聖夜に誓う永遠の愛
|
■ショートシナリオ
担当:綾海ルナ
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月21日〜12月24日
リプレイ公開日:2008年12月30日
|
●オープニング
キャメロットから徒歩で1日のとある小さな村に、熱々の新婚さんが1組増えたのはつい数日前の事。
「おはよう、リーナ!」
「きゃっ! あなた、お鍋が吹き零れちゃうわ」
「零れたら拭けばいいじゃないか。それよりもおはようのキスの方が大事だろ?」
「んもう、あなたったら‥‥」
2人は甘い空気を撒き散らし、朝っぱらから濃厚な口付けを交わすのだった。
何度も何度も、ちゅっちゅちゅっちゅ。
そしてらぶらぶな2人の勢いは治まらず、畑仕事の合い間の昼食時にも‥‥。
「はい、あなた。あーん♪」
「あーん♪」
「どう? 美味しい?」
「すごく美味しいよ。リーナの手料理は世界一だ!」
お弁当を食べるのもそこそこに、今度は木陰でちゅっちゅちゅっちゅ。
「くそぅっ! 目の毒だあぁ!!」
「フリードの奴、見せ付けやがって!」
「俺も女の子とちゅーしてぇ!」
草の陰から夫婦を覗きながら、村の青年3人は悔し涙を流して猛烈に僻んでいた。
と言うのも、何故かこの村は最近、カップルラッシュなのである。
この1年間で誕生したカップルは5組で、その中の3組が晴れて夫婦となった。
子供が増えるとお年寄り達は大喜びだが、恋人のいない寂しい男子は切なく人恋しい冬の真っ只中だ。
村のあちこちでカップルがいちゃついていれば、ひねくれたくなるのも無理はない。
別れてしまえと破局を願うのも無理はな‥‥いや、これは人としてダメだろう。
そして彼等に追い討ちをかけるような催し物が村で開かれ様としていた。
「なあ、あの日はどう過ごす?」
「どう過ごすも何も、俺らに選択肢はないだろ。仲良く傷を舐め合おうぜ」
「せっかくの村祭りなのに、野郎3人で参加するのかよ。周りはカップルだらけになるって言うのによぉ」
モテない青年ズは、はあ〜と盛大な溜息を漏らす。
今年は特別に、村をあげて聖夜祭期間中にお祭りを開く事が決定していた。
発案者の村長はフリードの祖父で、彼を小さい頃から溺愛していた。さらに彼の妻となったリーナもすっかりお気に入りだ。
つまりは既に2人の結婚式を行ったにも拘らず、聖夜祭にかこつけてまたお祝いをしようという魂胆なのだ。とてつもない孫馬鹿お爺ちゃんである。
「近くの村や町に手作りのチラシを配ってきたって、じいさんがほくほく顔で張り切ってたぞ」
「って事は、それを見たカップル達が押し寄せてくるのかよ。あのじじい、俺達を羨まし死にさせる気だろ!?」
「けっ! 何が『永遠の愛の樹』だよ。ただの邪魔な大木じゃねーか! 俺にとっちゃガキの頃に逆さ釣りにされた悪夢の木だぜ」
村長は村の中央に生えている木に何ともロマンチックな名前を勝手につけ、さらに『この木を村祭りの夜に恋人と一緒に眺めると、永遠の愛と幸福が約束される』というジンクスまで作り上げてしまったのだ。
しかし悲しいかな、村人は誰1人としてこのジンクスを信じてはおらず、果ては破局したという旅人の抗議まであったらしい。
「独り身には肩身の狭い事この上ない祭りだけど、ただで飯が食えるからよしとしようぜ」
「だな。それに、喧嘩別れするカップルもいるかもしれないし‥‥」
「傷心の彼女を優しく慰めれば『まあ、あなたって優しいのね!』とか『あんな男と別れて正解だったわ』とかなっちゃって‥‥‥‥いける! 何だかいけそうな気がする!」
人の破局を願う者に幸せは訪れないものだが、それに気づかないのは若さと言うか、人しての器が小さいと言うか。とにもかくにも色んな意味で残念な3人である。
