【初夏の園遊会】不器用な父子

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月06日〜07月09日

リプレイ公開日:2009年07月14日

●オープニング

 夕焼け色の髪と、海の様な深い青色の瞳。
 逞しい体躯と凛々しい面立ちは、誰もが敬愛して止まない王そのものだ。
 けれども少年は幼い時から彼が大嫌いだった。
 その想いは成長と共に大きくなっていき、微かな本心さえも飲み込もうとしていた。


 モードレッドは品のいいデザインの招待状に目を通した後、それをぐしゃりと握り潰した。
 瞬間、微かな花の香りが立ち込める。招待状の差出人────グィネヴィア王妃の香りが。
「モル坊ちゃま、王妃様からの招待状ですよ。その様な扱い方をなさっては‥‥」
 モードレッドの侍従にして母の様な存在でもあるクレアは、眼前にある不機嫌な顔を悲しそうに見つめる。
「下らん内容だから握り潰しただけだ。園遊会なんぞ誰が行くものか」
「園遊会、ですか?」
「リヴァイアサンを退治し平和をもたらした者への慰労だそうだ。自分が取り仕切るからと王妃自らあいつに頼み込んで‥‥」
「モル坊ちゃま。お父上に対してその様な呼び方はいけませんよ」
 クレアに窘められたモードレッドは、片眉だけ上げて不敵な笑みを浮かべる。
「偉大なる英雄アーサー王。これでいいか?」
「坊ちゃま‥‥」
「父上などと呼ぶものか。絶対に」
 頑なで幼い矜持にクレアの胸は痛む。
 血の繋がった親子でありながら、それを公には出来ぬ理由。それはモードレッドの幼少時代に多大な影響を及ぼし、その心に色濃い陰を落としていた。
「アーサー王様と顔を合わせたくないから、出席なさらないのですか?」
「それ以外に断る理由はない」
 招待状には『極上の蜂蜜を手に入れたから、それを振舞いたい』と書き添えられていた。
 甘味好きのモルはその甘い誘いに激しく心を動かされたが、それでもアーサー王と会いたくないという気持ちの方が遥かに大きい。
「ですがモル坊ちゃまはリヴァイアサン討伐に参加なさいました。王宮騎士として、円卓の騎士候補として不参加と言うわけにはいかないのではありませんか?」
「向こうが来なければ喜んで参加してやる。だが王としてそれはできんだろう。だから僕が行かないまでだ」
 モードレッドの意志は固い。その裏に秘められた想いに気づきつつも、それを口に出せずにクレアは黙り込む事しかできなかった。
「それに断る理由は既に考えてある」
「‥‥どの様な理由ですか?」
「園遊会の日程に合わせて僕の屋敷で茶会を開く。そちらの日程の方が先に決まっていたとし、招待客も恩のある者達ばかりだと言い張ればいい」
 モードレッドはそう言うと、ソファから立ち上がって外出の準備をし始める。
「これからギルドに赴き、先に手を打ってくる」
「もしかして、お茶会に招待するのは冒険者の方々ですか?」
「ああ。きっとこの前の様に愉快な茶会になるぞ」
 子供の様な素直な笑顔を浮かべ、モードレッドはドアの方へと歩き出す。
「モル坊ちゃま!」
 クレアは咄嗟にその背中に声をかけていた。
「‥‥何だ?」
「買い物のついでに私がギルドに参ります。坊ちゃまはゆっくりとお昼寝でもなさってて下さい」
「いいのか?」
 モードレッドの言葉にクレアは笑顔で頷く。ある想いを胸に抱えながら‥‥。


