【デビルの傷痕】絶望の糸を断ち切る者達

■イベントシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 13 C

参加人数:27人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月11日〜12月11日

リプレイ公開日:2008年12月18日

●オープニング

 
 イギリス王国がデビルとの戦いに立ち上がってから数週間。
 各地に配置された王宮騎士や冒険者達の働きによって、現れたデビル達は確実に討ち取られている。
 だがその努力をあざ笑うかの様に、謎の月道からデビルの軍勢は随時進軍してきていた。
 そして、悲しい事に救えなかった命も決して少なくはない。
 そこに住む者以外は存在を知らない様な、ひっそりとした場所にある小さなこの村もデビルの襲撃に遭ってしまった。
 予想もしなかった突然の出来事に、成す術も無く逃げ惑うだけだった村人達。
 悲劇は様々な形で彼等に襲い掛かった。
 
 村を守ろうと必死でデビルに立ち向かった男性。
 逃げ切れずに恐怖の内に命を落とした若い女性。
 失われた尊い命もあれば、大事な人を亡くして深い絶望の中に佇む者もいる。 
 自分を庇った親を目の前で亡くした幼い子供。
 長年連れ添った妻を失った老人。

 遺された者と遺して逝く者。
 2つの悲しみに村は打ちひしがれていた。
 だがこの村を襲う悲劇はこれで終わらない。
 デビル達が去った後、今度は村人が次々と鳥に姿を変えてしまうという事態が起こったのだ。
 1度は鳥に姿になったものの、奇跡的に元の姿に戻った子供は、アンドロアルフェスというデビルの仕業だと言っている。
 何故か自分はそのデビルに気に入られ、元に戻れたのだとも。
 だが彼が幸運なだけで、村人が鳥に変えられる悲劇が終わったわけではなかった。
 アンドロアルフェスを倒さなければ、姿を変えられた村人は鳥のまま生きていかなければならない。
 加えて、その配下のグレムリンの存在も厄介だ。
 襲ってくる事は少ないが、害のある悪戯で人を傷つけたり、物を破壊して回っている。
 彼等のせいで村人の精神は確実に磨り減っているのだ。
 
 そしてデビルの襲撃が齎した目に見える傷痕も大きい。
 辛うじて住めるものの修理が必要ない家、倒壊しかけていてとても住めそうにない家、炎を操るデビルによって全焼した家もある。
 程度は違えど、このままでは冬を越す事は無理だろう。
 未だ終わらない絶望の中にある村で、冒険者達には多くの事が求められている。


●選択肢
必ずいずれかに沿った行動を取る事。

1・村の復旧、村人の心身を救う(レベル不問)
2・グレムリンを退治する(Lv1から可能。ただし駆け出し冒険者は無理をしない事)
3・アンドロアルフェスを倒す(11Lv以上推奨)

●今回の参加者

マナウス・ドラッケン(ea0021)/ 巴 渓(ea0167)/ ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ ルーウィン・ルクレール(ea1364)/ 暮空 銅鑼衛門(ea1467)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ エリンティア・フューゲル(ea3868)/ 尾花 満(ea5322)/ 鹿角 椛(ea6333)/ フレイア・ヴォルフ(ea6557)/ マックス・アームストロング(ea6970)/ 水鳥 八雲(ea8794)/ ミュール・マードリック(ea9285)/ 桜葉 紫苑(eb2282)/ リースフィア・エルスリード(eb2745)/ 藤村 凪(eb3310)/ シルヴィア・クロスロード(eb3671)/ クリステル・シャルダン(eb3862)/ 黄桜 喜八(eb5347)/ ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)/ フィー・クライス(eb5554)/ レア・クラウス(eb8226)/ 雷 真水(eb9215)/ 瀬崎 鐶(ec0097)/ ヒルケイプ・リーツ(ec1007)/ ミリア・タッフタート(ec4163)/ ジルベール・ダリエ(ec5609