「よし! 今から俺の家で綿密な計画を立てるぞ!」
「その後は、無限のシチューエーションに備えて念入りに予行練習だな!」
「ざまー見ろ、ホラ吹きじじい! 独り身だって祭りをエンジョイしてやるからな!」
異常な盛り上がりを見せる3人を生暖かい目で見つめる人物がいた。
居心地の悪い視線に気づいて振り返った先には‥‥
「「「げっ! 村長っ!」」」
仲良くハモる3人に村長は不敵な笑みを漏らす。
「ふおっふおっふぉ。モテない男の遠吠えが五月蝿いのぉ。そんなぶちゃメンマインドじゃ、死ぬまで恋人をげっちゅできんぞ?」
ものすごーく馬鹿にした様な目で村長は3人を見下していた。‥‥切り株の上にぷるぷると爪先立ちをしながら。
「な、何だよ、その『ぶちゃメンマインド』って」
「聞いた事ねーぞ?」
「もしかして、都会で流行ってのか?」
動揺する3人をじらす様に白い髭を弄った後、村長は勿体をつけながら口を開く。
「それはのう‥‥‥‥だーれがお前達に教えるか! 人生そんなに甘くないんぢゃいっ!」
ずっこける若者達の前で、まるで馬鹿にする様に自らのお尻をぺんぺんと叩いて見せた後、村長はよたよたと去っていった。
「‥‥それにしても、あの木のじんくすが何で不評なのかさっぱりわからんわい。若かりし頃にあの木の下で熱ーいちっすをしたから、今でもわしと婆さんはらぶらぶなんぢゃ。ま、ちょびっと話を大袈裟にはしてあるがの」
村長は頬を赤く染めると、愛しの妻が待つ家へと急ぐのだった。
「ぶちゃメンマインドとは、人の幸せを妬む醜い男心の事。我ながらいいネーミングセンスぢゃのう」
そう言い、一人悦に入る村長。
内部事情と胡散臭いジンクスはともかくとして、ささやかながらロマンチックな夜が過ごせる事は間違いないだろう。
冒険者ギルドに張られたチラシの内容は以下の通りである。
タイトル:あの『永遠の愛の樹』の下で熱いちっすと甘い愛の囁きを!
祭り期間:1日のみ
参加費用:なし
参加条件:カップルである事
村長より:らぶらぶな夜を過ごしてくれたら嬉しいわい♪ わしも負けんぞ!
●リプレイ本文
●似た者夫婦とほんわかラヴァーズ
穏やかな冬の日にとある村で行われているお祭りに、近隣のカップルさん達が多く訪れていた。
「聖夜祭‥‥か‥‥あたしらが出会ったのも結婚したのも‥‥な、なんだか感慨深いね〜」
フレイア・ヴォルフ(ea6557)は夫の尾花満(ea5322)との出会いを思い出していたが、自分を見つめる優しい視線に気づき、照れ隠しに語尾をおちゃらけさせる。
「ああ、今年もこの季節が巡り来るか‥‥フレイアに酒場で交際を申し込んだのも、式を挙げたのも‥‥ぶっっ!?」
そんな妻を可愛らしいと思う満の目に、人目を憚らずにいちゃつくカップルの姿が飛び込んでくる。
「どうした? 盛大に噴き出し‥‥うわっ」
不思議そうに満の視線の先を追ったフレイアの目が点になった。
2人はカップルから慌てて視線を外して頬を赤く染める。
(「ああいう風にい、いちゃらぶするって‥‥一体ドーすれば良いんだ?」)
(「出会ってからの時間はあっという間に過ぎた気がするが‥‥ここまで大っぴらにいちゃつきを推奨されるような依頼はなかったぞ‥‥というより、本来はもっと密やかに行うものではないのか?」)
恋愛事が苦手な夫と照れ屋な妻。2人は似た者夫婦である。
「2人でたくさん幸せを感じられる、素敵な1日にしましょうね。今日の貴女は特別に可愛いですよ」
アルテス・リアレイ(ea5898)は恋人のサクラ・キドウ(ea6159)と繋いだ手にきゅっと力を入れ、優しげな瞳で彼女を見つめる。
「あ、ありがとう。久しぶりに一緒のデー‥‥お出かけですね‥‥。今日は楽しみです‥‥」
恋人に褒められ、サクラは頬を薔薇色に染める。
