祝福の香り

■ショートシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月18日〜09月23日

リプレイ公開日:2004年09月26日

●オープニング

 薬草売りのブリストは各地を歩いて、薬草を売る仕事をしていた。
 家族はパリに近い小さな村に住んでいるが、遠くに薬を売りに行くとなかなか帰ってくることが出来なかった。
 ちょうど、現在もパリに滞在していたが、薬草を仕入れたらすぐに出発しなくてはならなかった。
 とある村へ薬草を届けると約束していたのだ。
 そんな時、ブリストは一通の手紙を受け取った。妻からであった。

「今パリにいると聞きました。体の具合はどうですか? 薬草売りが病気になってしまう、なんてことのないように健康管理には気をつけてください。‥‥ほんとは来月あたり、帰ってきてほしいのだけど。あ、これは書かないでくださいね」
 妻は字が書けないため、どうやら誰かに代筆してもらったらしい。
「来月って、何かあったかな‥‥?」
 ブリストは考えた。そういえば、そろそろ娘の誕生日だった気がする。
 すっかり忘れていた。
 毎年、この時期はうまく都合をつけて、家に帰りお祝いをしていたのだが、今年はそれも無理そうだ。
「せめて、何か贈り物をさがそう」
 そう考えて彼は宿をとび出した。

 しばらくして、冒険者ギルドにブリストの姿が見られた。
「これを、うちの娘に届けてください」
 そう言って差し出したのは小さな鉢植え。さまざまな種類のハーブが植えてあり、ほのかによい香りがした。
「私の家はここからそう遠くない村にあります。歩いて二日くらいでしょうか。私は明日には出発しなければならないので行けませんので、代わりに冒険者の方に届けてほしいのです」
「それは構いませんが‥‥その方面は、最近山賊がでるらしくて、あまり行く人がいないそうです。それでも行ってくれる人がいるかはわかりませんが、一応依頼は出しておきますね」
 ギルドの受付の者が言った。
 山賊、という単語にブリストは不安になったが、ゆっくりしている暇は彼にはなかった。
 彼は明日出発する準備をするために宿へと帰っていった。
「もう五歳だっけ、きっと大きくなっているんだろうな‥‥」
 娘のことを思い、彼は誰に言うわけでもなくつぶやいていた。

 次の日、冒険者ギルドに彼の依頼が出された。
 内容は彼の言ったとおり、鉢植えを届けてほしいという物であったが、ギルドからの注意として以下のことが付け足されていた。
「現在この村へ行く途中の道で山賊が出没しています。人数ははっきりとは分かりませんが四、五人といわれているようです。気をつけてください」
 はたして贈り物は無事、娘まで届くのだろうか?

●今回の参加者

 ea2082 ラマ・ダーナ(45歳・♂・レンジャー・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea5118 ティム・ヒルデブラント(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5765 アミ・バ(31歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5779 エリア・スチール(19歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea6085 ガイ・マードゥリック(33歳・♂・僧侶・シフール・エジプト)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea6392 ディノ・ストラーダ(27歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6969 チャッピー・チャップマン(21歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 この山道はこのところ随分人通りが減ってしまった。なんでも山賊が出るとの事。
 それでも目的を果たすため、この道を敢えて選ぶ者達はいる。
 シフールの男性、ガイ・マードゥリック(ea6085)は冒険者達の一行に先行するように山道を進み、何か怪しいものがないか確認するといったん引き返して報告した。
「今のところは特に変わったことはない。単なる荷物運びの仕事だ。そんなに注意する必要もないだろう」
『‥‥そういう考えはあまり賛成できないな。我々には単なる荷物かもしれないが、依頼者はそうは思っていないはずだ』
 通訳を受けたラマ・ダーナ(ea2082)は、そう言って鉢植えの方を見た。ハーブの鉢植えはチャッピー・チャップマン(ea6969)が用意した木箱に大事にしまわれていた。
「では、そろそろ出発しましょう」
 ティム・ヒルデブラント(ea5118)の呼びかけによって、一行はぞろぞろと徒歩で移動を始めた。

 日が暮れるまで何事もなく進むことが出来た。冒険者達は適当な場所を見つけると、野宿の準備を始めた。
 簡単な食事を終えると、二組に分かれて見張りをすることにした。
 最初の組は、アミ・バ(ea5765)、チャッピー、ディノ・ストラーダ(ea6392)、ガイの四人であった。
「ハーブが枯れないように、水をあげるのだ」
 チャッピーは木箱をそっと開けて、鉢植えに水をやっていた。箱を開けると、ハーブの爽やかな香りが微かにした。
 ディノは周囲の草を結んでいる。アミが、
「何してるの?」
 と尋ねると、彼は紳士的にほほ笑んで答えた。
「罠を張っているのだ。山賊が来たときに足を引っ掛けて転ぶようにな」
 そのときディノの後方でふいに「ドサッ」と何かが倒れる音、続いて、
「大丈夫ですかい、おかしら!」
 と叫ぶ何者かの声がした。
「‥‥‥‥」
 顔を見合わせるアミとディノ。これは、つまり‥‥
「アミ、急いで寝てる者を起こしてくれ!」
 ディノが叫んだ。それとほぼ同時に山賊の一団が彼らの前に現れた。

