●リプレイ本文
●皆様、ノリノリですこと☆
参加資格は男装と女装というレミーのむちゃくちゃなお花見の参加者は、何と総勢50人にも登った。
レミーが設置した『素敵に変身テント』内から出てきた参加者の顔色と美しさは様々である。
「それにしても奥方は実にいい趣味をお持ちだ。娯楽こそは人生の意味そのものだよ。退屈ほど身を苛む猛毒はこの世にはないだろう」
白のカクテルドレスを纏ったアレクセイ・ルード(eb5450)は、レース飾りの付いた白手袋を嵌めた手でふわふわの縁飾りの扇を揺らす。
「‥‥さあ、祭りの始まりだ。浮かれ騒いで、忘れえぬ一日にしようか」
このカオスなお花見を楽しむ気満々のアレクセイは、優雅な動作でワインを掲げた。
「ただで飲み食いできるとは聞いてたが女装必須だとは知らなかったぜ‥‥まぁ、やるからには振り返られる様な美人になってやらぁ」
優しげな印象のメイクを施し、レミーの秘密テクで豊満な胸を手に入れたゴールド・ストーム(ea3785)は、金髪をキラキラと陽の光に輝かせる美人メイドさんへと変身していた。
ちなみにクローバー類でアクセサリーを統一しているのがお洒落ポイントらしい。
酔っ払いをロングメイドドレスの下に隠したハリセンで成敗しようと企むゴールドは、飲み物を運びながら獲物を見定めていた。
「「キュアナイト〜♪」」
「だから僕の前でそれを言うなと言っただろう! しかもハモるなっ!」
リン・シュトラウス(eb7760)とカメリア・リード(ec2307)に抱きつかれたまま、モルは不機嫌そうにお菓子を頬張る。
「うふふ、似合いますか〜?」
レミーのセンスを信じ変装を任せたカメリアは、モルの普段着と同じ様な格好が気に入っているのか、くるりと回転してみせる。
しかしマントの裾を踏み、ずべしゃっと地面に顔面ダイブをかますお茶目さん。
「あぅ‥‥痛いのです〜」
「鈍臭い奴だな。ほら」
うさ耳をしゅんと垂れるカメリアに、笑い声と共に手が差し伸べられる。
「ねぇ、秘策ってそれ? ただの騎士服にしか見えないんだけど」
「どこからどう見ても立派な女騎士の女装だろうが。何故お前が不満げな顔をする?」
モルの腕に抱きつき、猫耳王子なリンは期待外れと言わんばかりにぷうっと頬を膨らませる。
その後もリンとカメリアはモルに膝枕をしたりお菓子を食べさせたり、好き放題に構い倒すのだった。
「お茶どうぞ〜♪ ってウチは鐶ちゃんの執事やから、あの子の所でお世話せんとあかんやんか!?」
ついついお手伝いに没頭してしまった執事姿の藤村凪(eb3310)は、猫耳と下ろした髪を揺らしながら、瀬崎鐶(ec0097)を探し始める。
「あや? 鐶ちゃんどこや?! ウチ執事失格やん。家来不覚悟やん〜」
わたわたと走り回る凪は、桜の木の根元でお茶を啜る鐶を発見しホッと胸を撫で下ろす。
「‥‥あ、凪。見て、桜の花が湯呑みの中に落ちてきたんだ」
「わあ、風流やなぁ」
「うん‥‥今年は幸せに過ごせそうだね」
黒騎士服にシルク白手袋を装着し、後ろ髪を一つに纏めた垂れ耳わんこの鐶は、付け髭をした顔で少しだけ微笑む。
「それにしても、男性の格好とは息苦しいのだな」
「ええ、胸が苦しい気がします」
編み込んだ髪を纏め上げ、黒を基調とした貴族服を着込んだアレーナ・オレアリス(eb3532)と、黒の神父服に法衣を纏ったフィーネ・オレアリス(eb3529)の美人姉妹は苦しげに息を吐く。
そのはちきれんばかりの胸に『控えめ胸同盟』の乙女達の羨望の眼差しが密かに注がれていた。
「実は旦那様には内緒で羽根を伸ばしにきたのです。でも、秘密ですよ」
「今日は私が責任を持ってエスコートする。心配無用だ」
