【ロゼ・オ・デス】通り魔の影

■ショートシナリオ


担当:浅葉なす子

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 21 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月14日〜04月22日

リプレイ公開日:2008年04月21日

●オープニング

 ミラベルは、冒険者に喧嘩を売った咎で捕えられた、チンピラ女である。
「いい加減出してよぉ。誰も殺してないしィ」
 吼えども、冷えた地下にむなしく響くばかり。
 と、複数の足音が聞こえてくる。新入り虜囚だろうか。
 からかってやろうと其方を見たミラベル、驚いて目をそらす。
 虜囚は知り合いだった。アリスという少女で、ある貴族の工作員をやっている。
(「囚人として潜入? そんな馬鹿な」)
 アリスは牢ではなく、地下の奥の部屋へ連れ込まれて行った。

 隣の牢にアリスが放り込まれる気配がしたのは、数時間も後のこと。
 ミラベルは、看守が見ていないことを確認、テレパシーを試みる。
『‥‥だれ?』
『ミラベルよ。どうしちゃったのよ、あんた』
『‥‥はぁ。あなたこそ、こんな所で何をしているのよ。
 私は、この屋敷の書記官が盗賊斡旋業者と関係があるという情報を得て、使用人として潜入したの。
 だけど、この町では連続殺人事件が起きていて、わたし、犯行現場に居合わせてしまって。
 被害者を助けようとしたら‥‥こんな娘が戦える筈がない、怪しいって捕えられたの。背後関係を疑われて、今の今まで拷問されてたわ』
『あんた、大丈夫だったのぉ!?』
『問題ないわ、何も吐いてない。ところで、爪ってまた生えてくるかしら?』
 淡々とした娘の質問に、ミラベルは頭を抱えた。
『あんたって、確かに村娘とは思えないわよ。工作員として致命的じゃないのぉ?』
『潜入する時は、うまく化けるわ‥‥ふふ』
 笑ったようなので、ミラベルは目を瞬く。
『この前‥‥ある人たちに、化け物って言っちゃった。わたし、人のこと言えないわね‥‥』
 その時、再び足音が聞こえた。ミラベルはテレパシーを打ち切った。
「囚人、出ろ」
 ミラベルは突如として牢から出され、その上領主の前まで引っ立てられて来た。
「我が町では今、通り魔が横行している」
 気難しそうな壮年の領主は、そう切り出した。
 その後ろで、書記官らしき老人が、落ち着かない様子で右往左往している。
「兵も数名、やられている。冒険者に応援要請を出した。
 彼らが必要とする情報を集めてくれば、特別に放免してやろう」
(「あたしは通り魔に殺されてもいいってか」)
 ミラベルは苦笑ながら、「いーっすよ」と軽く了承した。

 彼女が人気のない町で得た情報は、以下である。

加害者の情報
・容疑者は何人も捕まったが、一向に殺人が止まらない
・捕まった容疑者は一般人ばかり
・黒い覆面の者が目撃され、捕まっていない。これは腕ききの戦士らしい

被害者の情報
・被害者は一人の時を狙われている
・被害者は刃物傷を負った者と、奇妙な爪跡のような傷を負った者に分かれる
・爪跡は全身に刻まれ、八つ裂き状態だという。

 まだ全容が見えて来ない。ミラベルは囚人のアリスとの面会を望んだ。
 領主は承諾してくれたが、書記官は落ち着かぬ素振りである。
「私は、あの娘が犯人とは思わん。大方、元冒険者か何かであろう。書記が、怪しんだから捕えただけで‥‥」
(「あらぁ? 領主はアリスを拷問されたこと、ご存知でない?」)
 書記官の一存なのか。
 というか、書記官はそんなにも偉い役職か?
 道すがら使用人を呼び止めて聞いてみれば、
「あの方はとても羽振りがよく、大勢の人にお金を貸しているのです」
 弱みを握られた者が多いらしい。
「それと‥‥書記官は下戸なんです。それなのに、樽でお酒を購入してるんですよね。
 それも凄く大量で、荷馬車いっぱいに樽が積まれていた時には吃驚しました」
「連日宴会してるとか?」
「彼はこの屋敷にお住まいですけど、そんな話は聞きません。私が知らないだけかもしれませんが」
 さて、晴れてアリスと向かい合った。
 ぐったりした少女は、ミラベルの顔も見ず「どちらさまですか?」と嘘をついた。
「あんた、犯人と戦ったそうね?」
「はぁ、隣の牢に入ってますよ」
「ちがう!」
 近くから、悲痛な叫びが上がった。
「俺は何もしてない!」
「私も、彼ではないと思うわ」
 アリスも同意する。
「でも、犯人は彼の顔をしていた。
 この町は、悪魔に魅入られている」

