【お兄様と私】王子様VSサスカッチ!

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月17日〜02月22日

リプレイ公開日:2008年02月23日

●オープニング

 自分を慕い目標としている(と勝手に勘違いしている)貴族の少年エイリークの修行を終え、キャメロットに帰ってきたフレッドを待っていたのは以前と変わらない慌しい日常だった。
 聖夜祭に開いたパーティーのお陰で貴族のご令嬢のお茶会に出席するという新たな日課が増えてしまったフレッドに、心身共にゆっくり休まる暇などない。
 さすがに毎日というわけではないが、元々苦手な女性の相手をするのは苦痛でしかなく、さすがのフレッドも図太い神経を確実に擦り減らしていた。

「今日くらい息抜きをしてもいいだろう」
 このままでは自分が自分でなくなると思ったフレッドは、早朝から遠乗りに出かけていた。
 冬の凛とした空気を心地よく感じながら、薄水色の空を見上げる。太陽の光を反射してキラキラと輝く小川の水面が眩しい。
 行き先を決めずに当てもなく真っ直ぐに道を進んでいると、遠くの方に蹲る小さな人影が見えた。具合が悪く動けないのではないかと思い慌てて馬で駆け寄ると、幼い少女が頬を抑えながら泣きじゃくっていた。
「どうしたんだ?」
 声をかけると少女は泣くのを止め、ゆっくりと振り返る。そして涙に濡れる瞳でフレッドをジッと見つめるのだった。
「‥‥すごい腫れ方だな。見せてみろ」
 フレッドは馬から下りると、腰を屈めて少女の頬に触れた。まだ熱を持つそこは真っ赤に腫れ、痛々しい。
「痛かっただろう。親に打たれたのか?」
 眉を顰めながら尋ねるフレッドの言葉に答えず、少女はうわ言の様に呟いた。
「‥‥見つけた。あたしの、王子様‥‥」
「王子様なんて何処にもいないぞ? ‥‥頭まで叩かれたのか?」
 そう言いたんこぶがないか調べるフレッドに抵抗もせず、少女はジーっと彼の顔を見つめていた。大きな瞳の中のピンク色のハートマークが、心臓の鼓動のように大きくなったり小さくなったりしている。
「とにかく家まで送ろう。村はここから近いのか?」
 フレッドの問いに少女はコクコクと頷く。
「そうか。では行くぞ」
 ようやくまともな反応を返してくれたことに安堵したフレッドは、少女の小さな体を軽々と抱き上げた。いきなり乙女の憧れ『お姫様抱っこ』をされた少女の顔から「ぼんっ!」っと勢いよく湯気が立ち上る。
 しかし乙女心を微塵も理解していないフレッドは少女を馬に跨らせると、自らもその後に腰を下ろす。そして背中から抱きしめるような格好で馬を走らせ始めた。
(「何なの、この急展開!? これって夢?」)
 少女はこれが現実かどうか確かめる為に恐る恐る後に振り返った。そして目が合ったフレッドの優しい微笑みに、小さな胸をきゅんと高鳴らせる。
「まだ名乗ってなかったな。俺はフレッド。キャメロットの騎士だ」
「キャメロットの‥‥騎士様っ!?」
 助けてくれた王子様は金髪の美少年。しかも憧れの王都で騎士をしている。
 白馬でなく栗毛の馬に乗っていることを除けば、これは正しく御伽噺そのもののような運命の出会い。少女は震える唇で、必死に言葉を紡いだ。
「た、助けてくれてありがとうございます。あたしはサナって言いますっ!」
 夢見がちな少女サナの初恋は、こうしてドラマチックに始まったのだった。

 程なくして二人はサナの住む村に辿り着いた。
 道中、これは親に打たれたのではなく最近頻繁に姿を現すようになった白猿───サスカッチに野菜を投げつけられたのだとサナは話してくれた。
 無駄に正義感の強いフレッドはその話を聞き、頼まれてもいないのにこの村を助けようと決意するのだった。メラメラと燃えるお節介‥‥もとい、正義の炎を胸に抱き、村長宅を訪れる。

