【収穫祭】人形を愛でる男

■ショートシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月26日〜10月31日

リプレイ公開日:2004年11月05日

●オープニング

 パリにシフール専門の衣服を作る仕立屋がいるという。テルルという男で、もちろん彼もシフールである。
 さて、今は収穫祭の季節。各地で仮装パーティが開かれているとのことで、彼の店でも華やかな衣装の売り上げが伸びている。
「よし、これで明日までに渡す分は完成だ」
 衣装は一着一着が手作りのオーダーメイド品である。高級で普段は注文も少ないが、祭の時期は徹夜で作業することも多い。
 この日も夜遅くまで作業が続いていた。ようやくできあがった衣装を店内に飾ったテルルは、そのままテーブルの上で眠ってしまった。

 次にテルルが気がついたときには、外はすでに明るかった。
「はっ、衣装がない!?」
 テルルは店内を見回して驚いた。飾ってあったはずの衣装五着が無くなっていた。
 丁度そのとき、店に一人のシフールが入ってきた。客だったらどうしよう、と焦ったテルルだったが‥‥
「おはようございます、テルルさん」
 入ってきたのは最近近所にやって来たリィンという女性であった。何でも旅の奇術師らしい。
「どうかしましたの?」
「じつは‥‥」
 テルルは事情を説明した。リィンは衣装が無くなったと聞いて驚いたが、ふと何か思い出したらしい。
「そう言えば、この街に住んでるエイラックって人を知ってますか? 貴族らしいんですけど、ちょっと変わった趣味を持っているそうで‥‥」
「知ってるも何も、たまにうちの店に来るよ」
 エイラック男爵は人形を愛でるのを趣味とするいい歳した男である。テルルは彼のために人形の服を何着か作ったことがあった。
「まさか、男爵が誰かに衣装を盗ませたとか言うのかい?」
「一度に五着もの衣装が欲しいと思うなんて、たくさん人形を持っているあの人くらいですわ」
 リィンは力強く主張した。確かに、他に衣装を盗む者が思いつく訳でもない。
「分かった、仮に男爵が盗ませたとして。あの人はうちのお得意さまだ。直接聞くのもなんだか気が引ける」
 テルルは冒険者ギルドに調査を頼むことにした。

 彼が店を出ると、今日衣装を受け取る筈だった客の一人とばったり出くわした。
「テルルさん、衣装は出来ましたか?」
「あ、どうも。じつは‥‥材料がたりなくて、まだ仕上げが終わってないんです。もう少しお待ち下さい」
「そうですか‥‥お祭りが終わる前によろしくお願いしますね」
「はい、もちろんです」
 早く何とかしなくては。テルルは冒険者ギルドへと急いだ。

 

●今回の参加者

 ea6131 パナン・ユキシアル(30歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea6152 ジョン・ストライカー(35歳・♂・ナイト・シフール・イギリス王国)
 ea7401 アム・ネリア(29歳・♀・クレリック・シフール・ノルマン王国)
 ea7542 ララ・フェンネル(26歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea7551 アイリス・ヴァルベルク(30歳・♀・クレリック・シフール・フランク王国)
 ea7738 ブライアン・セッツ(21歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea7855 クコ・ルナーシェ(30歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 その日、パリの町外れにあるエイラック邸に突然、四人の訪問者が訪れた。これまでひっそりと人生を送ってきた彼は、面識の無い人達を一度にこれほど迎えたことが無かったので困惑した。
 応接室で四人はそれぞれ、どのような目的で彼に会いに来たか説明した。
「わたしは依代のさんこうにあなたの人形をみせていただきたいのです。男爵殿は沢山の人形をもっているとうかがいました」
 ジャパンの服装をした少年ブライアン・セッツ(ea7738)が言うと隣にいた彼の友人、クコ・ルナーシェ(ea7855)もそうだとうなずいた。
「わたくしも綺麗な人形を見せていただきたくて参りました」
 アイリス・ヴァルベルク(ea7551)は今回いつものローブではなくテルルの作ったドレスを着ていた。
「私も。よろしければ拝見させていただきたいです」
 アム・ネリア(ea7401)も同じ意見であった。
「そういう話ならもちろん大歓迎です」
 エイラックは喜んだ。こんな機会は中々ない。
 彼は召使に客人たちの世話を命じると、自分は二階へ駆け上がっていった。自慢の人形を選ぶために。
「客室の用意ができました。今夜はここに泊まって行ってください」
 召使が客人たちに言った。
「それは嬉しいです。その、彼の人形を見るのに時間がかかると思いますので‥‥」
 アムは慌てて言った。まさか本当の目的を言うわけにはいかない。
 召使は何も問わずにアムに笑顔を向けるのみであった。彼は客室へ案内しますとだけ言い、応接室を出た。客人たちは彼の後に続いたが、クコだけは部屋を出るとそのまま客室へは向かわずに庭へと歩き出した。