●リプレイ本文

●訪れた救いの光達
 冒険者達が訪れた村の現状は散々たるものだった。
 ひっそりと静まり返った村の中で響くのは、修復の為に釘を打つ無機質な音と子供の泣き喚く声。
 そして無数の鳥達の悲しげな鳴き声が、冬の空に吸い込まれる様に消えていく。
「つい最近まで皆平穏に暮らしとったやろに。やりきれんなぁ‥‥」
 眉を顰めて村全体を見渡すジルベール・ダリエ(ec5609)の目に映るのは、修理が必要な数々の家達。このままでは村人は寒さを乗越えられず、最悪の場合は凍死してしまうだろう。
 ジルベールは連れてきた愛馬の背に崩れ落ちた木材や、もはや元が何だったのか解らないほど黒焦げになってしまった物を拾っては積んでいく。
「テントと毛布を用意しました。外で寝ている人は遠慮なく使って下さい」
 リースフィア・エルスリード(eb2745)はペガサスに乗って上空から村を見回りながら、寒空の下で過ごす人達に声をかけていく。
 安全に休める場所がなくては体力が回復せず、村の復興もままならないと彼女は思っていた。
「もう大丈夫ですよ。私達に任せて下さいね」
 瞳を細めて優しい笑顔を見せるリースフィアに、若者の1人が声をかける。
「あんた、もしかしてペガサスに乗って戦う女性騎士のリースフィアか?」
「ええ、そうですけれども‥‥」
「俺、あんたの話を前にここに来た旅人から聞いた事があるんだ。有名人が助けに来てくれただなんて心強いぜ!」
 若者の言葉に周りにいた村人達は、まるで救世主を見る様な瞳でリースフィアを見つめる。
 自分の名声が村人達を安心させる役に立てればと思っていた彼女の想いは、予想以上の効果の様だ。
「‥‥よし、それでは炊き出しの準備に入ると致そうか」
 村の若者から有志を募って警備を行っていた尾花満(ea5322)は、火事場泥棒がいない事に安堵の息を漏らす。
 ジルベールと協力しての瓦礫の撤去作業も一段落し、少し遅い昼食作りに取り掛かる事にしたのだが‥‥。
「向こうでグレムリンやアンドロアルフェスと戦っている冒険者達がいるけど、本当に大丈夫なのか?」
「相手はデビルだもんなぁ」
 不安そうな若者達に満は自信に満ちた顔で微笑む。
「あの悪魔を相手にしているのは、名だたる実力者達だ。拙者が腕は保証いたす。悪い結果にはならぬよ」
 仲間への絶対の信頼を口にする満に、若者達は安心した様に顔を見合わせる。
「腹が減っては戦はできぬであるし、村の復興もままならないでござる〜。ミーも炊き出しのお手伝いをするでござるよ」 
 暮空銅鑼衛門(ea1467)はがさごそとバックパックを漁り、そこから使えそうな物を村人達に貸し出していく。
「あたしも炊き出しをしようかね。人間メシさえあれば大抵のことはなんとかなるもんさ」
 遥々ジャパンから訪れた雷真水(eb9215)は、にこっと魅力的な笑顔を見せる。
 満の持参した小麦や野菜で、炊き出し班の3人は温かい煮込み料理を作っていく。
「この状態じゃ仕方ないけど、もう跡形もなく全部無くなっちまうんだねぇ‥‥」
 一方、ジルベールは自宅が完全に倒壊してしまった老婆に出会い、心を痛めていた。彼女は家の柱だった木材を名残惜しそうに見つめている。
「お婆ちゃん、ちょっと待っててや」
 何かを思いついたジルベールは、砕かれた木材を器用に削っていく。
 十数分後、小さく素朴な木のお守りが出来上がった。
「‥‥ありがとう。心の中だけの思い出じゃ、年寄りには寂し過ぎるのさ。死ぬまで大事にさせてもらうよ」
 ジルベールから受け取ったお守りを、老婆は瞳に涙を溜めて愛おしそうに見つめるのだった。
「さあ、完成致したぞ!」
 満は出来上がった料理を器に盛り、村人の1人1人に配っていく。
 村人達の冷え切った心と身体が3人が作った料理の温かさに解されていくのが、綻ぶ顔から見て取れた。
「部外者のあたし達が気休め言ったって無責任ってもんだね。けどよ、それでも前を見なきゃあな」
 真水はやつれた様子の村人の隣に腰を下ろし、強い意思の籠もった瞳で口を開く。
「デビルを倒す事、あたし達にはそれしか出来ねえ。だからあんたらはまっすぐ‥‥いや、まっすぐじゃなくてもいいさ、意地でも生き延びな。それはあんたらにしか出来ねえ事なんだ」
 いつしか傍らの村人だけではなく、村中の者が真水の話に耳を傾けていた。
 ある者は涙を流しながら、またある者は迷いを振り切る様な瞳で。
「美人さんの励ましは心強いなぁ。俺もやる気が漲ってしゃあないわ♪」
 その様子を眺めていたジルベールの隣で、彼に食事を食べさせてもらっていた子供と、足腰が不自由な為に食事を運んで来てもらった老人が声を上げて笑った。
「復興するにはやはり目標が必要でござる。ここはひとつ、聖夜祭を迎える事を目標にするのはいかがでござろうか?」 
 人々の心に光をもたらし、厳しい現実に対する力を与えるのが聖夜祭の本来の眼目であると付け加える銅鑼衛門に、村人達がざわめき始める。上がる声のどれもが銅鑼衛門の意見を肯定し、未来に希望を見出すものばかりだった。
「当事者ではない私達にどこまで皆さんの心が救えるか不安でしたが‥‥来て良かったですね」
 リースフィアの言葉に満は満足げに頷く。
 だが彼はアンドロアルフェスと戦っている妻フレイアが心配でもあった。

