【器用貧乏領主】リトルレディ・パニック

■ショートシナリオ&プロモート


担当:浅葉なす子

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 85 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月06日〜02月09日

リプレイ公開日:2008年02月13日

●オープニング

 貧乏地方領主のアークエンはその日、ロメーヌ伯爵に呼ばれてキャメロットまで訪れていた。
「君を呼んだのは頼みがあったからだ。おいで、アリソン」
 伯爵が呼ぶと、貴族風の少女が顔を出した。年の頃は四歳ほどだろうか。猫のようにつりあがった目が、彼女の性格を体現しているかのよう。
 アークエンはふと、少女の顔にとある面影を重ねた。
 二年前に両親を亡くし、親戚から家を追われた没落貴族のクレメンス。あれによく似ている。現在、アークエンの屋敷に居候中だ。
 アリソンという少女は顔を顰めた。
「こどもじゃない! こんな子供がアリソンのパパにゃの?」
 年の割にえらく達者な物言をする。クレメンスに分けてやりたい利発さだ。
 もう青年と言っていい年だが、童顔のアークエンは怒りより驚きが先に立ち、ロメーヌ伯爵を見やる。
「うむ。君にこの娘を預け、育てて頂きたい。援助は惜しまぬ」
「いやよ! こんなパパにゃんて!!」
 突然の話の上に、義娘になるらしい相手に泣かれるアークエン。何が何やら、こちらこそ泣きたい。
 結局、落ち着かせてから後日という話になり、アークエンは一人、己の領地へ帰った。


 物壊しの名人、クレメンスが冒険者の助けによって生活力が向上した頃、アークエンはクレメンスを伴い、再びロメーヌ伯の屋敷へ来訪した。
 不貞腐れた少女に、クレメンスが長身を屈め、人懐こい笑顔を見せた。
「君がアリリン!?」
「クレメンス。アリリンではなく、アリソンだ、ありそん」
「宜しくねアリリン!」
 人の話を聞いちゃいない。いつものことだが。
 別れ際、ロメーヌ伯爵はアリソンを抱いて別れを惜しんだ。
「アリソン。アークエン殿の言うことをよく聞き、神様に恥じぬよう生きるんだよ」
「わたし‥‥いやよ」
「様々な人間をお前の父にと考えたが、アークエン殿以上の適任はいない。彼は誠実で、賢明な人だ。お前を深く愛し、教え導いてくれるだろう」
 相変わらず何が何やらだが、ここまで褒め讃えられるとアークエンも困る。単に貧乏で親戚がなく、領地のことは何でも一人でやらねばならないだけで。
「ロメーヌ卿。何やら仲を引き裂くようですが、これは‥‥」
「アリソンは命を狙われている」
 ロメーヌ伯爵はアークエンに耳打ちした。
「道中、襲われることもあるだろう。故あって私が護衛をつける訳にゆかぬ。君を選んだのは、こういった理由もあるのだ」
「なぜ狙われているのです?」
「わからぬ。私が手ずから育てていることを、誰かが嫉妬したのやもしれぬ」
 咄嗟に、アークエンは冒険者に助けを求めようかと思った。
 だが、冒険者はすぐさま来てくれるわけではない、募集をかけてから何日か必要だ。
「伯爵、ものは相談ですが、何泊かさせていただく事は」
「申し訳ない。これ以上アリソンを手元に置けば、却って危険だ」
 伯爵は何となく、犯人を知っているような気がした。
 アリソンは死なせたくないが、犯人をも庇っている。だが、伯爵は妻を亡くし、その後後妻も愛人もない。一体誰が嫉妬など?
 ともあれ、一行は出発した。不機嫌なアリソンのために甘い保存食を用意したり、スノーマン人形を与えたりしたが、一向に関係はよくならない。
「馬にゃんていやよ!」
 アリソンは青い瞳に涙を浮かべる。
「ゆれるし、たかくてこわいわ」
「じゃあ、歩いて行こうよ。私がアリリンを抱っこしてくからさ」
「いや! アリソンはおよめまえよ。とのがたにさわられたくありまてん!」
 とのがたが『とにょがた』になっているが、アークエンは彼女の矜持に感心した。
「アリソンはしっかりしたレディだな」
「‥‥ふんだ」
 そっぽを向いたが、褒められてその耳が赤い。


