偽劇団の正体

■ショートシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月02日〜08月07日

リプレイ公開日:2004年08月09日

●オープニング

 とある町の教会にエスリルとミラシアという二人のシスターがいた。
 対照的な性格の二人だが、教会に入ってきた時期が同じということで、不思議といつも一緒に行動するようになっていた。

 それは丁度その町に有名な劇団が来ていた時期だった。教会の司祭は二人の姿が見えないことに気がついた。
「そういえば、エスリルとミラシアは?」
「あの、司祭様。エスリルの部屋にこんな手紙が‥‥」
 手紙には『ミラシアと劇を見に行ってきます』とだけ書いてあった。
「あのまじめなエスリルが?‥‥どうやら、ミラシアが元凶のようですね」
 そう言って司祭はため息をついた。
「まぁ、夕方にでもなれば帰って来るでしょう。二人の処遇は、それから考えます」

 だが二人は夜になっても帰ってくることはなかった。
「いったい二人はどうしたのでしょう、何か事故にでも遭ってなければいいのですが」
 だが司祭の不安は的中してしまった。
「司祭様!大変です」
 あわててやってきたクレリックの話によると、実は今町に来ている劇団は有名な劇団の名を騙った偽物で、その正体は見物に来た客の中から人をさらって、遠い外国に奴隷として売って商売にしている人さらい集団なのだという。
「劇を見に行ってから帰ってきていない人がどうやら何人かいるそうです、エスリルたちも、おそらく‥‥」
 肝心の劇団は、すでに公演を終えて次の町へと出発してしまった。このままでは二人は外国に売られてしまうだろう。
「その偽劇団が次にどこに行くかわかりますか?」
「ここから馬車で二日ほどの港町です。おそらくそこでの公演が終わった後、捕まえた人たちを奴隷商人に売るのだと思います」
 このクレリックは噂好きで有名だった。このような情報も、おそらく教会に来ていた町の人たちから聞いたのだろう。
「わかりました、今すぐ冒険者ギルドに依頼を出し、協力してくれる方を募りましょう。ところで、その人さらい集団について、何か他にわかっている事はありますか?」
「はい、あくまでうわさですが‥‥」
 彼の話によると、偽劇団の構成は5人で、シリエという女性がリーダーらしい。彼女以外は男性で、皆そこそこ武器が扱えるらしい。
 ちなみに、劇の方はそれほど面白くないので、見た人はたいてい偽物だとわかるそうだ。
「なるほど、ではすみませんが、急いで冒険者ギルドへ使いの者を出してください。依頼内容はシスター二人だけでなく、さらわれた人全員の救出です。その辺りを間違えないようにお願いしますね」
「わかってます、神に仕えるものとして当然の態度です。では行ってきます!」
 彼が外に飛び出していくと、教会は再び静かになった。

●今回の参加者

 ea2185 ギィ・タイラー(33歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3012 アリア・エトューリア(25歳・♀・バード・人間・イスパニア王国)
 ea4071 藍 星花(29歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea4100 キラ・ジェネシコフ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea4795 ウォルフガング・ネベレスカ(43歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)
 ea5226 ヴァレリー・ローマック(23歳・♀・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 ea5406 メイア・ナイン(27歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 エスリルは目を覚ました。どこかの物置に閉じ込められているようだった。体は動かせなかったが、話すことはできたので、彼女は小さな声でもうひとりのシスターに話しかけた。
「ミラシア、起きて」
「んー、お代わり‥‥」
 最初は寝ぼけていたミラシアだったが、目が覚めるにつれ自分の状況が飲み込めてきた。
「あれ、私たち確か劇団のテントの前で入場料が足りなくて困ってたような‥‥。それから劇団員の人が『せっかくだから見せてあげよう』って私たちを案内して‥‥。そこで記憶がない」
「どうやら、あたしたち何者かにさらわれてしまったようです」
「そうだ。ところでエスリル、いま大変なことに気がついた」
 ミラシアは真剣な表情でエスリルを見た。
「せっかくの劇が見られなかったよ!」
「いまさら何を言ってるんです、それよりこれからどうなってしまうのでしょう‥‥」

