●リプレイ本文
「貫一さんは何をしてるんですか?」
村の道のりまでの地形を確認しつつ、マリエッタ・ミモザ(ec1110)は阿倍野貫一(ec1071)を見る。
彼は道すがら、落ちている大きなごみ? のようなものを拾っては、愛馬に積んでいたのだ。
「蜥蜴はたいそう素早いそうだから、逃げられるかもしれないでがしょ? 戦闘時の障害物こさえようと思って」
それに備えて材料を集めていたのか。
「わあ、凄いです。完成が楽しみですね!」
「期待されるほどのものが作れるか」
謙遜しつつ、何となくやる気を感じた貫一だった。
「ぎゃー!」
‥‥着いて早々、誰かがふっとばされていた。
「大丈夫ですか?」
駆け寄った杜狐冬(ec2497)が、転倒した男性を治療にかかる。
「角で怪我なさっていませんか?」
「胸でかっ‥‥なんでもないです! いやぁ、突き飛ばされたことより打った腰が痛いくらいなんだけどね」
最初に何か言いかけた、狐冬を見て。
「もう出てしまったべか」
馬に乗せた荷を仰ぎ見、貫一が頬をかく。
「色々準備したかったんだけどもな」
「ああ、大丈夫。一度暴れたら、暫くは出ないんで」
「御仁、あの蜥蜴らがなぜ暴れるか、心当たりはないか?」
サスケ・ヒノモリ(eb8646)の問いに、男は首を傾げる。
「村の集会でも、だぁれも分からんと。誰かが嘘ついてても、わかりっこないですし」
(「言えぬほど、非道があった可能性もあるか」)
考慮に入れねばなるまい。
手書きの地図を片手に、マリエッタは頬を指で叩く。
「蜥蜴の姿を見かけるのは村の中だけだそうですから、村で戦う他なさそうですね。村の外までおびき出すのは難しそうですし‥‥仕掛けるなら、ここです」
地図上の、家屋に挟まれた箇所を筆記具で指す。
して、彼女がロープを張り、貫一が馬から荷を降ろす間、鷹連れの陰守清十郎(eb7708)とサスケは見回りに出る。
「ああ、冒険者さんかい?」
野良仕事中の村人が、愛想よく清十郎たちに手を振った。
「ええ。変わった連れがいますから、ご注意ください」
「冒険者ってのぁ凄ぇなぁ。火まで従えるんかい」
一応生命体だが、単なる火だと思われたらしい。
村を観察する内、村人が普通に出歩いていることにサスケは首を捻る。
「蜥蜴を恐れてはないようだな」
「深刻な怪我をしたという話も聞きませんしね」
それにしては、辛抱堪らず冒険者ギルドに泣き付いたようだが。尤も、ああ頻繁に転ばされては困りもするか。
村を一周して戻るか、と歩を進めていたところ、再び蜥蜴の集団と遭遇。土埃巻き上げる突進を見、サスケは被害が出ぬ内に高速詠唱、重力波が直線状を奔る。
蜥蜴の群れが転げ、焦り四散した。
「弱そうだがな‥‥」
「すばしこいのがネックですね。向かってくるのをスクロールで詠唱していては、間に合わない」
さて、待ち伏せ場所は不思議な空間に仕上がっていた。
二体ものゴーレムの間で、貫一はかき集めた板やらで作ったバリケードの出来に「いい出来でがんす」と頷き、マリエッタは「秘密基地みたいですね!」と嬉しげ。
狐冬は周囲を見回し、
「隠れる場所が欲しいですね」
「空樽でも借りましょうか」
見回った途中に、それらしき物があったので。
清十郎とサスケとで空樽をいくつか持ち帰り、物陰を作る。
「中に隠れられるでしょうか」
試しに入ってみるマリエッタ。頭がひょっこり出る姿に、狐冬は手を合わせて微笑む。
「何だか可愛らしいですね」
「可愛いだす」
「かっ囲んで眺めないでください!」
閑話休題。
戦場と隠れる場所が完成できたが、その日はもう蜥蜴は撤退したようだった。清十郎たちが遭遇したのが、本日最後だったのか。
●翌日
囮役の貫一を残して物陰、または隣接した家屋に潜む。
貫一は周囲を見回した。サスケの言う周期が当たっていれば、そろそろ出るはず。
あっと声を上げる。妙な複数の尾が、角を曲がったのを見た!