 冒険者ギルドに赴きある依頼を出し終えたクレアは、真剣な面持ちで受付嬢を見つめていた。
「もうひとつの依頼、ですか?」
「はい。園遊会に参加なさるモル坊ちゃまを、傍で見守って頂きたいのです」
 クレアは近くに人がいない事を確認し、そっと受付嬢に顔を寄せる。
「モル坊ちゃまのお父上に関するお噂はお耳に入ってますか?」
「‥‥はい。ここには様々な情報が入ってきますから」
 クレアにそう答えながら、あの誉れ高き湖の騎士ラーンス・ロットの姿をキャメロット近郊で見かけたという噂話を、受付嬢は思い出していた。
「そうですか。でしたらお話は早いですね。アーサー王様に対してモル坊ちゃまが激し、参加なさった皆様にご迷惑をおかけしない様にして頂きたいのです」
 モードレッドが実の父アーサー王に抱く感情は、思慕とは程遠い。
 それ故に王の何気ない一言で激昂し、和やかな園遊会を険悪な雰囲気にし兼ねないのだ。
「依頼内容はモードレッド様と共に園遊会に参加し、彼の一挙一同を見守る、ですね‥‥あれ?」
 新たな依頼書を書き始めた受付嬢は、ペンを止めて首を傾げる。
「モードレッド様が園遊会に参加するとなれば、2日目からになりますよね? こちらの依頼に参加した冒険者達は、1日目をどの様に過ごせばいいんでしょうか?」
「お先に園遊会に参加して下さって構いません。坊ちゃまのお守りで2日目と3日目は気を張られるでしょうから、初日はゆっくりとお楽しみ頂ければと思っております」
 クレアがあまりに優しい笑顔でそう言うので、受付嬢はうっかり「確かにお守りですよね」と頷きそうになってしまった。
「きっとアーサー王様はモル坊ちゃまとお顔を合わせ、言葉を交わす事を望んでらっしゃると思います。ほんの一時でも素直な気持ちでお父上との時間を過ごして頂きたいのですが‥‥」
「そこは冒険者達に任せましょう。彼らならモードレッド様の心を動かす事は可能でしょうから」
 受付嬢の言葉にクレアは安心した様に微笑んだ。

 眠りへと落ちていったモードレッドは、夢でアーサー王との邂逅を果たしていた。
「父上! 父上ーっ!」 
 懸命に駆け寄る自分は幼く、抱き上げてくれた父の顔は優しくも温かい。
「父上は僕が好きですか? 僕の事が大事ですか?」
 思い切ってそう尋ねると、アーサー王は大きな手で頭を撫でてくれた。
「ああ。私はお前を愛しているよ。それにこの世で一番大切だ‥‥何よりも」
 与えられた言葉が喜びとして胸に広がっていく‥‥ずっと待ち焦がれていたから。 
「僕も、僕も父上を‥‥」
 ────答えようとした所で目が覚めた。
 天井に向かって両手を伸ばしている事に気づくのとほぼ同時に、モードレッドの頬を一筋の涙が伝う。
「‥‥違う。僕はあいつなんて嫌いだ‥‥大嫌いだっ!」
 苛立たしげにベッドに腕を叩き付けた後、モードレッドはシーツをきつく握り締めた。
 何かに耐える様に、縋る様に────。 

