【ロゼ・オ・デス】沈黙の贄

■ショートシナリオ


担当:浅葉なす子

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 32 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月21日〜03月27日

リプレイ公開日:2008年03月29日

●オープニング

 村の井戸端で、おばさんたちが暗い顔で相談している。
「今日のお酒は、料理はどうしようかね‥‥」
「冬が明けたばかりで、蓄えがないのに」
 彼女たちは、何も今晩の献立で悩んでいるのではない。
 質素な村だ。旅人が訪れることもないような。そんな村の人々が食べるものなどたかが知れており、粗末なもので良い。
 だが、この村にいる『お客様』はもっと豪勢な食事を望む。
「おい」
 声をかけられ、女性らは悲鳴を上げた。
「ヒュ、ヒューゴ‥‥」
 森から姿を現した少年に、身を硬くする。
 少年の耳は半端に長い‥‥ハーフエルフの象徴が。
 ヒューゴと呼ばれた少年は、構わず村の女性に怒鳴りつけた。
「いつまであいつらの言いなりなんだよ。脳みそ腐ってんのか、肝っ玉腐ってンのか」
「あ、あんた‥‥逆らったり裏切ったら、村の人間が殺されるのよ! 従うしかないじゃない」
「俺たちは全員、あいつらの秘密知ってんだ! 蓄えがなくなればどうせ口封じで殺されんだよバカチンが!!」
「あんたの父親が最初に裏切ったから‥‥殺されたんでしょうが!」
 女の批難に、ヒューゴは目を見開いた。
「ちょ、ちょっと。まずいよぉ、また狂化したらどうすんの‥‥」
 ヒューゴに怒鳴った女性を、他の女性が引き摺り去ってゆく。
「‥‥ちくしょう」
 馬鹿だ、どいつもこいつも。
 この村には、もう三年も居座っている輩がいる。
 外でどんな悪行をしているか知れないが、この村を基点として動く。
 そのことを外に漏らしたり、脱走すれば殺される。ヒューゴの父のように。
 奴らは村人として生活するので、外界の人間は、誰もこの村の状態を知らない‥‥
「父さんは‥‥お前らを助けようとしたんだ。誰一人、立ち上がろうとしない腰抜けばっかのこの村でさ‥‥ちくしょう」
 ヒューゴがハーフエルフだから、父子で森に住んでいた。異変を感じたときに、二人で逃げれば自分たちは助かったのだ。
 それなのに、村の連中は父を憎んでいる。
 もう一度ちくしょう、と呟き、村に出た。
 今日こそ奴らの尻尾を掴んで、誰かに助けてもらうのだ。
 と、村の宿で押し問答している姿を見かける。
「わたくしを泊める部屋がないなら、他の客を放り出しなさい」
「そ、そんな無茶な‥‥あの、うちは今お客さんに出せる食材もなくて」
「お黙りなさい、この愚民が! その残り少ない髪の毛残らずひっぱがすわよ!!」
「お許しください!!」
 惨い‥‥ヒューゴも口の悪い部類だが、彼女はその斜め上空をいく。
 宿の主人と言い争っているのは、若い貴婦人である。美しくも可憐なのだが、目がきついのが玉に何とか。
 しかし、あんなお嬢さんが寂れた村に何の用だか。
 そちらに構ってはいられない。ヒューゴは『奴ら』のねぐらを目指した。
 一見、ただの小屋に見せるため、奴らは見張りを立てない。ヒューゴは裏手に回り、窓の下に潜む。
「次のおつとめ先は、この屋敷でいかがでしょうな。去年豊作だったそうで、潤っていますが、警備は薄い」
 聞きなれぬ、甲高い男の声だ。
 たぶん、『奴ら』に仕事を教える奴だと思う。
 『奴ら』の頭が喉の奥で笑う声がした。
「お宅の情報はいつも穴場をついてくるな。今度の謝礼金も期待されよ」
「ええ、それはもう‥‥楽しみにしておりますよ」
「そこで何をしている」
 最後の声は、背後から。
(「覆面、だ!」)
 『奴ら』と稀に行動を共にする、『覆面』の連中。
 こいつらは見るからに怪しいので、滅多に現れないが‥‥
 『奴ら』は直接手を汚すことはない。ヒューゴの父親を殺したのも、父の裏切りで村人を見せしめに殺したのも、覆面の連中だった。
「ハーフエルフのガキじゃないか。いつだか、狂化したやつだな」
「殺しておくか‥‥」
 囲まれ、ヒューゴは唇を噛む。こんなはずじゃなかったのに!
 と、胸倉を掴まれて殴られた。
 続けざまに一発、二発。最後に腹に蹴りを入れられ、地に転がる。
 口の中に苦い血の味が広がった。
「ごほ、ごほっ‥‥」
「景気がいいな、レレイ!」
 ヒューゴをいたぶった覆面を、仲間がはやしたてる。
 レレイと呼ばれた覆面は、ふふんと鼻で笑った。
「どうせハーフエルフの言うことなんざ、誰も信じねぇよ」
「げほっ、て、てめぇ」
「まだ元気そうだな?」
 レレイは屈みこみ、蹲るヒューゴの髪を掴み上げた。
「それとも、冒険者ギルドにでも助けを求めてみるか? ハーフエルフなんざ、門前払いだろうがな!!」
 ヒューゴの屈辱に歪む目先‥‥
 酷い罵倒をした口で、レレイは素早く小声で囁いた。
『早く逃げなさい!』
 ヒューゴは弾かれるようにその場から駆け去った。
「レレイ、何言ってんだ。冒険者にはハーフエルフいるんだぜ? 門前払いのわけなかろうよ。もし、あのガキが‥‥」
「言葉のあやだよ。依頼料だってあるわきゃねぇんだ」