 キャメロットから離れ、ある宿泊街を通り、人気がなくなる頃、やはりアリソンは足の痛みに耐えかねて馬に乗ることになった。
「もたないな」
「そうだね、小さいもん」
 呑気なことを言うクレメンスを制し、自分は前へ進み出た。
 すれ違いざま、彼に羊皮紙の切れ端を渡す。先ほど通った宿泊街の一角らしい場所の書かれた、地図だ。
 ほどなく、木陰より何人もの武装集団が現れた。
「お前がクレメンスか?」
 アークエンは眉を顰めた。なぜ、アークエンでもアリソンでもなく、クレメンスの名を?
「えっ、わ」
「そうだ」
 クレメンスが何か言う前に、アークエンは返答した。
「我が名はスペンサー家、正当なる当主クレメンス。私に剣を向けたこと、後悔させてやろう」
 言いながら剣を抜く。
 鈍いクレメンスでも分かった。アリソンを連れて宿泊街へ戻り、地図に書かれた場所に潜伏しろと言っているのだ。
「なに?」
 クレメンスの背で眠っていたアリソンが目を覚ました。
「ちょっと、なにごとにゃの‥‥」
 聞く耳持たず、クレメンスは手綱を鳴らした。


 地図の場所は人気のない裏路地で、扉を開ければ地下に潜る家屋があった。馬を隠す場所さえある。
 羊皮紙の裏には「すでに冒険者に依頼を出してある」ともあった。いつ出したのか、そしていつこれを書いたのか。どうして、こんな隠れ家を持っているのか。
 クレメンスはいつでも、アークエンには敵わない‥‥
 昨晩は大層、冷えた。
 アークエンはどうしているだろう。彼は強いし、健康に見えるが、ああ見えて病気になりやすいのだ。
 クレメンスは泣き疲れて眠ったアリソンに毛布をかけながら、冒険者が集ってくれることを祈った。

●今回の参加者

 ea3451 ジェラルディン・ムーア(31歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea9937 ユーシス・オルセット(22歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2357 サラン・ヘリオドール(33歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ec2497 杜 狐冬(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec3466 ジョン・トールボット(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ヒースクリフ・ムーア(ea0286

●リプレイ本文

「陽気な人だったね」
 サリ(ec2813)が冒険者ギルドの受付に依頼主について尋ねると、以上の返答があったので、サラン・ヘリオドール(eb2357)は首を傾げた。
「そんな方ではなかったわ。きっと代理の方でしょう」
 その陽気な代理人は不在らしい。冒険者たちは依頼人が潜伏している宿泊街へ急行した。
 街へ入る前にセブンリーグブーツを外したジェラルディン・ムーア(ea3451)は、
「あたしは皆と離れて周囲を見ておく。依頼人は頼んだよ」
 別の道から目的地へ向かう。
 例の隠れ家は裏路地にぽつんと在り、内から施錠されていた。と言ってもユーシス・オルセット(ea9937)やジョン・トールボット(ec3466)が壊せそうな扉である。
 杜狐冬(ec2497)は、中の人間の不安を感じ取るように、扉に触れた。
「幼い子がこんな所に何日も隠れていたなんて、さぞ不安だったでしょう」
「安心させてあげないとね。どう入ろう? 壊して入る訳にも」
「大丈夫よ、ユーシスさん。彼らと面識があるの。アークエンさん、クレメンスさん! 私よ、冒険者のサラン」
 中から慌しい靴音が響き、鍵が外され貴族風の男が顔を出した。
「久しぶり、月のように美しいサランさん!」
 妙な覚え方である。更に、サリと狐冬は「花の妖精さん」だそうな。
「そちらの愛らしい騎士さんもはじめまし‥‥」
「クレメンスさん。ユーシスさんは男性よ」
 どうも相手が綺麗だと男女間違うことが多いようだ。
「無事でよかったわ」
 サランに抱きしめられ、クレメンスは小さく肯いた。
「私はクレメンスです。硬派な騎士殿も宜しく」
 中へ案内されると、地下の部屋で憔悴した少女が憤然と大人たちを見上げ、
「レディの寝室にいきなり人を入れるにゃんて無神経よ!」
「ご、ごめんねアリリン」
 ユーシスは思わず、少女の口の達者さに噴出し、騎士の礼をとった。
「ご無礼をお許しください、レディ。でも、レディならまずお客様を労わる筈だね」
「びっ、吃驚したんだもの‥‥」
 ユーシスとは比較的、年が近い。お兄さんの騎士に真っ赤になってしまった。
「アークエンさんが見当たらないけれど」
 暗い室を見回すサランに、クレメンスは肩を落とした。
 一部始終を話し、沈んでしまった彼へ、狐冬は微笑みかける。
「彼には彼の、貴方には貴方の為すべき事があります」
「紳士は淑女をきちんと守ってあげないとな?」
 ジョンの言葉に、クレメンスは強く同意した。
「アリソンちゃんも、よく頑張りましたね」
 サリに慰められ、アリソンは僅か涙を浮かべる。
 仲間がアリソンたちを慰め、着替えさせている間、ユーシスは水を張った鍋を火にかけて、一足先に出、街の人間に虚言を頼んだ。
「四歳くらいの女の子があそこへ入って出てきていないと。頼みます」
「お安い御用だよ冒険者さん。そこらの宿にも言っておこうかね」
 意外に話がすんなり通る。
 見張りについていたジェラルディンに合流すると、
「それとなく街の人間に話を聞いたんだけど、はぐらかされたよ。依頼人の庭なんじゃないかな、ここ」
「その依頼人が一人、行方不明らしい」
「へえ‥‥皆どうするって?」
「回収して領地に向かう。戦えそうにない貴族と少女が一緒だ。構わないよね?」
「依頼人を護ってこそ冒険者だろ?」
 これで全員が救出に行く決意をした。