念を押すフィーネの手を取り、アレーナはゆっくりと歩き出す。
「あら? 心なしかアリシアさんもフレッドさんも以前と雰囲気が違うような‥‥」
初めての男装を楽しむサシャ・ラ・ファイエット(eb5300)は乙女の勘で何かを感じ取り、アリシアにニコニコと微笑む。
「恋をしてらっしゃるね。だって前にも増して綺麗になりましたもの♪」
「は、はい‥‥好きな人が出来ました。サシャさんは?」
「わたくしは失恋してしまいましたの。でもきっと彼が運命の人でなかっただけ‥‥アリシアさんは絶対に運命の人からその手を放してはいけませんわよ?」
「サシャさんならすぐに素敵な方が見つかりますわ‥‥」
儚げに微笑むサシャをアリシアは優しく抱きしめた。
「ジルベールめ、一人で出るのがイヤだからって俺をこんな恐ろしい催しに誘い出したな。しかし、ふりふり褌よりは‥‥」
「あれは‥‥まあまあ」
サシャは隅っこに三角座りをしているシスターが友達のヴィタリー・チャイカ(ec5023)だと気づく。
「ヴィタリーさんも参加なさってましたのね」
「サシャさん!? 良かった、これでお花見を楽しめる‥‥うぅっ」
女装を見られた恥ずかしさより、友人に会えた心強さが勝るヴィタリー。
アリシアも交えて3人で桜を眺めながら、植物の話を心行くまで楽しむのだった。
「あなたの妹君と友達になれてサシャは幸せ者だ。こうして妹談義に花を咲かせられる私もだけどね」
平時から女性によく間違われるエレイン・ラ・ファイエット(eb5299)は、美しい顔を綻ばせて隣に座るフレッドを見つめる。
「これからも兄妹共に仲良くしてくれ。さあ、次はエレインの番だぞ」
フレッドは爽やかな笑顔を見せると、エレインの妹自慢に耳を傾けた。
「可笑しいですわね。あの方をあんなに派手派手にした記憶がないですわ」
「あれ? あの人はあなたが手配したんじゃありませんでしたっけ?」
ダンディ執事に扮したフィリッパ・オーギュスト(eb1004)は、首を傾げるレミーに声をかける。その顔に浮かぶのは悪戯が成功し喜ぶ子供の様な笑顔。
希望と違う! やり過ぎだ! という悲鳴があちこちから聞こえるのは、実は彼女の仕業であった。
「さて、わたくしは皆が寛げる様にお手伝いをすると致しましょう。ふふっ」
フィリッパの悪巧みはまだまだ続きそうである。
犠牲になるのは『いぢられ属性』を持つ子羊さん達だった。
●楽しまなきゃ損ですわよ!?
楽しげにお花見をする皆の姿を原っぱの隅っこ‥‥通称・日陰者の場所からこっそりと眺める者達が数名。
「‥‥噂にならない様、俺はここで大人しく過ごす」
「まあ、そう仰らずに。私はご一緒できて嬉しいですよ」
恨めしそうに自分を見つめる兄ファング・ダイモス(ea7482)に運んできた料理を手渡しながら、テンプルナイト風の出で立ちで男装の麗人となったミラ・ダイモス(eb2064)はくすくすと笑う。
筋肉隆々な肉体を目にすれば参加者が気ぜ‥‥いや、士気が下がるだろうと思ったミラは兄を細心の注意を持って熟年貴族婦人風に変身させたのだが、それでも美麗な女装とは程遠い。
「なんと風変わりな花見だ。巫女服ならば抵抗がないと思ったが、予想以上に恥ずかしいぞ」
カイ・ローン(ea3054)は自棄食いをしながら、桃色ではない溜息をつく。
「ん? 貴殿も気乗りしない口か。こうなったら食べねば損だぞ」
「ありがとうございます。あの、顔は覗かない様にお願いしますね‥‥絶対に」
カイからさっと顔を背け、差し出された料理に手を伸ばすファング。
しかしそう言われると見たくなるもの。
「な、な、なななななっ」
チラッと盗み見したカイは、料理を片手に泡を吹いて気絶してしまった。
