【ステキな招待状】僕の為に菓子を作れ

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月21日〜05月24日

リプレイ公開日:2009年05月30日

●オープニング

 きっかけはお菓子作りが得意な、ある女性冒険者の一言だった。
 彼女は天使の様に愛らしい笑顔で「手作りお菓子がい〜っぱいのお茶会にモードレッドさまをご招待致しますわ♪」と言った────いや、言ってしまった。
 その魅惑的なお誘いを受け、心の底から甘味を愛するモードレッドが彼女からの招待状を待ち続ける事、数週間。
 楽しみで楽しみで眠れない夜を過ごすモードレッドは、日増しに不機嫌になっていった。 
 中々届かない招待状に業を煮やし、冒険者ギルドに赴いて権力を笠にその女性冒険者の家を突き止めようと思った矢先、念願の招待状が届いた。
 その時の彼の喜び様は────ここで記すと彼の沽券に関わる程、嬉々としていたそうな‥‥。

「と言う訳でお前も参加しろ。これはキャメロットの甘味を統べる僕からの命令だ」
 キャメロット王宮の中庭で、モルは招待状に目を通しているトリスタンに実に偉そうに言い放つ。勝手に甘味王を名乗っているあたり、相当浮かれている様だ。
「パーシが参加出来んのは残念だが、代わりに腕の立つ料理人を寄こすらしい。実に楽しみだな」
 振舞われる甘味を想像し、モルは顔を緩ませる。
「せ、先生は甘味がお好きでないし、泣く泣くお誘いをしなかったんだ」
 だがその後に師と仰ぎ敬愛して止まないケイを誘ってない理由を、聞いてもいないのに話し始める。その瞳は泳いでいた。
 可愛らしい招待状に何度も視線を走らせた後、トリスタンはある疑問をモルに尋ねる事にした。
「モル、何処にも茶会の日程が書かれていないのだが‥‥」
「あいつは冒険者だ。依頼の事もある故、確かな日程を断言できんのだろう。それ位は僕もわかっている」
 さも理解のある風を装っているモルだが、招待状が届くまでの蛮行はそれはそれは酷いものだった。
 甘味フラストレーションを発散する為に、王宮騎士のフレッドが持参したアップルパイを強奪し完食した挙句に「不味い」と文句を言い、彼を失意のどん底に突き落としたり。
 例の先輩騎士と手を組んで生真面目なコレットにちょっとした悪戯(どんな事かは想像にお任せしよう!)をし、静かな怒りと共に繰り出された攻撃をまともに食らって瀕死になったり。
 その他にも数え切れない悪さをしていたモルを思い出し苦笑していたトリスタンの脳裏に、髪の毛を三つ編みにされたり夜会巻きにされたり、その他にも色々と弄ばれた悪夢の日々が甦る。
「どうした、トリス? さては僕に構ってもらえなくて寂しかったのか?」
「あらぬ誤解を招くような事は口にするな。誰かに聞かれでもしたら‥‥っ!?」
 にやりと不敵に笑うモルを嗜めた時だった。
 背後から生暖かい何とも居心地の悪い視線を感じ、トリスタンはバッと振り向く。
 その刹那「腐腐腐‥‥」という薄気味悪い笑い声と共に、2つの動く茂みが物凄いスピードで遠ざかって行くのが見えた。
「覗き見か? 悪趣味な輩だな」
 さして気にも留めずにモルは紅茶のカップに口を着けるが、トリスタンはまた良からぬ書物が出回るのでないかと額を押さえた。
「お前の言う様に茶会の日程は書かれていないが、招待状からは何があっても茶会を開くという確固たる意思が伝わってくる。そこで、だ」
「そ、そうか? 私にはそこまで漲る意志は感じないのだが‥‥」
「お前には甘味愛が足りんっ! だから甘味の声が、叫びが聞こえて来ないんだ!!」
 もはや突っ込む気にもなれず、トリスタンは呆然とヒートアップするモルを見つめる。
「仕方なくこの僕が屋敷を茶会の場として提供し、菓子を作らせてやる事にした! 日程も決めてやった! 冒険者ギルドに告知もしてきた! 仕方なくなっ!!」
 何処までも偉そうなモルは、大事な事はキチンと2回言ったらしい。
「‥‥招待状を出してくれた冒険者に許可は?」
「取っていない。都合が悪くて来られなかった時は、また次の機会に手作り菓子を振舞わせてやればいいじゃないか」
 悪びれる様子のないモルにトリスタンは胃の辺りが痛くなるのを感じながら、力なく項垂れる。
 モルは甘味を前にすると元から希薄な『常識』や『遠慮』が全くなくなり、性質が悪くて手に負えない‥‥俄かに頭痛までしてきたトリスタンの目の前に、ある包みが差し出された。
「トリス、これはこの間の菓子の礼だ。遠慮なく受け取れ。キャメロットの最高の職人に作らせた」
「‥‥これを私に?」
「ああ、お前にはいつも世話になっているからな。早く開けてみろ」
 包みから視線を移すと、モルがいつもの意地の悪い笑みではなく、年相応の少年らしい笑顔を浮かべていた。
 彼の気遣いに感動し緩みそうになる頬を必死で引き締め、無表情を装ってトリスタンは包みをゆっくりと開いていく。
 そして現れたのは────
「どうだ、気に入ったか? 当日はこれをつけて僕に奉仕しろ」
 可愛らしい狐耳と尻尾、それに上品なデザインの高級執事服だった。
 ウキウキと楽しそうなモルを思いっきり無視し、トリスタンはソレを包み直し始める。 
「‥‥失礼する」
「おい、トリス、どこへ行く!? 茶会には来いよ? 来なかったら許さないからなーーっ!」
 不満そうな叫び声には耳を貸さず、トリスタンはスタスタとその場を後にする。その手にはしっかりと包みが握られていた‥‥嫌よ嫌よも好きのうち??

