【微睡みの終焉】夢の色は深き紅
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■イベントシナリオ
担当:綾海ルナ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 27 C
参加人数:64人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月09日〜08月09日
リプレイ公開日:2009年08月18日
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●オープニング
静かで消え入りそうな声のくせに、耳にした瞬間に体の芯がぞくりと震えた。
嫌悪ではなく歓喜。そして確信に。
「信じない、か。そうでなくちゃね」
ルーグはくすくすと笑うと、小鳥に姿を変えて漆黒の空を舞う。
敬愛し崇拝する主の顔を思い浮かべながら────。
●復興への道のり
先のフォモールの乱で受けた人々の傷は、未だ目に見える痛々しい形として残っていた。
村人と騎士が協力して復興に努めているが、時折現れるデビルとの戦いによりその進捗は滞っている。
新たな犠牲者が出ずに済んでいるのは出没するデビルの数が少ない事と、加勢してくれた冒険者達とモードレッドによって崩壊を免れた陣にて防壁と砦柵の強化が行われ、領主の命を受けた騎士が常駐して周囲の警戒に当たっているからである。
「あれからフォモールの姿を見ていない。この静けさが不気味だな」
「どの集落も蛻の殻だって聞いたぜ。どこかに集結して蜂起の機会を狙ってるんじゃねぇか?」
騎士隊長と村人の代表者の男性は物見櫓に立ち、険しい面持ちで遺跡群の地を見つめる。2人はフォモールとの戦いで死地を乗り越え、それ以来固い友情と信頼で結ばれていた。
「再び戦いが始まる前に陣の強化を万全にしておかねぇとな」
「ああ。それに村の復興も終わらせたい。住む家がなければ夏場の日差しは堪えよう」
騎士と村人。
自らの立場ではなく互いの立場に立ったその言葉に、2人は瞳を細めて微笑み合う。
思い遣る心の温かさ、そして優しくも強い絆がそこにはあった。
●誰が為に懸ける命か
かつてフォモールの陣が敷かれていた場所にあるのは、焼け崩れた木材の成れの果てと折れた武器、そして無数の矢。
敗戦を物語る光景の中、吹き荒ぶ風に粗末な外套を靡かせ立つ男が独り。
「これが幾多の戦いを潜り抜けた冒険者の力か。戦の経験のない我らなど赤子同然だったに違いない」
刺青の施された浅黒い腕に力を込めながら、男────フォモールの青年アスファは暗闇を焦がさんばかりに燃え盛っていた紅蓮の炎を思い出す。
あの時の戦いに参加していれば、間違いなく自分は死んでいただろう。
刺し違える事が出来れば幸い、もしかしたらそれすら叶わなかったかもしれない。
「確実に1人でも葬り去れる方法を考えねばならんな。その為にはこの命など‥‥」
「‥‥あなた。ここにいたのね」
悲愴な決意は控えめな声に遮られる。
振り返ったアスファの目に映るのは愛しい妻と、その腕に抱かれた生れたばかりの我が子の姿。
主バロールの為に命を捧げる覚悟を揺るがし、この生に縋り付きたくなる程の愛しき枷達。
「あとどれくらい経てば、俺の顔をその目に焼き付けてくれるのだろうか」
「あなた‥‥」
その頃に生きているかはわからない。
哀しい未来の予感に泣き笑いで見つめ合う両親の姿が、赤子の無垢な瞳の中で揺らめいた。
●聖女の秘密
自室の窓辺に立ち、リランが見つめるのは天に浮かぶ青白い月。
その光を浴びてひっそりと息づく森に守られるかの様な、穏やかな夜だ。
(「この静けさに心が騒ぐの何故でしょうか‥‥」)
ルーグの命を受けたフォモールによるリランの誘拐劇は、冒険者達によって阻止された。
それからフォモールが襲ってくる事はなかったが、下級デビルによる監視が数日前までずっと続いていた。
ぱたりと消えた気配に安堵ではなく、言い知れぬ不安がリランの胸に広がっていく。
(「それにシンディはどうしているでしょう。無事だと良いのですが‥‥」)
そう思い瞳を伏せた時、微かな葉擦れの音が耳に響いた。
奔る緊張感と共に彷徨わせたリランの瞳が捉えたのは────シンディの姿だった。
「シンディ!?」
「リラン様‥‥」
「待っていて下さい。すぐそちらに行きますから!」
少しだけやつれた相貌に心を痛めながら、リランは慌てて階段を駆け寄り、火を灯したホーリーキャンドルを手にシンディの元へと急いだ。
「シンディ! 無事だったのですね」
「心配をかけてゴメンなさい‥‥」
「過ぎた事はいいのです。今日は休んで、明日の朝に皆に顔を‥‥」
謝罪するシンディの肩にそっと触れようとした瞬間、ざわりとした嫌な気配がリランの背を這い上がる。
