【器用貧乏領主】見習い騎士の大行進

■ショートシナリオ


担当:浅葉なす子

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月07日〜03月12日

リプレイ公開日:2008年03月13日

●オープニング

●ふた月ほど前
 貧乏領主の屋敷に居候するクレメンスは、小姓として扱われている。いわゆる騎士の行儀見習いだ。
 ふつう、騎士の家に生まれた男児は十歳から小姓になり、十五になれば父親に剣の手ほどきを受け、父に付き従う役目を負う。これを盾持ち、従騎士と呼ぶ。
 ところがこのクレメンス、引き取ったときには既に十六歳だった。小姓としては、とうが立っている。
 そこで、アークエンは小姓と盾持ちを同時にやらせることにした。クレメンスには貴族としての教養があり、力の強さではアークエンを上回る。
 が、クレメンスはかなりそそっかしい。料理を運ばせれば蹴躓き、水を汲ませれば瓶を割った。
 それは冒険者の助けによって改善されたのだが、根本は矯正できるものでない。
 さらに、立派な体格を持ちながら臆病で、魔物を見れば尻尾を巻いて逃げる体たらく。
「お前は私をやすやすと越える資質を持ちながら、どうしてそう根性がないんだ」
 アークエンは腰に手をあて、顰め面で己の従騎士に説教する。
 クレメンスを従騎士にしながら、この領主は十九という若さだった。本来なら、それこそ従騎士である年だ。小柄で幼い顔の彼を傍から見れば、クレメンスの従者だと思うだろう。
「ゴブリンなんぞ、お前が剣を振り回してるだけで倒せるんだぞ」
「うー‥‥」
 十七にもなる男が、頬を膨らませる姿は異様だ。
「アークエンてさぁ、僕が来た時には、もうご両親亡くなられて、領主だったよね。いつ叙任されたの」
 問われ、アークエンは記憶を辿る。
 いつだったか? 思い出せない。気がついた時には騎士として扱われていた。自警団に混じり、村を守って。
「‥‥私の話はいい」
 アークエンは話を強引に打ち切り、クレメンスを連れて村へ出た。
 自警団と、武装した農民が広場に集まっている。
 戸惑うクレメンスを尻目に、アークエンは声を張り上げた。
「この村は、侵略を受ける恐れがある」
「えっ、そうなの」
 クレメンス、うるさい。そもそも、お前の親戚がお前を実家から追い出し、この領地にちょっかいをかけているのだろうが。
「盗賊もろくに追い返せない今の状態では、我々は瞬く間に蹂躙されるだろう。祖父の掲げた平和主義は今この時を持って放棄する!
 家族を、財産を護りたいと思う者は剣を取れ!!」
「おおお!!」
 平素より訓練を受ける自警団、戦士の経験がある壮年が、勢いよく雄たけびを上げた。ついで、血の気は多いが要領を得ていない若い衆がてんでばらばらに叫ぶ。
 アークエンが剣を勢いよく大地に突き立てると、その騒ぎはぴたりと止んだ。
「ついては、これより日々の訓練を義務とする。そして、堀の強化を三月兎が馬鹿騒ぎをやめる迄には終わらせるぞ。よいな!」
「おお!」
「よし」
 普段、ほのぼのと農作する領民とは思えない意気に、アークエンは満足げに肯いた。
(「なんか、僕の知らないアークエンがいる‥‥」)
 クレメンスは唯一人、熱狂する広場を呆然と眺めていた。