「トリスの奴、もう少し可愛げのある反応をしたっていいじゃないか。一体何が気に食わんと言うんだ」
 モルはぶつくさと文句を言いながら、キャメロット郊外にある屋敷に帰宅した。
 しかし扉を開けた瞬間に漂ってきた美味しそうな匂いに、不機嫌さはあっという間に吹き飛んでいく。
「おかえりなさいませ、モル坊ちゃま」
「ただいま、クレア。今夜はシチューか?」
 迎えに出てきた初老の女性クレアは温かな顔で微笑む。
 帰宅の挨拶をするモルは、普段の彼からは想像できないような素直であどけない表情をしていた。
「はい。もう少しで出来上がりますから、お待ち下さいませね」
「ありがとな。じゃあ出来上がるまで僕が肩でも揉んでやろう」
 クレアを強引にソファに座らせ、モルは硬くなった肩を揉み始める。
 それは不慣れでお世辞にも上手とは言えなかったが、不器用な優しさが伝わってきて、クレアは熱くなる目頭を気づかれない様にそっと押さえた。 
「前に話した茶会だがここで開く事になった。冒険者達も招待したんだ」
「まあ、冒険者のご友人が出来たのですね」
 友人という言葉にモルの手が一瞬だけ止まる。クレアには見えなかったが、その頬は微かに赤い。
「し、仕方ないから仲良くしてやってるだけだ!」
 モルが生まれた時からその成長を見守ってきたクレアは、それが照れ隠しであると見抜いていた。
 その出生や性格から人と馴染めず、円卓の面々以外には親しい者がいなかったモル。
 そんな彼に親しい友人が出来つつあると知り、心配事が1つ減った気がした。
(「これでいつ私がいなくなっても、坊ちゃまは大丈夫ですね‥‥」)
 口にすれば子供の様に泣きそうな顔で怒られるに決まっている。
 だからクレアはそっと心の中で呟くのだった。
「当日は何もしなくていいからな。僕と一緒に持て成しを受けるんだぞ?」 
 まるで母の様なクレアの想いには気づかず、モルは弾む声でお茶会に思いを馳せていた。
 この時の彼はまだ知らない。
 好き放題出来る筈のお茶会に、あの人物が参戦するとは────。