●悪意を討て
 ペガサスに跨るマナウス・ドラッケン(ea0021)の銀髪が冬の風に靡く。
「聞けい! 我が名はマナウス・ドラッケン! これよりデビルを殲滅する!」
 大声で名乗りを上げる彼に、村人達の視線が集まる。
 女性や年寄りは不思議そうに彼を見つめていたが、若者と子供達の目は希望に煌いている。
「マナウスって、旅人が言っていたナイトのマナウスか?」
「まにゃうすってえいゆーなんだよね? すごいんだよね?」
 この村の様な辺鄙な場所では多大な名声を持っていても、名を知られていない事が多い。
 若者と子供はこの村を訪れた旅人に様々な話を聞いていて、偶然マナウスの事を知っていたのだ。
「ふふ。知っている人がいてくれてよかったわね」
 マナウスのペガサスに2人乗りしているレア・クラウス(eb8226)は、からかう様な口調で微笑む。
「頼むぞ、マナウスー! デビルを蹴散らしてくれよ!」
 その声を皮切りに、村人達は一斉にマナウスにエールを送り始める。
 自分の名声を利用して村人達に「必ず助かる」という希望を持たせたかったマナウスの目論見は、リースフィアの時と同様に予想以上の効果を得られた様だ。
「ふはははは! 悪魔どもめ、教皇庁直下テンプルナイトの神罰をとくと味わうがよい!!」
 村人ではなくグレムリン相手に名乗りを上げ、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)はボウで己を強化する。
「ちょこざいなグレムリンなど、余の敵にあらず!」
 ヤングヴラドは不敵な笑みを浮かべると、エールで誘き出したグレムリン達にカリスマティックオーラ発動させ、その行動と思考を低下させた。
「皆の者、一気に殲滅するのだ〜!」
 意気揚々と指揮の声を上げるヤングヴラドの上空から、マナウスの放った矢がグレムリン目掛けて放たれる。
「マナウスさんもヤングヴラドさんもハデハデだね♪ 私も負けないよ! ミリア、いっきまーすっ!」
 ミリア・タッフタート(ec4163)も負けじと名乗りを上げ、ヤングヴラドの後方からダブルシューティングEXでグレムリンの羽根を狙い撃ちする。
「飛べなくなった奴は‥‥任せろ」
 パラのマントで姿を消していた黄桜喜八(eb5347)はマントを脱ぎ捨てると、回避の術を持たないミリアを背中に庇って地面に落ちたグレムリンを攻撃していく。
「逃がしは‥‥しねぇよ」
 再び飛び立とうとした者は金鞭で絡め取り、左手のヌァザの銀の腕で殴りつけて1匹ずつ撃破する喜八である。
「喜八さん、ありがとう! えーい、悪い子にはおしおきだよーーーー!」
 落ち着いて狙いを定めるミリアに数匹のグレムリンがバランスを崩し、そこをマナウスのヘビーボウから放たれた矢が襲う。
「鉄弓の射程と威力を舐めるなよ。障害物の無い空は、射程全てが俺の必殺の領域だ」
 そう言い妖笑を浮かべるマナウスの横顔をレアは潤む瞳で見つめていたが、ハッと我に返ってテレスコープで得た情報を彼へと伝える。
「マナウス、残ってるグレムリンは仲間が向かった所にいるだけだわ」
「そうか。ならあちらは任せて、俺は村人の保護に回ろう。レア、アンドロアルフェスの襲撃地点はわかったか?」
「焦らないでちょうだい。今から見るわ」
 レアは性急なマナウスに苦笑すると、フォーノリッヂで未来予知を試すのだった。