「‥‥ついに子供にまで手を出してきおったか」
 サナが怪我をしたと告げられた村長は悔しそうにテーブルをドンと叩く。
「俺でよければ詳しい話を聞かせてもらえないか?」
 フレッドの申し出に村長は渋い顔のまま、食料も求めて山を降りてきたサスカッチ達が村に危害を加えているのだと語り始める。亡くなった者や大怪我を負った者は幸いいないが、彼等は数匹で群れを成して襲ってくる。このままではいつ犠牲者が出てもおかしくない。
「この村の者に戦う力がないのをいい事に、奴らはやりたい放題じゃ。何度追い払っても馬鹿にしたようにすぐ食料を盗みに来る」
 季節は冬。食べ物に困っているのは村人も同じだった。少ない食料を奪われ続けたら、冬を越せずに飢え死にしてしまう。
 さらにサスカッチ達は退屈しのぎと言わんばかりに、目にした村人達に手を出しているらしい。
「からかって遊んでいるというわけか」
 フレッドは拳をギリリと握り締めた。が、村長は信じられない言葉を口にする。
「騎士様、その気持ちだけありがたく受け取らせてもらうよ。‥‥申し訳ないが、奴等を討伐しようなどと思わんでくれ」
「どういう事だ? この冬を越えられたとしても、奴らはきっと来年も同じことをしてくるぞ。その次の年も、ずっと‥‥」
 フレッドは納得いかないという様な顔で村長に詰め寄る。ずる賢いサスカッチ達の事だ、退治しなければ毎年この村を餌場にするだろう。
「奴等が一体何匹の群れなのか全く見当がつかん。それに下手に退治したらワシらを危険な敵とみなし、殺す気で襲ってくるかもしれん。万が一そうなったら、あんたが毎日この村を守ってくれるのか? そうもいかんじゃろう」
 最もな村長の言葉にフレッドは黙り込むしかなかった。決して豊かさそうに見えないこの村に常時サスカッチ退治の用心棒を雇う余裕などあるわけがない。しかしこのまま彼らをのさばらせていては、この村は毎年怯えながら冬を迎える事になる。
 何かいい方法はないかと考え込むフレッド。重苦しい沈黙が訪れる。
「春までもう少しじゃ。耐える以外に道はないのじゃよ」
 すっかり諦めた口調の村長の目を見据え、フレッドは静かに口を開く。
「‥‥要は報復させずに二度とこの村に近づかないようにすればいいんだな?」
「それはそうじゃが、そんな事は可能なんじゃろうか?」
 村長は何かを期待するかのような目でフレッドに尋ねる。
「可能かどうかはやってみないとわからない。だが何もしないよりはいいだろう」
 きっぱりと言い切るフレッドに村長は大きく落胆の溜息を漏らす。だが見ず知らずの彼がここまで村を思ってくれてるのに、長たる自分が端から諦め何もしないわけにはいかない。
「村の者を絶対に危険に晒さないと約束してくれるか?」
「勿論だ。この身に代えても守ると誓おう」
 フレッドは真摯な表情で自らの胸を硬く握った拳で叩いた。
「ワシらがどうなってもあんたには関係ないじゃろうに‥‥面倒な事を引き受けさせてしまったのう」
「気にしないでくれ。俺が好きでやるだけだ。策はまだないが、結果としてサスカッチ達にこの村に近づくのは危険だと思わせればいい」
 フレッドの言葉に村長は暫し考え込む。
 それは力で懲らしめるのではなく罠をしかけて驚かせるという事だろうか。協力できる事があれば言って欲しいと村長は口を開こうとするのだが‥‥
「俺一人で出来る事なんてたかが知れている。ギルドで仲間を募ろうと思う」
 思い立ったら即行動の男フレッドは村長が尋ねる暇もなく席を立ち、意気揚々と村を後にした。
 翌日、フレッドがサスカッチ達からこの村を守ってくれるのだと知ったサナは、ついに見つけた王子様にまた会える喜びに小さな胸を膨らませるのだった。

●今回の参加者

 eb5267 シャルル・ファン(31歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb9449 アニェス・ジュイエ(30歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec3680 ディラン・バーン(32歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●白猿襲来
 キャメロットから村までの一本道を、一行は和やかに談笑しながら進んでいた。
「それにしても立派だな」
 フレッドはディラン・バーン(ec3680)が連れてきたグリフォンのレオを撫でながら、しきりに感心している。3mもあるその体は圧巻だった。
「上手く猿達を怖がらせられればいいんだが‥‥」
 友であるフレッドにのみ砕けた口調で話すディランは、なるべく強攻策を取らずに解決したいと思っている。それはヒルケイプ・リーツ(ec1007)も同じだった。
「悪戯で人を困らせるなんて許せませんね。お仕置きしちゃいましょう!」
 だがある程度の制裁は必要である。サスカッチの頭の良さを利用して恐怖心を植えつけるのが目的だ。
「こうして皆がいてくれるから心強いな。協力してくれてありがとう」
「冒険者に応援を頼むというのはかなりベストな選択かと思います。騎士の方々は討伐はともかく、適度に懲らしめるのは苦手でしょうから」 
 改めて全員に礼を言うフレッドに声をかけるシャルル・ファン(eb5267)だったが、内心ではこんな事を思っていた。
(「ふむ。彼も妹さんが絡まなければ理知的な判断が出来るのですね」)
 親しいからこそこう思うのだろうか? ‥‥シャルルは結構いぢわるかもしれない。
「アニェスさんは無事に着いたでしょうか?」
 心配そうなヒルケの口から出た名前にフレッドは端正な顔を曇らせる。アニェス・ジュイエ(eb9449)はレオを見た村人達が驚かないように説明する為、一足先に村へと向かっていた。
「やはり心配だな。少し急ごう」
 フレッドの言葉に3人は頷くと、足を速めた。

