【お兄様と私】Shall we dance?

■ショートシナリオ&プロモート


担当:綾海ルナ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月12日〜12月17日

リプレイ公開日:2007年12月17日

●オープニング

 12月のキャメロットの朝は凍える様に寒い。しかし街は聖夜祭に向けて活気づき、様々な彩りを見せていた。
「フレッド! フレッドー! 出てらっしゃーい!!」
 ロイエル家の中庭に甲高い女性の声が響き渡る。声の主はレミー・ロイエル。フレッドとアリシアの母親である。先程から彼女はフレッドを探して広い屋敷内を歩き回っていた。
「んもう、どこに行ったのでしょう? もしかして早朝から逢引き‥‥なんてあの子に限ってあり得ませんわよね」
 勝手に妄想を膨らませ、自己完結するレミー。
「母上、お呼びですか?」
 と、徐に背後からフレッドの声が聞こえた。レミーは笑顔で振り返る。
「あら、フレッド。あなたにお話‥‥がっ!?」
 しかし次の瞬間その笑顔は引きつり、固まってしまった。
「フ、フレッド! あなた何て格好を‥‥」
 目の前に現れたフレッドは上半身に何も纏っていなかったのである。しかも逞しいその体にはうっすらと汗を滲ませていた。
「ご心配ありがとうございます。ですがこれくらいで風邪をひくほど柔ではありませんよ」
 とんちんかんな言葉と共に爽やかな笑顔を見せるフレッド。
「そうじゃありませんっ! 何故そんな格好をしているのです!?」
「何故って‥‥体を動かしたら熱くなってしまったので脱いだまでです。最も脱がないとやりにくいので初めからこの格好でしたが」
「んまぁ!」
 レミーの脳裏に『早朝から逢引き』と言う言葉が甦る。フレッドをよく見てみれば息は荒く、頬は紅潮していた。
「朝からついつい張り切り過ぎてしまいました。ですがスッキリするので止められませんね」
 予想外の事態に混乱しているレミーにフレッドはさらに追い討ちをかけるような事を口にする。レミーはわなわなと慄く唇で何とか言葉を紡いだ。
「お、お相手のお名前は?」
「名前など知りません」
「あなたっ! 名前も知らないでそんなことを‥‥」
「知らなくても問題ありません。ダメになったら新しいの買えばいいだけです」
「ああ、何てことでしょう‥‥」
 女性に興味が無いのではと疑ってさえいた息子が、自分の知らない間にこんなろくでなしに成り下がっていたとは。余りのショックにその場に倒れそうになったレミーだが、母親の意地とプライドで何とか踏み止まる。
「フレッド、その方に会わせなさい」
「別に構いませんが、会ってどうなさるおつもりですか?」
「決まっているでしょう!? 母親として誠心誠意お詫びするのです」
「はあ‥‥」
「もちろんあなたも謝るのですよ! さあ、早く連れていってちょうだい」
 レミーは鬼の形相でフレッドを睨み付けるのだった。