普段はあまり感情を顔に出さないサクラだが、大好きなアルテスの前では素直な恋する乙女である。
(「おめかししてきて、良かった‥‥」)
サクラはアルテスにそっと寄り添い、はにかむ様に微笑んだ。
「あら、あんた達、新婚さんかい? よかったらこれを食べておくれ」
「し、新婚さん‥‥何とも心騒ぐひび‥‥い、いや、有難く頂こう」
笑顔で焼き菓子を差し出してきた村のおばさまの言葉に動揺しつつ、満はフレイアの分もそれを受け取る。
「ありがと、満♪ ‥‥うわ、おいしい! 甘くて優しい味だな」
「うむ、これは美味い。中に入っているジャムの甘酸っぱさがアクセントになっているな」
無邪気に喜ぶフレイアの隣で、包丁侍の異名を持つ満はついつい料理人の意見を口にしてしまう。
「そんなに気に入ったらあげるよ。綺麗な奥さんにあんたがお菓子を作ってあげな」
「や、やだなぁ、おばさん! お世辞は止めてく‥‥」
「ああ。拙者には過ぎたる美しい妻だ。お心遣い、感謝する」
満はジャムを受け取った後、照れるフレイアの肩を抱き寄せた。
甘い言葉に答える事が出来ず、フレイアは言葉の代わりに満の腰に手を回すのだった。
「まずは二人で色々回って楽しみましょうか‥‥」
「はい。食べ物もたくさん振舞われているみたいですね。楽しみです」
サクラとアルテスは冒険者としての戦いの日々を忘れ、お祭りを堪能する。
「どれも美味しいです‥‥」
村人が次々と手渡してくる料理やお菓子を、サクラは細い体に見合わぬ早さで次々と平らげていく。
甘いもの、しょっぱいもの、また甘いもの‥‥途切れることのない食欲のループに、アルテスは少しだけ不安になる。
「た、食べ過ぎには注意ですよ?」
その言葉にサクラは齧りかけの焼き菓子をしゅんとした瞳で見つめる。
「‥‥太ってしまったら、アルテスに嫌われてしまいますよね‥‥」
「いいえ、僕はただ貴女がお腹を壊さないか心配で‥‥ふふっ」
アルテスはサクラのほっぺに付いたパン屑を取ってあげると、それをぱくりと食べてしまった。
「あっ‥‥」
「どんな貴女だって大好きですよ。ぷよぷよの貴女だって、ね?」
ほんわからぶらぶオーラを振りまく2人を、例のモテない男性ズが羨ましそうに見つめていたとかいないとか。
●キスから伝わる想い
夜になり、カップル達の甘々らぶらぶモードは急上昇していた。
あちらこちらでべったりとくっつきながら口付けを交わすカップル達。
危うくそれ以上の事をしそうになった者達は、何処からか現れる村長やモテない男性ズに厳重注意されていた。
「‥‥綺麗なモノだね〜。ランタンの明かりと星の光って。ロマンティックだ‥‥」
「まぁ、こうやってのんびり星を見上げるのも悪くはない‥‥二人でいれば寒さも凌げるしな‥‥」
「‥‥きゃうっ!」
突然、満に抱きしめられたフレイアの口から、可愛らしい悲鳴が漏れる。自分の声と大胆な満に、心臓は嬉しいやら恥ずかしいやらで今にも爆発しそうだ。
「な、なんだか、もの凄く照れるんだが‥‥う、嬉しいけどっ」
フレイアはそう言うと、満からこっそりと距離をとる。
「夫婦だし、照れる事もあるまい」
「やっそのっっな、なんだ、喉乾いた!!」
フレイアはそれが何かは確認せずに、木のテーブルの上にあった飲み物を飲み干した。
「‥‥あ、れ? 何だか目が回るぞ??」
「どうした? 落ち着かぬ様子だが‥‥って、それは酒では‥‥あぁ、やっぱり」
お酒に弱いフレイアの顔は真っ赤だ。‥‥そして彼女はとても酒癖が悪い。
「歩けるか? 周りの者に迷惑をかけない場所に行くぞ」
「は〜い♪ 旦那様っ☆」
既に出来上がっている妻に満は溜息をついた。
「アルテス‥‥あーん」
「あ、あーん」
サクラはお酒のせいかほんのりと赤い頬で微笑み、料理をアルテスの口に運ぶ。
