【お兄様と私】ロイエル家の聖夜祭

■ショートシナリオ&プロモート


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月25日〜12月28日

リプレイ公開日:2007年12月30日

●オープニング

 ダンスレッスンから数日後の午後、レミーとアリシアはアフターヌーンティーを楽しんでいた。
「それにしてもフレッドのあの頑張り様‥‥もしかして恋人でも出来たのでしょうか?」
「ご冗談を。お兄様に限ってそんな事はないと思いますわ」
 アリシアはレミーの妄想混じりの推測をやんわりと否定する。
「恋人でなくても好きな女性はいるかもしれませんわよ。先日いらしてた方達の中にも女性はいらっしゃいましたし。そう言えば美しい方ばかりでしたわねぇ」
 アリシアはレミーの言い分を真っ向から否定することが出来ず、黙り込んでしまう。確かに最近、フレッドが女性と接している姿を見かけることが多くなった。冒険者の中には女友達もいる。しかもレミーの言う通り、個性は違えど揃いも揃って魅力的な美人なのだ。
「あら? もしかしてフレッドを盗られてしまって寂しいのかしら?」
「ち、違いますわ! お兄様が誰を好きになろうと私には関係ありません!!」
 必死で否定するアリシアだが、それは本心ではなかった。ダンスの練習中、フレッドがあまり自分に付き纏わずに他の女性とばかり踊っているのが面白くなかったのだ。しかしそんな幼稚なことを言える筈もなく、また子供じみたヤキモチを妬いている自分を認めたくなかった。
「なら安心ですわね。今度のパーティーには私のお友達のお嬢さんもいらっしゃいますの。フレッドはたくさんの女性のお相手であなたに構ってる時間がないと思いますわ」
 レミーの言葉にアリシアは何も答えず、黙って紅茶を飲み干した。楽しみだったダンスパーティーが、少しずつ憂鬱になっていくのを感じながら。

 母娘のティータイムから1時間後。
 アリシアの微妙な気持ちの変化を知る由もないフレッドは、今日もレミー相手にダンスの練習を行っていた。
 バードである友人の『上手く踊れるようになればアリシアは今まで以上に自分を愛してくれる』という言葉を何回も何回も反芻し、その為だけにこうして練習に励んでいる。レミーが考えているものとは全く違う理由‥‥と言うか下心である。
「こうしていると若い時のお父様と踊っているような気分ですわ‥‥」
 レミーはうっとりした目でフレッドを見つめていた。フレッドにはその視線が居心地悪い。
「母上、真面目にやって下さい」
「黙って踊りなさいな! 母を美しい想い出に浸らせるのも親孝行ですわよ」
「はあ‥‥」
「お父様も昔は見目麗しかったのに‥‥今じゃすっかりまんまるお腹のおじ様ですわ。あなたはそうなってはいけませんわよ?」
 フレッドが何か返事をしようとしたのと、ホールを一周踊り終えたのはほぼ同時だった。フレッドからすっと離れ、少しだけ真剣な顔でレミーは口を開いた。
「ダンスパーティーではくれぐれも粗相のないようにお願いしますわ。ロイエル家の長男としての務めをきちんと果たすのですよ」
「それはアリシアを守ることですか?」
「‥‥違いますわ」
 相変わらずアリシアの事しか頭にないフレッドに呆れつつ、レミーは一から長男として務めて欲しいことを言い聞かせるのだった。
 
 パーティーに来てくれた女性を失礼のないようにエスコートすること。
 ダンスに誘われたら絶対に断らないこと。
 アリシアに近づく男性に危害を加えないこと。
 アリシアが男性と二人っきりになっても邪魔しないこと。
 怒りに身を任せてパーティーをぶち壊さないこと。
 以上。