森の方へと視線を移すと、そこには少年の姿をしたルーグが闇に溶け込む様に佇んでいた。
「リラン様、今夜の月は綺麗だね」
「‥‥シンディ、こちらへ」
微笑を浮かべるルーグを睨みつけ、リランはシンディを抱き寄せる。
ホーリーキャンドルの結界の中にはどんなデビルも近寄る事が出来ない。このまま教会の中に戻れば安心だと、そう思った時だった。
「リラン様は‥‥偽者なの?」
「えっ?」
質問の意図を理解する間もなく、リランは夜着の胸元をシンディによって引き裂かれる。
露になった胸元で踊る首飾りをシンディは力任せに引き千切ると、リランから離れてルーグの元へと駆け寄った。
「シンディ‥‥どう、して‥‥?」
「さあ、嘘つき聖女様の正体をしっかりとごらん」
呆然と立ち尽くすリランは淡い光に包まれ、そして────。
「こんなの‥‥リラン様じゃない‥‥」
「これでわかっただろう? リラン様は首飾りの魔力で人間に化けていた悪いデビルなんだよ」
「待って下さい、シンディ!」
追いかけようとするリランは、裏切られた痛みに揺れるシンディの瞳に射抜かれてその場から動けなくなってしまった。
ルーグと共に去っていく後姿に手を伸ばしながら、リランは力なくその場に崩れ落ちる。
「デビルってとても綺麗なのね。まるで女神様みたいだったわ」
「美しい外見で人を惑わせてるんだよ」
微かに頬を染めるシンディにそう囁きながら、ルーグは心の中で呟く。
この僕の様にね、と。
●這い出る闇
事情を知ったフレイが首飾りを取り戻す決心を固めた翌朝。
遠く離れたキャメロットの地ではモードレッドが出立の準備を進めていた。
「よりによってこんな時に‥‥くそっ!」
苛立ちのままに握り締めたのは、南方遺跡群にある村の警備と情勢の報告を任せていた騎士からの手紙だった。
そこには遺跡群に下級デビルの姿が日に日に増えつつあり、領主から討伐協力要請が出るのは時間の問題だろうと記されている。
「それからでは間に合わん。早い内に芽は摘み取っておかねば」
ラーンス・ロットによるエクスカリバー奪還で揺れる王国を嘲笑うかの様に、南方遺跡群でも何かが蠢きつつあった。
「いよいよかなぁ。楽しみだね」
まるで甘美な音楽の様な声音に酔いしれながら、ルーグはそっと瞳を閉じる。
「もしも退屈だったら、お前を殺しちゃうよ?」
すっと伸びた指はルーグの細い首筋を這った後、血の気のない唇に触れた。
「あなたに殺されるのならば、喜んで‥‥」
真なる望みを口にすると、主は愉しそうな笑い声を漏らした────。
●リプレイ本文
●息づく希望
釘を打つ音と人々の明るい笑い声が、炎天下の空に響く。
「さあ出来ましたよ。こちらで休んで下さい」
額の汗を拭いながら桜葉紫苑(eb2282)がそう声をかけると、彼の作業を見守っていた子供達は我先にと簡易休憩所の中へと飛び込んだ。
「何だか秘密の隠れ家みたい! お兄ちゃん、ありがと!」
木の柱を地面に埋め込みそこに厚手の布をかけただけであったが、それでも遮光性はあり風通しも抜群だ。
「家を建て直すまでの間、この暑さでは倒れてしまいますからね」
大喜びの子供達を瞳を細めて見つめた後、紫苑は自らが建てたその他の簡易休憩所に視線を移す。
体力の低いお年寄り達と子供が体を寄せて昼寝をしている様子は、微笑ましくも温かだ。
「この通りに補強して頂ければ倒壊の心配はありませんよ」
アリシア・ルクレチア(ea5513)の説明を聞いた女性は、ふうっと安堵の息を漏らす。
「こんなおんぼろでも長年住んで来た家だからね。壊さずに済んで良かったよ。ありがとね」
「愛着のあるお家ですもの。大切にしてあげて下さいね」
アリシアは上品な笑顔で微笑むと、新たな羊皮紙を手に村の食糧庫へと向かう。
陣地より村の生活用の施設を設計する方が得意な彼女は、その才能を遺憾なく発揮し村の復興に尽力していた。
「傷んだ場所をそのまま補修するより、こうした方が安全ですよ」
抉れた壁の断面を道具で器用に削りながら、デフィル・ノチセフ(eb0072)はにっこりと微笑む。
「陣地の進捗はどうだい?」
「村の建物同様、安全性に問題はなさそうです。皆様が力を合わせて頑張られたお陰ですね」
声をかけてきた男性にそう答えながら、デフィルは陣地補修を手伝っている仲間の顔を思い浮かべた。
「フォモールの襲撃は一先ずは収まりましたが、再び大規模な襲撃が無いとは言い切れません」
新たに設置した柵をきつく縄で結びつけながら、ファング・ダイモス(ea7482)はフォモールの陣跡の方角を見つめる。
彼は持ち得る知識を生かして防壁等の守備施設の補修を行っていた。
「そうね。油断は禁物だわ」
ファングと共に率先して力仕事を引き受けているソラ・オオトリ(ec5489)はぽつりと呟く。
