【儚き双珠】魅惑のきのこ狩り
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■ショートシナリオ
担当:綾海ルナ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月13日〜11月17日
リプレイ公開日:2008年11月19日
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●オープニング
朝夕の空気は凛と張り詰め、冬の匂いが深まってきた。
しかし、食欲の秋はまだまだ終わらない。
シエラとシルフィが住む村から少し離れた森の中を歩く男女2人は、朝早くから秋の味覚を求めて歩き回っていた。
「この季節のきのこは美味しいのよ。帰ったらきのこ料理を作ってあげるからね」
「はい、楽しみです」
隣を歩く女性の言葉ににこっと人の良さそうな笑みを浮かべるのは、姉妹と同じ村に住むルイスという青年。彼は温和で人当たりが良く、村中の皆から好かれている。
ルイスは女性に頼まれて一緒にきのこ狩りに来ていた。
この森にモンスターはいないが、彼は万が一の時に備え、周囲に気を配りながら歩を進める。
それを悟られない様に笑顔で女性と会話をしながら。
「見えてきたわ。あそこがきのこ狩りポイントよ」
女性は大きな木を見つけると、逸る気持ちを抑えられずそこへ歩き出す。
とその時、女性の足が落ち葉の下に隠れた細い根の様な物を踏ん付けた。
────次の瞬間、耳を劈く様な叫び声が森の中に木霊する。
何とも形容し難いその声に、2人の心は恐怖と嫌悪感で満たされて行く。
「何ですか、この叫び声は‥‥」
「今年はここに出たのね。あそこ、見える?」
ルイスの問いに女性は、こんもりとした腐葉土の山の上に生える毒々しい物体を指差す。
「あれは‥‥もしかしてきのこですか?」
「ええ、スクリーマーって言うきのこのモンスターらしいわ。これを踏ん付けるといきなり叫びだすのよ」
女性はそう言うと、自らの足の下にある細い根に視線を移す。
ルイスがそれを見つけた事を確認した後、女性はそこからそっと足を外した。
「‥‥鳴き止みましたね」
先程までの五月蝿さが嘘の様に、森はしんと静まり返る。
「よりによってあそこに菌糸を張り巡らせるなんて。きのこが採れないじゃない」
女性は悲しそうな目でルイスを見つめる。
「うちのお爺ちゃん、もう長くは生きられないみたい。だから今年は絶対にきのこ料理を食べさせてあげたいの」
「そうでしたか‥‥」
「でも無理ね。あの叫び声の中にずっといたら頭がおかしくなるわ。ルイスさんにこれ以上迷惑をかけられないもの」
力なく微笑む女性にルイスはかける言葉が見つからなかった。
「さあ、帰りましょ。他のおいしい料理を作ればお爺ちゃんも喜んでくれるわ」
努めて明るく振舞う女性の姿に、ルイスは唇を噛み締める。
お世話になった彼女の祖父に自分は何も出来ないのかと、彼の心は悔しさでいっぱいだった。
きのこ狩りから帰ってきた数日後、ルイスは姉妹の家を訪れていた。
「あの優しいお爺ちゃんが‥‥何とかならないのかな」
ルイスから話を聞いたシルフィは悲しげな顔で瞳を伏せる。
「動かないきのことは言え、モンスターに変わりはありません。試しに1人で森に入って倒せないかと挑んでみたのですが‥‥」
「その様子じゃダメだった、って事だな。ふん、男の癖に情けない奴だ」
冷たく言い放つシエラをシルフィはキッと睨みつける。
「お姉ちゃん、ルイスお兄ちゃんは冒険者じゃないんだよ? 倒せなくて当たり前じゃない!」
優しく何かと自分達を気にかけてくれるルイスを、シルフィは兄の様に慕っていた。
「いえ、僕が悪いんです。殴っている内にあの叫び声で気を失いそうになりましたから。シエラさんにそう言われても仕方ありませんよ」
ぷくっと頬を膨らませるシルフィと、貶されているのに怒ろうとしないルイスの顔をシエラは交互に見つめる。
「ったくお前は調子狂うな。で、あたしにそのきのこを倒して欲しいって言うんだろ?」
「はい。引き受けて下さるのですか?」