 アニェスの話を聞いても、生まれて初めてグリフォンを目にした村人達は驚きを隠せないようだった。しかしディランの言いつけを守り大人しくしているレオに、好奇心旺盛な子供達が集まり始める。そしてあっという間に『大きなおもちゃ』にされてしまった。
「ワシらなんぞの為にすまないのぅ」
 恐縮する村長にフレッドは村人にも手伝ってもらいたい事がたくさんあると説明する。話を聞き終えた村長がすぐにでも村の若者に声をかけようと口にした時、食料庫の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。一同は悲鳴の聞こえた方へと一斉に駆け出した。
 食料庫に辿り着くと、大量の食料を抱えて村を後にしようとしている3匹の白猿達の姿があった。
「坊や、駄目だよ!」
 フレッドは咄嗟に追いかけようとするがアニェスに止められてしまう。
「大丈夫ですか?」
「ええ。抵抗しなければ危害は加えてこないから‥‥」
 ヒルケの問いかけに答える女性の顔は蒼白だった。猿達の襲来は村人達に相当な精神的苦痛を与えているようだ。
「いい? もう勝手に飛び出して大猿を殴ろうとしないで。あたし達の目的は村人の安心と安全なわけ。あんたは『懲らしめたい』って思ってるかもしれないけど、さっきやろうとした事は逆効果だから」
 アニェスはさらに『暴力は憎悪を育てる。力で追い払えたとしてもそれは一時凌ぎに過ぎない』とフレッドに言い聞かせる。
「あんたのちっぽけな正義感や幼稚な反感で一番大事なことを台無しにしたら許さないからね?」
 彼女の言う事は最もだった。フレッドは己の未熟さを恥じ、素直に謝る。
「反論の余地もないな。すまない」
「今回はその綺麗な顔に免じて許してあげる。でも次はないからね?」
 潔く自分の否を認め頭を下げるフレッドに、アニェスは険しい表情を崩すのだった。

●共同作業
 朝早くから全員で協力して村の周りの木と木をロープで結び、即席の境界線作りに励んでいた。足りない分は村の物で補う。
 これは村と白猿達の境界線。これを超えて進入してきたら威嚇として攻撃するのだ。
「後でちゃんとした柵を作って下さいね」
 ディランの言葉に村人達は大きく頷いた。
「ここは私達に任せて、食糧庫の補強を手伝って下さい」
 先程からフレッドは変な結び目ばかりを作り、作業を遅らせていた。シャルルは別の仕事をするように促す。力仕事なら出来るだろう。
「‥‥役に立てずにすまないな」
 すごすごと退散するフレッドの寂しげな後姿に、シャルルはとっておきの言葉を投げかける。
「アリシアさんに愛されるあなたになら出来るはずです。頑張って」
 フレッドは振り向き、ぱあぁと顔を明るくさせる。俄然やる気を取り戻したようだ。恐るべしフレッド使い、シャルルである。

 食糧庫の補強を行っていた女性二人に煽てられながら使いっぱしり‥‥基、力仕事を任されたフレッドは今度は邪魔をする事無く貢献した。
 補強を終えた食糧庫は頑丈さは勿論、見た目も格段に良くなった。
「さすがに疲れたな」
 フレッドは額の汗を拭うと、余った丸太の上に腰かける。するとそこに物陰から熱い視線を送っていたサナが近づいてきた。
「よかったら飲んで下さい」
 震える手で水の入った容器を渡すと、眩いばかりの王子様スマイルが返って来た。
「ふ〜ん?」
 ぽわ〜んと辺りにハートを飛ばすサナの様子を見ていたアニェスはにんまりと微笑む。
「フレッドさん、畑に罠を仕掛けてみたんです。見てもらえますか?」
 呼びに来たヒルケにフレッドは「わかった」と答えると、水を一気に飲み干した。
「お陰で生き返った。ありがとう」
 空になった容器を返すと、フレッドはサナの頭を優しく撫でる。畑へと歩いていく後姿をサナは赤い顔で見つめていた。

