ナーガの婿探し
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■ショートシナリオ
担当:綾海ルナ
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:7人
サポート参加人数:3人
冒険期間:01月22日〜01月27日
リプレイ公開日:2009年01月30日
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●オープニング
心の内の情熱を表したかの様な赤い髪をかき上げながら、その女性は悩ましげな視線を絡みつかせてきた。
赤く形の良い唇から吐息と共に艶っぽい声が漏れる。
「ねえ、本当に私の事が好き?」
「あ、ああ。勿論だとも」
挑発的なドレスから零れ落ちそうな胸が呼吸の度に上下する。そこに釘付けの男はごくりと喉を鳴らした後、上擦る声でそう答えた。
「‥‥嬉しい。どんな私を見ても、嫌いにならないでね?」
「ど、どんなって‥‥そんなに凄いのか」
よからぬ想像で頭がいっぱいの男の目の前で、女性はゆっくりと長いドレスの裾をたくし上げる。
そこに見えたのは悩殺の脚線美────ではなく。
「ぎゃああぁぁぁっ!!!!」
男は悲鳴を上げると、腰を抜かしてその場に尻を着く。
なんと、女性の下半身は蛇だったのだ。
「酷いっ! 私の事が好きって言ったくせに! 嘘つきっ!!」
ナーガの女性はとても傷ついた目で男を睨み付け、その端にうっすらと涙を浮かべている。
「そっちこそ騙してたじゃないか! この蛇女め!」
男の暴言に女性の中で何かが『ぶちっ』と音を立てて切れた。
こめかみをひくつかせながら、射殺せそうな視線を男に向ける。
「この‥‥」
「な、何だよ?」
「腑抜けスケベ男ぉーーーーっ!!!!」
ゴオオオォォォッ!!
叫び声と共に女性の口から燃え盛る炎の息が吐き出される。
それは逃げる事の適わない男の髪を直撃し、ちりちりに焦がしてしまった。
「ひいいぃぃっ!!」
男は無残な自らの髪に触れた後、一目散で小屋から逃げ出していった。足が縺れて転ぶという、それはそれは無様な様子で。
「ふん! 髪の毛だけに加減してあげたんだから、感謝なさい!」
女性はぷりぷりと怒りながら、寝台に腰を下ろした。
程なくして小屋の中に2人の人物が入ってくる。
「リーシャ、いい加減諦めたらどうですか?」
「そーそー。オレ達のどっちかにしておけって‥‥いてっ!」
女性に先に声をかけた男性は、頭の後ろで手を組んでニヤニヤとしている少年の頭をぽかりと叩く。
「シヴァ、ソル‥‥あなた達、また覗いてたのね?」
恥ずかしさに染まる頬を膨らませ、リーシャはジト目で2人を睨む。
「仕方ないじゃん、他に行くとこないんだからさ。つーか、何で上手くいかないかわかってんの?」
「そ、それは‥‥色気が足りないから?」
「ばーか、逆だよ逆! そんなすぐにやれそうな格好してるから、ろくな男が寄って来ないんだって」
偉そうに助言をしつつもしっかりとリーシャの胸の谷間を覗いているソルの首根っこを、シヴァは不機嫌な顔でむんずと掴む。
「いやらしい目で見るのは止めなさい。それに口の利き方にはあれほど気をつけろと‥‥」
「いいのよ、シヴァ。ソルの言っている事は最もだわ。お色気作戦は簡単だけど、それ目当ての男しか釣れないって事ね」
リーシャはふうと溜息を付くと、側に置いてあったマントを羽織る。
水辺の近くに発見したこの小屋に3人で住み着いてから1ヶ月が経った。
その間に落としたと思った男に逃げられること実に10人‥‥完敗である。
「でも私は諦めないわ。絶対に人間の旦那様をゲットしてみせるんだから」
ナーガの彼女が人間の男性に固執するのにはある理由があった。
リーシャは幼い時に冒険者の男性に命を救われた事があり、それから人間の男性をとてつもなく美化して生きてきたのだ。
そんな彼女の夢は、勿論人間の男性のお嫁さん。
