【ロゼ・オ・デス】裏切りのアリス
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■ショートシナリオ
担当:浅葉なす子
対応レベル:11〜lv
難易度:易しい
成功報酬:2 G 42 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月02日〜03月08日
リプレイ公開日:2008年03月10日
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●オープニング
彼女はその場所で「ローラ」と呼ばれており、何かというと「ふぅ」だとか「はぁ」と溜息をついていた。
その女に今、追い詰められている男がいた。
「て、てめぇローラ、どういうつもりだ」
縛られ、物置に転がされているこの男は、ウーゴ。何の変哲もない、飲食店の親父である。
少なくとも、表向きは。
「はぁ‥‥」
彼女は深く溜息し、男の前に膝をついた。
「最後ですし、教えてあげます。私はローラじゃない。ローラという、新しく入る予定だった貴方の『手駒』は、とうの昔に処分しました。余罪が多かったので」
「なに‥‥なにを!」
「はぁ、仰らなくても結構です。私はおつとめを果たしに来ただけですしね。‥‥ふぅ。喋るのしんどいわ。
私たち、喋るの苦手なんです‥‥得意なのはグロリアくらいで‥‥あら、口が過ぎたわ。
ふぅー‥‥
言ってしまったから仕方がないわ。グロリアなら‥‥こんな時、こう仰るでしょう。
この世には、裁かれない罪があります」
つ、と。
白い指が男の喉をなぞる。
「馬鹿な盗賊が人里を襲えば、村人は冒険者を頼るでしょう。厄介なのは、第三者の悪意が絡んでいたことさえ気付けない泣き寝入りの事件。
私は‥‥裏切りのアリス。ローラにすり替わってあなたの動向を確認しました」
そこまで言って、彼女は深い溜息を、ひとつ。
「貴方には、聞くことがあります。話しても楽に死ねませんが、話した時点で拷問は終わりです。まず‥‥ふぅ。あら、貴方。目に何かついてますよ」
月明かりに照らされる女の指が、真っ直ぐウーゴの眼球に伸ばされる。
「や‥‥」
迫り来る指、爪。ウーゴは硬く目を閉じ、恐怖から逃れようとした。
「やめろォオ―――!!」
ぶちっ
「‥‥はぁ、根性のない」
アリスは指についたものを吐息で払う。彼女の指に付着していたものを、人は睫と呼ぶ。
情けなくも気を失ったウーゴを見下げ、アリスは唇に指を当てた。
「これならすぐ、必要なことは吐くでしょう。もっと嬲ってやりたかったのに‥‥はぁ。残念だわ。でも、口を滑らせてしまったし。こんなことが露見したら、私が殺されてしまうわ」
数日後、ウーゴの遺体が川に浮かんだ。
傍の岸には立て札があり、「この者、悪人也」と刻まれていた。
「グロリアさま。私しくじっちゃった。てへ」
と、アリスは無表情で申告した。
伯爵令嬢グロリアは、可愛らしいご尊顔を顰めて「あぁん?」と顎を上げた。周囲の調度品類も愛らしいので、その形相が非常に浮いて見える。
「しくじったのなら死になさい。それがルールよ」
「違うぅんですぅ。別件で狙われちゃったんですぅう」
「‥‥無表情でその口調、やめてくださらない? 耳から紅茶そそぎこむわよ」
それより、狙われてるとは何のことですの」
「ふー‥‥ほら、私。闇商人の所に潜入していたでしょう。それで、はぁ‥‥その仲間が暗殺者を」
「なんですって。正体が露見したの?」
「いいえ。私はまだ、潜入した時に使った『ローラ』だと思われてますので。ローラが個人的に裏切ったと思ってるみたいで‥‥ふぅ」
「そう。ふふ、ふ‥‥」
グロリアは口元を隠し、肩を震わせて笑う。
「あぁーっはっはっは! ほーほほほほ!! 暗殺者が暗殺者に狙われるとか! 久しぶりに面白い笑い話を聞きましたわ!」
