祖国の料理
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■ショートシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月30日〜09月04日
リプレイ公開日:2004年09月07日
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●オープニング
「ああ、何か美味しいものが食べたいなぁ‥‥」
ジャパンからやってきた武器商人、原田林太郎はここ数年祖国の味に飢えていた。
自分で似たような材料や道具をそろえて料理を作ってみるのだが、あいにく料理が下手なため満足の行く物ができない。
知り合いに料理の上手いジャパン人がいる訳でもないので、彼の不満は解消されることなかった。
「なるほど。確かに、最初はノルマンの料理が珍しくて、美味いと思ったりする。だがしばらくすると、やはりジャパンの味が懐かしくなってくるものだ」
彼の不満に同意するのは浪人の松岡しづ。彼女はジャパンにいたころからの原田の知り合いであった。
だがあいにく彼女も、料理は食べる方が好きなたちであった。
「いいことを考えた。冒険者ギルドに依頼を出して、冒険者達にジャパン料理を作らせてみるのはどうだ? 原田は商人だし依頼料くらいは出せるだろう」
だが松岡を見る彼の目は冷たかった。
「しづ‥‥そんな事言って自分はただで飯を食うつもりなんでしょう」
「そ、そんなことはない!私は、ええと‥‥」
松岡はしばらく考えていたが、ふと何か思いついたかのように手をたたいた。
「よし、冒険者達についていって食材集めを手伝おう。原田は材料の用意をしなくていい、ということで」
「どうやって集めるのですか、市場で買い物するとか? それとも釣りや狩をするつもりですか?」
「その辺は冒険者達に任せよう。もとより完全にジャパンと同じ食材を集めるのは難しいだろうし、柔軟な発想で行こうじゃないか」
原田はなんとなく不安で顔をしかめたが、松岡は自信たっぷりのようであった。
「これで決まりだな。さっそく依頼を出してくる。じゃあ準備よろしく」
‥‥こんな会話が小さな食堂で交わされたのが昨日のことであった。
そして今日。パリの冒険者ギルドにこんな依頼が出されていた。
「料理人募集」
依頼主は武器商人の原田林太郎。ジャパンの料理を作ってくれる冒険者を探している、ということだった。
ジャパン人じゃなくても何かしらの料理を知っていれば作ることが可能だし、もし知らなくても他の冒険者の手伝いや材料集めをするために依頼を受けていいという。
料理は冒険者達全員で一品作ればよい。作る料理も材料もほぼ自由ということだ。
あまりにひどい出来のものは却下されるだろうが。
「一体どんな料理が出来るのやら‥‥」
早くも原田は心配で仕方がなかったのである。
●リプレイ本文
その日、原田の家には冒険者ギルドからやって来た者たちが集まっていた。
「ジャパンにはお月見という祭りがあるんだって。これって、丁度いま位の時期の話だよね」
フィリア・シェーンハイト(ea5688)がジャパンについて調べてきたメモを見ながら言った。
今、彼らはどんな料理を作ろうか話し合っている最中であった。
「ところで原田さん、調味料はどんな物が用意されているのかしら。味噌はありますか?」
フィーラ・ベネディクティン(ea1596)が尋ねた。
「あいにく味噌は高級品だからねえ。今回は米を買ったら予算がなくなってしまったよ」
原田はそう言って苦笑いをした。
米は一般の市場ではなかなか見かけないため、原田があらかじめ買っておいたのだ。
「醤油は以前使っていた物が少し残っている。他に塩と蜂蜜があるし、何とかなるだろう」
松岡しづが台所を見回しながらそういった。
「ではとりあえずメニューは焼き魚、ご飯、漬物、醤油でおすましを作るという所でよろしいかしら?」
燕 桂花(ea3501)が皆の意見をまとめながら言った。
「だしはどうする?」
「それは何ですか」
松岡の質問に、逆にエリック・レニアートン(ea2059)が尋ねた。
「ああ、海草や魚の干物を煮出した汁のことだ。これを汁物に使うと、料理にうまみが出る」
「なるほど」
エリックは興味深そうに話を聞いていた。
「じゃあ市場で小魚の干物か何かを探しましょう。似たような物なら出来ると思うよ」
アフィマ・クレス(ea5242)が言った。
大体の意見がまとまったところで会議は終わった。冒険者達が原田の家を出る頃には日が暮れ始めていた。
次の日の朝。一行は市場に買出しに来ていた。