不可能かつ不毛な夢だが、夢見る乙女は努力と根性でどうにかなると思い込んでいた。
「こうなったら路線変更ね。いっそ内気なタイプに‥‥でもそうしたら中々恋に発展しないわ。ああもうっ! どうしたらいいのかしら!?」
悶々とするリーシャにシヴァは優しく微笑みかける。
「ありのままの貴女が1番素敵だと思います。自信を持って下さい」
「シヴァ‥‥」
優しい言葉にリーシャは涙ぐむと、勢いよく立ち上がってシヴァの手をがしっと握る。
「うん、自然体が1番よね。私、頑張るわ! さっきは諦めろって言ってたけど、本当は応援してくれてるのよね?」
「はい。私は貴女の味方ですよ」
そう言い再びにっこりと微笑むシヴァを、ソルは冷ややかな目で見つめていた。
何故なら‥‥
「お前、相変わらず性格悪りーな。本気にしてんぞ、あれ」
リーシャがすやすやと寝息を立てているのを確認したソルは、肘でつんつんと傍らのシヴァを突っつく。
「これも作戦の内です。こんな馬鹿げた事、1日でも早く諦めて頂かなければなりません。その為だったら私は何でもしますよ」
瞳をきらーんと輝かせ、シヴァは腹黒スマイルを浮かべる。
「まあ、オレも早く故郷に帰りたいし、邪魔はしないけど。ったく、早く現実に気づいて欲しいよな」
「くくくっ‥‥既に手は打ってあります」
ごろんと横になろうとするソルの背中を強引に押し戻すと、シヴァはその耳元に唇を寄せる。
内緒話を聞き終えたソルは、目を真ん丸くして悪どい策士を見つめた。
「冒険者ギルドに依頼を出した!? それって逆効果じゃね?」
「落ち着いて考えてみて下さい。依頼を受けてここにやってくるのは、下心のある者かリーシャをこの小屋から追い出そうとする者です。どちらにしても彼女は落胆するでしょう」
「それで諦めさせるってわけか。確かに効果覿面だろうけど、傷つくだろうな、あいつ‥‥」
「確かに荒療治ですが致し方ありません。彼女の心の傷は私達2人が責任を持って癒せば良いのです」
何だかんだ言いつつも、リーシャを心配しているお付き2人である。
「そーだな。あいつの事だ、美味いもんでも食って2、3日寝てりゃ元通りになるか」
「ええ。リーシャは単純ですから」
‥‥心配しているのだ、恐らくは。
一般人を装ってシヴァが出した依頼が、程なくしてギルドに張り出される。
その内容は、水辺の小屋に住み着いて男性を誘惑するナーガ女性を懲らしめて欲しいというものだった。
●リプレイ本文
●恋に落ちたナーガ娘
清々しい旅立ちの朝‥‥。
保存食を用意し忘れたり、荷物を持ち過ぎて動けなかったといううっかりさんをしてしまった暮空銅鑼衛門(ea1467)、シェリル・シンクレア(ea7263)、藤村凪(eb3310)、シャルル・ノワール(ec4047)は準備を整えてからキャメロットを発つ事となった。
「事前準備は念入りにな。厳しい依頼じゃ、そのうっかりが命取りになったりするだろうしさ」
ソルの言葉に4人はしゅんとした表情で頷く。
その頃、ソルから手渡された地図を片手に、マナウス・ドラッケン(ea0021)とヒルケイプ・リーツ(ec1007)は小屋へと急いでいた。
「男性を誘惑‥‥、いったいどんな方法を使うんでしょうか。後学の為にちょっと見学しておきたいです」
どきどきしつつもそれを実践する気満々のヒルケに、数々の浮名を流してきた(!?)マナウスはふっと微笑む。
「参考にするのはいいが、自分に合っているかよく考えろよ。背伸びせずにあるがままが1番だ」
「それはそうですけど、女性は自分を魅力的に見せるのに必死なんです〜!」
「まあそんな健気な所も可愛らしいと思うがね」
「余裕ですね‥‥がくっ」
恋愛経験値の圧倒的な差にヒルケは凹むものの、リーシャの元へと向かった雀尾嵐淡(ec0843)の事が気がかりでもあった。
彼は人間の冒険者────つまりリーシャの好みにどんぴしゃなのである。
「あなたって、本当に素敵‥‥」
「その、あまり見つめられるとどうしていいか‥‥」