 クコが向かったのは別に屋敷に潜入しているはずの冒険者達の元へであった。屋敷の庭に隠れていた冒険者達(全員シフールなので隠れるのは割合たやすかった)は突然やってきた仲間に驚いた。
「クコ、あんまり目立つ行動は避けてくれよな」
 ジョン・ストライカー(ea6152)そう言って彼に注意した。
「なに、少し手伝いにきただけだ」
 クコがそういうとララ・フェンネル(ea7542)は不思議そうな顔をした。
「お手伝い、ですか?」
「ああ。今なら台所の窓から誰にも見つからずに屋敷に入ることができるぞ。主人は自分の部屋にいるし、召使は客室にいる」
「なるほど。ありがとうございます」
 一緒についてきたテルルの知り合い、リィンがクコに礼を言った。
 パナン・ユキシアル(ea6131)はリィンがついてきたことをあまりよく思っていなかった。屋敷に来る前に一度テルルの店の周囲を調査したのだが、事件の起こった時間に不審な人物は特に見られなかったという。
 ただ一人、リィンを除いて。
「では、屋敷に入ったらそれぞれ分かれて捜索することにしよう」
 ジョンはそういったがパナンはもっといい方法がある、と言った。
「二人一組で二手に分かれましょう。何かあったとき、一人よりも二人の方が解決しやすいと思いますし」
「そうですね」
 ララもこの意見には賛成した。
「リィンさんは私と一緒でいいでしょうか」
「ええ」
 リィンは冷静そうだったが、実際のところパナンの勢いに押されて承諾したという感じだった。
(「とにかく、私が彼女をしっかり見張らないと」)
 パナンはリィンから目を離さないようにしようと決心した。

 ジョンたちが屋敷に潜入して少し経った後、男爵が自室から沢山の木箱を抱えて降りてきた。
「これが私の持っている人形の中でも、とくに気に入っているものです。皆さんもきっと御満足して頂けるかと」
 彼はそう言いながらテーブルに木箱を並べ、フタを開けた。中には大小様々な人形が入っていた。どの人形も精巧に作られており、そのうち何体かは以前テルルが作った衣装を着ていた。ブライアンはその出来に目を見張った。
「でも、女の子の人形だけなのね‥‥」
 アイリスはそれぞれの人形の服装を見て言った。性別だけではない。人形にはどれも共通した点があった。瞳の色が青であり、髪の色は男爵と同じ赤茶色であった。
「これって、応接室に飾ってあった肖像画の女性にそっくりですね」
 アムが男爵にそういうと、彼は苦笑しながら同意した。
「ええ。実はこれらの人形は皆、私の娘に似せて作らせたものなのです」
「お嬢さんがいらっしゃるのですか」
「はい、正確には『いた』というのが正しいのですが‥‥」
 エイラックはそう言うと手元の人形に視線を落とした。数年前、流行り病で死んでしまったという。
「すいません」
 ブライアンが謝ると、彼は首を振った。本当はいつまでも娘に執着するのは良くないと自分でも分かっている。
「ですが、もし今あの子が生きていたらどんなに美しくなっていただろう。こんな綺麗な衣装も本物をプレゼントしてやりたかった」
 そう言って彼は人形を抱きしめたのだった。

 一方潜入したジョンとララは食器棚に隠れ、男爵たちの様子を見張っていた。
「ララ、あの人形の中に盗まれた衣装はあるか?」
 ジョンの位置からだと人形がいまいち見えづらかった。ララはテルルより渡されていた衣装の図案と人形を見比べながら、それらしき物は見当たらない、伝えた。
「そうか、ならば他のところに衣装がないか探さないといけないな‥‥」
 二階へ行こうか、と彼が言おうとしたそのとき、ジョンの目の前の視界が明るくなった。
(「しまった‥‥!」)
 気がつくとどうやらさっきの召使が食器を出そうと棚を開けたらしい。二人のシフールの目の前に男の顔があった。
「!」
 男は一瞬動きが固まったが、やがて何も見なかったかのように食器を取り出して棚を閉じた。二人は暗闇の中でため息をついた。
「びっくりした‥‥どうやら気付かれなかったらしい」
「いえ、あの人は確実に私達に気がついてました」
 ララは冷静に考えた。彼は家に何者かが侵入したことに気がついているが、主人には黙っているようだ。
 一体どういうことだろう。

