約束を守りたい
|
■ショートシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月11日〜08月16日
リプレイ公開日:2005年08月19日
|
●オープニング
その少女、レイナは変わった首飾りをつけていた。それは小さな鍵を紐に通したものだった。
「これはね、私のご先祖様が遺跡で見つけたものなの」
少女は言った。
「その遺跡は昔の砦だったみたいだけど、今は二つの塔しか残っていないそうだわ。塔の一つにこの鍵が隠されていて、もう一つの塔にこの鍵で開く宝箱があったらしいの」
「‥‥そのご先祖様というのは、宝箱を開けたの?」
少女の話を聞いていた少年ユオンは恐る恐る尋ねた。少女は首を振った。
「塔には魔物がすみついているの‥‥鍵を手に入れるとき、ご先祖様と仲間は魔物と戦って大怪我を負ったの。だからもう一つの塔の探索はあきらめた」
今も塔には開かないままの宝箱が眠っているという。
「なら僕がその宝箱を開けるよ!」
突然少年が言った。少女はびっくりした。そんな言葉が出てくるとは思わなかった。
「僕が宝箱を開けて、その中身をレイナにあげる」
「‥‥そんなの、無理よ。塔には魔物がいるのよ」
少女が言うには、ご先祖様が戦った魔物というのは鎧に身を包んだ骸骨だったらしい。もともとその砦にいた戦士か何かの亡霊に違いない。
しかし少年は続ける。
「今は無理かもしれないけど、五年待ってくれたら‥‥五年後までに必ずそこに行って宝箱を開けるよ」
「‥‥じゃあ約束よ」
そう言って少女は首飾りを外すと、少年に手渡した。
「ああ約束だ」
少年はそう言って首飾りを握り締めた。
そんなことがあってから、そろそろ五年近い月日が建っていた。
「‥‥まずい」
ユオンは焦っていた。約束した期限が迫っているというのに、宝箱を開けることが出来ていないのだ。
全く何もしていなかったわけではない。いちど塔に行ってみたことはある。
しかし塔の上方で何かが蠢いている影が見え、恐ろしくなって帰ってきてしまったのだ。
「おはよう、ユオン」
自宅の庭でうろうろしながらそんなことを考えていたら、通りかかったレイナが挨拶をしてきた。
彼女はあの時以来宝箱の話をしたことはない。
もしかして忘れてしまったのだろうか。いや、そんなことはないだろう。
約束は守らなくてはならない。
そう考えたユオンは冒険者ギルドに行って協力を求めることにした。
●リプレイ本文
冒険者達とユオンはようやく塔の前にたどり着いた所であった。
「たしかにここです。前に一度来たことがあるから分かります」
ユオンが言った。荒れた土地に崩れそうな古い塔がひとつ建っている。
見たところもう一つの塔の所在は分からなかった。崩れ去ってしまったのだろうか?
「そうか、ずいぶん荒れ果てたところだね〜」
ライラック・グッドフェロウ(eb3304)が言った。ふよふよと浮かんだまま辺りを見回している。
塔の入り口に着いたところでマリウス・レナス(eb3294)がユオンに言った。
「それでは塔の中に入りますが、ユオンさん、決して私たちから離れたり、一人になってはいけませんからね。魔物が出てきてもあわてて逃げ出さないで私たちの後ろに隠れていてください」
「わかりました」
ユオンは緊張した面持ちで答えた。その様子を見てマリウスはため息をついた。
「いいですか? いくら約束したこととはいえ、あなたが危険な目に遭ってまでそれを守って欲しいと彼女が思っているとは考えられません。このようなことは今回限りですからね」
それを聞いたユオンは頷きながらもやや不安げな顔をしていた。
月村 匠(ea6960)が塔の扉に手をかけた。古い扉は軋みながらも、何の問題なく開いた。
一行は塔の中へ足を踏み入れた。
フェリシア・フェルモイ(eb3336)が掲げるランタンだけが塔の中を照らしていた。
「ひどい有様だ。ここで戦いでもあったのだろうか」
月村が言った。他の者達は何のことか分からなくて首をかしげた。月村が地面を指した。
「これって‥‥きゃぁっ」
捧徳寺 ひので(eb0408)が近くにいたフェリシアに飛びついた。危うくランタンを落としそうになったが、なんとか耐えた。
地面に散乱していたのは人の白骨であった。
「嬢ちゃん、もうちょっと気をつけな」
「あ、はい。ごめんね、フェルシアさん」
「いえ、驚くのは仕方ないと思います」
そう言ったフェルシアも落ちている骨を見て顔をしかめていた。
「そういえば、ここに出る魔物って動く骸骨なんだよね?」
ライラックがユオンに尋ねた。ユオンは確かにそう聞いたと答えた。
「ここの骨は動かないよね?」
「いや、分からん。今にでも起き上がって俺達に襲ってくるかもしれない」
捧徳寺の問いに月村はそう答えた。冒険者達は顔を見合わせた。みな不安げな表情をしていた。
奥のほうに上の階へと続く階段があった。冒険者達とユオンはそっと、音を立てないように階段をのぼっていった。
階段は塔の壁に沿ってらせん状に続いていた。手すりはあるのだがかなり古いために今にも壊れそうだ。
一行は慎重に階段を昇っていった。
何階まであるのかわからないが、だいたい塔の真ん中辺りまで何事も無く進むことができた。
「な〜んだ、魔物なんて出ないじゃない」
捧徳寺が明るい表情でいった。ところがその彼女の声に反応したのか、部屋の暗い方から無数の羽ばたく音が聞こえてきた。
「コウモリか!?」