●今回の参加者

 ea0640 グラディ・アトール(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 ec4318 ミシェル・コクトー(23歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec4461 マール・コンバラリア(22歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ec6696 カラ・カラ(20歳・♂・神聖騎士・パラ・イギリス王国)
 ec6724 イーヒゲ・コワモッテ(20歳・♂・レンジャー・ドワーフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●優しきお守り達
 お皿を手にし、園遊会の会場を上機嫌でてこてこっと歩き回る女性が一人‥‥。
「うーん、どれも美味しくてほっぺが落ちそうやったわぁ。ウチの1番のお気に入りはアレやな」
 振舞われる甘味達を制覇した藤村凪(eb3310)は空いた方の手で頬を押さえながら、王妃がモルの為に取り寄せた極上の蜂蜜を使った焼き菓子を見つめた。
「モルちゃんがこれを食べたら嬉しくて溶けてまうんやないやろか?」
「ええ、綻んだ顔が目に浮かびますね」
 声のした方に振り返ると、武器を預け終えたグラディ・アトール(ea0640)が苦笑いとも取れる表情で佇んでいた。
「よろしければモードレッド卿がいらっしゃるまで、ご一緒しても構いませんか?」
「勿論や♪ じゃあ一緒にお菓子を食べて回ろか」
 騎士の礼を取りエスコートを申し出るグラディに、凪はほんわかと微笑む。
「モルちゃんが気に入りそうなお菓子の目星は付けたんやけど、グラディさんの意見も聞かせてや?」
「わかりました。モードレッド卿のご機嫌を操作するのに甘味は有効でしょうからね。依頼主であるクレアさんの望みを叶える為に一肌脱ぎますよ」
 こうしてグラディと甘味達の戦いが幕を上げたのだった。
「‥‥ミーちゃん、それはなに?」
「場を和ませるアイテムですわ」
 頭を抱えるマール・コンバラリア(ec4461)に、ミシェル・コクトー(ec4318)は数種類のマスカレードを差し出す。
「あのねぇ‥‥」
「一応聞いておきたいんだが、それを誰に渡してどの様に使うつもりなんだ?」
「決まってますわ。王、王妃様、そしてモルきょ‥‥むぐっ」
「な、何でもありませんっ!」
 マールは声の主に気づかずに喋りだすミシェルの口を押さえ、眼前に現れたトリスタンとパーシにぺこりと頭を下げた。
 そしてクレアに頼まれてモルのお守りに来た事を告げると、トリスとパーシは顔を見合わせて微笑んだ。
「お時間がある時で構いませんわ。素直になる様にモル卿を説得して頂けませんか? だって春も秋も冬も仮面を被ったままなんですもの」
「俺は警備担当で余り時間は取れないが、努力しよう」
「わかった。モルと話している間は解放されそうだしな‥‥」
 頼もしい笑顔を頷くパーシの隣で心なしか遠い目のトリス。彼は園遊会の間中、ご婦人方の相手をさせられる運命にあった。
 そして2人は、去り際にしっかりとミシェルの手から固い保存食を預かっていったのだった。
(「アーサー王との事、そう簡単に丸く収められるとは思わないけど、それに囚われて彼が苦しんでる、っていうのは、ね‥‥」)
 離宮の門に立つセピア・オーレリィ(eb3797)は、近づいてくるモルの姿をジッと見つめていた。
(「あの時、頑張ってたんだし、園遊会くらいは過ごさせてあげたいのは、大きなお世話?」)
 そう心の中で呟いた時、どこか緊張した面持ちのモルと目が合った。
「僕のお出迎えか? 殊勝な奴だな」
「ええ。エスコートしてもらおうと思ってね」
 彼を案じる心を隠し、セピアはにっこりと微笑む。
「仕方がないな。ついて来い」
 きちんと正装をし普段より大人びて見えるモルの手を引かれ、セピアは園遊会の会場へと向かった。

