【黙示録】魔女狩り

■イベントシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:46人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月10日〜05月10日

リプレイ公開日:2009年05月17日

●オープニング

●光の中に芽生える闇
 南方遺跡群地域にある寒村に2人の女性が訪れていた。
 1人は透き通る白銀の髪の、目を見張る程の美しいな女性。
 1人は茶色の髪の、何処にでも居るような地味な女性。
「リラン様だ。リラン様が来て下さったぞ!」
「これでこの村も救われるわ。どうか私達をお導き下さい!」
 熱に浮かされた様な顔でリランという女性を見つめ、口々に助けを乞う村人達。
 デビルの被害が増えただけではなく、血みどろの事件が多発している南方遺跡群の情勢は不安定であった。
 不安を抱える人達の前に突如として現れたリランは、傷を負った者達を癒すだけではなく、頼りべのない心を救い励まし続けていた。
「私に皆様を導く力はございません。ですが皆様と共に戦う事ならば出来ます」
 リランは村人達を見渡すと、慈しむ様な瞳で微笑んだ。
「どうか不安と言う名の心に迫る闇に負けないで下さい。デビルはその弱さに付け込んで来ます。皆様の尊い心を彼等に明け渡してはなりません」
 鈴の音の様な声は人々の心に心地よく響く。
 いつしか村人達の顔から興奮の色は消え、穏やかな瞳でリランを見つめていた。
「リラン様、どうか私にもこの地を守るお手伝いをさせて下さい!」
 1人の娘がリランに近づき跪くと、それを見ていた他の娘も力になりたいと口々に言い出し始める。
 リランはそっと屈み娘の手を取ると、にっこりと微笑んだ。
「あなたのお心のままに行動なさって下さい。但し、無理はしないと約束して頂けますか?」
 娘は涙を流し、大きく頷く。
 自分とあまり年の変わらない女性に、母の様な────いや、それ以上の温かさを感じながら。
「ふうん。あれが『奇跡の乙女』か。気に入らないね」
 その様子を森の奥から伺っていたルーグは、面白くなさそうに呟く。
 リランを慕う娘達の数は増え、今では100人以上が彼女の活動を手伝っている。
 南方遺跡群地域を混乱に巻き込み、ある事を企むルーグにとってリランの存在は邪魔であった。
「目障りだし、今の内にさっさと消しておこうかな。人間共の手を使って、ね」
 心に付け入れそうな弱い人間を探すなど、今の南方遺跡群地域では造作もない事だ。
 ルーグは唇を歪めて笑うと、その姿を消した。

 それから数日後、新たな悲劇の幕が上がる。
「リランという女を出せ! あの女こそ、この地を騒がせているデビルだ!」
「居場所を知っているのに言わない奴は仲間と見なす! 殺されたくなければ白状しろ!」
 血走った目をした数人の騎士は、剣を振りかざして怯える村人達を追い回していた。
 昨日までは平和だった村に怒号と悲鳴が響き渡る。
「あの方を悪く言うな! お前達こそデビルに唆されてるんじゃないのか!」
「貴様っ、我等を侮辱するか! デビルの手下め、切り捨ててくれるわ!」
 リランを庇う若者を睨みつけ、騎士は躊躇う事なくその体に剣を振り下ろした。
 断末魔の叫びを聞き薄気味悪く笑うその顔は、明らかに常軌を逸している。
「若い女はリランの可能性があるから生きて捕らえよ! その他の奴等は殺して構わん。面倒なら火を放て!」
 逃げ惑う子供の背に深々と刃を突き刺しながら、ある騎士は恍惚とした瞳で天を仰ぐ。
「この地を愛す者として、人を惑わす魔女を捨て置けん! これは正義の名の元の魔女狩りである!」
 獣の様な咆哮を上げ、狂気に満ちた『狩り』に傾倒する騎士達。
 闇に支配された者達が振るうのは、守る為ではなく奪う為の剣だった。

●捕らわれの乙女、影を追う騎士
 数人の騎士達による『魔女狩り』の噂は瞬く間に広がった。
 彼等は村から連れ去った若い娘はリランの疑いがあるとし、遺跡群に集めそこで火炙りにするつもりらしい。
 それはリラン自身の耳にも入り、彼女は単身で騎士達に会いに行こうとしていたのだが‥‥
「フレイ、ここから出して下さい! 私は行かなければなりません!」
 リランは閉ざされたドアを叩き、そこに居るであろう女性の名を呼ぶ。
「気持ちは分かるけど、あなたを失うわけにはいかないの。代わりに私が行くから安心して」
「っ! いくらなあなたでも1人では危険です!」
「大丈夫。デビルになんか負けないわ」 
 フレイはドア越しに微笑むと、部屋を後にした。
 遠ざかる足跡を耳にし、リランは力なく床に座り込む。
「ですが今のあなたでは‥‥」
 俯いた拍子に、リランの髪が揺れる。
 茶色の髪に隠された面立ちは、素朴で温かだった。

