【黙示録】孤島に眠るもの
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■ショートシナリオ
担当:綾海ルナ
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:16 G 29 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月29日〜02月08日
リプレイ公開日:2009年02月06日
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●オープニング
海は荒れ、闇は蠢く。
『まだだ。まだまだ、これからだ‥‥』
イギリスのみならず全世界に広がりつつある瘴気を感じたのか『彼』は空を見上げ呟いた。
『待っているがいい。お楽しみはこれからだ。‥‥お前の大事な者達も迎えてやろう。闇の賓客としてな』
『彼』はそう言って楽しげに笑う。
暗闇の奥の何かに向かって‥‥。
新年が明け、公現祭が終われば冬の休みも完全に終わる。
けれど、王宮に、冒険者に、そして北海に休みなどは実は無かった。
「北の海が再び荒れ始めています。デビルがまた多く、目撃されるようになってきたのです」
王城からの使者が係員に伝えるのと、ほぼ時同じくして、北海からはまたデビル襲来による退治や、調査の依頼が多く舞い込んできていた。
「これらの依頼に参加される方々に、依頼を追加したいと言うのが我が主の仰せです」
若い騎士は依頼書を差し出しながら告げる。
依頼主はパーシ・ヴァル。
依頼内容は先の時と同じ『船長』の捜索である。
「ご存知の方も多いことですので、もう隠しませんが今回の北海でのデビル騒動の影に常に一人の『人間』の姿があると言われています。その人物は『船長』と呼ばれている初老の男性。円卓の騎士パーシ・ヴァル様にとってかの方は身内同然なのだそうです」
その人物はデビルの出現や陰謀の表裏に常に存在し、人々を苦しめているという。自らをデビル。『海の王』であると名乗って‥‥。
「『船長』を発見した場合、可能な限り確保して欲しい。それが難しければ何らかの情報を。それがパーシ様からの依頼です」
デビルを指揮する者。
その正体が人であれ、デビルであれ発見し、会話し、可能であれば捕らえれば解る事がある筈だ。
「現在、パーシ様は城を動く事が叶いません。ですが、表に出さずとも家族を心配なさっているお気持ちはお持ちの筈。どうか、よろしくお願いします‥‥」
頭を下げた騎士の背後に見えた思いを係員は差し出された報酬と依頼書と共に受け取った。
高く澄み渡る冬の青空の中で、あの孤島の上空だけ淀んで見えるのはこの心にある疑惑の所為だろうか。
メルドンに駐在する王宮騎士フランシスは潮風に靡く黒髪を抑えながら、いつもは涼しげに見える双眸を不安に揺らめかせる。
「昨日よりも数が増えている気がするな‥‥」
孤島の上空に見える鳥の様な黒い影は初めてその姿が発見された日から徐々に数を増やし、最近では『あれはデビルではないか』と噂される様になっていた。
その噂の理由として、穏やかならざる事態がメルドンで起っているのだ。
「あの影がデビルだとするならば、島の近くに行った船乗り達が帰ってこないのも頷ける。だが確証も無しに動けないのがこの身の辛い所だ」
有名ではないにせよ、仮にもフランシスは王宮騎士であり、このメルドンの復興と住民を守る事を義務付けられていた。冒険者の様に自由が利かない身の上なのだ。
かの誉れ高き円卓の騎士パーシ・ヴァルがこの北海に関係のある依頼を冒険者ギルドに出した事を、フランシスは耳にしていた。
騎士として尊敬する彼の手助けをしたいという想いは強いが、職務を投げ出すわけにはいかない。
遣り切れなさにふと視線を島から浜辺へと移した時、そこに1人の船乗りが倒れているのを発見した。這う様に砂浜を進むその姿からまだ息がある事を確認し、フランシスは急ぎ浜辺へと駆け下りる。
「よくここまで辿り着いたな! 急ぎ怪我の手当てをしよう」
「‥‥俺は助かったのか?」
乾いてひび割れた唇でそう尋ねる船乗りに、フランシスは力強く頷いた。
「これで、伝える事が出来る。あの島には近づくな‥‥」
「貴殿はあの島から帰ってきたのか? だが話は後で聞こう。今は養生が先だ」
船乗りの体調を気遣い、その体を抱えようとしたフランシスの腕が痛いほどの力で掴まれる。