「先程周辺の警戒に当たりましたが、デビルは1匹も出てきませんでした」
「数が増えて来てるって聞くのに変ね。彼らは何の目的の為に終結しつつあるのかしら?」
読めない敵の意図に2人は不安を覚えるのだった。
「腹が減っては何事も為せぬ。遠慮せずにな」
尾花満(ea5322)が鍋の蓋を開けると、魚介のいい香りが少年の鼻をくすぐる。
「こんなに具が一杯のスープ、初めて見た!」
食材がそれほど豊富という訳ではないが、腕によってカバーは可能だ。
魚介で出汁を取り、大量の野菜を煮込んだ料理の味付けはシンプルながらも奥深い。
「復興作業も力仕事だものね。しっかり食べて頑張って!」
アイリリー・カランティエ(ec2876)は休憩所で休むお年寄りに料理を運びながら、明るい笑顔で元気を振り撒いていた。
復興作業に関わっている人が快適に過ごせる様に様々な気配りをしながらも、疲れを見せずに水汲みなどの力仕事を笑顔でこなすアイリリー。
「こんな老いぼれに優しくしてくれて、ありがとねぇ」
その健気で優しい姿に老婆は涙を流しながら感謝の気持ちを伝えるのだった。
「皆さん大変でしょうけど、どんな時でも美味しい物を食べれば元気が出ると思いますぅ」
マルキア・セラン(ec5127)作の野菜炒めは食欲をそそるいい香りで、あっと言う間に無くなってしまった。
「完食ありがとうございますぅ。さあ、次はお洗濯ですねぇ。暑い時期ですから、働いて汚れた服も一気に請け負っちゃいますよぉ」
マルキアの目の前に洗濯物の山が出来るまで、そう時間はかからなかった。
「お食事は行き届いておりますか?」
ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)は1人1人声をかけながら、自身が作った料理を配って回る。
美味しい物を食べてお腹がいっぱいになれば、気持ちも前向きになれると彼女は思っていた。
「怖い事やお辛い事、たくさんあったでしょうけれど‥‥それでも今がある事を、慈愛神さまに感謝致しましょう? きっと皆様を暖かく見守って下さっておりますわ」
食事を配り終えた後、ラヴィは怪我人を看て回り、不安を口にする人がいれば優しく慰めていた。
「ふむ。復興に専念する者達を助けるのはそれほど苦ではないな」
未だ傷の癒えない者や病人を治療して回りながら、サイクザエラ・マイ(ec4873)は満足げに頷く。
「あとは魔物やフォモールへの対策か‥‥」
万が一に備えて夜間にインフラビジョンを使おうと思いながら、サイクザエラは覚束ない足取りの老人へと駆け寄った。
(「皆、大変な思いをしたのね‥‥」)
明るい笑顔の裏にある苦悩と心の傷を感じ取りながら、アニェス・ジュイエ(eb9449)は軽やかに地を蹴る。
「さあ、覚えたかしら?」
「はーい!」
アニェスの踊りを食い入る様に見つめていた子供達は、元気のいい返事の後に円になって踊り始める。
「うん、その調子よ。とっても上手だわ」
手拍子でリズムを取りながらアニェスはさり気なく石の中の蝶に視線を移すが、全く動きがなかった。
「かわえぇなぁ。和むわぁ」
お茶を啜りながら子供達を眺めるのは、藤村凪(eb3310)。
彼女の周りにいる騎士達は、お茶菓子を頬張りながらうんうんと頷く。
「初めて口にしたが、ジャパンの茶と菓子は美味いな」
「喜んでもらえて嬉しいわ♪ こっちは桜餅って言うんよ。見た目も可愛らしいやろ」
ほんわかとした和みオーラを振り撒きつつ、凪は新たなお菓子を騎士に勧めるのだった。
「これは傷に効く‥‥こっちは火傷‥‥」
「ラルちゃん、物知りだね!」
踊りに参加しない子供達は、ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)と一緒に村の近くの森で薬草摘みをしていた。
ラルの希望で護衛に駆り出された満は、食べられる野草が気になって仕方がない様子だ。
(「ちょっとだけでも楽しんでもらえたらしあわせ‥‥大変だから我慢してる、心泣いてる、ちょっとでも癒したい」)
また戦いが起きれば食糧は乏しくなり、怪我人も出るだろう。
その時に子供達が教えた薬草を覚えていて、役立ててくれればとラルは思っていた。
「村に帰ったら、いろんなお話もする‥‥楽しい民話とか?」
にぱっと笑って提案するラルに、子供達は歓声を上げて飛び跳ねた。
「ひとつの戦いは終わりましたが、執念ともいうべきフォモールの民との戦いは続くのでしょう。戦火が拡大する様ならば、改めて避難も考えていかねばなりませんね」
救助活動を終え一息を着きながら、ゼノヴィア・オレアリス(eb4800)は休憩を取っている騎士隊長を見つめた。
「遠方の村への受け入れ要請は済んでいる。だが肝心の村人達が離れたがらなくてな」