 王宮騎士のモードレッドは2人の騎士を伴い、南方遺跡群地域にある村を訪れていた。
「ここがお前達に警備を任せる村だ。1週間に1回は報告の手紙を出せ」
 そこはつい先日、依頼で訪れたばかりの村だった。
 曰くありの村と集落の関係を丸く治める為、冒険者の提案で村の安全を約束したのだ。
 2人の騎士はモードレッドに雇われ、給料も彼が支払う事になっている。
「‥‥魔女狩りだと?」
「はい。ここは森の奥なので被害は出てませんが、遺跡群に近い村は焼き払われた所もあるとか」
 金貨の入った袋を受け取りへこへこと頭を下げる村長を一瞥し、モードレッドは険しい表情で口を開く。
「詳しい話を聞かせろ。そんな馬鹿げた狩りは止めさせてやる」
 恐らくはあのルーグというデビルが関わっているのだろう。
 モードレッドは苛立たしげに舌打ちをすると、鬱蒼と茂る森の奥を睨み付けた。

●今回の参加者

マナウス・ドラッケン(ea0021)/ グラディ・アトール(ea0640)/ ディーネ・ノート(ea1542)/ キット・ファゼータ(ea2307)/ 西中島 導仁(ea2741)/ 李 雷龍(ea2756)/ アルヴィス・スヴィバル(ea2804)/ クレア・エルスハイマー(ea2884)/ イフェリア・アイランズ(ea2890)/ オラース・カノーヴァ(ea3486)/ 七瀬 水穂(ea3744)/ 尾花 満(ea5322)/ 李 風龍(ea5808)/ アンドリュー・カールセン(ea5936)/ 七神 蒼汰(ea7244)/ マミ・キスリング(ea7468)/ ファング・ダイモス(ea7482)/ リリー・ストーム(ea9927)/ 風雲寺 雷音丸(eb0921)/ 青柳 燕(eb1165)/ フォーレ・ネーヴ(eb2093)/ ステラ・デュナミス(eb2099)/ 八代 樹(eb2174)/ 藤村 凪(eb3310)/ アレーナ・オレアリス(eb3532)/ シルヴィア・クロスロード(eb3671)/ ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)/ シャルウィード・ハミルトン(eb5413)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451)/ 木下 茜(eb5817)/ リディエール・アンティロープ(eb5977)/ リン・シュトラウス(eb7760)/ エメラルド・シルフィユ(eb7983)/ レイア・アローネ(eb8106)/ レア・クラウス(eb8226)/ サクラ・フリューゲル(eb8317)/ セイル・ファースト(eb8642)/ リスティア・レノン(eb9226)/ 瀬崎 鐶(ec0097)/ クルト・ベッケンバウアー(ec0886)/ ルザリア・レイバーン(ec1621)/ マロース・フィリオネル(ec3138)/ ラピス・ブリューナク(ec4459)/ リース・フォード(ec4979)/ ジルベール・ダリエ(ec5609)/ アレクサンドル・ルイシコフ(ec6464

