【北海の悪夢】未知なる美味を求めて
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■ショートシナリオ
担当:綾海ルナ
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 3 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月21日〜10月27日
リプレイ公開日:2008年10月29日
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●オープニング
●再び荒れる北海
――先月のメルドンを強襲した大津波から約1ヶ月。
平穏な北海は再びモンスターの猛威に荒らされようとしていた。
このままでは貿易船が被害を被る可能性も否定できない。
アシュレイ・ゼルガートは調査の結果、幾つかのモンスターを確認しており、ギルドにモンスターの駆除を依頼に訪れた。
腰ほどまで長い黒髪と口髭が印象深い高貴そうな紳士が告げる。
「北海で確認されたモンスターはクラーケンだ。生息数は定かでないが1匹はいるだろうと推測される。冒険者諸君等に退治してもらいたい」
用件を受付係に伝えると、ふとギルドの掲示板に張られている依頼が視界に入る。
「ふむ、メルドン近海の依頼か。捜索を果たす為にもモンスターの駆除は必要だろう」
――行方不明の船長捜索。
モンスターがメルドン近海に移動すれば、捜索依頼にも支障が出るかもしれない。
海洋モンスターとはいえ、陸に上がれるタイプもいるのだ。
冒険者ギルドに北海の依頼がまた一枚貼られる事になる――――。
秋空の下、甲板掃除に勤しむ船乗りシミルに近づいてきた同僚は、明らかに浮かない顔色だった。
「また貨物船が沈められたらしいぜ。積荷も乗ってた奴等も海の底だとよ」
告げられた言葉にシミルは動かしていた手を止めて、暗い溜息をつく。
「今の北海は色んなモンスターが蔓延っているから、明日は我が身だな」
海上でどのモンスターに遭遇するかはわからない。
しかし危険だからと出港を取り止める事も出来ず、船乗り達の多くは死と隣り合わせの航海を続けていた。
「そういやさっき知り合いに会ったんだが、気になる事を言っていたな。クラーケンがどう、とか」
「クラーケン? 海に住む大蛸の事か?」
シミルの目がきらりと光る。
彼は船乗りとして海をこよなく愛しているのだが、それと同じくらい食べ物も愛しているのだ。
モンスターとは言え食べられそうな気配のするクラーケンに、以前から並々ならぬ興味を抱いていた。
「ああ。そいつの船がクラーケンに沈められたんだ。命からがら泳いで逃げて何とか助かったらしいが、あのでかさは尋常じゃないって言ってたぜ」
その大きさは足を広げれば20メートル程。小さな船より優に大きい。
「‥‥お前の知り合い、悔しがってるよな?」
「そりゃそうだろ。命あっての物種とは言え、船も積荷もなくなっちまったからな」
シミルは同僚の肩をガシッと掴み、キラキラと輝く瞳で微笑んだ。
「俺がクラーケンを倒して、お前の知り合いの敵をとってやる!」
「へっ?」
「とは言っても俺1人じゃどうにもならないからな。冒険者ギルドで同志を募ってみるよ。まあ俺に任せておけ!」
突然の宣言に呆気に取られる同僚を残し、早速シミルはシフール便で依頼を出すのだった。
●リプレイ本文
●泡と消えた下心
何処までも続くような青空と、深い青色の海。
その中を航海する1隻の船には、8人の冒険者と依頼人である船乗りシミルが乗っていた。
「ふう、やっと完了です」
シエラ・クライン(ea0071)は額の汗を拭うと、戦闘での仲間の立ち位置に基づいて帆柱に設置された縄梯子を満足げに見つめる。
「お疲れ様です。これで船が傾いても腕を絡めるだけで踏ん張れますね」
セフィード・ウェバー(ec3246)はシエラに笑顔で水を渡す。
「もしもの時の為に浮き袋代わりになる空き樽も用意しました。着替えもばっちりです」
「シエラは頼もしいですね」
ほんわかとしたシエラにセフィは微笑む。
「海の流通を脅かす不届き者め‥‥一刻も早く取り除かねば」
一方、尾花満(ea5322)は舳先で険しい表情で海原を見つめていた。
「クラーケン‥‥鯨なら相手したこと有るんだけどね〜」
