【ジューンブライド】キミに捧ぐ愛と未来

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月23日〜06月28日

リプレイ公開日:2009年07月03日

●オープニング

 窓から差し込む光に目を細め、アンドリュー・カールセン(ea5936)は始まりの日を思い出す。
 誰よりも愛しく大切な恋人、チョコ・フォンス(ea5866)と出会った日の事を。
 知り合った日から今まで過ごしてきた時間、そしてたくさんの思い出達はアンドリューに安らぎを与え、人を愛するという気持ちを教えてくれた。
 辛く苦しい時にはいつも傍らにチョコの太陽のような笑顔があり、その明るさと優しさに今まで幾度救われてきたかわからない。
「まさか自分にこんな日が訪れようとはな‥‥」
 来る6月26日、アンドリューとチョコは恋人という関係に終止符を打つ────何故ならこの日、2人は夫婦となるのだから‥‥。
 

 数日後、アンドリューとチョコはロイエル家を訪れていた。
「何だか緊張するね‥‥」
「そうか? めでたい報告だし、案ずる必要はない。きっと皆は祝福してくれる筈だ」
「うん、わかってる。でもあたしが心配なのは‥‥」
「まあまあいらっしゃいませ、お2人とも♪」
 チョコが何かを言いかけた時、弾む足取りでレミーが部屋に現れた。その顔はとっても嬉しそうである。
 レミーは2人の真正面のソファに腰を下ろすと、キラキラと輝く瞳で口を開く。
「お揃いでお見えになるなんて珍しいですわよね。今日は何の御用ですの?」
「ああ、実はだな‥‥」
「もしかしてお2人の関係がより幸せでラヴな方向に進展するとか、皆様の前で甘い口付けと共に永遠の愛を誓い合う事にしたとか、生涯の伴侶となって子供は何人欲しいとか、じゃあ頑張らなきゃ♪ とか、そう言うお話ですのっ!?」
「‥‥‥‥」
「あたしはこれが言いたかったのよ‥‥」
 お見通しを通り越したレミーの言葉にアンドリューは閉口し、チョコは額を押えた。
 しかしレミーの口撃はこれで終わらない。
「はっ! もしかして既にチョコさんのお腹の中には新しい命がっ!?」
「「なっ!!」」
 止まらぬ妄想に2人が赤面した時、困り果てた顔のフレッドとアリシアが紅茶とスイーツを手に部屋へとやって来た。
「お母様、もうその辺でお止め下さいませ。お2人とも困ってらっしゃいますわ」
「そ、そうです。子供がいるとかいないとか、破廉恥ではありませんかっ!」
 アリシアよりも何故かフレッドの方が動揺していた‥‥さすがは青少年。
「よろしかったらどうぞ」
「あ、ああ。頂こう‥‥」
 内心は色んな意味で動揺していたが、それを顔に出さずにアンドリューは紅茶のカップに口をつけた。
 その隣でチョコは出された焼き菓子を食べ、顔を綻ばせていた。
「おいしい! これってアリシアが作ったの?」
「はい。喜んで頂けて嬉しいですわ」
「また腕を上げたね。これもリ‥‥こほん。彼の為?」
 うっかりアリシアの想い人の名前を出しそうになったチョコは、咳払いの後にそっと耳打ちをする。隣にいるフレッドに事が知られたら、きっと大変な事になるからだ。
「は、はい‥‥」
「そっか。アリシアはいいお嫁さんになるね」
 チョコが赤い顔で俯いたアリシアを褒めたその時だった。
「遅くなってゴメン! 報告はもう済んだのかな?」
 侍従に案内され、レイジュ・カザミ(ea0448)が姿を現した。
「‥‥いや、それが色々とあって未だなんだ」
「色々と? どういう意味な‥‥うわぁっ!」
「まあ! 赤毛が素敵な殿方ですわね。私はレミーですわ、初めましてっ♪」
 レイジュを『美青年』認識したレミーは、遠慮もなく彼に抱きついて自己紹介を始める。
「ど、どうも。僕はレイジュ。2人の友達で‥‥」
「お2人のお友達なら私のお友達ですわね。これからも末永く仲良くして下さいませ♪」
「は、はははははは‥‥」
 人の話を全く聞かないレミーを前に、レイジュはアンドリューの言っていた『色々』の原因はこの奥様だと悟るのだった。


