【黙示録】北海の決戦〜守る為の刃〜

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:8 G 10 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月01日〜03月11日

リプレイ公開日:2009年03月09日

●オープニング

『そろそろ潮時か‥‥』
 かつて『船長』と呼ばれた人物はそう言って楽しげに笑った。
『本来なら、もう少し奴らを苦しめ、悩ませたかったのだが‥‥あやつのせいで‥‥』
 愚かな部下の失態に小さく苦笑し、だがまあいい、と余裕の笑みを浮かべると彼は振り返った。
 足元に跪くデビル達は並ではない力をその身から漂わせている。
 さらにその後方には、無数のインプやグレムリンなど下級のデビル達も集う。
『こちらの用意は整った。招待客を招くとしよう。いよいよだ‥‥。楽しみだ。なあ? 『船長』よ』
『彼』は氷柱とその中の人物に笑いかけると振り返り、デビル達に告げた。
『いよいよ、時が来た! 目的のものを我らの元へ!』
 地響きのような唸りは空間を支配し‥‥海を、時をうねらせる。
 それは‥‥メルドンを超え‥‥やがてキャメロットへと‥‥。

 王城に集った円卓の騎士達は差し出された一枚の羊皮紙に息を呑んだ。
「これは‥‥まさか‥‥パーシ殿」
 トリスタンの言葉の続きを理解し、パーシは頷く。
『円卓の騎士 パーシ・ヴァル
 汝が家族、オレルドを返して欲しくば、指定の時、指定の場所に来るべし。
 さもなくばオレルドの命は無い‥‥。海の王』
 それは、血で書かれた招待状。いや‥‥挑戦状であった。 
「昨夜王城に接近したデビルを倒した。そいつが持っていたものだ。差出人はおそらく‥‥」
「海の王‥‥リヴァイアサン‥‥」
 静かに告げたライオネルの言葉にパーシは無言で頷く。
 指定の場所はメルドンの先、数十kmの海のど真ん中である。
 そして海の調査を続けていたライオネルの元にはその場所を目指すかのようにデビルが集まっている、との報告も寄せられていた。
「間違いなく、これは罠だ。パーシ卿をおびき寄せる為の」
「おそらく」
 頷いたパーシは思い返すように目を閉じる。
 北海で起きた数々の事件。その結果を‥‥
「冒険者の調査と証言により、オレルド船長がデビルである、という疑義は消えた。貴公への追求もじき止むと思うが‥‥危険だな」
 トリスタンの言葉にああ、とパーシは頷き腕を組む。。
「船長がデビルに捕らえられ利用されているという事実に変わりはない。彼の命と多くの人々の命。秤にかけるまでも無いと思っていたのだが」
「パーシ卿!」
 ライオネルの責めにも似た呼びかけをスッと、ボールスは手で遮る。
「思っていた。それは過去形です。‥‥そうですね」
 そして、小さな微笑を浮かべ、真っ直ぐに彼はパーシを見た。
 その目にパーシもまた真っ直ぐな思いと眼差しで答える。決意の込められた微笑と共に‥‥。
「ああ。ある意味、これはチャンスといえる。俺に来いと言うのであればその場に必ず『奴』が現れる筈だ。その時を見逃さずリヴァイアサンを討つ!」
 おお! 手を握り締め意気上がるライオネル。
 トリスタン、ボールスの口元も綻んでいる。
「この国から海の脅威を取り除くチャンスだな」
 騎士としてこの国に剣を捧げた騎士に怯え惑いがあろう筈もないのだから。
「元より、一人で来いとは書いていないし指定の場所に辿り着く為には船が必要だ。力を貸してはもらえないだろうか?」
 円卓の騎士達の返事は一つであった。
 
