もう一度会いたい
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■ショートシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月11日〜05月16日
リプレイ公開日:2005年05月24日
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●オープニング
「しまった‥‥」
若き騎士であるレイモンドは途方にくれて、森の大きな木の根元に座り込んでいた。
急いでパリに帰るため、森の中をぬけて近道をしようとしたのだがどうも迷ってしまったらしい。
「以前来たことがあるから分かると思ったんだけどなぁ‥‥ん?」
ふと横に目をやると、木の根元の影から視線を感じる。
そこにいたのは小さな女の子に見えた。しかしどうにも人間らしくない、浮世離れした雰囲気があった。
「ははぁ。きみはアースソウルだな」
騎士がそう言うと少女はこくこくと首を縦に振った。
そして少女は手招きをすると小走りに木のそばを離れた。そしてすぐに立ち止まると振り向いて手招きを‥‥と同じ事を繰り返している。
出口まで案内してくれるのだろうか。森の精霊アースソウルは自分が住む森のことは隅々まで知り尽くしているという。
しかし単にイタズラしたいだけで同じ場所をぐるぐると歩かされるかもしれない。
レイモンドがどうするべきか思案している間にも、アースソウルは少しずつ遠ざかってゆく。
「ま、まってくれ」
他に良い方法が思いつかないため、レイモンドは思い切ってアースソウルについてゆくことにした。
しばらくレイモンドがアースソウルを追いかけ続けていると、ふいに視界が開けた。
そこは見覚えのある森の出口であった。
「ありがとう、助かったよ」
レイモンドは精霊に礼を言った。精霊はうれしそうに頷くと森の中へと再び消えていった。
こうして彼は無事にパリに帰ってくることができた。
数日後の冒険者ギルドにて。レイモンドは森でアースソウルに出会ったことを受付係に話していた。
「‥‥というわけで彼女のおかげで無事に帰ってくることができたんだ」
彼は彼女にもう一度会って何かお礼をしたいと考えたが、どんなことをすればアースソウルが喜ぶのかいまいち分からなかった。
「なので冒険者の皆さんなら、もしかしていい考えが思いつくのではないかと。私もできる限り協力したいと思うので、どうか彼女が喜ぶようなお礼を考えて欲しいのです」
そう言って彼は冒険者ギルドを去っていった。
●リプレイ本文
その日、冒険者達とレイモンドは森へ向かう途中こんな話をしていた。
「いちおう皆で決めたわけだけど、これで本当にアースソウルは喜んでくれるのかな?」
「おや、まだ悩んでいるのかにゃ?」
涼守 桜夜(eb1786)がふと口にした疑問に江見氏 喬次(eb2204)がそう応えた。
「まあ、いつまでも悩んでいてもしょうがないです。それより心をこめてお礼をするのが大事だと思います」
カレン・シュタット(ea4426)はそう言ってやわらかく微笑んだ。
レイモンドもたしかにそうだ、と頷いた。
結論として、冒険者達が選んだのは精霊に贈り物をすることと芸を見せることだった。
森の役に立つようなこと、たとえば枯れ枝を拾うなどするのはどうだろうか、という意見がゼルス・ウィンディ(ea1661)などから出たが、場合によっては森を荒らしているように捉えられるのではないだろうかという話になって、とりあえず今回は見合わせることにした。
それぞれ準備を整えて例のような話をしているうちに次第に森が見えてきた。
「じゃあ、行ってくるね」
ウィザードの少女レン・ウィンドフェザー(ea4509)は冒険者達にそう言うと、彼らより一足先に森の中へ入っていった。
迷子のふりをして森に迷い込み、精霊が出てくるのを待つのである。
もちろん、一人で森の中を歩くのは危険なことだ。本当に迷子になるかもしれない。そこでパトリアンナ・ケイジ(ea0353)とミレーヌ・ルミナール(ea1646)が距離をとって追跡することにした。
精霊には気付かれないように気をつけながら二人は少女の後を追った。
残りの冒険者達は森の入り口付近にて精霊を迎える準備をすることにした。
レンはしばらく森の中をふらふらと歩き続けた。途中に大きな木や泉などがあるのを見かけると、精霊がいないかと覗き込んでみたがそれらしい影は無かった。
「うーん、ここじゃないのかなぁ」
そう言って首をかしげると、再び歩き出した。何度目のことだろうか、ふと彼女は仲間がついてきているのか不安になってきた。
耳を済ませるが、人のたてそうな音は無い。二人ともレンジャーである。当然気配を消して行動しているのだろう。
それでも彼女は不安でしょうがなかった。自分が森の中で一人ぼっちのように思えてきたのだ。
「うう‥‥帰りたいよう」
人前では決して見せた事のないような寂しそうな顔でレンはつぶやいた。