‥‥ファングの名誉の為、彼は女装が破滅的に似合わないだけだと言っておこう。
(「色々と悟った感じの男女も入り乱れている乱痴気騒ぎ‥‥どうして僕、ここにいるんだろう?」)
戦乙女のドレスを着たクル・リリン(ea8121)は気配を消しガタガタと震えながら、ホワイトハットを目深に被り直す。
全身真っ白なのが逆に日差しと相まって見えにくくなっている筈! という淡い期待も空しく、鮮やかな緑色の原っぱの上でその存在は誰よりも輝き目立っていた。
「御伽噺の中に迷い込んでしまったのだと自分に言い聞かせていたが、似つかわしくない変装も多いな」
狐耳侍の円巴(ea3738)は死んだ魚の様な目で笑う。これでも愉しんでいる‥‥らしい。
お酒を飲み大声で笑い合う参加者達が、巴の目にはいつしか獣耳を付けた人ではなく、人の顔と体をした獣に見えてきた。
「んもう、掃除しに来たんじゃないでしょ?」
「でも、少しでも皆様のお役に立ちたくて‥‥」
「1人じゃ遊ぶ事も出来ないだなんて、幾つになっても世話の焼ける子ねぇ。そこが可愛いのだけれども」
イスパニアの男性に扮したフレイア・ケリン(eb2258)は、髪を纏め上げ華仙教大国の男性姿で手伝いに勤しむ妹ジークリンデ・ケリン(eb3225)の手を引き、楽しげな人の輪へと誘う。
『お花見をするにょに女装するにょか? キャメロットってヘンなにょじゃ』
『今回が特殊なんだわん! これをイギリスの普通と思うなわん!』
魔法のリングの力を使う鳳令明(eb3759)に話しかけられたわんこは、尻尾をぶんぶんと振って激しく抗議している。
『わんこ殿、おりのリボンつきまるごとわんこ(女の子)はいかがかにょ?』
『か、可愛いなんて全然思ってないわん!』
わんこよ、何故そこでツンデレになる!?
「キエフの婚約者には内緒にしておきたい‥‥」
両手両膝を地面に着け、悲しみに暮れていたフォックス・ブリッド(eb5375)。
しかし春色のドレスを纏いメイクもばっちり、いつの間にか振る舞いまで深層の令嬢そのものだ。
嗚呼、矛盾する男心。彼が婚約解消をされない事を心から願おう。
「きっと、この経験が役に立つのでは‥‥いや、役に立つと思いたい!」
「そうですよ、こういう機会でもないと出来そうにないですし。そこの方、お酒を追加して頂けませんこと?」
お花見に参加しているペット達をもふもふと愛でながら、メイユ・ブリッド(eb5422)は至福の表情でワイン飲み干した。
「シルフィは男装してもその愛らしさは隠せないな‥‥とっても素敵だよ、私のラブリーエンジェルちゃん☆」
「ありがと。キュアンさんだってとっても綺麗よ」
愛する婚約者シルフィの褒め言葉に、キュアン・ウィンデル(eb7017)はでれっと顔を緩ませる。
「それにしても義兄上は酷いな。きっとワーストワンだぞ」
「でもそのお陰でお姉ちゃんの緊張も解けたみたいだよ」
仲良く談笑するレオンとシエラを目にし、2人は微笑む。
「今日はずっと2人きりで過ごせるね。嬉しいよ‥‥」
耳元でそっと囁くキュアンに、シルフィは頬を染めてその腕に抱きつくのだった。
「こんな姿、エレェナ殿には死んでも見せられません‥‥とほほ」
想い人に見つからぬ様にとあちこちを逃げ回るエルディン・アトワイト(ec0290)の背中を、呂白龍(ec2900)は勢い良く叩く。
「心配ないでござる、ばっちり似合っているでござるよ」
「げふっ! あ、あなたは凄まじい殺傷力ですね‥‥」
たっての希望でせくしぃなドレスを身に纏った白龍を、エルディンは虚ろな目で見つめる。
「そんなに褒められると照れるでござる〜」
いや、褒めてませんからっ!