「報酬次第だな。言っとくがあたしは安い仕事はしないぞ」
にやりと笑うシエラの頭をシルフィは涙目でぽかりと殴る。
「いてっ!」
「お姉ちゃんのアコギ! 守銭奴!」
「お、おいシルフィ‥‥」
「お姉ちゃんは意地っ張りで口が悪くて、そのくせ気持ち悪いものに気絶しちゃうヘタレさんだけど、こんなに意地悪だとは思わなかった!」
「なっ、何だよ、それ‥‥」
酷い事を言われつつも、シルフィに弱いシエラは、泣き出す彼女にどうしていいかわからずにおろおろしている。
なのでさりげなくルイスの前で弱点を暴露された事には気づいていなかった。
微笑ましいやり取りにルイスはくすっと笑みを漏らす。
「依頼をするからには報酬を払うのは当たり前です。それなりの持ち合わせもありますから、心配しないで下さい」
「でも‥‥」
「それにタダで働いてもらったら次にお願いし辛くなりますから、僕もお支払いはちゃんとしたいと思っています」
ルイスはシルフィにふわっと雲の様な優しい笑顔を見せた後、シエラに向き直る。
「シエラさん、報酬の提示をお願いできますか?」
ひしひしと『あんまり高くしたら絶交だからね!』というシルフィの視線を感じながら、シエラは口を開く。
「報酬は‥‥‥‥きのこ料理だ」
偉そうに言い放つシエラの言葉に暫し時が止まる。
「えっ?」
「きのこ料理、ですか?」
ぽかんとする2人にシエラは微かに頬を染める。
「そうだ。でもただのきのこ料理じゃないぞ。あくまでも『旨いきのこ料理』だからな。お前は料理も出来るんだろう?」
「え、ええ。人様に食べて頂く程度の料理は作れると思いますが‥‥」
「その謙遜が鼻に付くんだよ! とにかく、美味く調理しろ。スクリーマーもだぞ!」
苛立たしげに頭を掻き毟るシエラの口から出た名前に、シルフィとルイスは顔を見合わせる。
「お姉ちゃん、そのきのこっておいしいの?」
食べられるのかと聞かない辺りが、さすがげてもの好きシスターズの一員である。
「不味くはないらしいぞ。食ってみたくないか?」
「うん、食べてみたい!」
「大変興味深いですね。モンスターを食するだなんて初めての経験です」
一般人ながらこう答えるルイスも中々の大物である。
「ねえねえ、せっかくだから冒険者の人達も誘ってみようよ。人数が多い方がきっと楽しいよ」
「そうだな。飯は大勢で食う方が美味い」
「決まりですね。ギルドへの依頼は僕が出しておきます」
にこにこと笑うルイスにシエラは呆れた顔で溜息を付く。
「へらへらしやがって。その報酬もお前が支払うんだぞ?」
「勿論。何も問題はありませんよ」
シエラの悪態に動じる事無く、ルイスは温和な笑顔のままで頷く。
こうして姉妹とルイス、そして冒険者によるきのこ狩りの旅が始まろうとしていた。
●リプレイ本文
●乙女と保護者2人
きのこ狩りの朝。
村の入り口ではすっかり恒例となった光景が繰り広げられていた。
「シエラさんとシルフィちゃん、お久しぶり〜〜!!」
ポニーテールを揺らして姉妹に抱きついているのは、元気一杯なミリア・タッフタート(ec4163)だ。
「美味しいきのこをいっぱい食べようね〜♪ あ、シルフィちゃんは暖かい格好してるかな? 無理しちゃダメだよー」
「はい、大丈夫です」
「ったく朝から騒々しいな」
ほんわかとしたシルフィの笑顔と少しだけ意地悪なシエラの笑顔を見比べた後、ミリアは2人に抱きつく手に力を込めた。
「キノコやキノコ。鍋に炒め物、焼いて食うのも旨そうやな」
3人の隣でヨーコ・オールビー(ec4989)は夢見る表情で涎をじゅるりと啜る。
「そうねぇ。まずは焼いただけで他のきのこと食べ比べてみたいな。その後はシチューでも良いし、卵と一緒に炒めても美味しそう♪」
マール・コンバラリア(ec4461)の言葉にリューリィ・リン(ec4929)は可愛らしく首を傾げる。
「食べ比べるって、きのこと何を?」
「んもう、スクリーマーに決まってるじゃない。どんな味か楽しみよね」
嬉々としてげてもの好きシスターズっぷりを発揮するマールに、リューリィは顔を引き攣らせる。
