っ取り早い方法であった。とはいえ戦闘になるだろう場所に子供を連れて行くのは父親としては心配だろう。
「大丈夫です、お子様達は私達で必ず守ります」
フィーナがマルクにそう言い聞かせた。
そうして、冒険者達とハルト、タミアは森へ出発することにした。マルクは森の入り口で心配そうに子供達を見送っていた。
冒険者達は子供達に案内されて森の中を進んだ。とはいえ子供達を先頭にするのは危険なので、つねに冒険者達が子供達を囲むようにしていた。
「もうすぐ砦に着きます」
ハルトが冒険者達に言った。タミアは山賊が怖いのかハルトの後ろについて無言で歩いている。
「大丈夫、さっき俺達が山賊を倒したのを見てただろう? 今度も同じようにやっつけてやるから、な」
リオスがタミアに言った。タミアは無言でこくりと頷いた。
「あれが砦です」
ハルトが指差したのは、森の中でも特に古いと思われる大きな二本の木であった。よくみると両方の木の低いところに生えている枝に丸太を渡して布を張ってある場所がある。場所が固定されたテントのような簡単な小屋だった。
「これは、子供達だけでつくったんですか?」
サラザールが子供達にたずねた。
「ええ。でもとても簡単なつくりです。嵐の来るときは、中の荷物を動かさないといけないのです」
タミアが初めて口を開いた。たしかにテントは今も風に揺れて波を打っている。
そしてその入り口には見張りらしき男の姿が一人、見えた。
「ではここで一つ約束してほしい」
山賊から姿が見えないように隠れながらマハが子供達の方に向かい、言った。
「絶対に護衛役のフィーナから離れないこと。さもなくば痛い目に遭うかもしれないし、親御さんに顔向けできぬ。そして砦が戦闘中に壊れても驚いて飛び出したりしてはいけない。もしそんなことが起きたら後でわしらが修理を手伝うので、その辺は大目に見てほしい」
「うん」
「分かりました」
子供達は真面目な表情で頷いた。
冒険者達全員が準備を完了したのを確認して、サラザールがグラビティーキャノンで見張りを攻撃した。
おそらくかなり油断していたと思われる見張りは正体不明の衝撃を受けて地面に転がった。
「ぐはっ‥‥いきなり何や」
あわてて山賊が起き上がると、何やら武装した集団がこちらに突っ込んでくるではないか。
「やべ」
あわててテントに隠れる見張り。すると後ろから親分の怒鳴り声がした。
「なんだ、外がさわしいぞ」
「敵襲です!」
訛りを無理やり直して見張りが言った。
「なるほど、どおりで偵察に行った三人が帰ってくるのが遅いと思っていたところだ」
親分は自分の荷物と武器を持つと、ここから逃げるぞ、といった。
「逃げるんすか?」
「二人ではどうにもならんだろう。どこか別の村へ行って、やり直しさ」
そう話しているうちに出入口から紅と神楽が飛び込んできた。
「待て!」
「待てといって待つ馬鹿はおらんわ」
親分はそう言い捨てると見張りを連れてもう一方の出入口から飛び出した。
冒険者達も彼らの後を追う。念のためフィーナと子供達は砦に残ることにした。
しばらく差の縮まらない追いかけっこが続いた。しかし、すでに負傷していた見張りは走るのが辛いらしく、途中で木の根っこにつまづいて転んだ。
「おい!」
あわてて親分が立ち止まる。ここで自分だけ逃げれば逃げ切れるかもしれない。しかしもう仲間は誰もいない。
「‥‥‥‥」
躊躇しているうちに冒険者達が山賊の親分を取り囲んだ。
「わかった、降参だ。殺すなり騎士団に引き渡すなり好きにしてくれ」
親分は持っていた剣を放り捨てて言った。予想外の行動に冒険者達は驚いた。
「いいのか?」
リオスが恐る恐る尋ねた。
「ああ」
縄で手を縛られながら親分が小さな声で答えた。
山賊は無事全員捕らえることができた。
そして砦の方は中においてあった子供達の宝物(落ち葉や小石といった他愛もない品々だが子供達にとっては宝物である)がテントの裏に捨てられていたが、ほとんど回収することができた。テントにはこれといった傷は付けられていなかった。
するべき作業が皆終わり、冒険者達はパリへと帰ることになった。
「本当に、ありがとうございました」
村を去る際にマルクが冒険者達に礼を言った。
「いいえ、子供達の大切な砦を無事に取り戻せてよかったです」
相麻がにこやかな笑顔で言った。
そうしてマルクと子供達に見送られながら、冒険者達は村を去った。
「無事に砦を取り戻せてよかったですね」
フィーナが帰り道、そうつぶやいた。
「子供というものは今も昔も大して変わらぬものだのう、何故か大人に知られたくない隠れ家というものを作りたがる」
マハがそう言って笑った。もしかしたら彼も昔似たような経験があるのかもしれない。
子供達が平和な少年時代を過ごせることを願いながら、冒険者達はパリへ帰っていった。