【秘密のレシピ】涼しい料理募集中
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■ショートシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月25日〜07月30日
リプレイ公開日:2005年08月02日
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●オープニング
ここはパリの冒険者たちが集う酒場シャンゼリゼ。今日も多くの冒険者達でにぎわっている。
「いらっしゃいませ! ご注文はどうなさいますか?」
酒場を忙しく動き回っているのは酒場の看板娘アンリ・マルヌ(ez0037)。
「ワインで」
「グレープジュースお願いします」
冒険者達が様々な注文をする。普通の店員ならただ注文どおりの物を持ってくるだけだ。
しかし何故かアンリは不満そうだ。
「もう、どうして飲み物ばっかり頼むのです? シャンゼリゼは冒険者のために色々な料理を用意してるのですよ!」
「いや‥‥ただのどが渇いて」
「のど?」
そういえば、ここ最近すっかり夏の暑さが続いていた。
アンリは一年中同じような喧騒の酒場で働いていたせいか、あまり気にしていなかったのかもしれない。
「ここの料理って、スープとか煮込み料理とかが多いだろ? 最近暑いからそういうのはどうもね‥‥」
「‥‥‥‥」
冒険者たちの言い分を聞いてアンリは何か考え込んでいる様子だった。
「つまり、熱くない料理があればいいということですね?」
「え、まぁそういうことかな」
どうしてもアンリは客に料理を注文してもらいたいらしい。何か酒場の看板娘としてのプライドか何かなのだろうか。それともただ暇なので冒険者に絡みたいだけなのか。真相は不明である。
「ならば、熱くない料理のメニューを考えてください!」
なぜ客に考えさせるのだ。そういうのは店が努力するべきところではないのか。
そう思った冒険者も何人かいたようだが、先回りするようにアンリが、
「皆様が考えたメニューがうちの酒場に並ぶのですよ! これってとっても素敵なことだと思いません?」
と目を輝かして言ったので何も言えなかった。
「それは、おもしろそうだね」
冒険者のひとりが言った。
「そうでしょう」
そんなうちに話が勝手に進み、後日皆で考えてきたメニューを持ち寄って、どれを採用するか選ぼうということになった。
「実際に料理を作ってきてもいいし、作れない方はアイディアだけでも良いです。当日シャンゼリゼの厨房で作りたいという方は開いている場所で邪魔にならないように作ってください」
そう言い終わったアンリは自分の仕事へと戻っていった。さっきから他の店員が彼女のことをにらんでいたのだ。
冒険者たちの考える「熱くない料理」とはどのようなものになるのだろうか。
●リプレイ本文
レシピを考えることにした冒険者達がシャンゼリゼに集まったその日。
操群雷(ea7553)はあらかじめ手配していた食材がなかなか届かないので、酒場の入り口付近をうろうろしていた。
「シフール便です〜」
「おお、来たか!」
いそいで受け取るが、どうも待っていたものと違ったようだ。
「‥‥仕方ない。これで何とかするしかないアルね」
そう言って大きな水の入った桶を抱えた彼は、すでに他の冒険者達が準備している厨房へと向かった。
「全く、うまい料理が食べられる依頼だと思ったのに‥‥」
フォン・クレイドル(ea0504)は料理をしながらそんな文句をぶつくさつぶやいていた。
もちろん最後に皆で試食はすることになるのだが、その前にまずは自分のメニューを完成させなければならない。作っているのは茹でた野菜を井戸水で冷やしたものと、焼き魚の身をほぐしたものを和えた料理である。好みの味付けができるように、いくつかのドレッシングを添えて出来上がりである。
「いいねぇ、さっぱりしてそうで」
ノリア・カサンドラ(ea1558)がフォンのほうを見ながら言った。彼女も試食を楽しみにしている一人である。
「ノリアは何作ってんだい?」
「あたし? あたしはねぇ」
ノリアは薄く切った豚肉を湯通ししていた。だがどうやらそれだけではないようで、野菜を何かに漬けたものを用意していた。
「これは?」
フォンが興味深そうに尋ねた。
「ワイン酢漬けだよ。酢、塩、蜂蜜を入れてひと煮立ちさせたものにワインを加えるの。そうしてできたワイン酢に野菜を一晩漬けたものがこれ」
「はあ‥‥いろいろ手が込んでいるんだねえ」
さすがは食の求道者達の寄り合い・極食会の会員といったところか。
湯通しした豚肉を井戸水で冷やした後は、さっきの漬物と一緒に盛り合わせて完成である。
「よし、できた!」
ノリアは笑顔でそう言った後、他の人の作っている料理が気になって厨房を見回した。
「イスパーニャとしては、酒の肴には上質の生ハムといきたいところですね」
ルイス・マリスカル(ea3063)が作っているのは生ハムのマリネであった。
作り方はまず白ワインビネガー、オリーブオイル等量くらいを混ぜ、ビネガーの酸味に合わせて甘み付けの白ワイン、蜂蜜で味を調整する。これにみじん切りにしたタマネギとパセリ、塩を加えて味付けする。
最後に生ハムと薄切りにしたタマネギを漬け込み、味のなじんだものを盛り付けて完成だ。
皆それぞれ工夫していて、美味しそうではあるのだが、酒の肴になりそうなものばかりである。