「あ、あはは‥‥りょ、料理はあたしに任せてね。腕にちょこっと自信があるの。この時期だったら体もあったまるし、シチューかスープが王道ね」
「はいはーい! ミリア試食しまーっす! 美味しい物なら大歓迎だよ♪」
「味オンチがよく言うよ‥‥」
勢い良く挙手するミリアにシエラは皮肉と共に溜息を吐く。
「食いしん坊だからって、皆の分まで食べちゃわないでよ?」
「そうなん? 独り占めはあかんでー?」
マールの言葉を真に受けたヨーコはシエラをジト目で見つめる。
「女性が多いと賑やかで良いですね」
ルイスは真っ赤な顔でマールを追いかけて回るシエラを温かい目で見つめながら、唯一の男性冒険者ルーウィン・ルクレール(ea1364)に微笑みかけた。
「そうですね。でも油断しないでおきますか。一応はモンスター退治ですし」
上品な顔立ちでクールな発言をするルーウィンだが、しっかりと可愛らしい耳あてを装着していた。
スクリーマーの騒音対策にとミリアが用意したのである。
きゃいきゃいと騒ぎながら出発する乙女達を見守りながら、男性2人は押し付けられた荷物を背負って最後尾を歩き出した。
●極彩色のアイツ
「ふわふわで温くてええなあ。早まった事せえへんでよかったわ」
すっかり耳あてがお気に入りのヨーコが『騒音対策に蝋で耳を塞ぐ』と言い出した時、全員は凍りついたのは言うまでもない。
ついでにシエラが実験台にされそうになったのもお約束である。
「きのこはっけーん! あ、あっちにもある! あそこにもっ! 誰が一番たくさん採れるか競争だよ〜〜!!」
ミリアは嬉しそうにきのこをぶちぶちと引っこ抜いていく。
来られなかった仲間へのお土産にする為、お持ち帰り様の袋も持参済だ。
「包丁で綺麗に整えれば見た目も大丈夫よ。一緒に頑張りましょ?」
ミリアの行動に苦笑するルイスをリューリィはにこっと笑顔で励ます。
「ん? 何だあれは‥‥」
ルイスから聞いたスクリーマーの生えている地点に近づいた時、毒々しい色の何かが一同の目に映る。
「あれがスクリーマーです。派手な色ですよね」
ふんわりとした微笑みを浮かべるルイスに全員の視線が集まる。
「‥‥ルイスお兄ちゃん、ああゆう色だって知ってたんだよね?」
「ええ。間近で見るともっと凄いですよ」
「あんな気色悪い色のきのこが食えるかっ! どうして先に教えなかったんだよ! 寧ろ食いたいって言った時に止めろよな!」
既に顔色の悪いシエラは大声でルイスを責める。
「見た目だけで判断してはいけませんよ。思わぬ珍味と言う可能性もありますから」
にっこりと微笑むルイスに全員の肩から力が抜けていく。
「ルイスさんって大物かも‥‥」
リューリィの呟きに全員は大きく頷くのだった。
「とにかく菌糸を踏んだら大変よね。ちょっと調べてくるわ」
マールはひらひらとスクリーマーの近くまで飛んでいく。
彼女が帰ってくるまで、それぞれはさらなる防音対策に持ち寄った物を耳に詰めていく。
「ここからこっちは大丈夫よー。早く退治しちゃってねー!」
手を振るマールの傍へ全員はサクサクと落ち葉を踏みしめながら歩き出す。
「まずはあたしが毛布を被せてみるね」
リューリィは自分の体重と同じ重さの毛布を抱え、よろよろしながらも懸命にスクリーマーへと飛んでいく。
ぽふっと優しく毛布を被せたのが幸いし、叫び声が上がる事は無かった。
「この地形やと橋作るよりマールはんに頼んだ方がええな。お願いできるやろか?」
ヨーコの言葉にマールは笑顔で答えると、プラントコントロールを唱え始める。
「はい、完成♪」
数分後、木の根っこで出来た橋が姿を現した。
「おおきに。まあ噛み付いてくるわけやないし、あまりびくびくせずにチャッチャといったろ」
木の橋を駆け上がると、ヨーコはスクリーマーにそっと毛布を被せていく。
「ルイスさんはシルフィちゃんと下がっててね。シエラさんは一緒にGOGO!!」
「あたしは犬じゃないっ!」
シエラの苦言を無邪気な笑顔でスルーしたミリアは、2人を安全な場所に下がらせると菌糸の範囲外からシューティングPAEXでスクリーマーを攻撃していく。
毛布の上からぷすぷすと矢が刺さる様は悲哀に満ちていると言えなくもない。
