ロイエル家と双珠〜波乱の恋舞台!?〜

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月01日〜06月08日

リプレイ公開日:2008年06月09日

●オープニング

 つい先日、冒険者達と共にジャイアントトードの巣窟から村に住む女性の指輪を取り戻してきたシエラとシルフィ。仲良し姉妹はまたもおばさまから無理難題を押し付けられそうになっていた。
「ここはキャメロットにも近いし、あたしの嫁いだ先に比べたら断然都会よねぇ。あの村は寂れてる上におじぃおばぁばっかでつまんないのよぉ」
 村長の娘であるモニカはシルフィが作ったクッキーをもしゃもしゃと物凄い勢いで食べながら、小一時間ほど愚痴を零し続けていた。心優しいシルフィは根気よく話に耳を傾けていたが、何故かつき合わされているシエラはつまらなさそうな顔で大欠伸をしている。
「ちょっとシエラちゃん! 聞いてるの!?」
「飽きた」
 ずずいと身を乗り出し、不機嫌な顔で尋ねるモニカにシエラはきっぱりと答える。
「全く、最近の若い子はこれだわ。ここからが面白い所なのに!」
「前置きが長過ぎるんだよ。あたしはもう帰るぞ」
 長い上にあっちこっちに話が飛ぶモニカのお喋りに嫌気がさしたシエラは席を立とうとする。
「お姉ちゃん、人の話は最後まで聞かないとダメだよ!」
 しかし真面目なシルフィにぐいっと腕を引っ張られ、強引に椅子に座らせられてしまう。
「こういうのはお前に任せる。あたしは久々に依頼でも受けに行くよ」
「待って! お願いだから待って!!」
 何とかこの場から去ろうとするシエラを必死で引き止めるシルフィ。可愛らしいその顔は『私一人にこのおばさんを押し付けていくなんてズルい』という本心を物語っていた。
「‥‥シエラちゃんって冒険者なのかい?」
 最後のクッキーを口に頬張りながら、モニカはジッとシエラを見つめる。何となく嫌な予感がしたシエラは慌てて視線を逸らした。
「ま、まあな。じゃ、あたしはこれで‥‥」
「ちょうどよかったわ! 冒険者のあなたに頼みたい事があるのよ!!」
 予感的中。また面倒な事に巻き込まれそうな気配が‥‥。
「冒険者と言っても万能じゃないし、多分あんたの依頼にあたしは向いてないと思うぞ」
 どうせろくでもない依頼に違いないと思い断るシエラに、モニカはぶんぶんと大袈裟に頭を振った。
「あなたにぴったしかんかんよぉ! だってお芝居のヒロイン役だもの」
「‥‥へっ?」
「お姉ちゃんが‥‥ヒロイン?」
 予想外の依頼に姉妹は互いの顔を見つめた後、首を傾げる。付け入る隙を見つけたモニカはしたり顔で微笑むと、事の詳細を語り出すのだった。

