【鈴蘭の恋】キミの答えを聞かせて

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月29日〜08月03日

リプレイ公開日:2009年08月13日

●オープニング

 月明かりの夜に、私の前に突然現れた可愛い可愛いわんこ君。
 お日様みたいな笑顔も、人目も憚らず『大好きだ』って言える素直さも眩しくて‥‥臆病な私は目が眩みそうになるわ。
 ねぇ、あなたに1つだけ聞きたい事があるの。
 ずっとずっと聞きたくて、でも聞けなかったとっても大事な質問が────。

 夏は暑くて過ごしにくい筈なのに、どうしてこんなに胸が騒ぐのだろう。
 マール・コンバラリア(ec4461)は窓から差し込む日差しに目を閉じ、蒼色の髪をそっと揺らす風がもたらしたささやかな涼に口元を綻ばせた。
「まあ、幸せそうなお顔ですこと。悔しいから引っ張っちゃいますわ」
「‥‥ひゃふっ! フィーひゃん!?」
 ほっぺを引っ張られる感触に驚いたマールが目を開けると、意地悪そうな笑顔の親友ミシェル・コクトー(ec4318)と目が合う。
 ミシェルはマールのほっぺから手を離すと、にんまりと微笑む。どこかの誰かさんの笑顔に似てきたのは気のせいと言う事にしておこう。
「どうせアゼルの事でも考えていたのでしょう? 後はマールさんの覚悟ひとつで晴れて恋人同士さんですものね」
「っ! ち、違う! 考えてないってば! それに私の覚悟って‥‥」
「と言う事は、マールさまもアゼルさまの事がお好きですのね。素敵ですわ♪」
「ラ、ラヴィちゃんまでっ!」
 ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)の満面の笑顔での発言に、マールは真っ赤な顔で俯いてしまう。
「あら、否定なさらないんですのね? 素直なマールさんはとっても可愛らしいですわよ」
「おいおい、その位にしとけよ。マールが涙目になってるぞ?」
 ここぞとばかりに意地悪っぷりを発揮するミシェルを窘めるのは、乙女達がまったりと過ごすこの家の主シエラだ。
「ふふっ、でも可愛いって言うのには同感です。アゼルさんが夢中になるのも良くわかるもの」
 そこに冷えたハーブティーをトレイに乗せたシエラの妹シルフィが、ほんわかとした笑顔と共に台所から現れる。
「さっきのお誘いも、アゼルさんのお誕生日を皆でお祝いしたいからですよね?」
「う、ううん! たまたまあの村での夏祭りと日程が被っただけで‥‥」
 シルフィに意図をズバリと指摘され、マールは上擦った声で頭を振る。
 昨年、姉妹とマールとミシェルは湖の近くにある村の夏祭りに参加した。湖には夏になると名も無き白い野花が咲き、可憐な美しさと共に見る者の心を涼やかにしてくれる。
 その村祭りが行われるのは7月31日────アゼルの誕生日なのだ。
「私はシエラさんとシルフィちゃんにリフレッシュしてもらいたいだけなの。ほら、あまり根を詰めても良くないし、気分転換に涼しい所で遊べたらな、って」
「じゃあ、アゼルの誕生祝いは夏祭りのついでって事ですの?」
「そ、そうに決まってるじゃない。メインはあくまでお祭りを‥‥」
 ミシェルの問いにしどろもどろで答えるマールを、乙女達は『ふうん』とか『へぇ』とか『素直じゃないんだから』と言った瞳で見つめる。
「‥‥わかりました。素直になれないマール様にはお仕置きですわ!」
「お、お仕置き!?」
「今まで聞けなかった分、たっぷりこってりアゼルについて聞かせてもらいますわよ! シエラさん、出口の確保をお願いしますわ!」
「おっし! 任せとけ!」
 ミシェルの指示にシエラはにかっと笑うと、ドアの前に立ちはだかる。
「ラヴィさんとシルフィさんは窓を閉めて退路を断って下さいませ!」
「了解です♪」
「マールさま、ごめんなさいませ‥‥ラヴィは好奇心に勝てませんわ」
 楽しそうなシルフィと申し訳なさそうなラヴィは2つの窓を閉めにかかる。
「嘘でしょ‥‥」
 マール、万事休すである。
「さあ、覚悟はよろしくて?」
 ミシェルは何故か手をわきわきさせながら、魔女の妖顔を浮かべた‥‥。

