【お兄様と私】バレンタインに恋菓子を☆

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月13日〜02月16日

リプレイ公開日:2009年02月22日

●オープニング

 来るべき2月14日のバレンタインデーに向け、お節介奥様‥‥もとい人の恋路を応援するのが大好きなレミーは、ある企みを胸に秘めていた。
「アリシア、好きな人は出来ましたの?」
 優雅なティータイムを過ごしていたアリシアは、唐突なレミーの質問に紅茶を噴き出しそうになる。
「きゅ、急に何を仰いますの?」
「母として年頃の娘が恋をしているか否かを知りたいだけですわ。言っておきますけど、あなたがお友達によくお見舞いする『乙女の必殺技・質問返し』は私には通用しませんわよ?」
「‥‥わかっていますわ。もしお母様がお父様以外の男性に恋をしていたら大問題ですもの」 
「目の保養になるお気に入りの若い男性ならいっぱいいますけどね。うふふっ♪」
 悪びれずに微笑む母にアリシアは父エリックを不憫に思うのだった。
「で、どうですの? いますの? それはどんな方ですの? 誰ですの?」
「勝手にいるって断定しないで下さいませ! 気になる方なら、いますけれども‥‥」
「んもう! 何てまどろっこしい! でも良しとしましょう。若い時の恋はそのじれったさがいいんですもの」
 レミーはぽわんと意識を自らの若い頃に飛ばす。ちなみに恋多き女性だったらしい。
「2月13日から15日までに予定は入っていませんわよね?」
「ええ。特にはございませんけれども‥‥お母様、もしかしてご自分が楽しもうと、また悪巧みをなさっているのですか?」
 何かを察したアリシアは、警戒心いっぱいの目でレミーを見つめる。
 娘の怯えきった様子など気にする事もなく、レミーはアリシアの頭を実にいい笑顔‥‥通称『企みレミースマイル』を見せながら優しく撫でた。
「悪巧みだなんてとんでもない! 恋のお菓子作りと私による恋愛相談をしようと思っているだけですわ。勿論、冒険者の皆様もご一緒に♪」
 お菓子作りはともかく、レミーの恋愛相談とは。
 あまり参考にならなさそうな雰囲気がぷんぷんである。しかも煽るだけ煽りそうで怖い。
「お母様、お菓子作りだけにした方がいいと思いますわ」
「嫌ですわ! 皆様の恋のお話を聞きたいんですもの〜!」
 ‥‥やはり好奇心からの思い付きだった。
 いやいやをする様に頭を振り、両握り拳と上半身を揺らすレミー。御年40を間近に控えたレディの筈である。
 とは言え相談を受けるならば、きっちり全力で彼女なりにアドバイスする気らしい。
「広い意味での人生相談を『ご希望の方にのみ』行うのはどうですか? 恋愛と限定しては参加しにくい方もいらっしゃるでしょうし」
 参加した冒険者が好奇心の餌食にならない様、アリシは必死でレミーの説得を試みる。
「‥‥わかりましたわ。そういう事にしておきましょう」
 ちょっと不服そうではあったが、レミーは渋々納得した‥‥様に見えた。
 ホッと胸を撫で下ろしておかわりの紅茶を注ぐアリシアは、レミーがにやりと笑いながら「‥‥多分ね」と呟いた事に気づかなかった。

