【ろくでなしの迷宮】アダムの遺産
|
■ショートシナリオ
担当:浅葉なす子
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 88 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月17日〜03月23日
リプレイ公開日:2008年03月25日
|
●オープニング
●日陰の物語
おしゃべりサイダー、と呼ばれる女がいる。
下らない噂話を流しては喜んでいる、口から先に生まれたような女だ。
彼女に勘付かれたら最後、漏れぬ秘密はないと言われている。
それはある意味ただしく、ある意味、不正解だ。
サイダーの元に本日、来客があった。
「ひさりぶり、ナイジェル。相変わらず足音も立てないのね。あたしの顔見に来た訳じゃーなさそう」
ナイジェルと呼ばれた青年は、苦々しい顔で彼女を睨む。
「決まってる。貴様の貝のように硬い口に会いに来たのだ」
「何でも知ってるわけじゃないのよ」
「御託はいらん。アリスの居場所を教えろ」
「噂話じゃないなら、お代を頂かなくちゃ。ちょっと高いわよ。アダムのことなんだけど」
その名を聞いて、ナイジェルの眉が顰められる。
娼婦アルデラの死んだ恋人、アダム。
彼はアルデラに横恋慕する男、ヒューラムに陥れられ、ある遺跡で命を落とした。
「あそこはアダムが財産を『捨てた』場所。なんで手前で迷って死ぬの?」
「当然だ。俺が代わりに隠したのだ。奴が取りに来るとは想わなかったがね」
「あら新事実。確か冒険者が三度に渡って調査したらしいわね。一度は好奇心の冒険者が、二度、三度はアルデラの依頼で。
何で財宝見っかんないの? あんたガメたんじゃないの?」
「‥‥それを知ってどうする?」
「アルデラにアダムの財産を託したいのよ」
ナイジェルはサイダーの意図をはかれず、ますます渋面を作る。
娼婦のアルデラは、サイダーとは赤の他人だ。おそらく、会話もしたことがないはず。
「‥‥横恋慕のヒューラムに、アダムには遺産があると流したの、実はあたしでね」
そして、財産があることを聞いたのは、アダム自身から。
俺には不要なものだ。欲しい奴がいれば、くれてやってくれ。
だが、アダムには恋人ができた。再び財産を取りに行こうとするほど想ったアルデラが。
彼女には、これからの人生を生きる金が必要だった。
アダムの財産を知ったヒューラムはアダムに接触し、囁いた―――
『かつての財産をとりに行けばいいではないか。それでアルデラも君も暮らしていける』
「そして見つからない財産を求め、彼は帰らなかった。アルデラは再び天涯孤独。
あたしはヒューラムがそういう手段に出るとは想わなかったし、アダムの馬鹿が死ぬとも想わなかった。
責任の一端はあたしにある。さあ、教えなさいアダムの財産の在り処を。そうすればアルデラは少なくとも、娼婦のまま野垂れ死ぬことはない」
「高い代金だ」
ナイジェルは溜息つき、
「地下だ。アダムの遺産は地下に隠した」
●日向のこと
娼婦のアルデラの元に、匿名の文書が届いた。
そこには亡き恋人の遺産について述べられており。
金のことより何より、アルデラは恋人の面影にすがって‥‥再び冒険者に依頼を出す。
●リプレイ本文
アルデラから匿名文書を受け取ったヒースクリフ・ムーア(ea0286)は、「アダムの遺産ねぇ」と眉を寄せる。
「怪しい話ではあるが、これが罠だとしても理由が思いつかないな」
「ごめんなさいね。いつも‥‥」
アルデラとしても、前回で気持ちに整理をつけたつもりだった。
だが、遺産があると聞かされては。
土御門焔が「アダムの遺産」「アルデラ」で未来予知すると、尼僧の姿が映った。意味するところは、不明。
さて、問題の地下迷宮。
「草で封印されていますね‥‥」
偽装された入り口を、オグマ・リゴネメティス(ec3793)が器用に解く。
そうして覗いた地下へ、メグレズ・ファウンテン(eb5451)の提案した隊列で足を踏み入れる一行。
後衛努めるルシフェル・クライム(ea0673)は、一度、不死者の気配を探った。
「距離から察するに、匿名文書に書かれた配置そのもの、という様子だな。前衛、気をつけてくれ」
「私は頭を打たないよう気をつけないと」
横幅は結構あるのだが。ヒースクリフは低い天井を撫でる。
「思ったより、冷えますね〜」
指先に吐息をかけながら、シーナ・オレアリス(eb7143)は壁の温度も確認。
「ガーゴイルが動く前に凍らせましょう〜」
「そうしてくれれば、有難いな」
肯くが、他に魔物が潜む可能性もあり、ヒースクリフは警戒を解く気はない。しかし、いつ動くか不明なガーゴイルに過剰な注意をするより、その方がいい。
メグレズはランタンの火を掲げてみた。空調は良いようだ。どこかに通気孔でもあるのだろうか?
