【優しき金色の騎士】甘き香りをともに

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月26日〜09月29日

リプレイ公開日:2009年10月06日

●オープニング

 南方遺跡群の地にて古の神である邪眼のバロールが復活した。
 事態を知った領主は急ぎ騎士団の中から選りすぐりの者達を編成し警戒に当たらせているが、今のところバロール及び彼を主と慕うフォモール達、そしてこの地で暗躍しているルーグと言うデビルに目立った動きはない。
 師である円卓の騎士ケイ・エクターソンより下された待機命令を無視したモードレッドは、キャメロット帰還の後に自宅謹慎処分となった。
 
 ある日の午後。
 自室で南方遺跡群やバロールについて調べものをしていたモードレッドは、ノックの音に顔を上げた。
「モル坊ちゃま、少しよろしいでしょうか?」
「ああ。構わない」
 遠慮がちな声にそう答えると、ゆっくりとドアが開きクレアが姿を現す。
 モードレッドは熱心に目を通していた資料の束を机の上に置き、心配そうな瞳でクレアを見つめた。
「まだ顔色が優れないな。辛いのなら無理をせずに横になっていていいんだぞ?」
「お気遣いありがとうございます。長旅の疲れがまだ抜けないだけですので、ご心配なさらないで下さい」
 私も年ですね、と微笑んだクレアの顔に刻まれているのは、優しい笑い皺であった。
「そう遠慮するな。よし、今日の夕食が僕が作ってやろう」
「‥‥優しいんだな。いつもそう言う態度で居れば、誤解も受けないだろうに」
「なっ!? お前‥‥」
 早速下準備にと椅子から立ち上がったモードレッドは、クレアの後で微笑む人物────グラディ・アトール(ea0640)に気づき僅かにたじろいだ。
「モルくんの手作り料理か。ぜひ僕もご相伴に預かりたいね」
「ウチも食べてみたいわぁ♪ 不味くっても綺麗に食べたげるから安心してや?」
 さらにグラディの後からアルヴィス・スヴィバル(ea2804)と藤村凪(eb3310)がにこにこと笑いながら顔を出す。
「だ、誰がお前達に食わせてやるものか! 図々しい奴等だなっ!」
 気恥ずかしさからぷいっとそっぽを向くモードレッドに、3人は顔を見合わせて微笑み合う。
「皆様はモル坊ちゃまが退屈してないか心配して遊びに来て下さったのですよ。今、お茶をお出ししますね」
 クレアはそんなモードレッドの様子を瞳を細めて見つめた後、居間へと戻っていく。
「腐ってるんじゃないかと思っていたが、元気そうで安心したよ」
「ふ、ふん。家から出られなくてもやるべき事はいっぱいあるからな。僕はお前達と違って忙しいんだ」
 グラディの気遣いに感謝しつつも、素直になれないモルはつい憎まれ口を叩いてしまう。
 それは3人を友として大事に思っている証でもあった。
 相変わらずなモードレッドに心の中でにやりと笑いつつ、アルヴィスは心底残念そうに溜息をついてみせる。
「それはそれは残念だね。モルくんが喜ぶと思って秋季限定マロンジャム入り焼き菓子を買ってきたんだけど、どうやら僕達で食べるしかなさそ‥‥」
「食べる!」
 電光石火の即答に、凪はほわっと微笑みながらモルの頭を撫でる。
「ん、素直でよろしい♪ いっぱいあるから遠慮せずにな? アルヴィスさんと取りっこになってしまうかもやけど」
「僕に遠慮という物はない。甘味に関しては特にだ」
 抵抗もせずに頭を撫でられながら、モルは焼き菓子を頬張り始める。
 凪の予想通りアルヴィスと焼き菓子の取り合いになったのはお約束だ。
(「あんな事を聞かされた後なのに、モードレッド卿のクレアさんに対する態度は以前と変わらないな‥‥」)
 あの日ルーグから聞かされた残酷な事実は、その場に居合わせた冒険者達の心を激しく揺さぶった。
 しかし1番衝撃を受けたであろうモードレッドのクレアに対する接し方は、以前と変わらず優しさに満ちていた。
「お待たせ致しました。お熱いのでお気をつけ下さい」
 グラディの困惑は紅茶を運んできたクレアの声に霧散する。
 あの時の彼女は瀕死の状態で、恐らくはルーグの言葉を耳にしていないだろう。
 全員に紅茶を配り部屋を後にする小さな背中を見つめながら、グラディは帰還の途中で『クレアにあの事は言うな』とモードレッドに念を押された事を思い出し、小さく息を吐いた。