「ではせめて子供達だけでも‥‥教会等はいかがでしょうか?」
「教会か。リランという女性の下ならば、子供達も親も安心するだろう。だが‥‥」
騎士隊長はそこで言葉を切ると、微かに眉根を寄せる。
「最近、そのリラン殿が姿を現さないらしいのだ。皆はデビルに傷を負わされたのではと心配している」
今まで献身的な活動を行ってきた、奇跡の乙女の不在。
それが意味するあらゆる事体を解決しようと動いている仲間がいる事を、ゼノヴィアは知っていた。
●愛を知る者達
吹き荒ぶ風に砂が舞い上がる、フォモールの陣跡。
そこに1人のフォモールの青年が姿を現していると耳にした者達は、対話を求めて彼の地を訪れていた。
「デビルもフォモールもこの辺りには集結していない様ですね‥‥」
グリフォンのガルーダで上空から偵察を行っていたアンドリー・フィルス(ec0129)は、羽音を羽ばたかせて上空で旋回する。その静かさの裏で蠢く何かを感じながら。
その頃、限間時雨(ea1968)はアスファとの邂逅を果たしていた。
「敵意も殺意もない。ただ話がしたいだけだよ」
武器を構え殺気を放つアスファを、時雨は静かな瞳で見つめていた。
「バロールの復活‥‥それで救われるかもしれない命よりも、犠牲の方がきっと多い」
「‥‥犠牲など怖くはない」
「身近な者を護り通せないで、大義なんて掲げるのはちゃんちゃらおかしいさ。自分にとって、まず何が大切なのかを考えるべきだと思うんだよね。私は」
時雨はアスファの迷いに容赦なく触れる。
「怨みの連鎖を断ち切るのも必要じゃないかしらね。負の感情は絶対に消えはしないけどどこかで止めないと。貴方の子や孫にまでそんな事させるつもりはないんでしょ?」
そしてさらに追い討ちをかけるのは、いつの間にか姿を現したルスト・リカルム(eb4750)の言葉だ。
「仇成す敵を説教しに来たのか。酔狂な奴等だな」
アスファは眉を潜め、胸の内を叫びたい衝動を必死で押し留める。
それは敵に弱みを見せたくないという、戦士の意地であった。
「人を傷つけ殺めるという事はその相手だけでなく周りの方や、ひいては自分や家族までも傷つけ殺める事になると思うんです」
対話の間にも、続々と冒険者達が陣跡に到着しつつあった。
砂を踏み締める音と共に姿を現したのは、オルフェ・ラディアス(eb6340)と彼の通訳を務めるアーシャ・イクティノス(eb6702)だ。
「目の前の人が本当の敵なのか、という事をもう一度考えてみて頂けませんか?」
オルフェの言葉をイギリス語に訳してアスファに聞かせながら、アーシャは胸中に複雑な思いを抱えていた。
(「人間に酷い目に遭わされてきたフォモールは、ハーフエルフと似た様なもの?」)
虐げられる辛さ、やり場のない怒り‥‥アーシャはきゅっと唇を噛み締めた後、アスファに向き直った。
「あなた達フォモールは自害するのも厭わないけど、種族の未来を託す自分の子供達にもそうなって欲しいのですか?」
真っ直ぐな瞳を受けるアスファの瞳は、静かな光を称えていた。
「この世に生を受けた以上、バロール様に全てを捧げるのが我等の定めだ。お前達に何と言われようとも、生き方を変えるつもりはない」
「その揺るがない矜持を胸に抱いていた貴公の同胞を、私はある女性を守る為に手にかけた」
凛とした声で自らの行いを明かすのは、リラン誘拐阻止の為にフォモールと戦った事のあるルザリア・レイバーン(ec1621)だ。
この様な事を言える義理ではないが、と口にした後、ルザリアは真摯な瞳でアスファを見つめる。
「その気持ちを種族の行く末を考える事に注いではくれないだろうか? 復讐を行う暗い未来ではなく別の道を行く事を考えて欲しいと思う」
「命を奪っておいて、随分と傲慢な願いだな」
「無礼は承知している。だが貴方の記憶の片隅にでも残して頂けると有り難い」
アスファはルザリアの言葉に、構えていた剣を下ろした。
「私達はお互い血を流し過ぎました‥‥恨みも憎しみもあると思います」
サクラ・フリューゲル(eb8317)は悲しげ声音でアスファに歩み寄る。
「私達はこうして言葉だって通じます。誰かを好きになったり慈しんだりする想いだって‥‥変わりはない筈です!」
必死の訴えにアスファの体が僅かに揺れる。
男女が出会い、愛し合い、子を授かる。
そして夫婦が互いの愛情を注いで子の成長と、幸せな未来を願う‥‥そこに在る愛は人間もフォモールも変わらない。
「随分とやつれていらっしゃる様ですが、食事はきちんと取られてますか?」
アスファの頬が痩せこけているのに気づいたソペリエ・メハイエ(ec5570)は、クリエイトハンドで作り出した食糧を自ら食べて見せた。
「毒は入っていません。どうかこれをお仲間の元へと持って帰り、糧として下さいませ」