 そうして冒険者ギルドに依頼が出される。
 先の幽霊船団との戦いとは比較にならない、イギリス王国とデビルとの大海戦が今、始まろうとしていた‥‥。

●少年騎士モードレッド
 円卓の騎士トリスタンに不遜な口をきいていた少年の顔を、受付嬢は呆然と見つめていた。
「僕の顔に何か付いているか? まあ、見惚れられるのには慣れているけどな」
 少年は何処か陰のある美しい顔でにやりと意地悪く微笑む。
「あの‥‥トリスタン卿とお知り合いで?」
「知り合いよりもっと深い仲だぞ。そうだな、からかい甲斐のある兄と言った所か」
 少年がそう言った瞬間、柱の影から動揺したように揺れる美しい金髪が受付嬢の目に映った。ややあってこちらを心配そうに伺っているトリスタンと目が合う。
 その瞳は『気づかれない様にしてくれ』と切実に訴えていた。
「依頼を出しに来た。書類は既に纏めてある」
「は、拝見します。ええと、北海での共闘依頼ですね。お名前はモードレッド・コーンウォール‥‥って、あの!?」 
 流麗な字で書かれた依頼書に目を通していた受付嬢は、そこに書かれていた少年の名前に目を見開く。
 噂で聞いた事がある────円卓の騎士達に可愛がられている赤毛の少年騎士がいると。  
「ふん。僕をどう思おうと構わないが、依頼は受け付けてもらうぞ」
 何故か不機嫌そうにカウンターに肘を着くモードレッドの様子に、受付嬢はもう1つの噂を思い出す。それは彼の出生に関わるものだった。
「‥‥モル、行儀が悪いぞ」
 見兼ねたトリスタンは柱の影から姿を現し、ぶすっとした顔のモードレッドを諌める。
「何だ、まだいたのか? 暇な奴だな」
「ケイが心配していたからな。‥‥それに1人にしておくのは不安だ」
「ご自身も旅立たれると言うのに僕の事を心配して下さるだなんて、先生は優しい方だな」
 2言めのトリスタンの本音は聞こえなかったモードレッドは、家庭教師でもあるケイの想いを知り嬉しそうに微笑む。
「終わったのならば一緒に帰ろう。甘い物でも食べに行くか?」
「よし、僕の行きつけの店に連れて行ってやる!」
 まるで小さな子供の様に表情を輝かせ、モードレッドはトリスタンをおいて弾む足取りでギルドを後にする。
「‥‥騒がせたな。モルの依頼は何と?」
 苦笑し尋ねるトリスタンに、受付嬢は目を細める。
「デビルを掃討して本隊を守る。それと、トリスタン卿の船が沈められない様に全力を持ってシーウォームを討伐する、だそうです」
「そうか‥‥」
「遅い! 何をしているんだ!?」
 遠くから聞こえる不機嫌そうな声にトリスタンは優しく微笑み、受付嬢に軽く会釈をしてギルドを後にした。

 その日の夜。
 モードレッドは星空を見上げていた。
「敵は多数、か。恐らくは見た事もない様な大部隊だろうな」
 次々と襲い来るであろう敵をトリスタンと協力して掃討し、パーシ率いる本隊を守るのがモードレッドに与えられた役目だ。
 だが1つ彼には気がかりがあった。
 戦場となる海域の底に潜む1匹のシーウォームの存在だ。
「10Mともなると僕が借りる船とて油断は出来ないな。トリスタンの乗る船は尚更危険だ」
 モードレッドを心許無い小船に乗せるのをケイは反対していた。なのでトリスタン自ら船の貸し出しを申し出てくれたのだ。
「上手くこちらに誘き寄せる手立てはないものか‥‥」
 考えを巡らせようとしたその時、ふわりとガウンが肩にかけられた。
「その様な薄着ではお風邪を召されますよ、モル坊ちゃま」
「クレア‥‥ありがとう」
 素朴で温かな笑顔を浮かべる初老の女性に、モードレッドも表情を緩めて素直に礼の言葉を口にする。
 彼女はモードレッドが幼い時から仕えている侍従だが、彼にとっては実の母親以上の存在だった。
「戦いに出られても、どうかご無理はなさらないで下さいませ」
「大丈夫だ。トリスタンも傍にいるからな」
 円卓の騎士の為、そして自分を案じてくれるクレアの為にも、海上の大戦を勝利に導こうとモードレッドは決心するのだった。
 冒険者と共闘できる楽しみに心を躍らせながら‥‥。