「今もあの近くに漁に行こうとしている奴がいるだろう? 頼む、止めさせてくれ。あそこにはデビルがいる‥‥」
「‥‥そうか。やはりあの影はデビルだったのだな」
「ああ、蝙蝠みたいなデビルだ。だが奴らだけじゃない、水浸しのズゥンビみたいなのと骸骨もいた。きっとあいつらの手下だ」
船乗りは気力を振り絞り、縋る様にフランシスの瞳を覗き込んで訴える。
「あの島で俺達は、背中に瘤のある不思議な動物に乗った美しい女に出会ったんだ。女は『この島には隠された財宝がある』と教えてきた。胡散臭い話だが、近くに船乗りの格好をした男がいたからついつい付いて行っちまったのさ」
「女と船乗りの男‥‥2人がデビルを率いていると?」
「男はすぐにいなくなっちまったが、女が手をかざすと仲間から黒い靄の様な物が出てきて、それが白い玉になったんだ‥‥きっとあれは魂だ。魂を抜き取るだなんて、デビルに決まっているっ!」
脳裏にその時の光景と恐怖が蘇ってきたのだろうか。がくがくと震えた後、船乗りは意識を手放した。
逞しいその体を抱えるフランシスの中で、言い知れぬ不安と共に警鐘が激しく鳴り響く。
「あの孤島に複数のデビルがいるのは間違いない。それに女と共にいた船乗りの男とは、もしや‥‥これは調査に行かねばなるまい」
呟きは潮風にかき消される。
だがフランシスの胸の内に宿る使命の炎は赤々と燃え盛るのだった。
ほの暗い洞窟の奥深くで、女は満足気にあるものを見つめて微笑んでいた。
(「うふふ。この短期間にいっぱい集まったわ。また1歩、昇格に近づいたわね」)
女の正体はゴモリーという中級デビルである。
ありもしない財宝の話をすると、船乗り達は欲に駆られてほいほいと付いてきた。お陰で労せずして1度に複数の魂を手に入れる事が出来たのだ。集まったものの質もそれなりには良い。
「与えられた仕事は真面目にやっているだろうな?」
見つめていたものからゴモリーが離れた時、低い声が響いた。
「ええ、もちろんですわ。貴方が下されるのは私にとって至上命令ですもの」
「万が一失敗した場合はどうなるかわかっているな? しくじらない様に励む事だ」
ゴモリーが膝を着き主従の意を表すのは、船乗りの格好をした男性。
彼はゴモリーを一瞥すると、踵を返してその場から立ち去った。
「‥‥でも、退屈しのぎにちょっと遊ぶくらい、大目に見て下さいますわよね?」
ゴモリーは視線を先ほど見つめていたものに戻すと、唇を歪めて微笑んだ。
●リプレイ本文
●死の島に挑む
空を覆う雲は厚く、うねる鈍色の海には無数の丸い波山が姿を現している。
依頼人のフランシスは物腰柔らかな青年であった。自己紹介の後、依頼の詳細が説明される。
「あの孤島に近づいた船乗り達が次々と行方不明になっている。生還した1人の話によると、どうやらデビルの仕業らしい。出現したのは蝙蝠の様な者、骸骨、船乗りの姿をしたズゥンビだ」
「蝙蝠はインプ、骸骨はスカルウォーリアー、船乗りのズゥンビはブルーマンだな。私のモンスター知識がそう告げているから間違いないっ! はっはっはっ!」
得意げに高笑いをあげるのはデュラン・ハイアット(ea0042)だ。
「あの性格で相当損してますねぇ」
「おもろいなぁ♪」
ヒルケイプ・リーツ(ec1007)の隣で藤村凪(eb3310)はおっとりと微笑む。
「ああ、私も同じ見解だ。問題はそれらを束ねていると思われるデビルの存在だ。背中に瘤のある動物に乗った美しい女性らしいが‥‥」
「その動物は駱駝ですね。気候の暑い砂漠地帯の騎乗動物ですから、この辺りで見かけるだなんてかなり珍しいと思います」
動物知識に長けているリン・シュトラウス(eb7760)は、えへん! とない‥‥控えめな胸を張って答える。
「他にお話を聞いていませんか?」
アルテス・リアレイ(ea5898)の問いにフランシスは神妙な面持ちで口を開く。
「女性は『この島には財宝が眠っている』と唆し、船乗り達を上陸させていたと聞く。恐らくは虚言だろう」
「それだけ特徴がわかっていれば、正体が掴めるかも知れません」
ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)は持参した写本 「悪魔学概論」を開き、持ちうるモンスター知識を総動員して女性デビルの特定を試みるが、その眉根が徐々に寄せられていく。
「私にもお手伝いさせて下さいませ」
かなり高度のモンスター知識を持つリュー・スノウ(ea7242)も本を覗き込む。
答えを出すまでには暫しの時間が必要だと感じたレイア・アローネ(eb8106)は孤島を見つめているフランシスに近づく。
