●リプレイ本文
「よくぞ来てくれた!」
毛織物商の親父が、泣き咽ぶ勢いで尾花満(ea5322)の手を握りしめた。
「落ち着かれよ、店主」
「もー誰も来なかったらおいちゃんどーしようかと」
「それはいいんじゃが」
小柄な老人、カメノフ・セーニン(eb3349)が満の影より表れる。どこかひょろひょろしているのは、
「腹が、減ったのじゃ‥‥」
保存食を忘れ、道中クッキー類で凌いだカメノフだった。
●当日
直に本番となるので、ガイマンは店の奥でごそごそやっている。
「ごめんなさいね、あなたみたいなお嬢さんまで引っ張り出しちゃって」
奥さんが申し訳なさそうな顔をするので、セレナ・ザーン(ea9951)は微笑み返した。
「いいえ。今まで人質を助けた事はあっても、助けられる人質になった経験はありませんの」
「まあ。可愛らしいのに勇ましいのね」
「ふふふ。ですから、わたくしも一人の女性として、そういうシチュエーションに多少の憧れはありますの」
「今じゃ隙あり!」
カメノフの目がカッと見開かれ、セレナのスカートがふわりと浮く。
「何をやっとんのじゃー!!」
マギー・フランシスカ(ea5985)の叫びと裏腹に、セレナは「まあ風が」とスカートの裾を押さえる。
「う、うむぅ、何と隙のない。流石はキャメロット最強のナイト」
「当たり前じゃ! ヒロインが下着を見せるか!!」
「じゃが諦めんぞい!」
そこは諦めておいたほうが。
「お待たせした諸君!」
ぶぁっさ、と毛織のマントをはためかせ、ガイマン登場。せっかくなので、カメノフはそのマントをサイコキネシスではたはたしてやった。
その間、店の影から怪しげな覆面をした者たちが、「シャー!」と奇声を上げながらセレナに襲いかかった。
セレナは‥‥反射的に彼らを叩きのめしそうになったが、
(「いけない‥‥わたくしは今、かよわいヒロイン!」)
間違ってもソードボンバーで一掃してはいけない。
「きゃっ、誰か、助けてくださいませ〜」
可愛い悲鳴をあげ、大人しく攫われた。
「むう! 悪の組織め!」
「自警団の方々も大変ねえ」
奥さんの現実的な呟きはよそに、周囲から歓声が上がった。いつの間にか集まった、観客たちである。
「ガイマン騎士団、出動じゃ!」
「おう!」
「セレナを救い出すのじゃ!」
意気込んで出動ポーズ(昨晩練習)をとるガイマン騎士団の背後から、景気よく炎が巻き起こる。
「おおっ、すげぇカッコいい!」
「炎の騎士団、がんばれー!」
観客からの応援も上々。
ただし奥さんだけは、
「あんたァ! 店を燃やす気かい!?」
「ひぃ! ごめんよカーチャン!」
カメノフは勿論、店に被害が出ない程度に効果をもたらしたのだが、カーチャンには通用しなかった。
イベントのために開けてもらった道、襲いかかる悪の組織!
「受け取れガイマン、正義の剣じゃ!」
マギーが投げ渡すクリスタルソードを受け取り、ガイマン先頭で奮闘。ただの商人の親父と思いきや、案外さまになっている。
「へへっ、昔はこれでも自警団所属でね! おらおら若造ども! 気合入れろや!」
「シャー!」
自警団はしっかし装備を整えている。
(「これならいけるか」)
マギーはグラビティーキャノン初級を唱え、敵をなぎたおす。
派手なリアクションとともに「ぐあぁ!」と悲鳴をあげながら(実際はそこまでのダメージではない)転倒していった。見事な役者魂だ。
根城たる廃屋が見えてきた地点で、マギーは廃屋に蔦を這わせいかにも禍々しい風情に仕立てた。
「よし、突入するぞ!」
ガイマンが鼻息荒く踏み出すが、建物の影より颯爽と姿を現した満がニヒルに口端を上げる。
「馬鹿正直に正面から行くつもりか? 恐らく歓迎の準備を整えて待っているぞ」
「きゃー!」
「満さまステキー!」
‥‥おばちゃんたちの黄色い声援である。嬉しいような悲しいような。
満も加えて根城に突入。満は次々襲いくる悪の手下を華麗に捌きながら、ガイマンが手間取ればフォローもする。
「まったく‥‥考えなしに突っ込むからだ」
「美味しい役どころじゃのう」
呟きながら、カメノフはガイマンの剣をバーニングソードで燃え上がらせたり、突風を起こして場を荒々しく見せたりと、演出に余念がない。
調子に乗ったガイマンが特攻していくのを、マギーが叱咤する。
「ガイマン、罠じゃ!」
十数名の悪の手下が待ち構える袋小路に追い詰められた!