匿名文書の地図は正確だった。最短距離以外はマッピングされていないが、最短以外に今回の目的はない。
前衛がシーナを護れる立ち位置のまま、最初のガーゴイルに近づく。
「射程距離はこのくらいでどうかな」
「ぎりぎりだと想います」
目のいいヒースクリフが未だ灯火にも浮かばぬ敵を確認し、夜闇の指輪を持つオグマもそれに同意した。
シーナが詠唱を始め、一体目のガーゴイルが遠方で凍りついた。
その時。
二体目のガーゴイルが鈍く動く素振りを見せる。
「声に反応するのか!?」
「問題ありません、ヒースクリフさん」
小声で囁きつつ、メグレズは得物を構えた。
「帰りもあります、二対ずつなら倒した方が」
前衛として、これ以上行かせはしない。
(「妙剣、水月!」)
鋭い技が叩き込まれ、ガーゴイルは体勢を立て直す間もなくヒースクリフのスマッシュに突き下ろされる。
「む‥‥!」
ルシフェルは背後の異変に気付き、剣束に手をかけた。
別の場所にいたガーゴイルが、列を作って押しかけてきたのだ。
「声が別の場所にも届いたか‥‥!?」
「地図の配置から考えて、遠くから来てそうですよ〜」
だとすれば、声よりも音。戦闘の音にガーゴイルは反応した。
前方より後方の敵が多い! 剣を構えるルシフェル。
敵が雷に強いことはシーナから聞いていたので、ライトニングトラップは使えない。オグマが弓を射掛けると、シーナは、
「オグマさんもアイスコフィンのスクロール持ってましたよね」
「ええ、あります」
「三体同時に凍らせて、とおせんぼしちゃいましょう」
して。
ルシフェルがフェイントアタックで三体も同時に持ち堪えている間、前列を連携で氷で閉じ、敵最後尾をシーナが凍らせてしまうと、大量のガーゴイルは身動きできなくなってしまった。飛び越そうにも天井が低すぎるのだ。
「この遺跡には、ガーゴイルの巨体は向かないな」
ルシフェルは右往左往するガーゴイルに苦笑し、剣を収めた。女性陣の助けなくば、あの大量のガーゴイルを一手に引き受けねばならないところだった。
前衛も難なく、数体のガーゴイルを潰している。
「面白いことになっているね」
しげしげ観察するヒースクリフ、しかし「帰りはどうしようか」と。
「ガーゴイルが一纏めになっているから、他の道は通りやすかろうよ」
荷物を背負って探索もしたくないので、今の内に帰路を調査した。オグマが文書から写した地図に、新規道を記してゆく。
種が分かってしまえば後はつつがなく、声も足音も立てぬよう進むとガーゴイルは反応しなかった。
そして、最奥部―――
今までと同じように、二対のガーゴイルが鎮座している。他のガーゴイルとは十分に遠い。
ヒースクリフ、メグレズがそれぞれガーゴイルの前へ静かに立ち、音をさせぬよう得物を構える。
「牙鎚、破星!」
「はっ!!」
攻撃と同時に動くガーゴイルに、オグマも支援と牽制を目的に矢を射掛ける。その間、片方はシーナの手により凍結、片方はルシフェルがコアギュレイトで足止めした。
「ルシフェル殿、後方はどうかな」