「ふむ。パワフルな女性陣はあらゆる意味で恐ろしい、と‥‥」
その様子を遠目から観察していたフレイ・フォーゲル(eb3227)は、うんうんと頷く。
「趣旨が不可解な祭典ですが実に興味深い。これは面白い研究の題材になるかも知れませんな」
編みこんだ髪を纏め上げ、黒のイブニングドレスを自ら所望したフレイは、極限状態における恥じらいと人間の行動について書き留めていた。
恥ずかしさより研究心が勝ってしまう彼に、ツッコミは色んな意味で無用である。
「や、フレッド坊や。ふむ、なかなかお似合いよ」
仮面を外し微笑んでいる男性ジプシーがアニェス・ジュイエ(eb9449)だとわかり、フレッドは顔を綻ばせる。
「アニェスも来ていたのか」
「ええ。こういう場に絶対出てこないあの子に、あんたの艶姿を詳ッ細に伝えてあげようと思って♪」
首を傾げる鈍感フレッドに、アニェスは微笑を漏らす。
(「恋の季節かぁ‥‥あたしも、もちょっと頑張るか」)
片想いのあの人を思い出しながら。
●キャメコレ・イン・お花見ですわ♪
開始当初は冒険者しかいなかった原っぱに、いつの間にか大勢の人々が集まってきていた。
「まあ、ギャラリーがあんなにたくさん! 燃えますわねぇ」
「母上が宣伝するからではありませんか‥‥」
どこからか借りてきたペガサスにフレッドと無理矢理に2人乗りをし、レミーはミシェル・コクトー(ec4318)が考えたメインイベント『キャメコレ』の宣伝を空から行ったのだ。
「あ〜ん、こんなダメまつ‥‥否、素敵なお祭りが開かれるなんてキャメロットはステキよね〜」
髪を結い上げ、単鎧「散華」を着込み侍に扮したヴェニー・ブリッド(eb5868)は、うっとりと天を仰ぐ。
キャメコレに参加する男性陣を中心に今の心境やドレスのチャームポイント等を取材し、いいネタが出来たとご満悦なのだ。
「アリシア、俺達の司会で盛り上げるよ♪」
「は、はい‥‥」
「緊張してる? でも俺が居るから大丈夫だよ。コンセプトは身売り女とそれに現を抜かす志士だ。いいね?」
桜模様の黒い着物をアダっぽく気崩した妖艶な花魁リース・フォード(ec4979)は、アリシアの肩をぽんと叩く。
左肩に酷い火傷の痕が見えるのが気になったが、アリシアは想い人の頼もしい言葉に花の様な笑顔で頷いた。
「お祭りを盛り上げるのだわ」
チュニックを纏い頭にターバンを巻いたヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)が奏でる竪琴に、リンの笛の音が重なる。
コンテストが始まる前も皆が楽しくお酒が飲めるようにと演奏していたヴァンアーブル。
だが語り継がれる伝説と称し、今日の出来事をしっかと記録して吟遊詩人としてのネタ帳に書き込む気でいた。
「さてさて春のこの良き日に皆様よくお集りになりんした」
音楽に合わせて舞台上に司会2人が現れると、拍手と歓声が巻き起こった。
「わっちはこたびの催し物を取り仕切らせて頂く、おリィでありんす。どうぞよしなに」
「わた‥‥せ、拙者は志士の有之新(ありのしん?)と申す。宜しく頼む」
既になりきっているリースの隣で、アリシアはぎこちなく頭を下げる。
「先陣を務めるのは、汚れを知らぬ深窓の令嬢とその可憐な心を弄ぶ不良騎士さんどす」
気障っぽい羽帽子を被った伏見鎮葉(ec5421)と、ブラックプリンセスを着せられたエイリークが舞台に姿を現す。
「震えて歩けないのかい? ならばこうしよう」
鎮葉はエイリークの腰を強く抱き寄せる。
「可愛いよ‥‥とっても」
「し、鎮葉お姉さま〜。ドキドキが止まりませんっ!」
さらに顔を寄せて誘惑する素振りを見せると、初心なエイリークは真っ赤な顔で俯いた。
「2番手は‥‥は、初めての口付けはシトロンの味っ、爽やか学生カップルだ」
有之新の噛み噛み解説の後、フリーウィル冒険者養成学校の制服を着たジルベール・ダリエ(ec5609)とラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)が登場する。
「とうとう俺の本気を見せる日が来たようやな‥‥無駄毛は処理済みや! 俺のつるぴか美脚、見とれてもエエで!」
小声で囁くジルをおリィは思いっ切り無視。
ならばとフレッドにウインクを飛ばすものの、さっと顔を背けられてしまった!