「ここは任せて先へ行け!」
腰を落としニ刀を抜く満。
その隙のない構えに悪の手下は攻めあぐね、ガイマンたちを逃してしまう。
「さぁ、ここからが本番だぞ‥‥誰から来る?」
張り詰めた空気が廃屋を奔った。
●決戦
「まあ、美味しいですわ」
「うちの家内が焼いたものでねぇ」
「お羨ましいですわ」
「悪の帝王!!」
和んでいたヒロインと悪の帝王、お茶とクッキーを背後に隠してポジションにつく。
「クックック‥‥ついに来たか、ガイマン騎士団!」
「ガイマン様っ!」
「さあ、来るがいい! 深淵の縁に叩き落してくれるわ! んガーハッハッハ!」
先刻までお茶を楽しんでいたようには見えぬ悪役ぶりだ。
「こちらに来ては駄目です。ガイマン様を誘い込む罠が仕掛けられておりますの」
「くっ、娘! 余計なことを!」
何となく美味しそうなシーンなので、マギーとカメノフはさっと身を引いてガイマンが襲われやすいようにした。
「ガイマン様、危ないっ!」
セレナは可憐にガイマンを突き飛ばし、伏兵の攻撃をその身に受けた。
受身を取ったので心配はいらない。危なかったといえば、セレナがうっかりカウンターしそうになったことだろうか。
「セレナちゃん!」
「ガイマンさまどうか‥‥悪を倒してくださいませ」
弱々しく微笑むセレナからくっと目をそらし、ガイマンは立ち上がった。
折りよく雨雲が出てきたので、カメノフはヘブンリィライトニングによる落雷効果で悪の帝王に凄味を加える。
稲光をバックにする帝王は、本当に強そうだ。
「恐れるでない、ガイマン! あんたの勇気はその程度ものか!」
マギーに叱り飛ばされ、ガイマンは奮起。
「うぉお!!」
雄たけびを上げて炎を纏う剣(カメノフがかけ直した)を振りかざし、帝王に挑むガイマン。
まだまだ現れる悪の手下と戦うマギー、追いついてきた満。
「ぐふぅ!」
脇と腕の間に剣を差し込まれた帝王、苦しみもがく。そんなことより熱そうだが。
「や、ら、れ、た‥‥ぐぉおー!」
こうして悪は滅び‥‥
ガイマンはセレナに駆け寄る。
「無事か!」
「大丈夫ですわ‥‥」
抱き起こされ、セレナは肯く。
「ありがとう‥‥、ガイマン様。わたくしたちのヒーロー」
その、締めの言葉に。
ガイマン、感涙。
●御礼
打ち上げパーティには悪の組織こと、自警団も参加。そのままの衣装で。
「近所からの評判も上々だし! ありがとう、あんた達!」
「爺さん、乾杯たのむ乾杯」
指名され、カメノフは発泡酒片手に立ち上がる。
「成功を祝して‥‥乾杯じゃ!」
「カンパーイ!」
未成年のセレナや、酒の苦手な者はジュースだが。
毛織物商の親父は宴会の最中、冒険者たちに土産を渡した。
「ま、大したもんじゃねぇが、下着のかえにでもしてくんな。お嬢さんたちにはこっちな」
「何だ?」
満が袋から中身を取り出すと‥‥
温かそうな褌がずるりと這い出てきたのだった。