歩くのも疲れた。彼女は大きな岩の前でうずくまってしまった。
「‥‥どうしたんだろ。彼女、疲れたのかな」
パトリアンナは小さな声でミレーヌに囁いた。
「どうかしら、少し様子を見ましょう」
そうして二人はしばらく彼女の様子を見て、何かあったら助けに行くことにした。
レンが岩の前で座り込んでいると、不意にお腹がなった。そういえばお腹がすいてきたかもしれない。
「うーん、何か食べるものはあったかな」
かばんを探すと保存食があった。とりあえずこれを食べよう。
「‥‥‥‥?」
ふと視線を感じた彼女は顔を上げた。
自分と同じくらいの少女が立っていた。手には木の実や草の実をたくさん抱えており、レンと目が合うとにっこり微笑んでその木の実をレンに差し出した。
「キ、キミ‥‥もしかして例のアースソウル?」
恐る恐るレンが尋ねると、少女は一瞬不思議そうな顔をしたが、そのあとコクリ、と頷いた。
「やったぁー! 会いたかったのー」
レンが一気に元気を取り戻した。アースソウルは何がなんだか分からずキョトンとしている。
「とにかく一緒に森の入り口のところまで来てほしいの。理由は行く途中で説明するから」
彼女はそう言って精霊の手を掴むと森の出口の方へ走り出した。
レンのペースに巻き込まれた精霊は良くわからないまま森の入り口まで連れてこられてしまった。
どうやらレンの仲間達が待っていたらしい。
「あら、おかえりなさい」
ミリランシェル・ガブリエル(ea1782)がレンと精霊に気がついて声をかけた。
そしてレンを追跡していたミレーヌとパトリアンナも戻ってきた。
精霊はその様子を見届けると森へと引き返そうとしたが、淋 麗(ea7509)が少し待ってほしい、と呼び止めた。
「実は今日、あなたに会いたいと言う人が来ているのです。私達は彼のためにあなたをここへ連れてきてもらったのです」
「ごめんなさい。だますみたいに連れてきて」
レンが申し訳なさそうに精霊に言った。
そして アハメス・パミ(ea3641)が少し離れたところにいたレイモンドを引っ張ってきた。
「‥‥‥‥!」
精霊は目を丸くした。しっかりと彼のことを覚えていたようだった。
「いきなり呼び出すような形になってしまって申し訳ない。しかしもう一度きちんとした形であなたにお礼がしたかったのです」
言い方は硬かったがその表情は柔らかかった。
「この前は助けていただき本当に感謝してます。どうやってこの気持ちをあなたに伝えればいいか‥‥一人では思いつかなかったので冒険者の方たちと考えました」
レイモンドがそう言うと江見氏らがうんうんと頷いた。
「俺たちはプレゼントとちょっとした出し物をするのがいいですたい、とレイやんにアドバイスしたのだす」
さっきと口調がちがうが、彼はいつもこうらしい。
「では、こちらへどうぞ」
精霊はゼルスに案内されて丸い岩の上に座った。
「はじめまして、ミリランシェルと申します」
前に出た彼女は丁寧な口調で精霊にあいさつした。彼女はボールを使ってジャグリングを見せることにした。
彼女の芸にあわせるように涼守が横笛を奏でた。
精霊は最初は楽しそうに二人の芸を眺めていたが、ふいに周りの小鳥達が歌いだしたのでびっくりした。
「チチチ‥‥」
ミレーヌが声色で鳥の鳴き声を真似して歌ったのと、涼守がテレパシーを使って回りの小鳥に呼びかけた結果であった。
「ほら! じっとしててもつまらないぜぇ、皆で踊ろう」
すでに音楽に合わせて踊っていた江見氏が精霊、と言うか皆に呼びかけた。
レイモンドたちは顔を見合わせたが、レンが精霊の手を取って
「いっしょに踊ろうよ」
と誘った。
「‥‥‥‥!」
精霊は少し恥ずかしそうだったが、小さく頷くとレンと一緒に踊りの輪の中に加わったのであった。
楽しい時間は長くは続かない。
精霊と冒険者達の間にも別れの時間が近づいてきた。
「思いつく範囲で感謝の意を表現してみたのですが、どうでしたか? 楽しかったですか」
アハメスが精霊に尋ねると、彼女は大きく頷いた。どうやらとても楽しんでくれたらしい。
「あと、これはあたしたちからの贈り物だ。受け取って欲しい」
パトリアンナが皆を代表して贈り物を精霊に渡した。贈り物の内容は手作りの花の冠やパンといった食べ物などであった。
抱えきれないほどの品物を受け取って精霊は少し戸惑っているようだったが、嫌ではなさそうだった。
「アーちゃん(アースソウルのことらしい)、じゃあねー。またいつか会いたいなー」
レンは小さな腕を振り回して精霊に別れの挨拶をした。
レイモンドと他の冒険者達もそれぞれ精霊に別れの挨拶を済ませると、一向はパリへ帰ることになった。
「喜んでもらえたようでよかったですね」
帰り道、淋がレイモンドに言った。
「ええ」
「あたしも森に住んでた時期があるし、どこかでアースソウルの世話になってたのかもしれないね」
パトリアンナが考えながらつぶやいた。
都会に住んでいると忘れがちだが、人は自然と助け合うように生きてきたという。
レイモンドはそのようなことを考えながら、今日のことを忘れないようにしよう、と心に誓った。