●現在
 それからは訓練の日々だった。
 剣や弓の稽古だけでなく、隊列や号令の修練。一糸乱れぬ隊列をとるのは難しく、手間取れば命取りになる。
 号令によって前進し、号令によって踵を返す。そういう簡単なものが、意外に難儀した。
「メニューを絞った方が良さそうだな」
 いつ襲われるか分からない以上、短期間で幾ばくかの成果を挙げねばならない。
 アークエンは白兵戦、弓隊の射撃と入れ替えの訓練に力を注ぐことにした。
「旦那さま。軍資金のほうはいかがいたしましょうねえ」
「う、うぐぅ。胃が痛い」
 先代から仕える老使用人の指摘に頭を抱えながら、そのことは今は横に置いた。
 目先の問題は。
「実戦だな」
 少なくともクレメンスを含める自警団には、経験を積ませておきたい。
 クレメンスも、自信と慣れがあれば立派な戦力になる。ゆくゆくは補佐として、領民を纏める立場になってもらいたい、なって貰わないと困る。
 アークエンは知り合いの領主に文を出して、魔物に困っていないか尋ねた。
「ズゥンビか」
 ここから北の領地に、長年放置されている死体放置所があるのだという。それは山中の洞窟にあり、村からは距離があるので大した被害はないが、数年に一度は犠牲者が出る。できれば退治していただきたい、と。
「ちょうど良さそうだな。が、心配でもあるか‥‥」
 人間は死ぬものだが、ズゥンビ退治で大事な領民を失う訳にはいかない。
 アークエンは経験豊かな冒険者に頼ることにした。
「最近、冒険者頼みが多くなった気がする」
「何でも出来るもんね、彼ら!」
 そう。それでつい、頼ってしまうのだ。

●今回の参加者

 ea3451 ジェラルディン・ムーア(31歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea9937 ユーシス・オルセット(22歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2357 サラン・ヘリオドール(33歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb5463 朱 鈴麗(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb7700 シャノン・カスール(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec3466 ジョン・トールボット(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●出発前
「一人で突出して囲まれない様にする事! 回りに気を使いながら、自分の位置を確認するのを忘れないでね」
「はい姉御!」
 若い衆に懐かれている姉御ことジェラルディン・ムーア(ea3451)。
 熱血系の横では、頭の回るタイプがユーシス・オルセット(ea9937)の前で並んでいる。
「集団戦の場合は槍が扱いやすい。横陣を組んで‥‥そう、一定速度で前に進む」
「お待たせした」
 領主館から、サラン・ヘリオドール(eb2357)とジョン・トールボット(ec3466)と連れ立って、領主が出てくる。荷運びしていたのだ。
「アークエン、久しぶり。風邪はどうだい?」
「ジェラルディン殿。あの後、盗賊が出ておちおち寝ていられなかったよ」
「エルフのお嬢さんこんにちは!」
 さっそく女性に声をかけるクレメンス。今回の標的は朱鈴麗(eb5463)。
「あれ、ジャパンの人?」
「華仙教大国じゃ。知らぬか?」
「ううん、分かる。よくは知らないけど」
「シャノンさんはどちらかしら?」
 シャノン・カスール(eb7700)を捜し、見回すサラン。ジェラルディンは肩をすくめ、
「先に現地へ向かったよ。忘れ物チェックさせた後、『死体放置所って、埋葬じゃ無いのか?』と言ってたね」
「領主の話では、死体がいつでもあるそうだ」
「‥‥面妖じゃな」
 鈴麗は眉を顰める。其方の方が問題のような。
「自警団各位、ジョン殿がズゥンビ退治の訓練を行ってくれるそうだ」
「二人一組の合図による集合、散開の訓練をしたいと想う」
「私からも、ズゥンビの生態を話しておこうぞ」
 ユーシスもジョン達に続こうとしたが‥‥
「ユーシス殿、胸を貸してくださらんか」
「アークエンと?」
「たまには思い切りやってみたい。そうだ、サラン殿。駆け出しの魔法使いにレクチャーしてやってくれないか」
「お安い御用だわ」
 微笑み、緊張している魔法使いの娘に声をかけるサラン。
 ひと段落して、クレメンスが彼女に尊敬の眼差しを向けていた。
「僕もサランさんみたいになりたい」
「私のように? 私は刃を握らないことにしているけれど」
「剣で戦うのは怖いよ」
「そうね‥‥私の知る騎士さんはこんな事を言っていたわ。
 戦うのはとても怖い。
 でもこの剣には守りたい人々の命運がかかっている、だから逃げるわけには行かないと」
「騎士でも怖いって想う? アークエンも?」
「何だ?」
 ユーシスと一汗流したアークエン、一部始終を聞く。
「お前の怖いは私にはわからん。戦わずに愛する者を失い、寄る辺なく生きるよりも恐ろしいことが、この世にあるのか?」
 して、彼はジョンやジェラルディンの下に行った。
「どうだ?」
「短時間にしては上達したぞ。こういう訓練は楽しいな」
「教え甲斐があるってものさ。ちょっと休憩入れようか!」
「はい姉御!」
 流れで小休憩後、出発に。
 ユーシスが溜息つく。
「急所ばかり狙われて、一歩間違えたら殺されたかもしれないな。手合いでああいう態度に出る騎士も珍しいよ」
 引っ掛かるものを覚えたサランは、アークエンの元へ向かった。
「自警団は御領地の守りの要になりそうね」
「ああ」
「でも、剣は時としてただの暴力になるわ。貴方が御領主として強く心に戒められてね」
「‥‥私の剣は殺すことしか知らない」
 はしゃぐ少年らに眩しげな目をむけ、
「彼らは、そうなって欲しくないものだ」
 サランはその時、なぜかグロリアの瞳を思い出した。
「ジョンしゃーん、いってらっしゃーい。あっ、ユーシスしゃんだー」
 領主館から叫ぶアリソンに、ジョンとユーシスは手を振り返す。
「留守中、アリソンは大丈夫なのか?」
「問題ない、ジョン殿。やっと人を雇ったよ」
「そうか‥‥私もずっと面倒が見れたらな」
 その瞬間、領主がジョンの肩を掴んだ。
「な、何だ」
「義父と‥‥呼んでくれてもいいのだぞ‥‥!」
「な、ななっ」
 年下の義父とか、どうなんだそれは。