「ああ、もうっ! 冗談じゃない!」
 むしゃくしゃする気持ちを落ち着かせようと、シエラは村の近くを当てもなく歩き回っていた。しかし歩けども歩けども気分は晴れない。
 モニカの依頼は彼女の住む村で催しものとしてお芝居をして欲しい、というものだった。彼女は「老い先短いお年寄り達に楽しい時間を過ごして欲しいのよぉ」と言っていたが、それは建前であり『自分が退屈で仕方ないから』という本心がバレバレである。
 もちろん断るつもりだったが、シルフィが「お年寄りの為に私もお手伝いしたい」と言い出し、結局はやる羽目になった。
「不本意だがやるからには成功させないとな。でもヒロイン役だなんて絶対に御免だ。早いとこ適役を見つけないと‥‥」
 ぶつぶつと独り言を呟いているシエラの目の前に、冒険者達がよく使用しているテントが目に入った。もしかしたらヒロイン役にぴったりの美少女冒険者がいるかもしれないと思ったシエラは、淡い期待を胸にテント越しに声をかける。
「すまないが中にいるなら出てきてくれ。聞いて欲しい話があるんだ」
 シエラにしては丁寧で控えめである。やややってテントの中からがさごそと人が動く音が聞こえた。そして現れたのは‥‥
「待たせたな。話ってなんだ?」
 金髪の美少女、ではなく美青年だった。しかもかなりきりりとした感じの。背も高く程よくがっしりとしていて、どう見てもドレスが似合うような体型ではなかった。がっくりと項垂れるシエラに男は怪訝そうな顔をみせる。
「どうした? もしや話すのも憚られる様な事なのか? 先に言っておくが、暗殺の類は受けられないぞ。騎士の名を汚す様な事は断じて出来ないからな」
 どうやら男は騎士らしい。言われてみればキャメロットでよく見かける騎士の出で立ちをしている。まじまじと男を見つめた後、妙案を閃いたシエラの耳が髪の毛の下でぴくぴくっと動いた。
(「そうだ、この男を相手役にして、後はギルドでヒロイン役を募集すればいいじゃないか!」)
 ヒロイン役をやらずに済む方法を思いつき、シエラに光明がさした。こほんと咳払いをすると、男に断られないように慎重に言葉を選んでいく。
「安心してくれ、そんなきな臭い依頼じゃない。村人の為に芝居の役者になって欲しいんだ」
「役者? 俺がか?」
 予想通りの反応だった。だがとりあえず話を聞いてくれそうである。
「ああ。お前が芝居に出てくれれば、老い先短い爺さんや婆さんは大喜びすると思う。人々に希望を与えるのも騎士の仕事だろ? 頼む、この通りだ!」
 意地っ張りで負けず嫌いなシエラは頭を下げて懇願する。そこまでしてでもヒロイン役をやりたくないと思っているのは事実だが、皆で芝居をするのを楽しみだという本音もある。何より体が弱くてあまり外の世界を知らないシルフィに喜んで欲しかった。
「‥‥わかった。今の時点では協力できるとは断言できないが、詳しい話を聞かせてくれないか?」
 シエラの真剣さが伝わったのか、男は優しい声音で曖昧ながらも返事を返してくれた。シエラは男に近寄り、握手を求める。
「ありがとう! あたしはシエラ。この近くにある村に住んでいる冒険者だ」
 男は笑顔でシエラの握手に応じながら、自らの名を名乗る。
「俺はフレッド。キャメロットで騎士をしている」
 シエラは上機嫌でフレッドを村へと案内する。しかし彼女はまだ知らない。この男がとんでもなく鈍感且つ空気が読めず、実の妹を過度に溺愛する危険人物である事を‥‥。

 モニカにお芝居について説明をさせると面倒な事になりそうなので、シエラはフレッドを自宅へと連れて行き、シルフィに詳細を説明してもらった。
「話は理解した。俺でよければ喜んで協力させてもらおう」
 爽やかな笑顔で快諾するフレッドに姉妹はほっと安心したような顔で見つめ合う。
 最近まで根を詰めて調べていた事が一段落したので、それまで寂しい想いをさせていた妹アリシアも連れて行きたいと言うフレッドの申し出を姉妹が断る理由はなかった。役者候補は一人でも多い方がいい。
「冒険者ギルドに依頼を出せば、役者さんは揃うかな? あっ、お芝居に出なくても準備を手伝ってくれる人も必要だよね」
 簡易でも構わないので舞台は必要だ。後は衣装や小道具、危険じゃなければ魔法で演出をしてもらえば一層盛り上がるだろう。
「ところで演目は決まっているのか?」
 フレッドの疑問にシルフィは瞳を輝かせる。
「はい! モニカさんたっての希望でラブロマンスです」
 シエラがヒロイン役をやりたがらないのは当たり前である。ちなみにラブシーンは外せないとの事だ。
「ふむ、恋愛ものか。‥‥恋とは何たるかを知るいい機会かもしれないな」
 フレッドの呟きを姉妹はさして気にも留めず、早速どんなストーリーにするのか話し合い始めるのだった。
 ‥‥お芝居とはいえ、波乱の予感がぷんぷんである。