 乙女達がわいのわいのと騒いでいる頃、ジルベール・ダリエ(ec5609)は姉妹の家の外で一人寂しく鶏に餌をあげていた。
「楽しそうでええなぁ。俺みたいなおっさんにはあの輪の中に入る勇気は無いわ」
 若さ溢れる乙女オーラに圧倒されたジルの話し相手は、食欲旺盛な鶏達だけ。
 成人男子が腰を下ろして鶏に餌をあげてる様は、哀愁漂うと言うかお間抜け可愛いと言うか‥‥。
「でもラヴィが楽しそうやから俺は独りぼっちでもええねん。全然寂しくないで」
『コッコッコ‥‥』
 鶏達はジルに見向きもせず、一心不乱に餌を貪っている。
 愚痴はいいから早く餌を寄こせと言わんばかりのものもいたりで、ジルの不憫さに涙を禁じえない。
「‥‥あのさ。もしかしてあの家に住んでる子の友達?」
「俺はちゃうけど彼女が‥‥って、お兄さん誰や?」
 答えた後で視線を上げると、赤い髪をしたシフールの少年がジッとジルの顔を見つめていた。
「初めまして、俺はアゼル。シエラの恋人‥‥って言えるかはわからないけど、レオンって人の下で働いてる」
「おお、噂のアゼルさんやな。俺はジルベール。長いから好きに呼んでええで」
 にっこりと微笑むジルにアゼルは快活な笑顔で応える。
「じゃあジルって呼ばせてもらうな。ところで、噂ってなに?」
「ん? マールさんにぞっこんの子がおるって聞いてな」
 しれっと答えるジルに、アゼルは微かに染まった頬をぽりぽりと掻いた。
「それは事実だけど、初対面の人にそう言われると恥ずかしーな」
「初心で可愛えぇなぁ。で、いつ告白するん?」
「初めて会った時に好きだって言った。今は『お友達』から『彼氏』に昇格出来る様に頑張ってる最中」
「それはそれはエネルギッシュやなぁ。いけそうか?」
 10代の青春パワーにかつての自分を思い出すジル。しきりに頷いた後でそう尋ねると、ふっとアゼルの表情が曇った。
「正直言うとあんま自信ない。俺、気持ちが抑えきれなくて合う度に『可愛い』とか『好きだ』って言っちゃうから、鬱陶しがられてないかなってマジで心配なんだ」 
「‥‥俺で良かったら話聞くで? 人生の先輩としてな」
「いいのか!? うわ、すっげー助かる!」
 ウインクをしながら微笑むジルに、アゼルはがばっと抱きつく。
 潤んだ瞳と嬉しそうに綻ぶ表情を目にしたジルは、心の中で『これは正真正銘わんこ君やな』と呟くのだった。

 『皆で夏祭りを楽しみましょう。ついでにお誕生日が近い人のお祝いも出来たらいいと思ってるの。だから内緒にしてね!』
 というマールからの手紙は、レオンやキルシェの元にも届いていた。
 2人は他の乙女達同様に真の目的に気づいていて、知らないのは当のアゼル1人だけ。彼への手紙はあくまで夏祭りへの招待だけだったのだから。
(「私の中にある、まだ誰も踏み込んだ事がない領域‥‥今まで立ち入らせなかったのは、怖いから」)
 乙女達の質問攻めから解放されたマールは、木の枝に止まってぼんやりと夜空を眺めていた。
(「そこに招き入れれば、その人は私にとってかけがえのない人になる。だから失う事が‥‥その人がいなくなる事で心にぽっかり空く空虚が、怖い‥‥」)
 マールはそっと自らの体を抱きしめた後、小さく「でも‥‥」と呟く。
(「私はアゼルの答えが聞きたい。彼なら大丈夫だって信じてるから‥‥」)
 ずっと尋ねようと思ってた事────それを実行に移す決心は既に固まっていた。
 共に過ごすアゼルの誕生日。
 その日はマールとアゼルの関係を変えるきっかけの日となるのだった────。