●シャノンレポート
 閑静な件の村へ、シャノンは一人訪れた。
 死体放置所について曰く、
「洞窟はいつも腐臭がしてね‥‥何年もしたら死体は骨になるしょ? 誰かが死体を捨ててるんじゃって」
 出没の時間帯はまばらで、分からないと。
(「村人が遺棄している訳ではないのか」)
 村の墓地は存在する。
 シャノンは教会から最近死んだ人を聞き、その墓参りをした。
「‥‥掘り返した後?」
 僅かだが、その痕跡がある。地が固まっていない。
 何者かが、死体放置所とやらに運んでいるのか?

●化物と腐臭を前にして
「別の口があるね、この洞窟。そっちからの敵襲も考慮に入れないと」
 周辺を調査してきたユーシスが、馬から下りる。
 すると、クレメンスが憐れなほど怯えていた。
 サランが声をかけようとしたが、その前に。
「なんとなく戦っておるから逃げたくなるのじゃ」
 鈴麗は苦言を呈した。
「戦う理由を持つと良い。守りたい者は、そなたにはおらぬのか‥‥?」
「僕の守りたいものは、剣では守れなかったよ」
 鈴麗はハッとする。
「そなた‥‥」
「皆、少し話が」
 シャノンが小声で、村で見聞きしたことを告げる。
「第三者と遭遇する可能性があるが、どうする?」
「逃げるだけだ。経験を積ませたいだけだしな」
 数を確認できない以上、殲滅は望めない。
 それでも、シャノンやサラン、鈴麗は埋葬を望んだ。少しでも多く静かに眠らせてやりたい。
「隊列を組んで。入口付近にいるのを呼び出すよ」
「はい、ユーシスさん!」
「盾を持つ団員が敵の攻撃を引き付け、その隙を持たない団員が狙うんだよ!」
「はい、姉御!」
「よいか、中傷以上の怪我を負ったらすぐに撤退するのじゃぞ!」
 救護班として待機する鈴麗も声を上げる。
「ジョンさん、僕らは?」
 と、ジョン隊に所属するクレメンス。
「我々は、彼らが入口付近の敵を掃討したら中に入る」
「そこで戦うの?」
「いや、戦いながら後退する。倒す為に来たのではない、護る為にここへ来たのだ。それを忘れないでほしい」
 護るということは、命を捨てて戦うことではない。彼らが分かってくれれば、とジョンは想う。
「私は接近戦が苦手だから、護ってくれると嬉しい」
 シャノンがバーニングソードの付与がてら申告すれば、
「はい、シャノンさん! 頑張ります!」
 素直に肯かれる。皆いい子だ。
 ユーシスが大声でズゥンビを呼び、シャノンがアグラベイションで足止め。ジェラルディンが先んじてスマッシュを叩き込む。
 オーラボディを唱えたユーシスは、隊を護るように戦うが‥‥士気が高くなりすぎた。高揚し、突っ込む者が。
「落ち着いて戦えば問題無いよ!」
 ジェラルディンの叱咤は頭に血が昇った少年に届かず、サランの鷹がズゥンビの周りを飛び、後は領主がフォロー。
「ユーシス殿を見ろ、彼から冷静さも学べ。ジェラルディン殿の教えを忘れたか? 戦況を見失った者から死ぬんだ」
「怪我を軽視してはいけないわ」
 サランが軽症を負った少年を下がらせる間、不思議なことが起きた。
 ズゥンビたちが、倒れていったのだ。
 鈴麗は不吉なものを感じるが、負傷者の手当てに専念する。
「そなた達が傷つけば家族や友人が悲しむ。先ほど無理をした者は、そのこと忘れてはならぬ」
 静かに諭しつつ、薬草の種類や手当ての仕方を教える。
 洞窟内の探索はユーシス、ジョンに続いてシャノンと自警団が続く。
 待機中、シャノンやユーシスが埋葬した死者を、鈴麗とサランが悼んでいた。
「今度こそ安らかに眠れますように」
「宗派が違う事を許してほしい。どうか、安らかに眠っておくれ」
「お前らはなんじゃい?」
 急に老人に声をかけられ、鈴麗は顔を上げる。
「お爺さん‥‥ここにいては危ないわ」
 サランの説得にも、奇妙な老人は応じない。
 それどころかサラン達と祈っていたアークエンを指差し、
「十五年前の憎い小僧!!」
「は?」
 アークエン、十五年前はアリソンと同年代である。

