寂しがり屋のユノ〜恋するお坊ちゃま〜

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月17日〜04月22日

リプレイ公開日:2009年04月28日

●オープニング

 
 シェリーキャンという妖精のユノは、ずっと森で暮らしてきた。
 家族も友達もいない。
 だからずっと独りぼっちだ。
「今日はどこの畑にしようかちら? 何だかにんじんを腐らせたい気分だわ」
 でもユノは寂しいなんて思った事はなった。
 住んでいる森の近くにある村で悪戯をするのに忙しいからだ。
 シェリーキャンは手で触れた動植物製の物や食料等を好きに腐らせる事が出来る。
 農業で生計を立てている村はユノにとって格好の遊び場だった。
「‥‥ふふふ。ここのおじさんの困った顔っておもちろいのよね」
 人参畑で悪戯を終えたユノは、物陰からそっと様子を伺う。
「あちゃ〜、またやられたか。参ったなぁ」
 やがて現れた恰幅のいい男性が溜息の後、腐った人参を1本1本抜いていくのを笑いを殺して見ていた時だった。
「お父ちゃん、またアイツに腐らされたのか? 何で懲らしめないんだよ!」
 男性の息子らしい少年が現れ、物凄い剣幕で父親に掴みかかる。
「腐らされるのは数本だ。別に大した事じゃないさ」
「そんな事ないっ! お父ちゃんが一生懸命作った人参だぞ! 1本だって無駄にしちゃいけないんだ!」
 少年の怒っていた様な顔は歪み、ボロボロと涙を零し始める。
 男性は何も言わずにその体を抱きしめ、頭を優しく撫でてやっていた。
 その温かな光景を目にしたユノは一瞬だけ羨ましいと思ったが、慌てて頭を振ってその場を飛び去る。
「ユノは1人でも平気。寂しくなんかないんだから‥‥」
 言い聞かせる様に呟き、森へと戻る。
 その夜、ユノは中々寝つけなかった────。

「妖精さんを! 妖精さんを僕と一緒に捕まえて下さいっ!」
 ある日の午後、冒険者ギルドにエイリークが息を切らして駆け込んできた。
「おいしい野菜が腐るんです! 妖精さんが、妖精さんのせいで、野菜が腐って、妖精さんが腐って‥‥!」
「わ、わかりましたから、ちょっと落ち着いて下さい。それに妖精さんは腐りませんからね? ほら、深呼吸、深呼吸‥‥」
 すっかり興奮した様子で捲くし立てるエイリークを何とか宥め、受付嬢は何があったのかを聞き出していく。
 エイリークが大慌ての原因はこうであった。
 アマレット家が贔屓にし始めた農家で、収穫した野菜が次々に腐るという事態が続いているらしい。
 犯人は小さな妖精シェリーキャン。
 いつの間にか森から村へと姿を現すようになったシェリーキャンは、村人が丹精込めて作り上げた野菜を腐らせて遊んでいるのだ。
「この妖精は気まぐれな性格ですが、気に入った人の為に果物酒を作ってくれる優しい一面もあるんですけどねぇ。この子はどうしちゃったんでしょう?」
 エイリークの話を依頼書に書き写しながら、受付嬢はうーんと首を傾げた。
 話す事で落ち着きを取り戻したエイリークもうーんと唸っている。
「寂しいから、構って欲しくて悪戯してる‥‥とか?」
 何とも子供っぽい理由だが、もしかしたら当たっているかもしれない。
「シェリーキャン、かぁ。可愛い名前だから、きっと見た目もとびっきり可愛いんだろうなぁ」
 初めて聞いた妖精の名前に、エイリークは頭の中でその姿を想像してみる。
(「この妖精さんを改心させて連れて帰ったら、アリシアさんは喜んでくれるかも!」)
 エイリークの考えの行き着く先は全てアリシアの笑顔である。
 愛らしい妖精さんと戯れる彼女の姿を想像し、またもや鼻の下を伸ばすエイリーク。
(「な、何なのこの子‥‥」)
 別世界に思考を飛ばしている少年に一抹の不安を感じながら、受付嬢は書き上がった依頼書を張り出すのだった。

●今回の参加者

 eb7760 リン・シュトラウス(28歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec4989 ヨーコ・オールビー(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ec5845 ニノン・サジュマン(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ec6341 木藤 村正(47歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ec6398 坂東 沙織(34歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文