「出発前に3つほど相談があるのだが、構わないだろうか?」
「私に出来る事ならば尽力しよう」
「まずは我々が使う船に大型動物は乗せていけるか? 孤島の調査として飛行出来るものは役に立つ。2体とも連れて行きたい」
フランシスは冒険者達が連れているペットに目を移した。
「すまないがペガサスは騎乗して連れて行ってもらうしかないな。他は大丈夫だ」
円卓の騎士ではなく一介の王宮騎士の彼に大きな船を用意できる権限は無かった。
「どうかお気になさらずに。2体で船を挟む様にして島に向かえば安全ですから」
申し訳なさそうに頭を下げるフランシスに、ペガサスの持ち主の1人である陰守森写歩朗(eb7208)は笑顔で頭を振る。
「次に呼子笛を2つ用意して欲しい。手分けをして調査する場合、来襲に備えたいからな」
今回、冒険者達は3手に別れて島で行動する計画を立てていた。
もう1つの呼子笛は、街で情報収集を行っているマナウス・ドラッケン(ea0021)が所持している。
「わかった。すぐに手配しよう。3つめは何だろうか?」
「これは有効かどうかすら定かではないが、お前の身なりを冒険者風に仕立てたい。バレて元々、上手くいけば向こうを油断させられるしな」
「確かに一理あるな。では早速着替えてこよう」
間もなく戻ってきた彼は落ち着いた服を纏っていた。
「ただいま。収穫ありだ」
そこにマナウスが戻ってくる。
「おかえり。随分と張り切っていな?」
「ああ。敵とは言え興味をそそられたからね」
レイアは不審な視線をマナウスに向ける。
「美女のデビルと聞いて参加したのか?」
「それもあるかな」
「この無節操者が‥‥!!」
正直な答えにレイアは不機嫌そうにマナウスを睨みつけ、その場を立ち去ってしまった。
痴話喧嘩を目の当たりにしたリンの目がきゅぴーんと光る。
(「あの2人、怪しいわ!」)
彼女の推測は当たらずとも遠からず、と言った所か。
「準備も整ったし出発しよう。島に着くまでに皆が考えた案を聞かせて欲しい」
フランシスの言葉に全員は頷き、手入れの行き届いた頑丈そうな船に乗り込んだ。
「あそこは無人島で人の住める家屋は皆無だ。当然道は整備されていないから足場は悪いし、木が多くて視界も悪い。それにいくつかの洞窟が存在するらしい。おおよその場所についてしか聞けなかったが」
まずはマナウスの得た情報が皆に話される。
「その1つを根城にしてる可能性が大きいですが、全部を調べていたら時間が足りません」
「島全体を見渡してから改めて策を練るのがいいだろう」
森写歩朗の呟きにデュランは良策を提案する。
「最後に‥‥沖合いでこれを樽ごと拾った男から預かってきた」
「手紙やろか?」
マナウスは懐から羊皮紙を取り出し、凪に投げ渡す。
「あの女は自分が‥‥というデビルだと名乗っていた。俺達は洞窟の牢に入れられている」
「頼む、助けに来てくれ! 天井‥‥光が‥‥む洞窟だ。奥には‥‥れた‥‥がいる。きっとあれは‥‥だ!」
必死にレイアと凪が読み上げる。所々はインクが滲んでいて読めなかったが、女性デビルと捕らわれた船乗り達は同じ洞窟にいるとわかった。
「まだ生きている方がいるなら、何としても連れて帰らないと」
「デビル許すまじ! です。私はせめて遺品なり持ち帰ればと思っています」
ギュッと拳を握り締めるヒルケ体を寄せ、リンは力強く宣言する。
「希望を捨てずに一刻も早く救出しなければな」
島を見据えるフランシスの肩に、そっとジュヌヴィエーヴの手が触れる。
「女性の正体がわかりました」
その言葉に全員の視線が彼女とリューに集まる。
「恐らくはゴモリーと言う中級デビルです。外見、財宝の話をして人を惑わす手口共に一致致しました故、間違いはないと思います」
「陽魔法と悪魔法の全種類を専門レベルで扱う事に加え、魅了や言霊で相手を自在に操る事も可能な強敵です」
静かながら確信めいたリューの言葉をジュヌヴィエーヴが繋ぐ。
「接近戦には弱いかもしれませんね」
「ああ、体力は低いだろうな。この私の様に!」
森写歩朗の推測に白い歯を光らせて同調するデュランに全員から笑い声が漏れ、戦いの前の緊張が和らいでいく。
「きっと私達を近づけさせない戦法を取ってくる筈だ。バランスの良いこの班分けは正解だな」
メンバーの振り分けをしたリンの頭をレイアはよしよしと撫でる。
班は3つに分けられ、1つが船の護衛を、2つが空中と地上に分かれて島の探索を行う。