 レミーの魔手は恋に鈍感なフレッドにも忍び寄ろうとしていた。
 夕食を終えてデザートのアップルパイを楽しむ彼に、ずずいと身を寄せる。
「どうしたのですか、母上? そんなにくっつかれては食べられないのですが‥‥」
「食べさせない為にこうしているのです。フレッド、私の話を聞きなさいな。そして何も言わずに首を縦に振るのです」
「‥‥母上。また良からぬ事を考えていますね? 話の内容次第によってはご意向には沿えません」
 アリシアにも同じ事を言われたレミーは、フレッドから顔を背け、やさぐれ顔でちっと舌打ちをする。
 しかし次の瞬間には作戦変更とばかりに、さめざめと泣き始めた。もちろん嘘泣きである。
「酷いですわ。あなた達兄妹はこの母を何だと思っているのですか。話も聞かない内から決め付けるだなんて‥‥しくしく」
 そう思われても仕方ない行いを今までしてきたのだから、当然の結果ではある。
 しかし女性に泣かれると弱いフレッドは、戸惑った顔でレミーの肩に触れ、決して口にしてはいけない一言を口にしてしまうのだった。
「な、泣かないで下さい。わかりました、俺に出来る事なら何でもしますから」
 勝利を確信し、きゅぴぴ−んとレミーの目が怪しく光る。
「‥‥本当ですの?」
「はい。二言はございません」
「本当に本当にですの?」
「母上、俺を信じて下さい。剣に誓って約束を違えません」
 騎士である彼が剣に誓うとは、絶対にそれを守るという証だ。
 それを耳にした途端、レミーはにんまりと微笑む。
「それを聞いて安心しました。フレッド、13日から15日まで休みを取りなさいな。レッツエンジョイ・バレンタインデーですわ♪」
「なっ! 母上、嘘泣きだったのですか!?」
「ふふふ。見抜けないとはまだまだですわね。誓った以上、みっちりこってりと付き合ってもらいますわよ?」
 悪い予感に冷や汗を浮かべながら、フレッドは恐る恐るレミーに尋ねる。
「な、何に付き合えばよいのでしょうか?」
「この3日間、しっかりと恋について考えてもらいます。そろそろ気になる女性の1人や2人、いてもおかしくなさそうですからね」
 全てを知っているとでも言いたげなレミーの生暖かい視線。
 『気になる人』という言葉を聞いたフレッドの顔がサッと朱に染まる。
 こうしてロイエル家で開かれるバレンタインイベントは、好奇心の魔女レミーによって素敵にプロデュースされるのだった。

●今回の参加者

 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec2307 カメリア・リード(30歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4115 レン・オリミヤ(20歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec4318 ミシェル・コクトー(23歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec5609 ジルベール・ダリエ(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ec5629 ラヴィサフィア・フォルミナム(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

アニェス・ジュイエ(eb9449)/ アイリス・リード(ec3876)/ 緋村 櫻(ec4935)/ ヴィタリー・チャイカ(ec5023

●リプレイ本文

●甘く幸せな時間
 1日目の午後、お菓子のアイディア出しが行われていた。
「レミーさん、テーマは恋のお菓子なの?」
「勿論ですわ。だってバレンタインデーに食べるお菓子ですもの〜」
 チョコ・フォンス(ea5866)の問いにレミーはうっとりと天を仰いでいる。
「菓子作りはあまり経験がないな‥‥」
「皆に教えてもらえば大丈夫よ、きっと♪」
 アンドリュー・カールセン(ea5936)とチョコが仲睦まじく会話している隣で、ジルベール・ダリエ(ec5609)とラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)のカップルも幸せオーラを振りまいていた。
「フルーツケーキを作ろうと思っておりますの。胡桃やベリーをたっぷり使った物はいかがでしょうか♪」
「生地に胡桃入れたら美味いやろなぁ。胡桃割りとか力仕事は任しといてな」
 カップル達によるラヴケーキはきっと甘ったるいのだろう。
「ミシェルさん、ここはチャンスですよー?」 
「ええ、前回のリベンジですわ‥‥ってヒルケさん!?」
 ヒルケイプ・リーツ(ec1007)の耳打ちにミシェル・コクトー(ec4318)は顔を真っ赤に染める。
「皆でお菓子つくってお茶会‥‥特別、誰かにあげるって事じゃないみたい‥‥そういうものなの?」
「隣人愛の記念日ですからね。皆がいつもよりちょっと優しくなろうとする素敵な日、なのです♪」
 レン・オリミヤ(ec4115)とカメリア・リード(ec2307)はアリシアと一緒にクランブルを作る予定だ。
「拙い出来ではございますが、隣人愛の記念日という事ですので、いつもお世話になっている皆さんに‥‥」
 アイリスは手作りのクッキーをカメリアに渡しに屋敷を訪れていた。
 優しい微笑みを浮かべるフレッドと目が合い頬を染める彼女を、ミシェルは複雑な表情で見つめていた。
(「あんな風に人を護れたら‥‥ううん、らしくないですわ。私は彼女の様に優しくはなれないのにね」)
 ふうと息を吐いて振り返ると、今度は自分がフレッドと目が合う。
「「あっ‥‥」」
 2人は同時に声をあげ、慌てて顔を逸らす。
「ふむふむ。なるほど〜〜」
 2人を観察するカメリアに苦笑し、アニェスはフレッドに声をかける。
「フレッド坊や、久しぶりー♪ 相変わらず顔はいいわねぇ。あれからちょっとは大人になったかしら?」
「な、何も経験してないぞ!?」
 あからさまに怪しいその様子に心の中で微笑み、アニェスは各国のお菓子を話して聞かせる。
「さあ、買出しに行きますわよ〜♪」
 手土産のワイン2本を掲げるレミーはすでにご機嫌だった。
 