(「なんだったんだ、あいつ‥‥」)
 走りながら、ヒューゴは訳が分からず体の痛みと、罵倒の痛み、そしてレレイの最後の囁きに混乱した。
(「逃がしてくれたのか? まさか‥‥でも、なんであそこで『冒険者に』なんて言葉が出てくるんだ?」)
 彼はとにかく家に帰り、鞄に荷物を詰め込んだ。
 そして家を出ると‥‥覆面がいる。レレイはいない。
「やはり殺しておこうと思ってな」
 あとずさるが、逃げる場所なんて、ない。
 と、覆面が前のめりに倒れた。延髄の辺りから、血が吹き零れている。
「ひっ‥‥」
「狂化すんじゃなくてよ」
 冷めた声音が聞こえ、戸口から女が現れる。
「あ、あんた‥‥さっき宿にいた」
「さっさとお行きなさい。そいつは引き裂いて、貴方が狂化して殺したことにしておくわ。
 ただし、あなたの留守中に村人が数人、見せしめになることはお覚悟あそばせ」
「そんな‥‥」
 父の密告失敗で、村人は死んだ。
 父が間違っていたとは思わない。けれど、父のミスで人死にが出たのは事実。
 ヒューゴまでがそんな罪を犯す訳には。
「‥‥この村は、どちらにせよ直に滅ぼされるわ」
 彼女の言葉にはっとする。
「わたくしは、奴らさえ潰せればそれで宜しいの。でも、流す血は少ない方がいい。
 目先の犠牲にとらわれ、この地が無人になることをお望みなら、このまま残りなさい。
 ただし、貴方は明日にでも殺されるでしょう。今度は庇わないわ‥‥」
「ま、待ってくれ」
 踵を返す女を呼び止める。
「あんた、名前は? 俺は」
「ヒューゴ。貴方有名ですもの。わたくしはグロリア。覚えておく必要はなくてよ。さあ、お行きなさい」
 今度こそ行ってしまった女の足元に、何か落ちていた。
 未だ倒れている覆面を越え、拾い上げる。彼女に返さなければ。
 しかし‥‥
 その小袋の中に詰まった金貨を見て、これが落し物でないことに気付くと、知らず知らずの内に涙が零れた。

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb7721 カイト・マクミラン(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ec0131 カジャ・ハイダル(37歳・♂・ウィザード・人間・イスパニア王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 ヒューゴが誰かと語っていた。
 頭巾を被ったハーフエルフの少女は、冒険者に礼をして駆け去ってしまう。
「誰だ?」
 キャメロットに出たばかりの少年に知合がいると思えない。レイア・アローネ(eb8106)が尋ねると、ヒューゴは困った素振りで、
「レレイだって‥‥殴ったり酷いこと言ってごめんなさいとか言ってた」
 が、耳は粘土だったと。
 マナウス・ドラッケン(ea0021)は腕を曲げ、
「レレイという名ではない筈だけどな。重さまで覚えてるぞ」
 その重さを思い出す手はやめた方が。
「ヒューゴ。お前はどうしたい?」
 レイアに問われ、ヒューゴは俯いた。月詠葵(ea0020)が彼の顔を覗き込んだ。
「今、ヒューゴ君が村に行ったら危ないです」
「‥‥うん。村の誰かが殺されたら、俺は狂化しそうだし」
 誰でも、知った顔が殺されて我慢なるものか。
 空木怜(ec1783)は暗い顔のヒューゴの頭を撫でた。
「絶対、ぶっ潰してやるさ。安心して待ってろ」

