求む、ホールの華!!
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:綾海ルナ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月17日〜12月22日
リプレイ公開日:2007年12月23日
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●オープニング
「今日も暇ねぇ‥‥」
閑古鳥の鳴く店内で、リザはふあぁと欠伸を噛み殺した。間髪入れず、厨房から怒鳴り声が飛んでくる。
「こらっ! 真面目にやらんか!!」
リザが振り返ると、父でありここ『ハニーフォレスト』の店主でもあるフランツが不機嫌な顔でこちらを見つめていた。
「真面目にやるも何も、お客さんいないじゃない」
娘の容赦ない言葉にフランツは「うっ」と言葉を詰まらせる。店内にいるのはリザと看板犬のノアだけ。夕方のかき入れ時が近いというのに、お客さんがやってくる気配は全くなかった。
「ふぅ、やっと終わったよ。掃いても掃いても木枯らしで枯葉が飛んできて、やんなっちまうねぇ」
額の汗を拭いながら、恰幅のいい中年女性が店内に戻って来た。この店で働き始めて10年のベテラン、マリーさんである。
「あらあらまた親子喧嘩かい? 本当にしょうがないねぇ。どうしたんだい?」
二人の間に流れる険悪な空気を察したマリーさんは、さりげなく仲裁に入る。
「マリーさん、聞いてよ! お父さんが口煩くてやんなっちゃう」
「間違った事は言ってないぞ。サボってるお前が悪い!」
「大人気ない上に頭が固いわね。そんなんだから流行らないのよ、この店!」
リザの言葉にフランツが沈黙する。そのままくるっと背を向けた彼は、きっと悔しいような悲しいような複雑な表情をしているのだろう。
「リザちゃん、それは言い過ぎだよ。店が繁盛するようにどれだけお父さんが努力してるか、知らないわけじゃないだろう?」
マリーさんは諭すような穏やかな瞳でリザに語りかける。
「わかってるわよ。だから‥‥悔しいんじゃない」
リザは口では反抗しつつも、父とこの店が大好きなのだ。だからこそ今にも潰れそうな店の現状と報われない父の努力が歯痒かった。
「お父さん、原因はあたしが思ってる通りだと思うの。ねぇ、考え直して?」
リザは父の背中に語りかける。しかしフランツの返事は決まっていた。
「俺は俺のやり方を変えるつもりはない」
「この店の料理もお酒も一流よ。でも、雰囲気も大事だと思うの」
「これのどこが悪いんだ?」
遠回しな言葉で攻めても埒があかない。リザは感情のままに大声で叫んだ。
「この店‥‥おばさんばっかで華がないのよ!!」
リザの爆弾発言に店内の空気が凍りつく。冷や汗を流しながらフランツはマリーさんの顔を恐る恐る窺った。犬のノアも「くぅん」と甘えた声を出しながら、ご機嫌を伺うようにマリーさんに擦り寄っている。
「まあ、確かにそうさね。あたしもあと三十年若かったら、充分目の保養になったと思うんだけどねぇ」
と言い、マリーさんは豪快な笑い声を上げた。どこまでも懐の深い女性である。
「フランツさん、ここはひとつリザちゃんの意見を取り入れてみたらどうだい?」
リザの意見。それは若いホール係を雇って店内に華を持たせるというものだった。
初めはホール係目当てで来たお客さんも、フランツの料理を一度食べれば必ず常連になってくれるだろうと彼女は思っていた。
「しかし新しい者を雇えばベテランの皆さんの仕事が減ってしまうかと‥‥」
「あたし達は誰も辞めるつもりはないよ。どっち道、忙しくなったら今の人数じゃ回らないさ」