ソペリエの差し出した布に包まれた食糧の隣に、ユリゼ・ファルアート(ea3502)は傷に効く薬草と2種の水魔法で作り上げた氷水入りの木桶を置いた。
「私達だって殺し合いをしたい訳じゃないの。‥‥毒が入っていないの見たでしょ? 看病にも使えるわ。頭冷やして頂戴」
アスファはそれらをジッと見つめた後、手にした剣を鞘に収めた。
「‥‥敵の施しは受けん」
「貴殿達フォモールが何者なのか、バロールとはどんな神なのかを教えては頂けないだろうか」
そう言い立ち去ろうとする背中に、アンリ・フィルス(eb4667)は声をかける。
「我等にとってバロール様は絶対の主。バロール様の為に生きるのが我等フォモールだ」
「あなた方が命を懸けた暁には、バロールは何を与えてくれるのですか?」
それまで黙って話を聞いていたルースアン・テイルストン(ec4179)は、兼ねてから抱いていた疑問を投げかける。
銀の腕ヌアザと関わりのある彼女は、フォモールやバロールについてどんなことでもいいから知りたいと思っていた。
「永きに渡る我等の苦しみを昇華して下さるだろう。だが我等はあの方にも何も望んではいない」
「どうしてそこまで無欲でいられる? 愚直なまでに信じられる理由は何なのだ?」
アンリの問いにアスファはふっと息を漏らした。
「お前達人間は1番大切な存在を疑ったりするのか? ‥‥それと同じ事だ」
そう言い踵を返す後姿を、一同は言葉もなく見送っていた。心の中で唯一無二の存在を思い浮かべながら。
「何かあったらアイスコフィンで足止めって考えてたけど、その必要はなかったわね」
物陰から話を聞いていたミルファ・エルネージュ(ec4467)は戦いにならずに済んで良かったと思いながら、静かにその場を立ち去った。
(「この争いが終焉を迎えた時、生き残った人とフォモールとが平穏に過ごせます様に」)
この血に眠る神々の安寧をも願いながら、ルースアンは華奢な手を組み祈りを捧げる。
一同がアスファに投げかけた言葉の波紋は小さなものだったのかもしれない。だが、時をかけて確実に広がって行く事だろう。
そしてそれがこの戦いが終結するきっかけになればいいと、誰もが願わずにはいられなかった。
「姿無き者、汝扇動者なり‥‥と言った所か。主は既に傍に居るのかもしれないね。我々がそうと知らないだけという訳だ」
アレクセイ・ルード(eb5450)は唇の端をあげて笑いながら、天に向かって両手を掲げる。
「さあ踊ろうじゃないか。意思ある人形が操り手の意のままに踊るかどうか。楽しみだろう?」
刹那、声無き返事が聞こえた気がした。
●時が満ちるまで
奇跡の乙女リランの活動拠点である教会には、最近彼女の姿を見かけないと言う噂を耳にした冒険者達が訪れていた。
しかしリランを案じるのは彼等だけではない。
「リラン様がデビルに襲われたって本当かい?」
「傷の深さは? 容態はどうなんだ?」
教会の扉の前で守りに就くルーラス・エルミナス(ea0282)とミラ・ダイモス(eb2064)は、押し寄せる村人達の数に圧倒されていた。
「リラン様は怪我をなさったのではありません。少し体調が優れないので、養生なさっているだけです」
ルーラスの言葉に安堵の息が漏れるのも束の間、村人達は口々に「ならばお見舞いをしたい」と言い出した。
「皆さんのお気持ちは良く分かります。ですが苦しい時に手を差し伸べてくれたリラン様の恩に報いる為に、今は信じて待ちましょう」
話術に長けたルーラスがそう諭すと、村人達は次第に落ち着きを取り戻していった。
「‥‥あなたもですよ?」
こっそりと裏口から侵入しようとした若者の腕を掴み、ミラはにっこりと微笑んだ。
「これはキャメロットで人気のスイーツなんや。置いとくから気ぃ向いたら食べてな」
「ありがとうございます‥‥」
扉越しに聞こえる声は元気がない。
ジルベール・ダリエ(ec5609)はリランの護衛にと扉の傍に立つグレン・アドミラル(eb9112)と顔を見合わせた。
「誰が来ても先程からこの調子です」
リランに聞こえない小さな声で、グレンは彼女に関する悪い噂は立っていないと告げる。
「リランさんって俺の彼女に少し似てるんや。一生懸命で天使みたいで、色々背負いこもうとする感じも似てる」
ジルは淡雪の様な恋人を思い浮かべながら、リランに語りかける。
「だからってわけとちゃうけど、悩んでる事あったら俺らに言うてな。リランさんが聖女として皆の希望になってきた事、尊い行為やと思う。俺らはリランさんの味方やで」
「私には勿体無いお言葉です‥‥」
どうして部屋に閉じこもっているのかと言う問いに、返ってきたのは「ごめんなさい」と言う謝罪。
その一言が申し訳なさに満ちた拒絶だと知った一同は、それ以上の詮索はしなかった。
「ルーグの襲撃とシンディの再接近の心配は、今の所はなさそうね」