●リプレイ本文

●守るべき背中
 苛立たしさを隠そうともせず、その瞳は激しい怒りに燃えていた。
「やっぱり僕を邪魔しに来たね。楽しい宴になりそうだよ」
 細い脚で止まっていた枝を蹴り、ルーグは空へと飛び立つ。
 そして鳥の群れに紛れて眼下を歩くモルと冒険者達の上空を通過する。その遥か上空を、嘲笑うかの様に。
「‥‥あれ? 見間違いかな」
 ほんの一瞬だけ蝶が羽ばたいた様な気がして、アルヴィス・スヴィバル(ea2804)はもう1度石の中の蝶を見つめた。しかし蝶は微動だにしない。
「そう神経質になるな。奴が出てきたならば叩けばいい」
 明らかにいつもと違う横顔を見つめながら、アルヴィスは肩を竦めて見せる。
「モードレット卿、何があっても平常心を保つんだ。ルーグが何を企んでいるか知らないが、冷静さを失えばそれこそ奴の思う壺だ」
 グラディ・アトール(ea0640)もまた、モルの様子が気がかりであった。
「ふん。言われなくともわかっている。感情に流されて失態を演じたりはしないさ」
 そう言いにやりと笑った顔は今までにない迫力があった。
「ルーグを放っとくわけにはいかんな。裏で糸を引いてる奴をのさばらせておいたら、また次の悪事を働くに決まってる」
 風雲寺雷音丸(eb0921)はルーグが姿を変えてモルを何処かから観察しているのではないかと思っていた。
 そこで敢えてモルから少し離れ、優良視力を使って彼を見ている動物がいないか、また人気のある場所では対人鑑定を発揮し不審な人物はいないか探るつもりなのだ。
「どうせ、姿を変えて探知アイテムの範囲外で見物しているに違いない」
「うん、その可能性はあるかもね。さてと、僕もルーグくんを探しに行って来るよ。事態の異常さを見ると彼がが関わっているのは間違いなさそうだしね」
 あの鳥の集団の中にいたのならば、今はモルの傍にはいない筈だ。
 先程の蝶の羽ばたきを思考の隅に押しやり、アルヴィスは女性達が捕われ集められている遺跡群へと歩き出す。自己顕示欲が強いルーグは火炙りの場所の近くに潜むのではないかと思ったからだ。
「初めまして、モードレッド卿」
 アレーナ・オレアリス(eb3532)は、腕組みをし険しい表情で遺跡群の方角を見つめていたモルに声をかける。簡単な挨拶の後、アレーナはモルの隣に立ち端正な横顔を見つめた。
「騎士達の暴走は明らかだけれど、死者が出れば王国と領主の間に遺恨が残る。そうならないように、上手くやるのが私達の仕事ってトコかな」
「ややこしい事は後で考えればいい。それよりも馬鹿な騎士共を止めるのが先だ。娘達の命は体裁に代えられんからな」
 ぶつかった瞳の強さにアレーナはくすりと微笑む。噂通り鼻っ柱が強くて生意気な少年だ。
「でも念には念を入れておいて損はないでしょ? ここの領主宛に一筆認めてくれないかしら?」
「書いてやっても構わんが、会えるかどうかまでは保障できんぞ」
「急な面会だし、多分無理でしょうね。会えたら幸い位のつもりで行って来るわ」
 アレーナの答えにモルはふんと鼻を鳴らすと、流麗な字で紹介状を書き始める。それを受け取り、アレーナはペガサスのプロムナードを駆って領主の下へと急行するのだった。
「モル、これ持っとけ」
 七神蒼汰(ea7244)は魔力を帯びたレイピアをモルに手渡す。
「また借りてもいいのか?」
「ああ。前にも言ったが俺には完全有効活用出来ないしな」
「‥‥仕方ないから借りてやる」
 ぷいっとそっぽを向くその頬が微かに緩んでいるのに気づき、蒼汰は笑顔でモルの頭をぽんぽんと叩く。
「念の為にウチらでモルさんの護衛をさせてもらう事にしたんや。ええやろか?」
「不快に思われない様に努力する」
 そこに藤村凪(eb3310)とルザリア・レイバーン(ec1621)が現れる。
「俺もそうさせてもらうぜ。何があっても守ってやるから安心しな」
 いつの間にかオラース・カノーヴァ(ea3486)はモルの背後に立ち、赤毛をくしゃくしゃっと撫で回す。
「別に構わん。好きにしろ」
 モルはふんと鼻を鳴らし、スタスタと歩き出す。その様子に全員は顔を見合わせ微笑み、後を追った。
 やがてそこにグラディも加わり、5人はモルの背を守る様に護衛を開始するのだった。
 
●堕落の徒
 魔女狩りの噂は、遺跡群から離れた町にも広がっていた。
「少し前、気味の悪い騎士が大量の食料や油、ロープを買っていったんだ」
「顔は覚えているか? 紋章でもいい」 
 尾花満(ea5322)の問いに店の主人は暫し考え込んだ後、力なく頭を振る。
「見た事もない男だったな。それに早くしろと急かされたから、紋章を見てる暇なんてなかったよ」
 主人に丁寧に礼を言い店を後にした満は、壁に寄りかかり腕組みをしているマナウス・ドラッケン(ea0021)に気づく。
「面白い話を耳に挟んだぜ。魔女狩りをしている騎士達は、自分の主の屋敷から金をたんまりと盗んでいったらしい」
 それが何を意味するか、満は思考を巡らせる。
 もしも主が魔女狩りを命じていたのならば、資金の心配はいらない。という事は────
「騎士達の独断行動、か」
「そう考えて間違いないだろうな。村を焼き払うにしても娘達を火炙りにするにしても、手間と金がかかる。手間はともかく先立つものが心許ない騎士様達は、忠誠心と誇りを捨てて盗みを働いたってわけだ」
 騎士になるには腕前だけなく人柄も重要であり、総じて高潔で正義感の強い者が多い。その様な性格の人物が盗人の様な行動を突然取り、魔女狩りと言う凶行に及んだ。
 南方遺跡群の現状と照らし合わせ、考えられる可能性はただひとつ。
「やはりデビルに唆されたか‥‥いずれにしても、騎士としてあるまじき行い。なんとしても止めさせなければ」   
 真摯な瞳で空を見つめる満に頷き、マナウスは壁から体を離した。
「騎士達を操って騒動を起こし、利を得るデビルか。お目にかかれたら何を企んでいるか聞いてやろうかね」
 火炙りの場所に赴けば邂逅はそう難しくないだろう。だがその場所を突き止める為に更なる情報収集が必要だ。 
 2人が酒場へと足を運ぼうとしたその時、路地から木下茜(eb5817)が姿を現した。
「‥‥捕らわれた娘達は遺跡群に集められている様です」
 彼女が自分達と同じ冒険者であり、偶然にも居合わせた魔女狩りの騒動を解決する為に行動している仲間であると悟った2人は、その証言に瞳を細める。
「情報の出所は?」
「魔女狩りを行なっていると思しき騎士達を尾行し、彼らが口にしているのを耳に致しました」
「遺跡群へはこの街から少々遠いな。急いで向かわなければ‥‥有力な情報、忝い」
 頭を下げた後で満は自己紹介がまだだと気づき、2人と茜は互いに名乗り合う。そして満とマナウスが得た情報も茜へと告げられた。 
「お陰で余計な手間が省けたぜ、ありがとな。俺達はこの足で遺跡群に向かうが、茜はどうする?」
「あたいも遺跡群に行こうと思っています。ご一緒しても構いませんか?」
「遠慮は無用だ。では参ろうか」
「ちょっと待ってくれ。先にツレを迎えに行ってもいいか」
 踵を返し遺跡群へ向かおうとする2人を制し、マナウスは親指で路地裏を指差す。その場所へ足を運ぶと、フォーノリッヂで未来を予見しているレア・クラウス(eb8226)の姿があった。
「首尾はどうだ?」
「最悪ね。放って置いたら酷い事になるわ」
 このまま誰も何をしなければ、魔女狩りを行った騎士達の手で娘達は全員火炙りにされ、単身遺跡群に向かったフレイは応戦するものの騎士達の手にかかり恐らくは命を落とすだろう。
「息絶えた皆の姿を見て泣き崩れるリランさんが見えたんだけど、その後は何も見えなくなったわ」
「見れるのは10秒間だけだからな。ルーグについては見えたか?」
「‥‥遺跡群で冒険者達と戦っている所ならね」
 その姿は美しい少年だったと告げた後、レアは残酷な瞳を思い出して身震いするのだった。
   