●今回の参加者

 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec3876 アイリス・リード(30歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4115 レン・オリミヤ(20歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec4163 ミリア・タッフタート(24歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec4318 ミシェル・コクトー(23歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec4461 マール・コンバラリア(22歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ec5609 ジルベール・ダリエ(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ec5629 ラヴィサフィア・フォルミナム(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

桜葉 紫苑(eb2282

●リプレイ本文

●恋と友情の夏祭り
 内緒の誕生会が開かれる夜まで、皆は思い思いに夏祭りを楽しんでいた。
「今日もめちゃくちゃ可愛いっ!」
 何も知らないアゼルは浴衣姿のマール・コンバラリア(ec4461)を見つめ、へにゃっと顔を緩ませる。
「あ、ありが‥‥っ!」
 照れ隠しに視線を逸らすマールの体がびくっと揺れる。アゼルが手を握ってきたからだ。
「はぐれたら困るし‥‥手ぇ繋ごうぜ」
「う、うん。今日だけ特別よ?」
 伝わる温もりに胸の奥がくすぐったくなる。
 マールは赤くなった頬を見られない様に、アゼルの手を引いて人込みの中へと飛び込んだ。
「まずはあのお店に行ってみましょ。その次はあっちよ!」
 ドキドキを悟られない様に、目一杯はしゃぎながら。
「マールさんて小悪魔さんぽいけど、その実よぉ気の付くエエ子やからなぁ。アゼルさんと上手い事いって欲しいわ」
「ええ、お二人が素直なお気持ちを通わせられたら素敵なのですわ。だから今回はちょっとだけお節介です♪」
 ジルベール・ダリエ(ec5609)の言葉に頷くのは、恋人のラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)だ。
 マールとアゼルの距離が近づく様にと、ラヴィの提案で誕生会後に肝試しが行われる事になっていた。
「俺の事は放っておいて、皆と遊べばいい」
「キルシェさんが心配で遊んでられません。全く、子供みたいなんですから」
 初めは乙女達ときゃいきゃい楽しんでいたヒルケイプ・リーツ(ec1007)だが、気づけば食べ物につられて姿を消すキルシェのお守りをする羽目に。
 しかし文句を言うその顔はとても嬉しそうだ。
「可愛い髪留め、あるかなー♪」
「そんなに走ると危ないですよ!」
 ハラハラするルイスに振り返りながら、ミリア・タッフタート(ec4163)は元気良く手を拱く。
「ルイスさーん、早く早くー!」
 ルイスは運悪く聞いてしまった『ルイスさんて優しくてお料理上手でモテモテさんなのに、どうして恋人さんがいないの?』と言うミリアの言葉は忘れる事にした。
「遅いから抱きつきの刑だよ。えいっ!」
 いつでも大歓迎なお仕置きに緩む頬を必死で留めながら。
「みんな楽しそう‥‥あっ!」
 参加者達の笑顔を眺めていたレン・オリミヤ(ec4115)の目の前で、走っていた子供が勢い良く転んだ。
「大丈夫?」
 駆け寄り手を差し伸べるのレンだが‥‥
「うわーん! 変なオヤジに浚われるー!」
 子供はエチゴヤマスクとウサ耳を装着した姿に怯え、泣きながら走り去ってしまう。
「あう‥‥」
「よしよし。レンさんは優しい良い子ですわね」
 落ち込むレンをきゅっと抱きしめるのは、親友のミシェル・コクトー(ec4318)だ。
「時は流れ行くと言いますけれど、あの日からもう1年が経ちますのね‥‥」
 レンの頭を撫でながら、ミシェルは遠くに見える湖を見つめた。
「もっとケンカしたり意地を張ったり、時には素直になったり‥‥出来ると良いですわね」
「く、くるし‥‥」
「だって、だっていつかは私達もそれぞれの道を行くのですものっ!」
「うきゅ‥‥」
 レンの顔が青くなっていくのに気づかず、ミシェルは胸の中で誓いを立てる。
(「今年の目標は本気でケンカする事かしら。まぁその前に人見知りをどうにか‥‥マールさんは勇気がありますわね」)
 ちらりと視線を送れば、アゼルと手を繋ぎ楽しそうなマールの姿が。
「‥‥ふん。離れてても友達だろ」
 そう言い頭を乱暴に撫でてくるシエラに、嬉しそうに微笑むミシェル。
 勿論、胸の中でぐったりしているレンには気づいていない。
「先日は急なお願いをお聞き届け頂き、ありがとうございました。お2人共とても喜んでいらっしゃいましたよ」
「喜んで頂けて私も嬉しいです」
 夏祭りを楽しむ乙女達を温かな目で見つめた後、アイリス・リード(ec3876)はシルフィにリングピローのお礼を伝えていた。
「秘密のお誕生会、喜んで頂けると良いのですが‥‥」
「きっと喜んでもらえますよ♪ 唯一心配の種があるとすれば‥‥」
 2人が見つめるのは魔の料理人ミシェルだ。
「ミシェルさんがお料理されるのでしたら、是非ともご一緒させて頂きます! 是非ともっ!」
「わ、私も! 皆で悲劇を阻止しましょう!」
 2人は誕生会を惨劇の場にしない為に、足早にテントへと戻るのだった。