案の定、翌日の夕方に小屋へと辿り着いた2人が見たのは、頬を薔薇色に染めて嵐淡にくっついているリーシャの姿。
「ふむ。確かに積極的だな」
「はっ! 新たな麗しき冒険者様発見!!」
リーシャはマナウスに気づき瞳を獣の如く光らせるが、くうぅっと唇を噛み締める。
「あんなに美しいのにエルフだなんて‥‥やはり嵐淡様が私の運命の人だわ」
何となく振られたような気分になって悔しいマナウスの隣で、ヒルケはリーシャの豊かな胸に釘付けになっていた。そしておそるおそる視線を自分の『それ』に向けた後、がっくりと膝を着く。
「完全敗北です‥‥とても敵いません。私に彼女みたいな魅了は出来そうにないです〜」
部屋の隅に移動してしくしくと涙を流すヒルケの両肩を、マナウスとシヴァがそっと叩く。
「気にするほど小さくは‥‥うむ、微妙だな。だが諦めたらそこで終わりだ。毎日愛情を持って話しかければ、期待に応えてくれるかもしれないぞ?」
「大丈夫ですよ。世の中には微乳派という男性もいますから」
「私は自らの胸と対話する変態さんですか!? 恋の選択肢は通好み限定ですか!? お2人とも、全っ然フォローになってないです〜!!」
ヒルケの悲しき叫びが森の中に木霊する。男性が思う以上に女性はそれに敏感なのだ。
数時間後に残りのメンバーも小屋へと合流し、自己紹介が行われた。
「あいや、かような艶やかな御婦人がナーガでござるか?! それにしてもその格好‥‥け、けしからぬでござる〜!!」
「可愛らしいおじ様ね♪」
露出の少ない服を着ていても隠し切れない豊満な胸に暴走し、小屋の中を走り回った銅鑼衛門も。
「美しい‥‥ナーガとはこれほどまでに美しいのですか。女性相手に見惚れたのは初めてかも‥‥」
「そういうあなたの方が、妖しげな魅力を持っていて美しいわ」
うっとりした瞳で賛辞の言葉を呟くシャルルも。
「どの男性も素敵だけれど、やっぱり彼が1番だわ♪ 好き! 大好きっ!」
同じ冒険者ではあるがリーシャの中では嵐淡に敵わなかった。
●恋は想う事、愛は想い合う事
翌日も好き好きオーラを放つ彼女の一途さに、嵐淡の心は絆され始める。
(「キエフで5人のオカマッチョと無数のオーガの大胸筋の海に襲われ、ぐんずほぐれず埋もれさせられた事を考えれば、種族の違いなどどうという事もありませんね‥‥」)
中々に壮絶な過去である。
「リーシャさんは乙女心の持ち主ですねぇ、義父様」
「ああ。だが憧れと恋愛は別物だ」
「うふふ。それを伝えるのは私にお任せ下さい〜」
リーシャの言動を見ていた2人は同じ事を思っていた。
「あんな、ジャパンのお茶か紅茶かどっちがええやろか?」
これから難しい話が始まると察した凪は、ほんわか笑顔でリーシャに尋ねる。
「ジャパンのお茶? そっちがいいわ」
「ん。任しときー♪」
凪は頷くとお茶を淹れ始めた。美味しいお茶を飲んでもらう為に、ゆっくり丁寧に。
「リーシャさん、僕達が何故ここに来たかお分かりですか?」
シャルルの問いにうーんと考え込んだ後、
「男性は旦那様になる為で、女性は応援してくれる為?」
彼女が出した答えはどこまでも前向きだった。
「残念ながらどちらも外れです。こんな馬鹿げた夢は諦める様に説得して欲しいと、私が依頼を出したのです」
冷静さを装うシヴァに「説得ではなく追い払えという依頼だったろ!」と全員は心の中で激しく突っ込む。
「ふうん。相変わらずやり方が陰険ね。でも私は気にしないし諦めないわ。やっと見つけた旦那(候補)様だもの、このチャンスを逃がしたら次はないんだから!」
続けて一同は「そこは気にする所だから!」と再び突っ込んだが、若干1名はリーシャの言葉に激しく同意していた。
「とても、とってもよくわかります! 私、協力しますから!」
このメンバーの中では常識人に見えるヒルケである。
彼女は周りから取り残された感を感じていて、恋に貪欲な気持ちに同調してしまったのだ。
「ささ、粗茶やけどどーぞ♪ 熱いから火傷にきーつけてな」