●今回の参加者

 ea4267 ショコラ・フォンス(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb0529 シュヴァルツ・ヴァルト(21歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5267 シャルル・ファン(31歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ec3680 ディラン・バーン(32歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ec4461 マール・コンバラリア(22歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

●開演前
 シュヴァルツ・ヴァルト(eb0529)と共に客席の椅子を並び終えたフレッドは、ショコラ・フォンス(ea4267)の指揮で完成した舞台を見つめる。
 ロイエル家から持ち込んだカーテンを運んでくれたのはディラン・バーン(ec3680)だ。舞台の背景はチョコ・フォンス(ea5866)が一人で描き上げた。
 花の他にマール・コンバラリア(ec4461)が用意した衣装はセンスが良く、シャルル・ファン(eb5267)作曲の劇中曲は素晴らしかった。
 ちなみにフレッドが『アリシア』と言ってしまう危険性が高い為、役名は本名と同じにしてある。
 楽しそうに準備に励んでいた皆の笑顔を思い出し、フレッドは改めて友人の有り難さに感謝するのだった。
 間もなく、舞台の幕が上がる‥‥。

●第一幕 出会い
「確かこの近くに村があったはずだが‥‥」
 フレッドは花畑の中のアリシアへと近づき、小さな背中に声をかける。
「すみません。道をお尋ねしたいのですが」
 アリシアは花を摘む手を止め、ゆっくりと振り返った。
「「あっ‥‥」」
 さすが兄妹。感嘆の声も完璧にハモっている。
 恋の始まりを予感させるシャルルの美しい演奏が、無言で見つめ合う二人を包む。
「何をしているんだ?」
 アリシアの父親である村長ディランの声に、二人ははっと我に返った。
「早く帰るぞ」
「は、はい。お父様」
 ディランはフレッドを睨み付けると、アリシアの手を引っ張って歩き出す。
「何と美しい少女だろう。名さえ聞けないとは、情けない‥‥」 
「フレッド、ここにいたのか」
 ぎこちない動きで現れたのはフレッドの友人である男装の騎士シエラだ。その後方に控えているのは彼女に付き従う吟遊詩人のシャルルである。
「どうした? 呆けた顔をして」
「ああ、シエラか。実はつい先程、ここで美しい少女と出会ったんだ」
「‥‥下らん。私は先に行くぞ」
 フレッドの言葉に内心の動揺を隠しながら、シエラはその場を後にする。
「こんなに近くに気高く美しい華が咲いているというのに、それに気づかぬとは愚かな男です」
「ふ、ふん。お前は相変わらず口だけは上手いな」
 シャルルの台詞を真に受け、必要以上に頬を染める初心なシエラだった。
『運命的な出会いから始まったフレッドとアリシア、二人の恋。
 そしてフレッドに想いを寄せる男装の騎士シエラと、全てを知りながらも熱い想いを胸の内に秘める吟遊詩人のシャルル。
 様々な想いが絡み合い、二人の恋は波乱の幕開けを予感させるのでした』
 シルフィのナレーションに観客達は食い入る様に舞台を見つめていた。