活気にあふれた市場には新鮮な食材が色々と売られていた。
「おお、このキャベツは美味しそうだ。一ついただこう」
雷 鱗麒(ea6115)が品物を一つ一つ見極めながら買ってゆく。
「ジャパンにはきゃべつなんて野菜はなかったぞ」
松岡が文句をつけたが、実は単に野菜嫌いなだけだったりする。
魚は川魚がほとんどであった。アフィマの意見により鮭を買うことになり、雷が新鮮そうな物を選んだ。
他に小魚の干物、ニンジンなど必要な材料は何とかそろった。
同時になぜかフィリアが小麦粉を買っていた。どうやら何か作るつもりらしい。
「早く戻って料理の支度をしましょう」
シアルフィ・クレス(ea5488)が皆に言った。冒険者達は原田の家へと急いだ。
ご飯を炊くのは一苦労であった。釜がないので鍋で代用して炊いたのだが、これが難しい。
「ああ、そんなに火が強いとこげてしまうよ」
原田がかまどに張り付いていたエリックに注意した。
「ふむ、わかった」
エリックは慌てて火を調節した。
「よくお米の粒を見てね」
燕が彼に指示を出した。一方彼女は別の鍋ですまし汁を作っている。
料理が好きというだけあって、慣れた手つきをしている。すぐに台所にいい香りが漂ってきた。
また台所のテーブルでは雷が鮭をさばいており、フィリアが小麦粉に水を混ぜた物をこねていた。
「‥‥ちょっと、人が多すぎるな」
様子を見に来た松岡はそう言って食堂の方へと歩いていった。
食堂では他の冒険者達がテーブルセッティングや飾り付けをしていた。
「‥‥なんだそれは」
松岡はアフィマとフィーラが縫っていたレースのフリル付きクッションにショックを受けた。
「何って、『ザブトン』に決まってるじゃないですか!」
それはアフィマのまちがったジャパン知識の産物であった。
一方、シアルフィとエミリエル・ファートゥショカ(ea6278)のほうはいくらかまともに、テーブルクロスや、皿を選んで出していた。
手が空いていたらしいフィリアも台所からやってきて会場のセッティングを手伝った。
「やっぱり食事は清潔なところで食べたいからね」
飾りつけが終わると普段の原田の家では考えられないさっぱりした空間がそこにあった。
だが椅子の上におかれたレース付きクッションが妙に浮いているのは否定できない。
そのころ台所ではようやくご飯が炊き上がった。少しこげている部分もあったが、食べる分には問題ない程度である。
すまし汁をつくりおえた燕がニンジンとキャベツで塩漬けを作る一方で、雷が鮭の切り身を焼き始めた。
もくもくと白い煙が煙突を昇っていった。
「ごほごほ‥‥すごい煙ですね」
エリックは驚いたように窓から顔を出した。ふと外を見るとなぜか人だかりが出来ている。
どうやら火事と勘違いされたらしい。なぜなら煙突から出切れなかった煙が窓などから漏れていたのだ。
「おい、大丈夫か?」
通りがかりの人が心配そうに声をかけた。
「あ‥‥ああ。心配ご無用」
そういうとエリックはなんとなく恥ずかしくて首を引っ込めた。
鮭を焼いた後ドアや窓を開けてなんとか煙を追い出すことが出来た。
「これで完成ね」
燕が盛り付けの終わった料理を見て言った。
ご飯、焼いた鮭の切り身、すまし汁(具はニンジンとキャベツである)、それに漬物。
思ったより本格的なものが出来たようだ。
「あとこれもどうぞ。デザートですよ」
フィリアがそう言って蒸したての団子を持ってきた。餡子がないので蜂蜜がかけてある。
「それでは、いただきます」
二人は並べられた料理に箸をつけた。
「‥‥‥‥」
しばし無言で食べ続ける二人。あまりにも何も言わないので冒険者達は不安になった。
「あの、お味は‥‥どうでしょうか?」
おそるおそるフィーラが尋ねた。
「あ、つい夢中で、すまない。あまりに美味しくて答えるのを忘れていたよ」
原田が満面の笑みで答えた。
「ああ、美味い。この団子も故郷の物とはまた違うが、甘くて美味しい」
蜂蜜のかかった団子を食べながら松岡が答えた。
「それはよかった」
皆は安心して胸をなでおろした。
帰り道、冒険者達はそれぞれ自分の故郷の料理のことを考えていた。
ノルマン生まれでない者たちは、長いこと故郷の料理を口にしていないことになる。
「俺も今度故郷の料理という奴をつくってみようかな」
雷がそうつぶやいた。
「甘いな。僕は料理人を目指すことにしたよ」
というエリック。どうやらご飯を上手く炊けたことで、料理に目覚めたらしい。
時刻は夕方、そろそろ腹が減ってもおかしくない時間であった。
「どこかで一緒に食事しない?」
「賛成!何食べようかな‥‥」
ああだこうだと話し合いながら冒険者達は人ごみの中に消えていった。
こうして今回の冒険は無事、幕を閉じたのである。