●救出へ

 サランや狐冬にもこもこと暖かい格好をさせられたアリソンは今、クレメンスの馬の上で狐冬の話を神妙に聞いている。
「森には、『もくもくさん』という、隠れんぼが得意な生き物が居ます。静かに周りを探すと、見つけられるそうです」
「もくもくしゃん!」
 目を輝かせ、周囲を見回す。サリも警戒がてら、ごっこ遊びに付き合うので、暫くは大人しくしてくれそうだ。
「レオンさん、彼が隠れそうな場所はわかりませんか?」
「ううん、狐冬さん。小さい時隠れんぼすると、絶対見つからなかったなぁ」
 それこそ『もくもくさん』のような。見つけ難い反面、敵にも捕まり難い筈だ。
 魔法を詠唱していたサランは溜息をつく。
「太陽が答えてくれないわ‥‥」
「木陰に隠れているかもしれませんね」
「そうね、サリさん。暫く続けてみるわ」
 その脇ではジェラルディンのマーズが、尋ね人の持ち物を手掛かりに、匂いを辿る。
「じきに日が落ちてサンワードが使えなくなるわ。犬さんたちが頼りになるわね」
「うーん、子犬だからな」
 ユーシスは元気に飛び回る幼いセッターに苦笑を向ける。
 野生動物を見つけた狐冬が、遠くへ食べ物を放り逃がしている際、ジェラルディンは足を止めた。
「この木。刃物傷がある」
「皆。今、太陽が‥‥応えてくれたわ」
「このタイミングってことは」
 依頼主らを囲み、各々足を急がせた。
 サンワードによる方角へ駆けつければ、静かな森に似合わぬ怒号や悲鳴があった。
「きゃぁあ!」
 アリソンが顔を覆い、馬の上で伏せた。
 ちょうど木漏れ日の当たる場所に、二つ無残な遺体があり、後の数名はひけ腰で血まみれの少年を囲んでいた。
「アークエン!」
 クレメンスが思わず、彼の本名を叫んだ。
 サリがそこへ矢を射掛けて牽制すれば、敵に動揺が走る。
「何で冒険者が! 宿泊街の奴らは何をしてる!」
 逃げられるが、深追いは出来ない。蹲るアークエンに駆け寄った。
 容態を診た狐冬が、きゅっと眉を寄せる。
「酷い熱です。お怪我は?」
「いや‥‥殆ど返り血だ。派手に斬った方が、相手が怯む」
 だが、馬上で怯えるアリソンに気付き、寂しげに笑う。俄か親子の距離は遠くなってしまったようだ。
「身体を温めた方がいいよ。ハーブエールだけど、呑めるかな?」
「すまない‥‥貴殿は?」
「僕はユーシスだ」
「ユーシス殿か。サラン殿も、狐冬殿もすまない」
 よく、この状態で応戦しようと思ったものだ。
 ジェラルディンは暗くなった空を見上げる。
「夜襲を考えると、強行軍が良さそうだね。レオン、アークエンはあたしが背負おうか?」
「オレが背負うよ! お嬢さんに力仕事はさせられないから!」
 戦士然とした年上のジェラルディンにそう言う所、女性に対する姿勢は立派である。
 サランはアリソンに甘い保存食を分け与えたりしたが、彼女は俯き、もくもくさんを捜そうともしない。
 沈黙の続く中、ジェラルディンが不意に顔を上げた。
「何かいる‥‥!」
 その瞬間、ジョンは馬上のアリソンを抱え下ろし、依頼人らを仲間の中心へ押し込んだ。
 複数の方向から矢が飛んでくる。ユーシスは盾を構え、矢面に立った。
 遅れて狐冬のホーリーフィールドが場を包み、サランもテレスコープの詠唱を終えた。