「では全員揃った事だし、改めて報告させてもらおう」
 アンドリューは隣のチョコと頷き合った後、フレッド、アリシア、レミー、そしてレミーに抱きつかれたままで早くも憔悴しているレイジュを見渡した。
「自分とチョコは結婚する事になった。親しい者を招いて、式を挙げる予定だ」
「お2人は晴れてご夫婦になられますのね。おめでとうございます!」
「まあ、ジューンブライドですのね。おめでとうございます!」
「狙ったわけではないぞ。今年中にしよう、とは思っていたからな」
 嬉しそうに微笑むフレッドとアリシアに、アンドリューは照れ臭そうに頬を掻いた。
「おめでとうございますわ。そして私にお任せ下さいませ」
 ‥‥が、レミーのにまにまとした笑顔と台詞に一抹の不安が過ぎる。何故ならレミーはお節介奥様なのだから。
「お2人の衣装や会場は勿論、当日の進行も最高のものを提供させて頂きますわ。この時期ですと‥‥」
「あ、あのね、式を挙げる場所は決まってるの」
 早くもやる気満々で暴走しかけているレミーを、チョコは慌てて制す。
「あら、そうですの?」
「キャメロットの近くに古い教会を見つけた。そこを使いたいと思っている」
 アンドリューは、その教会は打ち捨てられてからかなりの時間が経っており補修や掃除が必要なこと、既に手をつけ始めているが1人では式までに間に合わないと付け加える。
「ドレスはもう決まってるの。だからレミーにはメイクをお願いしたいなって思ってるんだ」
「喜んでお受けしますわ。世界で1番可愛い花嫁様にして差し上げますからね♪」
 レミーは漸くレイジュを開放し、愛らしく微笑むチョコをぎゅっと抱きしめた。 
「レイジュ、当日の料理は任せたぞ」
「うん、腕によりをかけて美味しいのを作るからね! でも人数が多いし、手伝ってくれる人がいると嬉しいかも」
「わかった。依頼書に付け加えておこう」
 アンドリューは式を手伝ってくれる者をギルドで募集するつもりでいたが、式に参加してくれるのならば祝福してくれるだけでも構わないと思っていた。
 ちなみに神父役とチョコのドレスの着付けをしてくれる者も必要である。
「幸せいっぱいの式になるように、私達にもお手伝いさせて下さいませね?」
「2人には招待客として来てもらうつもりでいたが‥‥いいのか?」
「勿論だ。微力だが手伝わせて貰いたいと思っている」
「すまないな。ではその言葉に甘えさせて頂こう」
 手伝いを申し出るロイエル兄妹に、アンドリューは深々と頭を下げる。
「もうっ! そんな遠回しな言い方はしないで、素直に『ありがとう』って言えばいいじゃない」
「そ、そうか‥‥」
 チョコに指摘され、アンドリューは4人に向き直る。
「あ、ありがとう‥‥」
「うん。よく出来ました♪」
 早くもお尻の下に敷かれている感のあるアンドリューに、一同は声を上げて笑い合う。
 そして見つめ合うアンドリューとチョコの瞳は、互いへの愛しさで溢れていた‥‥。

●今回の参加者

 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea4267 ショコラ・フォンス(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec3876 アイリス・リード(30歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4311 ラティアナ・グレイヴァード(14歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4461 マール・コンバラリア(22歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●サポート参加者

シルヴィア・クロスロード(eb3671

●リプレイ本文

●晴れの日の為に
 爽やかな風を切り、数頭の馬が街道を駆ける。
 その速度は早かったが、馬上にある表情はどれも嬉しそうだ。目的地に着くのが楽しみで仕方がない‥‥そんな風に見える。 
「着いたぞ。ここの教会だ」
 アンドリュー・カールセン(ea5936)は馬から降り立ち、共に急行してくれた仲間達の顔を見渡す。
「積み重ねてきた年月が重みと趣を醸し出していますね‥‥素敵な教会です」
 アイリス・リード(ec3876)は、ほうと溜息をつきながら、森の中にひっそりと佇む教会を見つめた。
「ええ。修繕をしたらもっと素晴らしくなるでしょうね。頑張りませんと」
「兄様も気に入ってくれたみたいで嬉しいな。でも、張り切り過ぎて無茶はダメよ?」
 ショコラ・フォンス(ea4267)の言葉に嬉しそうに微笑むのは、妹のチョコ・フォンス(ea5866)だ。
「心配するな。張り切るのは俺の仕事だ。ショコラに無理はさせないさ」
 自らの胸を軽く拳で叩き、やる気満々のフレッドは爽やかな笑みを見せた。その姿に一抹の不安を感じたチョコだが、一瞬早くアイリスが口を開く。
「フレッドさんもご無理はなさらないで下さいね。お怪我をなさったら、折角の結婚式に参加できなくなってしまいますから」
「そ、そうだな。張り切るのは程々にしておく。だが精一杯努めさせてもらうぞ」
「‥‥それではどっちなのかわからん。相変わらず変わった奴だな」
 アンドリューは微笑し、教会の扉に手をかける。
 木の軋む音と共に開けられた扉の向こうに見えるのは、小さな礼拝堂。
 教壇の奥に飾られている十字架を、曇ったステンドグラスから差し込む淡い陽の光が照らしている。
「中も掃除をすれば見違えるでしょうね」
「はい。お2人が最高の日を迎えられる様、力を尽くしましょう」
 どこか寂しげなショコラの横顔を見つめた後、アイリスは再び礼拝堂に視線を移した。
「では早速掃除と修繕に取りかかろうか。修繕は自分達男が引き受けるから、掃除はチョコとアイリスに‥‥」
「お待たせしました、カールセン殿!」
 アンドリューが指示を出そうとした時、愛馬から降り立ったシルヴィアが息を切らして駆け寄ってきた。
「忙しいのにすまないな。自分達の為に手伝いを申し出てくれて、感謝している」
「ありがとね、シルヴィア。すごく嬉しいよ」
「本当は私も式に参加したかったのですが、それが叶わずに申し訳ありません」
 シルヴィアは律儀に頭を下げた後、柔らかい笑顔でこれから夫婦となる2人を見つめた。
「ご結婚おめでとうございます。素敵な結婚式の為に、教会を綺麗に磨きましょう!」
 そう言い腕捲りをするシルヴィアは、アンドリューとチョコの為にあるものを手配していた。それが何かが判明するのは、式当日までのお楽しみである。
 早くも祝福ムードが漂う中、結婚式への準備が始まるのだった。

