ゴブリンナイト
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:浅葉なす子
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 60 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月14日〜12月17日
リプレイ公開日:2007年12月17日
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●オープニング
村の付近にある森で、男の子が遊んでいた。
男の子の名前はトビーといって、先日、八歳になったばかり。
「ジョンもアニーも家の用事でつまんない」
せっかく聖夜祭の飾り物の材料集めに来たのに、一人だなんてつまらない。
それに、大人が一緒でないと、森の中まで入れない。仕方なく、トビーは森の入り口をうろうろしていた。
トビーはしゃがんだままバッタのように跳び、綺麗な色をした南天の実を物色しては籠に詰めていく。
彼の背中で裾が舞うものは、コートではない。騎士気分を味わえる、子供用騎士団風マントである。お誕生日にお母さんが買ってくれた、トビーの宝物だった。
「どのくらい集まったかな」
籠をおろし、土の上に置いた。
中を覗き込もうとすると‥‥トビーはぽかんと口を開ける。
目の前に、異形の生物がいた。
それは人間と同じような形ではあるのだが、裂けたような口からつきでる牙は鋭く、大きすぎる目はぎょろぎょろしており、魔物だと分る。
森とはいえ、こんな村のそばで。すぐそこに、家屋があるのに。
魔物は、腰が抜けてしまったトビーを見るや、嬉しげな顔で手足をじたばたさせた。
すると、木々の間から仲間らしき魔物が次々と登場するではないか。その数、およそ4、5匹。もっといるかもしれない。
「あ‥‥あ」
助けを呼ぶ声もでなかった。
が、魔物といえば、トビーに目もくれない。トビーの周りで景気よく踊るばかり。
そのうち、一番偉そうな魔物が近寄ってきて、手を伸ばしてきた。潰れた悲鳴を上げるトビー。
魔物はトビーのマントを奪い、それを羽織って得意げに胸をそらした。
「ま、まって、それ、ぼくの‥‥」
聞く耳もたず、魔物たちは森の奥へと帰っていった。
トビーの証言から、村長はその魔物をゴブリンだと断定した。
被害が出てから行動に出るのでは、遅い。村の男が総出で森へ出た。
しかし、食べ残しや火を焚いた形跡がたまに発見されるばかりで、姿がない。どうやら逃げ隠れするのが巧いようだ。一応、生活範囲に規則性はあるようだが‥‥
これは手におえないと感じ、村長と、証言のためにトビーが冒険者ギルドにやってきた。
「別に退治しなくてもええんです。村を守れれば、そしてあの森から出ていってくれれば、わしらはそれで」
依頼をする村長の隣で、トビーは半べそをかいていた。
「冒険者のひとは、ぼくのマントを取り返してくれる? お母さんが買ってくれた、ぼくの宝物なの」
●リプレイ本文
村はその日についてしまうほど近く、食料は村で賄ってもらい、寝床も借りることになった。
「日も暮れそうだす、今日は準備にして明日から出発しよう」
というわけで、警戒しつつもエレイン・ラ・ファイエット(eb5299)、ミリア・タッフタート(ec4163)、マリヤ・シェフォース(ec4176)がそれぞれ、村人に護身のための武器を渡す。
村人たちは、武装といっても農具しかなく、心もとなかったので、彼らに感謝した。武具の有無で、安心感は違う。
戦えそうな体格のいい男を選んで、ダガーとレザーアーマーを渡したミリアは詳しく魔物の情報を聞いた。
「巣はね、ないみたいなんスよ。森の数箇所に火を囲んだ痕があって、焚き火は一度に三つほどあります。だから、ゴブリンは十匹はいるんじゃねえかと」
ミリアが事情聴取している間、ジノーヴィー・ブラックウッド(ea5652)がトビーを慰めていた。
「安心してくださいね、宝物というものは、それを大事にしてくれる人の所へ帰ってくる物なんですよ」
「ほんとう?」
「ええ、君が大切に思っているなら、マントは必ず帰ってきます」
「そうそう、そうだよトビーくん!」
ミリアは割り込んでいった。
「私もお気に入りのプレゼントを隣の子に取られた時は、すっごく、すっごーく、悔しくて悲しかったの覚えてる。だからちゃんと取り戻して来るから、待っててね」
「そのプレゼント、どうなったの?」
トビーが吃驚した顔で問いかけてくるもので、
「ふえ?もちろん大喧嘩して取り戻したよ?」
「それはまた‥‥あなたらしいというか」
「どういう意味だよぉ、エレイン」
「ミリアは元気だということだ」
言い合いするうちに、元馬祖(ec4154)が村の周囲に鳴子を張り終え、帰ってきた。アンリ・カミュのプラントコントロールに邪魔な木々をのけてもらいながら、周到に罠を張ってきたらしい。
明日に備え、一同は休むことになった。
翌朝。
朝露光る森は薄霧が漂い、寒かったが、防寒具でしのげぬ程ではない。少々、視界が悪いのが気になったが、さほどの問題にはならなかった。
エレインは数分置きにブレスセンサーで、生命体が付近にいるか探知した。
「こ、これは‥‥!」
「どうしたの、エレイン」
「狸だな」
同じ程の大きさの、他の動物がかかったようだ。
そこからもう少し奥まで入ったところで、エリック・カミュ(ec0788)は側の木に、グリーンワードを発動する。