 訳がわからねーわ。
 ミラベルは人気のない町を歩きながら、ふて腐れる。
 冒険者が来る前に解決してやろうと思っていたのに。
(「怪しいのは、書記官。でも証拠がないしぃ。もう少し聞き込みかしら、容疑者と、被害者の遺族と、それから‥‥」)
 と、ミラベルの視界が闇に閉ざされた。
「やっ‥‥なに!? 何も見えない‥‥っあぁ!!」
 胸元から腹にかけ、何かに切り裂かれた。
 続いて背、足。あらゆる方向から攻撃される。
 これは、爪―――?
「なめんじゃないわよ!!」
 ミラベルは視覚を失い、斬られるままに詠唱を開始した。
 これで失敗すれば死あるのみ。
 彼女は己もろとも、周辺をたぎる溶岩で覆い尽くした。

 その後どうなったか分からないが、自分は巡回の警備兵に救助され、一命をとりとめたらしい。
 こうなれば意地でも生き延びて、冒険者に情報を渡したい所存である。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2206 レオンスート・ヴィルジナ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ec0131 カジャ・ハイダル(37歳・♂・ウィザード・人間・イスパニア王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

九烏 飛鳥(ec3984

●リプレイ本文

「いつぞやの冒険者じゃーん」
 包帯まみれのミラベルに、カジャ・ハイダル(ec0131)は苦笑した。
「また捕まったって? 懲りない奴だな」
「また、じゃなくて『まだ』よ!」
「あれから随分たつのにね」
 ヒースクリフ・ムーア(ea0286)が茶化すもので、
「ま、災難だったな」
 唯一、優しい言葉をかけたキット・ファゼータ(ea2307)にミラベルはウインクひとつ。
「あんた超キュートよ。あたしとイイコトする?」
「‥‥遠慮する。というか怪我人の言うことか」
 さておき、レイア・アローネ(eb8106)の囮を聞くと、ミラベルは眉を顰めた。
「危ないわよ」
「術士のお前が耐えたんだ、敵は弱いんじゃないか?」
「貴女だと、却って危険だと思うのよねぇ」
 しかし、推測に過ぎぬらしい。

 マナウス・ドラッケン(ea0021)が頼み込むと、アリスは直ぐ放免された。
 但し、彼女の素行も冒険者の責任と念を押される。
「殺害された兵に何か、共通点は?」
「‥‥巡回の他、ある任務を命じていた」
 この場では、これ以上言えぬらしい。
 また、いつから始まったのかと問えば‥‥ヒューゴの村を冒険者が開放した時期に重なるのだ。
 アリスは、始めは空木怜(ec1783)の診療を拒んだ。
「痛む箇所は余すとこなく申告するよーに」
 治療中、アリスは殆ど動かない。爪は全て剥げており、針の跡も見受けられた。
「爪はまた生えるからさ」
「そう。仕事には差し支えないわね‥‥ふぅ」
「ローラに成りすましていた件と、此処にいるのは関わりあるのかい?」
「そうよ、ヒースさん。書記官は盗賊斡旋業に情報を流して儲けてるの」
 唇を、歪めて哂う。それが素顔なのか。
「‥‥ナイジェルに付き纏われているのか?」
「私に頼みでもあったのでしょう。あれは知人です」
 それより、ヒースクリフが面識あることに驚いた様子。
「ごめんなアリス‥‥君は俺達を信じていたのに‥‥村人を傷つけてしまって」
 マナウスが彼女に布に包み、抱き上げると苦笑された。
「グロリア様に怒られちゃった。お前こそ、化物の癖にって」
「君は人だ。本当に恐ろしい化物は、誰の心にも棲む闇なんだから」
「ま、化物は俺だけにしとけよ」
 カジャが衰弱したアリスの頭をぽん、と撫でる。
 アリスはふと、真顔になった。
「私はおそらく、人が飼う深淵の闇そのものなのでしょう」

