【黙示録】目覚めを待つ者
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■ショートシナリオ
担当:綾海ルナ
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:10 G 95 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月20日〜03月30日
リプレイ公開日:2009年03月27日
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●オープニング
ほの暗い洞窟内に、無数の瞳が光る。ぎらつき、濁った瞳が。
「感じる‥‥感じるぞ、あの方の怒りを」
「清浄なるこの地が汚されたからだ」
「きっと裁きが下されるだろう、その時は我等も‥‥」
低い男達の密談が、突如感じた気配に中断する。
「何者だっ!」
男の1人が灯で照らしたその先には、真白い一角獣の姿があった。
「なんだ、脅かしやがって。食われたくなけりゃ出て行け」
ほっと安堵の息を漏らし、シッシッと追い払う男の目の前で────その一角獣は笑った。
「見た目に騙されるだなんて、やっぱり君達はあまり頭が良くないみたいだね」
喋り始めた事に男達は驚愕し、近くにあった武器を構える。
「全く、これだから野蛮な輩は嫌いなんだ。武器を下ろしなよ、僕は君達の味方だ」
その声はまるで少年の様に清らかであった。
しかし男達は武器をそのままに、一角獣を睨みつける。
「嘘をつけ! あの事を知った俺達を消しに来たんだろう!」
「だが残念だったな。里の者は皆、気づいている。俺達を殺しても無駄だ!」
じりじりと男達は一角獣に近づく。
造作もなく倒せそうな見た目に反し、その体から発せられる何かに第六感が激しく危険だと警鐘を鳴らしていた。
「消す? その逆だよ。僕は君達に手を貸しに来たんだ」
その後に語られた一角獣の目的に、男達は目を見開く。
「お互いに助力を惜しまずに協力しようじゃないか。犠牲を恐れずに、ね?」
「当たり前だ。あの方の為ならば、どんな犠牲も厭わない!」
男の言葉はその場にいる者の総意であると感じ取った一角獣は、再び瞳を細めて微笑んだ。
いつの間にか武器は下げられ、男達は友好的な態度を示し始めていた。その事に愉悦を感じながら‥‥。
冒険者ギルドに貼られた依頼書を見つめ、モードレッドは眉根を寄せた。
「遺跡群付近でデビルと謎の勢力が戦いを開始した‥‥それにより近隣の村へ被害が出始めている、か」
戦いの規模は大きくはないらしいが、気になる事がただ1つ。
「デビルと戦っているのに、近隣の村に被害が出ているのが不可解だな。守る様に戦っていたらこの様な事態にはなるまい」
考えられる可能性は複数ある。
しかしその中に必ずしも真実があるとは限らない。
「百聞は一見に如かずだな。この依頼、僕が受けて同行者を募る事は可能だろうか」
「ええ、構いませんよ。それにしても諺を知っているだなんて、ジャパンに興味がおありなんですか?」
新たな依頼書を纏め始める受付嬢は、にこっと微笑んでモードレッドに尋ねる。
「以前、諺を実証しようとした結果、それが物の例えであるとわかって恥をかいた。それ以来、調べてから使う事にしている。まあ、興味もないわけじゃないけどな」
回りくどいい方だが、つまりは興味があるという事らしい。
ちなみに、どこからかその噂を聞きつけたケイに、何時間もこっぴどくお説教をされたのだった。
「依頼の目的は戦いを終わらせる事と謎の勢力についての調査だ。正体が分かればそれでいい。もしかしたらそいつらとも戦うかもしれないからな」
モードレッドは依頼書の確認をした後、カウンターに依頼金を置いてギルドを後にした。
いつもと変わらぬキャメロットの街を王城に向けて歩きながら、モードレッドは唇を噛み締める。
悔しさと共に蘇る北海の敗戦。
いつまでも失敗を悔いる己を振り払う為にも、今は戦いの中に身を置いていたかった。
力不足を実感させられたモードレッドは、守りたくても届かなかった己の刃に磨きをかけたいと熱望するのだった。
●リプレイ本文
●風当たり
予想が当たった。
さすがは生意気坊ちゃまだ。
「辛気臭い村だな。僕達が助けてやるから、何があったかを話してみろ」
情報収集をする時も偉そうな口調と態度のモルに、七神蒼汰(ea7244)は落胆の息を吐く。
護衛も兼ね、あまりに偉そうな態度で村人の機嫌を損ねない様にと出来る限りフォローをするつもりだった。見送りに来たラディアスから受け取った、この春の新作クッキーで手懐けたと思っていたのに。