「ジルベールさまは世界一可愛いおかまさんですわよ♪」
張り切ってジルに紅小鉢で口紅塗っていたラヴィは、天使の笑顔で嬉しいのか悲しいのかわからない励ましを送る。
「今日は男の子のラヴィがジルベールさまを守って差し上げます‥‥だぜ?」
白猫耳と尻尾をつけたラヴィの可愛らしさに、ジルの脆い(?)理性が崩壊する。
「ねえ‥‥ラヴィくんはぁ、ジルのこと、好きぃ? 好きって言わないとぉ、みんなの前でキスしちゃうんだ・か・ら☆」
さあっと空気が凍るのもお構いなしに舞台上でキスを迫るジルの頭に、おリィが投げた簪がぷっすりと刺さる。
「黒子はん、さっさとこの外道を撤去しておくれやす♪」
おリィは実にいい笑顔で微笑んでいる。
「さあ気を取り直していきましょか。3番手は闇夜を流星の如く駆け抜ける怪盗と、わんこのように健気な町娘はんでありんす」
ミッドナイトマントで首から下を隠していたマール・コンバラリア(ec4461)は、舞台中央で衣装の早変わりを行う。
歓声を上げる観客達に一礼し、白いタキシードの胸元に薔薇を一輪挿し、ホワイトマントとホワイトハットを身に付けたマールはにこっと微笑む。
「‥‥俺、すっげー落ち込んだんだからな。でも嫌われてなくて良かった」
「ゴ、ゴメン。恥ずかしかっただけだけなの」
顔を合わせればあの日見た裸を思い出してしまい、マールはお花見の間中、アゼルから逃げ回っていたのだ。
珍しくいじけた口調の彼に素直に謝った後、用意した薔薇に口付けてそれを放り投げる。
「これは一体‥‥」
サイコキネシスで軌道修正した先にはシルヴィア・クロスロード(eb3671)の姿が。
「その薔薇は舞台への案内状。受け取ったからには貴女にも参加してもらうよ」
「ちょっと、待って下さ‥‥きゃあーーー!!」
問答無用、シルヴィアは謎の黒子隊に連行されていく。
「‥‥マールにキスしてもらえるなら、俺、薔薇になりたいかも」
「な、なに言ってるの!? ほら、戻るわよ!」
マールは真っ赤な顔でアゼルの手を引き、舞台袖へと逃げる様に飛んで行った。
「4番手はミステリアスな謎の美女と、彼女に惹かれる自分を必死に押さえつける冒険者の少年‥‥はて、心当たりがある様な?」
登場したのがキルシェとヒルケイプ・リーツ(ec1007)だと知り、有之新はレミーの策略に額を押さえる。
「‥‥はっきりと言われるより、そういう風に意思表示される方が堪えるな」
純潔の花とジョシュアンの指輪を握り締め、硬い表情をしていたヒルケはハッと顔をあげる。
「嫌われるような事、何かしたか? そんなつもりはなかったんだが‥‥」
「ち、違います! キルシェさんは素敵な方ですし、私みたいな胸の小さな女の子の事なんて本気じゃないに決まってるって思って、だから‥‥」
そこまで言いかけて、ヒルケは彼の胸にコマドリのペンダントが光っている事を知る。
「‥‥言葉よりこっちの方が伝わるかもな」
ヒルケの胸にも同じ物があると知ったキルシェは、彼女のおでこにそっと口付ける。
真っ赤な顔で固まるヒルケは、お姫様抱っこをされて退場するのだった。
「羨ましいのう。なあ、エリオス」
武士装束を纏った朱鈴麗(eb5463)は、リボンを首に巻いてあげたペットの狐をぎゅっと抱きしめ、同じ名の男性を想う。