「それにしても、宝がある! かもしれない謎の孤島での冒険か。何とも心躍る話ではないか」
「謎! 宝? ドキドキします♪」
「いや、ないから」
お気楽な会話を交わすデュランとリンにレイアはびしっとつっこみを入れる。
「魂‥‥デスハートンか。パリでは破滅の魔法陣に使われたと聞くが、今回は何に使おうと言うのか‥‥」
「うむ。孤島の空に立ち込める謎の影、そこで魂を集める女デビル。魂は何かを蘇らせる為の生贄か」
マナウスの呟きにデュランは顎に手をやり、暫し熟考する。
「空の影は恐らく本能的に危険を察知した野生の鳥だろう」
デュランはキエフでもアストラールを呼び出す儀式や事件に関わってきた経緯を持つ。
「島で魂を集める訳があるとすれば、恐らくは何かの儀式を行うに相応しい場所があるのではないでしょうか。ゴモリーがいる洞窟の他に、それらしい場所も探さなければなりませんね」
「禍々しいものがあったら壊した方がいいかもしれんな。要相談だが」
リューの推測にマナウスは神妙な面持ちで頷いた。
「孤島でデビルが人を惑わしている‥‥由々しき事態です」
「ええ。デビルの誘いにはどんな条件だろうと、例え演技でも乗らない事を誓います。心から‥‥断じてありません」
聖職者であるジュヌヴィエーヴとアルテスの想いは強かった。
船を岩陰に隠れた場所に泊め、孤島へと上陸する。
転々と散らばる遺品。
そして足跡は砂浜で途切れ、そこから覗く白骨化した腕‥‥犠牲者の数が少なくは無いという現実を突きつけられる。
無残な姿となった船乗り達が乗っていたであろう船に打ち付ける波の音を聞きながら、一同は怒りと悲しみに体を震わせた。
●仲間を信じて
探索がしやすい様にとデュランがリトルフライの魔法で島の上空へと浮かび、テレスコープのスクロールを用いて目星をつけてくれようとしたが、背の高い無数の木々に阻まれて有力な情報を得る事は出来なかった。
ヒルケの提案で探索班は東西二手に分かれて行動し始める。
空中部隊はクラウディアスとラウにそれぞれ2人乗りをして探索を行っていた。
「船乗りから場所を聞いた洞窟は外れだったか」
「まだ時間はあります。気を取り直して参りましょう」
マナウスの背中越しにジュヌヴィエーヴはたおやかに微笑む。
島の半分を過ぎた頃、前方に数匹のインプの姿が見えてきた。あちらはまだ気づいていない様だ。
「怪しいですね。あの下に洞窟があって、彼等は見張りをしているのかもしれません」
「行ってみる価値はあるな」
マナウスは武器を握り締めてインプ達へと向かって行く。
森写歩朗とヒルケは一足先に地上に降り立ち、戦いの準備を整え始める。
(「もう失敗をして皆さんに迷惑をかけません!」)
強い決意を胸に放たれたヒルケの矢は、インプの羽を射抜く。落ちた敵は森写歩朗の魔獣の短剣+2の餌食となった。
ジュヌヴィエーヴは騎乗時から魔導書「ゴエティア」+1を読み上げ、インプ達を弱体化させていく。
彼女を背に庇いながら、マナウスはホーリーランスで次々と敵を薙ぎ払う。打ち損じはヒルケが魔弓「ウィリアム」+1で確実に止めを刺していった。
あっさりと戦闘は終了するが、索敵アイテムは洞窟の中にもデビルはいないという結果を示す。
「彼等に聞いてみましょう」
ヒルケはグリーンワードのスクロールを使い、木々に『最近変わった事はなかったか?』『動物に乗った女性の行方を知らないか』と尋ねてみる。
返ってきたのは『この洞窟に人間の男性が入っていった』と『女性の行方は知らない』という答えだった。
もしやその人物はオレルド船長ではないかと4人は思う。
出発前にフランシスから『不審な女性と一緒にいた船乗りの男性がオレルド船長の可能性がある』と聞かされていたからである。
4人は意を決してマナウスを先頭に洞窟へと侵入する。
途中で2体のスカルウォーリアーと遭遇したが、短時間での撃破に成功する。
「これは宝石でしょうか?」
「みたいですね‥‥きゃっ!」
行き止まりにあった小さな木箱を開けると、キラキラとした無数の物が入っていた。
森写歩朗の視線の先をランタンで照らしたヒルケの目に、白骨化した遺体が飛び込んでくる。だが纏っているのはボロボロになった商人風の衣装だ。
「この方の為に祈りを捧げましょう」
ジュヌヴィエーヴに倣い、3人も瞳を閉じて彼の冥福を祈った。
「これは頂いていこう。ここに眠らせておくよりも有効な使い道がある」
「‥‥遺族の方にお配りするのですね。明日を生きる糧になる様に」
森写歩朗はマナウスの心意気を感じ取り、微笑んだ。
