【あの空の下】世界の果ての攻防戦

■ショートシナリオ&プロモート


担当:浅葉なす子

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月14日〜02月19日

リプレイ公開日:2008年02月20日

●オープニング

 ピートは十五歳になり、晴れて村の自警団の一員となった。
 彼は冒険者に憧れる、病弱な幼馴染のために冒険者として経験を積みたいと考えていたが、最近この付近を狙う山賊が現れたのだ。
 まだ駆け出しの彼だが、家族や幼馴染のいるこの村を護るためなら、命を投げ出しても惜しくはない。
 現状では、奴らが何処から来るか、所在を掴めていない。村はずれの家屋から冬の食料を盗むことが多く、どうやら冬ごもりで力をつけているようだ。
 このまま春を迎えれば、総勢で村を潰しに来るかもしれない。その前に何としでも討伐しなければ。
「イヴリン、調子はどう?」
 訓練の後、皮鎧のまま幼馴染に会いに行くのが日課になっていた。
 イヴリンはベッドの上で弱々しく微笑んだ。このところ食べ物を受け付けず、頬の肉がこけている。
 そろそろ覚悟してくれと、イヴリンの父から告げられていた。
「イヴリン、喋らなくていいから、聞いて」
「ピーター。わたしも‥‥話があるの」
 イヴリンはピートの言葉を遮り、身を起こそうとしたが、力が入らず倒れてしまう。
「無茶するなよ!」
「このまえ、アンおばさんが死んだわ」
 イヴリンは涙を浮かべた。
「ああ。盗賊にやられたんだ。お前はアンおばさんによくしてもらったんだっけ‥‥」
「アンおばさんは‥‥母さんの友達なの。わたし、知ってるのよ。盗賊はきっとあそこから来るわ。わたしの世界の果てからやって来る」
 イヴリンは窓を指差した。
 幼い頃から体が弱い彼女にとって、あの窓から見える景色は世界そのもの。そして、そこから見える一番遠い景色が、あの山だった。
 以前、イヴリンはあの山に何があるかを、冒険者に確認して貰いに行った。宝物を抱えた魔物を退治して貰い、お土産を頂いた。
(「まさか‥‥魔物がいなくなって、山賊が戻ったのか?」)
 あの魔物は時おり人里を襲ったし、山賊があの山から魔物に追い出されたのはかなり前。だから、山賊が戻ることはないと踏んで冒険者に、当座の脅威である魔物を退治してもらったのに。
 まさかあんな、昔より凶悪な山賊が出ることになるなど、誰も思わなかった。
「夜になると煙がのぼるの。中原に二箇所、少し登ったところに一箇所」
「ありがとうイヴリン! これで盗賊を一掃できるかもしれない」
「お礼を言いたいのは私のほうよ。きっと退治してね、ピーター」
 微笑み、彼女は目を閉じた。
「何だか疲れちゃったわ。安心したのかも」
「眠る前に、話を聞いて! イヴリン、すこし早いけど結婚しよう!」
「だめよ。わたしがあなたを縛る訳にはいかないわ。あなたの未来のために、わたしはあなたをフるわ」
「イヴリン! 諦めるなよ! 冒険者に励まされただろ? 何のために彼らが君のために頑張ったんだよ!」
「ごめんね‥‥」
 それが、ピートへの謝罪だったのか、それとも冒険者に対してだったのか。
 イヴリンはその晩、息を引き取った。

 ついに団長が冒険者へ応援の依頼を出した。
 自警団は村の警護があるので、離れることが難しい。だから、自警団が村を守っている間、僅かな団員とともに、冒険者に盗賊の討伐を任せる。
 ピートは無理を通して、討伐隊に入れてもらった。
 許せなかった。盗賊行為など、どうでもよかった。
 イヴリンの心労の元となり、彼女の命を削った奴ら。彼女の世界を汚した奴らを。
 黒い復讐心が、ピートの中に根を張った。

●今回の参加者

 eb7741 リオ・オレアリス(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec3704 タイラー・プライム(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec3876 アイリス・リード(30歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4115 レン・オリミヤ(20歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