●デンジャラス・ビューティー☆
 暗闇の中でエイリークは自問自答を繰り返していた。
(「何かが、何かがおかしい! こんな事って‥‥」)
 彼の隣には服がはだけ、露な姿のヨーコ・オールビー(ec4989)がすやすやと寝息を立てている。
 2人は年頃の男女でありながら、同じテント内に2人きりだった。それが意味するものとは‥‥
「ニノンさんは、貴腐人の中の貴腐人という訳? 素敵ね♪」
 リン・シュトラウス(eb7760)はニノン・サジュマン(ec5845)をキラキラと輝く目で見つめている。
「リン殿こそ中々の兵よのう。良き同志に会えてわしは幸せじゃ」
 リンに強請られて持ってきた書物を渡した時は「‥‥べっ、別に普段から持ち歩いてるわけではないぞ!」とツンデレっぷりを発揮していたニノン。
 しかしお酒の力の所為か、はたまた同じ趣向の友に出会えて喜びか、今は素直な言葉と共に嬉しそうに微笑んでいる。
「是非これをユノに読んで聞かせてあげましょ」
「お、音読するのか!?」
「もちろん♪ だってシェリーキャン初の腐女子を誕生させる為ですもの!」
「むぅ、それもそうか。背に腹は代えられんな」
 見目麗しい2人の乙女は、性別を超越した愛を描く物語の愛読者‥‥ユノの身に危険が迫っていた。
「もう飲まれへん‥‥むにゃむにゃ」
「ぐえっ!」
 嬉しそうに顔を緩ませているヨーコは寝言を呟きながら、グーパンチにした拳を隣に眠るエイリークの鳩尾に思いっ切り振り落とす。
 まるで蛙の様な間抜けな声を上げた後、エイリークはその拳を気付かれないようにそっと戻した。
(「ううっ、無理矢理にお酒を飲まされたとは言え、邪な期待を抱いた僕が悪いんだ。アリシアさん、ゴメンなさい。僕は汚れた男です‥‥」) 
 繰り返される無意識の暴力に耐えながら、エイリークはしくしくと涙を零す。
 数時間前、テント内に連れ込まれたエイリークは「いよいよ僕も大人の階段を上る時がっ!」と予期せぬビッグチャンス到来に胸を高鳴らせたのだが、当然、そんな美味しい状況が待っている訳もなく。
 すぐに眠りに落ちたヨーコの殴る蹴るの寝相の悪さに翻弄され、出て行こうとすると何故か絶妙のタイミングで首根っこを捕まれ、引き戻されるを繰り返していた。
「この肉はうちのや。誰にも渡させん‥‥かぷっ」
「いたたたたっ! 僕のほっぺはお肉じゃありませんってば!」
「ぷにぷにで歯応えのない肉やなぁ。もっと噛んだろか‥‥はぎゅはぎゅ」
「んぎゃ! か、噛み切られる〜! ニノンさん、リンさん、助けて〜〜!!」
 必死に助けを求めるエイリーク。
「やっぱりここが1番の萌え描写よね」
「うむ、わしもそう思うぞ。ちなみにここも中々に‥‥」
 しかし例の書物について尋常ならぬ集中力で語り合う2人には、その叫びは全く耳に入らないのであった。
「この人達、何ちに来たのかちら。とっても変な集団だわ。でも‥‥」
 その様子を葉っぱの陰から伺っていたユノは、寂しそうな顔できゅっと唇を噛み締めた。

●優しい嘘
 青空の下、春の訪れを喜ぶ様なリンの笛の音が村を包み込む。
「みんな、遠慮のう飲み食いしたってや!」
 昨日と同じ様に昼間から宴会が開かれており、3人が用意したお酒と食べ物に加え、村の女性やニノンが作った手料理が振舞われていた。
「今からあの調子じゃ、また今夜も僕は慰み物に‥‥」
「エイ君、そのほっぺの歯形はどうしたの?」
「ヨーコさんに噛まれたんです! お2人が助けてくれなかったからですよぉ」
「なんと、そんなに激しいプレイを‥‥」
「してませんっ! 僕は大人の階段を上るどころか、思いっ切り突き落とされたんです! ううっ、アリシアさんに会いたいよぅ」
 リンとニノンを恨めしげな目で睨み、エイリークはアリシアの笑顔を思い出す。
 同行してくれるのが年上美女ばかりだと知り、大喜びで浮かれていた初日が遠い昔の様である。
「アリシアぁ? なんや、色気づいたガキん子やな。こんなエエお姉さんに囲まれといて、余所の女の名前出すんが気に入らん。よっしゃ、もうちょっと飲ませたろ!」
「た〜す〜け〜て〜!」
 すっかり目の座ったヨーコにどぶろくを瓶ごと飲まされるエイリークだった。
「そなた達はそのシェリーキャンを憎んではおらぬのだな」
「独りぼっちで寂しいから悪戯してるんだって村のモンはわかってる。ただ俺の息子がな‥‥」
 ニノンに人参畑を案内したくれた男性は、リンと談笑している息子に視線を移す。
「父ちゃんの畑ばっか狙うだなんて許せないんだ!」
「うん、そうね。でも君は他の畑が狙われればいいって思ってるんじゃないよね?」
「当たり前だろ!」
「それに本当は懲らしめたいだなんて思ってないんでしょ?」
 リンの優しい笑顔を目にし、少年は頬を染めながら頷いた。
「隠れてないで出て来て欲しいんだ。友達になれたらなって‥‥」
「あなたは優しくていい子ね。お姉さん、感激しちゃった♪」
 ぎゅっと少年を抱きしめるリンは、この瞬間に自分が彼の初恋の人になったと知る由もないのだった。
(「意地っ張りのシェリーキャンか‥‥可愛すぎない?」)
 木の陰にユノの姿を見つけたリンは、真っ赤な顔の少年を解放し「素直になれますように」との願いを込めてメロディーを唱える。
 それを合図にヨーコは村人が出したワインをぐいっと飲み干した。
「これがこの村の果実酒なん? ‥‥あかん、おいしない。同じ発酵した物言うても、このどぶろくにはよう敵わんで。この村のシェリーキャンは大した事ないな?」
「確かに。妖精が作った酒も飲んでみたいと期待しておったが‥‥」
 ニノンもワインを一口含み、がっかりした様に息を吐いた。 
 これはユノを誘き出す為の作戦だと聞かされていた村人達は、予定通りしょんぼりとした顔で俯く。
「それは昔ここにいた奴が作ったワインよ! ユノの作った方が何倍も美味しいんだから!」
 すると頬を膨らませたユノが姿を現した。
 不機嫌な顔をしているが、リンのメロディーの効果により、皆の輪に入りたいと言う素直な気持ちに従った様だ。
「そこまで言うなら、そなたの作った酒を飲ませて欲しいものじゃな」
 ニノンはにやりと笑うと、持参した果実を詰め込んだ樽を指差す。
「美味ち過ぎてびっくりちても知らないんだから!」
 ぷりぷりと怒ったまま、ユノは樽の中の果実に触れ始める。
 その場にいた全員が嬉しそうに顔を見合わせた事に気付く事もなく‥‥。