●今回の参加者

 ea2804 アルヴィス・スヴィバル(21歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb7760 リン・シュトラウス(28歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec1621 ルザリア・レイバーン(33歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec2307 カメリア・リード(30歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4461 マール・コンバラリア(22歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ec5629 ラヴィサフィア・フォルミナム(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

七神 蒼汰(ea7244

●リプレイ本文

●待ちきれんぞ!
 モル邸はシンプルながらも品が良く、来訪者達をホッとさせる温かな空気に満ちていた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。ですがこの様な素敵な場を設けて頂いて嬉しいですわ♪」
「お前が謝る必要はない。上手い菓子を作れよ」
「はい、喜んで♪」
 ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)は偉そうなモルに微笑んだ後、リン・シュトラウス(eb7760)、ルザリア・レイバーン(ec1621)、カメリア・リード(ec2307)が待つ厨房へと向かう。
「よろしくね、先生☆」
「足手纏いにならぬよう、努力する」
「楽しみですねぇ、作るのも、完成品も♪」 
 乙女達はお喋りを楽しみながらお菓子作りを開始する。お茶会は2日後だが、お菓子を日持ちさせる秘策があるのだ。
「全くかけ離れた自分になりたいの。だます訳じゃないけど‥‥ごめんね」
 フリーズフィールドの巻物を使い客間一室を保冷庫にしたユリゼ・ファルアート(ea3502)は、誰にともなく謝るのだった。
「だーめ、お茶会までお預け!」
「くっ、よこせ!」
 つまみ食いしようとしたモルの手から、マール・コンバラリア(ec4461)はクッキーを取り上げた。
 厨房にいる乙女達の『我慢が足りない子なんだから』という視線がモルに注がれる。 
「しゅ、主催者には出される菓子を味見する義務がだな‥‥」
「あんまり我が儘言うと、ケイさんかクレアさんに言いつけちゃうわよ?」
「‥‥向こうでおとなしくしている」
 2人の名を出されたモルは、しょんぼりと厨房を後にした。
「ほら、これで食って元気出せ」
 七神蒼汰はモルの様子に含み笑いを漏らすと、持参した携帯汁粉を手渡す。
「美味いな。お代わりはないのか?」
「帰ってきたらまた何か持って来るよ」
「‥‥死んだら許さないからな」
 ずずっとお汁粉を啜るモルの頭をポンポンと叩き、蒼汰は屋敷を後にした。
 1つしかない厨房は時間ごとに使用者を決め、共用する事となる。
「僕を差し置いて『甘味を統べる者』なんて名乗っているモードレッドくんに、世界は広いと教えてあげるとしよう」
 2日目は『恋菓子』作りが行われ、甘味好きの年季の違いを思い知らせてやろうと企むアルヴィス・スヴィバル(ea2804)も、渾身の一品を作り上げたのだった。
 