「フォルチ、今日の夕飯はすばらしい出来だったな」
 夕食後、男爵は召使に言った。
「はい、お客様のために全力を尽くしました」
 フォルチ、つまりさっきララたちと鉢合わせた男は笑顔で答えた。
「それではいつもは手を抜いているみたいじゃ‥‥ない」
 だが最後まで言い終えないうちに男爵は食卓に突っ伏した。
「!」
 食卓を囲んでいた冒険者達の間に緊張が走る。
「アム、アイリス、男爵の介抱を頼む!」
 クコの叫び声に気がついた潜入組たちも一斉に食堂に駆けつけてくる。そして部屋の光景を見て驚いた。
「フォルチどの。何をなさったのです」
 ブライアンが問うと、男は馬鹿にしたように笑った。
「ウィザードであるあなたなら知っているはず。森の草花には毒を持つものもある」
 毒と聞いてアイリスの顔が真っ青になった。
「死ぬ訳ではありません。明日の朝になるまでは起きることはないでしょう」
「何が目的だ」
「肖像画です。あの絵を描いた絵師は当時は無名でしたが、今では宮廷絵師として名を連ねています。欲しがる人も大勢いるのですよ」
「そして、」
 フォルチの肩からリィンが顔を覗かせた。さっきまでパナンが見張っていたのだが、食堂に皆が駆けつけたとき隙を見て逃げ出していた。
「私は人形の目が目的。実はあれ宝石なのよ」
「盗賊二人が手を組んだってことか‥‥」
 ジョンは苦々しく言った。
「盗賊じゃないわ。ビジネスよ。私がテルル君に睡眠薬入りのお菓子を食べさせ、衣装を盗んだの。この屋敷に入るためにね。」
「そして私は普段食べなれていないご馳走を食べさせる口実が欲しかった。客人といったね。普段の食事に薬を混ぜても味で分かってしまうかもしれませんから」
 そしてすでに二人の手には目的の品である絵と宝石の入った袋が握られていた。
「では、ごきげんよう」
 盗賊たちは屋敷から脱出しようとしたが、食堂のドア、窓全て鍵がかかったかのように開かない。
 あらかじめパナンがアイスコフィンを使って出口を封鎖していた。
「逃がしませんわ!」
 パナンが叫ぶとほぼ同時に冒険者達が盗賊を捕まえようと飛び掛った。
 狭い室内の上冒険者達のほうが人数が多かったのでフェルチはあっさり捕まえられたが、リィンは煙突を通って逃げてしまった。
「さようなら」
 そう言ってリィンは姿を消してしまった。

 次の日、テルルが目を覚ますと枕元に衣装の包みと一通の手紙が置いてあった。
「これは、リィンの?」
 テルルは手紙を読んで驚いた。そこにはリィン本人による事件の真相がつづられていた。
 テルルは信じたくなかったが、盗まれた衣装は全て手元に戻ってきた。これが何よりの証拠ではないか。
「エイラックさんに謝らないと」
 彼は身支度を整えるとエイラック邸へと向かった。

「すべて僕がリィンの言葉を信じたせいです。本当になんと謝ればいいのか」
 テルルは男爵の前で謝罪していた。エイラックはついさっきまで盗賊の薬で眠っていたので、クコ達に昨日の晩起こったことを説明してもらいながら話を聞いていた。
「いえ、別に責めたりはしません。それよりも、よかったらまた人形の衣装を作って頂けると嬉しいです」
「それは‥‥もちろん喜んで! あ、でも収穫祭の終わった後になりますが」
 とにかく、ここに今二人の誤解は解けたのであった。
「でも、あの人形は今はもう目が‥‥」
 アムがおそるそる男爵に言った。
「何か代わりの石をはめますから。予算の関係上黒い目になると思いますが」
「そうですか」
「でも、案外これでよかったのかもしれません」
 恐らく自分の心の中で、娘に対する気持ちの整理がついたのだろう。
 ほっとした冒険者達はテルルと共にエイラック邸を後にした。