少しだけ寂しそうな顔の主人にエリオスは鳴き声を上げると、ぺろっとその頬を舐めた。
「慰めてくれてるのかえ? お主は優しいのう」
鈴麗はエリオスを撫でた後、小さく頭を振って片づけへと戻った。
「あらあら、ご馳走様どす♪ 5番手には無表情が愛らしい貴族のお坊ちゃまと、おっとりのんびり執事コンビがご登場〜」
凪と鐶のちみっこコンビの登場に、あちこちから「可愛い〜」や「和む〜」という声が飛ぶ。
「‥‥照れ臭いから一緒に歩こう」
「でもウチは鐶ちゃんの執事やし、一歩下がっとかんと♪」
「むぅ」
鐶は半目で凪を恨めしげに睨んだ後、舞台の中央でくるりと一回転する。
そして取った決めポーズは他の出場者の真似っこ。
しかし両足を交差させ背をかがめ、両手を翼の様に広げた格好は珍妙である。
「可愛ええなぁ♪」
でも凪の言う様に、可愛いから何でも許されてしまうのだ。
「6番手は食いしん坊なプリティ垂れ猫耳給仕さんと、生真面目で恥ずかしがり屋な所がそそる狐耳浪人さんだぞ♪」
気づけばノリノリの有之新におリィはくすっと微笑む。
「って、私も出場ってどーゆー事よ、ルザリアさん! 今回は『ルザルザ』って呼ぶわよ!?」
「うむ! これは任務だッ! 私は恥かしくなど無いっ! 情けなくなど無いぞっ。私はっ!」
「聞いてないしっ!」
必死に自己暗示をかけるルザリア・レイバーン(ec1621)に、巻き込まれたディーネ・ノート(ea1542)はびしっとツッコミを入れる。
西から良い匂いが来ればそちらへ行き少し食べ、東で山盛りになってる御飯さんが居れば半分減らしてあげやうと食べる‥‥それにはまだまだ食べ足りないディーネであった。
「あー! ちょ、それは拙いから! 要らないからっ!」
引き攣った笑顔のままで舞台中央にて妙なポーズを取りそうになるルザルザを必死で止めるあたり、ちょっと苦労人ちっくである。
「7番手は‥‥皆さん、覚悟はええどすか? ってレミーはん、このペアだけコメントがありまへんで!?」
「も、黙示録的美女コンビの登場でどうだっ!」
有之新、ナイスフォロー!?
「あらぁん、随分とツレない紹介じゃない? 皆、ア・タ・シ・を・見・て☆ んーちゅっ」
衣装の羽飾りを揺らしながらクネクネと怪しげに踊る日高瑞雲(eb5295)。飛んできた投げキッスを皆は「ひいぃ!」と避ける。
「あああシルフィにこの様な醜態を見せるなんてっ! 駄目だ、あまりに恥ずかしくてどうすれば良いのか解らない‥‥」
「てめえ! この期に及んで乙女みてえに恥じらってんじゃねえ!」
「だだだだってぇ」
親友2人のやり取りが喜劇に見えて、若宮天鐘(eb2156)はげらげらと笑いながら野次を飛ばす。
「ぬくも瑞の字もひでぇな! 俺様のがよっぽどイケてんじゃんかよ!」
髪を巻きフリルやリボンがいっぱいのドレスを着た天鐘は、文句無しに可愛かった。
おどおどした態度で近づいてみれば、ジルがその正体に気付かない程に。
「‥‥ほう、そんなに仕置き食らいてえのか?」
瑞雲は未だ恥らうキュアンの顔を掴み、強引に‥‥
「ややややめろちかづくな、あああチューはせめて頬にッ‥‥!」
ぶっちゅうううぅぅっ!