「おかしらを罠にはめたのはお前らか! 一体何のつもりだ」
 山賊の一人がディノに向かって言った。
「この一帯に山賊が出ると聞いてな。安全のためだ」
 ディノはそう言って苦笑いをする。アミに起こされた冒険者達はそのころようやく今の状況を理解した。
「どうも迷惑をかけてすいませんでした。私達はある植物を運んでいるだけです。金目の物はありません」
 起きてきたティムが前に出て言った。
「そんなことはどうでもいい! 俺たち山賊団の沽券に関わる問題だ。おかしらに害なす者をほっとく訳にはいかねぇ」
 どうやら交渉は無理らしい。ユリア・ミフィーラル(ea6337)がそう判断してため息をついた。
「おめぇらよく言った‥‥こいつら全員タダでは済まさないぞ‥‥」
 山賊のリーダーと思われる男が言った。だが本人は転んだときの打ち所が悪かったのか未だ立ち上がれないでいる。
 こうして冒険者達は山賊と戦う羽目になった。

 山賊は剣士が三人、弓使いが二人である。剣士であるリーダーは今動けない状況なので、実際の戦力は四人。
 冒険者達の人分の半分である。よっぽどのことがなければ負けないだろう。
 山賊たちもそのことに気づいてないはずないのだが、頭に血が上っているのか、考えなしに飛びかかってきた。
「最初にあのジャイアントの男を倒せ! 他の者はそれからでいい」
 動けないリーダーが山賊たちに指示する。
「む‥‥」
 前に立っていたラマに弓使いが矢を放つ。だが彼がホイップを振り回すと、放たれた矢ははじかれて地面に転がった。
 一方エリア・スチール(ea5779)は矢をリーダーに向かって放つ。
「痛ぇっ」
 リーダーは痛そうに転げた。
「そっちが先に攻撃してきたのよ!」
 ユリアはそう言って肩をすくめた。
 そして、アミやガイたちの活躍により、山賊たちはすぐに捕まったのであった。

 山賊たちをどうするか冒険者達は話し合ったが、結局、村の領主に引き渡すということで落ち着いた。
 日が昇る少し前には皆準備を終えて、冒険者達は縄で縛った山賊たちを引っぱりながら村へと向かった。
「村が見えてきましたぁ〜」
 エリアが眼下に広がる谷に見える家の集まりを指して言った。依頼人ブリストの家族が住んでいるという村である。
『‥‥依頼人の家がどこか聞いてくれないか』
 領主に山賊を引き渡しているティムにラマが言った。ティムはラマの言葉を通訳して聞かせた。
 村の領主はブリストの家の所在を教えてくれた。
「そういえば、さっきから何人か見当たらないんだけど‥‥」
 アミが辺りを見回した。確かに、ディノやエリアの姿が見当たらない。
「何か考えがあるのよ、きっと。あたし達は先に家に行きましょう」
 ユリアはあまり心配してない様子だった。そこで現在いる者たちだけで先にブリストの家に行くことになった。

「はい、どちらさまでしょうか‥‥?」
 ブリストの家に行くと、彼の妻が出てきた。こんな田舎の村に突然見慣れない集団がやってきたので、少し緊張している様子だった。
「じつは、私達、ブリストさんの依頼で娘さんの誕生日プレゼントを持ってきたのです」
 ティムが説明し、チャッピーが木箱をあけて鉢植えを見せようとした。
「あれ!鉢植えがないのだ」
 チャッピーは空の木箱を見て驚いた。ブリストの妻はますます訝しげな顔をして冒険者達を見た。
「お母さん、何かあったの?」
 娘と思われる少女が出てきた。
「スフィ、今お客さんとお話してるから。いい子にしてなさい」
 母は娘にあわてて言った。

「なるほど、彼女がスフィか」

 どこからかそんな声がした。冒険者達は思わず周りを見回した。よく知っている声だったからだ。
 次の瞬間、物陰から二人の影がとび出してきた。
 一人は道化の仮装をしたディノ。もう一人は覆面で目元を隠したエリアであった。
「お誕生日おめでとう、リトルレディ」
「お誕生日おめでとうですぅ〜。はい、これお父さんからのプレゼント」
 エリアはそう言って少女にハーブの鉢植えを渡した。(あ、あそこにあったのだ! というチャッピーの声がした)
「わぁ、きれい!それに‥‥いい香り!」
 少女は目を閉じて鉢植えの香りをかいだ。
「これは‥‥どうも疑ってすみませんでした。こんな村までわざわざありがとうございました」
 ブリストの妻はそう言って冒険者達に非礼をわびた。

 こうして、父親の贈り物は無事届けられた。
 ブリストはしばらくしてパリの冒険者ギルドより届いた手紙で、無事ハーブの鉢植えが届いたことを知った。
「ああ、よかった。‥‥だが来年はこんなことにならないようにしないと」
 次こそは贈り物という形ではなく、娘のそばで誕生日を祝ってやりたい。
 そう考えながら、ブリストは次の町へと旅立っていった。