知識の断片

■ショートシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月05日〜10月10日

リプレイ公開日:2004年10月13日

●オープニング

 冒険者ギルドに一人の男がやってきた。ちょっと神経質そうな、中年の男である。
 男はアーセイルと名乗った。本業の魔法の研究の傍ら、弟子を取っているという典型的なウィザードである。
「魔法は研究室の中で本を読んでいても使えるようになるわけではない、と小生は考えております。四大の精霊の理を理解するには、実際に‥‥」
 男の話は長い上に、依頼と一見関係ないようなところから始まっていたので省略する。
 つまり、アーセイルは魔法の理解を深めるために、よく弟子達を連れて野外に出かけ、動植物の観察や水や風の動きの法則を学ばせたりしていた。
 ある日、彼らがいつものように森の中で野外学習を行なっていると、いつもは見かけないモンスターの群れに出くわし、あわてて町に逃げ帰ってきたのだという。
「そのとき、大変なことに気がついたのです」
 その日は森の生き物を観察するために、資料として教会から図鑑を借りていたのだという。
 教会の方も以前にアーセイルに本を貸し出し、きちんと戻ってきた経歴があるので安心して貸し出したのである。
 だが古い写本のため、逃げている途中でページがいくつか抜け落ちてしまったのだという。
 アーセイルは森の入り口付近まで歩いてページを回収したが、森の中に落ちているはずの残り数ページは未だ拾っていないという。
「小生、モンスターが大の苦手なのです。背後に回れれば魔法の一発くらい当てられるかもしれませんが、正面から来たら恐ろしくて呪文の詠唱もできませぬ」
 そうは言っても、借りた本は返さなくてはならない。弟子達はみな未熟なため、回収を頼むわけにも行かない。
「という訳で、森に残してきた図鑑のページ四枚の回収をお願いします。あとなぜ急に森にモンスターが現れたのか、その原因も調べていただけるとありがたい」
 このままモンスターが現われ続ければ、最悪、森での野外実習をやめなくてはならないという。
「それだけは避けたいのです。あの森が無理だというのなら、違う場所を探すことになりますが‥‥」
 アーセイルは弱気な言葉を残してギルドを去った。

●今回の参加者

 ea2563 ガユス・アマンシール(39歳・♂・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea4284 フェリシア・ティール(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5254 マーヤー・プラトー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea7211 レオニール・グリューネバーグ(30歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea7342 アヴァ・クラン(32歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea7348 レティア・エストニア(25歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea7378 アイリス・ビントゥ(34歳・♀・ファイター・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea7383 フォボス・ギドー(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「‥‥結局、アーセイル様は来ませんでしたわね」
 レティア・エストニア(ea7348)はそう言ってため息をついた。
 パリから歩いて森へ向かう冒険者達。その中には依頼人と同じウィザードも何人かいる。冒険者と一般人の差はあれど、今回の依頼は彼らにとって他人事ではなかった。
「ああ、野外での実習活動、立派な心がけだが行動が伴ってませんな。だが、そのおかげで今、私達の仕事があるわけで‥‥」
 ガユス・アマンシール(ea2563)の心境は複雑であった。
「どうやらあれが例の森らしいな」
 フォボス・ギドー(ea7383)が立ちどまった。同時に他の冒険者達も前方を見る。
 そこには鬱蒼とした木々が生い茂っていた。冒険者達の前に伸びていたはずの道は、木々の間に吸い込まれ、先の様子がよく見えない。
「では、全員で手分けして探しましょう」
 レオニール・グリューネバーグ(ea7211)が辺りを見回して言った。
 冒険者達はそれぞれがどの辺りを探索するか簡単に話し合うと、何組かに分かれて森の中へ散っていった。

 少し戻って、冒険者達はパリのアーセイルの家にて説明を受けていた。
 本のページはすべて森の入り口近くに落ちていたはず、と依頼人アーセイルが言った。
「なぜなら、小生は普段から森の奥へは行かないようにしていたからです。ですが‥‥」
「ですが?」
 ガユスが彼の言ったことを繰り返した。
「一度だけ、森の奥まで行き、池の近くで昼食を取ったことがありました」
「森の奥‥‥。そのときはモンスターは見かけなかったのだな?」
 アヴァ・クラン(ea7342)が尋ねた。
「そうですねぇ、姿は見えませんでした。もっとも、見かけなかっただけで、いたのかもしれません」
 なんとも頼りない返事であった。
「奴らは用心深い存在です。必要がなければ、むやみに人前に姿を現さないでしょう」
「つまりその『必要』が出来たというわけか‥‥」
 アヴァはそう言って考え込んだ。一体何が原因でモンスターが出てきたのだろう。
「あの、一つよろしいですか‥‥」
 アイリス・ビントゥ(ea7378)がおそるおそる挙手した。
「なんでしょう?」
「先生は、今ここで見ている印象だとモンスターについての知識も豊富で、冷静に分析しているように見えます。‥‥それでも、いざ目の前にゴブリンなどが現れたら怖いと感じるのでしょうか?」
 アイリスの質問にアーセイルの表情が固まった。
 そして、次第に顔色が赤くなり‥‥うつむいてポツリと答えた。
「ええ」
 それはどうしようもない事実であった。冒険者達は彼の返事に嘘偽りがないことを悟った。

