未完成の剣

■ショートシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月07日〜08月12日

リプレイ公開日:2004年08月15日

●オープニング

「だめだね、お前さんの武器はわしには作れん。ただの鍛冶屋ならわしの他にもたくさんいるはずだ。」
 鍛冶屋のオーサンは頑固者で、これと決めた相手にしか武器を作ることはなかった。だがその腕は確かで、作られた武器はどれもすばらしい出来だったという。
 オーサンに認められるということはそれだけで名誉なことだった。だかそんな客はここ数年現れていない。武器を作ってほしいという者は何人もいたのだが、オーサンが首を縦に振らなかったのだ。
 そんな状態に変化がおきたのはほんの数ヶ月前。一人の若い騎士がオーサンの元を訪れ、剣を作ってもらえることになったのだ。
 鍛冶屋はすでにかなりの老齢だったが、作業しているときの目つきは若いころと変わらず、鋭い光を放っていた‥‥という。
 なぜ過去形なのか、というと、実はそのオーサンが先日亡くなってしまったからだ。

 死因は作業場で足を滑らしてしまったこと。打ち所が悪かったらしく、2、3日寝込んでいたが、ついに彼が作業場に戻ってくることはなかった。
 未完成の剣だけが作業場にぽつんとのこされていた。

 彼の葬式から三日後、オーサンの弟子のひとりが夜中にふと目をさました。
「‥‥師匠?」
 寝台の近くに淡く光る青白い老人の姿がみえた。これは夢なのだろうか。
「夢じゃないよ、わしはまだここにいる。ただ一つのことが気になって、死んでも死にきれないという状態でな」
「剣のことですか」
 弟子がそう尋ねると、老人の霊は悲しそうにうなずいた。
「本来ならわしの後を引き継いで、お前たちが完成させるのが正しいのだろう。だが、あの剣だけは自分の手で完成させたいのだよ」
「でも、どうやって?」
「誰かの体を貸してほしい」
 そうすれば、自分で剣を完成させることができると霊は言った。
「じゃあ、私の体を使ってください」
「ありがたいが、他人に取り憑くということは、憑かれた者に大変な負担がかかるらしくてな。お前も体力はある方だと思うが、もっと元気な者に頼みたいのだよ。それに作業があと何日かかかることを考えると、協力者は何人か居てくれた方がいい」
「わかりました、協力してくれそうな人を探してきます」
 弟子がそう言うと、老人の霊は安心したような表情になり、姿を消したのだった。

 次の日、冒険者ギルドにこんな内容の依頼が出された。
「体力に自身のある方募集。鍛冶屋のオーサン」
 これを見た冒険者たちは皆、信じられないという顔をした。だが彼の弟子は本気だった。
「嘘だと思う方は試しに今夜、うちの作業場に来てみてください。師匠が直接会ってくれるそうです」
 ちなみに体力に自身はないが作業の手伝いをしてくれる人、取り憑かれたあとの協力者を看病してくれる人も募集するそうだ。
 自信満々の弟子の様子を見ていると、どうやらこれはただの冗談ではないようだと冒険者たちも思うのだった。

●今回の参加者

 ea1606 リラ・ティーファ(34歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 ea1899 吉村 謙一郎(48歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2448 相馬 ちとせ(26歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4716 ランサー・レガイア(29歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea5225 レイ・ファラン(35歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea5276 アズマ・ルークバイン(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 その夜は、誰にとっても忘れられない不思議な時間となった。

「‥‥本当に来てくれたのか、有難いことだ」
 オーサンの霊は作業場に集まった冒険者の面々をみて嬉しそうに微笑んだ。
「話はあなたの弟子から聞きいたぜ。剣の完成に協力させてくれ!」
 ランサー・レガイア(ea4716)は霊に向かって言った。
「私は体は貸せないけど、雑用や看病をしたいよ」
 リラ・ティーファ(ea1606)など、他の者達も次々に協力する意思を示した。
 オーサンと弟子はそのとき、剣の完成を確信したのであった。