鳳 令明(eb3759)/ シェリル・オレアリス(eb4803)/ アニェス・ジュイエ(eb9449)/ 九烏 飛鳥(ec3984

●リプレイ本文

「我々で処理せねばならん問題に巻き込んですまない」
「気にすることはない。俺がやりたいと思っただけだ」
 冒険者たちを歓迎した自警団と若い団長に、タイラー・プライム(ec3704)は素っ気無く返した。だが「助けてやりたい」と言外が滲んでいるようにも思える。
「して、これが連れて頂きたい戦士のピートにダグラス」
「よ、宜しく」
「宜しくさーん」
 反応が硬い方がピート少年で、陽気な方がダグラス。最後に、粗野な女性が「あたいは弓士のミシェラだよ」と。
「腕の方はどうなんだ?」
「問題ない、タイラー殿。確かに貴殿らと比べて見劣りするが、手数が増えれば必ず助けになる。人数の多さは威圧にもなるしな」
「あっ」
 強い風が吹き、アイリス・リード(ec3876)は髪を押さえる。僅か眉を下げ周囲を見回すと、団長と目が合った。
 ハーフエルフを嫌う者は多く、この耳が人目に触れて面白いことになった試しはない。
 だが、団長は「エルフの方が多いな」以外、感想はないようだった。アイリスはひとまず胸を撫で下ろす。
 アニェス・ジュイエが犠牲者の為の鎮魂の舞を踊り、村人たちがいつか還る大地と、一足先に逝った者たちを偲ぶ間、レン・オリミヤ(ec4115)は皆の後方にひっそり佇んでいた。
(「依頼はいくつもやった‥‥モンスター退治で手がふるえることもなくなった。今度は盗賊‥‥‥私は人を殺すんだ。
 盗賊は人も死なせてる‥‥だいじょうぶ、その人たちもわるい人」)
 己に言い聞かせ、目を伏せる。
「夜襲をかけようと思うのよ。昼間に挑んで仲間を呼ばれるより、寝込みを襲って各個撃破が望ましいわ」
 煙の場所の確認や作戦について語らっていたリオ・オレアリス(eb7741)の提案に、タイラーは「妥当だな」と肯いた。
 気力で補っても、やはり睡魔があれば判断も鈍る。一行は仮眠をとり、冷える山を登った。
 ふと、アイリスはタイラーを振り返る。
「何をなさってるんですか?」
「小枝を鎧の間に挟んでいる。金属が鳴ると厄介だからな」
「そうですね。わたくしも、ローラスの鳴声が聞こえないよう気をつけます」
「それにしても暗いな、やはり。目を慣らして少しは楽になったが」
 空は晴れ渡り、星が燦然と瞬いているが、灯りはそれのみ。あとは多少山岳に強いレン、ダウジングペンデュラムを持つアイリスが頼りになる。
 自警団でも慣れた様子の二人は兎に角、新人のピートは緊張で辛そうだった。
 タイラーは眉を顰める。
「おい、無茶をするなら帰った方がいい」
「大丈夫です、行かせて下さい」
「無理しない方がいいわ」
「大丈夫です、リオさん。大丈夫ですから」
 声を荒げたピートの肩に、軽い感触がとん、とん。振り返ればレンがいた。
「騒ぐの‥‥だめ」
「すいません」
 項垂れてしまったピートに、一同は不安を覚えた。
(「本当に置いていった方がいいんじゃないか?」)
(「でも、特攻されても困るわ」)
 団長も、厄介な子を押し付けてくれたものだ。
 不安要素を抱えたまま、一行は最初のねぐらに到着した。見張りらしき者が、焚き火の前で船を漕いでいる。
「コアギュレイトをかけます。それから皆さん、お願いしますね」
「分かったわ、アイリス」
 して十秒後、身を強張らせた見張りに、レンがすっと近づきダガーを構える。
「ゴメンナサイ、デモサワイジャダメ」
 突きつけられた刃物に、見張りは目を白黒させている。
「大人シク捕マッテクレルノ? 嬉シイ♪ ジャア、ココニジットシテイテネッ」
 蹴り飛ばされ、拘束後に転がった。
 他は掘っ立て小屋の中で寝泊りしているようだ。狭いのが気になるが、寝込みを襲えなければ夜に来た意義がない。
(「よく眠ってるわね‥‥そのまま起きるんじゃないわよ」)
 アイリスが詠唱する間、高いびきの賊は誰も反応しなかった。
 やがて雷光が室内をかっと照らし、一人を重症に追い込んだ。のはいいが、
「目、目が」
 暗さに慣れた皆の目には刺激が強かった。
「敵襲だ!」
 野で生活する盗賊らは、寝起きでもそれなりに対応してきた。
 タイラーは目を瞬きながらも、攻撃される前に剣を一閃。続いてレンがスタンアタックを決めた。
 瞬間、繰り出された脆い刃を、レンは身軽にかわす。タイラーは後衛と、不慣れなピートを背に踏み止まった。だが、かすり傷で終わる。
 元気に剣を振り回すその盗賊を、アイリスはコアギュレイトで動きを封じた。
 窓の外から盗賊を射たのは助っ人のミシェラ。流石に手馴れている。
 ダグラスも気負いなくタイラーに並び応戦。ピートもそれなりにダメージを与えた。
 こうして二人を殺害、四名を拘束した。
「意外と何とかなるもんだ」
「家屋で戦闘したのが良かったわね。逃げる場所ないもの」
 最悪の事態は逃走され、仲間を呼ばれることだ。十数人に襲われるのは避けたい。
「残ったの‥‥殺す‥‥?」
「いいえ、レンさん。殺さない方がいいわ」
「でも!」
 と、不満そうなのはピートである。並々ならぬ憎しみがあるようだ。
 だが、それをリオは宥めた。
「此処で殺してしまうのは容易いけれど、悪は法で裁いてこそよ。殺せば、私たちは彼らと変わらないわ」
「‥‥はい」
 思うところはあるようだったが、素直に肯いた。
 出足よく山を登れば、中央の根じろが何と、もぬけの殻である。
「まさか村へ行ったのでしょうか」
「引き返すか?」
 だが、今引き返しても間に合わない。それより、村へ賊が増員する前に頂上のねじろを目指した。
 よくもこんな山頂に居を構えたと感心する場所に、同じような調子で見張りが居眠りしていた。
「ここ‥‥前に冒険者が、イヴリンのために来てくれた頂上だ」
 ピートは辛そうな顔をした。
「面白おかしく話してくれたけど、こんなに寂しい場所だったんだ‥‥」
 彼の幼馴染にとって、ここが窓から見える一番遠い場所だったのだという。
「村を襲って‥‥ここを汚して‥‥! 許さない、殺してやる」
「ピートさん」
 いたたまれず、アイリスがそっと声をかける。
「わたくし、冒険者ギルドでお話を聞かせて頂きました。温かい思い出も沢山あったのでしょう? 彼女が残した思い出を、他への憎しみで冷やしてしまうのは、とても‥‥悲しいことです」
 彼女の言葉で沈んだ彼に、「お前はここにいろ」とタイラーが言った。
「見張りだ」
「でもっ」
「足手まといだ」
 冷たく言い放ち、彼はピートをその場へ置いていった。
「あの、タイラーさん」
 アイリスが声をかけると、彼は足を止めた。
「あれじゃあ、命に関わるだろう。人が死ぬのはもう沢山だ」
 アイリスは口を噤んだ。あれは、彼なりの‥‥
 一人戦力が欠けたので、今度の戦いは怪我人が出た。
 アイリスがタイラーとレンの傷をリカバーで癒し、体勢を整えた。
「さあ、急いで戻らないとね。あたしたちは一足先に戻るわ」
 リオたちはそれぞれ、セブンリーグブーツやフライングブルームを所持している。貸すほどの量はあったが、流石に全員に行き渡らない。
 そこで、冒険者のみが先行することになった。捕獲した賊の連行は、自警団に任せた。
「お願いします、オレの村なんです。どうか」
 そんなピートの言葉に見送られ、冒険者は下山を始めた。
 山から村へは、半日もかかる。足がある此方と違い、賊は徒歩だという話。
 村の付近まで来て、空を飛ぶ組は、村の中で散って行動する盗賊の姿を見た。はしっこく動き回って隠れるので、自警団が捕まえるのに苦心している。
 だが本日は、司令塔であり、そこそこ実力のある団長がいる。二人ほど既に捕まっていた。残り、三、四名。
「レンさん。あの倉庫に逃げ込む姿が見えたの。一緒に行ってくれる?」
「俺も空から二人ほど見た。行ってくる」
「貴殿ら、帰ったのか!」
 団長が駆け寄ってきた。
「一人で突っ込むのは危険だ、連れていけ」
 と、レンの方に自警団数名、タイラーには団長本人がついていった。
「囮‥‥お願い。その隙におそう‥‥」
「分かったわ。ちょっと、そこにいるのは分かってるのよ‥‥きゃっ」
 進み出たリオに、矢が飛んだ。敵にも弓士がいたか。
 盾を構えた自警団が、彼女の前に立つ。
「引き続き敵の注意を引いてください。貴方は我らで護ります」
 田舎の自警団に、礼儀のいいのが居たものだ。
 リオは声を上げた。
「諦めて投降すれば、命まではとらないわ!」
 賊は、何か言い返そうとしたのかもしれない。
 だが、その機会なくレンによって倒された。