 その日の夕食は危なっかしい手つきのモルを見てられなくなって3人も手伝ったのだが、全員が料理に不慣れな為に散々な出来となった。
 しかし皆で協力して作った手料理を囲んで過ごす時間はゆったりと優しく流れていき、3人は屋敷を後にしたのは夜遅く。
(「‥‥ご苦労様。しっかりとあの2人を守ってくれよ」)
 屋敷の門に立つ2人の騎士にグラディが軽く会釈をすると、返って来たのは堅苦しい礼だった。
「面会出来ないって言われたらどうしようかと思ったけど、意外といけるものだね」
「そやなー。でもさすがにパーティーは拙いんとちゃう?」
 満腹のお腹を擦りながら歩くアルヴィスの隣で、凪は「どーしたらええやろか」と頭を悩ませる。
 この3人がモードレッドを屋敷を訪れたのは、彼の様子を見に来たのとは別にもう1つ目的があった。
 それは顔に出さないながらも一連の事件に落ち込んでいるであろうモードレッドを元気付ける為、サプライズパーティーを屋敷で開く許可をクレアに取り付けに来たのだ。
「ああ。クレアさんは喜んで許可をくれたけど、自宅謹慎中の身で騒ぐのはちょっとな‥‥」
 計画の発案者であるグラディは、自身の大好きなジャパンの甘味でモードレッドを元気付けたいと思っていた。
 それもただ甘味を食べるだけでなく、お菓子作りが得意な人をギルドで募集し腕を振舞ってもらい、最終的にはどのお菓子が1番美味しかったかをモードレッドに判定してもらう予定なのだ。
「‥‥そうだな。手作り菓子を持参してモードレッド卿に会いに行く。目的は慰問で騒ぎ過ぎないこと。これならば問題はないだろうか?」
「甘いお菓子を囲んでお喋りを楽しむ、か。うん、いいんじゃないかな。さすがは我が親友、ぐらっちだね」
「ウチも賛成や♪ 振舞われるのはジャパンの甘味やし、張り切ってお茶を立てさせてもらうわ♪」
 自身も楽しむ気満々と言った表情で肩を組んでくるアルヴィスと、首を傾げながらほんわか和み笑顔を浮かべ意気込み十分な凪。
 優しき協力者2人に感謝しながら、グラディはモードレッドの屋敷へと振り返る。
 窓から零れる温かい灯が、これからもずっと続いていく様にと願いながら‥‥。