●潜入
「ベッドさえあればいいから、ね、お願い」
 カイト・マクミラン(eb7721)に迫られ、宿の親父は光る頭を掻く。
「依頼帰りで疲れてんだ。何処でもいいから寝たいんだよ」
 同行のカジャ・ハイダル(ec0131)も詰め寄るが、亭主は難色を示す。
「部屋は空いてるくせに」
 上からの声に、怜は顔を上げた。
 二階の窓から、きつい印象の女が見下ろしている。
「客は私以外いなくてよ。亭主、私のお茶を早くなさい、頭皮ごと引っ剥がすわよ」
 グロリア。
 カジャはヒューゴから聞いた話を思い出し、
(「あの女の下だと、心配は首じゃなくて髪だな」)
 肩を竦め、案内された部屋で夜に備え、ベッドに転がった。

「狂化したハーフエルフに二人殺されてるんだ」
 広場で「冒険譚や恋の歌、どんな歌がお好みかしら?」と尋ねたカイトに、村人はそう答えた。
「危ないからお逃げ」
(「変ね」)
 ヒューゴは狂化してない上、殺したのはグロリア。
 彼女、冒険者が着く迄にもう一人殺したか。
 ――見せしめが起きないように。
 離れた場所では怜が村人に滞在の理由を聞かれ、
「依頼帰りだよ。もう一人いたんだが、先に帰ってさ。それがどうかしたか?」
 それ以上つっこんだ話が聞けないでいる。
 その間、怜とカイトは目端で捉えていた。
 葵がヒューゴに描かせた『奴ら』の顔絵そのままの人間を。
 そして、そんな奴らと会話する小太りの男がいた。
「これが見取り図になります。ええ。どうぞ心置きなくおつとめくださいまし」
(「盗み先の話題か?」)
 ヒューゴに聞いた盗賊の情報屋。気になったが、今は追求べき時ではない。

●夜
 カジャは低い悲鳴で目を覚ました。
「敵地で呑気だこと」
 血塗れの覆面を足蹴にしたグロリアが、ベッドの上のカジャを見ていた。
「廊下側の窓から逃げなさい、さあ」
 促され、しかしカジャの内心は苦い。
(「助けてくれたのは礼を言うが‥‥カイトが連絡しにくくなった」)

 村の異変を、森に潜むアンドリュー・カールセン(ea5936)は悟っていた。
 だが、為すべき事は変わらない。森にいた覆面に忍び寄り、悲鳴の上がる暇もなく喉首をかき切る。
 ヒューゴの弁によれば、レレイは女である。ならば男に容赦の必要はない。
「お前達の仕事は面白そうだがな」
 呟きは、森の闇に呑まれた。

 一方、潜むマナウス、レイア、葵の元へ訪れたグロリア。
「ご一緒させてくださいな」
「‥‥尾けられてないです?」
 葵に指摘されるとも、どこ吹く風。
「あの覆面は戦闘能力があるだけの、ずぶの素人。後ろ盾もなければ組織でもなくてよ」
 あの覆面『は』と言い切った。マナウスは胡散臭そうに彼女を見やる。
「お前の目的はなんだ?」
 グロリアは眉を顰めた。
「ヒューゴに聞いていないの? 奴らを潰すのが目的。うちの間者が成り行きで潜入した先がこの状態だったのよ。殆どボランティアね。ただ、村人の命まで手が回らないから貴方がたを呼んだの」
 邪魔をする気はないようなので、レイアは彼女を無視することにした。
 その時、レイアの耳に囁きが入る。カイトだ。
『カジャが殺されかけて、騒ぎが起きてるの』
 しかし、ここにいるグロリアが偽装を施したと言う。
「奴らはまだ僕たちじゃなく、ヒューゴを警戒してるのですね?」
「付け入る隙はまだある、か。だが、時間の問題だな」
 レイアは機会あらば押し込もうと、村に注意を向ける。
『覆面が何人か捜索に出たわ。でも、小屋の中には残って酒盛りしてる奴らと給仕の女性がいるの。押し入るなら今しかないわ』
 これ以上時間が経てば、矛先がヒューゴから冒険者に向く。それでは夜討ちにならない。