 グレムリンとの戦いが始まった後、村人を安全な場所へ避難させるのはラルフィリア・ラドリィ(eb5357)と鹿角椛(ea6333)だ。
「ラルは打たれ弱いからな。いざとなったらあたしが身体を張ってでも護ってやる!」
「‥‥ん。ありがと」
 椛の頼もしい言葉にラルフィリアはにこっと無邪気な笑顔を見せる。
「まずはここから逃げることだよ! 大丈夫、あの悪魔は絶対倒すから!」
 不安そうな顔の村人達に椛は声をかける。無言で頷き返す瞳には、2人に対する信頼の色が見て取れた。
「こわいよぉ‥‥」
「だいじょぶ。グレムリン来たら、やっつけるから‥‥」
 ガタガタと震える少年をラルフィリアはギュッと抱きしめ、その背中を優しく擦ってあげた。
 2人は村人達を誘導しながら、安全な場所を目指して少年から聞いた抜け道を移動していた。
 ラルフィリアのバーニングマップのスクロールで得た最短ルートは、足場は悪いがグレムリンから隠れながら移動するには最適である。
 だが‥‥
「‥‥やっぱり、来た」
 先頭を進んでいたラルフィリアの前に、2匹のグレムリンが現れた。息を飲む村人達を後に下げ、椛はラルフィリアを庇う様に立ちはだかる。
「皆には手出しさせないよ! くらいなっ!」
 椛はそう叫ぶや否や、ライトニングサンダーボルトを放つ。
 電撃を食らった1匹は勿論、それを目の当たりにしたもう1匹も動揺している。
「まなうすおとーさんも頑張ってる。手伝ってくれる人、一緒にみんな‥‥守るの」
 青い瞳でグレムリンをジッと見つめ、ラルフィリアはムーンアローのスクロールを開く。放たれた光り輝く矢がグレムリンを襲う。
「怖いのか? 来なよ、腰抜け悪魔どもめ!」
 ライトニングアーマーで自らの体を帯電させ、椛はグレムリンを睨みつける。挑発に乗ったグレムリンの1匹は椛に触れた瞬間、電気によるダメージを食らい、地面に力なく落下した。 
「ちーさいこ頑張る、みんな元気付けられる‥‥とおもう、だから僕、頑張る」
 そして奮い立つラルフィリアの攻撃も弱ったグレムリンの息の根を止める事に成功した。
 背後からわっと上がる歓声に、2人は笑顔で微笑み合うのだった。
 その後はグレムリンに遭遇する事もなく、村人達を安全な場所まで無事に案内し終えたのだった。

「勿体ない気もしますけどぉ、これもデビル退治の必要経費ですぅ。本当は村人さん達に飲んでもらうのが1番なんですがぁ」
 おっとりとした口調のエリンティア・フューゲル(ea3868)は、息を潜めてグレムリン達が現れるのを待っていた。
 エールの入った樽の下は、桜葉紫苑(eb2282)の案で水がたっぷりと撒かれている。
 持参した小麦粉を風の流れを読んで撒けば、濡れた地面を踏んだ足に張り付き、透明化しても居場所がわかると紫苑は思っていた。
「まだですまだですよぉ‥‥今ですぅ!」
 エリンティアはヴェントリラキュイで酒樽から声が聞こえる様に仕向けると、すぐさまファイヤーボムのスクロールでグレムリンを襲う。
 グレムリン達は慌てて姿を消し始めるが、その足の指に紫苑が撒いた小麦粉が付着している。
「ちょっと見えにくいですが、何とかなるでしょう」
 身を潜めていたルーウィン・ルクレール(ea1364)オーラショットを放った後、物陰から飛び出してグレムリンに切りかかって行く。
「っと、遅れてごめんなさい」
 ミュールに約束の剣を届けていた水鳥八雲(ea8794)は、少し遅れて戦闘に参加した。
 フレイムエリベイションのスクロールで己を強化した後、グラビティキャノンのスクロールで重力波を放っていく。
「姿が見えないとなると‥‥先程は飛んで移動していたのですね」
 石の中の蝶の反応を見た紫苑は、ムーンアローで近くのグレムリンを指定する。
 攻撃を食らっても未だ姿を現さないグレムリンに酒樽の下にある水に濡れた泥を投げつけると、その輪郭が浮かび上がってきた。
「逃がす訳にはいかないんですよぉ」
 村人の安全の為に殲滅を狙うエリンティアは、逃げ出そうとするグレムリンをライトニングサンダーボルトのスクロールで撃墜する。
「やれやれ次から次に‥‥厄介な話よね、全く。って、もう終わり?」
 金鞭のリーチを活かしてグレムリンをぺちぺちと攻撃していた八雲は、敵の全滅を知ると物足りなさそうに呟いた。