「笑い事じゃないんですよー‥‥はぁ‥‥私は潜入専門です。弱いんです、私。しつこく狙われたら、いずれ殺されてしまいます。
護ってくださませんか?」
「嫌よ」
グロリアは哄笑をやめ、すげなく切り捨てる。
「貴方が死のうと、わたくしの知ったことじゃなくてよ。勝手にお死になさい」
「殺生です‥‥」
「もっとも、人員不足ですからね。そうね‥‥阿呆二人は放浪して捕まらないし。もう一人心当たりがあるけれど、貴方があの人の所に行くのは羨ましいから嫌。
ひとまず、領内の村に潜伏させてあげるから、そこで何とかなさいな。一応自警団も出しておいてあげる。領民に被害出すんじゃなくてよ。あなたが責任を持って護るのよ」
●数日後
伯爵領の村ではこのところ、不審人物を見るようになり住人は気が気ではなかった。
「怖いわねえ。酒場に勤めるアリスという娘が襲われたそうよ」
「自警団が警備してるとはいえ‥‥」
「何の話しですかぁ」
井戸端会議中の女性たちは、噂のアリスの姿に「まぁ」と心配そうな声を上げる。
「怪しい人がいて、あなたも怖いでしょう? 今度、冒険者が特別に来てくださるから安心して。皆でお金を出し合って依頼を出したのよ」
「本当ですかぁ!?」
アリスの明るい声は、安堵によるものと思われた。
だが、彼女の心情はまるで違う。
(「私、冒険者大好きなのよね! 彼らの行く先の村に潜入して、居もしないヒロインになりすましたことがあるけれど、今度は本当のヒロインになれるかもっ」)
「アリスちゃーん、掃除とアルのお守おねがーい」
酒場の主人に呼ばれ、「はぁーい」と駆け戻っていった。
小さな男の子がアリスのスカートに纏わりつき、にこにこ笑っている。子供に懐かれるのは、嬉しい。
アリスは微笑みながら、そっと拳を握った。
(「私がこの笑顔を奪ってはいけない‥‥死にたくはないけれど、覚悟はできてるわ」)
アリスという娘は周囲の注意も聞かず、夜な夜な村を徘徊しては不審者に襲われている。
若い娘のことだ、それでも会いたい男でもいるのだろうと、村の住人は呆れた顔で彼女を見守っていた。
●リプレイ本文
「冒険者の方ですか?」
酒場の娘にそんな事を尋ねられたアンドリュー・カールセン(ea5936)は、肩を竦める。
「単なる風来坊だよ。それより、軽い食事を頼む」
「はいはーい‥‥あら、またお客さんだわ」
足取り軽く、娘は来店したマナウス・ドラッケン(ea0021)、ヒースクリフ・ムーア(ea0286)、空木怜(ec1783)の元へ寄ってゆく。
「こんにちは! 冒険者の方ですか?」
「来る客すべてに聞くんじゃないよ、アリス!」
奥から、店主らしき男が苦笑混じりに声を飛ばす。
目深に被っていたフードを外したマナウスは微笑み、
「ええ、冒険者です。マキナとでも呼んでください」
「マキナさん!!」
(「ふむ、彼女が狙われているというアリスか」)
小躍りする彼女を、ヒースクリフはそれとなく観察する。
得体の知れぬ者に狙われるこの状況、どんな人間でも精神が摩滅するはずだが。
(「恐ろしく天然なのか、いや。わからないな」)
竪琴を抱えたマナウスが「さて」と昼間の酔っ払いを見やる。
「リクエストがあれば聞きますが」
「吟遊詩人さんかい! 英雄譚がいいね」
マナウスが酔っ払いに矛先を向けてより、ヒースクリフは店主を奥から呼び出した。
「話を聞きたいのだが、いいかな?」
「でも村長さんには?」
「それは既に行ったよ」
村長は詳細を知らず、ただ村に被害が出るらしいから依頼を出したそうな。
出際にアンドリューが「ただの護衛依頼にしては錚々たるメンバーだな」と言ったのを思い出し、なぜ高レベルの冒険者に依頼を出したのか聞いたところ。
『伯爵さまの命令でして。わしらも、強い方なら有難いと』
「私も見ちゃないんですよ。村の女達が言ってるだけで。ただ、夜にアリスが襲われるみたいでねえ」
彼は心配そうに、給仕の娘を見やる。
