深い霧の島
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■ショートシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 66 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:10月06日〜10月14日
リプレイ公開日:2005年10月19日
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●オープニング
冒険者ギルドには変わった人もたくさん来る。冒険者だけではなくて依頼人もだ。
今日来たのはローブを着込んだ女性(?)であった。室内でもフードをかぶったままで顔は良くわからない。
「深い霧に包まれた島をご存知かしら?」
その女性が受付係に言った。受付係の男性は、知りませんね、と首を振った。
「確かに知らなくても不思議ではありません。その島の周りの海は一年のほとんどの間、霧に覆われているため、滅多に船が近づくことが無いと言われています。もちろん無人島です」
顔の見えない女性は、やや偉そうな口調で受付係に説明した。
その島は普段は周りを霧で覆われているが、一年の内でも今の時期、大体一ヶ月の期間は霧が晴れ、近づくことが可能になるという。どうやら女性はその島へ行きたいらしい。でも、なぜ?
「大昔、その島にも人が居たらしいのです。その島に住んでいた人たちは神殿を建て、いまでもその残骸が遺跡として残っているといいます」
そして遺跡には彼女の探している宝石が眠っているのだという。
「宝石‥‥ですか?」
「ええ、黒くてこのくらいの大きさらしいわ。本で読んだだけなので、本当は違うかもしれないけど」
そう言って女性は指で輪っかを作って大きさを示した。
「つまり、その島へ行って宝石を手に入れる手伝いをすればいいのですね」
受付係がそう言うと、女性は「話は最後まで聞きなさい」といって笑った。
「宝石は宝箱に入っているわけでも、祭壇に飾られているわけでもないの。神殿には動く悪魔のカタチをした石像が棲んでいて、その石像の首に宝石は付けられているのよ」
つまり、石像を倒さないと宝石は手に入らないということだ。
「‥‥でも、なぜそんな宝石が欲しいのですか?」
「別に深い理由はないわ。私は宝石を集めるのが趣味なのです」
そう言って女性は微笑むと、冒険者ギルドを去った。
●リプレイ本文
●神秘の島
一年のうち一時期だけ霧が晴れる島があるという。
すでに住む人はいないが、昔は人がいたらしく、神殿の跡が残っているのだとか。
そしてそこにある宝石を手に入れたいという一人の女性の案内によって、冒険者達はいまようやく島にたどり着いた。
「ああ、やっと‥‥着いた!」
船から降りたレテ・ルーヴェンス(ea5838)はそう言いながら腕を伸ばした。
「ここがその島なのね。一年に一度しか来れないなんて、神秘的」
続いて降りてきたフェリシア・リヴィエ(eb3000)が辺りを見回しながら言った。
「神秘的か‥‥そういう言い方だと綺麗に聞こえるがなぁ」
月村 匠(ea6960)は今回の依頼を少々胡散臭く感じていた。
今日手に入れる宝石は動く石像が守っているのだという。レテが聞いた話によると、ガーゴイルというらしい。そのような宝石がただの宝石とは考えにくい。
依頼人は趣味で集めているみたいに言っていたのだが、本当の所はどうなのだろう。
そう思って月村は依頼人であるローブの女性のほうを見た。相変わらず、フードをかぶったままである。
女性は船でも必要以上に冒険者と接しようとはしなかった。フェリシアは彼女と宝石の話をしようとしたが、どんな宝石を持っているのか具体的には口に出さないようだった。
「‥‥考えてもしょうがないか」
そもそもそんなことを考えても依頼には関係ない。肝心なのはこれから行く遺跡から、どのようにして宝石を持ち帰るかと言うことである。
●光の祭壇
それは外から見ただけでは神殿と言うより、洞窟だった。
洞窟の中は細い一本の道が続いており、奥のほうは暗くてよく見えなかった。
「それでは、警戒していきましょう」
明かりを確保するために、シルフィリア・カノス(eb2823)がランタンを持って歩くことにした。
レテ、月村の二人が先頭に立って一本道を進んでゆく。
「あら、何か明かりが見えませんか?」
アリシア・キルケー(eb2805)が洞窟の向こうを指差した。確かにぼんやりとした光が見える。
「他の入り口があるのでしょうか? 祭壇の間は外とつながっているのかもしれませんね」
ディートリヒ・ヴァルトラウテ(eb2999)が光の方を見ながら言った。
それでも念のためランタンを持ったまま冒険者達は進んでいった。
コウモリが数匹飛び回っている以外は、特に何事も無く祭壇の間の前まで来ることができた。
「石像は見えますか?」
後列にいたミラファ・エリアス(ea1045)がレテに尋ねた。
「ええ、いくつか見えるわ」
しかしどれが動くのかは解らない。
「うまく動くガーゴイルを探して、おびき出したいですね」
ミラファは言った。入り口近くで戦うことができれば、逃げやすいと考えたのだ。
部屋に入る前にアリシアがデティクトアンデットの呪文でガーゴイルの大体の位置を調べることにした。
しかし部屋の外からではこれと言った反応は無かった。
「‥‥ちょっと奥のほうにいるみたいですね、ほほ」
そう言ってアリシアは苦笑した。
仕方ないので、部屋の中でもう一度呪文を使うことにした。
冒険者達は祭壇の間に入り、大体ここまでが呪文の範囲だったであろう、という所まで移動した。