●リラン救出
「奇跡の乙女リラン様の歌を作りたい思っているんだけど、彼女について教えてくれるかな?」
 吟遊詩人に扮したリース・フォード(ec4979)はにっこりと微笑み、女性を見つめる。
 その笑顔に女性は嬉しそうに頬を染めたが、それは一瞬の事。笑顔を陰に変え、口を開く。
「あんた、魔女狩りの噂は知っているかい?」
 嘘をつく心苦しさに胸を痛め頭を振るリースに、女性は悲しそうな顔で魔女狩りについて話してくれた。
「きっとリラン様は娘達を救う為にご自分を犠牲になさるつもりだよ。腕の立つ知り合いがいたら、助けてくれる様に頼んでくれないかい?」
「わかった。これでも顔は広いからね。彼女が拠点にしていた場所はわかる?」
 リースの言葉に女性は涙を滲ませ、リランの活動拠点を口にする。
「あ、聞き忘れていたけれど、リラン様ってどんな容姿なのかな?」
「茶色の髪の控えめだけど素朴で温かなお顔の女性だよ」
「‥‥そう。ありがとう」
 リースは内心の動揺を隠し、笑顔と共に女性に礼の言葉を贈る。
 人々を惹きつける救済者と言えば得てして外見が美しいというのが定石だと思っていたが、今回は例外らしい。
「裏で何が行われとるのかは知らんが‥‥民を守るべき者の暴走か。いやじゃのぉ」
 青柳燕(eb1165)はリランの似顔絵を眺めながら、ぽつりと呟く。
 それはここを訪れる前に、別の村で得た情報を元に燕自身が書き上げたものだった。
「わしゃ絵描きでの。この女性を見かけて気になったモンで行方を捜しちょるんじゃ」
「リラン様‥‥」
 声をかけた女性はその似顔絵を目にした途端、声を上げて泣き始めた。
「この女性を助けたいと思っちょる。泣きたい気持ちはようわかるが、話を聞かせてくれんかの?」
 燕に優しく背中を擦られた女性は頷くと、リランについて自分の知っている事を教えてくれた。
 女性に礼を言い立ち去る燕の耳に「あの方がいなくなったら生きていけない」という悲痛な呟きが響いた。
「シルヴィ、そっちはどう?」
「リランさんの活動拠点の場所が判明しました。ここからさほど遠くない様ですね」
 声をかけられたシルヴィア・クロスロード(eb3671)は、柔らかな笑顔でリースに答える。
 その頃、酒の行商人に扮したジルベール・ダリエ(ec5609)は村長から遺跡群周辺の地図を譲り受けていた。
「おおきに。必ずリラン様や娘さん達を助けだせる様に手配するわ。腕っ節の強い知り合いに頼んでな」
「この際、冒険者でも構わん。必ず皆を救い出してくれ」
 目的を果たしたジルは礼にと酒を数本村長に手渡し、リースとシルヴィアの下へと戻る。
 合流した3人は得た情報を交換し合い、リランは素朴な顔立ちの茶色の髪の女性、フレイは美しい顔立ちの銀髪の女性、そして彼女達の活動拠点はこの村から北にある古びた教会だと確認する。
 借り受けたダウジングペンデュラムを地図の上で揺らしてみると、振り子は教会の場所を指し示した。
「リランさんの性格から考えて、魔女狩りの目的を知っているのに拠点にいるのは不自然ですね」
「そうやな。恐らくは危険な目に遭わないように監禁されてとるんやろ」
「うん、俺もそう思う。そしてフレイが身代わりに遺跡群に赴いている可能性が高い」
 それは憶測に過ぎなかった。だが思案している時間さえも惜しい。
 3人は手早く荷物を纏めると、村を後にした。