「あの娘は伯爵令嬢の紹介でウチに来たんです。昔、盗賊に故郷を滅ぼされたとか。健気なのが却って不憫でねえ。冒険者さん、あの娘のこと頼んます」
「もちろん、そのつもりだよ」
「そのためには、アリスにも話を聞きたいんだけどな」
振舞われたアップルジュースに口をつけつつ、怜はアリスを手招きする。
「なんでしょう!?」
そんな輝く瞳で迫られても。
「不審者に狙われているのは本当か?」
「黒い服の人たちが来ますねぇ。はぁ‥‥」
「夜に出歩くのはなぜかな?」
ヒースクリフにも問われ、彼女は瞬きする。
「夜はねぇ、死んだ人を捜すにはちょうどいいの」
「‥‥誰を捜して?」
「お母さんやお父さんですぅ!」
店長が、堪らない、という顔で冒険者たちに耳打ちする。
『違う意味でもちょっと可哀想な子で‥‥』
「なら、私が一緒に行こうか?」
「だめですぅ、いま危ないし」
「危ないのは君の方だよ。私は冒険者だから‥‥」
「怪我したら大変ですよ!」
話が通じにくい。ヒースクリフに判断できないということは、半分本気で半分嘘をついているのか。
諌めるうち、酒場にシフールが突撃してきた。
「お手紙とどけにきましたー! 最近、エルフのおねーさんが来なかった?」
「あの人のことかい?」
と、マナウスを指した。彼は男性である。
「ちがうよー。髪の色は一緒だけど、赤いおめめなの。名前はレヴィ。特徴は‥‥すごい『お酒好き!』。
伝説のお酒を探すんだって、旅に出ちゃったらしいよ」
「分からないねぇ」
「そっかぁ。他にも聞いてくるね!」
カファール・ナイトレイド(ea0509)である。うまく聞き込みして不思議はない術を得たようだ。
●井戸端地獄
「危ないって言ってるのにねえ!」
「ほんとに変なのよぉ、黒ずくめで悪そうな雰囲気でさー」
「あんた可愛いわねぇ! おばちゃんもシフールが産めたらいいのに」
「あらやだ、シフールの旦那とかどうすんの!」
(「えぇーん、誰か助けてぇ」)
おばちゃん達に捕まり、カファールはちょっと、泣きたくなった。
●夜
仮眠をとったヒースクリフは、隠密行動をする仲間から不審者の目を反らすため、自警団の巡回に混じっていた。アリスの警護は、仲間が行くようなので。
おばちゃん達から解放されたカファールは、ペットと共に空からアリスの姿を認める。
(「アリりんが森に‥‥入っちゃった」)
夜歩きで森に入る情報はなかったのに。冒険者がいる、今日に限ってなのか?
(「不審者はどこでご飯や寝泊りしてるんだろう。隠れ家があるのかな?」)
一方、怜とマナウスも森に入っていた。
「不審者の動機は必ずある。勘違いか、見てはまずい場を見たか‥‥彼女、以前は伯爵んとこにいたのかね」
怜の推論に、マナウスは顎に指を当てる。
「伯爵令嬢の紹介とか言ってたな。酔っ払いは伯爵を極悪人とか、逆に実は義賊とか、根も葉もない噂を言っていた」
「何か奇妙だよな」
ともあれ、怜はブレスセンサーを試みる。
アリスを追う中で、二人組は彼らのみ。
「二人組がいる。アンドリューらしき影が近い」
「アンドリューとは限らないんだな?」
「行く価値はあるだろ」
●アンドリューと同業者
森での潜伏に長けたアンドリューは、アリスをつけていた。酒場で漏れ聞いた話が事実なら、不審者は再び彼女を狙う。
その経緯で、不審者を見た。黒ずくめだ。咄嗟に、手持ちの怪しの頭巾を被る。
気付かれた。唇だけで「同業者だ」と囁けば、彼らは納得したようだ。
視線を戻すと、アリスが見ている――
不審者は彼より隠密下手である。不審者の視線でアンドリューに気付いたと考えるのが妥当だが、それでも唯の村娘が気付くものか。
●捕縛
カファールはアリスだけでなく、不審者をも発見した。
近くにヒースクリフがいたので彼を呼ぶ。マナウスや怜も向かっているが、一人で対峙する羽目になればアリスも自分も危うい。
「冒険者だ、大人しく投降しろ!」