●今回の参加者

 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb7017 キュアン・ウィンデル(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec1621 ルザリア・レイバーン(33歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec4310 ラディアス・グレイヴァード(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec5421 伏見 鎮葉(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec5511 妙道院 孔宣(38歳・♀・僧兵・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

若宮 天鐘(eb2156

●リプレイ本文

●出航
 キュアン・ウィンデル(eb7017)は『麗しのトリスタン号』に乗り込む仲間達の顔を見渡した。 
「イギリスの運命を占う重要な依頼、気を引き締めてかからねば‥‥皆で力を合わせ、任務を全うしよう!」
 きりりとした表情で皆の結束を高め鼓舞しているが、数本のロープに縛られたまるごとウサギさんを抱きしめているので説得力は皆無だ。
「‥‥やる気がないのなら帰れ」
「誤解だ、ドレッド君! これには浮力能力付きのレミエラを装着していてだな、万が一海に投げ出された時に‥‥」
「準備を進めるぞ」
 モードレッドはキュアンに背を向けてすたすたと歩き出す。
「考え抜いたラブリーなあだ名なのにっ‥‥戦いの前に心が挫けそうだ」
「彼はひねくれも‥‥いや、少々素直じゃない御仁なんだ。あまり気にしない方がいい」
 若宮天鐘の『恋人の為に生きて帰れ!』という発破を思い出しながら、咽び泣くキュアン。見かねて声をかけるのはルザリア・レイバーン(ec1621)だ。
「キミが今回の依頼人のモードレッド卿か、よろしくな。友人の蒼汰同様に呼び捨てでも構わないかな?」
「好きに呼べばいい。返事をするかしないかは別だがな」
 ふんと鼻を鳴らす様子に苦笑し、ラディアス・グレイヴァード(ec4310)はキュアンを不憫に思うのだった。
「北海は随分騒ぎが長引いてたけど、いよいよ決戦か‥‥腕が鳴る、なんていうとちょっと調子に乗ってるかな?」
「浮き足立って足元を掬われない様に気をつけろよ。だが気の強い女は嫌いじゃない」
 伏見鎮葉(ec5421)ににやりと笑うモードレッドを目にし、出港準備を進めるクリステル・シャルダン(eb3862)はくすりと微笑む。
 空樽、着替え類、船酔いに効く薬草や掴まる為の短めのロープを彼女は用意してきていた。それに船乗りのお守りも。
「ここで大人しく待っていて下さいね」
 空樽とロープを繋いだ救助用浮き樽を作り終えた妙道院孔宣(ec5511)は、モードレッドに注意され戦う術のない耀を置いていく事にした。
「頼んでおいた物は用意してくれたかしら?」
「ああ。遠慮なく使うがいい」
 ディーネ・ノート(ea1542)の問いにモードレッドが視線を移した木箱の中には、大量の聖水が入っていた。
「北海の騒動を終わらせる為に頑張りましょう! そーれっ♪」
 ほわんとした笑顔を見せながら、ヒルケイプ・リーツ(ec1007)は聖水を『麗しのトリスタン号』にどぼどぼと撒いていく。
「船は多少壊れても構わないから自分達の命を最優先しろ。僕の初海戦を後味の悪いものにしたら承知しないぞ。いいな!」
 傍若無人な物言いに操舵を務める騎士が苦笑する中、冒険者達はどこか温かな目で若い指揮官を見つめていた。隠されたメッセージを感じ取ったからだ。
「群がる雑魚共を一蹴し、海底に潜む大ミミズを駆逐する。モードレッド隊、出航!」
 遥か地平を指差すモードレッドのマントが風にはためく。
 本隊を、そして小船に乗り戦うトリスタン達を守る為、煌びやかな『麗しのトリスタン号』は波飛沫を上げて海原に出陣した。