●僕を喜ばせろ!
 屋敷内の一室はジャパン風に、もう一室は華国風に装飾された。
 マールの案で庭に白いテーブルと椅子が設置され、卓上にはクレアに贈った花が飾られている。
「名づけて『スイーツタワー』です♪」
「素晴らしい‥‥お前は甘味の天使だ!」
 ラヴィが最後の1つを積み上げ、1口サイズの様々なお菓子で作った塔が完成した。
 大興奮のモルは挨拶をしに来た冒険者2人の内の1人にほっぺにちゅう返しをし、上機嫌で他のお菓子を物色しに向かう。
「顔を引き締めなさい、モル」
 が、冷ややかな声にモルは一瞬で凍りつく────ケイ様の光臨である。
「なっ、何故こちらに‥‥」
「まるで来て欲しくなかった様な口振りですね?」
 モルは真っ青な顔で頭を振った。
「では私も楽しませて頂くとしましょう。心から、ね?」
 ケイは極上の意地悪スマイルを浮かべ、自らの席に着く。
「トリス、先生が来るだなんて聞いてないぞ!」
「‥‥‥‥」
 トリスタンは何も答えず、遠い目をしていた。一体彼に何が!?
「どちらのブレンドティーがお好みですか?」
 紅のドレスを纏い薄化粧を施したユリゼはたおやかに微笑み、さっぱりした香りと豊かな香りの2茶を参加者達に振舞う。彼女がクーリングで作った氷菓子も好評であった。
「君がモー君ですかぁ、中々可愛いですねぇ」
「ふん。僕は年上キラーだ」
 頭を撫で子供扱いのエリンティア・フューゲル(ea3868)を一瞥し、モルはスイーツを頬張る。いつもなら間違いなく不機嫌になるのだが、早くも甘味パワーのお陰で寛大になっている様だ。
「僕から見ればまだまだ子供ですねぇ。少なくとも僕はモー君の5倍は生きていますからぁ」
 にこにこと微笑んでいるエリンティアだが、内心ではエルフと他種族の寿命の違いを寂しく感じていた。それでも新しい人達との出会いは楽しくもあり嬉しくもある。
「まだまだこれからですから、頑張って下さいねぇ」
「言われなくてもそのつもりだ。喋ってばかりいないで甘味を食え。クッキーの礼だ」
 マールが用意した紅茶を楽しんでいたエリンティアは、差し出された焼き菓子を笑顔で受け取るのだった。

 お茶会ではたくさんのスイーツが振舞われ、メイド姿のラヴィとマールが所狭しと駆け回っていた。
「幸せだ‥‥もきゅもきゅ」
 説明しよう。
 モルは大好きな甘味を大量に食べると、幸せのあまり『甘味で素直モード』になってしまうのだ!
 ある冒険者2人に『キュアナイト〜♪』といぢられようとも、
「お安い御用だ! はっ!」