 翌日、食材だけでなく様々な物をキャメロットで買い込んだ者達が教会へと到着した。
「あたし達二人の為に集まってくれてありがとうございます。式当日までよろしくお願いします」
「皆には感謝している。本当にありがとう」
 チョコとアンドリューは全員の顔を見渡した後、深々と頭を下げた。
「アンドリューお兄ちゃん、チョコお姉ちゃん、ご結婚おめでとうございます、なの〜♪」
 ラティアナ・グレイヴァード(ec4311)は元気な声で2人を祝福し、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとう。神父役は任せたぞ」
「うん! ティーはセーラ様にお仕えするクレリックだから、ちゃんと神父さんやれるんだよー☆」
「こんなに可愛い神父さんに祝福してもらえるだなんて、幸せだわ」
「えへへ。可愛いって言われて、恥ずかしいけど嬉しいの〜♪」
 チョコに頭を撫でられながら、ラティは幼い顔を綻ばせた。
「いよいよ明日ですわねぇ。張り切って準備をしませんと♪ レイジュさん、荷物をこちらに持って来て下さいな」
 うきうきと楽しそうなレミーは、新たなお気に入りメンズのレイジュ・カザミ(ea0448)に振り返る。
「‥‥レミーさん、買い過ぎ。運ぶ方の身にもなってよ〜」
 よろよろと教会に入ってきたレイジュは、背中に大きな袋を背負っていた。本人は疲労困憊しているが、その姿はお間抜け可愛い。
「うふふっ、その逞しさに私のハートはずっきゅんですわ♪ と言う訳で、早速衣装を出して下さいな。皺になったら大変ですもの」
 良くわからない発言の後に強引に話を纏めたレミーは、いそいそとレイジュに駆け寄る。
「蝋燭も布も足りそうね。後は教会を準備万端にして、シルフィちゃんの小物の到着を待つばかりかしら」
 教会内をふわふわと飛び回り、足りない物がないかを確認していたマール・コンバラリア(ec4461)は、ホッとした様に微笑む。
「アイリスさんとお2人でご依頼なさったのですよね? 素敵なお心配りに感激してしまいましたわ」
「ふふっ、ありがと♪」
 花の様に微笑むアリシアに、マールはぱちっとウインクをして見せた。
「何か私にもお手伝い出来る事はありませんか?」
「そうねぇ。皆がお掃除や修繕をしてる間、何か飲み物を差し入れてくれないかしら? 可愛らしい笑顔と一緒に、ね」
「はい、私の笑顔で良ければ喜んで! では今からお飲み物を冷やして参りますわ」
 パタパタと走り去っていく後姿を、マールは優しい瞳で見送った。
「フレッドさん、あちらもお願いしますね」
「ああ、わかった。任せてくれ」
 アイリスから釘を数本受け取り、フレッドは屋根へとよじ登った。
 それからショコラと共に屋根の修繕を行っていたのだが‥‥。
(「とうとうこの日が来てしまいましたか‥‥」)
 ショコラは修繕道具を構えたまま、ぼんやりと遠い目をしていた。その心情は兄と言うよりは、もはや父親に近い。
「手が止まってるぞ、ショコラ」
「‥‥えっ? す、すみませんっ」
「やはりチョコが嫁ぐのが寂しいのか? 昨日から元気がないみたいだが」
「それもありますけど、気になる事がありましてね」
 ショコラは困った様に微笑んだ。
「結婚の事はチョコから報告受けていましたが二人揃っての挨拶が無かったのです。チョコを下さいとかも言われなかったし‥‥ま、父親では無いですけどね、私」
「‥‥そうか。だが2人はお前を軽んじていたわけではないと思うぞ。きっとアンドリューの事だ、照れ臭くて言えなかったんだろう」
「そうだとしても一言くらいは何かあってもいいと思いませんか? 仮にもこれから家族として一生付き合っていくわけですし」
「つまりは寂しかったんだな? そして拗ねていると言う訳か」
 珍しく語気の荒いショコラの様子に、フレッドはいつもの鈍感さからは想像も出来ない様な奇跡を起こしてみせた。
「‥‥いけませんか? 私だって人の子です」
「誰も悪いとは言っていない。それだけ2人の事が可愛くて仕方ないんだろう?」
 笑顔のフレッドに大人しく頭を撫でられながら、ショコラは口を開く。
「チョコがアンドリューの話を初めてした時、とにかくおっぱいの好きな人なの、と言ったので、冷や汗をかき言葉に詰まりましたが‥‥」
「お、おっぱいっ!?」
 フレッドはそう叫んだ後で、ハッと自分の口を押さえた。
「あ、いや、そのですね? よくよく話を聞くと、彼は両親の顔さえも覚えていないそうなんです。きっと母親への憧れもあるのでしょう。そんな彼には是非幸せになって欲しいと思っています」 
「‥‥ああ。幸せな家庭を築いていってくれたらと、そう思う」
 根が真面目な2人は、微かに赤い頬で微笑み合った。
(「‥‥まさか、な。2人ともノーマルな筈だ」)
 教会の内部にある仕掛けを仕込み終えたアンドリューに、そんな目で見られているとは気づかずに‥‥。
 