船を護衛する3人と操舵者は、東西南北の方向にそれぞれ視線を巡らせていた。
「男女が2名ずつとは、ロマンスの香りがぷんぷんだと思わんか?」
「しっかり警戒して下さいよ。でもまぁ、そんな気がしないでもないですね」
デュランの言葉に操舵者は表情を綻ばせる。
しかし‥‥
「うち旦那さんいてるん。ごめんな〜」
「私も人妻にございます」
あっさりと打ち砕かれる下心。だが転んでもただでは起きないのがデュランである。
「何と言う運命の悪戯! しかし人妻とは背徳が香り立つ甘美な誘惑だ‥‥」
「やらしい目ぇで女の人を見たらあかんよ? お仕置きや」
凪はにこにこと笑顔のまま、デュランの頭をぽかりと叩く。
和やかな空気にリューは微笑みながら、デティクトアンデットを唱える。その瞳が僅かに見開かれた。
「‥‥来ます。数は4体。戦闘準備を進めて下さい」
砂浜に響く凛とした声が敵の襲来を告げる。
程なくして海底から2体が、空中から2体が襲い掛かってきた。
リューはホーリーライトで15mもの光球を作り出し、ブルーマン達を牽制する。
この光に照らされている所には使命を持たないアンデットは近寄る事が出来ない。ゴモリーに使役されているか否かを確かめる意味もあった。
「逃げて行く‥‥使役されているわけではないのですね。彼等を動かすのは生ある私達への憎しみのみ‥‥哀れな」
悲しみに眉を顰めるリューの言葉が一同の胸を打つ。
「ならば私達が苦しみから解放すればいい。痛みを乗り越えろ!」
デュランの手から放たれるライトニングサンダーボルトが崩れかかった体を焼き切る。
その体を包むのは、デュランに頷くリューの浄化の光。海で命を落とした魂は、安らぎと共に砂浜に消えゆく。
「いま楽にしたる。こんなの、こんなの悲し過ぎや!」
凪は仲間の前に立ち塞がり、陰陽小太刀「照陽」+1でブルーマンを斬りつける。一太刀、二太刀、悲しみを堪えて。
「すごい。これが冒険者達の実力か‥‥」
光球の近くで操舵者は、繰り広げられる戦いに見入っていた。
前衛の凪が敵に囲まれそうになると、すかさずデュランがストームでそれらを吹き飛ばし、瀕死の敵をリューのピュリファイが浄化していく。
見事な連携で確実にしとめて行くものの、ブルーマン達は次々と姿を現してきた。何体倒したのかさえわからない。
疲労の色が濃くなる3人をさらなる敵が襲う。
「インプです!」
操舵者は大声で叫ぶ。その声に空を見上げた3人が目にしたのは、無数のインプの姿。新たなブルーマンも海から這い上がってくる。
「もうあかん。船を壊されたら仕舞いや」
「救援要請を!」
2人の悲痛な声にデュランは頷くと、空に向けて雷撃を放った。仲間が来るまでは何があっても持ち堪えて見せると、覚悟を決めながら。
一方、地上の探索は悪路の所為で移動に予想以上の時間を取られていた。
少数の敵に数回遭遇したが、見事な連携で誰1人として怪我を負っていない。
しかしやっとの思いで見つけた洞窟にデビルの反応は無く、徒労に終わっていた。
「マナウスさんと離れ離れで寂しいですか?」
徐にそう尋ねるリンにレイアは頬を真っ赤に染める。
「わ、私もマナウスも前衛だから分散せねばならない。仕方のない事だ」
「仕方ないですって! やっぱりそうなんだー♪」
「違う! 断じて違うっ!」
きゃいきゃいとはしゃぐ乙女2人をアルテスとフランシスは微笑ましく見守っていた。
「君達を尊敬するよ。私の凝り固まった思考からは考え付かない、柔軟な策を思いつけるのだから」
「立場に縛られない自由さがありますから」
賛辞の言葉にアルテスは優しげな微笑を見せる。
(「アルテスさんは可愛過ぎだし、フランシスさんは素敵だし‥‥来て良かった!」)
むふふん顔で2人を見つめるリンのおでこを弾くレイアは呆れ顔だ。
「いたっ!」
「頼むから真面目に地図を書いてくれ。全く、緊張感のない‥‥」
ふうと息を吐くレイアは、遠くから聞こえてきたエスメラルダとラクリマの鳴き声に表情を引き締める。
「龍晶球に反応が無いという事はアンデットですね」
「その様だな」
アルテスはホーリーを唱え始め、フランシスは剣を構える。
浮遊しこちらにゆっくりと向かってくる数匹のブルーマンが見えたからだ。
「よりによってこっちですか? ほねほねの方がマシですよー」
「文句を言うな! しかし地上だと遭遇率が高いな。これでは探索が進まないではないか!」
リンのムーンアローをくらった敵に、レイアはリベンジ・ゴッヅ+2を振り下ろす。