 ‥‥どれ一つ守れそうにない。
「アリシアが心配なら悪い虫が付かないように見張っていればいいと、そう仰ったじゃないですか!」
「確かにそう言いましたが『危害を加えてもいい』とも『アリシアとずっと踊り続けられる』とも言ってませんわよ。なんならエスコートやダンスをしつつ遠くから見張っていればいいのです。勿論お相手に失礼のないようにですわよ?」
 無茶苦茶なレミーの言い分にズーンと落ち込むフレッド。見張っていても自分の目の届かない所にアリシアが連れていかれたら何も出来ない。
「それと、この前のレッスンに参加して下さった方はもちろん、他の冒険者の方にもパーティーに参加して下さるようにギルドにお願いしておきましたわ」
「パーティーへの招待だなんて依頼、ギルドは受けてくれたのですか?」
 フレッドの素朴な疑問にレミーはにんまりと微笑んだ。
「そこは頭の使い用です。表向きは警護という事になっています」
 同じような手を以前誰かも使っていたような‥‥。
 あくまで警護は建前で、実際はパーティーを楽しんでくれればそれでいいらしい。事前準備の手伝いやフレッドの服を見立てるのもレミーはお願いしようと思っている。女性にドレスを薦めるのは好きなのだが、男性物には全く興味がないのだ。
 前回はエルフの美青年に構い過ぎたと反省しているレミーは、ダンスパーティーで恋の旋風を巻き起こそうと画策してやまないのだった。

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2288 ソフィア・ハートランド(34歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb5267 シャルル・ファン(31歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5300 サシャ・ラ・ファイエット(18歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec3680 ディラン・バーン(32歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ec4115 レン・オリミヤ(20歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec4318 ミシェル・コクトー(23歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

エレイン・ラ・ファイエット(eb5299

●リプレイ本文

●衣装選び
 ロイエル家の客間では女性陣が楽しそうにフレッドの衣装選びを行っていた。
「こちらの白騎士風で決まりですわね」
「王子様といえば白ですものね♪」
 ミシェル・コクトー(ec4318)の言葉にサシャ・ラ・ファイエット(eb5300)は笑顔で頷く。
「やっと決まったか‥‥」
「騎士とは弱きを守り導く者だから、少しは周囲から見られる事を意識しないとね」
 憔悴しきった顔のフレッドを穏やかに諭すのはヒースクリフ・ムーア(ea0286)である。
「立派な姿を見せる事を軽視してはいけないけど、見掛け倒しで終わらない様に普段から己を鍛え上げておく事は大前提だよ。という訳で、これは私からのプレゼントだ」
 突然渡されたマントofナイトレッドを驚いた顔で見つめた後、フレッドはヒースクリフに頭を下げた。
「‥‥ありがとう。いつかこのマントに見合うだけの男になれたら、身につけさせてもらうよ」
「喜んでもらえてよかった」
 ヒースクリフはそう言うと、礼服の着こなしや整髪について指導し始める。 
 その間にレミーによる女性陣のドレス選びが始まり、数時間後にはサシャは薄紫色、ミシェルは水色、アリシアは真紅のドレスに決まったのだった。
「レンさんは濃緑色がいいですわよね」
 物陰に隠れていたレン・オリミヤ(ec4115)をレミーは強引に引っ張り出す。
「警護だから、今回は着ないから‥‥」
 必死に抵抗するレン。しかしレミーのされるがままになってしまったのは言うまでもない。

●聖夜に咲く恋の花!?
 パーティー開始1時間前。
「うん、綺麗だぞ」
 アリシアに化粧をしているのはソフィア・ハートランド(eb2288)。もちろん自分のドレスアップにも手を抜かない。一方ルーウィン・ルクレール(ea1364)は贈り物のエンジェルドレスをアリシアではなくレミーが着てきた事に驚いていた。
「ついに始まってしまうのか‥‥」
「お相手の女性を全員アリシアさんだと思えば大丈夫ですよ」
 フレッドはアリシアに関してプラス方向(?)に勘違いさせればよいと熟知しているシャルル・ファン(eb5267)は、優しい笑顔と共にアドバイスをする。ついでに彼女と踊る男性を自分だと思えばいいと付け加えたのだが、そこまでフレッドの感性は豊かではなかった。
「アリシアに恥はかかせられないからな。しっかりと務めは果たすさ」
 ロイエル家の名誉を守る為に最悪の場合はフレッドをスリープで眠らせる事も考えていたシャルルだが、その心配はないらしい。しかしアリシアが気がかりでエスコートに支障が出ないとも言い切れない。
「彼女の事は任せておけ」
 ディラン・バーン(ec3680)が護衛役を買って出る。頼もしい友の言葉にホッと胸を撫で下ろすフレッドだった。