レア・クラウス(eb8226)がフォーノリッヂの結果を告げると、リランが微かに身じろぐ気配がした。
「シンディは無事でしょうか‥‥」
「そこまではわからなかったわ」
「そうですか‥‥」
「そのままでいいから、聞いてくれる? 貴方が何者であっても、私達は気にはしないわ」
扉の向こうで微かに息を呑む音が聞こえた。
「お気持ちはとても嬉しいです。ですが、何故そこまで信じて下さるのですか?」
「貴方は私達に態度で示し続けてくれてるもの、信頼に足る人だって」
そっと扉に触れながら、レアは優しい顔で微笑んだ。
(「皆様、ごめんなさい。こんなに良くして下さるのに、本当の姿を見せられない私をお許し下さい‥‥」)
リランは扉の傍から離れ、押し寄せる罪悪感に潰されそうになりながら一人涙を流す。
漸く気持ちが落ち着いた頃、遠慮がちに扉がノックされた。
「リランさん、大丈夫?」
聞こえてきたのは瀬崎鐶(ec0097)の声。
彼女はリランを案じ、教会に到着した時から数時間置きにかかさず声をかけていた。
「‥‥ええ。皆様がいて下さるお陰で心強いですから」
「良かった。僕達が側にいるから、安心して休んで」
鐶はそう言うと、リランの部屋の窓下に不審な人物がいないか見回りに赴くのだった。
「リランさん、元気を出して下さいね。私はあなたを信じてますから」
リスティア・レノン(eb9226)が寄せてくれる信頼は嬉しかったが、それと同時に後ろめたさにリランの胸はちくりと痛む。
「時に狡猾なデビルに騙される事もあるでしょう。でもこれまで触れ合い培って来た思い出の模倣まではできません」
「‥‥ええ。いくらデビルと言えども心の全てを覗く事は出来ませんものね」
「ですから信頼していた日々を思い出して力に変えましょう。デビルに負けない様に」
想い合い信じ合う心の強さは、人であるが故の優しい力だ。
「ねぇ、リラン様」
微かな香の香りがリランの鼻先をくすぐり、リディエール・アンティロープ(eb5977)の穏やかな声が扉越しに響く。
「誰しも隠し事の1つや2つはあるものですけれど、それを心苦しいと思うなら‥‥きちんと顔を見て、話をしてあげる事です」
心が落ち着く香りと声音に、リランはそっと瞳を閉じる。
「リラン様は不思議なお力をお持ちの方の様ですけれど、志を同じくする方である事に変わりはありませんから。私は、貴女を信じておりますよ」
どうして彼等は得体の知れない自分をここまで想ってくれるのだろうか。
喜びと悲しみの混じった涙が、リランの頬を伝い落ちる。
「ありがとうございます。ですが、時が来るまで‥‥まだ、ダメなのです。ごめんなさい‥‥」
まるで気づいて欲しいとでも言う様に。
リランが持たれかかっている扉の隙間から、月光の様な淡い銀色の光が射していた。
●その背に隠すもの
ロック鳥のちろに乗り、上空から偵察を行っていたパラーリア・ゲラー(eb2257)が慌てた様子で戻ってきた。
「モル隊長! あっちに敵さんが集まってるにゃ!」
「ご苦労だったな。急行するぞ」
「モ〜くん、頑張るのじゃ〜」
鳳令明(eb3759)から受け取った甘味を口に放り込み、モルは馬の背を勢い良く蹴った。
「キャメロットに帰ったら、甘いもの沢山食べるですよ。だから皆で無事に帰りましょうね」
モルの背にしがみ付きながら、カメリア・リード(ec2307)は彼女なりの発破をかける。
「‥‥張り詰めた糸は切れ易い。堅い物ほど存外派手に砕けるものだ」
愛馬パルフェで並走しながら声をかけてきたラルフェン・シュスト(ec3546)に、モルはふんと鼻を鳴らす。
「心が柔軟であれば何が起ころうとも惑わされず、己の道を失くす事もない。その道が何であるかは‥‥また別の話だがね」
「心配せずとも僕はそんなに脆くはない」
心の中に支えがある限り。
その言葉を飲み込み、モルは近づきつつある上空の敵影を睨み付けた。
「教皇庁直下テンプルナイト参上なのだ〜!」
モル達が戦場に着くのと、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)が派手に名乗りを上げて、ボウで己を強化したのはほぼ同時だった。
「さあ、ジーザス白系の方々は余の側に集まるのだ!」
手招きをする余裕を見せた後、ヴラドはカリスマティックオーラを唱え仲間の能力を高めていく。
「デビル退治は私の本分、そして地獄の脅威を退けた人々の結束の力を見せ付けてやりましょう」
その隣で同じ様に自らを強化したエルディン・アトワイト(ec0290)は、慈愛神の加護を必要とする者達に超越級のレジストデビルを付与していく。
「エルさんありがとう! あなたは僕が守りますから!」
ジャン・シュヴァリエ(eb8302)は友に礼を言うと、近づいてきたインプ達をトルネードで上空へと吹き飛ばす。