────暫しお待ち下さい。
「8番手は高潔のツンデレ垂れ犬耳侍と鈍感垂れ犬耳お嬢様、そしてペットの垂れうさ耳くんのトリプルプリティー垂れ耳でありんす〜☆」
まるで何事も無かったかの様に司会を務めるおリィに、観客達も同様に応える。‥‥そう、我々は何も見ていない。
「さあ、出陣ですわ!」
念願だったフレッドの寝癖直しを経験し、ミシェルは上機嫌で2人の手を引く。
悩み事に対しレミーからは『まずはお手紙からですわね』という答えを得ていた。
一方、振袖「紅白梅」を着せられたフレッドと、強引に巻き込まれた挙句にフリルいっぱいの長袖に丈の短いズボンを穿かせられたカノン・リュフトヒェン(ea9689)は、今にも魂が抜けそうな顔をしている。
「わ、私も出るのか!? 似合う筈もあるまいし場を盛り下げるだけだろう」
「‥‥逃げたら私が一生後悔する様なお仕置きをしてあげましてよ?」
「はいぃっ!」
言葉は通じずとも背後からレミーの強力な邪念を感じ、カノンは裏返った声を上げる。
「フレッド、私の格好はどうかしら?」
「凛々しくて美しいな。良く似合っている」
「あ、当たり前ですわ! 2人とも跪いてお手をなさい!」
ドキドキと高鳴る胸と赤い頬を知られたくなくて、ミシェルは2人に無茶苦茶なポーズを強要する。
「うぅ、豹馬殿にはこのような格好、見せられんな‥‥ん?」
力なく項垂れるカノンの目に、舞台に向けて走ってくるモルとリンの姿が映る。
きっかけはカメリアの『フレッドさんとモルさん、どっちが綺麗でしょうねぇ?』という呟きだった。
「モ、モル君!?」
「フレッドに負けてられるか。僕達も出るぞ」
ぐいと手を引かれ、その強引さにリンの胸が高まる。
「飛び入り参加はいじわる黒猫耳姫と、絶賛子悪魔修行中の猫耳王子のにゃんこペアだな」
策略っぽいカメリアの『より女の子な格好の人が、可愛いし素敵だと思います♪』という助言を受け、いつの間にか受けが良さそうな格好に着替えたモルは、観衆を見下ろし不遜に微笑む。
(「好きな気持ちに理屈は関係ないよね。だって、すごく好みなんだもの。困ったわ‥‥」)
モルに対して馴れ馴れし過ぎる自分を恐れながら、リンは繋がれた手にきゅっと力を込めた。
「10番手は王子と謳われる清涼系乙女と、恋より深い友情で彼女を包む魅惑の紳士どす〜」
エレェナ・ヴルーベリ(ec4924)の見立てた淡い緑色のドレスに身を纏い、新緑の髪飾りを挿したユリゼ・ファルアート(ea3502)は、嬉しそうに微笑む。
「折角『彼』の目届かぬ異国に来たんだ。今日くらいは、私だけの姫君で居ておくれ」
「今日は他の誰にも目をやらないって約束してくれるなら、喜んで」
エレェナはユリゼの手を取り口付けを落とす。
それが誓いだと知り、ユリゼは細い腕を絡めた。
「サクラが散るまでの間‥‥今だけ本気で恋に落ちさせて」
微かな囁きに微笑むエレェナ。
そんな彼女をエルディンは遠くから見つめていた。
「ふうん‥‥中々可愛らしいじゃない」
その言葉と共に向けられた微笑みを思い出すだけで、この胸は苦しくなる。
「貴女をエスコートできたら、どんなに幸せだろうか‥‥」
切ない恋の呟きは春風に溶け、彼の人に届く事はなかった。
「さあさあ、次はいよいよ大トリにして大本命! ジャパンからやって来たいたいけなうさ耳メイドさんと、凛々しくも美しいキャメロットの華・銀狐ナイト〜☆」
盛り上がる音楽と共に舞台に現れたのは、黒の騎士に赤いマントを纏ったシルヴィアと、何かを振り切った表情の陸堂明士郎(eb0712)だ。