●酒場
 酒場に人気はなかった。
 アンドリュー・カールセン(ea5936)とレオンスート・ヴィルジナ(ea2206)は暇そうな主人に歩み寄る。
 書記官との面会は拒まれた。ただ、領主と話した際にすれ違ったので――
「酒は精神を破壊する」
 アンドリューの声音に、書記官は震えた。
「あたし酒好きでねぇ。書記官に紹介されたのよ」
 レオンスートが告げると、主人は頷いた。
「また人をやって、エールをかき集めてるのかい」
「酒は全てエールなのか」
 口を挟むアンドリューに、主人は眉を上げる。
「‥‥リカー類の商人だ。空樽の始末に困ってるんじゃないかと思ってな」
「そういや最近、あちこちで空樽が見つかる。書記殿の物か分からんが、屋上だの、路地裏だの‥‥」
「書記どのが酔い潰れた姿は見かけないかしら?」
「ねぇ。だから不気味でよ。領主さまの命令で、内密に調査しに来た兵士が殺されちまって」
 殺された兵士は、領主の密命を受けていた。
 領主も疑っている、己の書記を。

●被害者
 治療院に担ぎ込まれた被害者は、全員死亡している。
「虫の息で運ばれた被害者は、翌日何者かに喉首をかき切られて」
 侵入者がいたのか。キットは怯える治療士に「犯行時の町に異変はなかったか」と尋ねるが、答えはノー。
 次に、治療院で聞いたもぐりの治療士を訪ねる。
「あんだぁ、ヒック」
 昼間から酒瓶を煽る老人に、カジャは金を包んで渡す。
「最近来た奴で、妙なのいなかったか?」
「拙く喋る団体が来た気がすんなぁ。ひでぇ火傷でよ」
 ミラベルの、マグナブローだ。犯人は、複数。
 現場でキットは、壁に爪痕を見た。そしてエールが滴る空樽が、必ず現場付近にあった。

 一方、ヒースクリフは被害者の遺族を訪ねていた。毛織物商だ。
「恨みを買うような人では‥‥他の被害者の方とも、面識はないと思います」
「書記官との面識はあったかな」
「シーズンに一度、商品を届けていますわ」
 第一発見者、被害者に関連性は見られなかった。少なくとも今は。

●冤罪
 怜は地下牢に残り、加害者達に事情聴取した。
 カジャの調べた書類や、アリスやミラベルの証言と照合するが、彼らにまるで共通点がないのが逆に気にかかる。
 被害者はよほどの事情で、狙われたのだ。これは通り魔事件などではない。

●囮
 キットの調査した配置、順路はほぼ完璧と言える。
 ミラベルの「囮の安全の為に、彼女ごとでも遠距離攻撃する構え」も考慮し、カジャとミラベルとを分散させた。
 キットが手伝うかと誘うと、怜に治療されたミラベルは当然の如くついて来た。以前は敵対した癖に、分からん女だ。彼女は目のいいヒースクリフと組ませて、連絡と見張り役を買っている。
 マナウスの石の中の蝶が、慌しい。敵が近い‥‥
『此方ミラベルちゃん。囮、見張りに異変なし』
 見張りとは、レイアとキットのペットを指す。鳥目のカムシンは辛そうだが。
『ヒース君が黒い影を空に発見、鳥? ‥‥走れ!!』
 ふざけた甘い声が怒号に変わった。
 また、レイアのフェアリーがマナウス、レオンスートの元へ異変を知らせた。
 裏路地から飛び出した彼らの見たものは―――
「レイア!!」
 闇に蠢く異形にたかられ、生きたまま喰われるレイアの姿。