●ハッピーバースデー・わんこ君!
 夜になり、秘密のお誕生会の幕が上がった。
「‥‥マジかよ」
 天幕の中の光景と皆からの『お誕生日おめでとう!』の声に、アゼルは呆然と立ち尽くしていた。
「なによ、その顔! おっかしい!」
 ぽかんと口を開けたアゼルの間抜け顔に、耐え切れずにマールは笑いだす。
「声を上げて笑うマールさまを初めて見ましたわ」
「きっとアゼルさんのお陰やろな」
 料理を取り分けながら、ラヴィとジルは笑い過ぎて涙目のマールを優しい瞳で見つめた。
「危うく見逃す所でした。私も頑張りますから二人でコレを片付けましょう!」
 乙女達の監視の目を潜り抜け誕生したミシェルの怪しげなスープを見つけ、ヒルケはこっそりとキルシェに耳打ちをする。
「‥‥捨てたら勿体無い」
「ダ、ダメです!」
「うぐっ!?」
 スープを一気飲みしたキルシェの顔が苦悶に歪む。‥‥魔女料理は健在である。
「皆、ありがとな。すっげー嬉しい!」 
 食事が一段落ついた頃、皆からアゼルへの誕生日プレゼントが手渡された。
「‥‥鞭も欲しい?」
「癖になるくらい楽しいですわよ♪」
 わんこの様な笑顔で大喜びのアゼルに、レンとミシェルが浮かべるのは実にイイ笑顔。
「い、いい。ソッチの趣味ないから!」
 アゼルは引き攣った顔で2人から後ずさる。
「アゼルさん、本当に嬉しそうですね♪」
「ええ。ですが1番の贈り物はマールさんのお気持ちとなりましょう」
 ほろ酔い加減のアイリスとシルフィは盛大な勘違いをしていた。
「ミリアさん、食べ過ぎじゃないですか?」
「シエラ殿も少し休んだらどうだ?」
 ルイスとレオンはずっと食べっぱなしの2人を心配そうな顔で見つめる。
「おいっ! それはあたしが取っておいた肉だぞ!」
「早い者勝ちだよー♪ もぐもぐ」
 しかし2人は食べ物に夢中で、忠告の言葉など全く耳に入っていない。
 こうして賑やかな誕生会は瞬く間に過ぎていくのだった。