「サリさん、あちらよ! あそこを狙って」
「わかりました!」
「あっちもだ、サリ」
 夜目の利くジェラルディンも敵を見つけ、指し示す。
 見つけられた事と、サリの威嚇射撃によって敵の矢は止んだ。
 狐冬は振り返り、
「お怪我は‥‥」
「あなた、けが!」
 ジョンに抱え込まれたアリソンが悲鳴を上げる。
「大丈夫ですか、ジョンさん。すぐ手当てしますね」
「ごめんね、アリソンのために」
「心配するな、子供を護るのは義務だ」
「なおしてあげる。いたいのーとんでけ!」
 せっかくなので、狐冬は「とんでけ」に合わせてリカバーを施した。アリソンが少し元気になったようで、周囲も胸を撫で下ろす。
 やがて夜が明け、一行は交代で見張りにつき、仮眠を挟んだ。起きられなかったアリソンは、ジェラルディンが毛布に包んで抱えることに。
「森の出口が近そうですね」
 些か森林に詳しいサリが、皆に朗報を告げた。
 しかし‥‥
「来るね」
「そうだね、ジェラルディン。多分、避けられるない」
 街道で乱闘になれば無関係の人間を巻き込む可能性もある。それは後ろ暗い敵も本意ではないはず。
 前衛三人が得物を構え仲間を庇うように立てば、敵がまばらに現れた。十人弱はいるだろうか。
 烏合の衆の中、貴族風の男が二人おり、サランはクレメンスを見やった。
「アークエンさんのお屋敷にいらしたことがあったわよね?」
「うん。従兄弟のエドモンドとエドガー」
「クレメンス! アークエンを身代わりにし、冒険者を呼ぶなど小賢しい真似を!」
「へ?」
「妹と組んで、アークエンとロメーヌ伯に頼んで家を取り返す気だろう! 伯のご息女が仰った!」
「妹!?」
 クレメンスは咄嗟に、ジェラルディンの腕で眠るアリソンを見る。
「お前の親父も庶子を伯に預けやがって‥‥」
「黙れ」
 クレメンスの背から低い声が上がった。
 アークエンは具合が悪そうに顔を上げ、
「いつか、ぶっ潰す‥‥」
 がっくり力を失った。
 クレメンスは両親の死亡時、親戚に財産を奪われている。この従兄弟どもは、災いの芽を潰しにきたらしい。
 アークエンの啖呵と同時に、刺客が襲いかかった。
「あたしは弓使いを狙う!」
「そちらは任せた!」
 言いつつ、ユーシスは可能な限り敵の武器を叩き落した。
 サランもサンレーザーで応戦したが、殆ど威嚇である。貴族同士の問題に冒険者が下手に口出しすべきでない。
 ジョンは討って出ず、依頼人の護衛を続けていた。二名の敵に襲われ、体を張る心算だったが、背後から光弾が飛び、一人に絞れた。
「アークエンか?」
「もぅ無理‥‥」
 息も絶え絶え、オーラショットを唱えたらしい。
「ジョンさん、加勢します!」
「助かる」
 威嚇射撃していたサリは弓を投げ、近接に切り替えた。
 こうして殆どの敵が、武器を失うなど追い詰められ、雇い主を放って逃走。
 クレメンスの従兄弟らは慌てふためき、
「これで終わったと思うな!」
「わぁ、悪役っぽいね」
 当事者のクレメンス、呑気に従兄弟の撤退を見送っている。
「もりしゃん、こわいの終わった?」
「もう大丈夫ですよ、アリソンさん」
 狐冬はアリソンを慈しみ、彼女をサランに預けて怪我人の介抱に走った。
 戦闘で荒れた森を眺め、ジョンは一言。
「平和への道は、まだ遠そうだな」