雇った後で売上が変わらなければ大損害である。それどころか従業員にお給料を払えない可能性だって出てくる。フランツは腕組みをし、渋い顔で考え込んだ。
そしてその唇が「だが‥‥」と言いかけた時、厨房にリザが飛び込んできた。
「あたし、この店をキャメロット一の酒場にするって夢、諦めてないよ!」
「リ、リザ‥‥」
「お母さんが大好きだったお店だもん、潰したくないよ!」
娘の思わぬ言葉にフランツは動揺していた。必死に訴えかけてくる瞳が胸に迫る。
「可愛い娘の願いを叶える為なら、あんたのちっちゃなこだわりを捨てるのなんて簡単だろう?」
マリーさんの言葉にフランツはゆっくりと、だが力強く頷くのだった。瞳の端に涙を滲ませながら。
『求む、ホール係。年齢は30代まで。性別問わず。食事補助有り』
募集の張り紙をしてから2週間。しかし悲しいかな、誰一人希望者は現われなかった。
落胆するフランツにリザは「まずは店の知名度をあげるのが先よ」と言い、何故か冒険者ギルドを訪れていた。
「カリスマ性のある冒険者さんが働いてる姿を見れば、若い子達は憧れて応募してきてくれると思うの」
リザの依頼は冒険者に『ハニーフォレスト』でホール係として働いてもらい、若者達の憧れとなりたい願望を刺激してもらう、というものだった。
「もちろん研修もするわ。それと宣伝もお願いしたいの」
リザの目は真剣そのもので、彼女の並々ならぬ決意が伝わってくる。
「大して報酬を用意できなくてごめんなさい。でも後がないの。あたし達を助けて!!」
こうして店と親娘の運命は冒険者に委ねられたのだった。
●リプレイ本文
●顔合わせ
「もしかして、ここか?」
ガイン・ハイリロード(ea7487)は目の前の寂れた店を呆然と眺めながら呟いた。地のエレメンタラーフェアリーのライアが「ここか〜」とガインの口調を真似ながらクルクルと飛び回っている。
「あらあら、随分と古めかしいお店ね」
サラン・ヘリオドール(eb2357)もあまりの目立たなさに驚いているらしい。
『ハニーフォレスト』は大通りから離れた住宅街の中にひっそりと立っていた。立地条件が悪い上、見た感じは普通の民家と変わらない。店名が書かれた看板は注意しないと見逃してしまうほど小さく、地味だった。
「キャメロット一の酒場にするという夢、遠いものではあるでしょうが‥‥一助にでもなれば」
マルティナ・フリートラント(eb9534)は真摯な表情で口を開く。彼女の言葉に笑顔で頷くと、ガインは年季の入ったドアをゆっくりと開けるのだった。
「こんにちは‥‥って、うわっ!?」
「ライアちゃ〜ん、お久しぶりなのですっ!」
ドアを開けた途端、ユーリユーラス・リグリット(ea3071)が一直線にガインへと突進してきた。しかし再会を喜んでいるのはライアにだった。
「ママ〜♪」
「俺は無視かい!」
ひしと抱き合う二人。何となく居場所のないガインだった。
「お仕事で美味しいスイーツが戴けるなんて‥‥わたくし、頑張って職務を全ういたしますわ」
サシャ・ラ・ファイエット(eb5300)はほわわんと夢見るような表情でリザの手を握り、ぶんぶんと振り回している。
「ノア、仲良くしてね?」
「はふっ」
チョコ・フォンス(ea5866)に頭を撫でられ、ノアはとても気持ちよさそうに目を細めている。
「よかったらこれを店で使ってくれないか?」
陰守森写歩朗(eb7208)は30本もの酒をフランツに差し出した。
「依頼を受けてもらった上にこんなにたくさんの酒をただでもらうわけにはいかんよ。全部買い取らせてくれ」
フランツは「少なくて申し分けないが」と言い、森写歩朗の用意した酒を買い取ったのだった。
人に勧める前にまずは食べてみないと、というチョコの意見にフランツはいくつかスイーツを用意してくれた。