●そして企みは実を結ぶ!?
 数時間後、ユノが作ったワインが全員に振舞われた。
「こらエエ酒や。こんなシェリーキャンがおってほんま幸せな村やで♪」
「まろやかですっごく美味しいわ!」
「恐れ入ったぞ、ユノ殿」
 予想以上の美味しさに頬を緩ます3人。村人達もうっとりとワインを楽しんでいる。
「自分が作ったものを誉められると嬉しいであろ? 農家の者達にとっても、作物を、美味いと食べてもらえる事が喜びじゃ。それが誰にも食べられず悪戯で腐ってしまったらどう思うか、考えてみよ」
 皆の様子を見て得意げに胸を張っているユノに、ニノンは厳しい表情と声音で語りかける。
 途端にしゅんとするユノは、反論する事無くお説教を受けていた。
「ユノはん、このガキん子がどうしてもあんたと友達になりたい言うてんねん。なっ?」
 タイミングを見計らい、ヨーコはエイリークの肩を容赦なくバシッと叩く。
「い、痛っ!」
「優しく、優しくね?」
 リンに背中を押されてエイリークはユノに歩み寄った。
「あなた、ユノとお友達になりたいの?」
「うん。なってくれるかな?」
「悪戯ばっかちてた悪い子なのに?」
「それは寂しくて誰かに構って欲しかったからだよね? 大丈夫、皆もわかってるよ」
 エイリークの言葉にユノは目を見開くと、村人達を見つめる。
 そして自分を見つめる瞳がどれも優しいと気付くと、ぽろぽろと涙を流しながらぺこりと頭を下げた。
「ユノ、寂ちかったの。見つけて叱って欲ちかったの。ごめんなさい、ごめんなさい‥‥」
「ね、良かったらこの子とも仲良くしてくれる?」
「くれるー?」 
 思わぬ優しさに触れて泣き出すユノに、リンはエレメンタラーフェアリーのマロンを紹介する。
 やがて仲良く飛び回る2匹の姿を目にし、その場にいた全員は優しく微笑んだ。
「僕達はこの村を救ってユノを改心させられたんですね。良かった‥‥」
「あんたは今日からユノの友達や。改心させるとか何とか、余計な事は考えんでもええ」 
 感激し涙ぐむエイリークのふわふわ猫っ毛をくしゃくしゃっと撫でながら、ヨーコは言い聞かす。
「でも、どう接したらいいんでしょう?」   
「一緒にようけ遊べばええねん。勿論、悪戯の後始末はあんたがするんやで?」
「はいっ! って、えぇっ!?」
「文句言うたらアカン、男の子やろ! さ、これにて一件落着って事で飲み直しや♪」
 動揺するエイリークを背中から抱きしめながら、ヨーコは高らかに宣言する。
「寂しくなったら野菜を腐らせるのではなく、美味い酒を作るが良い。人に優しくすれば優しさが返ってくるのじゃから」 
「うん、わかった」
「ところであなたは女の子でいいのかしら?」
「ううん、ユノ達に性別はないの」
「でも見た目が女の子っぽいからいいわよね♪」
 リンはキラキラとした目で例の書物を取り出し、ニノンと共にそれを音読し始める。
 やがて数人の村娘達もふらふらと引き寄せられ、宴会の一角に怪しげなオーラが漂い出した。
「あの恐ろしい書物をユノに聞かせないで下さいっ!」
 ユノが腐らせた野菜を肥料として畑に撒いていたエイリークは、青い顔でユノをその場から連れ去る。
「ユノ、ずっとあなたと一緒にいていい?」
「もちろん! きっとパパもママも大歓迎だよ」
 満面の笑顔を見せるエイリークは知らない。
 ユノが邪に微笑みながら「あなたは受けね‥‥」と呟いた事を────。