 場面は変わって港町の倉庫。そこではキラ・ジェネシコフ(ea4100)らが倉庫周辺の浮浪者から話を聞いていた。
 男は彼女の差し出した発泡酒を見て大変満足そうな顔をした。
「ああ、劇団なら今丁度来てるよ。町外れにテントを張ってる、今日が最後の公演だ。」
「ありがとうございますわ」
 先行して町に入った彼女らは劇団についての手がかりを探っていた。
「一度、劇団へ行って様子を見ておいた方がいいのではないでしょうか?」
 メイア・ナイン(ea5406)がそう提案したが、ヴァレリー・ローマック(ea5226)は首を振った。
「そろそろ馬車移動の人たちが町に着くはずです。一旦合流して今まで聞いたことを報告しましょう」
 キラも彼女の考えに賛成した。
「その方がいいわね。劇団へ行くかはその後考えましょう」

「では、敵は5人というのは確かなのね?」
 藍 星花(ea4071)が念を押した。メイアは確かにそう聞いた、と言った。
「敵はとりあえず劇団にいるとして‥‥人質達の居場所を調べてみよう」
 ウォルフガング・ネベレスカ(ea4795)はそう言って、デティクトライフフォースの呪文を詠唱した。
「さらわれた人達は6人、女性が最低二人はいる集団‥‥おそらくこれだろう」
「場所はどこだ」
 ギィ・タイラー(ea2185)が尋ねた。
「町外れだ。おそらく劇団かその近くだな」
「ならば、一度劇団にいって様子を見た方がいいかもしれません。強襲するにしても、さらわれた人たちがどの辺りにいるか見当をつけておいた方がいいでしょう」
 話し合いの結果、メイアとアリア・エトューリア(ea3012)、カレン・シュタット(ea4426)の三人が偵察に行くことになった。

 町外れにあるかなりの大きさのテント。それが敵の本拠地であった。
「エスリルさんやミラシアさん達、無事でしょうか‥‥」
 カレンが心配そうにつぶやいた。受付には若い男性二人がいた。彼らも人さらいの一味なのだろうか。
 三人は言われたとおりの入場料を払ってテントの中へと入った。
 室内は薄暗く、観客も少なかった。どうやらこの劇団が偽物であるということは、すでに町の人々に知られているらしい。
 舞台の後ろに布で区切られた楽屋があった。メイアはそっと耳を近づけてみたが、劇団の人が数人いるだけのようだった。
 長居は無用、と三人は大体確認を済ませるとすぐにテントを出た。

「あの狭いテントの中にさらった人を隠すのは難しいと思います‥‥」
 アリアは困惑したように言った。どうやらさらわれた人達はどこか別の場所に隠されているようだ。
「‥‥馬車かもしれません」
 カレンの提案により、三人はテントの裏口へと回った。大きな馬車が二台、そこにはあった。
「まって、誰かいます」
 メイアが小声でアリアをとめた。馬車の近くに二つの影が見えた。一つは長身の女性、もう一つは小柄な男性である。
「‥‥ということで、明日の早朝、日が明けてすぐ出発することになりました」
「分かったわ。では今晩彼らを引き渡しましょう」
 女性はバード風の格好をしており、竪琴を持っていた。おそらく彼女がシリエだろう。男性は奴隷商人だろうか。
 三人は一旦引き上げることにした。

「まずいぞ、時間がない。今日中にさらわれた人たちを助けないと」
 ギィは彼女たちの報告を聞いてそう言った。
「まだ場所がはっきりしていないが‥‥おそらく二台あった馬車のどちらかだろう」
 ウォルフガングが言った。シリエは今晩、と言っていた。だとしたら日が暮れてからだろう。だが残された時間はあとわずかであった。
「ではすぐに出発しましょう!」
 ヴァレリーの声で一行は町外れのテント、敵の本拠地へと向かった。

