【色の無い世界】青鈍の妄信

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 95 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月11日〜03月17日

リプレイ公開日:2009年03月19日

●オープニング

 厚い雲が月の光を隠す夜────ある村で血の報復が行われた。
「どう、して‥‥」
 心臓を一突きされた男性は、信じられないといった様な顔で目の前の殺人者を見つめる。
「これでお前の罪も浄化された」
 ねっとりと剣に絡みつく血を見つめながら冷たい声で呟くのは、暗い瞳をした少年だった。
「大人しく身を投げ出せばいいのにね。せっかくあたし達が『ヘネラリーフェ』に送ってあげるんだから」
「この報復の意味もわからないくせにあの方の慈悲を受けるなんて、忌々しいね」
 絶命した夫婦を見下ろしながら少女は無邪気に微笑み、その隣でもう1人の少年は不機嫌そうな顔で剣に付いた血糊を丁寧に拭き取っていた。
 一見するとどこにでもいるような子供にしか見えない3人が口にしている事は、異様であり狂気を孕んでいた。人の命を奪って平然としているのだから。
「あ、あああ‥‥」
 3人の異常さに体を震わせてる少年は、つい先程目の前で両親を殺されたばかりであった。
 次は自分の番だとわかっていたが、余りの恐怖に逃げる事も動く事も出来ない。
「大丈夫よ。あなたは殺さないから。あたし達と一緒に行きましょう。そしてニハル様の戦士になるのよ」
 少女はにっこりと微笑むと、尻餅を着いたままの少年に近づき手を差し伸べる。彼女が近づいて来た瞬間、血の香りが鼻を掠めた。
「い、嫌だっ」
 この少女達は普通じゃない。ついて行けばきっと酷い目に合わせられる。
 そう感じた少年は頭を振って少女の手を払い除けた。
「ふうん。嫌なら別にいいけど。じゃあここで死んで」
 少女は先程の人懐っこい笑顔からは一転した冷たい表情で、ナイフを少年の首筋に押し当てる。
「死にたくない! 助けてよっ!」
「だったらつべこべ言わずに一緒に来なさい」
「それも嫌だ! 行ったらお前達みたいに人殺しをしなきゃいけないんだろ!?」 
 与えられた選択肢のどちらも少年は選びたくなかった。
 半狂乱で泣き叫ぶ少年を、少女は面倒臭そうに見下ろす。
「我が儘な子ね。死ぬのと殺すのだったらどっちがいい? 答えは決まってるでしょ?」
「どっちも嫌だ! お前達は人の命を奪って何とも‥‥ひっ!」
 首のもう片側に剣を押し当てられ、少年は息を呑む。
「まだわからないかな? 君は僕達と同じ選ばれた戦士なんだ。だから己の使命を果たさなきゃならない。そうしないとインフェルノに連れて行かれて永遠の苦しみを味わう事になるんだ」
 少女の仲間である少年は、言い聞かせる様に怯える少年の瞳を覗き込む。
「なのにこの村の大人は君が選ばれた存在だと知りながら、僕達と共に行く事を阻止しようとした。つまり、君が酷い目にあっても構わないって思ってたんだ」 
「だからあたし達がニハル様の命を受けて報復したの。でも安心して。あなたのお父さんもお母さんも『ヘネラリーフェ』に行けるから」
 ヘネラリーフェ────それは天の楽園であり、罪深い大人達はニハルの戦士によって許しを得られ、魂は業から解放されるのだと少女は囁く。
「僕達は裁きを下す事によって大人達を苦しみから解放しているんだ。ねえ、こんなに素晴らしい天命を与えられて、君は幸せだと思わない?」
 ゆっくりと首に食い込んでくる両の刃。
 恐怖が目の前にある狂気をぼやかしていく。
 殺されたくないという思いが少年の正気を奪い、常軌を逸した思想を受け入れ始める。
「俺は選ばれた戦士‥‥だから、大人達を救わなければならない‥‥」
「そうだよ。彼等は死をもってしか救われない哀れな存在なんだ。僕達が終わりにしてあげなきゃ」
 こくり、と頷き村の少年は立ち上がる。
 その瞳は光を失い、この世ではないどこかを見つめていた。