 2日目はお菓子作りとお茶会が開かれる。
 厨房に立つのはメイドドレスを来た女性達と、執事姿に犬耳やうさ耳をつけた男性3人だ。
「何故、自分だけうさ耳なんだ?」
「み、耳に息を吹きかけないでよ。くすぐったいでしょ!?」
 ぴったりとくっついて調理をしているチョコとアンドリューは、傍から見るといちゃついている様にしか見えない。
「ラヴィさん、めっちゃ可愛いで」
「そう言うジルベール様もとっても素敵ですわ♪」
 こちらの2人も負けじとラブラブオーラを振りまいていた。
(「うらやましいですねぇ。私もあんな風にキルシェさんと‥‥)」
 羨ましげに見つめるヒルケの目の前で、釜戸からもくもくと黒い煙が上がっている。
「ミートパイが焦げてるぞ!?」
「‥‥はっ!」
 フレッドの声に我に返り慌てて薪の炎を消したヒルケは、しゅんと項垂れる。
「すみません、ちょっと考え事をしていたもので‥‥」
「怪我がなくて良かった。よし、俺も手伝おう」
「ここは乙女の戦場ですわ。‥‥フレッド、覚悟はよろしくて?」
 ミシェルは微かに赤い頬でぶちゃ犬エプロンをフレッドに手渡すのだった。
「芯が残らない様に柔らかく‥‥」
「あ、ちょっと焦げちゃったけど、美味く誤魔化しちゃいましょう♪」
 せっせと林檎ジャムを作るレン。
 一方、カメリアのベリージャムは幸先不安である。
「まあ! 何て美味しそうなお菓子なんでしょう! ‥‥一部例外もありますけれど」
 所狭しと並べられたスイーツ達を前にレミーは瞳を輝かせる。
「あの2人がまだですわね?」
 辺りを見回したアリシアの目に、ほわほわと幸せそうにこちらに向かってくる2人が映る。
「素敵なサプライズをありがとうございました。なのにあまり食べられずにごめんなさいですわ‥‥」
「俺の選択ミスやから気にせんといて。来年も再来年も作ったげるからな?」
 親友のヴィタリーに月道を使ってキエフの雪を運んできてもらったジルは、ラヴィの為に兎の雪菓子を作ってあげたのだ。
 しかしあまりの可愛さに見惚れてしまい、溶け残った1口しか食べられなかったとはラヴィらしい。
「全員揃いましたわね。では頂きましょう!」
 待ちきれないといった様子のレミーの一声で、お茶会がスタートした。
「レミー奥様、お砂糖はお幾つお入れしましょう?」
「貴方のその甘いマスクで充分ですわ〜♪」
 執事として奉仕するジルにレミーは上機嫌だ。
「‥‥お兄様、火を起こしているのは何故ですか?」
 フレッドはアリシアの問いには答えず、笑顔で棒に刺した林檎を焼き始めた。
「まるごと焼き林檎だ。酒場で友人からアイディアを貰った」
 言葉を失う一同の前に、フレッドはこんがりと焼けたそれを差し出す。
「‥‥意外と美味しい」
 それを躊躇なく口にするレンは大物である。