 その頃、教会には瀬崎鐶(ec0097)とディーネ・ノート(ea1542)の姿があった。
「‥‥今この地には調査に訪れた冒険者達が大勢いるんだ。皆で協力して娘さん達もフレイさんも助けてみせる」
「だからお願い、リランさんを解放させて! この場所が魔女狩りを行っている騎士達に知られるのも時間の問題だわ」
 フレイに頼まれてリランを見張っていた娘達は、必死で言い募る2人を困惑した表情でを見つめていた。
「あなた方のお気持ちは嬉しく思います。ですがフレイ様の決意を私共が無駄にする訳には参りません」
「魔女狩りの裏にはルーグって言うデビルの影があるの。そいつはこの南方遺跡群の地で何かを起こそうと画策している危険な奴よ。ここを突き止められたら、あなた達だけでリランさんを守る事が出来る?」  
 ディーネはアルヴィスからルーグの話を聞いており、その狡猾な性格や底知れぬ実力を警戒していた。
「リランさんはフレイさんが犠牲になる事を望んでいない筈だよね。君達は誰に憧れてここに居るの? 最も優先すべきは誰の気持ちなのかな?」
「それは‥‥」
 鐶に尋ねられ、娘の1人が言い淀んだ時だった。
「あなた達はここに残り、もしルーグというデビルが現れたら『リランは遺跡群へと向かった』と伝えて下さい」
 鈴の音の様な声に振り返ると、そこには教会の地下に幽閉されていた筈のリランと、肩で息をしているシルヴィア、ジル、リースの姿があった。こっそり忍び込んだジルが扉の鍵開けを行い、リランを救出したのだ。
「私が‥‥いえ、私とフレイが戻るまで、この蝋燭の炎を絶やしてはいけませんよ」 
 リランは温かな笑みを見せると、娘達にホーリーキャンドルを手渡す。
「やっぱり火炙りの現場に行くつもりなのね」
「はい。私の為にフレイや罪のない娘さん達を犠牲にする訳には参りませんから」
 そう答えるリランの瞳は真剣であり、説得は難しそうだ。ディーネはふうと息を吐くと、猫の様に大きな瞳でリランを見つめる。
「わかったわ。あなたを遺跡群へ連れて行きましょう。でも不用意に自分の名前を騎士達に告げない事、それと私達の傍を絶対に離れないと約束してくれるかしら」
「あと、この指輪を使って男性に変身して、これに着替えてもらいたいんやけど‥‥」
 ディーネとジルの申し出に頷いた後、リランはジルの持つ禁断の指輪に視線を移す。
「約束を違えないとお約束致します。ですが指輪の力は使わず、その服装に着替えるだけでは駄目でしょうか?」
「顔が見えへん様にフードを被ってくれるんなら問題あらへんよ」
 リランはホッとした様な顔で微笑むと、別室で着替え始め、程なくして戻ってきた。   
「リラン、決して急な行動は起こさない様にね。大切な友達や無関係の人が巻き込まれて心を痛めるのは分かるけど、勝手に動けばその人達が更に危険な目に遭うかもしれないよ」
「はい。心に留め置き、自重致します」
 リースの忠告に真摯に耳を傾け、
「貴方を慕う多くの人々がいる事を忘れないで下さい。必ず全員無事でここに戻りましょう。その為に私達がいます」
「頼もしくも優しいお言葉、ありがとうございます」
 シルヴィアの申し出に頭を下げるリランは、謙虚で頼りなげであった。
 しかし地味ではあるが温かい笑顔を目にした冒険者達は、彼女に不思議な魅力を感じるのだった。