フランシスに首を跳ね飛ばされてもなお向かってくる敵を、アルテスのホーリーが襲う。
鈍重ではあるが体力の高いブルーマンを殲滅するのにかなりの時間を有し、いつの間にか雲の晴れた空はすっかり夕焼け色に染まっていた。
「あれは‥‥」
優良視力を持つアルテスの目に、遥か先にある木々から飛び立つ1匹のインプが映る。
「どうした?」
同じく目のいいレイアがその場所を見つめると、今度は別のインプが木々の間に下降する様に姿を消した。
2人は目撃した事をリンとフランシスに報告する。
「そこに洞窟がある可能性が高いな。近くに行くだけ行ってみるか?」
フランシスがそう尋ねた刹那、空に雷鳴が響いた。
浜辺から夕焼け空に向けて放たれたライトニングサンダーボルト────救援要請の合図だ。
4人は急ぎ船のある岩場へと向かう。
辿り着いた時には既に空中班も戦いに参加しており、ブルーマンとインプの混合部隊を退ける事に成功した。
「助かったわ〜。インプは大した事なかったんやけどなあ。ブルーマンがしつこくてあかんかったわ」
相変わらずのんびりした口調の凪だったが、その顔には汗が噴き出し、腕からは血を流していた。
肩で息をするデュランの顔色は蒼白で、リューは凪にリカバーを唱えた後、その場に倒れ込んでしまった。
「私達は数の暴力を侮っていた様ですね」
リューを抱きかかえながら、ジュヌヴィエーヴは唇を噛み締めた。
●目覚める謎
2日目の早朝。
朝日に照らされるクラウディアスとマナウスの姿があった。
「天井に穴が開いていて光が差し込む洞窟、か」
鬱蒼と茂る木々に透けて見える、吹き抜けの様な穴。そこに出入りするインプ達が見える。
「やはり間違いない。森写歩朗のバーニングマップもここを示していた」
昨夜、探索班が書いた地図が1つに纏められた。燃やされた地図の灰が示した道筋はただ1つ。この場所だった。
確信を得え、既に洞窟へと向かっている仲間の元へと戻る。
「フランシスさん、大丈夫でしょうか?」
「気になるのか? さては惚れたな?」
「し、心配なだけです!」
ちらちらと浜辺の方を振り返るリンを、レイアはお返しとばかりにからかう。
3人では船の護衛は厳しいと悟った彼は、自ら残る事を選んだのだ。
(「愛らしい凪さんと綺麗なリューさんと一緒だし、ちょっと面白くないかも。でも‥‥」)
リンは出発前のフランシスの言葉を思い出す。
索敵アイテムと魔法を用い、敵に見つからない様に迂回して洞窟に近づく。時間はかかるが、戦力は温存しておかなければならない。相手は中級デビルなのだから。
やがてマナウスも合流し、洞窟の入り口へと辿り着いた。
「恐らく10体以上でしょう」
「デビルの反応もあります」
ジュヌヴィエーヴと森写歩朗の言葉に誰ともなく生唾を飲み込む音が聞こえた。
「油断は禁物ですが、一刻も早くゴモリーを倒しましょう!」
力強いヒルケの言葉に全員は頷くと、洞窟へと侵入する。
全員の姿が見えなくなった後、1匹のインプが冒険者達の侵入をゴモリーへと伝えた。
「弱って動けなくなった所まで迎えに行ってあげるわ」
ゴモリーはくすくすと笑うと、あるものに目を移す。
冷たく物言わぬそれは、近づきつつある冒険者に呼応するかの様に、一瞬だけ煌いた。
洞窟は長く、果てしなく思えた。
少数ずつ襲ってくる敵に狭い通路で苦戦を強いられ、陽の光がないので時間の経過もわからずに冷静に務めようとしても焦りが募っていく。
「ここは随分と開けてますね」
突然、目の前に広がる空洞。不自然なそれにアルテスは胸騒ぎを感じる。
「気をつけろ! デビルの反応ありだ!」
「アンデットも来ます!」
レイアとジュヌヴィエーヴの叫びに、一同は様々な方法で個々の能力や耐性を高めていく。
目には見えない気配と威圧感が第六感を刺激し、警戒する────もうすぐゴモリーが現れると。
そして彼女は現れた。残酷な貴婦人の様に。
「ここまで来るなんてやるわね。楽しませてちょうだい!」
ゴモリーは印を結び、手を前方へと突き出す。
「炎の結界!?」
「試してみましょ!」
漆黒の炎向けてヒルケが矢を、リンがムーンアローを放つと、それは弾かれて透明な境界線が一瞬だけ露になる。
「ならば壊すのみだ! 行くぞ!」
「言われずともそのつもりだ!」
マナウスとレイアが次々と斬り付けていくが、まるで手応えがない。
「この結界は壊す事は出来ませんが進入は可能かもしれません!」
「私が行きます!」
何かに気づいたジュヌヴィエーヴの言葉に、森写歩朗は結界へと飛び込む。
あっさりと通り抜けられた瞬間、彼の体を痛みが襲う。
