【フォモールの乱】霖雨蒼生の光となれ

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:16 G 29 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月29日〜06月08日

リプレイ公開日:2009年06月08日

●オープニング

 思い出す度に理性が焼き切れそうになる程、忌々しい光だった。
 苛立たしさに囚われるほど疼くのは、人間如きに付けられた『屈辱』と言う名の傷痕。
「奇跡の乙女‥‥どうやら彼女は『特別』みたいだね」
 地味でつまらない顔立ちのくせに、ジッとこちらを見つめる瞳が気に喰わなかった。哀れむ様でいて、その実、強い敵対心を秘めたあの瞳が。
 リランが普通の人間ではない事は明らかであったが、その正体を知るには情報が足りなかった。だがそれは最優先事項ではない。
「彼に動かれる前に、早く『声』を聞かないと。その為にはまだまだ足りない‥‥もっと集めなきゃ」
 事を成し終えた後ならば、リランを屠るのは造作もないだろう。例え彼女が何者であってもだ。
 ルーグは闇夜の遺跡群に浮かぶ篝火の近くに降り立つと、そこに集まったフォモール達にゆっくりと近づく。
「お待たせして申し訳ないね。皆、集まっているかな?」
「‥‥代表は全員揃っている」
 声のした方に視線を移すと、静かな瞳の若者と目が合う。射る様な視線を受け流し、ルーグは一同の顔を見渡した。
「今こそ抑圧され続けてきた君達の想いを昇華する時だよ。傲慢なあいつらへの復讐を開始し、その屍の上にあの方の玉座を用意しようじゃないか」
 その言葉に次々と武器が掲げられ、中には声を押し殺して泣き出す者もいた。
 単純で便利な手駒達を見つめながら、ルーグは嘲りの気持ちと共に瞳を細める。広がる戦火を思うと愉快で堪らなかった。
 
 遺跡群付近の村がフォモール達に襲われたのは、それから数刻後の明け方のこと。
 村人は生きたまま遺跡群へと連行され、そこで次々と命を奪われた。まるで大地に血を捧げるかの様に。
 しかしその悲劇は、フォモール達による戦いの狼煙でしかなかった────。


 事態を知った領主は、遺跡群にフォモール討伐隊の騎士6人を派遣した。
「な、何だあれは‥‥」
 ろくな睡眠も取らずに遺跡群へと急行した騎士達は、馬上で唖然と前方の光景を見つめる。
 数キロ先にはフォモール達の陣が敷かれ、物見櫓や木材による防壁が築かれつつあった。その場所で作業に励むフォモールの数は、予想を遥かに上回る数である。
「これはただの討伐ではすまなさそうだな‥‥我等も陣地作成に取りかかるぞ!」
「わかった! 俺は必要な物を調達してくる!」
「では私は援軍を要請してこよう!」 
 事態の深刻さを目の当たりにした騎士達は、休憩を惜しんで動き出す。
 報告を受けた領主は遺跡群に近い村にも騎士達を派遣し、討伐隊の騎士は全部で12人となった。
 フォモールが戦の準備をしていると知り、それぞれの村から集まった男性達20人が陣地作成と共闘に協力を申し出る。
 総勢32人は協力し合い、数日後には簡易ではあるが防壁と砦柵が完成した。
「何とか形になったが、それは敵側も同じ様だな」
「ああ、今すぐにでも戦いが始まってもおかしくなさそうだぜ」
 討伐隊の隊長と村人達の代表は肩を並べ、フォモール達の陣地を見つめた。
「ここまで手伝ってくれれば十分だ。それぞれの村へ帰り、脅威が去るまで大人しくしていてくれ」
「その気遣いは嬉しいが、俺達は1人も退くつもりはねぇよ。あんたらだけに戦わせて帰ったら、母ちゃんにぶん殴られちまう。そっちの方が何倍も怖いってもんだ」
 肩を竦めてみせる男性に苦笑し、隊長はすっと手を差し出す。
「貴殿らの決意に感謝する。共に皆を守ろう!」
「おうよ! フォモールなんぞに好き勝手させてたまるかってんだ!」
 2人は固い握手を交わし、微笑み合う。だがお互いの手は微かに震えていた。
 伝令の情報によるとフォモールの数はおよそ60あまり。
 倍の戦力だと言う事に加え彼らとの交戦経験が無い為、どの様な戦法を用いてくるか想像がつかない。 
(「事を知らせる手紙があの方に届けば、きっとお力を貸して下さる筈だ。何としてでも持ち堪えなければ‥‥」)
 隊長は瞳を閉じ、キャメロットから派遣されたという2人の騎士とのやり取りを思い出す。 
 彼等の雇い主の名はモードレッド・コーンウォール。
 南方遺跡群で起きているデビル絡みの事件に深く関わっている王宮騎士の1人だ。
「モードレッド卿独自の判断で部隊を派遣する事は難しいですが、冒険者に協力を呼びかけて必ずやこの地に赴いて下さるでしょう」
 騎士の励ましと、まだ見ぬモードレッドと冒険者への期待。
 どちらも不確かなものではあったが、それを希望とし隊長は己と仲間達を鼓舞するのだった。