 外で珍事件が起きている頃、着々と掃除と修繕が進められていた。
「覚悟はしてたけど、かなり埃っぽいわねぇ」
 高い場所の埃を払いながら、マールは涙目で咽こむ。
「こちらの目隠しは終わりましたわ」
「ありがとう。じゃあ次はあそこの壁の汚れをお願いね」
 アリシアはマールの指示に笑顔で頷くと、白い布で壁の汚れを覆い始める。
 汚れや破損が酷い所はさりげなく布で隠す‥‥これはマールの提案であった。不自然にならない様に花やリボンを装飾しボロ隠しの中にも彼女のセンスが光っていた。
「あのねあのね、ティーは神父さん以外に出来ること、ないの。お料理もへたっぴぃだし、縫い物も全部ダメなの。ちっちゃいから大きいお荷物も運べないのぉ‥‥」
 ラティは愛猫のミントとパンジーと共にレミーにすりすりと甘えながら、悲しそうに瞳を伏せる。
「でもねでもね、クレリックだからちゃんと『かんこんそーさい』のお勉強はしてるんだよ☆」
「ラティが頑張り屋さんないい子だって事は、ここにいる皆様はちゃんと知っていますわよ。そうですわねぇ‥‥では私の御用を手伝って下さいな」
 レミーは小さな体をぎゅうっと抱きしめ、目を細めて微笑んだ。
「うん! ティー、レミーママのお手伝いがんばるー♪ 何をすればいいのー?」
「皆様に来て頂く衣装と小物チェックですわ。とっても大事な御用ですのよ?」
 レミーは張り切るラティの手を引き『臨時衣裳部屋』へと向かった。
(「家業の為に修行した料理の腕、ここでこそ披露しなきゃね!」)
 その頃、小さな厨房で料理の仕込みに追われているのはレイジュだ。
 料理人としての修行をずっと積んできた彼は、結婚式で腕を振るえる事を嬉しく思っていた。
「心を込めてお祝いをしなきゃね。素晴らしい式になるように‥‥よーし、頑張るぞー!」
 当日は料理の得意なショコラが補佐についてくれる予定だ。
 レイジュは気合を入れると、目にも止まらぬ速さで野菜を刻み始めた。

 式前日の夜。
 一緒に寝たいというチョコの我侭を、ショコラは快く叶えてくれた。
「こうやって一緒のベッドで寝るのは久しぶりだね、兄様」
 チョコは傍らのショコラの腕にぎゅっと抱きついた。
「とうとう結婚するのかぁ‥‥嬉しいけどまだあんまり自覚がないな」
「明日になれば否が応でも花嫁の気持ちになるよ」
 ショコラはチョコの頭を撫でながら、湧き上がる寂しさをぐっと噛み殺す。
 誰よりも大切で愛しい妹が人の妻となり、いつかは母となる────祝福する気持ちは本当なのに、同時に在るのは寂寞の想い。
(「寂しいだなんて言えないな。晴れの日を最高の笑顔で迎えて欲しいから‥‥」)
 両親に手紙で結婚の報告をしたら喜んでくれたと話すチョコに微笑みながら、ショコラは彼女が自分の元を離れていく現実を受け止め始めるのだった。