駆け寄ったマナウスとレイアも痛みに眉を顰める。幸いにも3人に怪我はない。
「この魔法は初めてかしら?」
せせら笑うゴモリーの背後から、複数のインプとスカルウォーリアー、ブルーマンが姿を現した。
インプは結界内に進入するものの、ダメージを受ける様子はない。デビル配下の者には効果がない様だ。
アンデット達の体が結界に入った瞬間に揺れるものの、痛覚のない彼等は構わずにこちらへと向かってくる。
「1回入ってしまえば痛くも痒くもないな」
レイアはインプを青い刀身で薙ぎ払う。マナウスと森写歩朗も相対する敵を斬りつけていくが、3人だけで倒せる数ではなった。結界の外からの援護を得られず、敵に囲まれていく。
「効果が切れるまで待ってられない!」
背後から近づいてくる敵がいない事を確認した4人は、リンが叫ぶのと同時に結界へと飛び込む。
痛みに耐えて放たれるムーンアロー、ピュリファイ、魔力を帯びた矢が敵に襲い掛かる。
「全員入ったわね。これで私も攻撃できるわ!」
ゴモリーは高速詠唱を用いてブラックフレイムを放つ。
「うあぁぁっ!」
漆黒の炎にアルテスが包まれたと思った瞬間、間髪入れずにもう1つの炎が襲う。
「アルテスさん!」
ぐったりと動かないアルテスにリカバーを唱えたくとも、ジュヌヴィエーヴは敵に阻まれて近づく事が出来ない。
「一気に重症とは‥‥ですが私が守ります!」
森写歩朗は自らで薬を飲む事も叶わないアルテスを背に庇い、向かってくる敵を打ち払う。
「あら、時間切れね」
消えていく結界にゴモリーは残念そうに呟く。
「このままじゃ埒があかん! 突っ込むぞ!」
「我が愛しの姫は勇ましいね。そういう所が好きなんだが」
レイアは前方の敵を斬りつけた後に足で蹴っ飛ばす。それよりもほんの数秒早く敵の囲みから抜け出したマナウスは、ゴモリーに突入していく。
「魅了されるなよ!」
「愛情で耐える。レイアがいるからな!」
2人のやり取りを聞いたゴモリーはにやりと微笑む。
「妬けるわねぇ」
瞬間、マナウスをゴモリーの魅了が襲う。
脳髄に響く様な耐え難い甘美な誘惑。気を抜けば蕩けそうになる意識を必死で繋ぎ止める。
「マナウスっ!」
視界の端に泣きそうなレイアの顔が映った瞬間、マナウスは魅了を打ち破った。
「やるじゃない。これはどう? 『レイアを』『殺せ』うふふっ。」
続けて抵抗する事は難しく、マナウスはゴモリーのフォースコマンドに操られてレイアへと槍先を向ける。
「逃げろ!」
レイアは覚悟を決め、マナウスに対峙した。
「お前の攻撃を全て受け止めてやる!」
「来るなっ!」
マナウスの叫びが武器の音にかき消される。火花を散らし繰り返される攻撃と防御。両者のそれは全く互角だった。
「2人が戦ってる!?」
「きっと言霊でしょう。卑劣な‥‥」
襲い来る敵の対処に追われ、メロディーを唱える余裕がなかった事を悔やむリン。ジュヌヴィエーヴはゴモリーを睨みつける。
「きゃあっ!」
「ヒルケさん!?」
2人を背に庇い戦っていたヒルケが、ブルーマンに殴り飛ばされる。
「これだけの数相手では、オフシフトでかわすにも限界がありましたね‥‥でもお2人は私が守ります!」
震える体で懸命に立ち上がろうとするヒルケ。
回復よりも敵への攻撃を優先させなければならない劣勢に、ジュヌヴィエーヴの胸は張り裂けそうなほど痛む。
ゴモリーの魔法と無数の敵の攻撃にさらされ、冒険者達は傷を回復するのもままならない状況に追い詰められていた。このままではいずれ全滅する。
『リン殿の合図がどんなものであろうと、私は見逃しはしない。頼んだぞ!』
フランシスの言葉をリンは再び思い出す。
「助けを呼んできます!」
駆け出すリンの小さな背中に、2人は願いを託す。
リンは無我夢中で洞窟を駆け抜けた。
やっとの思いで外へ出た瞬間、足が縺れて転んでしまう。
「お願い、助けて‥‥」
赤くなった鼻と溢れる涙を気にせずに思い切り横笛を吹き、空に向けてファンタズムを唱える。
その音に気づいた4人は空を見上げる。
そこには『C』の文字とリンの泣き顔の幻影があった。
「あれは『CRY』だろうか‥‥泣き虫のリン殿らしいな」
フランシスの言葉に一同は微笑む。
幸い、敵の姿は見えない。1人残すと危険なので操舵者も連れて行く。
無事を祈る気持ちも虚しく、辿り着いた先には悲壮な戦いを繰り広げる仲間の姿があった。
「一体なにしてるん!?」
凪の視線の先には、自らを攻撃するマナウスの姿があった。
「止めろぉっ!」