●父子
 アーサー王とモルに穏やかな親子の時間を過ごさせてあげたい。
 クレアと一同の願いも空しく、2人が交わしたのは挨拶と、
「この菓子は美味いな」
「ええ。僕もそう思います」
 と言う短い会話だけだった。
 モルが激する事はなかったが、そのイライラは甘味の暴食と言う形で表れていた。園遊会参加時の数時間、全く手をつけなかったのが嘘の様に。
「こちらの蜂蜜菓子もお口に合うといいのだけれど‥‥」
「先日の焼き菓子は絶品でした。期待させて頂きます」
 モルの笑顔に隣に座る王妃は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「猫被りが美味いんだな。いつもと別人じゃないか」
「ええ。あれじゃ王妃様は可愛くて仕方ないでしょうね」
 グラディとセピアはモルのいい子っぷりに感心しつつも、先程目にしたある事が気がかりだった。
 とある女性に何かを頼まれていた時、王妃の顔に差した翳りに不穏な予感を感じてならない。
「お、王妃様、ご機嫌麗しゅうございます」
 ミシェルは上擦る声で挨拶をし、精一杯の笑顔を浮かべた。
(「話題話題‥‥モル卿はキュアナイト? 甘味を統べる者? 乙女達の偶像? お伝えしたら何て仰るかしら」)
 たおやかに微笑む王妃を前に固まる彼女の肩を、モルは軽く叩く。
「‥‥王妃の相手は頼んだぞ」
 モルとしては押し付けたつもりだったのだろう。
 だがこれを好機とばかりに、ミシェルはモルの『輝かしい功績』を王妃に暴露するのだった。
「コンちゃん‥‥」
 人の輪を離れ木陰で一息を着くモルに、マールは遠慮がちに声をかける。
「事情を知らない私が許せとは言わないし、言えないわ。でも、今だけ忘れてあげられない?」
 誰の事を言っているのかは明らかだった。途端にモルの眉根が寄せられる。
「楽しんでいるのを邪魔したく無いの。皆、口には出さないけどリヴァイアサンには心を痛めていたから」
「セピアにも同じ様な事を言われた。多くの者が全力を尽くして勝ち取ったこの場を一時の感情で押し流すのは‥‥きっと先生も望まない、と」
 モルはマールから視線を外し、遠くにある王の背中を見つめた。
「僕の気持ちなど瑣末なものだな。この園遊会にとっても、皆にとっても」
「違う! そんなつもりじゃ‥‥」
 モルはマールの言葉に耳を貸さずに立ち去ってしまった。少しだけ傷ついた横顔で。
「あ、モルちゃん! 新しいお菓子が来たで。一緒に食べよ。な?」
 凪は和み笑顔でお皿に取り分けたケーキを差し出す。その後、2人は黙々と甘味達に没頭していた。
「‥‥皆が口煩くて腹が立つ。僕は説教されに来たんじゃない」
 食べかけのケーキを見つめながらポツリと呟くモルに、凪は彼とトリスのやり取りを思い出す。
「モル。王妃様はお前の為に最高の蜂蜜を探し求められたと聞く。お前が甘い物が好きだとお聞きになって、王と語らいやすい場をご用意下さったのだ。折角の王妃様のご厚意を無にするのか?」
「頼んだ覚えはない。余計な世話だ」 
「‥‥そこに座れ。私がいつもいつも言っているではないか。いいか?」
 トリスを怒らせたモルは延々とお説教を食らう羽目になったのだった。
「あんな、皆はモルちゃんの事を大事に思ってるから口煩く言うんよ? それだけは判って欲しいわ♪」
「ふん。どうだかな」
 拗ねた顔が可愛らしくて、凪はにっこりと微笑む。
「これな。初日にウチが食べて廻って一等美味しかった甘味の詰め合わせやねん。食べてくれるやろーか? 美味しいねんよー?」
「僕が美味いと思った物と全く一緒だな。お前は趣味がいい」
 嬉しそうに微笑むモルの隣に立ちながら、凪はジャパンの甘味について話し始めるのだった。

