●リプレイ本文
説明は受けたものの、ゼナイド・ドリュケール(ec0165)は双子の性別に目を瞬く。
日焼け肌で、すり傷だらけの『やんちゃ坊主』ローズ。
儚げな面差しのタイム。心配になる程、綺麗な子だ。
まだ外見に性別特徴が出ない年頃で、聞かなければ絶対に男女間違う。
「おぉー。双子さんやってんか‥‥ウチ、双子さんゆーの初めてや〜♪ ウチ、藤村いいます。仲良うしたってや」
藤村凪(eb3310)は快活に猫をお披露目。
「ヒコジュサン?」
「サン言うんはつまり、敬称や」
「猫が靴はいてる!」
とは、紅天華(ea0926)のマオを見たローズの叫び。
「ケット・シーと言ってな」
「へー!」
髭に伸びた手に驚き、マオはローズを引っかいた。
「マオ!」
しっかり言い含めたのに、と天華は柳眉を逆立てる。
「これ、ローズ」
叱りつけたのは、爺様である。
「いきなり触る奴がおるか」
「優しくするの、ローズ」
諭すのは、兄のタイム。彼はサリ(ec2813)と打ち解けて、小でぶ猫のイワンケを抱いていた。フェノセリア・ローアリノス(eb3338)を含め優しい気質のせいか、気が合うようだ。
「イワンケと仲良しですね」
「イワにゃんすき‥‥ヒコジュにゃんすき。ヴォルにゃんもすき」
「あんなー、喉を撫でると喜ぶで」
「マオもだ」
天華に促され、タイムがケット・シーの喉に触れれば、目を細める。
ロッド・エルメロイ(eb9943)の子猫も交え、タイムの周りは猫だらけ。
その間、リカルド・オールドソン(ec4712)のドンキーは爺様に気にいられていた。見つめた後、「よい目だ」と。
「ま、ガキには危ないかもな」
だが、双子なら乗れるだろう。リカルドにしてみれば手塩にかけた相棒だ。その背に乗れぬことを、少し残念に思う。
「かっけー!」
ローズがまた、ペットに興味を示した。ゼナイドの白き角のユニコーンだ。
タイムもやって来て、一角獣を見上げる。
「この子は、ゆっちゃん」
「乗れんの!?」
「ローズ君なら乗れるだろう。ユニコーンは乙女にだけ気を許すんだ。タイム君は無理だけど‥‥」
タイムの長い睫が震え涙の玉が浮かぶ。
「客人、男女の双子と伝えたと思うのだが」
「すっ、すまない」
「ペガサスなら‥‥」
フェノセリアが笑顔で、タイムの濡れた頬に触れる。彼女に寄り添うエルフォードが翼をはためかせた。タイムが赤らめ、翼の白馬に近寄る。
ローズの次なる標的は、ラムセス・ミンス(ec4491)のハスキーである。
「怖い顔! かっけえ!」
「バルトデス。走ったり遊んだりが大好きデス」
聞くや、バルトと共に野原へ疾走するローズ。凄いフィーリングだ。
「タイムさん、エルフォードに乗る時は猫さんを下ろして差し上げてくださいね」
「イワにゃんとヴォルにゃんいっしょ‥‥」
抱かれるヴォルグが物言いたげに凪を見るが、「まあ遊んだってや」と返した。
●探検
「先に行ってくださいね。私はお弁当を作って、後から行きます」
タイムに「イワンケをお願いしますね」とサリは微笑んだ。
遺跡まで、双子はユニコーンとペガサスの背を満喫したが、遺跡に乗っては入れない。馬達は入り口に繋いだ。
案内役のロッドに続き、松明を持つゼナイドと意気揚々歩くローズ。タイムは猫たちに添われつつ怯えている。
「私どもがおりますから、大丈夫ですよ」
「冒険者は強いのデス」
ロッドやラムセスが安心させるよう言うが、落ち着かぬらしい。
「男だろ? 冒険中はしゃっきりしとけ」
それは、リカルドの励ましだったのだが。
「苛めんなよ!!」
ローズが過剰に叫んだ。驚き、ゼナイドは彼女を見やる。
「どうした、ローズ」
そっぽ向くローズ。
タイムがリカルドの袖を引いた。
「ごめんなさい。怒らないで‥‥」
「気にしちゃないさ」
気になると言えば、ローズの態度だ。
遺跡は本当に小さく、古代の造形美を鑑賞したようなもの。
サリが着く頃には、探検は終わっていた。
「後でオレが一緒に行ってやるよ!」
気前よく胸を叩くローズに、「嬉しいです」と微笑むサリ。
彼女の焼いたパンと、マオを膝に乗せた天華、ロッドの桜蕎麦や桃団子を広げ、昼食になる。
「なにやら珍しくてのう」
「桜蜜クッキーも焼いたんですよ」
盛られた菓子に、双子は吃驚している。サリから小袋も嬉しげに受け取った。
「猫ってこれ食う?」
布切れでロッドの子猫を弄りながら、ローズは蕎麦を指す。
「子猫ですから、やめた方が賢明でしょうね」
「そっか。腹壊したら大変だしな」
たらふく甘い団子を食べて、満腹のタイムは猫や梟の黄樹と転寝している。フェノセリアは柔らかい所作で彼に毛布をかけた。「お母さん」と呟く声がする‥‥
ラムセスも、池で亀のアロンが泳ぐ様や、タイムと猫の昼寝を見る内に寝入ってしまう。
「春眠、暁を覚えずやなー」
凪の声が聞こえたが、シュンミンの意味は分かりかねた。
●キャンプ
野で火を囲むのは、格別の楽しさがある。サリがその火で焼く肉や野菜も旨かった。