「こっちにもありましたわ」
 待ち合わせ場所に戻ってきたフェリシア・ティール(ea4284)の手には、図鑑の一ページである羊皮紙があった。
「意外に早くそろったな。これならいったん町へ帰って、ページを渡してくることが出来そうだ」
 マーヤー・プラトー(ea5254)が陽を見上げながら言った。
 レオニールは四枚の羊皮紙を受け取ると、レティアの用意した箱にしまい込み、しっかりと紐で閉じた。
「ではさっそく行きましょう」
 フェリシアが森の出口へ向かおうとすると、フォボスがそれを制した。
「まて」
「どうした?」
 マーヤーは尋ねたが、次の瞬間、彼も何者かの『気配』を察知した。
「ゴブリンか‥‥?だが、何かおかしい」
 冒険者達はモンスターがどこから現れるのか、神経を集中していた。
 だが敵は正面から堂々ととび出してきた。
「うわっ」
 レオニールはとび出してきた影に驚き、あわてて箱を抱えて木陰に隠れた。
「現れたな怪物、観念しろ!」
 フォボスは影の一つと取っ組み合いを行い、最終的に取り抑えることに成功した。
「なんだこれは‥‥ゴブリンの子供か?」
 アヴァは捕らえられたモンスターを見て驚いた。
「き、きゃあ!」
 その瞬間、アヴァの背後でアイリスの悲鳴が聞こえた。
 冒険者達が振り向くと、アイリスと子ゴブリン二匹が何かの包みを引っ張り合っていた。
「こ、これはあたしの大事なお昼ごはんなのです。取らないでください!」
 包みの正体は弁当であった。アイリスの側にフェリシア、マーヤーがつくことで、弁当は無事取り戻すことができた。
 振り払われた子ゴブリン達は何かキーキーとわめきながら森の奥へと消えていった。
「‥‥これは一体どういうことだ?」
 アヴァはアーセイルにもう一度話を聞く必要があると感じていた。

 冒険者達はいったん町に戻り、アーセイルに本のページを手渡した。
「本当に、ありがとうございます。引き続き、モンスターの現れた原因の調査の方もよろしくお願いします」
「そのモンスターなのですが‥‥」
 ガユスが森でモンスターに遭遇した際の様子を説明した。もちろんモンスターが子供であることもきちんと伝えた。
 アーセイルはそれを聞いて一瞬驚いたが、すぐに納得したらしい表情に戻った。
「そうでしたか。きっと小生は驚きのあまりゴブリンの大きさを正確に覚えてなかったのでしょう。すみませんでした。ですが、弁当を取ろうとした、というのは一体‥‥?」
「これから原因を確かめるために、森の奥へ行きます。アーセイル様も一緒に来ていただけないでしょうか?」
 レティアがそう言ってほほ笑んだ。依頼人は驚いて顔を上げた。
「で、でもモンスターが‥‥」
「なに、たかが子供のモンスター。自分達と一緒なら問題ないだろう」
 フォボスはそう言ってニヤリと笑う。こうしてアーセイルは半ば強制的に森へ連れて行かれた。

 再び森の中。
 冒険者達とアーセイルは森の中にある小さな池のほとりに来ていた。
 そこは以前アーセイルとその弟子たちが来た時とほとんど同じ状態を保っていた。
「なんだこれは」
 マーヤーが拾い上げたのはボロボロになったバスケットであった。
「それは、小生たちが弁当を入れるのに使っていたものです」
「なぜそんなものが?」
 フェリシアが尋ねると、アーセイルは説明した。
 ここで昼食を食べた日、パンが僅かに余った。アーセイルたちは後で誰か食べるかもしれないと思い、池の近くにパンの入ったバスケットを置いて実習を再開したが、持ち帰るのを忘れてそのままにしてしまったという。
「おそらく、子ゴブリンたちはどこかからこの森に迷い込んできた者だろう。昼食を取っているアーセイルさんらの姿を見、残ってるパンを食べて、人間が食べ物を持っていることを知ったと思われる」
 アヴァはそう結論付けた。すべての結果の原因は、アーセイル本人によるものであった。
「では、モンスターたちが人前に現れないようにすることはできないのですか?」
 アーセイルは深刻そうに尋ねた。
「そういう訳でもないですよ。たとえば、その子モンスターを元々住んでいた場所に返すなどすれば、あるいは‥‥」
 レオニールはそう言いながら、アーセイルの肩越しに茂みを眺めた。
 依頼人の背後の茂みには、小型のゴブリン三匹とさらに小さいコボルト一匹の頭が並んでいる。
 アーセイルは視線に気づき、振り返ってその様子に驚いた。
 だが今回はあらかじめ子供であることを知っていたため、逃げ出すようなことはなかった。
「先生はえさをくれる人だと思っているんですよ、きっと」
 アイリスはその光景をほほえましく見ていた。
 アーセイルはしばらく考え込んでいたが、ついに心を決めてモンスターの子供達の方へ一歩踏み出した。