多すぎる遺産
|
■ショートシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月12日〜09月17日
リプレイ公開日:2004年09月20日
|
●オープニング
ある日のことである。冒険者ギルドにアムリルという女性がやってきた。
「実は、冒険者の方にお掃除を頼みたいのです」
ただの掃除なら冒険者は必要ない。これはきっと何かあるのだろう。
「掃除してほしいのは、私の祖父の屋敷です」
アムリルは説明を始めた。
アムリルの祖父は商人であった。船に乗って自ら外国の品を探しに行くことも珍しくなかったという。
「ただ、問題なのは‥‥祖父はちょっと他の商人とは違ったセンスを持っているのか、あまり価値のない、変わった物を買いたがる性格だったのです」
それらの品物は珍しいといって売れることもあるが、役に立たないことが多いので売れ残った物も数多くあったという。
しかし祖父は品物に妙な愛着があるらしく、それらの売れ残りを捨てずに家に取っておいたというのだ。
「ふた月前に祖父が死んで、屋敷は私に譲られることになりました。私はそこに移り住もうと考えましたが、今の物があふれた状態ではとても住みづらいので、掃除をすることにしたのです」
だがそのとき問題が発生したと彼女は言う。
祖父は魔法の品物も良く集めていたが、たいていは無害な物や偽物が多かった。
だがどういうわけか、彼女がうっかり棚に入っていた薬を複数落としたときに混ざったものが奇妙な気体を吹き出したという。
「毒かもしれない、と私は思ったので一旦屋敷から逃げ出して、次の日換気するために再び屋敷を訪れたのです」
そこで彼女が見た物は現実とは思えない光景だった。
「ええと、なんていいましょうか‥‥お化け屋敷というか、見世物小屋というべきか。ちょっと普通じゃない屋敷になってしまったのです」
簡潔に言うと、アンデットの巣窟になってしまったのだという。
祖父のコレクションであった骨格標本やはく製が生き返ったかのように歩き出し、彼女を見つけると襲ってきたというのだ。
アムリルは何とか敵の手を逃れ、屋敷から脱出できたというが、このままでは掃除が再開出来ないので何とかしてほしいということであった。
掃除というよりもそんな怪物たちがいつ屋敷の外に出てこないか、という方が心配だと思うが。
「いいえ、どうやらその怪物たちは例の気体の中でしか動けないようなのでその辺は心配ありません」
そう言って彼女はカバンから一枚の羊皮紙を引っ張り出した。
羊皮紙には『お屋敷の不用品リスト』と書いてあった。
「掃除をする前に私が作ったメモです。これによると、骨格標本は一体。はく製は犬のものが一体、鳥が二体となってます。確かにそう数えたのを覚えています」
他に生物に関係する品物はなく、また無生物が動いたり飛んだりする、いわゆるポルターガイストのような物は見られなかったという。
「という訳で、怪物の始末と屋敷の掃除を依頼したいと思います」
当初は自分で掃除をするつもりだったが、せっかく怪物退治を依頼するのだから掃除も一緒にお願いしたいのだという。
「祖父は変わった人でしたが、私にはいつもやさしく接してくれました。屋敷は私と祖父の思い出の場所でもあるのです。どうかよろしくお願いします」
そう言い残して彼女は冒険者ギルドを立ち去った。
●リプレイ本文
よく晴れて、気持ちのいい風が吹く日。そんな日に家に篭っているなんて考えられない、という方は大勢いるだろう。
だが、世の中にはわざわざひと様の、それも汚らしい廃屋に篭らなければならない冒険者だっているのだ。
そんな彼らが屋敷の前に集まったのはまだ昼前のことであった。
「これが『お屋敷の不要品リスト』の写しです。といっても、屋敷にあるほとんどの物が書いてあるので、残すものの方が少ないのですけどね」
アムリルはそう言ってリラ・ティーファ(ea1606)にメモを手渡した。
「ありがとう。参考にするよ」
一方で、紫微 亮(ea2021)は、
「まずは状況把握をしないとな」
といって、屋敷の壁を上りはじめた。他の冒険者達は心配そうに紫微の様子を見守っている。