●この想いを大切に
 最終日はレミーによる人生(主に恋愛)相談が行われた。
「キルシェさんはどんな方でしょうか? お仕事とか、どこに住んでいるかとか‥‥」
「彼はレオンさんの部下でありお友達ですから、一緒にお屋敷に住んでますの。お仕事はあなたと同じでしてよ」
 真剣に聞き入るヒルケにレミーはくすっと微笑む。
「彼はミステリアスで素敵ですわよね。それに大胆な所も♪」
 その言葉にヒルケの顔が真っ赤になったのは言うまでもない。
「‥‥知ってるとは思うが、自分はセラと同類の人間だ」
 アンドリューは自分の生業をレミーに明かしていた。
「チョコと将来を誓い合った。それ故、自分は彼女の為に生き方を変えるべきかどうか悩んでいる」
「大切なのは貴方がどうしたいかですわ。個人的意見としては、恋人に危険な仕事は続けて欲しくないですわね」
 レミーは母の様な眼差しでアンドリューの話に耳を傾けていた。
「でも彼女はありのままの貴方を好きになった‥‥それは職を変えようが変えまいが揺らがない想いですわ。自分1人で決めてはいけませんわよ?」
 相談を終えたアンドリューは、中庭で佇むチョコを背中から抱きしめた。
「鈍感でいっつも気持ちを読めなくてごめんね。でも、こんなあたしといてくれてありがとう」
 チョコは何も尋ねずに自らの想いを伝えるのだった。
「お化粧をして大人っぽくなる事は出来ても、その逆は出来ませんのよ」
 成長を急ぐラヴィにレミーは懐かしそうに微笑む。
「ですが、一日でも早く大人の女性になりたいのですわ‥‥」
「過ぎてしまえば2度と戻れない少女時代を、慈しむ様に過ごして下さいまし。ね?」
 ふわりと抱きしめられたラヴィは、素直に頷くしかなかった。
「やっぱりな。そういう相談をしてると思ったわ」
 ジルはふうっと溜息をつく。
「愛の言葉をいっぱい囁いてあげて下さいな。きっと不安だから早く大人になりたがっているのでしょう」
 レミーの助言を受けたジルは、アリシアと楽しそうにおしゃべりをしている恋人に近づく。
「ラヴィさん、ちょっとええか?」
「はい。アリシア姉さま、あの方は照れ屋さんで鈍感さんですので、ちょっと大変かもしれませんわね。これを恋のお守りにどうぞ♪」
 耳元で囁きピンクのスカーフを渡すと、アリシアは「ありがとう」と微笑んだ。
「これをどうぞ♪」
 ジルが話を切り出そうとした時、ラヴィからノルマンの伝統菓子が手渡される。
「これからも、ずっとずぅっとラヴィと一緒に居て下さいませね? ‥‥だいすきですわ」 
「おおきにな。‥‥愛しとるで」
 可憐に微笑むラヴィを抱きしめ、ジルはそっとおでこに口付けた。
 相談を終えたミシェルはクッキーを眺めているフレッドの姿に立ち竦む。
(「あれはアイリスさんの‥‥」)
 その瞬間、あの時の光景が────フレッドに惹かれた瞬間が甦る。
 彼の「友達を殺せるわけがない!」という言葉が何故か頭から離れないわけを、レミーは教えてはくれなかった。
 もう気づいているのでしょう? と言いたげな微笑みだけ見せて。
「ミシェル‥‥」
 夕日に照らされた彼の顔は赤く見える。
「指輪、ありがとな。大切にする」
 ゆっくりと近づいてきた彼の左手の中指には、あの日に贈った指輪が輝いていた。
「それと誕生日おめでとう。気に入ってもらえるかわからないのだが‥‥」
「私に? ありがとう‥‥」
 包みを紐解いたミシェルは心からの笑顔を見せるのだった。
「私の大切な人に、好きな人がいるのです。伝える気は全然無いみたいです。絶対叶わないし、叶えちゃいけない、って思ってるっぽくて」
 カメリアは優しい顔で話し出す。
「やはり黙って見守るべきなんでしょうか?」  
「姉としてどうしたいのですか?」
「幸せになって欲しいのです。でも何が『幸せ』なのでしょう。難しいです‥‥」
 すっかりお見通しのレミーに、カメリアは観念した様に微笑む。
「私は心のままに生きる事だと思っていますわ。1度きりの人生、思う様に生きなきゃ損ですもの。そういうあなたは?」
「まだ恋はいいかなって。他に見たいもの、楽しい事が沢山なんですもの」
 くすくすと笑い声を漏らすカメリアは、語られるレミーの恋の武勇伝に瞳を輝かせるのだった。
「‥‥恋って、しないとだめ?」
 そう尋ねるレンをレミーは優しく抱きしめる。
「しようと思ってするものではないですわ。急に落ちるか、気づけば始まっているものですもの」 
 恋の只中の若者達を見つめながら、レミーは夫を想うのだった────。