●祝福の溢れる日
 そして迎えた6月26日────結婚式当日。
 何処までも澄み渡った青空は、夫婦となる2人を祝福しているかの様だ。
「お化粧なんて普段しないから、緊張するな‥‥」
 既にウェディングドレスに身を包んだチョコは、緊張した面持ちでそう呟いた。
「私にお任せなさいませ。とびきり素敵な花嫁さんにして差し上げますわ♪」
 レミーはにっこりと微笑むと、チョコの形のいい唇に淡い紅を塗る。
 施されるのは初々しい薄化粧。いつもは明るく元気いっぱいのチョコは、見る見る間に清楚な花嫁へと姿を変えていく。
「綺麗な背中と首が映える様に、髪はフルアップに致しましょう。でもシンプルに纏めてしまうとつまらないですから、遊び心も残しつつ‥‥」
 チョコの髪を丁寧に梳かすレミーの声は弾んでいた。
「こっち側の椅子は全部終わったのー♪」
「ありがとうございますわ。では教壇の装飾もお願いしていいでしょうか?」
「うん! ティーにお任せー、なのー♪」
 ラティは嬉しそうな顔でアリシアに抱きついた後、花がいっぱい詰まった籠を抱えて教壇へと走る。
 通路を挟んで左右にある木の長椅子は、その両端を純白のリボンと花で飾られていた。
 壁に着けられた白い布は飾りカーテンの様で、そこにも白く可憐な野花が装飾されている。
「お待たせしましたー!」
 外でシフール飛脚を待っていたアイリスとフレッドは、ホッとした様な顔で微笑み合う。
「急がせてすまないな。ありがとう」
「いえいえ、結婚式の小物をお届けできるだなんてボクも嬉しいです。素敵な式になるといいですね!」
 シフール飛脚はフレッドに小さな包みを手渡すと、元気良く飛び去って行った。
「さあ、早く小物を届けに行こう」
「はい。お待たせするわけには参りませんものね」
 アイリスは柔らかく微笑み、フレッドの広い背中を追った。
「兄様‥‥似合ってる?」
「‥‥うん。とっても綺麗だよ」
 ショコラは瞳を細めて、チョコの花嫁姿を見つめる。彼が手がけたウェディングドレスは、チョコの魅力を惜しみなく引き出していた。  
 ドレスの色はアンドリューたっての希望で白。
 ビスチェタイプの胸元はフリルで可愛らしく装飾され、そのデザインがチョコの華奢な肩と細く長い首を引き立てている。
 キュッと絞られたウエストの切り替え部分から下は、ふわりとした広がりを見せるプリンセスライン。
 腰の後で結ばれている大きなリボンには、銀糸で花の刺繍が施されている。
「こんなに素敵なドレスを着られるだなんて夢みたい‥‥兄様、本当にありがとう」
 感激のあまり涙目でショコラに抱きつくチョコの耳元で、ネックレスとお揃いのパールのイヤリングが可憐に揺れる。
 清楚なマリアヴェールの上で輝くのは、ムーンストーンをあしらった銀製のティアラだ。
「まだ泣くのは早いよ、チョコ。嬉し涙はもう少しだけ取っておくんだ」
「はい、兄様‥‥」
 ロンググローブを嵌めた腕をそっと解き、チョコは嬉しそうに微笑んだ。 
「‥‥どうだった?」
「すごく綺麗だったわよ。絶対に惚れ直しちゃうと思うわ」
 そわそわと落ち着きのないアンドリューに、マールはこっそりと覗いてきたチョコの花嫁姿の感想を伝える。
「さ、チョコさんに釣り合う様にアンドリューさんもカッコ良くしなきゃね。元がいいから楽しみだわ♪」
 マールはまるで悪戯っ子の様な笑顔を見せた後、レミーが用意した数種類の花婿衣装を吟味し始める。
「せっかくだもの、お揃いで色は白がいいわよね」 
「し、白か? 自分に似合わないのではないだろうか‥‥」
「普段は黒尽くめなんだから、今日くらいはいいでしょ? 大丈夫、絶対に似合うから」
「‥‥これもチョコの為だ。思い切ってイメチェンにチャレンジしてみよう」
 アンドリューは覚悟を決めると、マールが選んだ細身のデザインの衣装を手に取った。
(「あれから4年‥‥いや、4年半か」)
 式を目前にし、アンドリューは衣装に身を通しながらチョコと出会った頃を思い出していた。
 まるごとメリーさんを着込んだチョコとの、鮮烈な出会いを‥‥。 
「あ、おかえりー」
 厨房で料理を作っていたレイジュは、戻ってきたショコラに明るく声をかける。
「ただいま戻りました。席を外してしまってすみません」
「いいっていいって! 僕は細かい事は気にしない主義なんだ」
 レイジュはにこっと笑うと、ショコラに包丁と玉葱を手渡す。
「この玉葱、かなり強敵なんだよねー。さっき切ってたら、ボロボロ泣いちゃったよ」
「レイジュさん‥‥」
「だから涙が出てきちゃったら、それは玉葱のせいだよ、うん」
 そう言い鍋をかき混ぜるレイジュに、ショコラは小さく呟く。
「ありがとうございます‥‥」
 そして玉葱を切り始めて間もなく、ショコラの目から涙が溢れ始める。玉葱は全然染みなかったけれども、レイジュの優しさが心に染み入るのだった。
「さあさあ、次は私達がドレスアップする番ですわよー♪」
「あのぅ、レミ‥‥」
 そこまで言いかけて、アイリスはハッと思い止まる。
「アリシアさん、少しだけ服装をご確認頂いてもよろしいですか? 見苦しくなければ、失礼でなければ、それで十分ですので‥‥」
 危険を察知したアイリスはアリシアに声をかけるのだが‥‥
「そんな消極的でどうしますの! 今日は結婚式ですわよ。女性が華やかに着飾るのは、新郎新婦への礼儀ですわっ!」
 カッ! と目を見開いたレミーにアイリスが逆らえる筈もなく‥‥人を着飾るのが大好きなマールも参戦し、2人の餌食となった。