 夜の帳が下りる頃。いよいよパーティーが始まる。
「今夜は我がロイエル家に起こし頂き、誠に有難うございます」
 白い礼服に身を包んだフレッドを女性達はうっとりと見つめている。前髪を上げ額を露にした彼はいつもより凛々しく見えた。
「‥‥皆様にご挨拶を」
 フレッドは今にも泣き出しそうなアリシアの肩をそっと抱き、挨拶を促す。
「は、初めまして。アリシアと申します」
 声を震わせている彼女が可憐に見えたのか、男性達から小さなどよめきが起こる。フレッドの眉が一瞬だけピクッと吊り上った。
「では皆様。ささやかなパーティーですが、どうぞお楽しみ下さい」
 しかし感情を押し殺し、フレッドは締めにとっておきの王子様スマイルを見せる。その笑顔にバタバタと失神するご令嬢達。
「あれのどこがいいんだか」
 呆れ顔のソフィアの隣でミシェルは頬をほんのり薔薇色に染めていた。
(「み、見た目は合格ですわね」)
 きっとドキドキしているのはまだこういう場に慣れていないだけ‥‥ミシェルはそう自分に思い込ませる。
 シャルルの演奏が始まるとフレッドは女性達にもみくちゃにされ、アリシアは男性に囲まれ身動きが取れなくなってしまった。 
 急いでフレッドをフォローするヒースクリフとルーウィン。美青年二人の登場に女性達が浮き足立った一瞬の隙を見逃さず、フレッドを奪い取るミシェル。
「私が1番乗りですわね」
 小悪魔的な笑顔を浮かべ、ミシェルはフレッドにぴったりとくっつく。それを複雑な表情で見つめているアリシア。一方レミーの顔は嬉しそうだ。
「そんなにくっついたら踊れないぞ?」
「離れたくありませんわ」
 とフレッドを上目遣いで見つめるミシェルだったが、その顔は一瞬で真っ赤になってしまった。しかしフレッドは平然としていて、まるきり立場が逆である。 
「私をエスコートしてくれないか?」
 ソフィアはアリシアに群がる男性達を大人の色気で次々と陥落させていく。彼女はアリシアを助けながら、自分の思惑を果たす手伝いを兄妹にしっかりとさせるつもりでいた。ソフィアの野望が何なのか‥‥それは言わずもがなである。
「本日はお招き頂き有難うございます。宜しかったら踊って頂けませんか?」
「勿論ですわ!」
 ヒースクリフに誘われたレミーは有頂天になり、恋の嵐を巻き起こすという企みを忘れて踊り続けるのだった。 
「次は私と‥‥」
「私が先ですわ!」
 ルーウィンと踊る順番を争うご令嬢達。ヒースクリフがレミーに捕まった今、フレッドをフォローできるのは彼しかいなかった。麗しき苦労人、である。
「必ず皆様のお相手をさせて頂きますから、喧嘩は止めて下さい」
 優しい笑顔を浮かべながら心で泣くルーウィンだった。結局パーティーが終わるまで彼が解放される事は無かった‥‥。