その傍らでそう呟くのは満の妻フレイア・ヴォルフ(ea6557)だ。
クラーケンの弱点は頭だと予想していたフレイアだが、写本「海の魔物」にそのような記述は見当たらなかった。
皆で話し合った結果、空中・船上・水中の3方向から同時攻撃を仕掛けるのが最良だという結論に落ち着いたのだ。
「私達は船がなければ海上の移動すらままならないのですから、水棲型の魔物はかなりの脅威と言えます。気を引き締めなければなりませんね」
リースフィア・エルスリード(eb2745)そう言った後、ふと隣にいる磯城弥魁厳(eb5249)に視線を移す。
「あ、魁厳さんは水の中でも自在に動けるのでしたね。私達と一緒にしてしまい、申し訳ありません」
「気にせんでいい。水中からの攻撃は任せてくれ」
ぺこっと頭を下げる礼儀正しいリースフィアに、魁厳は目を細めて微笑む。
シルヴィア・クロスロード(eb3671)は鼻歌を歌いながら舵を取るシミルに近づく。
彼女が事前に情報収集したお陰で、クラーケンの出没海域と攻撃手段、そして現れたのは1匹だと判明している。
「シミル殿、友の仇も食の追及も尊重しますが、前に出るなど危ないことはしないで下さいね。いざと言う時は自分の身を守る事を優先して下さい」
「あ、ああ‥‥」
にこっと微笑むシルヴィアにシミルの顔が見る見る赤くなっていく。
「惚れんなよ? あいつには好きな男がいるからさ」
シルヴィアが去った後、キット・ファゼータ(ea2307)はシミルに耳打ちする。
「そ、そうなのか!?」
「ああ。ちなみにフレイアは満の奥さん、シエラはぽえぽえ、リースフィアに至っては相手にされないだろうな」
キットの言葉に恋の予感を期待していたシミルはがっくりと項垂れるのだった。
●海原の決戦
翌日、クラーケンとの邂逅は唐突に訪れた。
海に飛び込み索敵を行い、海底で蠢く1匹のクラーケンを姿を発見した魁厳が急いで船へと戻ったその刹那。
海面から巨大な足が数本現れたのである。
水飛沫と共に海面が揺らぐ。
セフィは急ぎホーリーフィールドを唱え、船を結界で包み込んだ。
それに続きシエラは船上の仲間にフレイムエリベイションをかけていく。
「でけぇ! 足1本で30人前は作れるぜ!」
「ったく暢気な奴だな。ま、俺が守ってやるから安心しな」
キットはシニカルな笑みを浮かべると、シミルの前に立ち塞がる。
次の瞬間に放たれた2連撃のソニックブームの衝撃波にクラーケンの足が弾かれた。
「アイオーン、行きますよ!」
槍を構えたリースフィアはペガサスに声をかけると空中から急降下し、クラーケンの足にチャージングをお見舞いする。
「‥‥手応えはあまりありませんね」
急ぎ離脱する彼女に伝わったのは、槍先がクラーケンの体液でぬるりと滑った感触。
だが怯む事無く一撃離脱の攻撃を繰り返していく。
「やあっ!」
同じく空中でペガサスに跨るシルヴィアは、レミエラ付与した剣で射程範囲ギリギリからソニックブームを放つ。
真空刃を食らったクラーケンの足が苦痛に蠢く。
「フレイアには指一本‥‥いや、この場合は足1本か? とにかく触れさせん!」
船に近づきつつあるクラーケンの足を、満は槍と短刀で素早く切りつけていく。
やはりぬめりで手応えは少ないものの、ダメージは確実に蓄積しているようである。
「いつまでも隠れてないで、とっとと海から出てきな!」
満の後方でフレイアは弓を連射していく。
彼女は頭が出てくれば真っ先に目を射抜こうと思っていた。
「これなら皆に被害は出ません!」
シエラはウォーターボムのスクロールでクラーケンに水球をぶつけ続ける。
そして水中では魁厳が攻撃を仕掛けてくる足をかわしながら、微塵隠れの術で確実にダメージを与えていた。
勿論、船に影響が出ないように考慮しての攻撃である。
3方向からの連携攻撃を仕掛けてから十数分後、怒りに震えるクラーケンが海上にその姿を現した。
大きなうねりに船が揺さぶられ、船上にいる者は放り出されない様に急いで縄梯子にしがみ付く。
クラーケンの頭の大きさは全員の想像の域を大きく逸脱していた。
この巨体が取り付いたら、船は一溜りもないだろう。
「セフィード、頼む!」
キットの叫びにセフィは頷くと、コアギュレイトでクラーケンの動きを封じ込める。
船に向けて振り下ろされようとしていた足が空中でその動きを止める。