バサバサバサ‥‥コウモリの群れが階段の近くにある窓から飛び出していった。この塔を巣にしているのだろうか。
「ユオンさん、怪我はありませんか?」
「はい、少し引っかかれましたが、大丈夫です」
冒険者達とユオンはコウモリが通るときあわてて頭を引っ込めたので、深い傷は負わずにすんだ。
「大丈夫そうだな。もう少しで最上階に着くだろう。それまで気を引き締めていこう」
月村が皆に言った。冒険者達は再び階段を昇り始めた。
しかし結局何事も無く最上階に着いた。階段から見て部屋の一番奥に雑多な荷物が転がっており、その中には鍵の掛かったいかにも宝箱といった感じの物もあった。
「きっとあれがそうです」
ユオンが宝箱を見て言った。首に下げていた鍵を握り締め、宝箱のほうへを向かおうとする。
「ちょっと待った」
ライラックがユオンをとめた。今まで誰も開けられなかった宝箱である。何か罠があるかもしれない。
「先に宝箱の周りを確認するから、おいらが合図してから来てね」
「あ、はい。すいません」
ライラックはふわふわと飛びながら宝箱の前まで来た。箱自体はとくにこれといって変わった所はないが‥‥
ガチャリ。
突然の音に驚いてライラックは振り向いた。さっきまでバラバラに地面に散らばっていた骸骨が起き上がってきたのだ。
骨は2体。1体は捧徳寺たちの方へ、もう1対はライラックのほうへゆっくりと近づいてきた。
月村が武器を金棒から鎮魂剣「フューナラル」に持ち替えるのが見えた。一人だけでいるのは危険だ。早くあちらに戻らなくては、とライラックは判断した。
捧徳寺たちの側に現われた骸骨は月村に剣を振るった。月村は横に飛んで避けようとするが間に合わない。剣は月村を斬りつけた。
月村はカウンターで骸骨に思い切り反撃を入れた。鎮魂剣「フューナラル」は骸骨に確実に打撃を与えていた。
しかし自分が受けた傷も小さなものではない。
「月村さん! 回復しますので下がってください」
「う‥‥すまない」
フェリシアがリカバーの呪文を唱え始める。その間にマリウスと捧徳寺が骸骨を攻撃するがいまひとつ効いていないようだ。
もう一体の骸骨がライラックに斬りかかった。ライラックはすばやくそれを交わし、月村たちのほうに戻る。
「マリウスさん、危ない!」
捧徳寺が叫んだ。油断した隙に骸骨がマリウスに斬りかかってきていた。マリウスは軽くステップを踏み攻撃をかそうとするがうまくいかない。
斬りつけられてよろめいた所もう一体の骸骨が斬りかかろうとするが、こちらはなんとか身をねじって避けた。
「大丈夫!?」
「ええ、なんとか」
その後、ライラックが唱えていたムーンアローを骸骨の一体に当てる。しかし殆ど効いていないようだった。
足止めぐらいにはなるだろう。そう考えてもう一度詠唱を始める。
フェリシアがリカバーで月村の傷を癒す。次にマリウスの傷を癒すため再びリカバーの詠唱を始める。
回復した月村はさっき攻撃した骸骨に斬りかかった。確かな手ごたえがあった。よくみれば骸骨は立っているのがやっとという感じである。
ふらついた足取りで捧徳寺に斬りかかるが、問題なく避けられた。そこへライラックのムーンアローが命中した。
骸骨は大きな音を立てて砕け散った。
残ったもう一体の骸骨が月村に襲い掛かるが、さっきと同じ戦法、カウンターで反撃した。月村も攻撃を受けたが、さっきより傷は深くないと感じた。
「宝っていう物は死んだ奴には用がねえ。生きている奴が使って価値がある物だぜ。解ったらこの鎮魂剣で素直に成仏しちまいな」
そう言い放つと一旦旅装束の影に刀身を隠し、その後すばやく骸骨に斬りつけた。太刀筋の見えない(そもそも見ているのか分からないが)攻撃の前に、骸骨は防御する暇も無かった。
「倒したか?」
剣を鞘に収めた月村が振り返った。残念だが、かろうじて骸骨は動いていた。近くにいたマリウスたちに斬りかかろうとするが、彼女達は何とかこれを避けた。
ここで何か決意したような表情で捧徳寺が飛び出す。月桂樹の木剣を振りかざして骸骨に止めを刺した。骸骨はバラバラになり、動かなくなった。
「嬢ちゃん?!」
「やった! あたし、モンスターをたおせた!」
彼女が冒険者になってから目標にしていたことを、今達成したのである。
再度辺りを確認し、今度こそ何も無いことを確認したので、ユオンは宝箱の鍵を開けた。
重たい蓋を開けると、大きな箱だが中に入っているものはたった一つであった。
「首飾りですね」
十字架の飾りに細い紐を通しただけの首飾り。ただこれだけのためにレイナの先祖たち、そして自分達も危険を顧みず冒険をしてきたのであった。
「まあ良いんじゃない? きっと彼女に似合うと思うよ」
ライラックが笑顔で言った。
冒険者たちは塔を離れ、パリへと戻ることにした。
‥‥その後ユオンがどうしたかと言うと、すぐにレイナの元へ行って首飾りを渡したのである。
彼女は最初にひどく驚き、それからものすごく怒った。
「まったく、もし大怪我してたらどうするの!」
たとえ理由がどうであれ、ユオンに危ない目にあってほしいとは思っていなかった。
しかしそのときは怒って帰ってしまったレイナだが、次の日から彼女はその首飾りをつけるようになっていた。心なしかうれしそうな表情もしていたが、ユオンと目を合わせるともう危ない所にいってはだめよ! としかめっ面で言うだけであった。
ユオンは彼女が喜んでいるのか怒っているのか良くわからなかった。
しかし約束を守ることはできた。ならそれはそれでよかったのだろう、と考えることにした。