「これは一体どういうことですの‥‥?」
 レミーはフレッドの相手を呆然とした表情で見つめながら、へなへなとその場に座り込んでしまった。
「どうもこうも、俺の相手です」
 フレッドは真面目な顔で自らの相手‥‥頑丈に組み立てられた丸太人形を紹介する。
「これなら中々壊れないし替えもききますので、剣の稽古にはもってこいです」
「あなたは朝から剣の稽古を?」
「はい。毎朝の日課です」
 レミーはがっくりと項垂れ、自らの勘違いを猛烈に恥じる。
 鈍感かつ強引なフレッドの母親であるレミーは妄想と勘違いの天才なのだ。この親にしてこの子あり、である。
「フ、フレッド。わたくしはあなたにお話があるのです」
 何とか柱に掴まりながら立ち上がったレミーは毅然さを装い、口を開いた。
「ロイエル家で毎年、聖夜祭にダンスパーティーを開催するのはご存知ですね?」
「は、はい」
 途端にフレッドの顔色が暗くなった。
「あなたがのらりくらりとパーティーに参加せず早や3年‥‥今年こそ出て頂けるのでしょうね?」
「い、いえ、俺は‥‥」
「今年はアリシアも参加させます」
「ア、アリシアをですか!?」
 予想通りの反応に、レミーはニンマリと微笑んだ。
「可愛らしいあの子に声をかける殿方は大勢いるでしょうね。ああ、心配だわ」
「ならどうしてそんな場に出させるのですか!」
「社交界デビューは貴族の務めです。心配ならあなたも参加して悪い虫が付かないように見張っていればよいのです」
 至極最もなレミーの言葉にフレッドは悔しそうに頷いた。
「わかりました。アリシアの為ならば出ないわけにはいきません‥‥」
「よろしい。もう講師は手配済みです」
「うっ‥‥」
「わたくしも鬼ではありません。あなた方が楽しくダンスを覚えられるように、レッスンのお仲間を冒険者ギルドで募集しておきました。大勢の方が楽しいでしょう?」
「なっ! 身内の騒動に冒険者を巻き込むべきではありません!!」
 以前アリシアが出した依頼については言及しないフレッドであった。
「もう出してきてしまいましたもの。取り消しは出来ませんわ」
 しれっと答えるレミーに、今度はフレッドががっくりと項垂れたのだった。
 こうして今回もロイエル家の家庭内事情に冒険者達が巻き込まれようとしていた‥‥。

●今回の参加者

 ea3153 ウィンディオ・プレイン(32歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2288 ソフィア・ハートランド(34歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb5267 シャルル・ファン(31歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5300 サシャ・ラ・ファイエット(18歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec3680 ディラン・バーン(32歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ec3876 アイリス・リード(30歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4114 ファビオン・シルフィールド(26歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ec4115 レン・オリミヤ(20歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

リュミエール・ヴィラ(ea3115)/ 若宮 天鐘(eb2156

●リプレイ本文

●説得
 練習開始前のダンスホールで、ウィンディオ・プレイン(ea3153)はシャルル・ファン(eb5267)から前回の苦労話を聞いていた。
「成る程、妹を溺愛している兄か」
「はい。その愛情は並々ならぬものがありますから」
 ふぅと溜息を漏らすシャルル。と、そこにフレッドの首根っこを掴んでいるディラン・バーン(ec3680)が現れた。
「全く、往生際の悪い奴だ」
 横目でじろりと睨みつけられたフレッドはしゅんとしている。
 パーティーに出る決心はしたが、ダンスをする気はないので練習が終わるまで隠れているつもりだったらしい。それを察したディランにあの手この手で追いかけ回され、ついに御用となったわけだ。
「アリシアが他の男に身を委ねるのを柱の陰から眺めてるしかないなんて、まるで生き地獄だ‥‥」
 虚ろな目のフレッドに顔を引きつらせる一同。初対面のウィンディオですらこう思う‥‥気持ち悪い、と。
「きちんと踊れるようになれば、アリシアさんは喜ぶぞ!」
「フレッド殿が見事にリードしている姿を見せ付ければ、他の男性はそう簡単に声をかけられないだろう」
 ディランとウィンディオは何とか持ち上げて練習に参加させようとするが、すっかりやさぐれて卑屈になったフレッドは聞く耳を持たなかった。
「‥‥上手く踊れれば、アリシアさんは『今まで以上にあなたのことを愛してくれる』かもしれませんよ?」
 シャルルの言葉に時が止まる。
『今まで以上に愛してくれる‥‥愛してくれる‥‥愛(以下略)』
 フレッドは幾度となくその言葉を反芻した。もちろん「かも」は無視である。見る見る内に生気のなかった顔は血色を取り戻し、虚ろだった瞳に希望の光が宿った。
「きちんとやった方がいいぞ。妹さんが大事ならな」
 一連のやり取りを静観していたファビオン・シルフィールド(ec4114)にフレッドは力強く頷くのだった。