「子供達による殺人!?」
 ミルファの問いに、年老いた神父は眉を顰めて頷いた。
「ええ。しかも物取りではないのです」
 神父は刺された腹部を抑えながら、町で起きた事件を話し始める。
 彼の住む町で2組の夫婦が殺害され、その子供達が誘拐された。 
 犯人は複数の子供達。
 殺害現場と連れ去られる子供達を目にした神父は、犯人の1人に刺されたらしい。
「子供達は脅されて仕方なく犯行に及んだんじゃないかしら?」
「彼等は自分達の意思で行動している様でした。言いにくいですが、嬉々として殺人をしている様に見えました故」
 神父は力なく頭を振った後、とても悲しい瞳でミルファを見つめる。
「彼等は妄信めいた事も口にしていました。確か『ニハル様に感謝しろ。お前達は幸せだ』と」
「ニハル? 聞いた事がないわね」
「恐らくは偽名。または闇に生きる人物でしょう。子供達を洗脳して人殺しをさせているのだと思います。罪深い事です‥‥」
 そう呟き神父は祈りを捧げる為に印を切った。
「どうして子供は殺さずに誘拐するのかが気になるわ。人身売買の為に浚わせているのかしら」
「そう考えるのが妥当でしょうが、私はもっと恐ろしい事を行っているのではと悪い予感がしてならないのです」
 人身売買か、それ以上の目的の為の誘拐。どちらであれこのまま放っておく訳にはいかない。 
「子供に人殺しをさせるだなんて許せない‥‥私に任せて。冒険者にも協力してもらって、子供達を救ってみせるから」
「ありがとうございます。あなたと冒険者達に聖なる母の加護があらん事を‥‥」
 何者かに操られて殺人を犯した子供達にもセーラの許しが与えられる様にと、神父は天を仰ぎ瞳を閉じる。
 彼は気づかなかった。
 犯人の1人である少年が自分の後の席に座りずっと話を聞いていた事を。


 薄暗い部屋の中、少年は主である男に報告を行っていた。
「マアのせいで神父を仕留め損ねました。ニハル様、処罰はいかがなさいますか?」
 ニハルと呼ばれた男はふっと軽い笑い声を漏らす。
「彼はあれが初めての任務だった。次に期待しよう」
「しかしあの神父は既にある女に依頼を出しています。あなたに危険が及ぶかもしれません!」
 膝を着いた少年は、拳を握り締めて声を荒げる。
「案ずるな、エイン。それより次の任務を与えたい」
 ニハルは椅子から立ち上がり、羊皮紙に描かれた地図をエインに手渡す。
「マアがいた所と同じくらい小さな村だ。隊長はお前に任ずる。テューバとシャウラ、それにマアも連れて行け。名誉挽回のチャンスを与えてやらねばな」
「もし、またしくじったら?」
「その時は処罰を下せ。私の恩赦に2度目はない。それと‥‥」
 ニハルは冷たい瞳で微笑むと、そっとエインに耳打ちをする。
「敵の数は増えるが、出来るな?」
「はい。あなたに楯突く者は何者であろうと排除するのみです。しかしその者達にも慈悲を?」
 エインの問いにニハルは背を向け、口を開く。
「悲しい事だが彼らの魂は穢れきっている。お前達の手をもってしても『ヘネラリーフェ』に行く事が適わない存在だ」
 憐れみの色を声音に滲ませるニハルだが、エインに背を向けているその顔は醜く歪んだ笑みを浮かべていた。
「ご安心下さい、ニハル様。この印に誓って彼等を滅します」
 そう言い腕を捲くったエインの左腕には蛇の刺青が施されていた。
 ニハルの体にある刺青と同じ物を与えられた子供達は、彼を主と崇め絶対の忠誠を誓う戦士達。
 そして何も疑わずただ命に従う心を無くした子供達だった。