 全員で明日からの段取りを話し合う。オーサンに体を貸せる者は三人いたので、アズマ・ルークバイン(ea5276)がくじを作り、順番を決めた。
 一日目がランサー、二日目がアズマ、レイ・ファラン(ea5225)は作業が延びたときのための補欠、という形になった。
「オーサン、一つ聞いていいでしょうか?」
 アトス・ラフェール(ea2179)が尋ねた。なぜ何年も剣を作らなかったあなたが、そこまでして剣を作る気になったのか。一体依頼主のどこが決め手だったのか。
「そうだね、わしは依頼主の目を見る。すると彼らが自分の命を大事にしているかそうでないかが分かるのだよ」
 騎士たる者、名誉を重んじることはもちろん大事なことだ。だが命を粗末に扱って戦功を立てることは自分勝手なことではないのだろうか。命は自分ひとりのものではない。死ねば愛する人や主君など大勢の者達が悲しむだろう。
「本来、戦士とはそういった者達を守るために剣を振るったのだとわしは思う。わしは本当の戦士にだけ武器を作りたいのだ」
 オーサンはそれだけ言って姿を消した。

 次の日、冒険者達がオーサンの工房にやってくると、オーサンに剣の製作を依頼した騎士が訪ねてきていた。
「よく来てくださった、さぁ皆さん作業場のほうへどうぞ」
 騎士はオーサンの声が聞こえて驚いた。玄関にはオーサンが憑依したランサーが立っていた。よく見ると服も皮鎧から作業服に着替えている。
「本当にオーサンが憑いているのか‥‥?」
 円 巴(ea3738)がおそるおそるランサーに尋ねた。彼は無言のままうなずいて笑った。
 そのまま一行は作業場に移動してランサー、いやオーサンの作業の手伝いと見物を始めた。
 彼はかまどに火をおこし、作りかけの剣を熱すると、ハンマーで打ち始めた。その手際は何十年も剣を作り続けた職人そのものたっだ。
「私にできることなら何でもします‥‥。何かできることはないでしょうか‥‥?」
 相馬 ちとせ(ea2448)がオーサンに尋ねた。オーサンが冷たい水を持ってきてほしいというと、彼女はすぐに外の井戸へと向かった。また鍛冶の経験がある吉村 謙一郎(ea1899)はオーサンの作業の手伝いをした。
「俺も手伝いたい。必要なことがあったらどんどん指示してくれ」
 レイもオーサンに言った。彼は外で薪割りをすることになった。
 作業は順調に進んでいるように見えた。

 異変は昼を過ぎたころに起こった。昼食時すでに顔色の悪かったオーサンだが、とうとうまったく動けなくなってしまったのだ。
「オーサンさん、あまり無理をしないでくだされ。ランサーさんの命にかかわるだべよ」
 吉村に説得されて、オーサンは一旦ランサーの体を離れることにした。ランサーは気絶して床に倒れた。
 レイらが彼を引きずって作業場の隅に移動させた。
「憑依による疲労に加えて、慣れない鍛冶作業による疲労。どうやら一人の作業できる時間は思ったより短いようだね」
 リラはランサーの状態を見て言った。一人では約半日しか作業できないということだ。レイを入れてもあと一日しか作業できない。果たして剣は完成するのだろうか。
「とにかく早めに作業するよう心がけるしかない。オヤジさん、次は俺の体を使ってくれ」
 アズマがその場にいるであろうオーサンに声をかけた。すると彼の顔つきが変わった。
「迷惑をかけてすまない。まさかここまで体力を使うとは思わなかった。わかった、剣はなるべく早く完成させるようにするよ」
 アズマに憑依したオーサンは申し訳なさそうに言った後、再び作業を始めた。
 リラとアトスは体力を消耗したランサーの看病をすることにした。