●第二幕 脅迫
 物々しい演奏と共に、二人の盗賊を従えた女頭領チョコが姿を現した。
 妖艶姉御肌仕様なのはシルフィの案である。
「しけた村だね。金目の物はこれっぽっちかい」
「もう充分だろう? 出て行ってくれ!」
 村長ディランをチョコは氷の様な目で一瞥する。
「姉御、こいつの娘は中々の上玉だって噂ですぜ」
 盗賊の一人を演じるショコラが吹っ切れた様に見えるのは気のせいだろうか?
「そ、それだけは勘弁してくれ!!」
 土下座をして懇願するディランの頭を踏みつける女王さ‥‥もとい女頭領チョコ。
「爺さんの土下座なんて1Cにもならないんだよ。いいかい、三日以内に娘を差し出しな!」
「それはできん!」
「あんたに拒否権はない。要求を呑まなかったら村に火をつけるぞ」
 もう一人の盗賊を演じるシュヴァルツは可愛い顔を歪ませ、低い声でディランを脅す。
「一体どうしたらいいんだ‥‥」
 悔しげに呟き、地面を叩くディランだった。

●第三幕 短過ぎた蜜月
「ここに来れば会えるかもしれないと思ったのだが‥‥」
 一人花畑に佇むフレッドが俯いていた顔を上げると、そこには恋焦がれたアリシアの姿があった。
「ああ、俺は夢でも見ているのだろうか」
「夢ではございませんわ、騎士様」
 アリシアは花の様な笑顔を見せる。
「もう一度会いたいと思っていた。俺の名はフレッド。貴女の名を教えてもらえないだろうか?」
「アリシアと申します。私も同じ気持ちでした」
 そして再び、熱く見つめ合う二人。シャルルの演奏が雰囲気を盛り上げる。
『こうして二人は再会を果たし、次の日もこの花畑で逢瀬を重ねるのでした。
 しかし残酷にもアリシアの身柄を引き渡す約束の三日目が訪れようとしていました‥‥』
 鼻歌を口ずさみながら花束を作っていたアリシアの目の前に、盗賊達が現れる。
「あ、あなた方は誰ですか!?」
「さあね。いい子はねんねしな!」
「っ!!」
 ショコラは気絶させたアリシアを担ぎ、頭であるチョコの元へと戻っていく。
「た、大変! 早く追いかけなきゃ!!」
 大慌てで登場するのはアリシアの友人のマールだ。大袈裟な動作でくるくると飛び回った後、盗賊達が消えた方向へと飛び去っていく。
「何だ、これは‥‥」
 誰もいなくなった舞台にフレッドが現れ、足元に散らばった花に目を移す。
「もしやアリシアの身に何か!? ‥‥彼女の父親に会い、事情を説明せねば!」
 フレッドは落ちていた花を握り締め、ディランの家まで駆け出した。
 
●第四幕 救出
「何と言う事だ‥‥」
 フレッドの話を聞いたディランはアリシアが盗賊達に攫われたのだと悟った。
 助けに行こうにも場所がわからずに途方に暮れる二人。そこにマールが現れる。
「アリシアなら西の洞窟に連れて行かれたわ! お願い、彼女を助けてっ!」
「わかった!」
 フレッドは真っ青な顔で立ち尽くしているディランの手を取る。
「彼女はこの身に変えても助け出してみせます!」
「娘を、娘を頼む!」
 フレッドは力強く頷くと、マールと共に西の洞窟へと向かうのだった。

●嫌な予感
「順調過ぎですね‥‥」
 第五幕の合間、ショコラは不安げな顔で呟く。
「フレッドお兄さんが何かやらかさないか心配なの?」
 シュヴァルツの問いにショコラはこくんと頷いた。
「大丈夫。多少失敗したってわかんないって♪」
「ショコラお兄さんは心配性だなぁ」
 マールとシュヴァルツはショコラを明るく励ます。
 しかしこのまま順風満帆で終わる筈がなかった‥‥。