●絶望の終焉
 数匹の鳥に囲まれ、その内の1匹にニュートラルマジックをかけていたクリステル・シャルダン(eb3862)は、可憐な顔を悲しみに曇らせた。
「やはりアンドロアルフェスを倒す以外に、この呪いを解く術はないのですね」
 いつまでも悲しんではいられないと己に言い聞かせ、クリステルはデティクトアンデットでアンドロアルフェスを探し始める。
「‥‥場所は村外れの墓地。レアさんのフォーノリッヂの結果と同じですわ」
「そこなら村人さん達を巻き込まずに済みそうですね!」
 クリステルに笑顔を向けるヒルケイプ・リーツ(ec1007)も、アンドロアルフェスの居場所を探ろうと鳥に姿を変えられた村人達にスクロールの巻物で話しかけていたのだが、自分を襲った不幸に混乱する彼等からは詳しい話を聞けずじまいだった。
「ジ・アースだのアトランティスだの関係ねぇ‥‥人々を守る、ただそれだけよ!」
 巴渓(ea0167)は拳を握り締めて熱く叫ぶと、墓地に向かって駆け出していく。
 アンドロアルフェスを退治しようと集った冒険者達も彼女に続く中、ミュール・マードリック(ea9285)は苛立たしげに誰かを待っていた。
「ミュール君、例のものよ♪」
「‥‥遅い」
 息を切らして駆け寄ってきた八雲の手から剣を奪うと、ミュールは墓地へと向かっていく。
「ちょっと、お礼くらい言っても罰は当たらないんじゃない!? んもうっ!」
 文句を言いながらも八雲は戦いに赴くミュールの逞しい背中を見送るのだった。
「観念しなさい、アンドロアルフェス! これ以上人々を苦しめさせはしません!」
 ペガサスのレジストデビルと自らのオーラエリベイションで己を強化したシルヴィア・クロスロード(eb3671)は、墓地に佇む孔雀の羽を持った人物を厳しい瞳で見下ろしていた。
 彼女の宣戦布告にその人物は唇の端を歪めて笑うと、その姿を変化し始める。
 それを目にしたクリステルは後衛の仲間を高速詠唱のホーリーフィールドで包み込んでいき、それを終えると仲間にレジストデビルとグッドラックを唱えていく。
「こ、これが真の姿であるか‥‥」
 マックス・アームストロング(ea6970)は思わず息を飲む。
 正体を現したアンドロアルフェスは全長が2M程で決して巨大ではなかったが、様々な色を持つ孔雀の羽は美麗ながらも見る者の心に言い知れぬ不安を齎す禍々しさを放っていたからだ。
 煌びやかな羽根を羽ばたかせ、アンドロアルフェスは墓地の上空へと舞い上がる。
「‥‥この人数ならば、撃破に支障はないだろう。私の弓は容赦はせんぞ‥‥」
 オルステッド・ブライオン(ea2449)は低い声で呟くと、アンドロアルフェスに向かって素早く矢を放つ。それに続くのは渓のオーラショットだ。
 ヘキサグラム・タリスマンの効果でアンドロアルフェスの能力を下げる結界を張ったシルヴィアは、弓で攻撃する仲間を庇う様にアンドロアルフェスの注意を引き付け、繰り出される攻撃を盾で防いでいく。
(「人々を元に戻すためにも射抜いてみせます!」)
 アンドロアルフェスに気づかれない様に忍び足でその後方に回り込む事に成功したヒルケイプは、沸き起こる不安を押し殺してシューティングPAで矢を放った。
 ホーリーアローは聖なる弧を描き、アンドロアルフェスの羽根に深々と突き刺さる。
「‥‥逃げろ!」
 地上からアンドロアルフェスの姿を見ていたミュールが叫ぶものの、時既に遅し。