「異常はない、が、また押し寄せて来ないとも限らん」
「それにしても、ここが終点ですよね?」
シーナは周囲を見回す。単なる行き止まりにしか、見えない。
と、こんな時に心強い味方のオグマ。
「クレバスセンサーで隠し部屋を探してみますね」
彼女は八咫鴉の勾玉を持ち、突き当たりと左右の壁、床などを調べる。しかし、反応はない。
試しに対象を上方へ向けてみれば‥‥あった。
「ヒースクリフさん、天井です。押してみてください。罠があるかもしれないので気をつけて‥‥」
罠を調べたいところだが、残念ながらオグマでは背が届かない。ミラーオブトルースの鏡に反応はなかったが‥‥
促されるままに、ヒースクリフは仲間を下がらせて天井を押す。石の引き攣れる音と共に、継ぎ目の見えなかった天井が開いた。
ガーゴイルの氷像を足場に、ヒースクリフは中を覗いた。
「足場が悪い。気をつけてください」
「分かっている。メグレズ殿、そこにいてくれ」
ヒースクリフは中の物を掻き出し、順次メグレズに渡していった。
膨れた金袋がいくつか。結構な量だ。そして、シークレットダガーが数本に羊皮紙が一枚。
『我が友、ナイジェルに託す』
それは、地上の壁に彫られていた文字と同じ癖があったように思う。
「ナイジェルさんって、どなたでしょう?」
「さあ、分からないな」
「色々あるんですね〜」
「しかし、この暗器」
ルシフェルが手に持つそれを、メグレズが検分する。
「使い込まれていますね」
「アダムか‥‥何者だったのだろうな」
ともあれ、目的は果たした。
主に力の強いヒースクリフが金袋を持ち、まだ動かぬガーゴイルの脇を抜け、オグマが記した地図を元に道を引き返してゆく。
そして、地上に出ると男が一人立っていた。
ヒースクリフは出ようとする仲間を押し留め、「君は誰だ」と問いかけた。
暗い雰囲気の青年である。彼はすっと指をつきつけ、
「書いてあったろう。ナイジェルだ」
「貴殿が‥‥」
ヒースクリフの横に並び、メグレズは警戒を強める。
「人を捜しているのだ。ヒースクリフ、だな。アリスという娘を知らぬか」
「‥‥? 知っていても言わないが、彼女なら去った」
「誰です?」
「さあ‥‥」
シーナとオグマは顔を見合わせる。
「君とアダムは何者なんだ?」
「‥‥ただのチンピラだ」
ナイジェルは冒険者たちを地上から見下ろし、
「友の遺産、確かに見届けた。あの娼婦に渡してやれ」
偉そうに言い捨て、彼は立ち去った。
●血塗られた遺産
渡された金袋、そして使い込まれたシークレットダガー数本。
それを前に、アルデラは沈黙していた。
「貴方の未来を望んだ彼の想い。どう応えるかは貴方次第です」
「そう。これで最後ね、ヒースクリフさん」
彼女は微笑んだ。
「私は神の道に入ろうと想います。そしていつか、孤児を引き取り育てたい。こんな穢れた女が許されるのか、わからないけれど」
少なくとも、アダムをこれ以上引き摺ることはなさそうだ。
奇妙な字、奇妙な死、奇妙な遺跡に、そこに封された男の物語が、漸く終わりを告げた。