「6分間しか持ちません。皆さん、それまでにお願いします!」
全員は「お安い御用だ」とばかりに微笑む。
「狙うは胴体です!」
動きが止まればどんな強敵も恐るるに足りない。
リースフィアのスマッシュEXとチャージングが決まり、槍先がぬめる胴体に深々と突き刺さった。
「私も負けてはいられませんね!」
シルヴィアはスマッシュで剣を振り下ろし、同じく胴体を切り裂く。
「蛸殴りだが悪く思うなよ!」
「それって洒落? ‥‥ま、いっか。くらいなっ!」
クラーケンの右目をキットの攻撃が、左目をフレイアの矢が襲う。
「そろそろ‥‥終わりと致そう!」
「これで終いじゃ!」
船上では水中から戻ってきた魁厳と満が交互にクラーケンの眉間に攻撃を叩き込んでいった。
やがて割れた眉間から体液が噴き出し、クラーケンは動きを封じられたまま絶命した。
「‥‥すげぇ。これが冒険者の実力か」
呆然と立ち尽くすシミルの呟きを耳にした魁厳はにっと唇の端を上げて微笑んだ。
●蛸三昧
無事にクラーケンを退治した一行は港に戻り、シミルの船乗り仲間も招いてささやかな夕食会を開く事となった。
「それにしても勿体無かったな。でか過ぎて足1本と頭をちょこっとしか持って帰れないなんて」
シミルは『包丁侍』こと満の指導の下、クラーケンの足のぬめりを落としながら残念そうに溜息を付く。
「仕方ありませんよ。あれだけの大物はあの船じゃ引いて帰れませんでしたから」
セフィはシミルと同じ作業をしながら、再びクラーケンの大きさを思い出す。
「悔やんでも仕方ない。満殿の料理を楽しみに致そう」
食通のシミルが持っていた味噌で味噌汁を作る魁厳はそう諭す。
「何やら尾花さんやシミルさんがクラーケンを食べるとか言っていますが‥‥私の希望は刺身ですね。鮮度が命と聞いています」
「冒険者さん以外にもクラーケンを食べようと思う方がいたのですね。ですがいつも美味しいご飯を作ってくれる尾花殿の料理は楽しみです♪」
すっかり食べる気のリースフィアとシルヴィアは仲良く食器の準備や指示された調味料を運んだりしていた。
「満〜、お米予備有ったっけ? 蛸飯が食べたいんだけど」
「あるにはあるがこの人数分は作れないぞ」
うーんと首を捻るフレイアと満にシミルが声をかける。
「俺んちに買い溜めした米がある。持ってくるから使ってくれ」
そう言い駆け出す後姿に2人は微笑み合うのだった。
楽しそうに料理する皆を遠巻きに見守ってるシエラはふうと息を吐く。
「ジャパンの方では烏賊や蛸も食べるらしいですけど、流石にクラーケンを食べたりはしないでしょうし‥‥。食べられるなら、まあ珍しい食材には違いないでしょうけど‥‥」
独り言を呟く彼女に声をかけるのはキットだ。
「そう不安がらずに食ってみろよ。案外いけるかもしれないぜ?」
「‥‥お腹、壊しません?」
「それは食ってみないとわからないな。心配すんなよ。それぐらいじゃ死なないって」
無責任な言葉にシエラはじと目でキットを睨みつけるのだった。
しかし‥‥
「おいしい! さっきのマリネもですけど、蛸の旨みが染み出した煮物も絶品です!」
数刻後、シエラは誰よりも蛸料理に舌鼓を打っていた。
「魁厳さんのお味噌汁、出汁が効いていてとってもおいしいです」
「ジャパン料理が口にあって何よりじゃ」
目を輝かせるシルヴィアに魁厳はほっと胸を撫で下ろす。
「やや大味ですが鮮度がいいので問題ないですね」
「前は生物は口にしないようにと思っていましたが、最近は自身で手を下した以上は供養の意とし感謝して頂きます」
念願の刺身をぱくぱくと食べ進めるのリースフィアと、塩焼きをはむはむしながら高尚な事を口にするセフィはすっかり蛸料理に夢中である。
「ん〜、満の料理は最高だね!」
「新しい食材に挑戦し続けるのは料理人の務めだ」
「あんたと結婚して本当に良かったよ」
フレイアはそう言うと、満の頬にお礼のキスをする。
「な、なっ! 人前だぞっ!?」
真っ赤になる満に全員から笑い声が起こる。
「カムシン、食うか?」
キットの問いにカムシンは一鳴きすると、差し出された蛸の刺身嬉しそうに食べ始めた。
「海の平和も守れてこんなに美味い物が食べられるのはあんた達のお陰だ。また頼むぜ」
「まだまだ居るかも知れないね。美食の為にまた頑張ろうか!」
フレイアの掛け声に明るい笑い声が巻き起こり、楽しい夜は更けていった────。