 夕方。劇団にはすでに客はおらず、2人の者がテントを片付け始めていた。
「ん、今何か光ったような‥‥」」
 作業を休んでいた男は遠くに光った物を見た。だがその瞬間、飛んできた稲妻によって男は倒れた。
「な、なんだっ」
 近くにいた者たちも異変に気がついたが遅かった。草むらからメイアとヴァレリーが飛び出してきたのだ。
「ここは私たちに任せて、早くエスリルさん達を助けてください!」
 ヴァレリーがレイピアを構えながら言った。するとカレンや他の者たちが、テントの裏へ向かって走っていく音がした。

「シリエ団長!誰かがうちのモンと戦ってます」
「慌てるんじゃないわよ。おそらく人質の知り合いか、雇われた冒険者ってところね」
 シリエは落ち着いて竪琴を構えた。そのときふいに背後からウォルフガングが攻撃を仕掛けてきた。
「悪党共!人質を返してもらおう」
「団長には指一本触れさせん!」
 団員の一人がショートソードで彼のメイスを受けた。
「ほう、面白いことを言う。だがこれでもか!?」
 ウォルフガングが力を込めると剣はあっさり団員の手から弾けとんだ。
「スリープ!」
 隙を見てシリエが魔法を放ったが、あらかじめレジストマジックをかけていたウォルフガングには効かなかった。
 逆にギィの放った矢により傷を負い、あっさりと二人に捕まる事になった。

 馬車には2人見張りがいたが、カレンとアリアが放った魔法によってあっけなく倒れた。
「こっちの馬車に人質の人達が閉じ込められているわ!」
 藍がドアを壊して人質たちを助け出した。
「エスリルさん達ね?私達教会に頼まれてきた者です。もう大丈夫よ」
 人質達の中には確かに2人のシスターが含まれていた。状況が把握できていなかった2人は自分達が売られようとしていたと聞いて目を丸くした。
「なんて恐ろしいことでしょう。これからは勝手に外出しないようにしないと、ねぇミラシア?」
「う、うん。そうだね‥‥」

 一行が劇団のあった場所を立ち去ってすぐ、馬車の見張りの片方が目を覚ました。
 いちおう縄で縛られていたが、あとで憲兵に引き渡すつもりだったらしく、とにかく生きていた。
「冗談じゃねぇ、このままじゃ捕まっちまう」
 男は体をひねって何とか縄を解くと、急いで逃げ出そうとした。
「どこへ行くつもり?」
 女性の声がしたため、男は驚いて立ち止まった。見張り役に残されていたキラであった。
「残念ね、このまま大人しくしていればまだ生きてられたかもしれないのに‥‥」
 いつの間にかキラは男の背後にまわって、彼の首に剣を突きつけていた。
「逃げ出そうとするなら、容赦しないわ」
 そして夜の空に男の悲鳴が響き渡った。

 にぎやかな町の中心部にありながら、外界と切り離された空間がある。教会のことだ。
「やれやれ、2人も何とか無事に帰ってきた」
 司祭は2人のシスターを窓越しに見ながら微笑んだ。ミラシアたちは丁度外の畑で今日食べる野菜を収穫していた。
「平和が何よりです。この平和を与えてくださる主に感謝せねばなりません」
「助けてくれた冒険者の人達にもね」
 ミラシアが付け加えると、エスリルはええ、といって頷いた。
「でもね、実は私、この間のことは結構楽しかったって思ってるんだよ。教会での退屈な生活とはぜんぜん違う、次に何が起こるかわからない感じがあって」
「ちっとも懲りてないですのね‥‥。あなたは教会で働くよりも、冒険者になった方がいいのかもしれません」
 エスリルは疲れた顔をしてため息をついた。
「エスリルもそう思う?じつは私も丁度そのことを考えていたんだ!」
 ミラシアはエスリルの本心にも気づかず、屈託のない笑みを浮かべていた。

 そのころ町では以前来た偽劇団のメンバーがついに捕まったという噂を聞くことができた。
 だが憲兵に引き渡された団員はシリエを含む4人であったという。
 残る一人の団員の行方は未だに知られていない。