 一方、タイラーは。
 見つけた賊にチャージングで突撃し、動きを止めた。それを団長が鋭い攻撃で仕留める。
「もう一人見たと?」
「ああ。だが、移動したかもな」
 タイラーは最後に見た付近を捜したが、やはり見つからない。
「まぁ、隠れる場所は限られている」
 団長は何やら唱え、手の平よりオーラを放った。樽が転がり、その影から賊が弾かれたように逃げ出す。
「頼む、タイラー殿!」
 言われるまでもなく、タイラーは賊を追い、近接に持ち込んで倒した。
 こうして、盗賊の危機は去ったのである。

●去り際

「俺に小銭は不要だ。娘に手向ける花でも買ってやれ」
 ぶっきらぼうに報酬を渡され、イヴリンの両親はタイラーを見返す。
 はじめは驚いていたが、彼らは微笑、
「ではこれを‥‥」
 妖精の葉を、彼に託した。
 村の広場で、ピートは死者のために祈るアイリスに歩み寄る。
「お祈り邪魔する気はないから‥‥有難う、アイリスさん。有難う、あの時ああ言ってくれて。俺は大事なこと忘れるとこだったんだね」
「わたくしには、恋は分かりませんが‥‥」
 アイリスは顔を上げた。
「あなたがイヴリンさんとの幸せを願ったように、彼女もあなたの幸せを願ったのでしょうね、きっと。
 幸せに、なってください。今はまだ、難しいかも知れませんが」
 それもまた、アイリスの祈り。
 ピートは肯き、空を仰いだ。

 事件も死者も関係なく、空はいつものように青かった。