 救援要請の手紙を目にしたモードレッドは、すぐさま冒険者ギルドに赴き協力を求める旨の依頼を出した。
 南方遺跡群の地で戦いの火蓋が切って落とされるのは、奇しくも数刻後の事である────。

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea0640 グラディ・アトール(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2804 アルヴィス・スヴィバル(21歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb9226 リスティア・レノン(23歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

リーマ・アベツ(ec4801

●リプレイ本文

 抱く想いと尊ぶべきものが違っていた。
 相容れぬ魂と矜持が、守るものの為に命の火花を散らす。
 儚くも鮮やかな、一瞬の瞬きを────。
 
●救援
 辿り着いた戦場は悲惨であった。
 防壁は崩れかけ、無残に踏み壊された砦柵が散乱する味方陣地を包むのは、血の匂い。
 フォモールの亡骸の上に村人の亡骸が重なり、生き残った者達は呻き声を上げながらも尚、戦いに赴こうとしていた。
 戦局が圧倒的劣勢であると理解した一同が取るべき行動は、ただ一つ。 
「彼らとは争いたくはなかったが、もはやそんな事は言っていられないのか‥‥今はこの戦いを終わらせる事が、お互いの未来に繋がると信じるだけだ」
 グラディ・アトール(ea0640)はエクレールを駆り、苦戦している味方の元へ救援に向かう。
「‥‥共に譲れぬモノがあるからね」
 遠ざかる友の背を見つめながら、アルヴィス・スヴィバル(ea2804)は魔法の詠唱を始める。
「まずは鉄拳制裁。判り合う努力はそれからだね」
「何やら色々と根が深い問題がありそうだが‥‥この期に至っては蹴散らすしかないだろう」
 アリオス・エルスリード(ea0439)が放った矢の雨を追う様に、アルヴィスのアイスブリザードが陣地に攻め入ってくる敵を襲う。
「今回の一斉蜂起はとうとうあちらさんも本気になってきたってことか」
 キット・ファゼータ(ea2307)はマントを風にはためかせながら、そう遠くない過去を思い出していた。
「戦場に迷いは不要。敵に己の母や子がいようと止めを刺す」
「ああ、俺も容赦はしないぜ。今まで色々やってきたがいつかこうなるんじゃないかとは思ってた」
 グリフォンに跨り飛翔するオラース・カノーヴァ(ea3486)に頷くと、キットは味方に武器を振り下ろそうとしている敵目がけて駆け出した。
「彼らはデビルとは手を切れないといい、神の復活も止める気はないと言った。次に会う時は敵同士だとも」
 レイア・アローネ(eb8106)はリスティア・レノン(eb9226)に自分が知り得る限りのフォモールの情報を伝え終えた後、悔しそうに唇を噛み締めた。
「私は情けをかけない。ティア達もそのつもりでいてくれ‥‥!」 
「迷わないで、とは申しません。その迷いは貴方の物ですから‥‥」
 まるで自分に言い聞かせるかの如く訴えるレイアと背中を合わせながら、リスティアは柔らかく微笑む。
「最善を課そうとする迷いの果てに貴方が何かを決断されたなら、思うようになさいませ。それがどんな事でも私は貴方を支持します」
「ティア‥‥ありがとう」
 レイアは安心したように微笑むと、剣を構えて眼前の敵を見据える。彼女が一太刀を浴びせた敵は、次の瞬間にはリスティアのアイスブリザードの只中に在った。
「モードレッド、この戦いではお前が大将だ。行動や振る舞いには気をつけろよ」
「言われなくともわかっている。だが大人しくしているつもりはないぞ」
 リ・ル(ea3888)の忠告を受け入れたものの、モルが浮かべる笑みは不敵だ。
「あんなぁ、無茶はあかんよ。モルさんはここで戦う皆の希望なんやから」
「それは違うな」
 モルの言葉に藤村凪(eb3310)は首を傾げる。
「僕だけじゃない、お前達もだ。頼りにしているぞ」
 寄せられる信頼に笑顔で応えると、凪は手にした武器をこちらに投げようとしていたフォモールの腕を射抜き、リルはウェイドに跨り前線へと駆ける。
「どうした。倒すべき化物はここにいるぞ!」
 フォモール達に囲まれているメグレズ・ファウンテン(eb5451)は臆するどころか挑発をし、敵の攻撃を自らに集中させようとしていた。
「1人で何が出来る! くらえっ!」
「効かんな‥‥妙刃、破軍!」
 鉄壁の如き防御力を持つメグレズは敵の攻撃を盾で受け止めると、強烈な一撃を繰り出した。
 一同が到着と同時に戦い始める事1時間。
 フォモール達は強力な増援にその数を減らし、自らの陣地へと撤退していった。