それを嬉しそうに頬張りながらも、アルテスは周りのカップルが気になって仕方がなかった。
(「これも勉強です‥‥か?」)
アルテスはドキマギしながら、じっとサクラを見つめた。
「ん、少し飲み過ぎた‥‥? 酔い覚ましに歩きましょうか?」
年下の可愛い恋人を抱きしめてしまいたい衝動に駆られながら、サクラは夜の散歩へと誘う。
「これが『永遠の愛の樹』ですね。とてもロマンチックで綺麗です」
1時間ほど歩いた2人は、すっかり酔いが醒めていた。
「一緒に見られて、嬉しいです‥‥」
サクラはそう呟くと、ある決意を胸にそっとアルテスから体を離す。
「アルテス‥‥大好き、ですよ。種族の違いはありますけど、ずっとアルテスの傍にいたいです。だから、その‥‥結婚してくれませんか‥‥」
サクラは恋人の顔を見つめながら、ずっと心の中にあった想いを伝える。
アルテスはとても驚いた顔で頬を真っ赤に染めながら、とても幸せそうに微笑んだ。
「‥‥参りましたね。僕から言おうと思っていたのに。種族は違えど、この胸の気持ちに変わりはないですよ? 貴女がこんな若い夫でよければ、いつだって気持の準備は出来ています‥‥」
熱っぽい瞳でサクラを見つめながら、アルテスはその肩を抱き寄せて口付ける。2人だけの密やかな誓いを深く長い口付けに託して。
「サクラさん、貴女と一緒になるという事を口付けと共に誓いましょう。これを受け取ってもらえますか?」
アルテスが差し出したのは赤と青、2人の瞳の色の小さな石が付いた対のネックレス。
「これは村の方の手作りで、頂いた物です。指輪はきちんと用意しますから、今はこれで‥‥」
「嬉しい‥‥ありがとう、アルテス‥‥」
2人は見つめ合い、再び口付けを交わすのだった。
「満‥‥」
一方の夫婦はと言うと、すっかり酔っ払ったフレイアがお色気むんむんで満を誘惑していた。
「あぁ、こらこら、あんまりフラフラしてると倒れるぞ。まったく、酒癖の悪い‥‥」
酔って赤く上気した頬に潤んだ瞳。そして艶っぽい呼吸‥‥悩ましい誘いを理性フル動員でかわしつつ、満は膝の上に座っているフレイアを横抱きにして抱える。
「昔は‥‥あんなに‥‥ちょ〜っと抱きついただけで固まったのに‥‥告白ん時も皆に背中蹴られて‥‥だったくせに‥‥」
「と、突然昔の話をするのはよせっ」
「だぁぁぁ昔の可愛い満は何処いった!!!!! 体だけは良い体のままなのにっっ! 畜生〜〜!!」
筋肉フェチのフレイアは、そう叫びながら着物の間から見える満の逞しい胸板をぺちぺちと触る‥‥触りまくる。
「それを言ったらフレイアだって自分から迫ってくる様な事は‥‥まぁ、良いか」
苦笑しつつもされるがままだった満は、駄々を捏ねるフレイアの顔を持ち上げ、そっと唇を重ねる。
「‥‥初めからそうしてくれればいいのに」
「すまない。あまりに可愛らしかった故、焦らしてみたくなった」
フレイアに満は微笑み、慈しむ様なキスを繰り返す。
そして祭りの終わりが近づき、カップル達は『永遠の愛の樹』を囲んでダンスを踊り始める。
「そろそろお終いの時間なのでしょうか‥‥。私達も一緒に踊りましょう‥‥」
祭りが終わっても、2人の未来はずっと続いていく‥‥とても幸せそうなサクラの胸元で赤色の石が揺れるのを、アルテスは目を細めて見つめていた。
「離せっ、満! こそこそ覗き見する奴らに説教してやるんだから!」
「悪いが今のフレイアを他の男に見せるつもりはない。もう少し自分の魅力を自覚してくれないものか‥‥」
満は騒ぐフレイアをお姫様抱っこしながら、ふうと息を吐く。
翌朝、酔ってもしっかりと記憶が残る彼女が満に近づけなかったのは言うまでもない。
様々な思い出とお互いへの揺ぎ無い愛情を胸に、4人はキャメロットへと帰還するのだった────。