●敵は空と海底から来たる
 隙間から血の滴るロープ付きの樽の中には、魚の切り身と血の付いた布を巻き付けた騎士鎧とマントが詰め込まれていた。
「接近に気づかなければ船は転覆するぞ」
「私とラディさんがエックスレイビジョンで海面を透視しますから、ご安心下さい」
 危惧するモードレッドに、ヒルケはスクロールを広げて微笑んだ。
「戦闘になれば船は揺れます。指揮官が体調を崩しては大変ですので、念の為に持っていて下さいませんか?」 
 そこにクリスが現れ、モードレッドに船乗りのお守りを差し出しす。 
 先程も必要ないと断られたばかりだが、穏やかな口調で懇願すると彼は渋々と受け取ってくれた。ヒルケとクリスは顔を見合わせて微笑む。
「来たわよ! 恐らくはインプとグレムリンの大群ね」
 優良視力を活かし、孔宣と共に船の高い部分から周囲を警戒していたディーネが敵の襲来を告げる。キュアンも石の中の蝶を覗き込んだ。
「ドレッド君、羽ばたきが急速に強くなっているぞ」
「ホーリーフィールドを展開しろ」
「ドレッド君ってば!」
「シーウォームは接近していないな?」
「‥‥ドレッド様っ!」
「うるさいっ! 戦闘準備に集中しろ!」
 怒鳴られ睨み付けられるキュアンだが、無視されるよりは嬉しいらしく、ふにゃっと顔を緩ませる。
「敵、射程圏内に入りました!」
「打ち落とすよ!」
 そんな微笑ましい(?)やりとりの中、ヒルケとラディの放つ矢が空を切り裂き、敵目掛けて一直線に飛んでいく。
 2人が敵を牽制している間に、残りの者は魔法やアイテムを使い自らと仲間の強化を行った。
「後方の奴等を蹴散らすわ!」
 味方の船を巻き込まない様に注意しながら、ディーネはアイスブリザードを唱える。
「敵を引き付けるぞ! 例の樽を投げ込んだ後に舵を大きく左に切れ!」
 ブラックホーリーで迎撃しながら、モードレッドは操舵者に指示を飛ばす。それを確認した鎮葉はシーウォームを誘き寄せる為の樽を海に放り込んだ。
「ドレッド様、無理はするな!」
「背中は私に任せてくれ!」
 キュアンは迫り来る敵にソニックブームを放ち、ルザリアはモードレッドの背を守り敵を切り伏せていく。
「鏡月!」
 孔宣は最前列に躍り出て、ホーリーを敵に打ち込んだ後にカウンターアタックとスマッシュを繰り出す。
「あの泡はもしかして‥‥ヒルケさん!」
 尚も海面に注意を払っていたクリスの叫びを聞き、ヒルケはスクロールを開きながら眼下を覗き込む。
「皆さん、船の下にシーウォームがいます! どんどん海面を上昇して‥‥きゃあっ!」
 その瞬間、船が大きく揺れた。
 投げ出されない様に船に括り付けてあるロープに掴まった一同は、うねる波間から現れた巨体に目を見張る。
「予想以上の大きさだね。でも!」
「怖気づく私達ではない!」
 鎮葉とキュアンが放ったソニックブームが立て続けにシーウォームを襲う。
「ヒルケ、デビルは任せたよ!」 
 ラディは目標を変えシューティングPAEXを試すものの、身体に隙間がないシーウォームにはあまり効果がないようだ。急ぎ通常攻撃に切り替える。
 無数の攻撃を受けたシーウォームが頭らしき部分やその反対側を海面に叩き付ける度に、船は大きく揺れ波飛沫が視界を遮る。
「聖なる母よ、お守り下さい‥‥」
 開戦から数十分。
 敵の数は減る所か増していて、結界も長くはもたない。それでもクリスは懸命に唱え続ける。 
「結界はもういい! MPを温存して回復に回せ!」 
 魔法と剣技を合わせて敵を討ちながら、モードレッドは指示を飛ばす。
 予想以上の敵の数に誰もが圧倒されていた。