 礼拝堂から伸びた純白の絨毯の上を、チョコは一歩一歩を踏みしめる様に歩いていた。
 傍らには正装した兄の姿。そっと触れる腕が心強い。
 チョコが手にしている淡いピンク色の薔薇のブーケは、シルヴィアが手配してくれたものだった。
「さあ、チョコが主役の結婚式の始まりだよ」
 礼拝堂の入り口に到着する間際、ショコラはそう言い穏やかな笑顔で微笑んだ。
 その目元が微かに赤い事には気づかないふりをして、チョコも花の様な笑顔を返す。
 教壇の前で待つ新郎アンドリューの元へと向かう2人に、華やかに正装した仲間達の視線が注がれる。
「アンドリュー‥‥」
 白い花婿衣装を着たアンドリューは凛々しく、チョコはほんの数秒だけ彼に見惚れていた。
 その胸ポケットから覗くのは、チョコのドレスと同じ生地で作った小さな布。その上に留められたブートニアはチョコのブーケと同じ薔薇だ。
「‥‥‥‥」
 一方、アンドリューはチョコを前に何も言葉が出てこなかった。
 言葉はなくとも赤く染まる頬を見れば感想は十分。チョコはショコラの腕にあった手をそっとアンドリューのそれに重ねた。
「‥‥行こう?」
「あ、ああ‥‥」
 ハッと我に返ったアンドリューは、チョコの右手を自分の左腕に掴ませた。
 曇っていたステンドグラスは磨き上げられ、初夏の日差しを受けてキラキラと輝いている。
 その下にある十字架を背に教壇で待つラティが纏うのは、神父服と言うよりは少しだけ豪華且つ可愛らしいシスター服だった。
「えっと、えっと‥‥こ、これからアンドリューお兄ちゃんとチョコお姉ちゃんの結婚式を始めるの〜」
 ラティは緊張したお面持ちで、結婚式の開会を宣言する。
 その後もたどたどしいながらも懸命に神父としての言葉を紡いでいく。ラティの背後でゆらゆらと揺れる桜華の蝋燭の炎を眺めながら、アイリスはホッと胸を撫で下ろした。
 ちなみに正面からは見えないが、背の小さな彼女は高さ30cmの木箱の上に乗っている。
「新郎アンドリューお兄ちゃん。元気な時も病気の時も、お金持ちの時も貧乏な時も、チョコお姉ちゃんを大切なお嫁さんとして守り、ず〜っと愛し続ける事を誓いますか?」
「はい。誓います」
 アンドリューは凛々しい声で。
「新婦チョコお姉ちゃん。楽しい時もしょんぼりな時も、仲良しの時も喧嘩しちゃった時も、アンドリューお兄ちゃんを大切なお婿さんとして支え、ず〜っと愛し続ける事を誓いますか?」
「はい。誓います」
 チョコは微かに震える可憐な声で、そう答えた。
「2人の気持ち、確かに確認しましたなの〜。次は指輪の交換なの〜」
 ラティが両手で大事そうに差し出したのは、青いブルーのレースをあしらったリングピロー。シルフィが依頼を受け、アイリスの言葉を元に作ったものだ。
 月の様に穏やかで、深い優しさと確とした強さを持つ新郎の指輪は金糸の太陽の刺繍の上に、太陽の様に辺りを照らす、笑顔の眩しい美しい新婦の指輪は銀糸の月の刺繍の上に置かれている。
 月から太陽へ、太陽から月へ‥‥互いへの愛を指輪に込め、贈り合う様に。
 2人は震える手で指輪を取り、順番に互いの薬指へと嵌めていく。
「最後に誓いのキスなの〜。ティーはお子様だから見ない様にするの〜」
 ラティはそう言うと、両手で顔を覆った。
 少しだけ屈んだチョコのヴェールを上げ、アンドリューは細い肩を両手でそっと包んだ。
 想いを込めて見つめ合った後、2人は伴侶として初めてのキスを交わす。指の隙間から覗き見たそれは神聖な儀式の様で、ラティは声もなく見惚れてしまう。
「こ、これで2人は正式に夫婦なの〜。祝福の拍手をお願いしますなの〜」
 惜しみない拍手に包まれ、アンドリューとチョコは幸せそうに微笑み合う。
「おめでとう、2人とも。ちょっとここで待ってってね」
 そう言い新郎新婦にウインクをするマールの言葉に、一同は次々を礼拝堂を後にした。
 やがて全員は草の上に敷かれた長い絨毯の挟み、向かい合う。
「準備OKよ。さあ、こっちに向かって歩いてきて!」
 手を振るマールの思惑はまだ見えなかったが、2人は言われるままに礼拝堂から外へと歩き出す。
 その瞬間‥‥
「アンドリュー、チョコ、おめでとう」
「お2人共、この度は本当に‥‥本当に、おめでとうございます」
 ショコラとアイリスが祝福の言葉と共に空に放った花びらが、はらはらと2人へと降り注ぐ。
 その後も皆に同様の祝福を受け、花びらまみれになった2人が教会の方へと振り向いた時だった。
「わあっ‥‥」
 教会の屋根から複数の白い鳩が飛び立ち、チョコは思わず感嘆の声をあげる。
 この鳩達はこの後のパーティーで姿を現す絵師同様、シルヴィアからの贈り物だった。
 その内の2羽は寄り添いながら羽ばたいて行く。まるで夫婦となった2人の様に。
(「この日に参列させて頂けた事、心より嬉しく思います。お2人で歩まれる道が、永く、聖なる母の祝福の光に溢れたものとなりますよう‥‥」)
 過去を受け入れ、今を繋ぎ、未来を誓う‥‥その姿のなんと尊く美しい事か。
 アイリスは慈愛に満ちた瞳で、微笑み合う2人を見つめた。