 数日後、ミルファの元に手紙が届く。
 我が名はニハル。
 覚悟があるのならば地図に記された村に来い────と。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0640 グラディ・アトール(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2804 アルヴィス・スヴィバル(21歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea8311 水琴亭 花音(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5522 フィオナ・ファルケナーゲ(32歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●万策
 ニハルの戦士から村を守る為、一同は移動手段を工夫して予定よりもかなり早く現地に到着していた。
「食料や水も先に運び込んでおいてくれ。毒などを混入されては困るからな」
 マナウス・ドラッケン(ea0021)の指示に従い、村の男性達は樽に入った水や食料を集会所へと運び出す。集会所にはお年寄りや子供が既に避難していた。
「おぬし達はニハルという名を知らぬのだな?」
「うん、知らなーい」
「それに村の皆がお祈りしてるのはセーラ様だけだもん」
 子供達の間でニハルに関する噂が広がってないかと期待していた水琴亭花音(ea8311)は、内心の落胆を隠しながら小さな頭を優しく撫でる。
 自分と両親、それに村長や他の大人の名前を子供達全員に答えさせた結果、間違えた者は1人もいなかった。それは村の子供しか集会所にいない事を意味する。
「ニハル様、ね。洗脳なんて神に仕える者として許せない‥‥とは微塵にも思わないけど。やり口は気に喰わないから、嫌がらせと行こうか」
 アルヴィス・スヴィバル(ea2804)は『村の名前』と『ニハルの戦士』をキーワードに、フォーノリッヂの巻物を広げ始める。
「子供達を洗脳して戦わせるなんて、許せない事する奴がいたもんだぜ。だが、それでも今は戦わなくちゃいけないんだ。人々を、仲間を護る為に」
 悔しげに呟くグラディ・アトール(ea0640)の肩にミルファの手が触れる。
「同感だわ。でも無茶はしないでね」
「ああ、分かっているさ。村の付近の警戒を頼む。先手を打たれると厄介だ」
 グラディの言葉にミルファは笑顔で頷くと、高台へと上っていく。優良視力を生かしてここから村に近づいてくる子供達がいないかを見張る為だ。
「‥‥何か分かった?」
「僕達が努力を怠ると、この村は大変な事になるみたいだね」
 瀬崎鐶(ec0097)の問いにアルヴィスは眉を顰めて答え、凄惨な光景を振り払うかの様に瞳を閉じた。
「子供達を戦士にするなんて分かってないわね。かわいい男の子は愛でるものでしょう?」
 村の構造を空から把握していたフィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)は、集会所に集まった村人達に依頼の内容を説明し終えたキット・ファゼータ(ea2307)の肩に止まる。
 笑顔で冗談を飛ばすフィオナだが、内心はかなり苛々していた。
「面通しは済んだか?」
 そこに花音と共に罠を仕掛けていたマナウスが戻ってくる。
「ああ。どうやらニハルは紛れ込んでいないみたいだな」
「子供達も同様です」
 報告を行うキットの隣で、マロース・フィリオネル(ec3138)は子供を抱き上げながら安堵の笑みを見せる。
 全ての準備が整い、一同は交代で見張りをしながら襲撃に備えるのだった。