●遠ざかるフレイ 
 魔女狩りの被害に遭った村を訪れたマロース・フィリオネル(ec3138)は村人1人1人に優しい言葉をかけ、怪我を負った者達を丁寧に治療していた。
「ありがとうございます、旅の方」
「いいえ。こうしてお力になれて嬉しく思います」
 精神的ショックが酷かった老婆は、マロースのメンタルリカバーのお陰で落ち着きを取り戻していた。
「よし、気持ちが落ち着いた所で攫われた女性達を救いに行くか!」
「そうだな。こうしちゃいられない!」
 マロースに感謝の気持ちを告げた村の若者達は、武器を取りに自宅へと引き返し始める。その背にマロースは慌てて声をかけた。
「女性達は仲間が助けに向かっています。必ず助けますから、どうか村に留まって下さい」
「彼女の言う通りですよ。私達を信じて、皆様は養生なさって下さい」
 そこに籠いっぱいの薬草を抱えたリディエール・アンティロープ(eb5977)が現れ、男性にしては優美な笑みを浮かべる。
 彼は薬草師という生業を活かし、傷に利く薬草を処方したり、気持ちを落ち着かせるハーブティーを振る舞って混乱する人々を落ち着かせていた。
「ねぇ、銀髪の綺麗なお姉さんを見かけなかったかな?」
 フォーレ・ネーヴ(eb2093)はリラックスした表情を浮かべている男性に声をかける。
「フレイ様の事か? 魔女狩りがあってからは見かけてないな」
「じゃあ、茶色の髪のお姉さんは?」
「こっちがリラン様のお姿を拝見したいくらいだよ。魔女狩りの噂を聞きつけて、お1人で火炙りの場所まで向かわれてなければいいが‥‥」
 2人の外見的特長を取り間違えていないか確認したフォーレは、真剣な瞳で若者を見つめる。
「火炙りの場所ってどこ? リランねーちゃんの身が危ないの。今だけでもいいから協力して!」
「わ、わかった。教えるから落ち着いてくれ。騎士達は遺跡群で火炙りをするつもりらしい。リラン様が来たらすぐにわかる様に見晴らしのいい場所だそうだ」
「ありがと、にーちゃん!」
 フォーレは無邪気な笑顔で礼を言うと、村を発つ準備を始める。もしかしたらフレイが身代わりに遺跡群に向かっているかもしれないと思ったからだ。
「私達はこれから遺跡群へ向かいます。もし騎士達が戻ってきて私達の行き場所を聞かれたら、素直に教えて下さい。そうすれば皆様に再び危害を加えてくる事はないでしょうから」
「でも、教えたらあんた達が危ないんじゃないのか?」
「ご心配には及びませんよ。私達は大丈夫です」
 リディは自分達を案じてくれる村人達にふわりと微笑むと、フレイの足取りを追う為に村を後にした。

「南方遺跡、神様で忙しいとは聞いてたけど‥‥」
 ステラ・デュナミス(eb2099)は木々の隙間から空を仰ぎ、悔しげな表情のモルを思い出していた。
「もしかしてモル君の事を考えてました?」
 フィディエルのリリーが懸命にパッドルワードで水溜りと会話しているのを見守っていたリン・シュトラウス(eb7760)は、しゃがんだままでステラを見上げる。
「‥‥うん。彼、大丈夫かなぁって」
「実を言うと私もです。モル君って偉そうなくせに、何か放っておけないんですよね。頼りないんじゃなくて、危なっかしいって言うか‥‥」
 彼が彼らしくいられる確固としたものが、何かの拍子で無くなってしまったとしたら。
 その時のモルはどうなってしまうのだろうと想像し、リンは怖くなる。
「ふふっ。心配だって言ったら不機嫌な顔で怒られるわね、きっと」
 ステラが笑い声を漏らしたその時、リリーが嬉しそうな顔で抱きついてきた。
「水溜りは1週間くらい前に雨で出来て、最近踏んで行ったのは銀髪の女の人。遺跡群の方へ向かっていたんだって」
「ありがとう、リリー。よく頑張ったわね」
 ステラが頭を撫でてあげると、リリーははにかむ様に微笑んだ。
「遺跡群の方角へは確か、サクラさんとリスティアさんが先に向かっていた筈です」
 七瀬水穂(ea3744)の言葉にリンは頷く。
「そちらへ進みながら、テレパシーで彼女達にフレイさんらしき女性を見かけなかったか聞いてみますね」 
 リンの言葉に頷きながら、ステラはリリーを通じてフィディエル達の情報網を使う案を諦めていた。フレイの目的地がわかった以上、彼女の保護が最優先であるからだ。
(「石の中の蝶に反応はありませんわね。でも油断は禁物ですわ」)
 時折デティクトアンデットも使用しながら、サクラ・フリューゲル(eb8317)はデビルの接近を警戒していた。フライングブルームでフレイを探すリスティア・レノン(eb9226)がデビルに襲撃されない為だ。
『リンです。フレイさんは見つかりましたか?』
 緊張の糸を張り巡らせるサクラに、テレパシーを唱えたリンが話しかけてきた。
『いいえ、まだで‥‥』
 そう答えようとした時だった。
 いつもはおっとりとしているリスティアが、慌てた顔で戻ってきたのだ。
「大変です、フレイさんらしき女性が騎士達と接触しました!」
「っ! 遅かったですか‥‥」
「それと同時に冒険者達も火炙りの現場に集まりつつあります。遠目からでしたが、いつ戦いが始まってもおかしくない状況かと」
 リスティアが告げた情報をサクラは簡潔にリンに伝えると、遺跡群へと急行するのだった。