彼は一階部分の屋根に上ると窓から二階を覗くことにした。木製の窓はしっかり閉められていたが、何とかこじ開けることが出来た。
窓を開いたとたん、かび臭い空気が外に流れてきた。
「気をつけろ!例の気体に毒が含まれているかもしれない」
ランサー・レガイア(ea4716)が下から紫微に注意した。
紫微は袖で口を覆い、そっと家の中を覗いた。ほこりっぽい室内が見える。見えたのは廊下だが、けっこう物が散乱していた。
陽のあたらない場所で何かの目が光ったような気がしたが気のせいかもしれない。
彼は地上に戻って他の者たちに状況を説明した。
「私は二階に行きたいです。元凶の薬品を見ておきたいから」
「じゃあ俺は一階へ行こう」
話し合った結果、二組に分かれて内部を調査することになった。
屋敷のドアを開けると、かび臭いにおいがした。
紫微は、においが二階でかいだ物よりきつくないことに気がついた。
「もしかして、これは例の気体のにおいなのか‥‥?」
「それはありえるな。とにかく俺は換気するくらいしか出来そうにない」
ユウリ・グランブルー(ea6036)はそう言って腕を組んだ。
入り口のすぐ近くに階段があった。冒険者達は、ここから二手に分かれて行動することにした。
二階は一階よりもかび臭く、一行は袖や布で口を押さえながら、紫微があけた窓の近くまで歩いた。
今のところ、アンデットらしき影は見えないが、リラがデティクトアンデットで調べると、二体ほどのアンデットが近くにいる気配がした。。
「ここが、書斎です」
アムリルが廊下の奥のドアを指差した。ここに怪物がいるかもしれない。
アミ・バ(ea5765)が恐る恐るドアを開けた。かび臭いにおいが、今までにないくらい漂ってきた。
冒険者達はあわてて口を押さえたが、生き物にはとくに害がないようであった。
「あ、あれが、薬ではないでしょうか?」
キャシー・バーンスレイ(ea6648)が指差したのは、床に転がった一枚の皿。
その中で、ふたつの小瓶からこぼれた液体が混ざり合い、灰色の煙のようなものを出していた。
「キャシーさん、試しにピュアリファイをかけてみてよ」
「は、はい」
キャシーが詠唱して魔法をかけると、皿の液体は気体を出さなくなり、室内のかび臭いにおいが消えた。
「これでアンデットも動きを止め‥‥」
と、アミが言い終わらないうちに、入り口近くで物音がして一行は驚きの声を上げた。
「がるるる‥‥」
その二匹は一見犬に見えた。だがよく見ると所々体が崩れており、骨や詰め物が見えた。
本来動くはずのない、生きてない存在である。
「オーラソード!」
アミは光の剣を作りだした。ロングソードより遠慮なく家の中で振り回せる。そこで彼女は突進してきた犬達に逆に斬りつけた。敵の動きはそれほど速くないので、簡単に刃を当てることが出来た。
「キャインッ!」
犬は二匹ともダメージを負い、一瞬動くのをやめた。そこへすかさず、
「ホーリー!」
「ピュアリファイ!」
リラとキャシーが放った神聖魔法により剥製の犬は動きを止めた。
「すごい!」
冒険者達の戦いをはじめて目にしたアムリルは驚き、喜んだ。しかし、
「ああ‥‥びっくりした」
とリラが胸をなでおろしたのを見ても分かるように、彼女らもまた別の意味で驚いていた。
なぜ気体の発生源をなくしたのにアンデットが動いていたのか。その原因は一行が部屋を出てすぐに分かった。
「‥‥部屋の外の気体はまだ残っているのね」
アミが廊下に立ちどまって考えた。この気体はアンデットではなかろうか? そう考えた彼女は光の剣を闇雲に振り回してみたが、効果は無いようであった。
「とにかく、窓という窓を開けて、風通しをよくするしかないでしょう」
キャシーの言うとおりであった。一行は廊下や部屋の窓を全部開けると、一度一階へ戻ることにした。
時間は少し戻って、二手に分かれた直後。
「‥‥なんだこれは」
ランサーは台所の前で唖然とした。
アムリルの話によれば、もとはテーブルに飾った遠い国の得体の知れない花がはじまりだったという。
次第に植物の種類も増えて、テーブルに置けなくなり、床や棚などあらゆる場所に増殖していった。
いまでは「密林」以外にこの空間を表す言葉はない。
「一階の他の部屋の換気は終わりました。アンデットらしきものは見かけませんでしたが‥‥」