気丈なレイアは涙を零し、自傷を繰り返す彼を見つめる。
「俺は愛する女達を守る為に戦う。決して傷つける為じゃない‥‥ぐうっ!」
自らを攻撃する事によって命令に逆らう事が出来る。それに気づいたマナウスだが、重症を負った体が地面に伏し動かなくなる。
「貴様、よくもっ!!」
2人は1度として傷つけて合っていない。
怒りの炎を胸に斬りかかるレイアを漆黒の炎が続けて襲う。
「うあぁっ!」
炎に焦がされ転がる彼女にアンデット達が群がる。
「‥‥貴女の想い、受け取りました」
最後のMPを使いリカバーを唱えてくれたジュヌヴィエーヴに報いる為、ヒルケは弓を連射する。全快ではないがまだ動けると確信していた。
デュラン、リューの魔法攻撃が功を奏し、程なくして敵は沈黙した。残るはゴモリーのみである。
「行かせんよ!」
逃走を阻もうと放たれたライトニングサンダーボルトはブラックフレイムで相殺される。
しかし次の瞬間にはヒルケの矢とリューのピュリファイが襲い、続いて森写歩朗とレイアの渾身の一撃が振り下ろされる。
「ぐあっ! よくも‥‥」
悲鳴を上げつつもゴモリーはブラックフレイムを森写歩朗目掛けて放ち、一瞬の隙を突いて奥へと逃亡する。
「逃がしませんよ!」
島からの逃亡を阻止すべく、一同は回復する時間を惜しみ奥へと突き進む。
動けない者は仲間に薬を飲ませてもらったアルテスが効果を抑えて回復していた。いざという時のコアギュレイトの為にだ。
通路を抜けた先の天井は吹き抜けになっていた。ここから逃げられたかもしれない不安を振り払い、目を凝らすとあるものが飛び込んできた。
奥まった場所にあるそれは、冷たい輝きを放つ氷の塊。
「奥には氷付けにされた男性がいる。きっとあれは‥‥」
「オレルド船長!?」
手紙の内容を震える唇でレイアは呟く。ヒルケは見覚えのある男性の名を叫んでいた。
「‥‥そうよ、私はこれを守っていたの」
声の聞こえた方に視線を移すと、縄で縛られた1人の船乗りを引きずるゴモリーの姿があった。
「ではこれは一体何の為にですか!?」
無造作に転がされている無数のデスハートンの白い玉────奪われた命を見やり、リューは叫ぶ。
「昇格の為に集めてただけよ。じっとしてるのは性に合わないもの」
一同は怒りに身を震わせる。しかし船乗りがゴモリーの手元に捕らわれている以上、下手な手出しは出来ない。
「船長さんを返す訳には行かないの。この坊やの命と引き換えに見逃してちょうだい。いいわよねぇ?」
にやりと笑うゴモリーに気づかれない様にアルテスがコアギュレイトを唱えようとした、その時。
「こんな雑魚共を仕留められないばかりか、秘密を知られるとは。貴様には愛想が尽きた」
体の底から凍える様な、冷たく重い声が響いた。
程なくして氷付けの船長と全く同じ姿の男性が姿を現す。
「船長が2人やて!?」
「いえ、恐らくはデビルが化けているのでしょう。本物は氷付けにされている方です」
2人を見やる凪にジュヌヴィエーヴは口を開く。
「魂狩りが仇となったな。与えられた任務を果たせない部下など必要ない」
「お許しを‥‥」
「消えろ」
男性の手から水球が打ち込まれ、ゴモリーは声も無く消えていく。
「‥‥運べ」
男性の指示を受け、1体のアクババが氷付けの船長を運び出そうとする。
「させるか!」
マナウスの声を号令とばかりに一同は攻撃を仕掛けようとするが、一瞬早く零下の空間が形成される。
突然訪れた冷気に怯んだ隙に次々と男性から水球が放たれ、直撃を受けた者はその衝撃で洞窟の壁に叩きつけられる。
網に包まれた氷付けの船長が、アクババによって吹き抜けから運び出されていく。
牛をも持ち上げるアクババにとって、氷付けとは言えども人を1人運ぶのは造作もないのだろう。ゴモリーが集めた魂もインプ達が抱えていった。
「無力だな。実につまらん」
男性はそう呟くと姿を消した。
「私達の予想は外れていたな」
「でも得られた情報は大きいです。あの男性は恐らく上級デビルでしょう」
呆然と呟くデュランの隣で、リンは吹き抜けから覗く空を見上げる。
「生きていてくれてありがとう‥‥」
ヒルケは涙を流し船乗りを抱きしめる。命を守れた事が嬉しかった。
洞窟から帰還した一同は、命を落とした者達の為に祈りを捧げた。
ペガサス2体を駆り索敵をし、島に敵は残ってない事に一同は安堵する。
発見された財宝の一部と、フランシスから感謝の気持ちと共に贈り物が手渡された。
まだ北海の騒動は治まっていない。
明かされた謎は更なる波紋を呼び起こそうとしていた────。