定番のアップルパイにさくさくのクッキー、ベリーの色が食欲をそそる焼き菓子‥‥食べ終わる頃には全員がスイーツの虜になっていた。
●改装
冒険者達は誰もが立地の悪さとお店の地味さが流行らない原因だと思っていた。
なのでまずは改装からスタートである。とは言えあまり時間をかけられないので、外の看板と内装だけに絞って取りかかる。
「ふんふんふ〜ん♪」
上機嫌ではたきをかけているサシャの隣で、森写歩朗は隅に溜まっている埃を綺麗に拭き取っていた。当たり前のように思われている清潔感の大事さだが、徹底出来ている店は意外と少ない。ここを完璧にする事がお客さんに気に入られる第一歩だと思うと、掃除する手にも熱が入る。
「ハニーフォレストは一足お先に聖夜祭なのです♪」
赤いチェックのテーブルクロスがかけられた深い茶色のテーブルに、ユーリユーラスは白く清楚なクリスマスローズの花を飾る。入り口近くに置かれた小さなツリーに飾り付けをしているサランとマルティナも楽しそうだ。
「これくらいでいいか?」
一方外ではガインとチョコが新しい看板作りをしていた。木の板を適当な大きさに切り終えたガインにチョコはOKサインを出す。
「店名の通り、蜜蜂をモチーフにしなきゃね」
画家であるチョコは慣れた手付きで筆を進めていく。ガインが後片付けをしている間に看板は完成してしまった。
「おぉ、さすがだな」
「可愛いでしょ?」
鮮やかな蜜蜂の黄色が目を引く可愛らしい看板にガインだけではなく、チョコも大満足のようだ。
「わぁ、可愛い〜!!」
チョコの会心作はもちろんリザや女性陣にも大好評。こうしてお店の改装は楽しく賑やかに進んでいくのだった。
●宣伝
「エプロンでもちょっと照れるな」
ガインは気恥ずかしそうに頬をポリポリと掻いた。
本当はお揃いの従業員服を作りたかったのだが、全員の分を作るには多くの時間とお金がかかってしまう。なのでエプロンにしたのだ。
一同が身に付けているのは真っ白なエプロン。店名と蜜蜂の刺繍は裁縫の得意なマルティナと森写歩朗の力作である。
「商店街に宣伝の許可は取ってるわ。さぁ、行きましょう」
正規の従業員だとわかるようにリザだけはエプロンをしていない。彼女の号令に皆は「お〜!」と声を上げ、意気揚揚と街に繰り出した。
「こちらのスイーツを無料でお試しいただけま〜す! よろしかったらどうぞ〜!」
小さく切った数種類の試食品をトレイに載せながら、チョコは明るい笑顔と声で宣伝する。可愛らしい彼女と美味しそうなスイーツにどんどん人が集まってくる。
「ね、美味しいでしょう? わたくしも大好きなんですの」
ちゃっかりと試供品をつまみ食いするサシャ。
「お店の人は優しくて感じの良い方ばかりですし、何よりお料理が美味しいんですの。ぜひ一度足を運んで下さいな」
もちろん集まった人達をお店に誘導するのも忘れない。
「ハニーフォレストではただいま従業員募集中なのです〜♪」
ガインの演奏に合わせ、ユーリユーラスは歌いながら一生懸命に呼びかけていた。
「お昼と夜に余興を行いますのでぜひご覧になって下さいね」
その隣で上品な微笑みを浮かべるサラン。一同の周りには大きな人だかりができ、宣伝は大成功のようだ。
「お、頑張ってるな?」
冒険者達が多く集まる場所を回っていた森写歩朗が店に戻って来ると、マリーさんに接客の指導を受けているマルティナの姿があった。宣伝など目立つ事が苦手な彼女は接客で人一倍頑張ろうと思っているのだ。
「真面目だし可愛いし、あんたホール係に向いてるよ」
熱心に取り組むマルティナをマリーさんはとても気に入ってるようで、彼女をホールの纏め役にしたいようだ。
1時間後、宣伝活動を終えた一同も合流し、マリーさんによる接客指導が始まった。