 ──ぴしっ!
『あう!』
 暗闇に響く不可解な音と呻き声に、アイリスとシルフィは抱き合いながらガタガタと震え出す。
 ──びしぃっ!
『あうぅっ!』
 より苦悶に満ちた声に2人は顔を見合わせ、そして‥‥
「「いやあぁぁぁぁっ!!」」
 大きな悲鳴を上げながら、物凄い勢いで走り去ってしまった。
「これですわ! これぞ肝試しですわ!」
 2人がいなくなった後、脅かし役のミシェルは叢の中で満足そうに叫ぶ。
「最後の、本当に痛かった‥‥」
「その割には嬉しそうでしたわよ?」
 ジト目のレンに鞭を片手のミシェルはにんまりと微笑んだ。
「今のお2人は最高でしたわ。それに引き換えミリアさんときたら‥‥」
 時は遡る。    
「お化けさん、出ておいで〜♪ ひゃっ!?」
「どうしました!?」
「冷たいなぁ‥‥あ、こんにゃくだ。食べちゃえ♪」
「何でもかんでも食べちゃダメですっ!」 
 なんとミリアはびっくりこんにゃくを食べようとしたのだった。
「お待たせしました。お化け交代ですわ」
「ばっちり脅かすから任しとき」
「よ、よろしく‥‥」
「期待してますわよっ」
 そこにラヴィとジルが現れ、ミシェルとレンは微かに赤い顔でその場を後にする。
 先程ばっちりラブシーンを見てしまったとは、口が裂けても言えない乙女2人であった。
「ラヴィ、怖いですか?」
 髪を乱しボロの服を纏ったラヴィは、何故か嬉しそうにライトリングで自らの顔を下から照らす。
「‥‥怖過ぎや」
 ジルは恋人の変貌振りにがっくりと項垂れる。
 数分後、ミリアの提案でルイスが作ったハート型クッキーを手にしたマールとアゼルが、叢の前を通りかかった。
「きゃあっ!」
 唯でさえ緊張していたマールは本気でラヴィをお化けだと思い、可愛い悲鳴と共にアゼルに抱きつくのだった。
「アゼルさんに喜んでもらえて良かったですね」
「ああ‥‥」
 ヒルケは肝試しに参加せずに、未だ具合の悪いキルシェに膝枕をしてあげていた。
 怖がりのシエラが断固として参加拒否をしたのは言うまでもない。
「次はキルシェさんの‥‥って、寝ちゃいましたか」
 無防備な笑顔にヒルケは優しい顔で微笑んだ。

●ありのままのキミが好き
 2人の恋が上手くいきます様に。
 乙女達の願いと共に湖の傍の木に振りかけられた妖精の粉が、サラサラと夜風に舞う。
「すっげーカッコいい! ずっと大切にする!」
 マールから贈られた銀のバックルが、月の光を浴びてキラリと光る。
 一見シンプルだがよく見ると細かい模様が彫り込まれていて、さらに一つだけ犬の肉球模様を紛れ込ませてある心憎い一品だ。
「ありがとな、マール!」
 アゼルは満面の笑みで、添えられていたカードを大事そうに懐にしまった。
「ねぇ、私のどこに一目惚れしたの?」 
 緊張に震えそうになる声を必死に抑え、マールは精一杯の強がりで努めて軽い口調でそう尋ねた。
 答えを待つ胸は張り裂けそうなほど騒いでいるのに。
「気づかれない様に気配りが出来る優しい所にだよ」
「えっ?」
 思いがけない答えにマールは思わず目を見開く。
「あの夜、体の弱いシルフィをさり気なく気遣ってただろ? その優しさにグッときた」
 可愛らしく作り上げた外見の中に隠してきた、本当の自分。
 それを知られて嫌われる事が怖かった。
 でも‥‥
「もう、悩んでた私が馬鹿みたいじゃない」
 マールはアゼルの目をジッと見つめ、可憐な鈴蘭の笑顔で微笑んだ。
「‥‥好きよ、アゼル」 
 突然の告白にアゼルは暫し呆然とした後、マールを抱きしめながら嬉しそうに呟く。
「最高の誕生日をありがとな。‥‥どうしたらいいかわかんないくらい大好きだ」
 と────。