ほかの部屋を回ってきたレミナ・エスマール(ea4090)とユウリが帰ってきた。
「つまり、ここにいるのだろう。見たところ、草が多いせいで気体が篭っているようだ」
紫微は台所を外から眺めてそう言った。
次の瞬間、草むらの奥から四つの目が光り、一行は慌てふためいた。
「落ち着け! 奴らは台所から出ることは出来無いんだ。折角だからこっちから攻め込んでいこう」
ユウリが皆を説得した。何とか落ち着くことの出来た冒険者達は、それぞれ武器を構えると台所に乗り込んだ。
案の定、というかやはり、植物だらけの台所は視界が悪い。
一行は剣やナイフで草を切ったり、鉢植えをどけたりしながら前に進んだ。
狭い室内なので、すぐにアンデットは見つかった。
一つは剥製の鳥、もう一つは白骨標本である。鳥が羽ばたくと剥製の羽がぼろぼろと崩れ落ち、白骨はなぜかおもちゃの剣を振り回していた。
「後で掃除が大変ですわ!」
レミナが叫んだ。もっとほかに気にするべきことがあるはずだ。
ランサーと紫微がそれぞれ白骨と鳥へ攻撃を仕掛けた。白骨は剣に当たって少し崩れたが、鳥は紫微の脇を抜けてユウリの方へ飛んでいった。
「気をつけろ!」
紫微が声を上げた。ユウリは驚いて鳥を見ていたが、何かひらめいたらしく一直線に台所の出口を目指す。
その間、レミナがホーリーで白骨を攻撃した。骨の動きが少し鈍った。
「こっちへ来い!」
ユウリは草を掻き分け、台所からとび出した。
今までは気体の中から出ないアンデットたちだったが、ついさっきまではこの部屋も気体に覆われていたせいか、それとも攻撃対象がいたからか、とにかく鳥はユウリめがけて台所をとび出した。
ポトリ。鳥はユウリの額寸前で落下した。完全に、動きを止めていた。
「なるほど‥‥。おい、骨!こっちに来い」
ランサーがそれを見て同じように白骨を台所の外に誘導しようとした。しかし白骨はランサーが台所を出ると感付いたらしく、目標をレミナに変更した。
「きゃぁっ、こっちにこないでください!」
そう言いながら放ったホーリーで何とかこちらの動きも停止した。
「何とか終わったか‥‥」
紫微達は台所の窓を開けて篭っていた気体を追い払った。
そうしているうちに、二階へ行っていたアムリルやアミ達とも合流し、屋敷の掃除することになった。
「何か仕事の参考になるものはあるかな?」
リラは書斎を整理しながら本やメモなどを確認した。だが根拠の無い出まかせとしか思えない伝説などがほとんどだった。本物と思える内容のものはあったが、すでにリラが知っている以上の物は存在しなかった。
他のアイテムを期待していた者たちも同じような結果だったようだ。つまるところ、売れ残りに掘り出し物などないのであった。
「まあ何でもかんでも貰うのは気を付けた方がいいってことね。この屋敷みたいになりたくないのなら」
アミは客室を掃除しながら苦笑した。
昼過ぎになり、いったん居間で休憩することになった。
ここはすでに片付けが終わっており、すっきりとしていて快適だった。
「あの、よろしかったらこれどうぞ」
台所から現れたレミナとキャシーがお皿に載った何かを運んできた。クリエイトハンドで出した粥状の食事である。
「これも、一応食べられるので‥‥」
キャシーが顔を赤くしながら差し出した食事は、レミナのものとは違いべっとりとした餅状になっていた。
味の方は問題なく、皆仕事の疲れを癒すことが出来た。
「今日は本当にありがとうございました」
夕方、大体の掃除が終わり、アムリルは冒険者達に感謝の言葉を述べた。これで、ここに住むことが出来る、と彼女は言った。
祖父との思い出の屋敷。そこにあった品々はほとんどゴミとなってしまったが、彼女は気にしない。
なぜなら、物よりも大事な思い出がこの屋敷に詰まっていることを知っていたから。
残念なのは、祖父がその事実に気が付かなかったこと。でもいまさら考えてもしょうがないことである。
冒険者達はそれぞれの帰り道、自分の部屋を掃除しようかと考えたかもしれない。
もちろんそんな事考えずとも普段からきれいにしている人、まったく片付けない人もいるだろう。
アムリルの祖父の家はほんの一例に過ぎない。
ならば、彼らの家はどんな姿をしているのだろうか?