「何でおめぇは?」
「モードレッドだ。お前も名乗れ」
「ストーップ! そこまでっ!」
蒼汰は慌てて今にも喧嘩を始めそうな2人の間に割って入る。
「悪いな。こいつは大事に大事に育てられた世間知らずのお坊ちゃまなんだ」
「蒼っ‥‥むぐっ」
「おいちゃん、堪忍な。根はいい子なんよ〜」
モルの口を塞ぎながら、藤村凪(eb3310)はおっとりと微笑む。
「おめぇ達は冒険者か。どうせ金目当てで依頼を受けたんだろうが」
男性は冷ややかな目で3人を見つめる。話を聞いていたらしい数人の村人達の目も同様だった。
最近、南部地方では冒険者に関する良からぬ噂が立っている。遺跡群近くにあるこの村も例外ではないようだ。
「ふん。そういう事か」
モルは鼻を鳴らすと、何故か勝ち誇った様ににやりと微笑む。
「どこの誰が流したかも解らない噂より、自分の目で見た事実を信じたらどうだ?」
「何だと!?」
息巻く男性の目の前を1人の少女が通り抜け、凪にぎゅっと抱きついた。
「お怪我を治してくれてありがと」
「早く良くなるとええな♪」
その光景に村人達が戸惑っていると、さらに後方から1組の老夫婦がよろよろとした足取りで蒼汰に近づいてきた。
「力仕事を頼んでしまって悪かったのぅ」
「あれ位、どうって事はないさ。何なら水汲みもしようか?」
モルは唖然とする男性をしたり顔で見つめる。
「解ったなら知っている事を話せ。僕達に任せておけば問題ない」
「偉そうな事ばっか言ってるけど、おめぇは何もしてねえじゃねーか!」
最もな男性の言葉にモルが言葉を詰まらせたその時。
「兄ちゃん、さっきは円卓の騎士ごっこに付き合ってくれてありがとな! でもあんま本気になんなよな〜」
活発そうな少年が、木の棒を片手にモルの横を元気に駆け抜けていく。
「安心してや。被害止める為に来たんよ、ウチ等♪ 些細な事でも何でもええからお話してくれるとうれしーわー♪」
大人気ない行動を暴露されて唖然とするモルと必死で笑いを堪える蒼汰の横で、くすっと凪は微笑む。
「ぶわっはっはっは! 確かにおめぇ達は悪い奴等じゃないみてぇだな」
それまで厳しい面持ちだった男性は声を上げて笑うと、この村で起きている事について話し始めるのだった。
●視線の檻
キット・ファゼータ(ea2307)は村の周りを巡回し、争いの痕跡がないかと調べていた。
しかし遺留品はなく、足跡も村人の物だろう。
「こんな場所にデビルがいるのもおかしいが、一体何と争うというんだ? 不可思議だな」
野営場所に戻り、キットは様々な可能性を考える。
敵の敵は味方‥‥という事であればいいが。
「接触どころか戦いの現場さえ見かけませんでしたわ」
そこにセレナ・ザーン(ea9951)が落胆した表情で戻って来た。
「上空からでは拠点らしきものは見当たりませんでした」
ペガサスのエーリアルから降りてきたシャロン・シェフィールド(ec4984)の表情も優れない。
「それにしても、謎の集団というのも妙な表現ですね。精霊の類でも、デビルに抗う人々でもないという事でしょうか?」
「ああ、胡散臭い事この上ないな」
そう口にした瞬間、何者かに見張られている様な、監視されている様な居心地の悪さがキットを襲う。
この地を訪れた時から、体を這う様な不快感をずっと感じていた。
「それなりにいい話を聞けたぞ」
「お茶でも飲みながら話すわ〜」
晴れやかな顔で戻って来たのは蒼汰と凪。
「やあやあやあやあ、久しぶりだねモードレッドくん。トリス卿と共に興味深い本に取り上げられているようだし、中々に人気者だね君も」
「黙れ。お前は何をしていた?」
「僕? シャロンくんと浪漫飛行を満喫した後、ちゃんと村で情報収集をしてたよ? 君達がご奉仕をしている間にしっかりとね」
やや遅れてアルヴィス・スヴィバル(ea2804)とモルも現れ、野営場所は一気に賑やかになった。
「早速やけど、村で得た情報を話させてもらうな〜」
全員に温かいお茶を渡した後、凪はのんびりとした口調で話し始める。
「戦いが始まる前の前触れや異変はないみたいやね。突然、炎が飛んできたりデビルが村を通り抜けて行くんやて」
「謎の勢力を見かけた村人が言うには、そいつらはかなり大柄で気味の悪い目をしていたそうだ」
「村を守る為に戦っているわけではなさそうだな。何やら儀式めいた言葉を口にしていたらしいし、『善い』集団ではないだろう」
3人の報告に一同は考えを巡らせる。
「規模は十数人程度らしいね。で、ここから肝心なんだけど‥‥」
「勿体をつけるな、早く言え」