●打たれぬ終止符
 底なしかと思われる程のシーウォームの体力。
 そして空を覆い尽くさんばかりの絶える事の無い敵の増援。
 いつ終わるとも知れない戦いに体力の限界が近づきつつあった。
「一瞬でいい。僕に魔法を唱える猶予を与えろ」
「‥‥わかった」
 何か策があるらしいモードレッドに頷き、ルザリアはそれまで戦っていた敵に背を向けて前方の敵を薙ぎ払う。
 背後からの攻撃に眉を顰めた刹那、ビカムワースの黒く激しい光がシーウォームを包み込む。
「もっと早く食らわせる予定だったが、遅れてすまん! 任せたぞ!」
 それは初めて聞いた素直な言葉であった。
 鎮葉、キュアン、ラディはモードレッドを見つめた後、魔法により体力を大幅に奪われたシーウォームに気力を振り絞って怒涛の攻撃を展開していく。
「私達も負けてられないわね!」
 ウォーターボムとアイスコフィンを使い分けて敵を仕留めるディーネは、新たに飛来する敵の塊にアイスブリザードの先制攻撃を仕掛ける。
 間髪入れずにヒルケのシューティングPAが翼を射抜き、尚もこちらに向かってくる敵には孔宣の剣が振り落とされた。
「やったか!?」
 ラディの呟き後、シーウォームは海面から出ている巨体を天に向けて直立させ、派手な音を立てて海面へと沈んでいった。
「こちらも完了だ‥‥くっ」 
 船を取り囲む敵影がなくなった事を確認したルザリアが膝を着いた瞬間、シーウォームの体が船首にある女性の像にぶつかる。その衝撃にモードレッドとディーネが海面へと投げ出された。
「ディーネ、掴まって!」
「ドレッド様はこっちだ!」
 鎮葉とキュアンが投げ入れた物に2人は必死で掴まる。 
「助かったぁ。私、泳げないのよね」
「‥‥どうして僕がコレなんだ」
 安堵するディーネの隣で不機嫌そうに呟くモードレッド。
 負傷した仲間を治療した後、クリスはトリスタン宛の手紙を鷹のボラールの足に括り付け、羽ばたかせる。
 それにはモードレッドの無事と死傷者がいない事の報告。それと『麗しのトリスタン号』を壊してしまった事への謝罪が認められていた。
「厳しい戦いだったな。だがお前達の働きで本隊もトリスタンの小船も守る事が出来た」
 引き上げられたモードレッドは、髪から水を滴らせながら一同を見渡す。
「あ、あり‥‥」
「聞こえないよ?」
「‥‥‥‥ありがとな!」
 ラディにからかわれ、モードレッドはぷいっとそっぽを向く。感謝の言葉を耳にし、全員から笑みが零れた。
「気づいてくれるといいんだけど‥‥」
 操舵者に頼み船の動きで他の隊に合図を送る鎮葉の隣で、ヒルケはローゼン・クランツをモードレッドに手渡す。
「モードレッドさんにプレゼントです♪」
「ほう、僕好みのデザインだな。仕方が無いから貰ってやる」
 口調とは裏腹、嬉しそうにそれを首へとかける。
 小船の上に凛と佇むトリスタンの姿を確認したモードレッドは安堵し、船長救出に赴くエクター率いる船を真摯な眼差しで見守るのだった。
 しかし安息は無慈悲にも破られ、一同は前方で起きた事態に立ち尽くす。
 終わらせる筈の悲劇は思わぬ形で続いていくのだった────。