●奇跡の所以
 華奢な腕を後で拘束され、細く白い首筋に鋭い刃を当てられても尚、フレイは気丈な表情を崩さなかった。
 ロープで縛られまるで家畜の様に囲いの中に押し込まれた娘達は、体を震わせながらフレイを見つめている。
「お前が『奇跡の乙女』か? 噂じゃ茶色の髪の女だって聞いたが」
「どっちだっていいじゃない。特別な力を持った魔女を殺したいなら、私にしなさいよ」
「そうか。なら望み通りに屠ってやろう。神の名の元にな!」
 隊長らしき騎士が顔を歪め剣を振り上げた瞬間、フレイの体が不思議な光に包まれる。そして次の瞬間────
『貴方がたに問う! 罪もない人々に傷を負わせず、デビルを探し出したり判別する方法はある筈です。何故この様な愚かな行動に踏み切る?』 
 オーラテレパスを用いたリリー・ストーム(ea9927)の声が隊長の脳裏に響いた。
 天空にはペガサスに跨る純白の戦乙女の姿。神々しいまでの美しさと存在感に誰もが目を見張る。
「茶色の髪‥‥あの女が魔女か?」
「魔女、と呼ばれるのならば私もそうですわね」
 驚愕する騎士の背後に立ち、クレア・エルスハイマー(ea2884)は妖美に微笑む。
「魔女め、成敗してくれる!」
「待てぃ!」
 振り向き様にクレアを斬り付けようとした剣は、何者かに弾かれて地面へと突き刺さる。
「偽りに惑わされ踊り続ける者達よ‥‥自我を無くした者など、デビルと変わらぬ存在! 人それを『邪魔』という」
「貴様‥‥魔女に与するとは何者だ!?」
 クレアを背に庇う青年────西中島導仁(ea2741)は騎士を真っ直ぐに見据え、言い放つ。
「貴様に名乗る名前はない!!」
「我顕すは大地の咆吼!」
 怒りと共に繰り出された攻撃は怯む騎士を吹き飛ばし、威力を抑えたクレアのローリンググラビティーがその体を地面へと叩き付ける。
「おのれっ!」
 導仁目掛けて2人の騎士達が武器を構え走り出す。
「龍飛翔!」
 しかし片方は李雷龍(ea2756)の拳に吹き飛ばされ、
「はっ!」
 もう片方は李風龍(ea5808)のトリッピングで転倒させられ、その攻撃が届く事はなかった。
「我は悪を断つ義の刃なり! デビルに操られるなど言語道断! 修行不足を悔いなさい!」
 尚も向かって来ようとする騎士はマミ・キスリング(ea7468)の華麗な剣技に防戦一方であった。
「むにむに〜する暇なかったなぁ。ま、後のお楽しみにとっておこか♪」
 イフェリア・アイランズ(ea2890)はアイスチャクラのスクロールで騎士達を足止めする。
『もうすぐ他の仲間も来るのだわ!』
 ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)はテレパシーで順次仲間に話しかけながら、近づいてくるモル達の姿を目にし微笑んだ。
「騎士の本分は弱気を守る事。血を流す事では無い!」
「煩いっ! 魔女の手下風情が騎士道を語るな!」
 説得が届かないのならば致し方ない。
 ファング・ダイモス(ea7482)は突進してくる騎士を鞭で絡め取り、その急所を思いっきり蹴り上げた。
 壮絶な痛さに悶絶し気を失った騎士を縛りながら、もう少し手加減すれば良かったと思うファングであった。
「‥‥これだから、理性の不自由な方はキライです」
 ラピス・ブリューナク(ec4459)は冷静さを失った騎士を一瞥すると、アイスコフィンでその体を氷の棺に閉じ込める。
「良かった。大丈夫そうね」
 ミラーオブトルースでリランやフレイのに近づくデビルが居ないとわかり、ステラはホッと息を吐く。
 この場にいる全員の注意が戦闘に向いている最中、オラースは騎士達に逃げられない様に彼等の馬を縄で拘束していく。
「‥‥哀れな野郎共だぜ」
 そう呟いた刹那、彼の背後を襲おうとした騎士が振り向き様に鳩尾を強打され崩れ落ちた。
「何故リラン殿を魔女だと思うのだ!?」
「妖しげな力を用いて人心を惑わす。それだけで魔女たる理由になろう!」
「くっ、愚かな‥‥」
 ルザリアは唇を噛み締め、騎士の攻撃を受け止める。
「思い出してくれ!  人々を守る為に戦う、騎士の誇りを!」
「その誇りを胸に魔女狩りを行っているのではないか! 何故わからん!」
 グラディの必死の叫びも騎士達に届かない。
「モル、俺達の傍を離れんなよ」
「それはこっちの台詞だ」
「ふふっ、頼もしいなぁ♪」
 蒼汰、モル、凪は互いに背中を合わせ、騎士達の攻撃を受け流す。
「我々を見下ろすなぁっ!」
 押されていく味方に業を煮やした隊長が、リリーに向けて手にした剣を放とうとした時だった。
 それは空へと飛ぶ事なく、セイル・ファースト(eb8642)のバーストアタックによって破壊される。
「リリーを傷つけたらただじゃおかねぇぞ」
 静かだが殺気の篭った声音に隊長は息を呑み、裏返る声で叫ぶ。
「火を放てぇ!」
「飛刃、砕!」
 メグレズ・ファウンテン(eb5451)が火を持った騎士の手をソニックブームで狙うものの、後一歩遅かった。
「この野郎! 騎士は人を守る為のもんだろうが!」
 セイルが隊長を殴り飛ばした瞬間、娘達が捕われている囲いに火の手が上がる。炎は赤々と燃え盛り、娘達の悲鳴が響く。
「くそっ! 間に合うてくれ!」
 そこに息を切らしたジルが現れ、プットアウトのスクロールで消火を試みる。程なくして炎は細々とした煙へと姿を変えた。
「牙刃、剽狼!」
「ひっ!」
「このたわけ者共!」
 メグレズは火を放った騎士の剣をバーストアタックで破壊した後、愛の鉄拳で殴り飛ばす。
「もう大丈夫だ」
「皆さん、私達に着いて来て下さい!」
 アンドリュー・カールセン(ea5936)に縄を解かれて開放された娘達は、水穂とリンに導かれて囲いの中から救出する。
 やがて傷ついた心が落ち着く様にと、リンは湖畔の涼やかさを思わせる美しい歌を歌い始める。それを耳にしたモルは一瞬だけリンに視線を移し、微笑んだ。
「人が人を裁こうなど傲慢にも程がある。神罰を受けるがよい!」
 歌声に気を取られている騎士の背後に近づき、アンドリューはスタンアタックで気絶させる。
 残りの騎士達はヴァンアーブルのスリープとリディのアイスコフィンで無力化され、魔女狩りは阻止された。
「さあ、皆さんの元へどうぞ」
 シルヴィアが声をかけると、リランは微かに微笑み頷いた。戦いの最中、駆け出したい気持ちをずっと抑えていたのだろう。
 娘達に駆け寄り、サクラとリスティアに保護されたフレイと抱き合って喜ぶ様を、彼女を護衛していた者達は温かな眼差しで見守る。
「あら、戦いは終わったみたいね」
 領主が不在で面会を果たせなかったアレーナは、プロムナードの上から遺跡群を見下ろす。
「ルーグというデビルが『リランこそ元凶のデビルであり魔女だ』と吹き込んだらしいのだわ」
 リシーブメモリーで隊長の記憶を読み取ったヴァンアーブルの言葉に、一同は自分達の予想が正しかったのだと確信する。
「まだ奴が出てこないのが気になるな」
「このままでは‥‥危ない!」
 モルの呟きに一同が索敵を開始しようとした時、突然リランが走り出した。
 その後を慌てて追った一同が目にしたのは‥‥