●今回の参加者

 ea0640 グラディ・アトール(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2804 アルヴィス・スヴィバル(21歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ec3546 ラルフェン・シュスト(36歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec5127 マルキア・セラン(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●友の為に想いを込めて
 ささやかなサプライズお茶会当日。
「今日も坊ちゃまは調べものにお忙しいそうなので、お昼まではご自分のお部屋にいっらしゃるそうです」
 冒険者達に紅茶を配りながらにっこりと微笑むクレアに、藤村凪(eb3310)もほにゃっと微笑む。
「お茶会の快諾おおきにな。またよろしゅーに♪」
「こちらこそ、モル坊ちゃまの為に素敵な企画を考えて下さりありがとうございます」
 クレアは小さく頭を振り、発案者であるグラディ・アトール(ea0640)に深々と頭を下げた。
「一昨日も昨日も何とか気づかれずに済んだな。だが肝心なのは今日だ。気を抜かずに行こう」
「ぐらっちってば真面目だなぁ。堅苦しいのはなしでいこうよ」
 しな垂れかかる様に肩を組むのは、グラディの親友アルヴィス・スヴィバル(ea2804)だ。
「それにしてもぉ、モードレッドさんを元気付ける為にお茶会だなんて、素敵なアイデアですよねぇ」
 のんびりとした口調のマルキア・セラン(ec5127)に頷きながら、ラルフェン・シュスト(ec3546)は穏やかに微笑むクレアを見つめた。
(「2人のその後も気になったし戦場での皆しか知らないのも残念と思い、これも良い機会だと参加させてもらったが‥‥思い切ってみて正解だったな」)
 先の南方遺跡群での光景が目に焼きついて離れなかったが、クレアとモルが息災だとわかりラルフェンは安堵していた。
 そして甘味に目がない者としては願ったりのこのお茶会。精悍な面立ちの彼が緩みそうになる頬を必死で抑えている事を誰も知らない。
「お昼の少し前に桜の蜂蜜を添えたパンケーキをモードレッドさんにお持ち致しますね」
 クリステル・シャルダン(eb3862)が一昨日と昨日に差し入れをしたももだんごと桜餅、それにラルフェンの焼き菓子は効果覿面で、モルが甘味を求めて台所に顔を出すのを防いでいた。
 ちなみにクレアに料理を習いに来たと言う名目で屋敷に日参しているので、モルは全く怪しんではいない。
「そろそろ作り始めようか。モードレッド興の最高の笑顔を見る為にな」
 グラディの言葉に全員は笑顔で頷いた。
 程なくして台所は甘い香りに満ちていき、次々と出来上がっていく甘味を前に理性が崩壊しかかっている甘味好きが1人。
「うふふ、ジャパンのお菓子食べ比べか。葛餅、団子、おはぎに羊羹‥‥最高だね」 
 じゅるりと涎を啜るアルヴィスの頬はほんのり薔薇色だ。
「アルヴィスさん、あやしい目ぇになっとるよ。それに手が止まっとるやんか」
「これは失礼。本筋は忘れてないともさ、うん」
 栗の皮を剥く凪に諌められ、こほんと咳払いをするアルヴィス。
 しかし次の瞬間、皆の目を盗んで出来立てほやほやの栗饅頭をぱくり。
「‥‥あっ、ずるいぞ!」
 それを目撃してしまったラルフェンは、思わず素直な一言を口にする。
「ふふ、キミも相当の甘味好きだね?」
「‥‥白状する。俺はかなりの甘味好きだ。だからそれを分けてくれないか?」
 月見団子を丸める傍ら、作り過ぎてしまい山の様に盛られた餡子をぱくつくアルヴィスに、ラルフェンは男のプライドを捨てて懇願するのだった。
「もち米を潰すのは任せてくれ。火傷したら大変だからな」
「まぁ、ありがとうございますぅ。では皆殺しじゃなくて半殺しでお願いしますねぇ」
 いきなり物騒な事を口にするマルキアを、グラディはぎょっとした顔で見つめる。
「ええとぉ、半殺しはもち米を半分潰す事でぇ、皆殺しはお餅みたいにする事ですぅ」
「それは初耳だな。菓子作りは奥が深い」
 ホッと胸を撫で下ろしながら、グラディは湯気と戦いながらもち米を潰し始める。
「たくさんの甘味が出来上がりそうですね。モル坊ちゃまのお喜びになるお顔が目に浮かびます」
 クリスに教わりながら練り切りを作るクレアは、母親の様な顔で微笑む。
「ええ。色んな種類を食べられる様に小さめに作っておりますので、ぜひ全部の甘味を制覇して頂きたいですわ」
 凪と共にクレアの体調を気遣っていたクリスは、目には見えないクレアの心の傷が気がかりであった。
 このお茶会がモルだけでなくクレアの慰めになればと思いながら、1つ1つの甘味に優しい気持ちを込めていく。
「これで完成や♪ 後はモルちゃんを呼ぶだけやな」
 居間に並べられた甘味を眺め凪が満足げに呟くと、ある部屋から登場した銀髪の美しい女性が浴衣姿でモルの自室へと向かって行く。
 その正体は────。 
 