「皆、がんばれー!」
サイコキネシスで毛布を巻きつけ終えたマールは、まるで人事の様に応援している。
「‥‥ありがと、マールさん」
「私達を背中に守ってくれてるんですよね。貴女は優しい人です」
背後から聞こえた声にマールは少しだけ驚いた顔を見せる。
でもそれは一瞬の事。
「意外と鋭いのね。依頼人を守るのもお仕事の内よ」
そう言い見せる小悪魔ウインクはいつもと変わらなかった。
「叫び声が無ければあっけないですね」
木の橋の上からスクリーマーを倒し終えたルーウィンは物足りなさ気に呟く。
「こっちも倒したよ!」
ミリアは攻撃の手を止め、矢の重みで傾いているスクリーマーを見つめる。
「後はコイツだけだな! って、な、何だ!?」
シエラが残りのスクリーマーを切り付けようとした時、橋を形作る木の根っこが先端から解けて行く。
「言い忘れてたけど6分しか持たないの、それ」
「それを早く言えよ! う、うわぁーっ!!」
マールに文句を言いながら、足場を失ったシエラは地面に落下する。
そしてそのお尻が菌糸を下敷きにしてしまった。
その瞬間、森に大きな叫び声が響き渡る。
「きゃっ!」
耳を塞いでしゃがみ込むシルフィを、ルイスはマールごと抱きしめる。
ヨーコの愛犬テオはモンスターが近づいてこないか周囲に目を光らせていた。
「こうなったらやるしかないわね。リシェル、頼んだわよ!」
リューリィの命令に、それまで菌糸の外で待機していたジャイアントパイソンのリシェルはスクリーマーに近づき、締め付け始める。
そこにミリアの矢が次々と突き刺さり、スクリーマーは沈黙した。
訪れた静寂に暫し呆けた後、一同は笑顔でお互いの顔を見合わせる。
「きのこ狩り終了ですね」
ホッとした様なルーウィンに誰もが頷き、袋の中にスクリーマーを詰め込んで村へと戻るのだった。
●きのこフィーバー
村で開かれているささやかなきのパーティーは、食欲をそそるよい香りと幸せな笑い声に満ちていた。
「‥‥旨い。何年でも生きられそうな気がしてきたよ」
年老いた男性は涙を浮かべながら、きのこ料理を夢中で頬張っていた。
「あんなに食べるおじいちゃんを見たの何年振りかしら。本当にありがとう」
女性は嬉し涙の浮かぶ顔で冒険者達に礼を言うと、深々と頭を下げた。
「旨い飯食って楽しゅう笑えば世の中万事オッケーや。さ、明るいのいくで〜♪」
ヨーコは弾ける様な笑顔を見せると、皆が楽しい一時を過ごせる様にと想いを込めてメロディーを唱える。
「シチューが出来ましたよ」
立ち上る湯気と共にルイスが料理を運んできた。
「わー、ルイスさんすごーい! 美味しいお料理大好き〜♪」
「相変わらず食う専門だな」
ほこほことした笑顔を浮かべるミリアに皮肉を込めるシエラ。
「‥‥自分だって同じくせに」
マールはきのこを使った卵料理を食べながらくすりと微笑む。
「何か言ったか?」
「いいえ、何も」
しれっと答えるマールにシエラが何かを言おうとした時、リューリィとシルフィが新たなきのこ料理を手に姿を現した。
「スクリーマー入りスープよ。アクセントとしてそのまま入れてみたの」
透き通るスープに浮かぶ色取り取りの野菜と、鮮やかなアイツ‥‥味は抜群だろうが、食べるには勇気がいる。
「おーし、うちがいったる! 自慢やないが食べるのが専門や。好き嫌いなく何でも食うで!」
チャレンジャーなヨーコの感想を誰もが固唾を飲んで見守る。
そして‥‥
「旨いわー! そこらのきのこよりいけんで?」
ぱくぱくと食べ進めるヨーコにリューリィとシルフィは微笑み合う。
「皆で食べる食事は美味しいですね」
ルイスの問いかけにルーウィンはふっと微笑む。
「会わない間、2人は何してたの? 皆も色々あったんだよ〜!」
弓の腕前が上がったと嬉しそうに報告するミリアに、姉妹も近況を話し出す。
「あたしは依頼三昧だったな」
「私は小物を作ってました。またお店をやってみたくて‥‥」
「依頼? お店? その話、詳しく聞かせて欲しいな」
リューリィは2人に可愛らしくおねだりをする。
楽しく幸せな時間は夜遅くまで続き、冬を前に皆の心はぽかぽかと温まったのだった────。