胸元に槍騎士の紋章が光るシルヴィアにエスコートされながら、明士郎は『毒を食らわば皿まで』という諺を思い出していた。
「えーい、此処まで来れば楽しんだ方が勝ちってね。そう、心頭滅却すれば火もまた涼しと‥‥」
「明士郎お兄さん、すっごく可愛いよぉ☆」
英国紳士を目指す少年風の変装をしたティアラ・フォーリスト(ea7222)は、自棄になりつつある明士郎にエールを送る。ちなみに明士郎の格好は全て彼女のプロデュースだ。
「とっても素敵ですよ。ダンスもいかがですか?」
貴婦人に接するように最上の騎士の礼を取り、シルヴィアは明士郎の手の甲に敬意を込めて口付けのふりをする。
イギリス語はわからなかったが、踊りに誘われていると知った明士郎は微かに頷くと、シルヴィアのリードで踊り始める。
「う〜ん。あれじゃ盆踊り? あ、鰌掬いかも〜♪」
妖しげな踊りでシルヴィアを翻弄する明士郎を、ティアラは楽しそうに見つめていた。
「これにてキャメコレは終了っ。魅力的な皆に盛大な拍手を〜!」
いつもの口調に戻ったリースは、舞台上に並ぶ出演者達を称える。
盛大な拍手と大歓声の中、キャメコレは幕を閉じた。
●まだまだお花見は続きますわよ〜!
夜になり、お花見は色んな意味でヒートアップしていた。
恋人達や恋人未満さんは、夜桜を見ながら甘い一時を過ごす。
「春は恋の季節か‥‥はぁ。20にもなってどうにも縁がない自分はどうしたものかと」
各地を飛び回っている自分には恋人など意味がないと思う桂木涼花(ec6207)だが、仲の良さそうな男女を見かけるとちょっぴり羨ましくなる。
どこかにいい人はいないものかと溜息を付いた時、怯えた目をしたシルフの涼と目が合う。
「子供の精霊なんかその対象に見ないわよ、失礼ね」
ぷいっとそっぽを向き、涼花は日本酒を煽るのだった。
「こ、こんな格好‥‥恥ずかしいです」
自身が団長を務める『ベイリーフ』隊員の企みにより、シルヴィアは夜会巻きに狐耳、ゾーリャのドレスを着せられていた。
隊員達から贈られる賛辞の声に、彼女が顔を真っ赤にしたのは言うまでもない。
そして「やらせたのは自分だから」と申し出たエレェナと、それを心配しついてきたユリゼと共に、レミーのお仕置き『朝まで私に付き合いなさいませ』の刑を受けるのだった。
「宴もたけなわ、楽しく踊って盛り上げましょ☆」
音楽に合わせステップを踏むテティニス・ネト・アメン(ec0212)の華やかな衣装が揺れる。
(「故郷とは花の種類が全然違うけど、綺麗な花を見ていると心が浮き立つのは何処の空の下でも同じね」)
自分と一緒になって踊り始める者に笑顔を向けながら、テティニスはランタンの灯に照らされた桜を眺める。
「やはり美しい花を見ると心が安らぐものだな」
長引く悪魔との戦いの骨休めにと参加したエスリン・マッカレル(ea9669)は、変わった催しだが参加してよかったと思っていた。
「‥‥悪魔との戦いで散って行った者達にもこの安らぎのあらん事を。そして必ずや我等に勝利を。乾杯!」
凛とした声でエールを掲げる彼女に、傍にいる数人が倣う。
「明たんのめの字はどう書くの! わっはっは☆」
「こうして、こうして、こう書くの〜。あっはっは☆」
「いいぞ、瑞の字、明士郎! あんたらは最高の馬鹿だ! 俺様の為にもっとやりやがれぃ!」
しかしその近くでふりふり褌姿の瑞雲と明士郎がへべれけで尻文字踊りをしている辺り、綺麗に締めるのは無理な様だ。
「これぞ私の求めていた世界! 最高ですわ! おーっほっほっほ!」
レミーの高笑いが夜空に響く。
カオスなお花見は夜が明けるまで続き、翌朝の原っぱはある意味屍累々だったそうな────。