●夜襲  
 陣地を守っていた味方と手短な挨拶を済ませ、冒険者達は敵陣地進攻班と味方陣地防衛班に分かれ、行動を開始する。
 夜の帳が落ちる頃、フォモールの陣地に近づく影が複数。
 そして地を駆ける者と空を翔る者の夜陰の襲撃が幕を開けた。
「な、何だこの羽音は!? ‥‥うわあぁぁぁっ!!」
 物見櫓のフォモールが上空を見上げたのと悲鳴を上げたのは、ほぼ同時だった。
 遥か上空からグレコを急降下させ、オラースは手にした戟で物見櫓を破壊する。轟音の後に残るは、崩壊した物見櫓の成れの果て。
「貴様っ‥‥」
「随分としぶといな。だが俺が引導を渡してやるぜ」 
「ほざくなぁぁっ!!」
 斧を構えて駆けて来る見張りの胸部を、オラースの戟が空気の唸りと共に掠める。刹那、戟の軌跡の後をなぞる様に、横一線に血飛沫が吹き上がる。
「‥‥あんた達の負けだ。退け」
 そう口にしながらも、退く者などいないだろう。
 オラースは戟を構え直し、眼前の見張りを見つめた。
「敵襲だ! 仮眠を取っている者を起こ‥‥ぐはっ!」
 弓を構えるフォモールの叫びは、言い終らぬ内に苦悶に彩られる。
 次々と体に突き刺さる矢がどこから放たれているのか必死で目を凝らすが、その目に映るのは夜空のみ。
「当たった敵が悪かったと諦めてもらおうか」
 ペガサスの星天で空を舞うアリオスは、すっと瞳を細めた。
 優良視力と手にした弓の射程距離を活かし、敵味方の判断がつくのと同時に敵に見つかるギリギリの距離から、死の矢を敵陣地に降らせ続ける。
「‥‥これじゃ忍び込み甲斐がないな」
 陣地の裏側に回り防壁をよじ登ったキットは、松明を手に見回りをしているフォモールを見下ろす。
 その姿が小さくなった後、キットは手始めに木で出来た簡易武器庫を破壊することにした。その後も食糧庫、水の貯水所と、次々に使用不能にしていく。
(「いつか必ず分かり合える日が来る‥‥だが、今はこの戦いを終わらせる事が先だ」)
 インビジリティリングで姿を消して敵陣地に侵入したグラディは、微かな希望を胸に2つの剣を構える。
 そして、前方を横切るフォモールの武器とその足元目掛けて剣を繰り出した。
「ぐあっ! な、何者だっ!」
 グラディは足を押さえて動揺するフォモールを残し、指輪の効果が続く限り目にしたフォモールの同様の手口で襲撃する。
(「出来る事ならば退いてくれ‥‥」)
 しかしその願いも空しく、闇夜から姿を現した彼は複数のフォモールと刃を交える事となる。
「俺にだって‥‥守りたいものがあるんだ!」
 そう叫び武器を振るうその顔は、苦悩に満ちていた。
「‥‥そろそろやな」
 周囲を警戒し茂みに潜んでいた凪は、孤を描く様に高く火矢を放つ。
 やがて矢は仮眠所のテントらしき物に突き刺さり、赤々と燃え始めた。
「あれは凪の合図‥‥ではこちらも火攻めといこうか」
 アリオスは火矢の発射元から凪の場所を特定し、そことは離れた場所へと降り立つ。
 程なくして2方向から火矢が放たれ、フォモールの陣地のあちこちで火の手が上がり始めた。
「これしきの炎なら消せる! 水を持って来い!」
 そう叫んだフォモールの背を焦がす様に、炎が急激に燃え盛る。キットが油の入った壷を火の手に投げ込んだのだ。 
「やはり決戦は避けられぬのか‥‥!」
 レイアは顔を歪めながら、一撃一撃を繰り出す。
「お前達の信仰は問うまい‥‥だがお前達にも愛する家族がいる筈だ! 争えば犠牲は避けられん!」
「どの様な犠牲も怖くはない! 我らはただ、あの方の為に戦うのみだ!」 
「平穏よりもそれを望むというのか‥‥馬鹿め!」
 痛ましそうにそう呟いた後、レイアは眼前の敵を見つめる。
「偽善は言わん。ならば人間の側としてお前達を倒すのみだ!」
 振り上げられる刃は悲しみと涙に濡れていた────。

