掃除しなさい!
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■ショートシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 60 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月24日〜03月27日
リプレイ公開日:2005年04月03日
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●オープニング
パリに住むウィザードのアーセイルという男がいる。魔術の研究をしたり、弟子をとって日々をすごしている。
ある日のことである。その日は前日に比べて暖かく、アーセイルは研究室でついうとうととしてしまっていた。
すると突然、扉を激しく叩く音がした。
「んぁ‥‥?」
アーセイルは目を覚ました。袖でよだれを拭いてあわてて玄関へと向かう。
扉をかけるとそこにはまだ若い女性が立っていた。服装からするにクレリックか。
教会の者が来るような理由が思い出せず、アーセイルはその女性にたずねた。
「む‥‥何の御用かな?」
「とぼけないでください」
女性はバシッと扉を叩く。アーセイルはその勢いに押されて一歩後ずさりした。
「教会から借りた写本を返してください! 何ヶ月借りていると思っているんですか。まさか忘れていたとでも?」
彼女に言われてようやくアーセイルは思い出した。
研究のために借りた写本。ちょっとした事故によりページがバラけてしまったのだが、抜けたページもすべて集め終えた。
というか、冒険者ギルドに依頼して集めてもらった。
そうして彼は本を元通り修理すると、すっかり気を緩めてしまい忘れ去っていたのだ。
「本はどこ?」
また女性が問うた。そういえばあの本はどこへ行ってしまったのだろう‥‥?
アーセイルは記憶をたどってみる。日に当たると本に良くない、ということで地下室に放り込んでおいた気がする。
「地下‥‥」
アーセイルが口を開きかけると、女性はするりとアーセイルの横を抜けて家の中へ駆け込む。
「ちょ、ちょっと待ちたまえ!」
アーセイルはあわてて女性を追う。女性は廊下の真ん中で辺りを見回していたが、ふいに地下へのはしごを見つけた。
「ここに本があるのね」
「待て、シスター」
しかしアーセイルの言うことを聞くはずも無く、女性ははしごを降りていった。すると小さな扉がある。
女性はためらい無く扉を開けた。部屋の中は真っ暗で様子が良く分からない。
どれ、と女性が一歩足を踏み入れると何かが足元でスススと動く音が。
「ヒッ」
びっくりした女性は思わず後ずさった。目が慣れてくると次第に地下室の様子が見えてきた。狭い室内に本や巻物、なんだかよく分からない標本などが所狭しと並べられている。まともに整理されておらず、不注意にさわると崩れてしまいそうな場所もある。
足元で動いていたのはゴキブリだろうか。もう一度部屋の中を見回したがそれらしき姿は見当たらなかった。
「なんですか、だらしない。本はどこにあるのです」
女性は上から顔を出しているアーセイルに向かって叫んだ。
「それが、小生にもよく分からないんだ」
アーセイルはそう言って苦笑いをした。女性はあきれたのか、それともゴキブリが怖かったのか分からないが、とにかく地上に戻ってきた。
「また何日かしたら来ますからね。それまでに本を見つけておいてください」
「ああ。分かった」
アーセイルがそう言うと、女性は帰っていった。彼女が家を出て行くのを見届けると、アーセイルはため息をついた。
「さて、どうしたものか‥‥」
本が地下室にあるのは間違いない。しかしあの部屋はあまりに物が多すぎる。うっかりすると片付けている間に自分が埋まってしまうかもしれない。
「‥‥また、冒険者に頼んでみるか。こういうのは人手がたくさんあればすぐ済むものだ」
そう考えたアーセイルは身支度を整えると冒険者ギルドへと向かった。
●リプレイ本文
地下室への梯子がある廊下にて。アーセイルは冒険者達に囲まれていた。
「あなたは本がどれほど高級なものか分かっているのですか? こんな風に無造作に部屋に放り込んで置くなんて」
と説教しているのはビター・トウェイン(eb0896)。他の冒険者達も地下室の惨状に半ば呆れ顔だ。
アーセイルはしょんぼりとした顔で力なく反省していると言ったが、とにかく今は部屋を片付けなくてはならない。
冒険者達は片付けの手順を話し合った。
「ゴキブリがいるそうですが、ライトニングトラップを仕掛けてもよろしいかしら?」
スターリナ・ジューコフ(eb0933)がアーセイルにたずねた。
「あの呪文はあまり小さい虫には効かなかった気がするが‥‥」
アーセイルが首をかしげた。件の虫がどのくらいの大きさなのかは実際のところ良くわからない。
皆でああでもない、こうでもないと話し合っていると、ドアをノックする音が。
「また来たのか」
アーセイルがため息をついた。ドアの前には本を催促に来たらしいシスターが立っている。
ここのところ、一日おきにやってくるらしい。
「まだ片付けてないのですか?」
「すいません、これから皆で片付けますので、少しお待ちください」
ロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)が二人の間に割って入った。
「あなた方は?」
「僕たちは冒険者ギルドから来た者だよ」
ブリジット・ベルナール(eb1361)がそう言うと、シスターは人に頼るとは何事か! と言いたげな表情でアーセイルを見た。
「まぁまぁ、これで一秒でも本が早く戻ってくると思って待ってていただきたい」
アーセイルはそう言って扉を閉めた。そして戸に背中を向けてため息を付いた。