「私も加勢するのですよ〜」
ジャンとカメリアのダブルライトニングサンダーボルトが、轟音と共に炸裂する。
「我が名はマナウス・ドラッケン(ea0021)、これより悪魔を討伐する!」
名乗りの後、放たれた矢がインプの羽を貫く。
ペガサスのクラウディアスに騎乗したマナウスは、弓の射程を生かしアウトレンジを心がけて戦っていた。
「早い内に芽を摘むと言うのは賛成だ。私も力になろう」
同じく上空で剣を振るうのはヒースクリフ・ムーア(ea0286)。
彼はフライの魔法で自在に空を翔け、空中の敵をオーラパワーを付与した剣で葬り去っていた。
「来やがれ! まとめて潰してやる!!」
銀のネックレスに付けたレミエラの効果に引き寄せられたグレムリン達は、セイル・ファースト(eb8642)のソードボンバーに吹っ飛ばされる。
起き上がる間もなく襲い来るのは、ディーネ・ノート(ea1542)のウォーターボムとフレイア・ヴォルフ(ea6557)の矢の雨だ。
「アシストは任せて!」
「思う存分暴れてやんな!」
オーラエリベイションをセイルに付与された2人は、緩急を付けた見事な連携でセイルに迫る危機を排除していく。
(「怪しげな儀式を行おうとしている敵はいない様ですね‥‥」)
ホーリフィールドとレジストデビルで仲間を支援しながら、クリステル・シャルダン(eb3862)は不審な動きをするデビルがいないか観察していた。
「地獄での戦いは終わったが下級デビルの侵略はまだ終わらない。キャメロットの人々を、デビルの脅威から守る為に戦う」
クリスを背後から襲おうとした敵は、エレノア・バーレン(eb5618)のローリンググラビティーで地面に激しく叩きつけられる。
動きを封じる様に唱えられる魔法に撹乱し逃げ惑う敵を追撃するのは、ラルフェンから放たれるソニックブームだ。
「お前達、もうすぐ全滅するんじゃないか? 気の毒に」
ロックハート・トキワ(ea2389)は剣を振るいながら、瀕死のインプに語りかける。
「地獄の門が閉じたが、まだ本来の力とやらは使えるのか?」
『ギギ‥‥使えない‥‥だからお前達を殺すしか‥‥ギャアァ!!』
死に物狂いで向かっていったインプは呆気なく引導を渡され、遺体は跡形もなく消え去っていく。
「敵の数は20匹余りか。話にならんな」
モルはグレムリンにレイピアを突き刺しながら、ヴラドとヒースと同様にこのデビル達は陽動ではないかと思い始めていた。
圧倒的戦力差により十数分で勝敗が決し、冒険者側に深い傷を負った者は1人もいなかった。
「モードレッド卿!」
そこに愛馬オーベロンを駆るエスリン・マッカレル(ea9669)が息を切らして現れた。
「どうした?」
「友と南方を巡っていたのだが、ある神殿跡でルーグと名乗るデビルと遭遇した」
エスリンの言葉にモルは舌打ちをすると、再び愛馬に跨った。
「友とやらは無事か?」
「ああ。他に冒険者達もいるからな」
「ならば問題ないな。今すぐにそこに案内しろ」
エスリンは頷くと、モルと仲間を案ずる冒険者を引き連れてルーグの元へと急行するのだった。
●闇への誘い
予想もしなかった邂逅にフランシア・ド・フルール(ea3047)は顔色一つ変える事無く、眼前のルーグを静かな瞳で見つめていた。
(「ノルマンも未だ主に叛きし愚かなる者どもの策謀は尽きませんし、対岸イギリスの状況も無関心ではいられません」)
その思いを胸に南方を巡っていただけなのに。これも大いなる父のお導きか。
(「冒険者の評判が少しは回復したのか気になってこっちに足を運んでみたけど‥‥とんでもない事に巻き込まれちゃったわね」)
ネフティス・ネト・アメン(ea2834)は心の中でそう呟き、いつでも戦闘に入れる様に体勢を整えた。
「あーあ、見つかっちゃったね」
ルーグは自分に注がれる視線をまるで気にしていないかの様に、大袈裟に息を吐いて見せた。
「‥‥私達、どうなるの?」
ルーグに寄り添うシンディの声と足は震えている。
「大丈夫。この人達は優しいから見逃してくれるよ。君がいるから、ね?」
言い終わらない内にルーグはシンディを背中から抱きしめた。
(「これでルーグだけを狙えなくなった‥‥何処までも汚い奴だ」)
ルーグの背後には誰もいない。
フォーレ・ネーヴ(eb2093)は投げナイフに伸ばしていた手を下ろさざるを得なかった。
「フレイねーちゃん、あいつが持ってる首飾りで間違いない?」
「ええ。あれはリランのだわ」
ルーグが手にする首飾りを見つめ、フレイは頷いた。
「どうして僕達がここにいるって分かったの?」
「乙女の勘‥‥かしら」
ルーグの問いにミシェル・コクトー(ec4318)はくすりと笑う。
リランは古の女神であり、首飾りは特別な力を持つ宝なのではないか?