「せっかちだなぁ。この地に遺跡群があるのは見て分かるよね。で、ケルトの神々が眠っているって言い伝えがあるんだ。話を聞いたのがお婆ちゃんで、神々の名前は思い出せなかったみたいだけど、興味深いよね?」
モルに急かされたアルヴィスは、肩をすくめた後に伝承について語り始める。
「神々を目覚めさせる為には儀式が必要だとか、目覚めた神々は人々を救ってくれるとか、信憑性の薄い迷信じみた話も聞いたね」
「謎の集団はその信者達でしょうか?」
「最近、南方遺跡群での連続自殺事件についての依頼もあったな。彼等も仲間かもしれない」
セレナとキットの呟きに、謎はますます深まる。
「神々を崇める信者達が敵であるデビルと戦っている、というのが妥当な線ですね。ですが何か引っかかります」
「ああ、解せないね。贄として誘っている‥‥は考え過ぎか。もしくは争う事が目的とか?」
シャロンの予感にアルヴィスは賛同すると、己の予想を口にする。
それは不吉な予想であったが、何故か真実に1番近い気がしてならなかった。
「遺跡で手がかりがないか調べてみるか。戦いに巻き込まれる可能性も考えて全員で行くぞ」
「了解。僕としては遺跡から離れて戦いたい気がするけどね」
モルの提案を聞いたアルヴィスの、なんとなくというだけの願い。
しかし────。
●崇めるのは神か悪魔か
見張られていたというあの予感は正しかったのだと、キットは思い知る事となる。
「身長なんてこれから伸びる。今は気にする程の事じゃない。あと、ボクは止めとけ。余計ガキに見られるぞ」
「僕より年下で、しかも4cmも高い奴に慰められたくはないっ!」
「この程度の挑発に激するなんて、円卓の騎士見習いの名が泣きますわよ、モードレッド卿」
セレナと共にモルをからかって遊んでいたその数分後、事態は急展開を見せる。
「どういう事だ!?」
2方向からの攻撃を交わしながら、蒼汰は呆然と周囲を見渡す。
遺跡群を調査していた時、森の奥からデビルと謎の集団が交戦しながらこちらに向かって来た。
その戦い方が真剣ではないと気づいた時、2つの勢力は戦いを止めて冒険者達に襲いかかって来たのだ。
「小競り合いが罠だったとは‥‥」
シャロンは上空から敵を射抜きながら唇を噛み締めた。
「殺し合ってまで彼等は何をしたいのでしょう?」
セレナは凛々しい戦乙女の如く、次々と槍で敵を薙ぎ払う。
「くそっ! 僕達はハメられたのか!」
「背中は任せてや。でも無茶はあかんで?」
蒼汰から借りたレイピアでデビルを突き刺すモルの背後で、凪は両手に持った小太刀で連続攻撃を繰り出す。
「深々と凍れ──侵々と凍れ」
無数の氷の棺を作り出しながらアルヴィスが浮かべる笑みは、凍える様に冷たい。
「カムシン!」
オフシフトで攻撃をかわしながら、キットはソニックブームで敵を撃破していく。指示を受けたカムシンも主を守る為に奮闘していた。
「この大地に数多の血を捧げよ!」
「血塗れの目覚めを!」
「我等は血の贄となるのだ!」
まるで死ぬ事を喜ぶかの様な謎の集団の最期を、デビルの醜い鳴き声が彩る。
数刻後、狂乱に満ちた戦いは終焉した。
捕らえた男性の姿を見た瞬間、一同は目を見張る。
「あなた達は何者ですの!?」
浅黒い肌と黒い髪、大柄な体躯には怪しげな紋様の刺青が彫られている。見た事がないデミヒューマンだ。
セレナの問いに男性はくくくと喉を鳴らす。
「我等はフォモール。偉大なるあのお方の僕だ」
「貴様等の主は誰だ? 言えっ!」
「今に解る。さらなる血の贄が捧げられ、あの方が目覚められた時に‥‥がふっ!」
モルに胸倉を捕まれた男性は、何処からか飛んできたムーンアローに絶命してしまった。
「ご主人様を自慢したいのはわかるけど、お喋りは感心しないね」
声のした方に一同が振り返ると、そこには一匹の一角獣が佇んでいた。
「お前、デビルだろう? この戦いを扇動したのもお前だな?」
「ふうん。勘がいいんだね。そうだよ、僕が彼等に争わせて君達をここに誘き寄せたんだ。この遺跡群を血で汚してもらう為にね」
一角獣は瞳を細めてキットに微笑む。
「この地には何が眠っている? 貴様等の狙いはなんだ!?」
「まだ教えられないなぁ、アーサー王の血を引くモードレッド君」
「なっ!?」
驚愕する一同をよそに、一角獣は闇夜へと消えていく。
「また遺跡が血で汚れてしまった‥‥あの方がお怒りになる‥‥」
「お婆さん!?」
「怒りの内に復活なさったら、わし等は天罰を受ける‥‥この国も終わりじゃ‥‥恐ろしや、恐ろしや」
伝承についてアルヴィスに話して聞かせてくれた老婆は、手をすり合わせて遺跡群を見つめている。
「‥‥君の血はいつかこの国を滅ぼすよ」
一角獣の呟きが不吉な予感を孕み、闇夜に溶けた────。