 フレッド相手に今回も幸せな妄想を展開しご満悦のサシャだったが、元気のないアリシアの事が気になっていた。中庭で一人物思いに耽る彼女を見つけ、声をかける。
「どうなさいましたの?」
「‥‥お兄様がたくさんの女性に囲まれてるのが面白くなくて、ふて腐ってましたの。おかしいでしょう?」
 自嘲的なアリシアの言葉にサシャは頭を振る。
「わたくし、実は家出したんですの。お兄様に行き先も告げないまま、自立したくてキエフに行きましたわ。そしたら突然、お兄様が尋ねてきて‥‥」
 独りぼっちで心細かったあの時、兄エレインの顔を見てどれだけほっとしたことか。
「パリからわざわざ訪ねてくれた事があまりにも嬉しくて、思わず泣いてしまいましたの。その時、やっぱり家族の絆って特別だと思いましたわ」
 アリシアはサシャの話に真剣に耳を傾けていた。
「ってごめんなさい、自分でも何が言いたいのかよくわからなくなって」
「いいえ、ちゃんと伝わりましたわ。ありがとう、サシャさん」
 あたふたしているサシャに微笑みながら、アリシアは自分を案じてくれる友達がいる事に心から感謝していた。

 そっと物陰からパーティーを眺めながら、レンはぽつりと呟いた。
「フレッドも‥‥やっぱり男」
 警戒しなくてもいいような気がしていた。視線も態度も自分が関わってきた男達とは全く違ったのだから。しかし事故とはいえあの出来事がレンに辛い過去を思い出させ、芽生えつつあったフレッドへの信頼を踏み潰してしまったのだ。
「ここにいたのか」
 聞き覚えのある声に恐る恐る振り向くと、あれからずっと避け続けていたフレッドの姿があった。まだ少し怖い。でも‥‥。
「‥‥何か用?」
 素っ気無い言葉を返すものの、レンは逃げ様とはしなかった。もしかしたら探しに来てくれるのを待っていたのかもしれない。
「ずっと謝りたかったんだ。本当にすまない」
 言い訳を一切しないフレッドの謝罪をレンは黙って聞いていた。
「俺の事が嫌いならそれでも構わない。でも今まで通りアリシアの友達でいてくれないか」
 そう言うとフレッドは徐にポケットから兎の人形を取り出した。
「これで許してもらおうとは思ってないが‥‥よかったらもらって欲しい」
 そっと差し出された人形をレンは無意識に受け取っていた。これをフレッドが買っている所を想像してみる。‥‥ちょっとおかしかった。
「‥‥踊りたい」
 レンは立ち去ろうとするフレッドの服の端を掴む。
「はい。お姫様」
 らしくない台詞を口にするフレッドの笑顔は、前にアリシアと一緒に食べた焼き菓子よりも甘い気がした。

「そのお洋服、とてもお似合いですわ」
 パーティーが落ち着きを見せた頃。ディランは警護から戻り、アリシアと踊っていた。レミーに見立ててもらった服装を彼女はすっかり気に入ったようだ。
「寒い中ずっと見守って下さってたのですね。私があんなお願いをしたばっかりに」
「心配なら守って欲しい、と仰った事ですか?」
 ディランの問いにアリシアは申し訳なさそうに頷いた。強引に連れ出されようとした所を何度ディランに助けられたかわからない。
「気にしないで下さい。今夜はフレッドの代わりですから。それに満天の星空を眺めるのは楽しかったですよ」
「まあ。素敵ですわね」
 少し考え込んだ後、ディランはアリシアの耳元で囁く。一緒に見に行きませんか、と。アリシアは返事の代わりに花のような笑顔を見せた。

●宴の後
「前回はディランさん、今回はヒースクリフさん‥‥あぁ、わたくしのお馬鹿さんっ!」
 無事にパーティーが終わった後、自分の美青年好きのせいでまたもや思惑が果たせなかった事をレミーは激しく後悔していた。
「でも種は蒔かれたようですわ。どんな花が咲くのやら」
 脅威の立ち直りの早さでにんまりと微笑むレミーは、悪巧みの片棒を担いでいたミシェルが仲直りの印にアリシアに贈り物をしただなんて夢にも思わないだろう。
「私、あなたの強敵(とも)を目指してますの」
「目指すだなんて。もうお友達じゃありませんか」
 アリシアがあまりに無邪気なので、また意地悪したくなってしまうミシェルだった。
 このパーティーをきっかけにまたロイエル家で一騒動が起きる事になろうとは、誰一人知る由もないのである‥‥。