もちろん酒場だから酒に合うことは重要な要素である。だがもっと何かないものか、できれば甘いお菓子とかあればいいのに、とアンリ・マルヌ(ez0037)が思っていることは誰も気付いていないようである。
ジェラルディン・ムーア(ea3451)はどうやらパスタを茹でているようだった。パスタは事前に作っておいたようだった。
鍋の脇には水が入ったボールがあり、オリーブオイルに塩と酢、摩り下ろしたにんにくに、バジルを混ぜて作ったソースが冷やされていた。
「うーん。後で冷やすから、これくらいでいいかな?」
少し柔らかめに茹でたパスタの水をよく切って、先ほどのソースと絡めたものを器に盛り付ける。
「よし完成! 早く他の人の料理を試食したいな」
どうやら彼女も試食ねらいらしい。
エグゼ・クエーサー(ea7191)は茹でたキャベツを冷やしている間にソースを作っていた。材料はマスタードとレモン汁、水である。ピリッとするくらいの辛さにすると、水気を切ったキャベツにかけてなじませる。これを井戸水で冷やしてから、盛り付けて完成である。
「うん、できた!」
「あら、美味しそうですね。酸味が利いていて、暑くても食べられそう」
皆の手伝いをしていたカレン・シュタット(ea4426)が言った。
「ああ、酒のツマミにも最適だ」
「でも、ノリアもキャベツを使った料理を作っているみたいだけど‥‥被らないか」
ジェラルディンがノリアのほうを見ながら突っ込みを入れた。
「う‥‥良いんだ。味も違うから何とかなるさ」
箕加部麻奈瑠(ea9543)は二品作るようだった。一つ目は冷たいスープである。炒ったゴマが香り付けとして入っている。
「次は茹で鳥ね」
二品目は茹でた鶏肉を冷やし、薄切りにする。これにゴマを粗めに擂り、塩、酢、蜂蜜、食用油を混ぜて味を調えて作ったタレをかける。
最後に筋を取って千一本に切ったセロリの軸を付け合せに盛れば完成である。
「後は操さんができれば全員終わりですね」
箕加部がそう言って操の方を見た。少し作り始めるのが遅かったので、彼はまだ料理を作っていたのだが、それもそろそろ完成しそうだった。
彼が作っているのは鯵のなます風であった。本当は生の馬肉か牛肉を使いたかったらしいのだが、手に入らなかったようだ。
材料がそろってしまえばそんなに難しい料理ではない。3枚におろした鯵をワインで臭みを消し、香味野菜と一緒に包丁でミンチにして混ぜる。これを皿に盛り付けて窪ませた中央に卵黄をのせる。あとはレタスや薄く切ったレモンを飾って完成である。
「ふむ、これは珍しい料理だね。このまま食べるの?」
エグゼが興味深そうに言った。
「いえ、卵黄と混ぜて揚げた黒パンにのせたり、レタスに包んで食べるのがいいと思うアルよ」
パンを揚げながら操が応えた。
これで全員のメニューが完成したので、次はいよいよ試食タイムである。それは実ににぎやかな、むしろ騒がしい食事会であった。
「あらこれ美味しそうね! いただきまーす」
「ノリアさん私の分も残しておいてください!」
誰かが全部食べそうな勢いで試食したり。
「アンリさん、こっそり嫌いなものを私の皿によけないで下さい」
「‥‥いえ、それは最初からルイスさんのお皿に置いてありました」
「そんなはず無いですから!」
誰かが嫌いなものを残していたり。
「何か美味しそうなもの食ってるじゃん。俺達の分は無いの?」
「もうありません」
他の酒場の客達が騒ぎを聞きつけて集まってきたり。
どうも騒ぎが大きくなりすぎてしまったので、試食の後一旦解散し、日を改めて再び話し合いをすることになった。
後日、再び冒険者達がシャンゼリゼに集まった。
試食会の時に取ったメモなどを広げて、どのメニューが冒険者の酒場にふさわしいか考えることにした。
「今回皆さんが作ってくださった料理、どれも『熱くない料理』という条件をクリアして一定の出来になっていたと思います。ですが全てのメニューを採用するわけには行きません。やはり正式にシャンゼリゼのメニューにするには、利益が出るか、つまり売れるかということが大事なのです」
アンリがそう切り出した。
「いきなり真面目ですね‥‥。では結局、どういうメニューが良いのです?」
箕加部がアンリに尋ねた。
「まず美味しいこと。これはただ美味しいだけじゃなくて幅広い客層に受けやすいものと言う意味も入ります」
だからモンスターのようなゲテモノはダメなのだ。
「もう一つ注意することは値段です」
あまりにも高い料理など、メニューに加えても意味が無い。ここは宮廷の厨房などではなく、冒険者の酒場である。
値段を安く抑えるためには、材料はなるべく手に入りやすいものが良い。保存が利くものだとなお良い。
「なるほどね」
操が渋い顔をして応えた。自分の作った料理はどちらも難しい気がしたからだ。実際は美味しくても生の魚は食べたがらない人が多そうだし、保存も難しい。
「そして最後に‥‥」
アンリがひと呼吸置いて、言った。
「私が気に入るかどうかです」
「‥‥‥‥はぁ?」
一気に聞いていた冒険者達の力が抜けた。
「何言ってるのですか。これは重要なことですよ!」
「で、でもそれは利益うんぬんとか関係ないじゃないかっ‥‥」
エグゼが反論しようとしたが、ものすごい表情でアンリがにらんできたので、おとなしく座りなおした。
「そういうわけで、今日の話し合いで出た意見を参考に、実際に酒場のメニューとして採用する品物を選ばせていただきます。あら、そろそろ仕事に戻らないといけません。それでは皆さんごきげんよう」
そう言ってホホホ‥‥などと不似合いな高笑いをしながらアンリは去っていった。
冒険者達は不安そうにアンリの背中を見送っていた。