冒険者勉強ツアー

■ショートシナリオ


担当:浅葉なす子

対応レベル:6〜10lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月20日〜05月24日

リプレイ公開日:2008年05月28日

●オープニング

●子供たちの夢と希望
 ある小さな村の空き地で、何人かの少年が輪を作って話し込んでいた。
「ボウケンシャってドラゴンまっぷたつにするんでしょ」
 商家の息子、ヨアンが「あのくらい大きいの!」と大木を指す。いかにも大人しそうな少年だが、想像上の竜と戦う‥‥戦える人間の姿を思い描いて、興奮気味だ。
 巨木と同じ程の竜を二分割できる人間が存在するかは、甚だ謎である。
 続いてガキ大将のフェイ少年が、埃を撒き散らしながらボロ布を振り回した。
「マントばさーで、剣で槍で盾でフハハハハ! だよね!」
 イギリスのお国柄ゆえか、どうも騎士と冒険者のイメージが良い具合にミックスされてしまったようだ。
 それにしても、マントはためかせながらフハハと笑う冒険者が存在するか。
「杖から魔法がビビビーでドカーンだよ!」
「どうくつとか、イセキに探検に行くんだよ」
「イセキってなに?」
「うーん、お城みたいなとこ?」
「お城見たことある?」
「キャメロットだよ! 冒険者はキャメロットのお城に住んでるんだよ!」
 当然だが、冒険者は城に住まない。
 七歳のハルは地べたに座ったまま、首を傾げる。
「じゃあ、ボウケンシャってイセキにすんでんの?」
「いるかもしれないね!」
 遺跡に潜む人間がいたら、それはもう既にモンスターの領域である。
「冒険者は遺跡にはおらんなァ」
 苦笑まじりの、大人の低い声が聞こえ。
 子供たちは一斉に振り返った。
「ぎんゆーちちんの兄ちゃんだ!」
 縁あって、村に逗留している青年である。名をアンセルという。
 藁草を被ったような頭をしており、口元はいつも、今にも歌いだしそうに笑っている。一体どこの訛りなのか、不思議なイギリス語で喋る人だった。
 目下、酒飲み村長の呑み仲間である。
「ぎんゆーちちん、じゃなくて吟遊詩人なァ。僕も冒険者として依頼受けたことあるんよ」
「じゃあ、兄ちゃん冒険者なの!?」
「今はやっとらんけどなァ。んー」
 微笑んだまま、吟遊詩人は空を仰いだ。
「そいなら、冒険者呼んでみよかァ」
「ほんとに!?」
「こん村は平和だからなァ、あんまし冒険者と馴染みないみたいだし‥‥」
 危機が訪れた時、冒険者に頼むという選択肢を思いつかない危険性がある。
 アンセルは、世話になった商人への恩返しと思い、その足でぶらりとキャメロットへ向った。

●今回の参加者

 ea9436 山岡 忠信(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb5463 朱 鈴麗(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec2497 杜 狐冬(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

鳳 令明(eb3759)/ リオ・オレアリス(eb7741

●リプレイ本文

 まず、冒険者云々より出身国で驚かれた。
 朱鈴麗(eb5463)の前に子供が集い、口を開けている。
「みっ耳長い!」
「私はの、エルフじゃ」
「エルフの人かー‥‥」
「あっ、おねーちゃんも耳長い!」
「あたしは‥‥」
 一瞬、腰が引けたヴェニー・ブリッド(eb5868)だが、やがてふっと笑って答えた。
「ハーフなの」
「ハーフの人もお耳長いのねー。お花が咲いたみたいよ」
 女の子は嬉しげに、掌を耳元でぴこぴこさせた。
「お兄ちゃんはどこの人?」
「拙者はジャパンの出身でござるよ」
 山岡忠信(ea9436)腰に差した日本刀の鍔に指を乗せる。
 すると、アンセルが感心したように声を上げた。
「ハラキリサムラーイの国なァ」
「アンセル殿、それはちと‥‥」
 見せてくれと言われたら困る。ハラキリは、基本的に人生で一度しか披露出来ない。
 杜狐冬(ec2497)も同郷かと聞かれたので、丁寧に否定する。
「私は鈴麗さんと同じ‥‥なんと説明しましょう?」
「シルクロードの国で良かろう?」
 ハラキリのような強烈な文化がなくて助かった。