●第五幕 決闘
「アリシア! どこだっ!?」
 薄暗い洞窟の中を駆けるマールとフレッド。すると前方に盗賊達と囚われのアリシアの姿が!
「アリシアを離して!」
 勇敢に突進していくマールだったが‥‥
「ふん、煩い虫だね」
「きゃあっ!!」
 チョコの鞭で打たれ、気を失ってしまう。
「マール! 大丈夫か!?」
「一人でどう戦うつもりだい、坊や?」
 チョコはマールに駆け寄るフレッドを見下ろす。
「‥‥多勢に無勢とは見下げ果てた奴等だな」
「シエラ! 加勢に来てくれたのか?」
「ふん。友として当然だ」
 颯爽と登場するシエラに客席から拍手が巻き起こる。
「くっ! やっちまいな!!」
 チョコの合図に斬りかかって来る盗賊達。それを二人の騎士はあっさりとやっつけてしまう。
「使えない奴等だね! あたしが直々に相手してやるよ!」
「愛の力を得た俺は誰にも負けん!!」
 ここ一番の見せ場である。
 しかし舞台の僅かに浮き上がった板にフレッドは躓いてしまった。咄嗟に目の前にある布にしがみ付く。

 びりびりっ!

 布の破ける音に視線を上げると、そこには露になったチョコの脚線美がっ!
「きゃあぁぁぁ!!」
 甲高いチョコの悲鳴に客席の男性陣は色めき立ち、あちこちから「お色気しーんじゃ!」という声が上がる。
「す、すまない」
「見た? 見えた? 見たのね!?」
「うっ‥‥」
「正直に言いなさい!」
「‥‥み、見えた」
「フレッドのえっち! ばかぁーーー!!」
 真っ赤な顔で走り去る女頭領チョコ。慌ててシルフィがナレーションを入れる。
『あ、愛の力で戦わずしてアリシアを取り戻したフレッドでした‥‥』
 
●大団円
「危険な目に遭わせてすまなかった。もう二度と君を離したりはしない」
「フレッド様‥‥」
 手を取り見つめ合う二人。その場から静かに立ち去ろうとするシエラにシャルルが声をかける。
「いいのですか? 口にしなければ想いは伝わりませんよ」
「ふっ。潔く身を引くさ」
 徐にシャルルはシエラを背中からそっと抱きしめた。
「貴女を愛しています。この世の誰よりも」
「な、何を‥‥」
「あなた達も幸せに、ね♪」
 予想外のアドリブに戸惑うシエラ。その時、マールのサイコキネシスで頭上から大量の花が降り注ぐ。
 一瞬で美しい女性へと早変わりを果たしたシエラの姿に、観客達は感嘆の声を漏らす。
「さあ、ゆっくりと愛を語り合いましょう」
 歯の浮く様な台詞に顔を真っ赤にさせるシエラをエスコートし、シャルルは舞台から姿を消す。いよいよラブシーンである。
「生涯の愛を君に捧げよう。ずっと俺の側にいてくれないか?」
「はい、いつまでもお側に‥‥」
 震えるアリシアの肩をそっと抱き寄せると、フレッドは彼女に優しく口付けた。客席から大歓声が上がる。
「‥‥おでこか」
「彼らしいですね」
 ディランとシャルルは互いに顔を見合わせる。
 密かにアリシアに恋する役として登場しようと思っていたディランは、幸せそうに見つめ合う兄妹の姿に思い止まった。
(「二人は禁断の関係を望んでいるわけではなさそうですね」)
 シャルルは二人の気持ちを理解し、シュヴァルツと共に穏やかな愛の曲を奏で始める。
『苦難の末に結ばれたフレッドとアリシア。二人が離れる事は永遠にないでしょう』
 シルフィのナレーションが劇を締め括る。巻き起こる拍手に10人は笑顔で応えるのだった。
 
「ねえ、フレッド。どこか遠くに行ったりしないよね? アリシアを悲しませたらダメだからね!?」
 舞台の片付けの合間、チョコはフレッドに声をかける。
「何処にいても心はいつも共にある。寄り添っているだけでは守れないんだ」
 そう言い寂しげに微笑む姿に、チョコと彼女を呼びに来たショコラは無言で立ち尽くす。
 兄妹である二人には、他人事には思えなかった────。