●狂気の深遠
 暗闇の中、ニハルの戦士達は茂みから村の様子を伺っていた。
「夜なのにどの家も真っ暗よ」
「‥‥先回りして対策を講じてきたか」
「灯があるのはあの集会所だけ。あそこに村人がいるってわけだね」
 エインはにやりと笑い、青い顔のマアの肩を叩く。
「名誉挽回のチャンスだよ。逃げてきたと見せかけて奴等に近づくんだ」
「囮って事か?」
「君はニハル様に仕える勇気ある戦士だ‥‥出来るね?」
 マアに選択肢はない。
 拒めば殺されると感じ、茂みから駆け出して見張りの2人に近づいた。
「お前は‥‥」
「嫌で逃げ出してきたんだ! 助けてよっ!」
 マアは泣きじゃくりながら花音に抱きつく。
「‥‥その暗器を大人しく渡せば助けてやろう」
 マナウスに見えない様に暗器を花音の首筋に近づけていた手が震えた。彼女を突き飛ばし後方に飛び去る。
「胸糞悪いぜ。こんな真似させるヤローは」
「‥‥うん、許せないね」
 グラディと鐶が背後に、
「坊やはもう、おねんねのお時間よ♪」
「人殺しの使命なんて呪縛はとっとと解き放ってやる」
 フィオナとキットが左右に現れ、マアは自分が囲まれている事に気づく。
「お前達は間違っている! こんな戦いはやめてくれ!!」
「失った過去は戻らない。でもやり直せない事なんて無いんだ」
「綺麗事を言うな!!」
 グラディとキットの説得も空しく、半狂乱のマアはナイフを振り回す。キットは舌打ちすると木刀で脛を強打した。
「もう止めて下さいっ!」
 集会所から飛び出してきたマロースはコアギュレイトでマアの動きを封じる。
「‥‥調べさせてもらうよ」
 その体を縄で縛った後、鐶はマアの身体検査を開始する。服からは毒や投げナイフ、暗器が見つかった。
「‥‥他の仲間はどこ?」
「あははははっ! 皆、終わりだ! 俺も、お前達も、この村も! 炎の矢に射抜かれて燃え尽きるんだ!」   
 狂った様に笑い出すマアに一同が夜空を見上げた刹那────赤々と燃える矢が集会所の屋根に突き刺さった。
「消火は任せて! 村人達はミルファ君に頼んであるから心配ない!」
 集会所内で村人を落ち着かせていたアルヴィスが現れ、ウォーターボムで屋根に燃え移った炎を消していく。鐶とグラディも桶を手に井戸へと向かう。
『敵は3人よ!』 
 上空から炎の矢が放たれる地点を確認したフィオナは、テレパシーで仲間に伝達を行う。
 一同は数人に分かれて矢の飛んでくる方向へと走り出した。

「っ!!」
 飛んできたナイフを花音は寸での所で回避する。
「残念。でも次は外さないわ!」
 民家の影から投げナイフを両手に構えたシャウラが姿を現す。
「子供は子供らしく遊んで笑って大人になるのが一番なんだ。武器を捨てろ。俺が助けてやるから!」
 敵意が無い事を示す様に両手を広げてシャウラに近づくキット。
「私‥‥こうやって大人を殺して遊ぶのが何より楽しいの! 一緒に遊んでくれる!?」
 シャウラの振り下ろしたナイフがキットの両腿に深々と突き刺ささる。
「ぐうっ! カムシン!」
「ダイ! 助けるのじゃ!」
 飼い主の声を聞きつけたカムシンとダイがシャウラに襲い掛かる。
「いやあっ!」
「観念なさい!」
 左右から飛び掛られたシャウラは鳴子の設置された茂みに倒れこみ、その音を耳にしたマロースに動きを封じられる。
「‥‥その刺青は正しく生きる為に勝ち取った証として誇っていい」
 顔を歪めて膝に突き刺さったナイフを抜き、キットはシャウラの右腕から覗く蛇の刺青を見つめる。
 責めずに救いの手を差し伸べる彼の顔を、シャウラは忌々しげに睨み付けていた。