●交流
「冒険者は、困っている人から依頼を受け、様々な問題を解決する人達の事です」
 根本的なことを狐冬が説明すると、子供だけでなく、大人も驚いた顔をしていた。
 冒険者とは好きに放浪して、宝を探す人々だと思っていたらしい。
「論より証拠」
 忠信は刀に手をかけた。
「拙者は剣が得意ゆえ、剣術を指南いたそう。ごっこ遊びの時に格好良い真似が出来るでござるよ。まずは手本を」
 適当に立てた棒の前に立ち、中段に構える。短い掛け声と共に、棒が二つに分かれた。
 子供たち、主に男の子がが拍手喝采を贈る。
 僅か見ていた女の子も、忠信の姿勢の良さ、大和男児の風貌に吐く息もないよう。
「剣術って、もっと乱暴なものだと思ってたわ」
「西洋の剣には荒い型が多いでござるな。しかし、冒険者やイギリスの騎士には優美な剣術もあると聞き申す。
 拙者も修行中の身でござるよ」
「忠信さんより強い人がいるの?」
 剣を使う人間を初めて見た少女には、忠信より上がいるなど考え難いのだろう。
「なんの、上には上があり、国の騎士よりも強い冒険者も中には居るらしいでござるが‥‥拙者は会った事がないでござるなあ。
 しかし、強い弱いが冒険者ではござらん。人々の平和の為とあらば飛び込んでゆくのが我らの有り様でござる。
 死人の群れに遭遇したことがござってな、あれは実に危なかったでござる。子供を攫い、宝石を盗む凶悪な盗賊と戦ったこともござる」
「怖くはなかったの‥‥?」
「怖いでござるよ。拙者が退いたばかりに傷つく人あると思えば、何より怖いでござる」
「ねーねー、ケン教えてよー!」
 男の子連中に引っ張られ、忠信は刀をおさめ練習用の木の棒を持つ。
 一方、ヴェニーや鈴麗の周囲には主に女の子が集っていた。
 空高く舞い、ヴェニーの元に降り立った隼を目に、歓声が沸く。
「鳥って言うこと聞くの?」
「鳥というか、ペットね。躾けると良いパートナーになるのよ〜」
「冒険者は変わったペットを飼っていることが多い。これはルーチェと言うてな」
 鈴麗の肩から顔を出した小さな妖精さんに、わっと声が上がる。ルーチェは人懐こい子だが、過剰反応に吃驚して、鈴麗の影に隠れた。
「ペットなの? 人間みたいなのに」
 おずおずと尋ねる声に、ルーチェが反応する。
 優しい子なのか。鈴麗は微笑んだ。
「ルーチェは娘の様なものじゃ。おぬし、名は?」
「マギー」
 そうか、と鈴麗は腰を上げた。
「魔法の披露がてら、冒険の話をしようかのう」
「じゃあ、演出お手伝いするわね」
 ヴェニーがスクロールを持ったのを見て子供達が手を叩くが、「魔法って巻物を使うんだね」と妙に誤解が生まれている。
 傍の川に移動し、水流の上に立つ鈴麗、その足元をルーチェが照らす。まるで水の舞台だ。
「あれは昨年のこと、畑で巨大な野菜と戦うことになった私は‥‥」
「ぼ、冒険者って野菜とも戦うの‥‥?」
「うむ、依頼さえあれば野菜とも戦うしカビとも戦う」
 冒険者って大変だ。
 水が象る野菜、それと格闘する冒険者の様子をヴェニーが幻影で簡素に表現する。
 同じように幻影で、ヴェニーが飛び回って遊ぶルーチェとそっくりな妖精を生み出す。ルーチェが幻の友達に興味を示す様子は可愛らしかった。
「こんなこともできるぞ」
 鈴麗の読むスクロールの効果で、草が長く伸びる。うねる草は鈴麗の意志に合わせ文様を作った。
「楽しそうですね」
 付近の森から、草葉にまみれた狐冬が薬草籠を抱え、子供達を連れて戻ってきたようだ。
「何の話してたの? 僕たちも聞きたいよー」
「ふふ。では、私も冒険のお話をいたしましょう。あれは少し前のこと、くまさん姿で熊に突撃する領主さまがいました‥‥」
「くま対決?」
「傍から見ると、実にそのような様子でしたね。そうそう、その時に私が作った特製の熊ジュースがあるんですよ」
「く‥‥くま、じゅーす?」
「はい。晩におだしする予定なので‥‥鈴麗さんとヴェニーさんも飲みますか?」
「お、おぬし何を飲ませる気なのじゃ」
「うふふふふふ‥‥」
「ほ、本当に何を飲ませる気なのよ!?」
 清純そうに見えるだけ、その笑顔は怖いから。
「では、熊ジュースを作る前に」
 狐冬は籠を置き、身につく葉を落とす。彼女の爪先が地を敲いた。
 村人には馴染みない、不思議なステップ。舞うたびに艶やかな黒髪が白い肌にかかるのが、色っぽい。
 踊りが終ると、不思議な高揚感が場を満たした。
 狐冬は再び、籠を拾う。
「これも冒険者の技術の一つです。魔法や剣の他にも様々な技術を持っているのですよ」
「踊りが人の助けになるの?」
「時にはそうです。どんな技術が役立つか判りませんからね」
「おーい」
 上流から、忠信が手を振っていた。
「川の橋架けを手伝っとるのでござるよ。鈴麗どの。先ほど水を操ってござらんかったか」
「うむ、手伝おうか」
 冒険者の集った面子が女性ばかりなので忠信は少々、気後れしている。決して嫌な訳ではなく‥‥この気持ちは説明難い。
「おかしいわねぇ」
 ヴェニーは子供たちを眺めた。
「忠信さんに剣を教わって、遊んでた子達がいないわ」
「あいつらなら、森に入ったよ」
 蓮っ葉な女の子が指し示す。
 狐冬は眉を下げた。
「子供だけで行くのは少々、危ない所ですよ」
「早く追いましょう‥‥居所を探してちょうだい」
 ヴェニーは隼を飛ばし、捜索へ向かわせる。
 鈴麗も赴くつもりだが、その前に。
「マギー。ルーチェを頼めるか?」
 あの優しい子へ、我が娘を託す。マギーは柔らかく頷いた。
「今回でセンサーが役立つとは思わなかったわ」
 まったくもう、とヴェニーはスクロールを広げる。
「拙者が言い含めるべきでござったな」
「男の子は、思い立つと止まらんからのう。
 ヴェニー、どうじゃ?」
「いるわ、子供」
 彼女の導きを頼りに、草を掻き分けながら進めば‥‥
「何ぞ、聞こえたでござるな」
 柄に手をかけ、忠信は極力足音を立てぬよう身を低く、風のように走ってゆく。
「助けて‥‥!!」
 唸り、姿勢を低くする、一匹狼。
 腰を抜かした子が、今にも襲いかかられそうに。
 悪戯っ子を咎めようと思っていた術だが‥‥鈴麗はヴェントリラキュイを唱えた。
「こっちじゃ!」
 誰も存在せぬ方向から、狼の耳元で叫ぶ。
 狼が弾かれたように驚き、忠信が踏み込んだ。
「ぎゃん!」
 鼻先を斬られた狼は、仰天して森奥へ駆け去る。
「怪我はありませんか?」
 男の子の傍へ膝をつき、狐冬は容態を診る。鈴麗も、周辺に隠れていた子達の安否を確認した。
「ちょっと強くなった気がして‥‥探検に出かけたんだ」
「子供だけで無闇に行動してはならぬ」
 きゅっと薄い銀の眉を寄せ、鈴麗は叱りつける。それは心配の裏返し。
 彼女の言葉で十分と感じた忠信は、何も言わなかった。
 ただ、狐冬に「怖かったですね」と慰められると、子供たちは一斉に泣き出した。