●屋敷
「ご一緒しても?」
 闇の中、使用人姿のアリスが囁いた。合図である首の後ろに触れて。
 邪魔立てしないならいい。アンドリューとアリスは連れ立って、夜の屋敷を行く。
 昼、頭に叩き込んだ屋敷の見取り。通らざるえない場所に、欺けぬ形で見張りがいると‥‥
 アリスは先を指さした。行けと言うことか。
「なんだ貴様は」
 アンドリューの姿に戸惑った兵は、背後に忍んだアリスに気づかなかった。
 後ろから喉元を抑えられ、白目をむいて倒れる兵。
「殺したか?」
「いいえ。落としただけ」
 それきり無言で、書記の部屋を目指す。
 アリスは部屋をノックすると、顔を出した書記の喉元に刃つきつける。
「騒げば殺すわ。アンドリューさん、部屋を調べて」
 聞いた話では、気風のいい金貸しだと。書記がそう儲かる筈もない、金の源が何処かにある。
 樽が十個近くあった。中はエール。
 ふと、椅子にかかる毛織物が気になった。宿で聞いたヒースクリフの話では、毛織物商が殺されて‥‥
 ナイフで裂けば、縫いとめられた無数の金貨が現れる。

●物語の行方
 一足早くソニックブームで異形の翼を攻撃したキットに続き、カジャは異形の群れに手を突っ込んでレイアに触れた。
 彼女をアースダイブで地に逃したのだ。
 標的を突如失い、到着したレオンスートやヒースクリフに首根っこ掴まれた者どもは、瞬く間に殲滅された。
「グレムリンか」
 複数の死体を見下ろし、カジャが呟く。
「随分、弱いのが出たね」
「でもねぇ、ヒースクリフ。視界を奪われたり、人姿に油断して数の暴力で訴えられたら、手も足も出ないわよ」
 レオンスートは、グレムリンの鋭い爪を摘んだ。
「大丈夫か、レイア」
 地から手を出した彼女を、マナウスが引き上げ、怜が治療に当たる。
「恐怖体験だった。まだ目が見えん」
「一日もあれば治るわよぉ」
 ミラベルが実体験を語るので、失明はなかろう。
 路地裏に影が差した。アンドリューが、首の後ろに触れる。
「書記が吐いた」
 誰かさんが、あらぬ方法で吐かせたそうな。
 書記に殺人指示、盗賊斡旋関係を文章にさせ、領主に提出した。その内容は、脅されて書いたでは済まぬ詳細な内容で。
「あの酒は、グレムリンの餌だったのね」
 酒場での奇妙な情報に、レオンスートは眉を顰める。空樽の散乱は、彼らが呑み捨てた為。
 キットが樽の付近を順路にしたのは、正解だった。
 また、毛織物に隠された金貨と聞き、ヒースクリフは未亡人を思い出した。毛織物商は書記に関わり、殺されたのだ。おそらく、他の被害者も。
「覆面が乱入した。書記を守りながらで追い返しただけだ」
「書記はどうなった?」
「アリスが殺した。領主が、彼女に依頼した」
 彼らは後始末を任された者だと、書記は言った。しくじった今、次に殺されるは自分だと嘆いた。
 すると、領主は書記さえいなければ解決だと判断したらしい。しかし何故、アンドリューではなくアリスに依頼するのか。
「なんでだ、ミラベル」
 振り返ったキットに、首を傾げる彼女。まあ、彼女は数ヶ月も拘置されていた訳で。
「アンドリュー、彼女は何処にいる?」
 マナウスに問われ、「地下牢だ」と。
 深夜とは言え、暗い雰囲気の領主館を訪れ、兵に地下牢まで案内される。
 奥の部屋の扉を開けた時、マナウスはレイアの目が見えず本当に良かったと思った。
「それでも‥‥」
 蝋燭の下、血塗れのナイフを握るアリスが微笑んだ。
「それでも私を人と呼んでくれますか?」
 書記の状態は、敢えて語るまい。
「かえろ、アリス」
 ミラベルに手を引かれ、彼女は部屋を出る。
 すれ違いざま、泣いているのが分かった。彼女はレイアに、「この前はごめんなさい」と謝った。
 血臭はするものの視界悪く、訳の分からない彼女は苦笑し、
「気にするな。子供を想っての言葉に不快などない」
 それに救われたようだった。
「彼女はなぜ、あんな仕事してるのかね。向いてないと思うよ」
 怜の言葉に、誰ともなく頷いた。

 グレムリン討伐より書記の罪状を明らかにした点で評価された。エールの空樽、被害者の毛織物商、その毛織物から出た多額の金貨。
 覆面を逃したが、その後殺人事件はなく、この町での悲劇は幕を下ろした。