「‥‥天井から光が射してる!」
フェリシアの声で皆一斉に天井を見上げた。祭壇の間の天井はドーム型になっており、その一番高い所の天井が古くなって壊れていたのであった。
捨てられた神殿に射す一筋の光に皆しばし見とれていた。しかしここにガーゴイルという物騒なものがいることを忘れてはいけない。
アリシアは再びデティクトアンデットの呪文を使った。
「北の方に一体反応があります‥‥もう一体も近い位置にいますね」
北にはちょうど祭壇があった。祭壇をはさむように左右に悪魔の像が並んでいた。それ以外にも、近くにいくつか同じ形の像が立っている。
あの中のどれかがガーゴイルなのだろう。
「ホーリーフィールド!」
不意打ちを避けるため、シルフィリアが周囲に結界を張った。
●動く石像
冒険者達があらかじめ準備を終えた上で、レテがゆっくりと祭壇に近づいた。
どこから襲ってくるかはっきりとは分からないガーゴイル‥‥だがなるべく早く宝石を手に入れるには近づくのが一番いいだろう、と彼女は判断した。
「‥‥左へ行ってみましょう」
祭壇の左右に二体の石像が並んでいる。もしこの両方がガーゴイルであるのなら、真っ直ぐ祭壇に近づいていくのは危険かもしれない。
二体が同時に襲ってくる可能性もある。
レテは左の石像にそっと近づいていった。
すると、不意に石像が翼を広げ、ゆっくりと宙に浮かび上がったではないか。
「!」
ガーゴイルの視線がレテに向けられた。石像の目は良く見えなかったがぼんやりと光っているのが分かった。何かの魔法で動いているようだ。
そして首には黒くて丸い宝石が付けられている。あれが依頼人の探していたものか。
レテは宝石を確認すると、自分に向かってくるガーゴイルにむかって日本刀を叩きつけた。
ガーゴイルの動きは案外すばやく、持っていた幅広の剣で受けようとした。
しかし日本刀によって剣は二つに折れてしまった。もっとも剣と言っても、石像と同じ石でできた飾りだったのだが。
生物なら驚いたかもしれないが、あいにくそのようなそぶりは見せない。
レテはガーゴイルの武器が壊れたのを確認すると、すばやく後ずさった。
ガーゴイルは剣を捨てると、自分の鋭い爪でレテに斬りかかった。
バチン!
見えない壁によってガーゴイルの攻撃ははじかれた。シルフィリアは自分の張った結界が解呪されたのを感じ取った。
「ウィンドスラッシュ!」
後ろで待機していたティワズ・ヴェルベイア(eb3062)がそれを見計らって、準備していた魔法を放った。
真空の刃がガーゴイルに直撃し、ひびが入ったのが見えた。続いてフェリシアもホーリーを打ち込んだ。
しかしガーゴイルはよろめきはしたものの、まだ動き続けていた。
再びレテに向かって爪を振り下ろす。
「危ない!」
そこで月村が前に飛び出して、代わりにガーゴイルの攻撃を受け止めようとする。しかし失敗して月村はガーゴイルの爪で切りつけられた。
「このっ‥‥!」
月村は金棒「鬼魂」でガーゴイルにカウンターアタックを喰らわせた。強烈な打撃を受けたガーゴイルはよろめいて地面に落下した。
そこへタイミングよく駆け寄ってきたレテが日本刀でスマッシュを決めた。
「グアアアッ!」
ガーゴイルが大きく吼えて起き上がった。だがもう弱っているのか、飛び上がろうとはしない。
今度は月村に向かって突進してゆく。だが月村は先ほどと同じように、カウンターで反撃をきめた。
ガーゴイルは大きく後方へ跳んで動かなくなった。
冒険者達はガーゴイルが再び動き出さないが様子を見ていたが、どうやらその様子は無かった。
ティワズがそっとガーゴイルに近づいて、宝石に触れた。
宝石は像の首に紐でくくりつけられていたので、ナイフで紐を切ったらあっさりと外れた。
「‥‥何だ?」
宝石を持った途端、ティワズは奇妙な感じを受けた。何か魔法の品なのだろうか。
しかしすぐにその感覚は消えてしまった。
「まだもう一匹動く石像がいるはずよ、すぐにここを出ましょう」
レテが言うか言い終わらないうちに、祭壇の反対にいた石像がバサリ、と翼を動かした。
「アイスコフィン!」
ミラファが急いで動き始めた石像に呪文をかけた。宙に浮き始めていた石像は氷で固められ、地面にものすごい音を立てて落下した。
冒険者達は他に動く石像がいないのを確かめると、すぐに神殿を後にした。
●宝石収集家
神殿の入り口で待っていた女性は、宝石を受け取ると
「確かに私の探していたものです。ありがとうございます」
と言った。
「その宝石は一体何なの? 何か普通の宝石とは違う感じがするのだけど」
ティワズは不思議そうに女性に尋ねた。
「私には分かりませんが何か奇妙な感じを受けましたか? この宝石はここに神殿を作った人々が神聖なものとして扱っていたと聞きます」
女性は首を傾げたが、ローブのためその表情は分からなかった。
「変といえば、この神殿もそうですね。悪魔の像ばかり並んでいるなんて」
ディートリヒが言った。
「そうですか? 私は魔よけか何かだと思いますね」
だがいくらなんでも数が多すぎないか。ディートリヒはそう言おうとしたが、女性は黙って船の停めてある岸へと歩き始めた。
「いつまでもこの島にいるわけには行きません」
と女性は言った。早く帰らないとまた霧に覆われて帰れなくなってしまうだろう、と。
そうして冒険者達は船に乗ってパリへ帰ることになった。
帰る途中、女性は何か考え事をしているらしく、ほとんど口をきかなかった。
冒険者達が島のほうを見ると、島に行く前より霧が濃くなり始めているのが分かった。
まだ島を確認できたが、そのうち霧に覆われて見えなくなってしまうのだろう。