●冒険者の助け
「忠信さんや、行きますぞ」
「用意はいいでござる!」
 丸太を括った橋が落ちる。これは一度、向こう岸手前で川に落ちた。それで鈴麗に助けを求めたのだ。
 その鈴麗は今、狐冬の提案で共に村人へ薬草を教えながら、診察を承っていた。
 狼騒動から帰ると、ルーチェはマギーの膝で昼寝しており、世話を任せてきた。ルーチェを見守る女の子達の目も優しげだったので。
「はい、痛みは消えましたか?」
「魔法ってのぁ凄ぇなあ。ぽっと光って傷がなくなっちまう」
 感心する男性に、狐冬は微笑んだ。
「それでは、お加減の悪い方は熊ジュースを飲みましょうね」
「‥‥狐冬よ、あれは本当に飲めるのか?」
 厨房の鍋で溶岩の如くたぎる青緑の液体。薬草の色だが‥‥少なくとも、熊は入っていない。
「大丈夫です、鈴麗さん。試飲済ですよ」
 私は飲んでませんけれど、と狐冬は続ける。一体誰に飲ませたのだ。
「橋を架けている忠信さん達にも配って来ます。ここ、お願いしますね」
「わ、わかった」

 その後、川岸から悲鳴が上がった。

●暇乞い
「本当に、何から何まで‥‥」
 村人代表で礼を述べる村長は、真に恐縮した様子。
「人の役に立つのが冒険者の本懐でござる」
 な、と子供たちに笑いかける忠信。子供たちは手を振りながら、
「またハラキリ見せてねー!」
「いやいや、拙者ハラは斬ってないでござるよ」
 死ぬから。
「何か困った事件が起きたら、冒険者を呼んでくださいね。喜んで駆けつけますよ」
 熊ジュースの人‥‥ではなく、狐冬も微笑んだ。

 皆から見えぬ場所で、鈴麗はルーチェとの別れを惜しむマギーと居た。
「寂しくなるわ」
 ルーチェも幾分、名残惜しそうだ。
「ルーチェの相手をしてくれた御礼じゃ」
 マギーの身が青く輝き、本人が目を丸くする。
「内緒じゃ」
 悪戯っぽく人差し指を立てた。

 冒険者が帰った後、川の上を歩くマギーが目撃されたとか。