「青いものはどこに行った? 最近何かあった?」
答えは「青いものはお空」「昨晩は炎」
どうやら近くで火を焚いていたようだ。
「側にいるかもしれませんね」
それを受け、エレインがもう一度ブレスセンサーを発動する。
「いる。ここから百メートル先という地点。動かないということは、眠っているのかもしれない」
ここから先は魔法ではなく、隠密行動に長けたマリヤや馬祖、ミリアが頼りとなった。
マリヤがゴブリンの目線で忍んでゆくと、いた。残り火を囲んで、眠り込んでいるゴブリンの群れが。
眠たげな見張りが船を漕いでいる間、数えてみると六匹。
「あれ、思ったより少ない」
ともあれ、魔法使いたちが襲撃の下準備を始める。エリックは退路を絶つためにプラントコントロールで壁をつくり、ジノーヴィーは先んじてディッスカリッジを見張りにかける。
すると、眠かった見張りゴブリンも流石に気付く。ディッスカリッジによって「もうダメ」と感じ、思考の鈍った彼は‥‥
「うぎゃーん!!」
泣き出した。赤ん坊も吃驚の大号泣である。
飛び起きたゴブリンたち。蜘蛛の子を散らすように逃げようとする。
何たるアホゴブリン。命令系統もあったものではない。
馬祖が立ちふさがる。破れかぶれに振りかぶったゴブリンの斧を、羊守防でダメージ軽減させ、更に己の攻撃を当てる。
ミリアの射撃によって一匹が中傷を負い、逃走。物陰に隠れたマリヤのダブルアタックで一匹が重症を負った。
エレインの詠唱が終了し、馬祖を襲おうとしたゴブリンにウインドスラッシュによる真空刃が襲いかかった。深手ではないが、かすり傷でもない。それを、同時期に詠唱をはじめたジノーヴィーのブラックホーリーが襲う。
傷を負ったゴブリンたちは、村とは正反対の、森の奥へ逃げてゆく。最早この森へ戻ろうとは考えないだろう。
「残るは‥‥」
マントのゴブリンである。
ひと段落ついたため、馬祖はこの場を仲間たちに任せ、フライングブルームに跨った。
「ここは頼んだよ。私は村を見てくるね」
彼女は逃げたゴブリンの仲間が、村を襲う可能性を危惧したのだ。
さて、冒険者に囲まれた挙句、エリックのプラントコントロールで拘束されたゴブリンは、マントをぎゅっと抑える。
エレインが彼の側へ寄り、ヴェーツェルのマントを差し出した。これと、トビーのマントを交換してほしいと、彼のマントの裾を軽く引きながら身振り手振りで説得する。
それを本当に理解しているかどうか、ジノーヴィーがリードシンキングで確認する。
「これ、オレの! オレの!」
騎士団風マントで頭がいっぱいだった。
エレインは溜息ついた。交渉が難しそうとはいえ、無抵抗で間抜けなゴブリンを虐殺するのは寝覚めが悪い。いっそ、無理にでも交換してしまえば‥‥
エリックに注意して巻きついている木を緩めてもらい、マントに手をかければ、ゴブリンが目を見開いた。
じたばた暴れて、木から逃れた彼、一目散に逃げ出してゆく。
エレインの交渉中、ミリアが注意を払っていたのだが、これはエレインの身の保全を第一に考えていた体勢だったもので、もう一歩で手が届かなかった。
すぐさま、ジノーヴィーがダークネスでゴブリンの視界を遮ったが、まだ走る。めちゃくちゃに走るうちに、退路を絶たれた木を回避して‥‥村の方へ!
弓をつがえたマリヤとミリアを、しかしエリックが止めた。
「背から射ては、マントが破れます」
「そ、そっか。そうだよね」
「そんなこと言ってる場合ぃ!? ていうかぁ、交渉決裂したら人命優先でしょぉ」
マリヤの正論に悩みながら、とにかく追う一行。村は門がしまっているし、大勢の大の男が武装しており、何よりも馬祖が先へ向かっている。
はじめ、むちゃくちゃに走っていたゴブリンだが、視界が晴れてきたらしい。ますます村へ一直線。
エレインはヴェントリラキュイを唱え、ゴブリンの行く手から呼びかけたが、余計に振り切って逃げようとする。
門の前で気付いた馬祖が、迎え撃つべく月桂樹の木剣を構えた。
‥‥が。
ゴブリンは、馬祖が仕掛けた鳴子にすっ転び、エリックの指示で閉じられた門に頭をうちつけた。
そこを取り押さえ、マントをひっぺがして代わりのヴェーツェルのマントをかぶす。
転んだ挙句、あちこち打ち付けて怪我をしたゴブリンは、よろよろ森の中へ帰っていった。
一同は夜まで森の中を警戒し、見回ったが、ゴブリンの姿はなかった。
以後、あのマントのゴブリン一団は、この森に帰っていない。
「ありがとぉ、本当にありがとぉ。大事な大事な宝物だったの」
取り返してもらった、少し土に汚れたマントを抱きしめ、トビーは泣いた。
彼には父親がない。去年、原因不明の病で逝ってしまったという。
父親がいない最初の誕生日に、母親が貯めた僅かなお金で買ってくれたものなのだとか。
泣くトビーの頭を撫で、母親が進み出てきた。
「私からも有難う。破れてないということは、皆さんが気をつけてくださったんですね。ただ倒してしまうよりも大変だったでしょうに、心を配ってくださったんですね。ありがとう。覚えておきなさい、トビー。お前は、とても優しい人たちに恵まれたんですよ」
そこまで言われてしまうと、くすぐったい気分である。
村を発つ直前、馬祖はトビーに森狼のマントを渡した。
「冒険者達と知り合いになった記念として進呈しよう」
その後、彼らにあこがれたトビーが、冒険者にもらったというマントを羽織って冒険者になると息巻いたとか。