●増援
 フォモールの陣地が冒険者による襲撃を受けている頃、味方陣地は建て直しに追われていた。
「さしずめ、無敵の氷盾と言った所かな」
 アルヴィスは満足そうに氷に覆われた石の壁を見つめた。
 ボロボロの防壁の前に作られたそれは、ストーンウォールのスクロールとアイスコフィンを用いてアルヴィスが作り上げたものだ。
「しっかりしろ。今、治してやる」
 モルは持参した物とグラディが置いていった薬を抱え、負傷者の手当てに励んでいた。グラディは他にも保存食を提供し、兵糧の面でも味方を助けていた。
「敵陣地から火の手が上がりました! それと同時に陣地外にいた敵がこちらに向かってきてます!」
 2体のゴーレムと共に味方陣地の外で戦局を見守っていたリスティアは、陣地の補修を行っているリルとメグレズに合図を送った。
「焼き討ち成功か」
「ああ。ここから一気に押し返せるな。腕が鳴るぜ」
「では私は一足早く残存兵力を駆逐するとしよう」
 陣地の外へと向かうメグレズを見送った後、リルは補修を味方に任せてモルの元へと向かった。
「討って出るぞ。さっき渡した角笛を鳴らしてくれ。出陣の合図だ」
 にやりと笑うリルに同種の笑顔を見せ、モルは出撃準備を整え整列している味方達の顔を見渡した。
 かける言葉必要ない────皆の胸にある想いは同じだから。
 角笛の音が鳴り響くのと同時に、味方は咆哮を上げて戦いへと踊り出る。決着の時は近づきつつあった。
「今日は最初から全開で行くよっ!」
 アルヴィスは嬉々とした表情でアイスブリザードを連唱する。
 巻き起こる氷の嵐の前方では、リスティアのラストイードゥンのスクロールが敵を巻き上げ、鉄製の装備を破壊していた。
「飛刃、散華!」
「ぐうっ!」
「破刃、天昇!」
 メグレズの最初の一手で武器を砕かれたフォモールは、次の一手で出鼻を挫かれ、一瞬だけ怯んだ。
「妙刃、水月!」
 その隙を突かれて崩れ落ちた体を、止めの一撃が襲う。
「ぐああぁぁっ!」
 メグレズの繰り出す剣技にフォモール達は翻弄され、その数を徐々に減らしていった。
「2人とも『味方を守って戦え』ですよ!」
 リスティアの命令を受けた2体のゴーレムは、味方を巻き込まないように攻撃に加わわる。
「な、なんだあのデカブツ達は‥‥」
「よそ見しないでくれよ。妬けちまうな」
 リルは剣を交えている敵の腹部に蹴りを入れて間合いを取り、相手が体勢を立て直す前にその肩目掛けて剣を振り下ろした。 
 攻めて来た敵の数は少なく、決着が着くにはそう時間がかからないだろうと思った、その時。
 土埃と咆哮を上げながら、複数のフォモールが別方向から攻めてきた。
「くっ! どういう事だ!?」
 モルだけでなく、味方全員が予想外の事態に驚愕していた。しかし迷っている暇はない────戦うのみだ。
 敵陣地を陥落させた冒険者達も、後方の異常に気づき急ぎ味方陣地へと急行する。  
 それから1時間ほどで戦いは終結した。
 どこかの戦場から敵が流れてきた事もあり、勝利を収めたものの苦しい戦いであった。

 一同が駆けつける前に戦死した14人の犠牲者は、凪のたっての願いで丁重に埋葬された。
 失った命は戻らないが、それでも一同は多くのものを守りきったのだ。
「もう充分かもしれないね‥‥そろそろかな」
 静まり返る戦場を飛び行く鳥は、愉しそうにそう呟いた────。