「拙者はこっちだす!!」
叫び、気をひきつけるため石も拾い投げる。
獲物を物色していた蜥蜴が、一斉に振り返った。
叫んだ時点で貫一は背を向けて走っていた。しかし、流石に敵は早い――
「アオ!」
愛馬の手綱を引き、素早く跨り疾走させる。蜥蜴との距離が開いてゆくが、まだ諦めていない。いい調子だ。
マリエッタのロープをアオは越え、タイミングを見計らっていた清十郎が家屋に燃え移らぬ距離で炎の壁を巻き起こす。その反対側を、エシュロンが同じように炎で塞ぎ、貫一の前にはゴーレムが立ち塞がった。
蜥蜴も火は怖いようで、狭い通路を右往左往したり、ゴーレムを転ばそうと奮闘するも、重量に負けて逆にひっくり返ったり。
ファイアウォールに囲まれた場所でフリーズフィールドを展開する気にはならなかったが、清十郎は試しに、蜥蜴の一匹にチャームを試みた。
すると――まっしぐらに、清十郎の下へ突進しようとする。サスケのロックに放り出されるとも、狂おしげに清十郎だけを見定めて。
(「もしや‥‥突進は攻撃のつもりでは、ない?」)
貫一は蜥蜴の頭部を狙い、清十郎に借り受けたアニマルホールドを振りかぶる。急所をついてやろうかと思ったが、残念ながら蜥蜴の急所は分からない。
破砕目的の攻撃は、厄介な角をへし折った。
と、脇に別の角が見える――村人を傷つけようとしなかった蜥蜴が、その角で彼を突き飛ばそうした。構えた盾に、尖った感触を受けるも、踏みとどまる。
「貫一さん、下がってください!」
マリエッタの声に、貫一は馬を連れてその場を離れようとする。予め仲間の配置は記憶していため、マリエッタがどこから、何をしようとしているかも把握していた。
ゴーレムはいるが、蜥蜴は尚もすり抜けて貫一を追おうとするので‥‥狐冬が貫一を守るよう、聖なる結界で蜥蜴を阻んだ。
貫一が通路より出たことを確認、マリエッタはレミエラの杖を掲げる。
稲妻が唸りあげて蜥蜴に襲いかかった。サスケのゴーレムを巻き込んだが、そこは石、雷撃には滅法強い。
雷を浴びて怯んだところへ、狐冬は借りた網を投げかけた。
あんまり暴れるので、狐冬は無理かと諦めかけたが、清十郎が一匹ずつ眠らせてしまい。
捕縛劇は幕を閉じた。
●グレトカゲ?
足ごと縄で拘束された蜥蜴は観念したように大人しい。
「殺生せずに済んで安心しました」
蜥蜴はさほど、生命力に優れている訳ではないようだった。マリエッタのライトニングボルトで、割と弱っていたのである。
それを狐冬が丁寧に癒すまなざしは、いっそ愛を感じるほど。魔物で、しかも大きな爬虫類相手に女性がこんなにも献身的なので‥‥
集った村人の男性が「イイ‥‥」と呟いていた気がする。
「さて、対話してみるか」
サスケはテレパシーのスクロールを広げた。
『なぜ、人里で暴れたりしたんだ? 冬眠明けで、お腹がすいていたのか』
『おれたち‥‥走る。走ることがいきがい』
『だから、何故わざわざこの村で?』
『ここのニンゲン、おれたち追い出さない』
誤解である。追い出さなかったのではなく、追い出せなかったのだ。現に、サスケ達に退治を依頼したのだから。
『ここのニンゲンとあそぶスキ。おれそこのニンゲンもすき』
サスケは、蜥蜴の視線をたどって振り返った。
「清十郎殿、何かあったか?」
「いえ、少し」
清十郎は視線をそらした。やはりあれは、攻撃というより友愛の証だったか。
「殺してしまうのも可哀想ですよね」
しおらしい蜥蜴たちに、マリエッタは困惑を隠せない。
「だからって、これからも巨大な塊に突撃され続けるのは、村の人達が大変でしょう」
「私の知り合いの方に預けるのはいかがかと思うのですけれど」
「けども、狐冬どの。蜥蜴でがしょ?」
「‥‥蜥蜴、なんですよね」
狐冬は意外に変人な知人を思ったが、果たして蜥蜴を何匹も預けていいものか。
「よそへ放しても戻ってくるかもしれない。村人に突撃しないことと、害獣駆除で村にいさせても構わないだろうか?」
サスケが集った村人に確認をとると、「まあ、転ばせてこないなら‥‥」と頷いた。
村人に危害を加えてはいけないことを分からせるため、根気強く交渉し、大体望む結果を得られたと思われる。
以降、村に蜥蜴が走っていたか‥‥それは定かではない。