●地獄絵図
「ふぎゃぁあ!! 怖ぃい!!」
 ユーシスに妙に前に出されたクレメンス、洞窟の中で大絶叫。
「がんばれクレメンス!」
「死体動いてるぅ! ひぎゃー」
 剣を振り回し、ズゥンビの首をずんばらり。
「本当に力だけは強いな」
 ジョンも感心。
 ズゥンビは、やはり幾らもしない内に崩れ落ちた。
「はー、はー‥‥」
「落ち着いた?」
「‥‥ちょっと慣れたかも」
「大進歩だね」
 うんうん、と肯くユーシス。ここまでの脱走を何度捕まえたことか。
 ジョンが先頭で黙々と戦い、ユーシスが助けてくれるのに。
「引っ張るより倒した方が早いかもしれ‥‥ん?」
 シャノンはランタンの先に無数の蠢く影を確認。
「ユーシス、シャノン!」
 来た道から、ジェラルディンが駆けてきた。
「領主から撤退命令! このズゥンビ、クリエイトアンデットで作られてる!」
「死者を弄んでいるのか!」
 シャノンは怒りで洞窟の壁を殴った。
「術者は!」
「別の口から洞窟に入った。この子たちを逃がすよ。さあ、行きなさい!」
 驚いたことに、クレメンスが残る。
「もう逃げない!」
「‥‥よく言った。よし、踏ん張るよ!」
「グラビティーキャノンを撃つ! 皆少し持ちこたえてくれ」
「はぁい!」
 シリアスな場面でも、クレメンスの声は肩から力が抜ける。

●外界で
 老人の急襲は、ジェラルディン、アークエンの前衛、サランに鈴麗の魔法であえなく撤退した。
 サランは少年らを村まで逃がし、鈴麗は怪我人に備え待機。アークエンは彼女の護衛として残った。
 と、冒険者と共にクレメンスが帰還。負傷している。
「何という無茶を!」
「大丈夫、出血がちょっと派手なだけだよ」
 極端な彼の行動に鈴麗は怒り、ジェラルディンが苦笑する。
「術者はどうする、アークエン。あいつがいる限り‥‥」
「言うな、ジョン殿。今は退こう。奴はまた、いずれ」
 少年らは無理なく実戦を積み、怖がりのクレメンスが自ら残った。
 第三者は、まるで想定外のことだ。今回の成果は上々だったと言えよう。