●初日
「勿体無いですわ‥‥」
 レミーはアイリス・リード(ec3876)にドレスを断られたのがよほど残念らしい。
 しかし清貧を宗とするクレリックに無理に薦められるわけもなく、その情熱はレン・オリミヤ(ec4115)に注がれたのだった。
 濃緑色のドレスを着せられたレンには肌を見せたくない理由があるのだが、そこはレミーの卓越した化粧技術でカバーである。じゃあレミーの素顔って一体‥‥。
「はぁ、今度はダンスか。あいつも色々と大変だな」
 真紅のドレスに身を包んだソフィア・ハートランド(eb2288)はフレッドを哀れんでいるらしい。
(「ダンスの一つも覚えておかないと、いざと言う時に困りますものね」)
 遠くを見つめながら頬を染めるサシャ・ラ・ファイエット(eb5300)は純白のドレスが良く似合っている。準備を手伝ったリュミエール・ヴィラが見たら喜んだに違いない。
「まずはお手本をお見せましょう。ソフィア殿、私と踊って頂けますか?」
 跪き、ソフィアの手を取るウィンディオは紳士そのものである。
「喜んで」
 ソフィアは微笑むと、そっとウィンディオに体を預けた。シャルルの演奏に合わせ、ゆっくりと踊りだす。
 優雅で美しいその姿に誰もが目を奪われていた。やがてダンスホールを一周し皆の元へと戻ってきた二人に、惜しみない拍手が贈られる。
 ダンス経験者がいると知ったレミーが講師を断ったらしく、男性はウィンディオ、女性はソフィアが教える事となった。

●ペア練習
「こっちの足が先で、ええと‥‥」
 中庭でサシャが怪しげな踊り‥‥もとい必死にダンスの復習をしていた。
「どうなさいましたの?」
 偶然通りかかったアリシアが、手足をばたつかせているサシャに声をかける。
「もしかして、ダンスの復習ですか?」
 一体何に見えたのだろうか。サシャは顔を真っ赤にしながら頷いた。
 ‥‥数分後。
「アリシアさんには気になる殿方はいらっしゃいませんの?」
「い、いませんわ。そういうサシャさんはどうですの?」
 いつの間にか二人は恋愛話に花を咲かせていた。サシャの問いに負けじと乙女の必殺技、質問返しをお見舞いするアリシア。
「わたくしはおりますのよ。とても素敵な騎士様で‥‥一方的な片思いなのですけれど、ね」
 淋しげな顔を見せるサシャにアリシアが詰め寄る。
「きっとその方は振り向いて下さいますわ。だってサシャさんはこんなに愛らしいんですもの」
 アリシアの言葉にサシャは嬉しそうに微笑んだ。その後も二人は恋愛話やお互いの兄の行き過ぎた愛情について語り合うのだった。

「馬を扱う時に負担をかける様に乗るか? ダンスも同じで、相手に負担をかけない様に気をつけて踊るんだ」
 馬好きのフレッドに分かりやすい例えで指導するソフィア。彼女がこんなに熱心なのにはわけがある。
 ダンスパーティーに円卓の騎士やその縁の者は参加しないと知った時、ソフィアはすっかりやる気をなくしてしまった。
 しかしレミーの「地道な努力を積み重ねていけば、円卓の騎士様にもその噂が届くかもしれません。社交界とはそういう所です」という言葉に、俄然やる気を取り戻したのだった。
「大丈夫ですよ、落ち着いて」
 サシャを優しくリードするウィンディオ。
「ゆっくり行くぞ」
 ファビオンとアイリスのペアは順調のようだ。
「で、では失礼します」
 珍しく落ち着きのないディランにアリシアまで緊張している。
「上手ですわよ」
 男性に触れられるのが苦手なレンはレミーと踊っていた。
 こうして初日のペア練習は無事に終了したのだった。