 時は少し遡る。
「鬱陶しいね、君。そんなに殺されたいの?」
「んー、それはご遠慮願いたいトコだね」
 逆にルーグに発見されてしまったアルヴィスは、本能が危険だと告げる声を無視し、口を開く。
「僕ね、君の思惑に気づいちゃったんだ」
「ふうん。だったら協力してよ。ここでいなくなってくれるとかね!」
 少年の姿をしているルーグが詠唱しようとした刹那、その頬をキット・ファゼータ(ea2307)のペット・カムシンが掠める。
「そろそろいいだろ? 遊んでくれよ」
 言葉と共に放たれたソニックブームを寸での所で交わし、ルーグは愉しげに笑う。
「‥‥いいよ。最初で最後の遊びになるけどね!」
 そう言い終わらない内に辺りは闇に包まれた。必死で目を凝らすアルヴィスとキットをムーンアローが襲う。
「くっ、えげつない戦い方をしやがって‥‥」
 暗闇の中でムーンアローを食らい続け、2人の体力は削られていく。キットが膝を突く音を聞きながら、アルヴィスは自分の死を覚悟した。    
「残念。時間切れみたいだね」
「デビルめ、覚悟しろ!」
 暗闇の中から姿を現したルーグに雷音丸が斬りかかるが、その足元の影が爆発し吹き飛ばされる。
「君達、弱いねぇ。全然面白くないよ」
 ルーグはくすくすと笑いながらキットやアルヴィスの影もシャドウボムで爆発させて行く。
「もう飽きちゃった。終わりにしていい?」
 立ち向かってくる雷音丸にブラックフレイムを放った後、ぐったりと動かない2人に向けてルーグは同じ魔法を詠唱し始める。
 だがその時、背後から温かな光が差し込んできた。振り返るとそこには息を切らし祈りを捧げているリランの姿があった。
「君が奇跡の乙女? 祈ったって無駄だ‥‥ぐうっ!」
 突然肩を襲った激痛に振り向くと、憤怒の形相で刀を構える雷音丸と目が合う。
「カム、シンっ!」
 瀕死のアルヴィスの隣で、キットは気力を振り絞って命令を下す。カムシンは急降下し、ルーグの左目近くを嘴で切り裂いた。
「‥‥許さないよ、お前達」
 ルーグは低い声でそう呟くと、再びシャドウフィールドを展開する。
 そして暗闇が晴れた後、彼の姿はなかった。
「大丈夫ですか!?」
 リランは3人に駆け寄り、その傷をリカバーで癒していく。
「先程の光を受けた時、体中から力が漲って来た‥‥お前は一体、何者だ?」
 雷音丸の問いにリランは悲しげに目を伏せた。
 リランの不思議な力を目の当たりにした一同は、言葉もなくただ彼女を見つめるのだった────。