「きゃあっ!」
 アンドロアルフェスは瞳に怒りの炎を滾らせ、ヒルケイプを呪いで鳥へと変えてしまったのだ。
(「きっと皆さんが倒してくれます。私は私に出来る事をやり遂げました‥‥」)
 鳥に変えられたヒルケイプは、アンドロアルフェスに狙われて仲間の足枷にならない様にと、そっと路地にその身を隠した。
「くそっ! だがここで冷静さを失ったら敵の思う壺だ。一斉攻撃で相手の動きを封じるぞ!」
 渓は唇を噛み締め、仲間に連携を訴える。残された者達は無言で頷くと、反撃の隙も与えない程の攻撃を四方からアンドロアルフェスに仕掛けていく。
(「‥‥今だっ!」)
 逸る気持ちを必死で押さえつけ、それまで仲間に遠距離攻撃を任せていたフレイア・ヴォルフ(ea6557)は、ようやく掴んだ一瞬のチャンスに全てを賭ける。
 放たれた矢はアンドロアルフェスの右目に深々と突き刺さった。
『ギャアッ!!』
 目を射抜かれて暴れる様に羽ばたくアンドロアルフェスに、全員は両羽根を狙って攻撃を繰り出していく。
 そして翼は折れ、アンドロアルフェスは地上にその身体を落下させる。
「ようやく攻撃できるのである!」
 自らにオーラエリベイションとオーラボディを付与して攻撃のチャンスをジッと待っていたマックスは、エクソシズム・クロスの加護を纏いながらアンドロアルフェスに切りかかって行く。
(「まだだ。チャンスは1度きりだからな‥‥」)
 ミュールも同様にオーラエリベイションを自らにかけるものの、その後は敵に向かわずにライトニングアーマーのスクロールで帯電するに留まり、息の根を止めるチャンスを伺う。
「‥‥これならば魔法を使う暇もあるまい。私のアゾットの露となるが良い‥‥」
 オルステッドは弓から接近戦武器に持ち替え、マックスに加勢する。
 ペガサスから降り立ったシルヴィアは尚も後列のフレイアとクリステルを護る様に防戦していたが、その合間に攻撃を繰り出す事も忘れない。
 飛び散る血も厭わずに攻撃を続ける冒険者達の姿は、遠くからこっそりと戦いの様子を伺っていた子供達の目に、鮮烈な英雄として焼き付けられる。
「止めである! 悪・即・斬!」
「‥‥ジャスト10秒だ」
 手にした武器にオーラパワーを付与したマックスのスマッシュと、ファイヤーバードのスクロールでアンドロアルフェスの背後上空に移動したミュールがスマッシュブレイクでデュランダルを振り下ろしたのはほぼ同時だった。
『グギャアアァァァッ!!』
 2人に懇親の力で武器を振り下ろされたアンドロアルフェスは、血を噴き出しながら断末魔の叫びを上げて地面に沈み込んだ。程なくして絶命した身体は消滅していく。
 その瞬間、鳥に姿を変えられていた村人は元の姿を取り戻す。
 村を絡め取っていた絶望という名の糸が断ち切られ、平和が訪れた瞬間だった。
「皆さん、お疲れ様です!」
「ヒルケイプさん! 良かった、元に戻られたのですね‥‥」
 元気よく姿を現したヒルケイプに、クリステルは涙目で抱きつく。
「これで問題は全部解決したね。皆で満の作ったご飯を食べに行こうか!」 
 笑顔のフレイアに全員は顔を綻ばせて頷く。
 やがて食事をしに現れた冒険者達を村人は取り囲み、涙を流しながら心からの感謝の気持ちを告げるのだった。
 冒険者達の優しさと勇敢な心が、小さな村を救った。
 彼等の名前はこの村で永遠に英雄として語り継がれていくだろう────。