不審者は‥‥ヒースクリフではなく、アリスに襲いかかった。
「アリりん!」
カファールの視界で、不審者にダガーが飛んだ。潜伏したアンドリューか。
そして、何かがアリスを掻っ攫う。
マナウスである。彼がアリスを抱えて逃げた。
「華を護るのも騎士の勤め、ってね」
「私もう死んでもいい‥‥」
アリス、ヒロインは鼻血噴かない。
「行かせないよっ!」
カファールに目の前を飛び回られた不審者は、怜にアグラベイションをかけられた。
すかさず、ヒースクリフと怜で不審者を取り押さえる。
呆気ない捕縛だった。
●尋問
自警団に取り囲まれ、不審者は覆面を剥がれた。男女である。
「目的はなんだ?」
ヒースクリフに問われ、女が鼻で笑う。
「ローラの始末さ」
「ローラって誰だよ?」
怜は自警団を振り返るが、一様に戸惑った顔。
「何の騒ぎなんだ?」
野次馬のふりで現れたアンドリューに、女が食ってかかった。
「どうぎょ‥‥てっ」
彼は女の顎を打ち、黙らせる。
「喚かれるのは嫌いだ。お前ら一体なんだ?」
「言うか! でもな、あの娘が死なない限り、次々くるぜ」
不審者は伯爵に引き渡す手筈になった。明朝、自警団が移送する。
「背後関係を聞ければいいけど、拷問に耐える訓練をしてそうだよな」
怜は次なる刺客の対処に悩む。
「おいら、あの人達の拠点を見つけたよ。潜伏場所を潰していけば、後は自警団が何とかできるんじゃないかな」
「それが最善か」
時間制限がある以上、いつまでも付き合えない。
翌日、酒場に泊めてもらった冒険者たちは店主に叩き起こされた。
「アリスがいない! それに、自警団が慌しくて‥‥」
他の敵を警戒し、彼女の部屋の護衛には、怜の要請で仮眠をとったヒースクリフが立っていた。どう外へ出たのか。
現場では、見張りが熟睡。自警団に招き入れられたヒースクリフは顔を顰め、マナウスはカファールを外へ連れ出した。
「どうしたの?」
「男は死んでいたよ。女は逃げたらしいな。アリスが‥‥」
頭部に布を被せられてい、首から上が、ないようで。
「まだ近くにいるはずだ。追おう」
●ゆるさない
アンドリューは、広場で大体の事情を察した。
彼の立場は今、微妙である。犯人だと謗られかねない。余計な混乱を生まぬ為、人目につかぬよう村を出たのだが。
「くっ!」
飛んできた短剣をかわし、敵を見る。女だ、覆面の。
「奴らと同業者だそうですね」
その、声。
「アリスか!」
「死んで頂きます」
「待て! 自分は冒険者だ」
「冒険者を騙るつもり? 許さないわ」
彼女は大した腕ではなかった。が、彼女を害すべきか判断つかず、攻撃をかわし続ける。
「アンドリュー、無事か」
「アンドりーん!」
「え?」
アリスは手を止める。
アンドリューに並ぶ冒険者たちに彼女は覆面をとった。
「本当に冒険者なの」
「アリス? 生きていたのか!」
「マキナさん‥‥これ以上迷惑かけたくなくて」
アリスが死なねば刺客が来るなら、アリスを殺してしまえばいい。
女の刺客に自分の衣装を着せ、身元が割れないよう首を。
「そんな事しなくても、おいらたち解決できたんだよ!」
「そう‥‥私、先走ってしまったのね。どうしよう‥‥はぁ」
「君は何者なんだ。盗賊に故郷を滅ぼされたという話は、嘘なのかい?」
「いいえ、ヒースさん。それは本当。その時、冒険者に助けられたことも。
ご迷惑かけてしまったし、何か答えるわ」
「奴らの狙いは何だったんだ?」
怜の質問に、アリスは考え込む。
「盗賊に仕事を斡旋する者が存在し、『ローラ』はそれを些か知っています。私は名を変え姿を変え、最近までローラとして生活していました。それで狙われたの‥‥ふぅ」
彼女は身を翻した。
「できれば私の名前を覚えていて‥‥アリスの名を」
彼女に、マナウスは苦笑した。
「例え真実がどうであれ、俺は信じたい方を信じる事にしてるんでね」
「‥‥ありがとう」
この後、村に危機が訪れることはなかった。