「くっ、間に合わない!」
 集会所の火は消し止めたものの、牛舎や備蓄庫に放たれた炎は燃え盛っている。建物の外にまで村人達の叫びと必死で宥めるミルファの声が聞こえていた。
「‥‥俺が罰を与えてやろう」
「アル!」
 テューバの放つ矢をグラディは剣で叩き落す。
「助かったよ、ぐらっち。‥‥それじゃあ容赦なく躊躇無く鉄拳制裁と行こうか」 
 友である鐶とグラディと視線を合わせた後、アルヴィスは聖なる結界を展開し始める。
「大切なものを護る為に戦う‥‥その覚悟を示すまでだ! 舞えよ、闇を穿つ光の翼! オーラエリベイション!」
「‥‥君達の事も守りたいんだ」
 鐶は素早く素手でテューバの武器を叩き落とし、気を取られた背中をグラディのメイスが強打する。
 テューバは咳き込みながらも2人から間合いを取り、新たな投げナイフを両手に構えた。
「浄化を‥‥救済を止める訳にはいかない!」
 投げつけたナイフは結界に弾き返される。
「そんなの唯のエゴだね。君達の親だって望んでいなかった筈だよ」 
「俺の親はニハル様だけだっ!」
「右手に杖を、左手に祈りを──此処に奇跡を」
 テューバの体がアルヴィスのアイスコフィンに包まれる。 
 氷中のその顔は泣いている様に見えた。

「さぁ来いよ。数千数万の屍を越えた罪深い大人の一人が此処に居るぞ」
 エインは冷めた瞳で挑発するマナウスを見つめていた。
「僕はニハル様の戦士だ。穢れきった君達には負けないよ」
「そう。戦士と称するなら、一切手加減なしよ」
 冷めた声音でそう言い放ち、イリュージョンを唱え始めるフィオナ。
「きゃあっ!」
「標本みたいに張り付いていればいいよ」
 しかし空を切るナイフが左右の羽を民家の壁に打ち付ける。
 村の出口に向けて駆け出すエインの足をマナウスは鞭で絡め取り、バランスを崩し倒れこんだ体を強引に仰向けにさせると、武器を握る腕を思い切り踏みつけた。
「ぐあっ!」
「死の恐怖を思い出し、命の貴さを自覚してもらおうか」 
「死など怖くない! 僕が怖いのはあの方に見放される事だ!」
 エインは懐からナイフを取り出し、マナウスの足を切りつける。
 しかしマナウスは足から血を流しながらも笑っていた。血と肉と恐怖で罪と罰の意味を教える為に。
「誇るべき信念も自分の物でなく、戦う者としての意思もないお前は只の子供だ」
「僕は意思なんか要らない! ニハル様の戦士でいたいんだ!」 
 エインは絶叫すると、小瓶に入った液体をマナウスに振り掛ける。
 咳き込む程の刺激臭にぐらりと体を揺らした一瞬の隙を突いて、エインはマナウスの足の下から己の腕を引き抜く。
「マナウス君!」
 涙の止まらない瞳を抉じ開けると、千切れた羽で懸命に飛ぶフィオナの姿が見えた。
「逃げられたか‥‥」
「でも他の3人は捕縛済みよ」
 夜の闇に消えていく小さな背中が見つめながら、2人は唇を噛み締めた。
 
●ニハルの影
 翌朝、縛られたまま教会へと連れて行かれる3人の姿を一同は無言で見送っていた。
 エインは取り逃し牛舎と備蓄庫に半焼の被害が出てしまったが、幸いにも敵味方合わせて死者は1人もいない。
「子供ばかり集めた所でそれほど強力な集団にはならんのじゃが‥‥」
「戦う事を教えるのはいい。けど同時に『見る事』を一切教えない奴は最低のクソ野郎よ」
 花音の呟きを聞きながら、フィオナは子供達の腕にあった蛇の刺青に見覚えがないかと思考を巡らせる。
 マロースと共にそれを思い出した時、吹き抜けるのは不安を煽る様な生暖かい春の風。
 そして子供達は嗤った────。