●続いて行く未来
 式の後はガーデンパーティーが開かれ、一同は飲み物を片手に談笑を楽しんでいる。
 そんな中、大忙しなのは料理担当のレイジュとショコラだ。
「煮込み料理を温めつつ、その間に前菜を用意して、っと」
「ケーキを釜に入れました。今からならデザートの時間に間に合う筈です」
 狭い厨房を歩き回る2人。そこに鼻歌を歌いながら上機嫌のレミーが通りかかる。
「ふんふーん♪ お楽しみタイムはここからですわ。根掘り葉ほ‥‥」
「ちょーっと待った!」
 レイジュは通り過ぎ様とするレミーを呼び止める。
「な、何ですの?」
「こっちは大忙しなのに、あの2人をいじくり回して楽しもうだなんてズルいなぁ」
 レイジュは快活な笑顔を見せると、煮込み料理のソースをスプーンで掬った。
「レミーさん、味見してみてよ」
 自然な動作で40の大台に乗った人妻にあーんをするレイジュ。天然なのか大物なのか‥‥。
「あーん♪」
 そして全く躊躇しなレミーだった。
「どう?」
「‥‥まあ! とっても美味しいですわ!」
「へへー。僕の家はちょっと上質な宿屋なんだ。近くまで着たら是非お立ち寄りを!」
「行きますわ! 週7日で通いますわ〜♪」
 通わずとも泊まればいいのでは? そう心の中で突っ込みつつも、ショコラは黙々と料理を作るのだった。
「はい、これでみーんなお揃いよ♪」
 マールは最後に自分の髪に淡いピンクの薔薇を挿し、にっこりと微笑んだ。
 チョコが『幸せのお裾分けをさせてね!』と背中越しに投げたブーケは、マールの元へと飛んできた。
 しかしシフールの彼女が受け止めるにはブーケは大きく、結局はアイリスがマールごとキャッチ。譲り合いの後、ブーケは女性全員で分け、お揃いで髪に飾る事にしたのだ。
「お待たせ〜。料理の登場だよ」
「ご一緒にお飲み物のお代わりはいかがですか?」
 そこに料理と飲み物を持ったレイジュとショコラが現れる。
「‥‥美味い。おかわりをくれ」
「兄様、あたしにもワインをちょーだい♪」
 早くもおかわりをするアンドリューの隣で、チョコは既にほろ酔い加減だ。
「上品なお味ですね。このソースが格別です」
「2人とも今すぐにでもお婿にいけるわね☆」
 簡単の溜息を漏らすアイリスの隣で、マールは悪戯っぽく微笑む。
「とっても美味しくて、ほっぺが落ちちゃいそうなの〜♪」
「あらあら。ラティったらお口の周りにいっぱい付けて‥‥」
 ほわんと顔を緩ませるラティの口元を、レミーは優しく拭っている。
「はい。ちゃんとアップルジュースもありますよ」
「ありがとう。やはりこれが1番だな」
 気配り上手なショコラが注ぐアップルジュースを、フレッドはあっと言う間に飲み干してしまった。
「この野菜で出来たウサギさん、可愛くて食べられないですわ」
「それはダメだなぁ。ウサギさんは『食べてくれなきゃ死んじゃう〜』って言ってるよ?」
 困り顔のアリシアをレイジュは可愛らしい冗談で励ます。
 次々と運ばれてくる美味しい料理と、楽しく会話に時間は瞬く間に過ぎていく。
 特にデザートの花で装飾された特大ケーキは、大好評であった。
「と・こ・ろ・で! もちろんプロポーズの言葉は聞かせて頂けますわよね?」 
 レミーのにんまりスマイルに、一同は凍りつくか興味津々か2つに1つの表情を見せた。
「そ、それは秘密だ」
「いいじゃない。今日は特別な日なんだから♪」
「チョ、チョコっ!?」
 狼狽するアンドリューを尻目に、チョコはほんのり赤い顔で口を開く。
「アンドリューの昨年のお誕生日にね、プロポーズされたの。『チョコを妻に娶ってもいいか?』って」
「まあ!」
「こんなあたしでもいいって言ってくれたから、『あたしをアンドリューの妻にして下さい』って返したの」 
「んまあ!」
「まさか、結婚を考えてくれてるとは思わなかったし、あたしの事、こんなに考えてくれてたのかって、嬉しかったな」
「くっふぅ〜!」
「‥‥お母様、おかしな合いの手はお止め下さいませ」
 甘い話に悶えるレミーをアリシアは引きつった笑顔で制する。
「今日は無礼講ですのよ? 新郎新婦にあんな事やこんな事を聞いてもいい日ですの!」
「よくありませんっ!」
「‥‥ちっ。ところで、お子様は何人作るおつもりですの?」
 アリシアを無視し、レミーは瞳をキラキラと輝く瞳でそう尋ねる。舌打ちは聞かなかった事にしよう。
 その質問にショコラの笑顔が凍りつき、生真面目なアイリスとロイエル兄妹の頬が真っ赤に染まる。
「具体的な人数は特に決めてないが、たくさん欲しいと思っている」
 さらりと答えるアンドリュー。ちなみにチョコはさらに酔いが回ったらしく、この会話はあまり耳に入ってない様だ。
「ではさっそく今夜から励みなさいませ♪ 何て言ったって今日は『初夜』ですものっ!」
 グッと親指を立ててウインクをするレミーは、もはやエロおやじと同格である。
「そ、それは、その‥‥」
 これにはさすがのアンドリューもたじろいだが、彼より動揺してる者達がいた。
「は、励み‥‥しょ、初夜っ!?」
「フ、フレッドさん、これを飲んで落ち着いて下さいっ」
 壊れかけのフレッドにアイリスが差し出すのは、飲み物ではなくピリ辛のソースだったり。
「アリシアお姉ちゃん、『しょや』ってなーに?」
「ラ、ラティにはまだ早いですわっ」
 無垢なラティにアリシアはしどろもどろになっていたり。
「‥‥ショコラ、目が怖いんだが」
「気のせいですよ‥‥多分」
 温和なショコラが一瞬だけ『黒ショコラ』に変貌したのを知り、アンドリューは『では、予告通り彼女は頂いていく』と言う自分なりのジョークを言わなくて良かったと、心の底から思った。
「これは拙いなぁ。僕達で流れを変えなきゃ‥‥って、マールさん?」
「ふえっ!? な、なにっ?」
 レイジュに声をかけられたマールは純情な一面を発揮し、その頬は赤かった。
「ええい、こうなったらここで僕の特技のお披露目だねっ!」
 演出のタイミングが当初と違うが、仕方がない。
 レイジュは皆の前に躍り出てジャグリングを披露し始める。
「改めて結婚おめでとーだよ! 結婚しても僕の所へ遊びにきてよね!」
 見事な腕前に一同から歓声が上がり、レイジュのお陰で雰囲気は再び和やかなものへ戻ったのだった。
「レミーさん、フレッド、アリシア、レイジュ、ラティ、マール、アイリス、ショコラ兄様、この場には残念ながらいないけどシルヴィア、そしてアンドリュー‥‥」
 パーティーが終わりに差しかかった頃、酔いの醒めたチョコは大好きな人達の顔を見渡す。
「本当に、皆ありがとう♪ 幸せだよ」
 涙目で見せた笑顔は、この日1番の輝きを放っていた────。