その予想を元に、ルーグとシンディは古き神々が眠る遺跡にいる筈と読んだのだ。
「この人達はリラン様に言われて私達を捕まえに来たの? デビルの手先なの?」
「貴女は本当にリランさんがデビルだと思っているのですか?」
リランの正体についてミシェルと同様の意見を持つシルヴィア・クロスロード(eb3671)は、澄んだ瞳でシンディを見つめた。
「悪魔は一つの側面だけを見せてそれが全てであるかの様に見せかけます」
ちらりと視線を移すと、ルーグは不敵な笑みを浮かべていた。
「貴方が心惹かれたのは、深い慈しみの心を持って人々を助けてきたリランさんの行いではないのですか?」
「でも、リラン様は嘘をついてたわ」
「そうだよ、シンディ。君を愛してるのは僕だけさ」
偽りの愛を口にするルーグを、シルヴィアはキッと睨みつける。
「愛とは大切な人の幸福を願う優しい心です。弄ぶなんて許せません!」
「それは心外だな。君に僕達の何が分かるって言うんだい?」
シンディから手を解き、大袈裟に肩を竦めて見せるルーグ。
首飾りを持つ右手を、崩れ落ちた柱の陰から放たれた矢が掠める。
「おっと危ない。これが壊れたら困るのはリラン様だよ?」
首飾りではなくルーグの腕を狙っていた木下茜(eb5817)は、悔しそうに唇を噛み締める。
「あなたの狙いは何? リランさんへの糾弾と擁護を起こし、この地に住む人々を混乱させたいの?」
ステラ・デュナミス(eb2099)の問いにルーグは頭を振る。
「残念だけど不正解だよ。それも面白そうだけどね」
「リランへの不信感から人が起こす負の感情を餌にしたいのか?」
胸中に沸き起こる様々な疑問の中の一つを、リース・フォード(ec4979)は投げかける。
「それは血と一緒に充分集まったよ。それにこれももう用済みだ」
ルーグは首飾りをフレイ目がけて投げて寄こす。それを受け取った彼女の顔は蒼白だった。
「もしかして‥‥」
「うん。お陰でやっと信じてもらえたよ」
ふらりとよろけるフレイを、フォーレは慌てて抱き留めた。
「どう言う事か僕にも分かりやすく説明してもらおうか」
声のした方へ一同が振り返ると、モルと冒険者達がルーグを射抜く様な目で見つめていた。
「来たね、モードレッド君。僕が言った事は本当になりそうだよ」
「何の話だ?」
「その内、嫌でも思い出す事になると思うよ。そんな事より‥‥僕の仲間にならない?」
ルーグの誘いに誰もが目を見開く中、モルだけは冷静だった。
「下らんな。僕が首を縦に振ると思ったのか?」
「思ってないよ。‥‥今はね」
ルーグは再びシンディを抱き寄せると、ジリジリと後退して行く。
彼女を人質に取られ動けない一同を嘲笑うかの様にシャドウフィールドの闇が広がって行き、それが晴れた時には2人の姿はなかった。
「ルーグは一体何の目的で首飾りを奪ったんだ? そしてリランの正体は、一体‥‥」
未だ青い顔のフレイを見つめながら、リースは誰にともなく呟く。
「モードレッドさん‥‥」
その隣でステラは無言で佇むモルの後姿を見つめるのだった。
『許さん、許さんぞ‥‥』
地底の奥深くに眠る者は、怒りに声を震わせていた。
『穢れさえも我が炎で焼き払ってくれるわ‥‥』
目覚めに必要なのものは、あと一つ────。