●大盛況
「こんなにお客さんがいっぱいなのは久しぶりだ」
驚いたような顔をしているフランツの背中をリザはバシッと叩く。
「頑張ろうね、お父さん!」
夕方から営業する酒場が多い中、ハニーフォレストはお昼から店を開けている変わった店だった。当然実りは薄く、早い開店時間は経営を圧迫していた。が、それを逆手に取ったサランの昼の余興を目当てに、多くの人で店内は賑わっていた。
「すっごく綺麗‥‥」
蝶モチーフの露出の少ないひらひらとした重ね着衣装を纏ったサランを見て、客席の少女がうっとりと呟く。
ガインの演奏から始まり、そこにユーリユーラスの可愛らしい歌声が重なる。春の花畑を楽しそうに飛ぶ蝶のように、軽やかに可愛らしく踊るサラン。隣でライアもたどたどしいながらもサランとお揃いの衣装で踊りを真似している。余興が終わると、狭い店内は割れんばかりの拍手に包まれた。
「注文はお任せ下さいなのです〜」
ユーリユーラスが忙しそうに店内を飛び回っている。
「お待たせしました。フルーツパイセットです」
とびきりの笑顔を見せるチョコ。森写歩朗の意見を取り入れ、半分サイズのスイーツを新開発した。それをお好みで組み合わせられるメニューは特に好評だった。
「あなた、この辺りで見ない顔ね?」
「はい。賄いが付くので働かせて頂いてます。まだ新しい従業員を探しているようですよ」
「ふぅん。こんな美味しい賄いがあるなら働いてみたいかも」
マルティナが接客している女性は興味深々のようだ。冒険者達は慣れない接客に戸惑いながらも、マルティナを中心に見事な働き振りを見せるのだった。
「全品半額の効果は予想以上だな」
提案者の森写歩朗は休憩もそこそこに、食べ零しがないように店内の掃除を行っていた。
「そろそろお店を空けるわよー」
「ユーリ、起きろっ!」
夕方の開店を告げるリザの声に、ガインは慌ててノアの背中で眠るユーリユーラスを起こすのだった。
手には鈴を持ち、露出がやや多めの赤い衣装を身に付けたサランの妖艶な姿がほの暗い店内に浮かび上がる。男性客は皆、彼女に熱い視線を送っていた。
ユーリユーラスの演奏にガインの力強い歌声が重なる。モチーフは炎。火の粉がはぜる様に勢いよく、早いリズムで踊るサランは同性が憧れと羨望を抱くほど艶やかである。
「これはいいですなぁ」
サクラとして来ている陰守辰太郎は笑顔でワインを飲み干した。
昼は可愛らしく元気に。夜は落ち着いた感じでしっとりと。お店の雰囲気を内装と共に変える作戦である。
「あんたみたいに男も働けるのか?」
「もちろん。力仕事もあるので男性はホールに必要ですよ」
森写歩朗は青年に笑顔で答える。ここで働く事に興味を示している若者は多く、今回の依頼は成功しそうだと森写歩朗は思っていた。
こうして最終日まで店は大盛況の大忙しだった。
●名誉店員
「あんた達は全員ハニーフォレストの名誉店員だ。好きな時にまた働きに来てくれ」
テーブルいっぱいにスイーツを並べ、フランツは涙ぐみながら冒険者達一人一人と熱い握手を交わした。
「今度はお友達も連れてお客さんとしてきますわね」
「あたしも〜♪」
サシャとチョコの言葉にフランツは笑顔で頷いた。
「新しい人もいっぱい雇えたし、本当にありがとう!」
リザはとても嬉しそうだ。彼女の夢が叶うのはとても遠い未来になりそうだが、この親子ならもしかして‥‥と思う一同だった。
「何とか踊れるようになってよかったな」
「たな〜♪」
また一歩成長したライアの頭を優しく撫でるガイン。これもサランの指導のお蔭である。
「今度は厨房の人数も増やさないとねぇ」
「「「やりますっ!」」」
マリーさんの言葉に勢いよく手を上げたスイーツ大好き乙女達。そして店内には幸せそうな笑い声が響くのだった。