 結婚式の夜。
 アンドリューは1人、礼拝堂に佇んでいた。
「‥‥義姉さん、貴女が守ってくれた命は彼女の為に使おうと思う」
 恩ある女性の顔を思い浮かべながら、十字架に向かって微かな誓いを立てる。
「アンドリュー、いる?」
 微かに扉が軋む音の後、チョコが姿を現した。
「‥‥おいで」
 手を差し伸べて浮かべるのは、チョコにだけ見せる優しい笑顔。それに負けないくらいの声音にドキドキしつつ、チョコはアンドリューに近づいた。
「ラ、ラティのプレゼント、びっくりしちゃったね。だって新郎にふりふりエプロンって‥‥」
「チョコ。お喋りは後だ」
 照れ隠しに喋りだすチョコの唇をそっと人差し指で押さえ、アンドリューは天井からぶら下がっている紐を下に引っ張った。
 その瞬間、開け放たれた天井から月明かりが差し込み、2人は淡い光に照らされる。
「これって‥‥」
「事前に仕込んでおいたんだ」
「すごく綺麗‥‥ありがと」
 月明かりに照らされた笑顔胸も高鳴らせ、アンドリューはチョコを抱き寄せた。
「もう悩む事もない。自分はチョコだけの夫で、チョコは自分だけの妻だ」
「‥‥うん。あたしは────」
 アンドリューが望む全ての愛を与えたい‥‥そう告げようとした唇は、珍しく余裕のない口付けに阻まれる。
「あたしは、アンドリューと出逢えて本当に良かったです。これからもよろしくお願いします。ずっと、ずっと‥‥」
 離れた唇の代わりにおでこ同士をくっつけながら、チョコは幸せそうに微笑む。
 たくさんの愛に溢れた6月26日は、2人にとって新たな門出の日となった。
 月明かりに照らされた、揃いの指輪をその証に────。