●共に過ごす愛しき時
 息を潜めてモルが居間にやってくるのを待っていた一同の耳に、明らかに不機嫌そうな声が響く。
「貴様っ、いい加減離れろ!」
「つれないお言葉‥‥ティアは悲しゅうございます」
「誰がティアだ! 頬を摺り寄せるなっ!」
 どうやらアルヴィスの女装は種明かしを前にバレてしまったらしい。
 そこに到る前にモルがどんな反応を見せたのか、後でアルヴィスに聞いてみようと思う一同だった。
「僕はお前の女装癖に付き合っていられるほど暇じゃな‥‥」
 アルヴィスに抱きつかれたままで居間に現れたモルは、テーブルの上に鎮座する甘味達と皆に気づき一瞬息を呑む。
「な、何だこれは‥‥! どうして甘味がいて、お前達がある!?」
 グラディは事態が理解できずに混乱しているモルに近づき、すっと手を差し伸べる。
「只今から、ささやかではありますがジャパンの甘味を楽しむお茶会を開催致します。こちらにどうぞ、モルお坊ちゃま」
「どこがささやかなんだ‥‥嬉し過ぎて眩暈がする‥‥」
 素直に手を取るモルに微笑み、グラディは彼をエスコートする。
 こうしてサプライズお茶会は和やかにその幕を開けた。
「皆でモルちゃんを思いながら楽しく作ったんよ。お茶はジャパンの茶と紅茶、どっちが飲みたいやろか? どっちも可能やでぇ〜♪」
「ジャパンの茶がいい。お前が淹れたのは美味いからな」
「嬉しいこと言うてくれるやんか。ちょっと待っててな?」
 モルの頭を撫でた後、凪は心を込めてジャパンのお茶を淹れ始める。
「秋を意識して栗尽くしにしてみたぞ」
 ラルフェンが笑顔で差し出したお皿には、栗きんとんに栗羊羹、栗饅頭に栗の甘露煮が所狭しと乗せられていた。
「どれも美味いな‥‥これは何だ?」
「栗の甘露煮を刻んで餅で包んだものだ。美味いぞ」
 ちゅるんと葛きりを頂くラルフェンは、物欲しそうなモルの視線に気づく。
「普通のと抹茶葛きりがあるのだが‥‥両方だよな、モル?」
「当然だ。お前には負けてられん」
 甘味好きとして変な対抗心を燃やすモルだった。 
「おはぎも食べて下さいねぇ。きな粉のもありますよぉ」
 お皿に山盛りのおはぎを運んできたマルキアは、モルの隣に座り旺盛な食べっぷりを見守る。
「‥‥私も良く失敗して怒られますぅ。でもでも、失敗した次は前よりも成功し易くなってる筈なんですよぉ」
 自宅謹慎中のモルを密かに心配していたマルキアはそう口にした後、怪訝そうな瞳にわたわたと慌て始める。  
「何が言いたいかと言うと、えーと、げ、元気を出して下さいっ」
「こんなに美味い甘味を食べれば嫌でも元気が出る。心配するな」
 ほっぺにきな粉をつけたまま偉そうに言い放つモルに、マルキアは思わず吹き出した。
「菓子は見た目も大事とはこの事を言うのか‥‥口にするのが躊躇われるな」
 おはぎを完食したモルが関心して見つめているのは、様々な形の練り切り達。
「特に円らな瞳の兎は良心が‥‥あぁっ!?」
「じゃあ僕が代わりに食べてあげるよ♪」
「貴様ぁっ!」
 ティア姿のままで横暴を働くアルヴィスを、モルは涙目で睨みつける。
「そんな目で見ないでよ。ほら、僕が作った月見団子をたーんとお食べ♪」
「むぐうっ!?」
 アルヴィスに強引にお団子を詰め込まれたモルは、美味しいとは口が裂けても言わないと心に誓うのだった。
「まあ、喧嘩はいけませんよ? 仲良くこちらをどうぞ」
 そこにクリスが粒餡、こし餡、白餡、さらに栗を挟んだパンケーキを運んでくる。
 しかしこちらも奪い合う様にして食べたのは言うまでもない‥‥。
「料理なんて殆どできないが、それでも気持ちだけは届けたいと思って作ってみた。食べてくれるか?」
 グラディは初めて作った白玉団子餡子添えを、笑顔でモルに差し出す。
「‥‥安心しろ。上手く出来てる」
 不敵なモルの笑みに安堵したグラディは、ふっと表情を引き締める。
「この前はいきなり殴ってすまなかった」
「気にするな。僕に非があったしな」
「だが心配しての事とは言え、感情的になってやった事を正当化したくはないんだ」 
 深々と頭を下げるグラディは、次の瞬間に頭を乱暴に撫でられ、思わず顔を上げた。
「いつもやられてるからな。お返しだ」
 そう言い再びお団子を頬張り始めるモルをグラディはジッと見つめ、口を開いた。自らの想いを伝える為に。
「これからの戦いは間違いなく厳しいものとなるだろう。だが、俺たち皆が力を合わせれば、どんな絶望にだって必ず立ち向かえる筈だ。だから‥‥」
 真摯な瞳に気づいたモルは、手を止めてグラディに向き直る。
「皆を纏める希望になってくれ。お前にならそれができると信じている」
 グラディから視線を逸らさず、モルは軽く頭を振った。
「その気持ちは嬉しいが、生憎僕はその器じゃない。それに心のままに行動するお前達冒険者の方が、希望の光に相応しいと思う」
 少しだけ自嘲的な色を声音に忍ばせ、モルは寂しそうに微笑む。
「自分がしでかした事の尻拭いはきちんとするつもりだ。だがもし僕が道を違えたら‥‥お前の望む様にしてくれ」
 それは決して大きな声ではなかったけれども。その場にいた全員の胸に深く刻み込まれてゆくのだった。

 案の定モルはどの甘味が1番かを選べず、マルキアがお土産にと持参した餡子を包んだパンが最優秀賞となった。
 こうして甘き香りを共にした友達は、お腹と心を満たし家路に着くのだった────。