 グロリアは、間者ごと攻撃して良いと言った。
「うちの間者は覆面の中で唯一の女。見間違うことはなくてよ」
 見張りをカイトが眠らせ、入り口付近にレイアと葵が待機して後、『レレイ』がおもむろに中から扉を開けた。
 その瞬間を狙って、カジャがグラビティーキャノンを放つ。無論、人質を考慮した上での初級魔法である。
 だが、覆面の女が驚いたように手を広げた。
「やめてーっ! 小さな子供がいるの!!」
 しかし、その時には詠唱が終わり。
 重力波が障害物を物ともせず、直線を描いた。
(「なんで子供‥‥」)
 カジャは奥歯を噛んだ。彼は女が小屋に入るのは見たが、子供の存在には気づかなかった。
「母親の人質として、拘束されてたのかしら?」
 カイトも不審そうにしている。
「行くぞ、葵」
「はいっ」
 躊躇なくレイアと葵が突入した。
 レイアは子供の母親を後方へ突き飛ばし、転倒したした敵を葵がひきつける。見事な連携であった。
 たとえ、子供が転倒の際、頭を打ったか、首の骨を折ったか、ピクリともせずとも‥‥
 レイアはノヴァクの剣を振り上げ、魔法使いを狙ってスマッシュを打ち込んだ。
「ふっ‥‥マナウス、お前に貰い受けたこの剣、具合がいいぞ」
 良過ぎる。それほどの名刀だった。
 葵はもっと淡々としていた。急所を狙って一人倒しては、次にかかる。
「ふざけやがって!」
 覆面に守られた魔法使いが詠唱を終えた。
 裂けるような極寒の空気が小屋内を満たす。
「う、く‥‥」
 母親と子供をその身で庇い、覆面の女が苦痛の声を上げた。
 外にいた覆面は、アンドリューが仕留めた。彼は何気なく覆面に接近し、
「何事だ?」
「小屋の方で、何か‥‥っ!?」
 腹に深く刺さった刃を凝視して、覆面は崩れ落ちる。覆面は最期、己を見下ろすアンドリューの冷えた瞳を見た。
「裏切り者か!?」
 色めき立つ覆面の仲間が襲いかかるも、途中で倒れる。
「眠ってなさい」
 スリープを唱えたカイトの仕業である。
 魔法使いは、小屋の中にだけ居た訳でないらしい。
 異変に気付き、様子見に出て来た村人に紛れ、詠唱する『奴ら』の姿。
 覆面のアンドリューより、マナウスが目立つ。彼を中心に雷が轟いた。
「‥‥残念だったな、精霊魔法は俺に通じにくいんだ」
 傷の浅いマナウス、すぐさま他の魔法使いに挑みかかり、次なる魔法を封じ込んだ。
「く、そ‥‥冒険者が、ぁ」
「三年間のツケだ、大人しく受け取りな」
 マナウスは魔法使いの身から、矛を引き抜いた。
 冒険者の急襲を受け、この場に見切りをつけ逃げる者も出た。
「逃がさねぇ!」
 カジャが印を結び、背を向ける者達が宙に浮く。
 それらが落下したところを、抜け目なくアンドリューがナイフを投げ仕留めた。
 怜は、最後らしい覆面を急所突きで黙らすと、周囲を見回した。
「怪我人はいるか? 治療するぞ」
 しかし、村人は遠巻きにするばかり。
 小屋の中から、レイアが顔を出した。
「怜、子供が怪我をしている。診てくれ」
 レイアに急かされ、怜は小屋の中へ駆け込んだ。
「これが冒険者の戦い方なの?」
 覆面を剥いだ女が、小屋の入り口付近で涙を零し、冒険者を詰った。
「幼い人質ごと攻撃して、庇おうともしない! 化物を倒す化物とは、まさにあなた達のことよ」
「アリス」
「触らないで!」
 レレイこと、アリスはマナウスの手を払い、どこぞへと駆け去った。
「気にすることはなくてよ」
 雇用主のグロリアが笑った。
「流石に場数を踏んだ戦士よね。あの娘は昔、冒険者に救われているから美化が激しいの。私は好きよ、貴方がたが」
 そんな台詞を背に、怜は子供の容態を診る。
「‥‥生きてる」
 即死でなかったのが、幸いだ。
 テスラの宝玉を腹に置き、怜が祈ると子供が弱弱しく瞼を開けた。母親が悲鳴と歓声の区別つかぬ声を上げ、子供をかき抱く。
「しまった‥‥」
 子供の治療を見守っていたレイア、小屋の方に気づいて渋い顔をする。
「眠っていた連中、拘束しておくの忘れたな」
 大体、三名程だろうか。カイトと怜に気絶させられた者だ。
 表沙汰になった村に、戻るまいが。
「逃亡者は私が追うわ。尋ねたいこともあるし。ヒューゴはもう村に住めないでしょうから、知合の騎士に預けるわ。ごきげんよう」
 そう残し、グロリアも去る。何とも面倒見のいい女だった。
「出て行って下さい!!」
 子供を抱く母親が叫ぶ。
 元から感謝はされぬだろうと予想していたが、村人は積極的に冒険者を追い立てた。
「三年、縮こまって生きてきたんだな」
 村から離れた場所で怜が呟き、カジャも溜息つく。
「犠牲を出してまで開放されたいとは思わないって訳だ」
「ヒューゴが苛立ってたのも、ちょっとだけ分かるのです」
 葵が苦笑する。結果的に死者が出ずとも、村人は許せなかった。
 そんな彼らを救おうとして、ヒューゴの父は命を落とした。
 グロリアが拾うと言ったので、ヒューゴには会うこともなかろうが。
「ヒューゴ、親父さんの仇はとったぞ」
 カジャは夜明けの近い空へ報告するかのように、呟いた。