 ばばーん☆

 とポーズを決める大サービスっぷり。甘味の力は恐ろしい。
「私が作ったの。食べてくれる?」
 リンは乙女達合作のケーキ半分(モル用)を食べ終えたモルの前に、キエフ菓子スィルニキ差し出す。
「ありがとう、リン」
 とても嬉しそうな顔でお礼を言うモル。レアモルである。
「美味しい?」
「うん。鬱屈とした気持ちが吹き飛ぶな」
「‥‥甘いは最強ね、モル君? 元気を出すには甘いものが一番だもの」   
 垣間見えた本音に気づかない振りをし、リンは柔らかく微笑んだ。
(「作ったはいいが、どうしたものか‥‥」)
 蜂蜜たっぷりの甘いクッキーと甘さ控えめクッキーを見つめながら、ルザリアは息を吐く。
 心情込みの葛藤の末に潔く一人分だけ作ったものの、そこから先の行動に移れなかった。
「食べていいか?」
「っ! い、いや、その‥‥あっ」
 するとそこにモルが現れ、クッキーを口へと放り込む。
「美味い。それに甘さを変える優しさがお前らしいな」
 そう言い微笑む顔は子供の様にあどけなかった。
 果たしてルザリアは誰の為にクッキーを作ったのか‥‥真実は彼女のみぞ知る。
「モルさん、アップルパイはいかがですか?」
「食べる!」
 ‥‥お子ちゃまか!
 カメリアが取り出した巨大ハート型アップルパイの表面には『モードレッド卿へ』というパイ文字が。
「あらあら、見ない内に食べちゃいましたねぇ」
「もぐもぐ‥‥この味はフレッドの?」
「うふふ、美味しいですよね〜。今度きちんとお礼を言わないと、ですよ?」
 カメリアはにっこりと微笑むと、そっとモルに耳打ちをする。
「この前の事もゴメンナサイしましょうね? それが大人の第一歩、ですもの」 
 こくんと頷くモルを目にし、まだ子供で居て欲しいような気もするカメリアであった。
「モードレッドくん、君の為にお菓子を作ったんだ。こっちへおいで」
「本当か!」
 アルヴィスが両手を広げると、モルは顔を輝かせてその腕の中へと飛び込んだ。
「さあ、骨の髄まで焼ける程の極甘タルトをご賞味あれ」
 一口食べたモルの喉を強烈な甘みが襲う。しかし浮かべるのは苦悶ではなく、極上の笑顔だ。
「甘さだけが全てではないけど、これも甘味の極致の一つだね。如何かな?」
「これぞ僕が求めていた究極の甘さだ!」
「どれどれ、僕も一口‥‥うん、悪くないね」
 それから2人は心行くまで甘味を堪能し、語り合うのだった。
「絶対死守です、絶対に‥‥」
「それは何だ?」
「きゃ!」
 背後からモルに声をかけられ、ラヴィは兎の様に飛び上がる。
 恋人の為に彼の故郷ノルマン菓子を作り、それをモルに食べられない様にと保管庫に隠しておいたのだ。
「こ、これはラヴィの大事な方への贈り物なんですから、絶対絶対ぜーーったい、ダメっっ! ですっ」
「そうか‥‥」
 モルはとぼとぼと去って行った。 
「ラヴィ、意地悪さんになってしまいましたわ‥‥」 
 良心が咎められたラヴィは、通りかかったマールにあるお願いをする。
「はいコンちゃん。ラヴィさんからよ」
「食べていいのか?」
「もちろん♪」
 マールは可愛らしくウインクをした。
 その後モルはジャパン風の部屋で甘味と甘味談義を堪能し、さらに上機嫌になるのだった。

●また招待してやる!
 モルが執事勝負の審判をさせられている頃、クレアは数人と楽しそうに談笑していた。
 子供相手のごっこ遊びにムキになっていたとか、キュアナイトとか、そんな微笑ましい話は冒険者から。
 未だに人参が食べられないとか、シチューが大好物だとか、8歳までおねしょをしてたとか、貴重な裏情報はクレアから。
「これからもずっとモル坊ちゃまのお傍にいてあげて下さいましね。本当はとても寂しがり屋な方なんです」
 両親と離れて住み、家族は血の繋がらない乳母のクレアただ1人。モルの事情は語らずとも明らかである。
「‥‥弱み探しはまた今度かな」
 リンはモルのベッドに腰かけ、歌い出す。


 星の歌う夜 月に照らされ 古代の森に生まれ
 行くあてさえ知らず そよぎにさえ惑う
 青く煌く羽は 儚い命の証

 いつまでも解けない解を抱え
 何処までも果てない道を歩む

 君の声 君の唇 君の傷痕


「いい歌ね‥‥」
 お茶会を抜け出したユリゼは瞳を閉じ耳を傾け、
「キャロットケーキは美味かったし、トリスの狐執事も最高だった。だが先生の奉仕は生涯ご遠慮願いた‥‥これは」
「心が癒されますねぇ」
 疲労困憊した様子のモルと、その隣のエリンティアは微笑んだ。

 楽しい一時にも終わりはある。
「どの菓子も持て成しも最高だった。あ、ありがとなっ!」
 参加者全員にお茶会のお菓子を可愛らしいバスケットに詰め込んだ『スイーツバスケット』が手渡される。
「楽しい一時をありがとうございました。蕩ける様な幸せそうなお顔に 私の心も洗われる様でしたわ。素敵な魔法をご存知ですのね」 
「ふん。無理はしない方がいいぞ」
 本性(?)を見抜かれていたユリゼは照れ笑いを浮かべる。
 モルはにやりと笑いながら、早くも次のお茶会に思いを馳せていた────。