●猿退治
 冒険者達は朝から境界線の中で周囲に気を配りながら待機していた。
 厳しい表情で佇むフレッドを心配そうな顔で村の入り口から見つめているサナに、アニェスが声をかける。
「心配? ああいう男はお姫様に心配されると却って傷つくからね。大人しく待って、とびきりの笑顔で帰りを迎えた方がポイント高いよ、多分ね」
 自分の恋心を知られてしまい、サナは真っ赤な顔で頷いた。
「‥‥来たみたいですよ」
 メンバーの中で1番の優良視力を持つシャルルが3匹の白猿達の姿を捉えた。真ん中にいる猿は特に大きい。ボスだろうか?
 いつもと村の様子が違う事に気づいた彼らは、警戒しながらゆっくりとこちらに近づいてくる。そして境界線まで5メートルの所でぴたりと止まった。冒険者達の背後にいるレオを見て動揺しているようだ。
 ディランが目配せするとレオは大きく羽ばたき、鳴き声をあげた。1匹が怯えた顔で尻餅をつく。だがボスはジリジリとこちらに近づき始めた。その距離が少しずつ縮まる。
「どうやらばれてしまったみたいですね」
 ディランが残念そうに呟く。近づいても攻撃する素振りがないので、危険ではないと判断されてしまったらしい。
「では眠って頂きましょう」
 シャルルのスリープで1匹があっさりと眠りに落ちたが、すぐにボスに叩き起こされてしまう。1対象にしか効かないので、敵が複数いる時はあまり効果を得られないのだ。
 そうこうしている内に白猿達は境界線内に侵入してきた。
「あまり気が進みませんけど、仕方ありませんね」
 ヒルケはシュ−ティングPAで敢えて当たらないようにスリングで猿達を脅かしていく。物凄いスピードで飛んでくる石礫に猿達の足が止まる。ディランも同じ様に矢を放つ。
「よし、俺も加勢だ」
 と言いフレッドが投げた石が、ボスの鼻に思い切り命中した。怒りの形相でボスが飛び掛ってくる。
「もう、足引っ張んないでよっ!」
 アニェスのサンレーザーがボスの毛先をジリっと焦がした。たまらずボスは後ずさる。
 3匹が恐怖心を感じている今が好機とばかりに、シャルルはメロディーを唱えた。ボス以外は戦意を喪失し、逃げる様に境界線の外へと飛び出していく。
 だが群れの為に食糧を持ち帰らなければならないボスにだけは効かなかった。ヒルケはテレパシーのスクロールでボスに話しかける。
『これ以上危害を与えるのは止めて下さい。じゃないとグリフォンに食べさせますよ』
 羽を広げながらタイミングよくボスに近づくレオ。今にも襲い掛かってきそうな迫力にボスは大慌てで返事を返してきた。
『わ、わかった! もう悪さはしない、約束する!』
 しかし今いち信用できない。念を押す為、ディランがボスに話しかける。
『これから言う約束を破ったらお前達を完全討伐するぞ』
 いつになく厳しい口調のディランはいくつかの条件を出す。

 人間に対し危害を加えない。
 村側の境界には入らない。
 境界の外側についてはお互いが譲歩し合う。

 ボスは全ての条件を飲むと約束し、2匹と共に飛ぶように山へと帰っていった。
「やったな!」
 と、全く役に立っていないのにとびきりの笑顔を見せるフレッドだった‥‥。

「くれぐれも引っかからないように気をつけて下さいね」
 自分達がいなくても自衛できるように、ヒルケは罠の作り方を村人に伝授していた。
「あとこれを食料庫の扉にぶら下げておいて下さい。お守りです」
 渡したのは抜け落ちたレオの羽。ボスが食料を盗みに来たら、これを見てレオの恐怖を思い出して逃げるかもしれない。
 村長を始めとする村人達は大喜びで一同を取り囲み、感謝の言葉を口にしている。
「どうしたんだ、サナ?」
 猿を追い払う事に成功したのに何故か浮かない顔をしているサナにフレッドは声をかける。
「‥‥もう、この村には来ないんですか?」
 猿問題が解決したのは嬉しいが、恋する少女にとっては王子様と会えなくなる不安の方が大きかった。
「また彼等が来るかもしれませんし、時々この村に来てはどうですか?」
 ヒルケもまたサナの気持ちを知っていた。彼女の為にさりげなく提案すると、フレッドは笑顔で頷いた。
「ホント? 嬉しいっ!」 
 感極まりフレッドに抱きつくサナをアニェスとディランは微笑ましく思っていた。
 身分違いの恋だから諦めるように諭そうと思っていたシャルルは、サナの幸せそうな笑顔にふと思い止まるのだった。
 小さな恋はまだ始まったばかり。その行方は誰も知らない────。