 次の日の朝。ランサーとアズマはまだ体が回復せず、起き上がれなかった。
「剣は完成するのでしょうか‥‥」
 相馬は心配そうに、作業しているオーサンの後ろ姿を見ていた。今はレイの体に憑依している。
 昨日の夜、オーサンは剣を見ながら、明日中には完成するといった。だがレイの体がどれだけ持つか分からない。
 時間が経つにつれ、レイの顔色は悪くなっていく。
「お昼の時間ですよー。師匠、早く来てください」
 オーサンの弟子は声をかけたが、彼は黙って作業を続けていた。
「オーサン、少し休まないとレイの体が持たないぞ」
 円がオーサンに冷たく言い放った。彼の作業の手が止まった。
「わかってる、だが時間がない。一刻も早く剣を完成させないと‥‥」
「その結果レイを死なせてしまってもいいのですか?命を粗末にする者は嫌いだったのでは」
 アトスが言った。オーサンは昨日彼に語った話を思い出した。
「間に合わないなら私の体をお貸しします。無理をなさらないように」
「すまない、わしは目先のことにとらわれすぎていたよ」
 オーサンの憑いたレイはそう言って涙を流した。

「という訳で私はオーサンにこれから体を貸します。よってレイの治療はできない。皆さんよろしくお願いします」
「わかったよ、後は任せて」
 リラの言葉をきくとアトスは安心してオーサンに身を任せた。
「もうすぐ剣も完成する。吉村どの、あの人を呼んできてほしい」
 アトスがオーサンの声で言った。
「わ、わかったべ」
 吉村は剣の依頼人である騎士を呼びにいった。彼が騎士と話しているのを聞いて、ようやく起き上がれるようになったランサーが客室から出てきた。
「とうとう剣が完成するのか。俺も見に行くぜ。あの剣は俺も作るのを手伝ったんだからな」
 意気込みとは対照的に足元はふらふらとしていた。彼は吉村と騎士に支えられながら作業場へと歩いていった。

 完成した剣はオーサンのそれまで作った武器の中でも最高の物となった。
「さすが、としか言いようがないな‥‥」
 円たちは息を呑んだ。騎士は弟子から受け取った剣を申し訳なさそうにみていた。
「私などのためにここまでしてくださって‥‥オーサンと皆さんには感謝してもしきれません」
「いいんだよ、オーサンを救うためにもこれが一番よかったんだと思う」
 リラはそこまで言って、いつの間にかオーサンの気配が作業場から消えていることに気がついた。
 彼も剣の出来に満足したのだろう。
「騎士さん、製作を手伝った者として剣の出来を確かめておきたいだ。お手合わせ願う」
 吉村はそう言って日本刀を取り出した。騎士はうなずくと、庭へ移動しようと言った。

 オーサンの幽霊が剣を作ったと言う噂はすぐに広まったのだが、ほとんどの人は冗談か何かだと思って信じなかった。
 彼の工房は弟子達が引き継いだという。皆優秀な職人で、そのうちオーサンのような名匠が現れても不思議ではないだろう。

 しばらくしたある日、以前オーサンの手伝いをした冒険者達の何人かが偶然再会した。
「はぁ、本当にオヤジさんは剣を作ったのに。誰も信じてくれないんだよな‥‥」
 アズマは無理解な世間を嘆いた。町の入口の近くのことである。近くにはいかにも詐欺師な男が、包丁や鍋を並べて売っていた。
「さぁ見ておくれ!これはかの名匠オーサンの霊が打った包丁だ。今なら一本買うともう一本ついてきて大変お得ですよ」
「幽霊が包丁作るわけないだろ、それにオーサンは武器が専門だ」
 少年達が詐欺師を馬鹿にしている。相馬はその様子を見て笑った。
「いいのではないでしょうか。剣は確かに出来ましたし、そのことにオーサンさんも満足しているはずです‥‥」
 ランサーも彼女の言葉に同意した。
「確かにそうだ。わかるやつだけが分かっていればいい」
 その後三人は別れ、別々の道へと旅立っていった。
 世の中にはまだまだ不思議なことがある。今回の出来事もその一つには違いない。
 この出来事の真実が理解されなくても、オーサンがすばらしい職人であったことに何ら変わりはない。
 彼の名と最後の剣を含めた作品達がその価値を失うことはないだろう。