 園遊会が終わりに近づいた頃、モルにアーサー王が近づいてきた。
「‥‥モードレッド」
 名を呼ばれた瞬間、微かにモルの体が揺れる。
「少し話がしたい。あの部屋で待っているぞ」
 アーサー王は何も答えないモルを少しだけ悲しげな目で見つめた後、その場を去っていった。
「お待たせしては失礼ですわよ。さあ」
「行かない」
 ミシェルの言葉を一蹴し、モルは乱暴な動作で甘味を食べ始める。
「モードレッド卿、俺も‥‥昔は父親の事が嫌いだったんだ。父さんは昔から厳しい人で、俺はずっと自分が愛されていないと思い込んできた」
 グラディは意を決した表情で、モルに自分の想いをぶつける。
「だけど、父さんは俺に立派な騎士に育って欲しい、そういう思いがあるから厳しく接してきたと言う事を知って、今はようやく父さんの気持ちを理解できる様になった」
「父親に愛されていて良かったじゃないか。だが僕は違う」
「違うもんか! 子供を愛さない父親なんていない!」
 珍しく声を荒げるグラディに、モルは戸惑った表情を見せる。
「さっきはゴメンね。これをお守りにお父様とお話をしてきて」
 マールはモルに押し花にした四葉のクローバーを手渡す。
「ホントはお誕生日プレゼントなの。遅くなっちゃったけど、おめでとう」
 マールに続き笑顔で祝辞を送る皆の顔を見渡し、モルは照れ臭そうな顔で鼻を鳴らした。
 そして暫し考え込んだ後‥‥
「仕方がないから行ってやる。だが絶対についてくるな」
 モルは偉そうな口調でそう言うと、アーサー王が消えていった方角へと歩き出す。その背を見送りながら、凪とセピアはどちらともなく口を開いた。
「‥‥心配やな」
「ええ。見つからなければいいわよね?」
 それは他の者も同じだった。
 一同はモルと一定の距離を取り、離宮の奥庭へと向かった。
 そこで彼らは王国を揺るがす事件を目撃する事となる‥‥。

●平和の瓦解
 モルが建物の中へと姿を消すのを見届けた一同は、園遊会の会場へと戻ろうとした。
 しかし思いがけない人物の姿を見かけ、急いで茂みへと身を隠す。
「王妃様? お姿が見えないと思っていたら、こんな所に‥‥」
「誰か来ますわ‥‥あ、あの方は、もしや!?」
 マールとミシェルは寄り添い合いながら、息を呑む。
 王妃に近づく人影は、肖像画で見かけた事がある有名な人物────湖の騎士ラーンス・ロットだった。
 他の者も目を見張る中、王妃とラーンスは何やら言葉を交わしている。が、その会話までは耳に入ってこなかった。
「モードレッド、ずっとお前に言いたい事があった」
 その頃、何も知らないアーサー王とモルは、言葉少ないながらも親子の一時を過ごしていた。
「遅くなってしまったが、17歳の誕生日おめでとう」
「覚えて‥‥いたのか?」
 いつもの口調で尋ねるモルに、アーサー王は父の顔で頷いた。向けられる穏やかな瞳に、意地っ張りの鎧が崩れそうになる。
 どんな顔をしていいかわからないモルの胸に、パーシの言葉が甦る。
「モル‥‥。もし、お前の心に少しでも大切に思う何かがあるのなら、それを表す事を躊躇うな。失われてから大切だったと気づいても、取り戻す事はできないのだからな‥‥」
 そして震える唇で伝えた言葉は、父と子だけの秘密となった。
「王妃様、仰々しい剣を持って何をするつもりやろか?」
 凪は嫌な胸騒ぎを覚えながら、息を殺して王妃とラーンスを見つめていた。
「もしかしてあれは‥‥騎士叙任の儀式か!?」
 騎士であるグラディは過去に受けた洗礼を思い出し、驚愕した。
 王がするべき儀を王妃がラーンスに行う理由。そして2人の間に流れる噂‥‥一同の胸が不安と疑惑にはちきれそうになった時、微かに後ずさる音が聞こえた。
「モードレッドさん‥‥!」
 セピアの小さな声に気づいたモルは、驚いた顔のままで視線を一同に向けた。
 そして次の瞬間、彼らは頷き合い、王妃とラーンスに気づかれない様にその場を後にした。向かうはアーサー王の元だ。
「くそっ!」
 しかし再び奥庭に戻ってきた時、そこに2人の姿はなかった。モルは苛立たしげに拳を柱に叩きつける。
 これは悪夢であればいいと願う一同を嘲笑うかの様に、離宮は混沌に包まれていくのだった────。