「遺跡にはガーゴイルという魔物が出ることがあります。彼らは石像ですが、侵入者や何かのきっかけで動き、遺跡を守るのです」
ロッドの話に聞き入り、タイムは凪を見上げた。
「ジャパンにもこういう遺跡はあるの」
「あるけどな、様式は違うで」
「ヨーシキ?」
「ああ、説明がややこしなぁ」
凪はイギリス語より、ジャパン語が得意だった。時折、齟齬をきたす。
横では、ゼナイドがイスパニアでの体験談を語っていた。
「ナバーラという国の、王族の兄弟は争っていてね。私は仲間達と共に切った張ったの活躍をした。苦境に陥った時は、ゆっちゃんが優しく慰めてくれたよ」
「それって本当?」
「証拠を見せようか? ジュリオに貰った指輪さ」
「へー」
夢物語に聞こえるのだろう。ローズは目を丸くしていた。
「星が出てきましたね」
ラムセスが立ち上がった。踊りを披露しようと言う。
「私の笛と合わせませんか?」
「有難うデス」
サリの笛の音に合わせ、レラが羽をばたつかせる。
韻を踏んで踊るラムセスの民族舞踊は、彼のエキゾチックな風貌も相まって見事なものだった。
さなか、ごく自然に上げた掌から太陽のごとき光が夜空に奔り、呑まれてゆく。
「今の、どうやったの!?」
「サンレーザーという魔法デス」
「もっとやって!」
ローズのリクエストにお応えして、ラムサスは闇夜に光を打ち上げる。
しかし、終わりは何事にもつきもので。
「もうおしまい?」
「魔力が尽きてしまったのデス」
「星も綺麗ですよ。火を消して、ふたご星を見ましょう」
「あっ‥‥」
サリの提案に、ゼナイドが声を上げる。
「私は暗闇が苦手なんだ。月明かりはあるけれどね」
「このままでも綺麗だよ!」
ゼナイドに懐くローズが、空を指した。
●二日目
サリは夜明け前に起き、遺跡が朝日に染まる様を見た。朽ちた遺跡が、年月を重ねた独特の重厚さを持ち、神々しくさえある。
そうして気持ちをすっきりさせた後、朝食の準備にとりかかった。
リカルドは驢馬を自由に道草食わせ、ゼナイドやフェノセリアも馬たちを駆け回らせる。馬は走る姿が一番、美しい。ユニコーンやペガサスなれば、尚の事。
危ないので双子は近寄らせず、犬猫たちと遊ばせる。
昨日は何だかんだ多忙だったサリは木陰に腰を下ろし、イワンケの背を撫でていた。手触りからするに、また太った気が。
双子は天華の元にいた。
「お二人はどのような動物がお好きかな?」
「でかくてかっけぇのが好き!」
ローズのリクエストにお応えして、天華は竜に化けて見せた。
「すげー!!」
その間、タイムは大人しい。
雛に餌をやり様子を見ていたロッドは、ふと気づく。あの双子が共に遊ぶ姿を見ていない。
「仲が悪いとは思えませんが」
「あのガキんちょどもは、庇い合うしな」
リカルドが相槌をうつ。
どうなんだ、と爺様を振り返れば。
「両親の事故現場に、タイムは一緒だった。これ以上は、ちと言えん」
痛ましいことだ。フェノセリアはタイムが「お母さん」と自分を呼んだことを思い出す。
「普段はどんな風に遊んでいるデスか?」
ラムセスが声をかけると、ローズは「木登ったり走ったり!」タイムは「仕事を手伝ってる」と。
「タイム君は遊ばないデスか?」
「あんまり」
タイムは彦十さんに顔を埋める。
「俺もデスよ。ローズ君に教えて貰いましょう」
「えっ‥‥」
「バルトー、行くデスよ」
犬猫と双子とラムセスが、野を走る。
ロッドは安堵したように微笑む。双子の安全に一番注意を払っていたのは彼だった。遺跡でも、遊んでいる時も。彼らの行動に気を配り、心配していたのも。
「天気もよく、良い日ですね」
そう、本当に良い日だ。
「お二人さん、喉渇いとらへんかー」
凪に呼ばれ、双子が寄ってくる。
爺様に頂いたハーブで、茶を入れたのだ。
「ジャパンではカップをこう、手を添えて呑むんや」
凪の仕草をタイムが真似る。なかなか品があり、様になっている。
ローズは‥‥品を求めるのは酷か。
●帰り際
レラが鳴いて、朝が始まる。
「また絶対来いよ絶対!」
ローズに服を引っ張られ、ゼナイドは苦笑した。懐かれたものだ。
「私の話を覚えているかい? 兄弟で争うのは悲しい、双子の君たちはいつまでも仲良くね」
「あたりめーだろ!」
タイムが、名残惜しげにようやく仲良くなった子猫を抱いている。
「雛も抱きますか、タイム君」
ロッドの申し出に、何度も頷くタイム。ローズは動物と走り遊ぶのは好きだが、抱いたり撫でるのはタイムの方だった。特に猫への執着は凄まじく、始終猫と共にいた。おかげで猫連中は随分、親交を深めたようである。
「お元気で」
と、サリ。
「農場の主様と子供達に幸あらんことを」
慈愛に満ちた瞳で、フェノセリア。
後ろ髪引かれつつ、天華はマオを撫でる。
「他のペットに構いすぎず頑張ったな。特にあの雛‥‥」
襲わなくて良かった。本当に。
すると、マオに見上げられる。だって、あんなに構われちゃあそんな暇もありませんよと言われたような気がした。