「では、そろそろ始めましょうか」
髪をまとめて、動きやすい格好になったロミルフォウが言った。
「うむ‥‥」
アーセイルは頷くと地下室へと歩いていった。
まず最初に、地下室の中の荷物を全て運び出そうということになった。
ウー・グリソム(ea3184)、カンター・フスク(ea5283)らが中心となって巻物や何かの標本といった荷物を運び出す。
「アーセイルさん、ここに重なっている本には例の写本はありませんか‥‥アーセイルさん?」
ロミルフォウが話しかけるが返事がない。振り向くとアーセイルは転がっていた巻物を広げてじっと固まっている。
「もう、集中して掃除しないといつまでたっても片付かないよ」
ブリジットに声をかけられてようやく気が付く。
「ああ、すまん‥‥」
しばらくして部屋の中の荷物が半分近く出された。スターリナは木炭で床に印をつけながら何箇所かにライトニングトラップを仕掛けた。
「印の場所には絶対に触れないようにしてくださいね。雷に打たれたような衝撃がしますから」
そう言ってアーセイルを含めた皆に注意する。果たしてゴキブリは罠に引っかかるのだろうか。
「あ、あそこにある本ってもしかしたら‥‥」
ブリジットが部屋の隅の戸棚を指差した。戸棚の上に無造作に本が置いてあった。
「あれだ! やっと見つかった」
アーセイルはあわてて戸棚の方へかけてゆく。
「アーセイル、気をつけろ!」
イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)が言い終わらないうちに、アーセイルはトラップを踏んでしまった。
ビリビリビリィッ。
アーセイルが悲鳴を上げて倒れた。
「よりにもよって、ウィザードであるおまえが罠に引っかかってどうする‥‥」
そして黒焦げになったアーセイルの横にあったもう一つのトラップの上をスススとゴキブリが通り過ぎていった。
なんとも理不尽な世の中である。
とにかく今のアーセイルが危険な状態にあることには変わりない。
「ビター、リカバーでアーセイルを治せないだろうか」
ウーがビターにたずねた。
「いや、これほどまで傷が深いと私の力では完全には治せません」
ピターが困惑した顔で答えた。
「アーセイルに何かあったの?」
地上の方から声がして冒険者達は驚いた。見上げるとさっきのシスターが冒険者達を覗き込んでいた。いつの間に家の中に入ってきたのだろう。
「じつは‥‥」
スターリナがシスターに説明した。
「あらあら。彼もそれなりに頑張っているようね。ちょっと見せて貰っていいかしら」
シスターが梯子を降りてアーセイルの横に来た。そしてリカバーの呪文を唱えてみた。
「‥‥‥‥!」
アーセイルが気が付いた。まだ髪の毛が爆発状態になっているが。
「大丈夫ですか?」
スターリナが心配そうにたずねた。
「ああ、すまない、皆。シスター、どうもありがとう」
「いいえ、本を返してもらうまで無事でいてくれないと困りますからね」
シスターはそっけなく答えると梯子を上って行ってしまった。
さて、トラップは危険すぎるし、効果がないと言う結論に達した冒険者達は次なる手を考えることにした。
「僕にいい考えがある」
と言い出したのはカンターであった。とりあえずそれを実行するために残りの荷物を地下室から出す。
借り物の写本は他の荷物とまぎれないようにイェレミーアスが速攻隔離した。
他の本や巻物は風通しを良くした部屋でビターが虫干しする。それ以外の荷物はとりあえず庭に布を敷いて並べておいた。
カンターは拾ってきた木の枝を集めて部屋の中で燃やした。無論床に火が移らないように塗らした布切れを何枚か重ねた上で、である。
しばらくすると煙が立ち上り、部屋の中が煙だらけになってきた。
「こうしてゴキブリを煙で燻すんだ」
カンターは皆にそう説明した。とりあえず冒険者達は地下室を出てしばらく様子を見ることにした。
その間に、荷物の整理をすることにした。本や巻物、標本は分野別にきちんと分ける。これはスターリナとアーセイルで行うことになった。
ブリジット、カンターらは地下から運び出した戸棚などの家具を雑巾で拭いていた。
しばらくして煙が出なくなってきたのでカンターが様子を見に行ってみる。
「どんな様子ですか?」
「うん‥‥とりあえずゴキブリらしき影は見えないな」
やや不安げな答え方だったが、とりあえず掃除をするために皆で地下室に入る。ビターは額に汗を浮かべていたが。
皆で埃を掃いたあと、よく絞った雑巾で床を拭いた。それから荷物を運び込む。
元に戻すのではなく、より整頓された状態になるように。冒険者達は何をどこに置いたらいいかアーセイルと話し合いながら進めて行った。
ようやく全部終わったときにはかなりの時間が経っていた。
「今日は本を見つけてもらった上に、部屋の片づけまで手伝っていただき‥‥本当に感謝している。ありがとう」
冒険者達が帰る際、アーセイルが礼を言った。
「これからは定期的に掃除するようにして頂きたいものだな」
「うむ‥‥努力してみる」
ウーに指摘されて、アーセイルは苦い表情で答えた。
次の日、アーセイルは訪ねてきたシスターにようやく本を返した。
「もし次に本を借りるつもりがあるならば、きちんと返却期間を守ってくださいね」
「分かっている、今回は本当に申し訳なかった」
アーセイルはそう言ったが、相変わらずシスターは不機嫌な様子であった。
「まぁ今回のことで地下室も綺麗になったわけだし‥‥」
シスターはそう言いかけて固まった。
「? どうした」
アーセイルは不思議そうな顔をする。シスターは彼の背後を指差し、くるりと背を向けるとダッシュで彼の家から去っていった。
「うん?」
彼が振り向くと、廊下の壁に入った割れ目の中にゴキブリが入っていくところであった。