凪は湯気の立つお茶をリーシャに手渡す。
そして彼女の顔が笑顔に変わるのを見て、再び和み笑顔を見せるのだった。
「ところでリーシャ殿」
お茶で一息をついたリーシャに、銅鑼衞門はある企みを胸にずずいと近づく。
「どうしたの、ドラちゃん?」
「是非是非ミーを弟子にして下され〜〜! 銅鑼衞門のドラはドラゴンのドラ。これも何かのご縁でござる。御三方を師と崇め、竜言語魔法習得の大業を果たしたき所ぞ‥‥」
「ゴメンね。種族的に無理なのよ」
「そ、そんなぁ〜!」
あっさりと散った銅鑼衞門の野望だった。
「‥‥リーシャ、俺は恋も愛も否定する気は無い。しかし、少し大事になりかけてるんだ」
それまで黙っていたマナウスは、真剣な瞳で口を開いた。
「どういう事?」
「馬鹿な男に姿を見られたせいで、今後『化物』として討伐の依頼が出ても不思議じゃない」
差別的な言葉にシヴァとソルがマナウスに掴みかかろうとするが、シェリルが得も言われぬ圧力でそれを制す。
「それにあなたは今、恋に恋しているのですね〜♪ ただ、あなたが求める恋は本当の恋でしょうか? 愛でしょうか?」
「恋にじゃない、私は嵐淡様に恋してるわ! それに本気だったら恋も愛も同じでしょ?」
「本当の『恋』と『愛』の違いが分からない内はまだまだなのですよ〜」
シェリルは意味有り気に微笑むと、ちらりとマナウスに視線を移した。
「恋は素敵で想う力は無敵です。ですがあなたは嵐淡さんへの想いを諦めなければなりません。それは絶対に叶わぬ想いです」
苦しむと分かっている恋に身を窶すリーシャの姿が、シャルルの中で己と重なる。
「どうしてそんな事を言い切れるのよ? 酷いわ‥‥」
「許されざる恋は想うだけで留めなければいけないんです。相手を困らせても、気持ちを告げられればあなたは満足ですか?」
涙ぐむリーシャは言葉を詰まらせる。
シャルルの言っている事が正しいと悟ったからだ。
「一個人としての意見を申し上げる事をお赦し頂けるのでしたら‥‥リーシャさんがナーガであっても問題ないと思いますよ。婿になれと仰るなら私なら首を縦に振ります」
「嵐淡様‥‥」
差し出されたハーブティーを口に含むと、嵐淡の優しさが伝わってきた。しかしそれは決して愛ではない。
「一つ提案なのだが、3人で冒険者登録をしてみたらどうだ? そうすれば冒険者街に住めるし、出会いも増えると思う。せっかくキャメロットに来たんだ、何か得ていったらどうかね?」
「冒険者と共に過ごし、学んでみるのです〜。本当に自分が望むものが見えてくるかもしれませんよ〜♪」
「きっと種族を超えた絆が生まれるでござるよ」
マナウスの考えをシェリルと銅鑼衛門が後押しする。
しかしナーガが冒険者になる事を望むのなら、かなりの苦労を強いられるだろう。そしてどれだけ努力したとしても、叶わない可能性の方が大きい。
それこそ夢の様な話ではあるが、1つの道を示してくれた彼等にリーシャは深い感謝の気持ちを抱くのだった。早く故郷に帰りたいお付き達は複雑な顔をしていたけれども。
「皆、ありがとう‥‥心配してくれてたのに怒鳴っちゃってゴメンなさい」
「誰もそないなこと気にせえへんよ♪ でもナーガ族の男の人と付き合う事も考えてみてな?」
凪の優しい言葉にリーシャは曖昧な顔で微笑んだ。
「困った時はいつでも依頼を出して下さいね? 飛んで行きますから」
「ありがとう。いい恋をしてね」
心配そうなヒルケの頭を優しく撫でると、リーシャは愛しの嵐淡に向き直る。
「嵐淡様、私のお婿様探しごっこに付き合ってくれてありがとう。嘘でも嬉しかったわ」
「いえ、私は決して軽い気持ちでは‥‥」
「夢の時間は終わりよ。もしまた会えたら‥‥私の事、お友達だって言ってくれる?」
本音を押し殺したリーシャの言葉。
それに頷く嵐淡の顔は泣きたくなるほど優しい。
リーシャはあまりに短かった恋の終わりを受け入れながら、きっと彼を一生忘れる事は出来ないと、そう思うのだった────。