●息抜き
「この間より少し大きくなりましたでしょう? まだ乗るには小さいのですが」
 アイリスは駿馬のカメリアを見せながら、フレッドに微笑んだ。
 集中を切らさないように休憩は入れた方がいいというウィンディオの意見を取り入れ、練習の合間には休憩時間が設けられている。
 遠乗りに行くと休憩時間内に戻って来られなさそうなので、二人は屋敷の庭で談笑していた。
 ‥‥と、ここまではよかったのだが。
「ど、どうしましょう」
 アイリスは真っ赤な顔で固まっていた。何故なら膝の上でフレッドが熟睡しているからである。アイリスの動揺など露知らず、フレッドは子供のようなあどけない寝顔を見せている。
「あれが狸寝入りだったら相当の策士ですわね」
「いや、彼に限ってそれはないでしょう‥‥じゃなくって!」
 茂みの陰に潜むのはレミーとディランである。ディランはレミーの言動に注意し見張っていたのだが、ついつい好奇心に負けて一緒に覗いてしまったらしい。
 休憩時間が終わるまで寝続け、起きた途端に顔を真っ赤にしてアイリスに平謝りするフレッドの様子を結局しっかりと見届けたディランだった。

●最終日
「もう少し私に体を預けてくれないか?」
「は、はい」
 ウィンディオにレディとして扱われ、アリシアははにかみながらも嬉しそうだ。
 一方フレッドは親しげな二人の様子に気が気ではないらしく、チラチラとそちらばかりを窺っている。妻帯者とはいえ油断できないようだ。
(「こんなに優しくリードして下さるなんて、さすがはわたくしが好きになった方ですわ‥‥あら?」)
 想い人と踊る妄想に浸っているサシャがふと目を開けると、心ここにあらずなフレッドの姿があった。幸せな一時をぶち壊され、不機嫌になるサシャ。
(「んもう、失礼にも程がありますわ! そんな方はこうして差し上げましてよ」)
 サシャは若宮天鐘に教わった通り、すました顔で思いっきりフレッドの足を踏みつけた。
「いっ!」
「まぁ、ごめん遊ばせ」
 鈍感なフレッドの事だ、これがわざととは思うまい。サシャはにっこりと微笑みながら「いい気味ですわ」と喜ぶのだった。

「皆さんに私から歌を贈らせて頂きます」
 シャルルは全員が自信を持って気持ちよく踊れるように、メロディを使って軽やかに歌い始める。魔法と意識されないよう、囁くが如く丁寧に。
 レンと踊るフレッドの姿をアリシアは少しだけ淋しそうな顔で見つめている。それに気づいたシャルルだったが、演奏を止める訳にはいかなかった。
 フレッドに触れられてもレンは嫌がる様子などなく、頬を薔薇色に染めながら大人しく身を任せている。しかし緊張からかレンの足が縺れ、ドレスの裾を踏んづけてしまった。そのまま派手な音を立て、倒れこむ二人。
「レン、大丈夫か? ん、何だこの柔らかいものは‥‥どぅわあぁ!!」
 奇声を上げ、慌てて体を起こすフレッドを見上げながら、レンは潤んだ瞳で何故か観念したような表情を浮かべている。
「お兄様、最低ですわっ!!」
 怒りに身を任せたアリシアのびんたに、フレッドの体が天井まで飛んだとか、飛ばないとか‥‥。

「やっぱり‥‥受け取れませんわ」
 アリシアはしばらく考え込んだ後、ジョシアンの指輪をそっとディランへと返した。
 これは『悪い虫除け』になると説明するディランから、自分を心配する気持ちが伝わってきて嬉しかった。でも指輪はアリシアにとって特別な贈り物なのだ。
「好きでもないのに女性に指輪を渡すだなんて、いけない人ですわ」
「すみません。困らせるつもりはなかったのですが‥‥」
 申し訳なさそうなディランの言葉を制し、その手に触れるアリシア。二人の視線が交わる。
「私を心配して下さるのなら、ディランさん自身が守って下さいな」
 夕暮れの魔法のせいか、その顔はディランの目にとても大人びて見えた。

 今まで以上にアリシアに愛される為、修行の如く練習に取り組んだフレッドは、見事なダンスの腕を身につけたのだった。フレッドに及ばないながらも、アリシアも中々の上達っぷりである。
 練習に参加した未経験者達もとりあえずは一通り踊れるようになった。後は個人の努力次第だ。
「よろしかったらパーティーにもいらして下さいね」
 レミーは全員に招待状を出すつもりらしい。果たしてどんなパーティーになるのやら‥‥。